【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・ISASニュース、No.439、2017年10月号(冊子版) 発行日 平成29年10月1日 ・「地球―月ラグランジュ点探査機EQUULEUSによる深宇宙探査CubeSat実現への挑戦」 ウェブサイトの掲載日 平成29年10月20日 ウェブサイトのアドレス :http://www.isas.jaxa.jp/feature/forefront/171020.html ・ISASニュース、No.439、2017年10月号(ウェブ版) ウェブサイトの掲載日 平成29年10月23日 ウェブサイトのアドレス :http://www.isas.jaxa.jp/outreach/isas_news/all.html :http://www.isas.jaxa.jp/outreach/isas_news/files/ISASnews439.pdf
【解決手段】互いに積層された複数の層17を備える多層断熱材16であって、複数の層17の少なくとも1つである検出層19は、圧電フィルム25と、圧電フィルム25の両面にそれぞれ設けられた一対の電極部26,27と、を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微粒子の直径の特に重要なサイズレンジは、数十〜数百μm(マイクロメートル)である。しかしながら、非特許文献1等の従来のセンサの面積(約0.1m
2)では、直径が最大数μm程度までの微粒子の分布を計測することが限界である。センサの面積を大きくするとセンサの質量が増大するため、センサを宇宙機に搭載するのが困難になる。さらに、宇宙機の表面に広い面積の搭載機器を展開することは、熱設計・制御において特別の配慮を要求するため、宇宙機の質量の増大と同様に、汎用的に行うことはできない。
また、非特許文献2に開示された方法では、微粒子のサイズ分布の見積もりを実施する頻度が極めて限られる。このため、地球のあらゆる軌道で継続的に微粒子の分布を計測することは不可能である。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、搭載する宇宙機の質量の増加を抑え、広いセンサ面積により微粒子の分布を計測できる多層断熱材、この多層断熱材を備える宇宙機、損傷診断装置、及びこの多層断熱材を用いた被検出物の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明に係る多層断熱材は、互いに積層された複数の層を備える多層断熱材であって、前記複数の層の少なくとも1つである検出層は、圧電フィルムと、前記圧電フィルムの両面にそれぞれ設けられた一対の電極部と、を有することを特徴としている。
この発明によれば、検出層は圧電フィルム及び一対の電極部を有して、薄く構成されている。このため、例えば多層断熱材を宇宙機に搭載しても、宇宙機の質量が増加するのを抑えられる。すなわち、従来の多層断熱材に代えて本発明の多層断熱材を採用することにより、宇宙機の質量の増加を抑えられる。スペースデブリ、宇宙塵等の微粒子が検出層に衝突すると、微粒子の衝突により検出層の圧電フィルムが圧縮等され、一対の電極部間に電位差が生じる。この電位差を検出することにより微粒子を検出し、さらに宇宙空間の広範囲にわたって微粒子を検出することにより、宇宙空間における微粒子の分布を計測できる。
また、多層断熱材は、宇宙機に断熱材が設けられる範囲にわたって搭載され、宇宙機の外面のほとんどには断熱材が設けられるため、広いセンサ面積により微粒子の分布を計測できる。
【0007】
(2)上記(1)に記載の多層断熱材であって、前記検出層は、前記複数の層のうち、前記複数の層が積層された積層方向の少なくとも一方の端には配置されていなくてもよい。
この発明によれば、例えば、多層断熱材を、検出層が配置されていない積層方向の端が宇宙空間に露出するように宇宙機に搭載する。宇宙機の外面は、太陽の光により例えば100℃以上という高温になる。しかし、検出層よりも宇宙空間側に少なくとも1つの層が配置されていることにより、検出層の温度が積層方向の端に配置された層よりも低下し、例えば検出層を、キュリー点(結晶構造の変化により圧電性を喪失する温度)を持つ圧電性樹脂により形成しても、検出層が太陽の光による熱に耐えられる。
【0008】
(3)上記(2)に記載の多層断熱材であって、前記検出層は、前記複数の層のうち、前記積層方向の端から2番目に配置されていてもよい。
この発明によれば、例えば、多層断熱材を積層方向の前記端が宇宙空間に露出するように宇宙機に搭載する。検出層は、宇宙空間から多層断熱材に向かって進み、検出層よりも宇宙空間側に配置された全ての層を貫通して検出層に衝突した微粒子を検出する。検出層よりも宇宙空間側に配置された層の数を1つにしたため、1つの層を貫通した微粒子を検出層で検出でき、検出層による微粒子の検出感度を向上させられる。
【0009】
(4)また、本発明に係る宇宙機は、本体と、前記本体の外面を覆う上記(1)から(3)のいずれかに記載の多層断熱材と、を備えることを特徴としている。
この発明によれば、搭載する宇宙機の質量の増加を抑え、広いセンサ面積により微粒子の分布を計測できる多層断熱材を用いて宇宙機を構成できる。
【0010】
(5)また、本発明に係る損傷診断装置は、上記(1)から(3)のいずれかに記載の多層断熱材と、前記一対の電極部間の電位差を検出する検出部と、前記検出部の検出結果に基づいて、前記多層断熱材の損傷を診断する診断部と、を備えることを特徴としている。
この発明によれば、診断部により、検出部の検出結果に基づいて多層断熱材の損傷を診断できる。
【0011】
(6)また、本発明に係る被検出物の検出方法は、上記(1)から(3)のいずれかに記載の多層断熱材に被検出物が衝突したことを検出する被検出物の検出方法であって、前記一対の電極部間の電位差が、予め定められた電位差閾値を超えたときに、前記検出層に前記被検出物が衝突したと判断することを特徴としている。
この発明によれば、一対の電極部間の電位差が電位差閾値を超えたときに、多層断熱材に被検出物が衝突したと判断できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多層断熱材、宇宙機、損傷診断装置、及び被検出物の検出方法によれば、搭載する宇宙機の質量の増加を抑え、広いセンサ面積により微粒子の分布を計測できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る宇宙機の一実施形態を、
図1から
図8を参照しながら説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態の宇宙機1は、構体(本体)11と、構体11の外面を覆う多層断熱材(Multi Layer Insulation)16と、検出部41と、診断部43と、を備えている。なお、
図1では多層断熱材16を分解して示している。
図2では、多層断熱材16のうち最外層フィルム18及び間隔保持部材22を透過して示している。
多層断熱材16、検出部41、及び診断部43で、損傷診断装置2が構成される。損傷診断装置2は、多層断熱材16のヘルスモニタリングシステムである。
構体11の形状は、特に限定されない。例えば、構体11は、金属等により直方体の箱状に形成されている。構体11の側壁12には、後述するケーブル30,31を挿入するための貫通孔12aが形成されている。
【0015】
多層断熱材16は、互いに積層された複数の層17を備えている。
複数の層17は、最外層フィルム18と、検出層19と、中間層フィルム20と、最内層フィルム21と、を備えている。最外層フィルム18、検出層19、中間層フィルム20、及び最内層フィルム21は、複数の層17が積層された積層方向Dの一方側から他方側に向かってこの順で並べて配置されている。
最外層フィルム18は、例えば、ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面にアルミニウム蒸着を施すことにより形成されている。最外層フィルム18の厚さは、25μm(マイクロメートル)以上50μm以下程度である。
【0016】
検出層19は、複数の層17の1つである。検出層19は、複数の層17のうち、積層方向Dの一方側の端から2番目に配置されている。検出層19は、積層方向Dの一方側の端には配置されない。
図3に示すように、検出層19は、圧電フィルム25と、一対の電極層(電極部)26,27と、を有している。
例えば、圧電フィルム25は積層方向Dに見た平面視で矩形状に形成されている。圧電フィルム25は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)で形成されている。圧電フィルム25は、圧電性を有し、積層方向Dに変形すると、積層方向Dの両端部間で電位差を生じる。なお、圧電フィルム25は、圧電性を有するフィルムで形成されていればこれに限定されず、ポリ乳酸、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO
3)等で形成されてもよい。
【0017】
第1電極層(電極部)26は、圧電フィルム25の一方の面に配置されている。第1電極層26は、構体11等に接地されていて、GND(グラウンド)面となっている。なお、第1電極層26が2次GNDを構成し、構体11が1次GNDを構成するとして、第1電極層26と構体11とを絶縁してもよい。この場合、第1電極層26上に絶縁性を有する保護フィルムを貼ってもよい。
第2電極層(電極部)27は、圧電フィルム25の他方の面に配置されている。第2電極層27は、構体11等に接地されていなく、HOT(ホット)面となっている。電極層26,27は、圧電フィルム25にアルミニウム蒸着すること等により層状に形成されている。第1電極層26は、圧電フィルム25の一方の面の全体にわたって配置されている。第2電極層27は、圧電フィルム25の他方の面の全体にわたって配置されている。電極層26,27は、平面視で圧電フィルム25と同形状の矩形状に形成されている。
検出層19の厚さは、例えば20μm程度である。
【0018】
本実施形態では、第2電極層27における圧電フィルム25とは反対側には、第2保護フィルム28が配置されている。第2保護フィルム28は、ポリイミド等で形成されている。第2保護フィルム28の厚さは、例えば100μm程度である。第2電極層27と第2保護フィルム28とは、両面に粘着層を有するテープ(不図示)により、貼り付けられている。
GND面は、接地された多層断熱材16の複数の層17と同電位とするため、電気的にはHOT面のみを絶縁すればよい。このため、HOT面である第2電極層27を第2保護フィルム28で覆っている。
【0019】
第1電極層26には、
図1及び
図2に示す第1ケーブル30の第1電線30aが接続されている。第1ケーブル30は、第1電線30aと、第1電線30aの外面を覆う第1被覆材(符号省略)と、を有している。第1電線30aは、積層方向Dに見たときの第1電極層26における所定の方向に延びる外縁部の中間部に接続されている。
第2電極層27には、第2ケーブル31の第2電線31aが接続されている。第2ケーブル31は、第2電線31aと、第2電線31aの外面を覆う第2被覆材(符号省略)と、を有している。第2電線31aは、積層方向Dに見たときの第2電極層27における所定の方向に延びる外縁部の中間部に接続されている。第1被覆材及び第2被覆材は、電気的絶縁性を有している。
【0020】
ケーブル30,31は、第2保護フィルム28、中間層フィルム20、最内層フィルム21にそれぞれ形成された貫通孔28a,20a,21a、及び側壁12の貫通孔12aにそれぞれ挿入されている。貫通孔28a,20a,21a,12aは、積層方向Dに並ぶように配置されている。
ただし、貫通孔28a,20a,21a,12aは、最外層フィルム18の主面に沿う一方側から他方側に向かってこの順に並ぶように配置されていてもよい。
【0021】
中間層フィルム20は、積層方向Dに複数枚積層されている。中間層フィルム20は、例えば、ポリエステルフィルムの両面にアルミニウム蒸着を施すことにより形成されている。中間層フィルム20の厚さは、6μm以上12μm以下程度である。
最内層フィルム21は、例えば、ポリイミドフィルムの両面にアルミニウム蒸着を施すことにより形成されている。最内層フィルム21の厚さは、例えば25μm程度である。
【0022】
なお、検出層19は、複数の層17のうち、積層方向Dの少なくとも一方の端には配置されていないことが好ましい。すなわち、複数の層17のうち、積層方向Dの一方側の端及び他方側の端にそれぞれ検出層19が配置されていると、多層断熱材16をどの向きに配置して構体11の側壁12に固定しても、複数の層17のうち最も宇宙空間側に検出層19が配置されるからである。検出層19は、複数の層17のうち、積層方向Dの両端にそれぞれ配置されていなくてもよい。複数の層17は、積層方向Dの2カ所以上で検出層19を備えてもよい。
最外層フィルム18と中間層フィルム20との間には、複数の検出層19が最外層フィルム18の主面に沿って並べて配置されていてもよい。以下では、複数の検出層19のうち、1つを検出層19Aと言い、他の1つを検出層19Bと言う。すなわち、
図1及び
図2では、2チャンネルの検出層19が示されている。
【0023】
複数の層17のうち積層方向Dに隣り合う層17の間には、間隔保持部材22が配置されている。間隔保持部材22は、電気的絶縁性を有する材料で形成されていることが好ましい。例えば、間隔保持部材22にはポリエステルネットが用いられている。間隔保持部材22の厚さは、140μm以上190μm以下程度である。
多層断熱材16は、最外層フィルム18が宇宙空間に暴露されるように、構体11に固定されている。
本明細書で言うセンサ面積とは、多層断熱材16のうち、スペースデブリ及び宇宙塵等の微粒子を検出可能な面積のことを意味する。
【0024】
複数の層17を束ねて多層断熱材16を構成し、この多層断熱材16を構体11の側壁12に固定する方法は、特に限定されない。この例では、多層断熱材16のアース部16aに以下に説明する構成が設けられている。
検出層19B及び中間層フィルム20が、折り畳まれたアルミニウム箔33により積層方向Dに挟まれている。多層断熱材16の最外層フィルム18及び最内層フィルム21は、導電性を有する金属板34で、互いに電気的に連結されている。複数の層17は、ボルト、リベット等の締結金具35により、積層方向Dに互いに圧着され、導通が取られている。このとき、複数の層17のうち積層方向Dに隣り合う層17同士が、間隔保持部材22を介して互いに接触する。
【0025】
金属板34は、ボンディングワイヤと呼ばれる接地用電線36により、構体11の側壁12に接地されている。
多層断熱材16は、面ファスナー38により側壁12に固定されている。多層断熱材16は、複数の層17のうち積層方向Dの一方側の端(最外層フィルム18)が宇宙空間に露出するように、宇宙機1に搭載されている。
なお、複数の層17の外縁部を、互いに糸により縫合することにより、複数の層17を互いに固定してもよい。
【0026】
検出部41は、各検出層19A,19Bに接続された第1ケーブル30の第1電線30a、及び第2ケーブル31の第2電線31aにそれぞれ接続されている。検出部41は、公知の電位差計等であり、検出部41は、ケーブル30,31を介して電極層26,27間の電位差を検出する。検出部41は、検出結果を診断部43に送信する。
診断部43は、図示はしないが演算回路、メモリ等を有している。メモリには、演算回路を制御するための制御プログラム、予め定められた電位差閾値、第1回数閾値、第2回数閾値等が記憶されている。電位差閾値、第1回数閾値、第2回数閾値は、予め実験等を行うことにより定められている。第1回数閾値、第2回数閾値は、検出層19A,19Bに微粒子Pが衝突した回数と比較され、第2回数閾値は第1回数閾値よりも大きい。
診断部43は、検出部41の検出結果に基づいて、多層断熱材16の損傷を診断する。
【0027】
次に、以上のように構成された宇宙機1において、多層断熱材16に微粒子(被検出物)が衝突したことを検出する微粒子の検出方法について説明する。
図1に示すように、太陽の光Lが多層断熱材16に対する積層方向Dの一方側から多層断熱材16に照射する。多層断熱材16の最外層フィルム18は、光Lにより例えば100℃以上という高温になる。しかし、検出層19A,19Bは積層方向Dの一方側の端から2番目に配置されているため、検出層19A,19Bの温度は最外層フィルム18の温度よりも低下する。
【0028】
宇宙空間から多層断熱材16に微粒子Pが接近する。微粒子Pは、多層断熱材16の最外層フィルム18を貫通し、検出層19Aに衝突する。検出層19Aの圧電フィルム25は積層方向Dに圧縮され、圧電フィルム25に生じた電位差が、ケーブル30,31を介して検出部41で検出される。検出部41は、検出結果を診断部43に送信する。
【0029】
診断部43の演算回路は、制御プログラム及び電位差閾値を読み込む。演算回路は、検出部41で検出された電極層26,27間の電位差が電位差閾値を超えたか否かを判断する。電位差が電位差閾値を超えたときに、演算回路は検出層19Aに微粒子Pが衝突したと判断する。一方で、電位差が電位差閾値以下のときに、演算回路は検出層19Aに微粒子Pが衝突していないと判断する。演算回路は、メモリに電位差の振幅を記憶する。演算回路は、メモリに記憶した電位差の振幅から、衝突した微粒子Pの運動量を見積もる。
微粒子Pが検出層19Bに衝突した場合も、同様である。
【0030】
検出層19A,19Bに微粒子Pが衝突した時刻等は、診断部43のメモリに記憶される。例えば、演算回路は、検出部41が検出した微粒子Pの衝突回数に基づいて、多層断熱材16の損傷を診断する。例えば、演算回路は、検出層19A,19Bに微粒子Pが衝突した回数が第1回数閾値よりも小さければ、多層断熱材16の断熱性能は低下していない(多層断熱材16は損傷していない)と判断する。演算回路は、同回数が第1回数閾値以上であって第2回数閾値よりも小さければ、多層断熱材16の断熱性能は所定の割合以上低下している(多層断熱材16の損傷が一定以上進んでいる)と判断する。演算回路は、同回数が第2回数閾値以上であれば、多層断熱材16の断熱性能は交換が必要なほど低下(多層断熱材16は交換が必要なほど損傷)していると判断する。
【0031】
なお、損傷診断装置2が多層断熱材16の損傷を診断する方法は、これに限定されない。例えば、前記の診断する方法において、検出部41が検出した微粒子Pの衝突回数は、検出部41が検出した、所定の直径以上の微粒子Pの衝突回数としてもよい。この場合、微粒子Pの直径は、微粒子Pの運動量等から見積もられる。
検出層19Aに微粒子Pが衝突したときに検出部41が検出した電位差の振幅で微粒子Pが衝突した回数を重み付けした値の合計により、構体11の損傷を診断してもよい。
損傷診断装置は、多層断熱材16が外面を覆う構体(被診断物)11の損傷を診断してもよい。
【0032】
ここで、従来技術を用いた微粒子の衝突検出装置(損傷診断装置)の例を、検出装置の質量とセンサ面積とともに表1に示す。いずれの例も、特定のミッションを目的とした一点ものの検出装置であり、その他のミッションに同一の検出装置を搭載したという事例はほぼない。
【0034】
表1を作成するのにあたり、引用した文献は下記の通りである。
(文献)
1. E. Gruen, et al., “The Galileo Dust Detector”, Space Science Reviews, 1992, Vol. 60, p. 317-340
2. G. Drolshagen, et al., “In Situ Measurement of Cosmic Dust and Space Debris in the Geostationary Orbit”, 2nd European Conference on Space Debris, ESA-SP 393, 1997, p. 129-134
3. R. Srama, et al., “The Cassini Cosmic Dust Analyzer”, Space Science Reviews, 2004, Vol. 114, p. 465-518
4. A. J. Tuzzolino, et al., “The Space Dust (SPADUS) instrument aboard the Earth-orbiting ARGOS spacecraft: I-instrument description”, Planetary and Space Sciences, 2001, Vol. 49, p. 689-703
5. M. Horanyi, et al., “The Student Dust Counter on the New Horizons Mission”, Space Science Reviews, 2008, Vol. 140, p. 387-402
6. K. Nogami, et al., Development of the Mercury dust monitor (MDM) onboard the BepiColombo mission”, Planetary and Space Sciences, 2010, Vol. 58, p. 108-115
【0035】
また、表1中の計測原理の欄における各用語の意味を、以下に示す。
・衝突電離:衝突電離プラズマ計測のことを意味する。金属製のセンサ面に微粒子が衝突すると、センサ面及び微粒子由来のイオンと電子からなるプラズマが発生する。このプラズマの電荷量を、検出装置の内部に形成した電場を利用して計測することにより、微粒子の衝突速度や質量が推定される。
・圧電素子:圧電信号計測のことを意味する。センサ面を圧電素子で構成することにより、微粒子の衝突で発生する圧電信号が計測され、微粒子の運動量等が推定される。
【0036】
例えば、表1のGalileoのミッションでは、検出装置としてDDSが用いられた。打上げは1989年であった。検出装置の測定原理は、衝突電離である。検出装置について、センサ面積は、0.1m
2であり、質量は、4.2kgである。この場合、質量面積比は、(4.2/0.1)の式から、42kg/m
2となる。
表1に示したように、従来技術を用いた検出装置の質量面積比は、少なくとも10kg/m
2である。また、センサの面積を広くすると、衛星等の宇宙機の構体の表面積をある程度占有してしまうため、宇宙機の熱設計・制御において特別の配慮が必要になる。そのため、宇宙機の質量だけでなく熱の問題によっても、センサの大面積化が妨げられる。
【0037】
これに対して、本実施形態の多層断熱材16によれば、検出層19Aは圧電フィルム25及び電極層26,27を有して、薄く構成されている。このため、多層断熱材16を宇宙機1に搭載しても、宇宙機1の質量が増加するのを抑えられる。すなわち、従来の多層断熱材に代えて本発明の多層断熱材16を採用することにより、宇宙機1の質量の増加を抑えられる。微粒子Pが検出層19に衝突すると、微粒子Pの衝突により検出層19の圧電フィルム25が圧縮等され、電極層26,27間に電位差が生じる。この電位差を検出することにより微粒子Pを検出し、さらに宇宙空間の広範囲にわたって微粒子Pを検出することにより、宇宙空間における微粒子Pの分布を計測できる。
また、多層断熱材16は、宇宙機1に断熱材が設けられる範囲にわたって搭載され、宇宙機1の外面のほとんどには断熱材が設けられるため、広いセンサ面積により微粒子Pの分布を計測できる。
【0038】
本実施形態の多層断熱材16は、宇宙機1の構体11に対応させて任意の大きさ、任意の形状、任意のチャンネル数に調節できる。さらに、多層断熱材16は、例えば質量面積比が0.5kg/m
2と、従来の検出装置に比べて非常に軽い。なお、この質量面積比には、ケーブル30,31、検出部41、及び診断部43の質量も含む。質量面積比が軽いため、通信衛星、キューブサット(小型人工衛星)等の種類によらず、多くの宇宙機に搭載可能である。
多層断熱材16を用いることにより、地球周回においては、あらゆる軌道・時期において、微小スペースデブリ等の微粒子Pの分布の同時・多地点計測が可能になる。深宇宙においても、限られた飛翔機会で費用対効果を最大化可能なクルージングサイエンスが可能になる。
【0039】
検出層19は、複数の層17のうち、積層方向Dの少なくとも一方の端には配置されていない。多層断熱材16を、検出層19が配置されていない積層方向Dの一方側の端が宇宙空間に露出するように宇宙機1に搭載する。宇宙機1の外面は、太陽の光Lにより例えば100℃以上という高温になる。しかし、検出層19よりも宇宙空間側に最外層フィルム18が配置されていることにより、検出層19の温度が最外層フィルム18の温度よりも低下し、例えば検出層19を、キュリー点を持つ圧電性樹脂により形成しても、検出層19が光Lによる熱に耐えられる。
検出層19は、複数の層17のうち、積層方向Dの一方側の端から2番目に配置されている。検出層19は、宇宙空間から多層断熱材16に向かって進み、検出層19よりも宇宙空間側に配置された最外層フィルム18を貫通して検出層19に衝突した微粒子Pを検出する。検出層19よりも宇宙空間側に配置された層17の数を最外層フィルム18の1つにしたため、最外層フィルム18を貫通した微粒子Pを検出層19で検出でき、検出層19による微粒子Pの検出感度を向上させられる。
【0040】
多層断熱材16がケーブル30,31を備えるため、検出層19の電極層26,27間に生じた電位差を、電線30a,31aを通して多層断熱材16の外部に容易に取出すことができる。
また、本実施形態の宇宙機1によれば、搭載する宇宙機1の質量の増加を抑え、広いセンサ面積により微粒子Pの分布を計測することができる多層断熱材16を用いて宇宙機1を構成できる。
【0041】
一般的に、微粒子の衝突により、多層断熱材は損傷し断熱性能が劣化する。しかし、この損傷量は、微粒子が衝突した宇宙機の部位・頻度・規模がわからなかったため、従来技術では評価できなかった。これに対して、本実施形態の損傷診断装置2によれば、診断部43により、検出部41の検出結果に基づいて構体11の損傷を診断できる。多層断熱材16を著しく損傷する微粒子Pの衝突した宇宙機の部位・頻度・規模を推定できるため、宇宙機1ごとの多層断熱材16の断熱性能の経時変化を把握できる。
また、本実施形態の微粒子Pの検出方法によれば、電極層26,27間の電位差が電位差閾値を超えたときに、多層断熱材16に微粒子Pが衝突したと判断できる。
【0042】
本実施形態の多層断熱材16及び検出層19は、以下に説明するようにその構成を様々に変形させることができる。
図4に示す検出層51のように、検出層19の各構成に加えて、第1保護フィルム52を備えてもよい。第1保護フィルム52は、第2保護フィルム28と同様に構成され、第2保護フィルム28と同様に第1電極層26に貼り付けられている。圧電フィルム25に対して積層方向Dの両側を保護フィルム28,52で挟むことにより、検出層51に微粒子Pが衝突したときに、電極層26,27が変形しにくくなる。従って、電極層26,27間を短絡し難くできる。
この検出層51の構成は、検出する微粒子Pの直径が数百μmを超える場合等に有効である。
【0043】
図5に示すように、多層断熱材56を、検出層57と、連結フィルム58と、中間層フィルム20と、を積層して構成してもよい。検出層57及び連結フィルム58のそれぞれは、層17である。
検出層57は、検出層19に対して第2保護フィルム28を備えないように構成されている。
連結フィルム58は、基材層60の両面に粘着層61,62を配置して構成されている。基材層60は、ポリイミド等で形成されている。粘着層61は、検出層57の第2電極層27に貼り付けられている。粘着層62は、中間層フィルム20に貼り付けられている。
連結フィルム58を用いて検出層57を中間層フィルム20に貼り付けることにより、例えば検出層57を針で縫うことにより電極層26,27が短絡することを防止できる。
【0044】
図6に示す多層断熱材66のように、本実施形態の多層断熱材16において、第1電極層26における前記外縁部の端部に第1ケーブル30の第1電線30aを接続し、第2電極層27における前記外縁部の端部に第2ケーブル31の第2電線31aを接続してもよい。なお、
図6では多層断熱材66を分解して示している。
このように構成することにより、中間層フィルム20、最内層フィルム21に貫通孔20a,21aを形成する必要がなくなる。
【0045】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、電極部である電極層26,27は、層状に形成され、圧電フィルム25の各面の全体にわたって配置されているとした。しかし、電極部は、圧電フィルム25の各面の一部のみに配置されていてもよい。この場合であっても、電極部は、電極層26,27のように薄く形成されていることが好ましい。
検出層19は、複数の層17のうち、積層方向Dの一方の端に配置されていてもよい。
多層断熱材16は間隔保持部材22、ケーブル30,31を備えなくてもよい。
【0046】
(実験結果)
次に、多層断熱材を用いた実験結果について説明する。被検出物をアルミナ製の球をとして、二段式軽ガス銃を用いて球を多層断熱材に向かって衝突させた。多層断熱材の大きさは、500mm×300mmである。球を衝突させた速度は、7km/secである。
図7に、球の直径が0.3mmの場合の実験結果を示す。
図8に、球の直径が1.2mmの場合の実験結果を示す。
図7及び
図8ともに、横軸は、実験を開始してからの時間(msec(ミリ秒))を表わす。縦軸は、検出部が検出した電位差の振幅(V(ボルト))を表わす。
【0047】
図7に示すように、球を衝突させる前(横軸で約1msecよりも前)は、電位差の振幅が約0Vであった。球が多層断熱材の検出層に衝突すると、検出部が検出する電位差の振幅が急激に増加することが分かった。球が衝突した後で一定時間経過すると、電位差の振幅は約0Vに減衰する。この後で、さらに別の球が衝突すると、再び前述のように電位差の振幅が急激に増加して減衰する。
図8に示すように球の直径が1.2mmの場合には、球の直径が0.3mmの場合に比べて、電位差の振幅が急激に増加することが分かった。