【実施例】
【0019】
1.ω−グリアジン含有試料による製麺
(1)ω−グリアジン含有試料
小麦粉は、薄力粉であるWW、中力粉であるASWとキタホナミ、強力粉である春よ恋、HRW、1CW、超強力粉であるゆめちからの計7品種を使用し、これら各品種の小麦粉から、70%エタノールにて抽出したグリアジンをスプレードライにより粉末化したものをω−グリアジン含有試料として使用した。
【0020】
(2)製麺
以下の要領でうどんを調製した。生地配合は表1に示す通りである。小麦粉200gとグリアジン2g、食塩5gに対し、水68gを一定速度で加え、ミキサーにて10分間混捏後、生地を複合し、20℃、湿度50%の恒温室にて1時間熟成した後、圧延を4回行い、幅3mm厚さ2.8mmになるように切り出しを行うことで、うどん生麺を調製した。
【0021】
【表1】
【0022】
(3)物性試験
(3−1)伸長度の測定
ω−グリアジン含有試料無添加のうどんおよびω−グリアジン含有試料を添加したうどんの生麺をそれぞれ10本ずつ用い、インストロン社製の万能物性測定器にて伸長度を測定した。測定方法は、うどん生麺の両端を測定器に固定し、貫入試験にてうどん生麺の破断時の伸長度を測定した。
【0023】
結果を
図1に示す。うどん生麺においては、ω−グリアジン含有試料を原料中に添加することで、無添加のうどん生麺に比べ、伸長度が増すという傾向が得られた。この結果より、ω−グリアジンによる生地の伸展性向上効果が得られたと考えられた。特に、伸長度が一番高かったのは、ω−グリアジン量が多い1CW由来のω−グリアジン含有試料を添加した生地であった。また、ω−グリアジン量と伸長度の相関係数を求めたところ、
図2に示すように、r=0.893となり、両者の間に高い正の相関関係があると示唆された。
【0024】
(3−2)硬さの測定
うどん生麺を7分間茹でたものを茹で麺とした。続いて、この茹で麺の硬さについて、以下の要領で物性測定を行った。ω−グリアジン含有試料無添加うどん、ω−グリアジン含有試料添加うどんの茹で麺をそれぞれ10本ずつ用い、茹で上げ後、50℃の湯中にて、5分および20分間保持した茹で麺の硬さを測定した。茹で麺の硬さは圧縮試験にて測定し、70%圧縮時の荷重の硬さ(N)を測定した。
【0025】
結果を表2及び
図2に示す。それぞれの5分及び20分後の茹で麺の硬さを見ると、ω−グリアジン含有試料無添加と比較して、ω−グリアジン含有試料の添加により茹で麺の硬さは増加する傾向が見られた。しかしながら、ω−グリアジン量との相関は見られなかった。
【0026】
次に、20分後の物性を測定し、5分〜20分間での物性の減少率を見ると、表2及び
図3に示すように、特にグリアジンに含有するω−グリアジン量が多いほど、茹で麺の硬さが維持されていることが明らかになった。
【0027】
【表2】
【0028】
以上の結果から、ω−グリアジンを添加すると、茹で伸び防止効果を与えていることがわかり、特にω−グリアジン量が多いとそれが顕著に現れることが示唆された。この茹で伸び防止効果を与える要因として、ω−グリアジン量が多いほど、生地の伸展性が向上する。つまり、よりしっかりとしたグルテンの膜が形成されたためであると推察された。
【0029】
(3−3)SEMによるグルテン膜構造の観察
グルテンの膜構造を観察するため、うどん生麺を7分間茹でた茹で麺をサンプルとして、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察を行った。試料の作成方法は、茹で麺を6%グルタルアルデヒドで化学固定した後、α−アミラーゼ処理を行い、割断面を作成した。その後、エタノールにて段階的に濃度を上げ脱水を行い、t−ブチルアルコールにて凍結乾燥後、イオンスパッターにて白金パラジウムをコーティングしたものを観察した。
【0030】
結果を
図4に示す。図に示すように、いずれの画像においても、α−アミラーゼ処理によりデンプンが抜けた箇所にグルテン膜が観察された。このグルテン膜に着目すると、ω−グリアジン含有試料無添加の茹で麺では、全体的にグルテン膜に微細孔が多数確認された。一方、ω−グリアジン量が高いω−グリアジン含有試料を添加するほど、この微細孔が少ないグルテン膜構造が観察され、ω−グリアジン量が最も多い1CW由来のω−グリアジン含有試料を添加したうどんの茹で麺は、しっかりとしたグルテン膜が観察された。
【0031】
(3−4)共焦点レーザー顕微鏡によるグリアジンの局在の観察
グリアジンの局在の差異を観察するため、うどん生麺を7分間茹でた茹で麺をサンプルとして、共焦点レーザー顕微鏡にて観察を行った。試料の作成方法は、前記(3)と同様である。
【0032】
結果を
図5に示す。結果を見ると、黒抜けしているデンプン部分の周りを、グリアジンが局在している様子が観察された。それぞれのグリアジンの局在に着目すると、ω−グリアジン含有試料無添加ではグリアジンがとぎれとぎれに局在していた。一方、ω−グリアジン量比が高いω−グリアジン含有試料を添加するほど、グリアジンがネットワークを形成し、ω−グリアジン量が最も多い1CW由来のω−グリアジン含有試料を添加した茹で麺では、ネットワークが連続性的に広範囲に広がっている様子が観察された。
【0033】
2.精製グリアジンによる製麺
(1)グリアジン分子種の分画
グリアジン分子種の分画を
図6に示す要領で実施した。分画方法は疎水性担体を用いたバッチ法にて行った。グリアジンはω−グリアジン量比が最も多かった1CWグリアジンを使用し、ODSが修飾された担体に対してグリアジンを吸着させ、36%、45%、90%エタノールにて、順に溶出させた画分をそれぞれ画分a、画分b、画分cとし、スプレードライにて粉末化した。
【0034】
また、各分子種の分画ができているかどうかを確認するため、RP−HPLCにて組成確認を行った。その結果を表3及び
図7に示す。表3及び
図7に示すように、クロマトグラムおよび組成比を確認すると、画分aにはω−、画分bにはα/β−、画分cにはγ−グリアジンがメインとなる画分を含んでいることが判明した。以降の製麺試験では、画分a、画分b、画分cをそれぞれω−、α/β−、γ−グリアジン粉末として用いることにした。
【0035】
【表3】
【0036】
(2)製麺
以下の要領でうどんを調製した。生地配合は表4に示す通りである。小麦粉200gとグリアジン粉末0.8g、食塩5gに対し、水70gを一定速度で加え、ミキサーにて10分間混捏後、生地を複合し、20℃、湿度50%の恒温室にて1時間熟成した後、圧延を4回行い、幅3mm厚さ2.8mmになるように切り出しを行うことで、うどん生麺を調製した。
【0037】
【表4】
【0038】
(3)物性試験
(3−1)伸長度及び粘度の測定
ω−グリアジン含有試料無添加のうどんおよびω−グリアジン含有試料を添加したうどんの生麺をそれぞれ10本ずつ用い、インストロン社製の万能物性測定器にて伸長度を測定した。測定方法は、うどん生麺の両端を測定器に固定し、貫入試験にてうどん生麺の破断時の伸長度を測定した。
【0039】
結果を
図8に示す。
図8に示すように、ω−グリアジン添加が、最も生麺の伸長度が増大し、茹で伸びが最も抑えられることが明らかとなった。うどん生麺においては、ω−グリアジン含有試料を原料中に添加することで、無添加のうどん生麺に比べ、伸長度が増すという傾向が得られた。この結果より、ω−グリアジンによる生地の伸展性向上効果が得られたと考えられた。特に、伸長度が一番高かったのは、ω−グリアジン量が多い1CW由来のω−グリアジン含有試料を添加した生地であった。また、ω‐グリアジン量と伸長度の相関係数を求めたところ、r=0.893となり、両者の間に高い正の相関関係があると示唆された。グリアジン分子種ごとに製麺特性が異なる要因として、グリアジンの特性である粘性の違いが大きく影響していると推察された。
【0040】
そこで、各分子種の粘性測定を行った。グリアジン分子種の粘性測定は、グリアジン自体の粘性が非常に強く、グリアジンのみでの評価が困難であったため、グリアジン分子種をグルテン粉末に対してそれぞれ添加し、グルテンを形成させた際の粘性を測定することで、グリアジンの粘性を評価した。
【0041】
結果を
図9に示す。
図9に示すように、ω−グリアジンを添加して調製したグルテンの粘性が最も高かったことから、ω−グリアジンが最も粘性の高いグリアジンであることが示唆された。各分子種の粘性が異なる要因として、グリアジンは、先述の分子種分画の結果より、疎水性度の違いにより分けられることから、グリアジンの性状には、疎水性相互作用が重要であることが推察された。