特開2019-111887(P2019-111887A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 小島プレス工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2019111887-車両ウインドウ用積層体 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-111887(P2019-111887A)
(43)【公開日】2019年7月11日
(54)【発明の名称】車両ウインドウ用積層体
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/00 20060101AFI20190621BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20190621BHJP
【FI】
   B60J1/00 J
   B32B27/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-245784(P2017-245784)
(22)【出願日】2017年12月22日
(71)【出願人】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 基裕
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AB02B
4F100AB12B
4F100AB16B
4F100AB18B
4F100AB23B
4F100AB31B
4F100AH07B
4F100AK01A
4F100AK25
4F100AK45
4F100AK45A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100CC00B
4F100DE01B
4F100EH46
4F100EH46B
4F100EJ54
4F100GB32
4F100JD10
4F100JJ02
4F100JK12B
4F100JN01A
4F100JN01B
4F100JN28B
4F100JN30B
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】赤外線領域の光の遮蔽効果が優れている一方で可視光線領域の光の透過率にも優れ、更には、セシウム酸化タングステン粒子に起因する発色が効果的に抑制された車両ウインドウ用積層体を提供すること。
【解決手段】透明樹脂製基材の表面に、ハードコート層が形成されてなる車両ウインドウ用積層体において、1)ハードコート層に、セシウム酸化タングステン粒子及び吸収波長変換材料を含有せしめ、2)可視光透過率が70%以上、太陽光全透過率が56%以下、L*** 表色系におけるa* 値及びb* 値が下記式(1)を満たすように、車両ウインドウ用積層体を構成した。
(a*2 +(b*2 ≦2.52 ・・・(1)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂製基材の表面に、ハードコート層が形成されてなる車両ウインドウ用積層体にして、
前記ハードコート層が、セシウム酸化タングステン粒子と吸収波長変換材料とを含み、
可視光透過率が70%以上であり、太陽光全透過率が56%以下であり、L*** 表色系におけるa* 値及びb* 値が下記式(1)を満たす、
ことを特徴とする車両ウインドウ用積層体。
(a*2 +(b*2 ≦2.52 ・・・(1)
【請求項2】
前記吸収波長変換材料が、
前記透明樹脂製基材の表面に、前記吸収波長変換材料を含み、前記セシウム酸化タングステン粒子を含まないハードコート層が形成されてなる積層体を作製した際に、該ハードコート層についてのL*** 表色系におけるa*値及びb*値が、下記式(2)乃至(4)を満たすものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両ウインドウ用積層体。
* ≧0・・・(2)
* ≧0・・・(3)
0.2≦(a* /b* )≦1.7・・・(4)
【請求項3】
前記吸収波長変換材料が、ジケトピロロピロール化合物、カドミウム黄、ニッケルチタン黄、ストロンチウム黄、黄鉄、黄鉛、亜鉛黄、亜鉛黄1種、亜鉛黄2種、イソインドリン化合物、イソインドリノン化合物、キノキサリン化合物、キノフタロン化合物、縮合ジアゾ化合物、ニッケルアゾ化合物、アゾ・クロム錯体化合物、アゾメチン化合物、バナジン酸ビスマス化合物、アントラキノン化合物、アントロン化合物、キサンテン化合物、三酸化二鉄、鉛丹、ジスアゾ縮合化合物、硫化セレン化カドミウム化合物、キナクリドン化合物、ベリレン化合物、ペリレノン化合物及びインジゴイド化合物の中から選択される1種又は2種以上である請求項1又は請求項2に記載の車両ウインドウ用積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ウインドウ用積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両の軽量化を図るべく、車両における種々のウインドウガラスの樹脂化、即ち、有機ガラス(樹脂ガラス)の採用が検討されてきており、自動車の一部の車種においては既に採用されている。
【0003】
ここで、各種車両に採用される有機ガラスの中でも、特に自動車に採用される有機ガラスに対しては、太陽光の照射により車内の室温が上昇することを効果的に防止するために、太陽光中の赤外線領域の光を透過しない機能を有することが求められている。そのような状況の下、従来より、自動車用有機ガラスとして使用可能な構造体が種々、提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特許第5050470号公報)においては、複合タングステン酸化物微粒子とカーボンブラック微粒子とを含む所定の日射遮蔽分散体が、所定の基材の片面または両面に設けられてなる日射遮蔽体が提案されている。また、特許文献2(特許第6123991号公報)においては、少なくとも1層の中間膜を有する中間層を、板ガラスあるいはプラスチックから選ばれる2枚の合わせ板間に介在させてなる熱線遮蔽用合わせ構造体であって、1)前記中間層あるいは前記プラスチックのうち少なくとも1枚が所定の複合タングステン酸化物微粒子を含有し、2)前記中間層あるいは前記プラスチックのうち少なくとも1枚が所定の選択波長吸収材料を含有し、3)色味値b* が0≦b* ≦80である、ことを特徴とする熱線遮蔽用合わせ構造体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5050470号公報
【特許文献2】特許第6123991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者が、自動車において有利に採用される新規な車両ウインドウ用積層体を開発すべく、特許文献1に開示の日射遮蔽体、及び特許文献2に開示の熱線遮蔽用合わせ構造体について鋭意、検討したところ、それら日射遮蔽体等は、赤外線領域の光を遮蔽する機能においては優れたものであるものの、自動車における有機ガラスとして使用するには種々の問題を内在するものであることが判明した。
【0007】
具体的には、特許文献1に開示の日射遮蔽体は、全体として黒色系の色調を呈しており、また、可視光透過率を70%以上とすることが困難となる恐れがある。その原因としては、基材の片面または両面に設けられた日射遮蔽分散体がカーボンブラック微粒子を含有していることに起因しているものと、本発明者は推察している。一方、特許文献2に開示の熱線遮蔽用合わせ構造体にあっては、全体として緑色系の色調を呈しており、選択波長吸収材料を含む中間層及び/又はプラスチックの厚さによっては、色ムラが発生する等の問題を内在していることが、判明したのである。
【0008】
すなわち、本発明は、車両ウインドウ用積層体に関する本願発明者の研究に基づいて完成されたものであって、その解決すべき課題とするところは、赤外線領域の光の遮蔽効果が優れている一方で可視光線領域の光の透過率にも優れ、更には、セシウム酸化タングステン粒子に起因する発色が効果的に抑制された車両ウインドウ用積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明は、かかる課題を解決すべく、透明樹脂製基材の表面に、ハードコート層が形成されてなる車両ウインドウ用積層体にして、1)前記ハードコート層が、セシウム酸化タングステン粒子と吸収波長変換材料とを含み、2)可視光透過率が70%以上であり、太陽光全透過率が56%以下であり、L*** 表色系におけるa* 値及びb* 値が下記式(1)を満たす、ことを特徴とする車両ウインドウ用積層体を、その要旨とするものである。
(a*2 +(b*2 ≦2.52 ・・・(1)
【0010】
なお、そのような本発明に従う車両ウインドウ用積層体においては、好ましくは、前記吸収波長変換材料が、前記吸収波長変換材料が、前記透明樹脂製基材の表面に、前記吸収波長変換材料を含み、前記セシウム酸化タングステン粒子を含まないハードコート層が形成されてなる積層体を作製した際に、該ハードコート層についてのL*** 表色系におけるa*値及びb*値が、下記式(2)乃至(4)を満たすものである。
* ≧0・・・(2)
* ≧0・・・(3)
0.2≦(a* /b* )≦1.7・・・(4)
【0011】
また、本発明の車両ウインドウ用積層体においては、望ましくは、前記吸収波長変換材料が、ジケトピロロピロール化合物、カドミウム黄、ニッケルチタン黄、ストロンチウム黄、黄鉄、黄鉛、亜鉛黄、亜鉛黄1種、亜鉛黄2種、イソインドリン化合物、イソインドリノン化合物、キノキサリン化合物、キノフタロン化合物、縮合ジアゾ化合物、ニッケルアゾ化合物、アゾ・クロム錯体化合物、アゾメチン化合物、バナジン酸ビスマス化合物、アントラキノン化合物、アントロン化合物、キサンテン化合物、三酸化二鉄、鉛丹、ジスアゾ縮合化合物、硫化セレン化カドミウム化合物、キナクリドン化合物、ベリレン化合物、ペリレノン化合物及びインジゴイド化合物の中から選択される1種又は2種以上である。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明に従う車両ウインドウ用積層体は、透明樹脂製基材の表面に形成されたハードコート層中に、優れた赤外線吸収能を有するセシウム酸化タングステン粒子と、吸収波長変換材料とを含み、可視光透過率が70%以上であり、太陽光全透過率が56%以下であり、L*** 表色系におけるa* 値及びb* 値が所定の関係式を満たすように構成されているものである。このような構成を採用していることにより、本発明の車両ウインドウ用積層体にあっては、赤外線領域の光の遮蔽効果が優れている一方で、可視光線領域の光の透過率にも優れており、また、その外観は、セシウム酸化タングステン粒子に起因する発色が効果的に抑制されたものとなっているのである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に従う車両ウインドウ用積層体の一例を示す部分断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の代表的な実施形態について、図面を適宜、参照しつつ、詳細に説明する。
【0015】
図1には、本発明に従う車両ウインドウ用積層体の一例として、自動車において無機ガラスの代用品として有利に使用される積層体(有機ガラス)が、厚さ方向(ハードコート層の積層方向)に平行な面で切断した断面において、部分的に拡大されて示されている。そこに示されている積層体10は、平板状の基材12の一方の面(図1における上面)の全面に亘って、ハードコート層14が形成されて、構成されている。
【0016】
ここで、基材12は透明樹脂材料にて形成されているところ、かかる透明樹脂材料としては、従来より有機ガラスとして用いられている透明樹脂材料であれば、如何なるものであっても使用することが可能である。そのような透明樹脂材料としては、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリオレフィン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)等を例示することが出来、それら公知の各種透明樹脂材料の中から、例えば、自動車における積層体10の具体的な搭載箇所等に応じたものが適宜に選択されて、使用されることとなる。
【0017】
なお、本発明において、基材12の形状は平板状に限定されるものではない。例えば、一部に曲面や凸部等を有するものや、全体が曲面形状を呈しているもの等についても、本発明における基材として採用可能である。また、基材12の厚さは、自動車における積層体10の具体的な搭載箇所等に応じた厚さが適宜に採用可能であり、例えば、積層体10に要求される力学的特性(機械的強度等)を有利に発揮させるためには、基材12の厚さは2〜10mm程度とされる。
【0018】
一方、ハードコート層14は、積層体10に耐候性や耐擦傷性を付与するために、形成されるものである。ハードコート層14にあっても、基材12と同様に透明性(光透過性)に優れた材料で形成されていることが好ましい。ハードコート層14を形成する材料としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、アミノアルキッド樹脂、シリコン系樹脂、アクリルシリコン系樹脂等を例示することが出来、そのような各樹脂材料の中でも、施工の容易さの観点より、熱硬化性や紫外線硬化性を有するものが特に有利に用いられる。
【0019】
なお、ハードコート層14の厚さにあっても、自動車における積層体10の具体的な搭載箇所や、ハードコート層14に要求される特性等に応じて、その厚さが適宜に設定されることとなるが、例えば、積層体10のように、自動車に使用される場合には、一般にハードコート層14の厚さは3〜20μm程度とされる。
【0020】
そして、本発明に従う積層体10においては、そのハードコート層14中に、セシウム酸化タングステン粒子及び吸収波長変換材料が含有せしめられており、a)可視光透過率が70%以上であり、b)太陽光全透過率が56%であり、c)L*** 表色系におけるa* 値及びb* 値が下記式(1)を満たすように構成されているところに、大きな技術的特徴が存しているのである。
(a*2 +(b*2 ≦2.52 ・・・(1)
【0021】
すなわち、本発明者が、赤外線領域の光の遮蔽効果に優れているセシウム酸化タングステン粒子について、その効果を確認したところ、赤外線領域の光の遮蔽効果については確かに優れたものであるものの、透明樹脂製基材の表面に、セシウム酸化タングステン粒子を含むハードコート層を形成してなる積層体にあっては、全体として青色系から緑色系を呈し、自動車に搭載される有機ガラス(車両ウインドウ用積層体)としては、特に自動車のボディカラーによっては採用し難いものであることが判明したのである。そのような状況下、本発明者が鋭意、検討を進めたところ、基材の表面にハードコート層が形成されてなる車両ウインドウ用積層体において、そのハードコート層中にセシウム酸化タングステン粒子と吸収波長変換材料とを含有せしめることにより、得られる積層体が、赤外線領域の光を十分に遮蔽しつつも可視光領域の光の透過率は優れており、その外観は、セシウム酸化タングステン粒子に起因する発色が効果的に抑制されたものとなることが判明し、本発明を完成するに至ったのである。
【0022】
ここで、本発明において用いられるセシウム酸化タングステン粒子とは、特に赤外線領域の光を遮蔽する効果を発揮するとして従来より公知のものであれば、如何なるものであっても使用することが出来る。具体的に、セシウム酸化タングステンは、一般式:Csx WOy で表される複合タングステン酸化物であるところ、赤外線領域の光を遮蔽するものとして公知の、前記一般式におけるx及びyが、0.001≦x≦1.0、2.2≦y≦3.0であり、且つ、六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物の粒子が、本発明において用いられる。特に、六方晶の結晶構造から理論的に算出されるCs0.33WO3 の粒子は、好ましい光学特性を発揮するものであるところから、本発明において有利に用いられる。
【0023】
そのようなセシウム酸化タングステン粒子のハードコート層中における含有割合は、積層体に要求される種々の特性(特に、赤外線領域の光の遮蔽効果)や、後述する吸収波長変換材料の種類や使用量等に応じて適宜に決定されることとなるが、一般には、ハードコート層を構成する樹脂材料の100質量部に対して15〜30質量部の割合となる量において、ハードコート層に含有せしめられることとなる。
【0024】
なお、本発明に従う車両ウインドウ用積層体を製造するに際して、セシウム酸化タングステン粒子は、一般的に、所定の溶媒に分散せしめられている分散液や分散粉の状態で使用される。
【0025】
一方、本発明の積層体におけるハードコート層中に、上述したセシウム酸化タングステン粒子と共に添加される吸収波長変換材料とは、最終的に得られる積層体において、セシウム酸化タングステン粒子の添加によって低下する可視光領域の光の透過率を上昇させ、且つ、セシウム酸化タングステン粒子に起因する発色を効果的に抑制するために、使用されるものである。より詳細には、吸収波長変換材料を使用することにより、本発明に従う車両ウインドウ用積層体においては、a)可視光透過率が70%以上であり、b)太陽光全透過率が56%であり、c)L*** 表色系におけるa* 値及びb* 値が下記式(1)を満たすこととなるのである。
(a*2 +(b*2 ≦2.52 ・・・(1)
【0026】
本発明では、最終的に得られる車両ウインドウ用積層体が上記した各特性を発揮する限りにおいて、吸収波長変換材料として如何なるものであっても使用することが可能であるが、好ましくは、以下の条件を満たすものが有利に用いられる。即ち、透明樹脂製基材の表面に、吸収波長変換材料を含み、セシウム酸化タングステン粒子を含まないハードコート層が形成されてなる積層体(換言すれば、目的とする車両ウインドウ用積層体と同一形態を有するものの、ハードコート層がセシウム酸化タングステン粒子を含有していない点において、目的とする車両ウインドウ用積層体とは異なる積層体)を作製した際に、かかるハードコート層についてのL*** 表色系におけるa* 値及びb* 値が、下記式(2)乃至(4)を満たすような吸収波長変換材料、より好ましくは下記式(2)、(3)及び(4’)を満たすような吸収波長変換材料が、用いられるのである。そのような条件を満たす吸収波長変換材料を用いることにより、本発明の効果をより有利に享受することが可能となる。
* ≧0・・・(2)
* ≧0・・・(3)
0.2≦(a* /b* )≦1.7・・・(4)
0.6≦(a* /b* )≦1.3・・・(4’)
【0027】
本発明において用いられる吸収波長変換材料としては、ジケトピロロピロール化合物、カドミウム黄、ニッケルチタン黄、ストロンチウム黄、黄鉄、黄鉛、亜鉛黄、亜鉛黄1種、亜鉛黄2種、イソインドリン化合物、イソインドリノン化合物、キノキサリン化合物、キノフタロン化合物、縮合ジアゾ化合物、ニッケルアゾ化合物、アゾ・クロム錯体化合物、アゾメチン化合物、バナジン酸ビスマス化合物、アントラキノン化合物、アントロン化合物、キサンテン化合物、三酸化二鉄、鉛丹、ジスアゾ縮合化合物、硫化セレン化カドミウム化合物、キナクリドン化合物、ベリレン化合物、ペリレノン化合物やインジゴイド化合物等を、例示することが出来、これらの中から1種又は2種以上のものが適宜に選択されて、最終的に得られる車両ウインドウ用積層体が上記特性を発揮するような量的割合において使用される。
【0028】
なお、セシウム酸化タングステン粒子と共にハードコート層中に含有せしめられる吸収波長変換材料にあっても、セシウム酸化タングステン粒子と同様に粒子状のものが有利に用いられる。
【0029】
そして、上述したセシウム酸化タングステン粒子及び吸収波長変換材料を含むハードコート層14が、透明樹脂製の基材12の表面に形成されてなる積層体10にあっては、a)可視光透過率が70%以上であり、b)太陽光全透過率が56%であり、c)L*** 表色系におけるa* 値及びb* 値が下記式(1)を満たしているところから、赤外線領域の光を十分に遮蔽しつつも可視光領域の光の透過率は優れており、その外観は、セシウム酸化タングステン粒子に起因する発色が効果的に抑制されているのである。
(a*2 +(b*2 ≦2.52 ・・・(1)
【0030】
なお、本願明細書及び特許請求の範囲において、可視光透過率とは、JIS−3106:1998「板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法」に規定されている測定方法及び算定方法に従って得られるものであり、また、太陽光全透過率とは、ISO−13837:2008「路上走行車−安全グレージング材料−太陽光透過率の測定方法」に規定されている方法に従って得られる太陽光全透過率[TTS(1.5) ]を、意味するものである。
【0031】
ところで、本発明に従う積層体10は、従来より公知の各種手法を組み合わせることにより、製造することが可能である。
【0032】
例えば、基材12を、ポリカーボネート等の透明樹脂材料を用いて、射出成形法等の種々の成形法に従って成形する。次いで、アクリル樹脂のプレポリマー等からなる液状材料(塗料)にセシウム酸化タングステン粒子及び吸収波長変換材料を添加し、混合したものを、ハードコート層14の一方の面上に塗布することによって、セシウム酸化タングステン粒子等を含む液状材料からなる塗膜を形成し、液状材料の種類に応じた手法により、塗膜を乾燥させ、硬化させる。例えば、液状の紫外線硬化型アクリル系樹脂材料を用いる場合には、塗膜に対して紫外線を照射すること。以上のような操作により、基材12の表面に、セシウム酸化タングステン粒子及び吸収波長変換材料を含むハードコート層14が形成されてなる積層体10が、有利に得られるのである。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等限定的に解釈されるものでないことが理解されるべきである。なお、以下において、ハードコート層の色合い(L*** 表色系におけるa* 値及びb* 値)は、紫外・可視・近赤外分光光度計(商品名:Solid Spec-3700 、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。
【0034】
所定大きさを呈する平板状のポリカーボネート製基材(PC製基材)と、液状の紫外線硬化型アクリル系樹脂材料と、セシウム酸化タングステン粒子を含む分散液(製品名:日射遮蔽分散液 YMF-02A、住友金属鉱山株式会社製)と共に、吸収波長変換材料として、ジケトピロロピロール化合物A(製品名:NSP-VH 201 Orange 、日弘ビックス株式会社製)及びジケトピロロピロール化合物B(製品名:NSP-VH 101 Red、日弘ビックス株式会社製)を準備した。
【0035】
先ず、PC製基材の表面に、吸収波長変換材料のみを含むハードコート層を形成してなる積層体について、L*** 表色系におけるa* 値及びb* 値を測定した。具体的には、ジケトピロロピロール化合物A及びジケトピロロピロール化合物Bを、下記表1に示す割合において、液状の紫外線硬化型アクリル系樹脂材料に添加し、混合することにより、液状材料を調製した(液状材料α、β)。そして、かかる液状材料α、βをPC製基材の表面に塗布し、その塗布面に対して紫外線を照射して塗布膜を硬化せしめることにより、PC製基材表面に厚さ:7μmのハードコート層が形成されてなる積層体を得た。各液状材料を用いて作製された積層体について、ハードコート層のL*** 表色系におけるa* 値及びb* 値の測定結果、及び、外観を目視により観察し、看取される積層体の色合いを、下記表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
−実施例1−
下記表2より明らかなように、ハードコート層形成材料として、液状材料αに所定量のセシウム酸化タングステン粒子を含有せしめてなるものを用いた。そして、その液状の形成材料をPC製基材の表面に塗布し、その塗布面に対して紫外線を照射して塗布膜を硬化せしめることにより、PC製基材表面に厚さ:7μmのハードコート層が形成されてなる積層体を得た。作製された積層体について、ハードコート層のL*** 表色系におけるa* 値及びb* 値の測定結果、外観を目視により観察した際に看取される積層体の色合い、可視光透過率の測定結果、並びに太陽光全透過率を、下記表2に示す。
【0038】
−実施例2−
ハードコート層形成材料として、液状材料βに所定量のセシウム酸化タングステン粒子を含有せしめてなるものを用いたこと以外は実施例1と同様の手順に従って、PC製基材表面に厚さ:7μmのハードコート層が形成されてなる積層体を得た。作製された積層体について、ハードコート層のL*** 表色系におけるa* 値及びb* 値の測定結果、外観を目視により観察した際に看取される積層体の色合い、可視光透過率の測定結果、並びに太陽光全透過率を、下記表2に示す。
【0039】
−比較例1−
ハードコート層形成材料として、ジケトピロロピロール化合物及びセシウム酸化タングステン粒子を含まない液状の紫外線硬化型アクリル系樹脂材料を用いたこと以外は実施例1と同様の手順に従って、PC製基材表面に厚さ:7μmのハードコート層が形成されてなる積層体を得た。作製された積層体について、ハードコート層のL*** 表色系におけるa* 値及びb* 値の測定結果、外観を目視により観察した際に看取される積層体の色合い、可視光透過率の測定結果、並びに太陽光全透過率を、下記表2に示す。
【0040】
−比較例2−
ハードコート層形成材料として、液状の紫外線硬化型アクリル系樹脂材料に所定量のセシウム酸化タングステン粒子を含有せしめたものを用いたこと以外は実施例1と同様の手順に従って、PC製基材表面に厚さ:7μmのハードコート層が形成されてなる積層体を得た。作製された積層体について、ハードコート層のL*** 表色系におけるa* 値及びb* 値の測定結果、外観を目視により観察した際に看取される積層体の色合い、可視光透過率の測定結果、並びに太陽光全透過率を、下記表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
かかる表2からも明らかなように、本発明に従う積層体にあっては、1)太陽光全透過率について、セシウム酸化タングステン粒子のみを含有せしめた比較例2に係る積層体と同程度の値を示すことから、赤外線領域の光の遮蔽効果に優れており、また、2)可視光透過率が70%以上であって、可視光線領域の光の透過率にも優れており、更には、3)その外観は、セシウム酸化タングステン粒子に起因する発色が効果的に抑制されて、薄いグレーを呈するものである、ことが認められたのである。
【符号の説明】
【0043】
10 積層体
12 基材
14 ハードコート層
図1