【課題】シミュレーションモデルを用いて、熱流体の解析ソフトによるガラスシートの移動方向の温度分布を計算せずに、容易にガラスシートの移動方向の温度分布を算出して、ガラスシートの温度を調整するガラスシートの製造方法の提供。
【解決手段】成形する工程と、成形したガラスシートGSを、冷却空間内を移動させつつ冷却する工程と、を備え、冷却空間には、ガラスシート移動経路に対向する位置に、熱をガラスシートに放射する放射源360a3が設けて、ガラスシートが放射源から放射熱を受けて形成され、冷却空間におけるガラスシートの移動方向の温度分布を、ガラスシートと放射源のモデルを用いて定式化した温度分布の解析式を用いた計算を行なって推定し、推定した温度分布を用いて、ガラスシートの移動方向における温度分布が所望の分布になるように冷却空間は調整される、ガラスシートの製造方法。
前記ガラスシートの温度は、前記放射源の前記ガラスシートからの離間距離及び前記放射源の発熱温度の少なくとも1つを用いて調整される、請求項1または2に記載のガラスシートの製造方法。
前記冷却空間には、それぞれ別べつに温度管理をした複数の分割空間が前記ガラスシートの移動方向に沿って設けられ、前記分割空間のそれぞれを順番に前記ガラスシートを移動させて冷却し、
前記分割空間の1つにおける出口における前記ガラスシートの推定温度を、前記ガラスシートの移動方向下流側に隣接する分割空間の入り口における前記ガラスシートの温度を初期条件として与えて、前記ガラスシートの移動方向の温度分布を、前記解析式を用いた計算を行って推定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラスシートの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記技術は、分割空間、ガラスシート、及び分割空間を囲む壁を、複数のメッシュ分割したシミュレーションモデルで徐冷装置を再現し、再現したシミュレーションモデルを用いて流体解析の計算を行なうため、シミュレーションモデルの作成に時間を費やし、容易に温度分布を取得することはできない。特に、徐冷装置の形状寸法(例えば、分割空間のガラスシートの移動方向の長さ)を変更する場合、作成のために多くの時間を費やすシミュレーションモデル全体を作成し直す必要が生じ、効率が悪い。
このため、徐冷装置を設計する場合に、予め簡易なモデルを用いて徐冷装置の形状寸法を概略決定した後、上記熱流体の解析ソフトを利用してシミュレーションモデルで詳細に検討を行うことが好ましい。
【0007】
本発明は、従来のように、徐冷装置を再現したシミュレーションモデルを用いて、熱流体の解析ソフトを利用してガラスシートの移動方向の温度分布を計算することなく、容易にガラスシートの移動方向の温度分布を算出して、ガラスシートの温度を調整することができる、ガラスシートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ガラスシートの製造方法である。当該製造方法は、
熔融ガラスからガラスシートを成形する工程と、
成形したガラスシートを、冷却空間内を移動させながら冷却する工程と、を備える。
前記冷却空間には、前記ガラスシート移動経路に対向する位置に、熱を前記ガラスシートに放射する放射源が設けられる。
前記ガラスシートが前記放射源から放射熱を受けて形成される、前記冷却空間における前記ガラスシートの移動方向の温度分布を、前記ガラスシートと前記放射源のモデルを用いて定式化した温度分布の解析式を用いた計算を行なって推定し、推定した前記温度分布を用いて、前記ガラスシートの前記移動方向における温度分布が所望の分布になるように前記冷却空間は調整されている。
【0009】
前記放射源は、前記ガラスシートの移動経路に平行に配置された放射板であり、
前記解析式は、下記式で表される微分方程式である、ことが好ましい。
Tは、前記冷却空間の前記ガラスシートの移動方向をZ方向として、前記冷却空間における入り口及び出口のZ方向における位置をz=0及びz=Hとして、前記冷却空間における位置zにおける前記ガラスシートの温度であり、
Dは、前記ガラスシートと前記放射板の間の離間距離であり、
Twは、前記放射板の加熱された温度であり、
σは、ステファンボルツマン定数であり、
ε
G及びε
Wは、前記ガラスシート及び前記放射板の放射率であり、
ρは、前記ガラスシートの密度であり、
Vは、前記ガラスシートの移動速度であり、
tは、前記ガラスシートの厚さであり、
Cpは、前記ガラスシートの単位質量当たりの定圧比熱である。
【0010】
前記ガラスシートの温度は、前記放射源の前記ガラスシートからの離間距離及び前記放射源の発熱温度の少なくとも1つを用いて調整される、ことが好ましい。
【0011】
前記冷却空間には、それぞれ別べつに温度管理をした複数の分割空間が前記ガラスシートの移動方向に沿って設けられ、前記分割空間のそれぞれを順番に前記ガラスシートを移動させて冷却し、
前記分割空間の1つにおける出口における前記ガラスシートの推定温度を、前記ガラスシートの移動方向下流側に隣接する分割空間の入り口における前記ガラスシートの温度を初期条件として与えて、前記ガラスシートの移動方向の温度分布を、前記解析式を用いた計算を行って推定する、ことが好ましい。
【0012】
前記ガラスシートを成形する工程は、オーバーフローダウンドロー法により行われる、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上述のガラスシートの製造方法によれば、従来のように、徐冷装置を再現したシミュレーションモデルを用いて、熱流体の解析ソフトを利用してガラスシートの移動方向の温度分布を計算することなく、容易にガラスシートの移動方向の温度分布を算出して、ガラスシートの温度を調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本実施形態のガラスシートの製造方法について説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係るガラスシートの製造方法の一部のフローチャートである。
以下、
図1を用いてガラスシートの製造方法について説明する。
ガラスシートは、
図1に示すように、熔解工程ST1と、清澄工程ST2と、均質化工程ST3と、成形工程ST4と、冷却工程ST5と、切断工程ST6とを含む種々の工程を経て製造される。以下、これらの工程について説明する。
【0017】
熔解工程ST1では、ガラス原料を加熱して熔解する。ガラス原料は、例えば、SiO
2、Al
2O
3等の組成からなる。完全に熔解したガラス原料は、熔融ガラスとなる。
清澄工程ST2では、熔融ガラスを清澄する。具体的には、熔融ガラス中に含まれるガス成分を熔融ガラスから放出する、或いは、熔融ガラス中に含まれるガス成分を熔融ガラス中に吸収する。
均質化工程ST3では、熔融ガラスを均質化する。なお、この工程では、清澄が済んだ熔融ガラスの温度調整を行う。
成形工程ST4では、ダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法)により熔融ガラスからガラスシートを成形する。
【0018】
冷却工程ST5では、成形工程ST4で成形されたガラスシートを、徐冷空間(冷却空間)内を移動させながら冷却する。当該冷却工程ST5において、ガラスシートは、室温近くまで冷却される。
切断工程ST6では、室温近くまで冷却されたガラスシートを、所定の長さ毎に切断する。
なお、所定の長さ毎に切断されたガラスシートは、その後、さらに切断されて、研削・研磨、洗浄、検査が行われて最終製品となり、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイに使用される。
【0019】
図2は、熔解装置200を主として示す模式図である。
図3は、ガラスシートの製造装置に含まれる成形装置300の概略の側面図である。
【0020】
ガラスシートの製造装置は、主として、熔解装置200(
図2を参照)と、成形装置300(
図3を参照)と、切断装置400(
図3参照)とを有する。
【0021】
熔解装置200は、熔解工程ST1、清澄工程ST2、及び、均質化工程ST3を行うための装置である。
熔解装置200は、
図2に示すように、熔解槽201、清澄槽202、攪拌槽203、第1配管204、及び、第2配管205を有する。
熔解槽201は、ガラス原料を熔解するための槽である。熔解槽201では、熔解工程ST1を行う。
【0022】
清澄槽202は、熔解槽201で熔解された熔融ガラスから泡を除去するための槽である。熔解槽201より送り込まれた熔融ガラスを、清澄槽202でさらに加熱することで、熔融ガラス中の気泡の脱泡が促進される。清澄槽202では、清澄工程ST2を行う。
攪拌槽203は、熔融ガラスを収容する容器と、回転軸と、当該回転軸に取り付けられた攪拌翼とを含む攪拌装置を有している。容器、回転軸、及び、攪拌翼としては、例えば、白金等の白金族元素又は白金族元素の合金製のものを用いることができるが、これに限られない。モータ等の駆動部(図示せず)の駆動によって回転軸が回転することによって、回転軸に取り付けられた攪拌翼が、熔融ガラスを攪拌する。攪拌槽203では、均質化工程ST3を行う。
第1配管204及び第2配管205は、例えば、白金族元素又は白金族元素の合金からなる配管である。第1配管204は、清澄槽202と攪拌槽203とを接続する配管である。第2配管205は、攪拌槽203と成形装置300とを接続する配管である。
【0023】
成形装置300は、成形工程ST4、及び、冷却工程ST5を行うための装置である。
成形装置300は、
図3に示すように、成形体310と、雰囲気仕切り部材320と、冷却ローラ330と、冷却ユニット340と、引っ張りローラ350a〜350eと、ヒータ360a〜360eとを有する。以下、これらの構成について説明する。
【0024】
成形体310は、成形工程ST4を行うための装置である。
成形体310は、
図3に示すように、成形装置300の上方部分に位置し、熔解装置200から流れてくる熔融ガラスを、オーバーフローダウンドロー法によりシート状のガラスシートGSに成形する機能を有する。成形体310は、垂直方向に切断した断面形状が楔形形状を有し、例えば、耐火レンガにより構成されている。
【0025】
成形体310には、熔解装置200から流れてくる熔融ガラスの流路方向の上流側に、成形体310に熔融ガラスを供給する供給口が形成されている。また、成形体310には、長手方向(
図3の紙面垂直方向)に沿って、上方に開放された溝部312が形成されている。溝部312は、熔融ガラスの流路方向の上流側から下流側に向かうにつれ、徐々に浅くなるように形成されている。
熔解装置200から成形装置300に向かって流れてくる熔融ガラスは、図示されない供給口を介して成形体310の溝部312に流れるようになっている。
成形体310の溝部312に流れた熔融ガラスは、当該溝部312の頂部においてオーバーフローし、成形体310の両側面313を沿って流下する。そして、成形体310の両側面313を沿って流下する熔融ガラスは、成形体310の下部314で合流してガラスシートGSとなる。
【0026】
図3に示すように、雰囲気仕切り部材320は、成形体310の下部314の近傍に配置される板状の部材である。
雰囲気仕切り部材320は、成形体310の下部314から流下していくガラスシートGSの厚み方向の両側に、略水平となるように配置されている。雰囲気仕切り部材320は、断熱材として機能する。すなわち、雰囲気仕切り部材320は、その上下の空間を仕切ることにより、雰囲気仕切り部材320の上側の空間から下側の空間への熱の移動を抑制している。成形装置300は、
図3に示されるように、雰囲気仕切り部材320より上方の空間である成形体収容部410と、雰囲気仕切り部材320直下の空間である成形ゾーン42aと、成形ゾーン42aの下方の空間である徐冷ゾーン420とを有する。徐冷ゾーン420は、複数の徐冷空間42b,42c,・・・,42fを有する。成形ゾーン42a、徐冷空間42b〜42fは、この順番で鉛直方向上方から下方に向かって直列に配置されている。炉壁により囲まれることにより、成形ゾーン42a、徐冷ゾーン420(徐冷空間42b〜42f)が形成され、この成形ゾーン42a、徐冷ゾーン420(徐冷空間42b〜42f)をガラスシートGSが移動する。
【0027】
断熱部材41は、徐冷ゾーン420において、後述する冷却ローラ330の下方、かつ、ガラスシートGSの厚み方向両側に配置される板状の断熱材である。断熱部材41、雰囲気仕切り部材320より下方の空間を仕切ることによって、成形ゾーン42aおよび徐冷空間42b〜42fを形成する。例えば、
図3に示されるように、断熱部材41は、成形ゾーン42aと徐冷空間42bとを形成する。また、断熱部材41は、徐冷空間42bと徐冷空間42cとを形成する。つまり、徐冷空間42b〜42fは、炉壁及び断熱部材41により囲まれることにより形成される。各断熱部材41は、上下の空間の間における熱移動を抑制する。例えば、断熱部材41は、成形ゾーン42aと徐冷空間42bとの間の熱移動を抑制し、また、断熱部材41は、徐冷空間42bと徐冷空間42cとの間の熱移動を抑制する。すなわち、徐冷空間42b〜42fは、それぞれ別べつに温度管理をした複数の分割空間である。これらの分割空間は、ガラスシートGSの移動方向に沿って設けられ、分割空間のそれぞれを順番にガラスシートGSは移動して徐冷される。
【0028】
冷却ローラ330は、雰囲気仕切り部材320の下方に配置されている。また、冷却ローラ330は、ガラスシートGSの厚み方向の両側に、且つ、その幅方向の両端部分に対向するように配置されている。冷却ローラ330は、内部に通された空冷管により空冷されている。よって、ガラスシートGSは、冷却ローラ330を通る際に、空冷された冷却ローラ330に接触するその厚み方向の両側部分且つその幅方向の両端部分が冷却される。冷却ローラ330は、冷却ローラ駆動モータ390(
図4を参照)による駆動力が伝達されることにより、ガラスシートGSを下方に引っ張る役割も有する。冷却ローラ330により、ガラスシートGSは、所定の厚さに引き伸ばされる。
【0029】
成形ゾーン42aには、冷却ユニット340が設けられている。この冷却ユニット340は、例えば、空冷式の冷却装置であり、冷却ローラ330及びその下方を通るガラスシートGSの雰囲気温度を冷却する。また、冷却ユニット340は、ガラスシートGSの幅方向に複数(例えば、3つ)及びその流れ方向に複数配置される。具体的には、冷却ユニット340は、ガラスシートGSの両端部の表面に対向するように、1つずつ配置され、且つ、両端部に挟まれた中央領域の表面に対向するように1つ配置されている。
【0030】
引っ張りローラ350a〜350eは、冷却ローラ330の下方に、ガラスシートGSの流れ方向に所定の間隔をもって配置される。また、引っ張りローラ350a〜350eは、それぞれ、ガラスシートGSの厚み方向の両側に、且つ、ガラスシートGSの幅方向の両端部分に対向するように、徐冷空間42b〜42f内に配置される。そして、引っ張りローラ350a〜350eは、冷却ローラ330によって粘度が所定値以上になったガラスシートGSの厚み方向の両端部分に接触しながら当該ガラスシートGSを下方に引っ張る。なお、引っ張りローラ350a〜350eは、引っ張りローラ駆動モータ391(
図4を参照)による駆動力が伝達されることにより駆動される。引っ張りローラ350a〜350eの周速度は、冷却ローラ330の周速度よりも大きい。引っ張りローラの周速度は、ガラスシートGSの流れ方向の下流側に配置されるにつれて大きくなる。すなわち、複数の引っ張りローラ350a〜350eにおいては、引っ張りローラ350aの周速度が最も小さく、引っ張りローラ350eの周速度が最も大きい。
【0031】
図3に示すように、冷却ユニット340及びヒータ(温度制御ユニット)360a〜360eは、成形ゾーン42aおよび徐冷空間42b〜42fにそれぞれ配置され、成形ゾーン42aおよび徐冷空間42b,42c,・・・,42fにおけるガラスシートGSの温度を制御する。ヒータ360a〜360eは、後述する制御装置500によってヒータ360a〜360eの出力が制御されることで、引っ張りローラ350a〜350eによって下方に牽引されるガラスシートGSの温度を制御する冷却装置として機能する。また、各ヒータ360a〜360eは、幅方向に複数(例えば、3つ、6つ等)に配置された発熱部を有する構成とすることができる。
ここでは、引っ張りローラ350a〜350eによって下方に牽引されるガラスシートGSの温度が、ヒータ360a〜360eの温度制御によって制御され、ガラスシートGSが粘性域から粘弾性域を経て弾性域へと推移する。
【0032】
また、ヒータ(温度制御ユニット)360a〜360eの近傍には、ガラスシートGSの各領域の雰囲気温度を検出する熱電対ユニット380(
図4参照)が、配置されている。熱電対ユニット380は、ヒータ360a〜360eが発熱することにより、変化する徐冷空間42b〜42fの雰囲気温度を測定する。制御装置500は、熱電対ユニット380が測定した雰囲気温度を取得し、取得した雰囲気温度に基づいて、ヒータ360a〜360eからの発熱量を制御する。あるいは、ヒータ360a〜360eとガラスシートGSの間に設けられ、ヒータ360a〜360eによって加熱されてガラスシートGSに均一に熱を放射する放射板の、ガラスシートGSの間の離間距離を制御する。すなわち、徐冷空間42b,42c,・・・,42fにおけるガラスシートGSの温度を制御するために、ヒータ360a〜360eの発熱量及び放射板とガラスシートGSとの離間距離のいずれか一方が、ヒータ360a〜360eの計測結果に応じて制御される。
【0033】
このように、成形体310の下部314以下の領域である成形ゾーン42aおよび徐冷空間42b〜42fにおいて、冷却ローラ330、成形ゾーン42aに設けられた冷却ユニット、ヒータ360a〜360e(発熱部361a〜366a)によってガラスシートGSが冷却されていく工程が冷却工程ST5である。
【0034】
切断装置400では、切断工程ST6を行う。切断装置400は、成形装置300において流下するガラスシートGSを、その長手面に対して垂直な方向から切断する装置である。これにより、シート状のガラスシートGSは、所定の長さを有する複数のガラスシートGSとなる。切断装置400は、切断装置駆動モータ392(
図4を参照)によって駆動される。
【0035】
図4は、制御装置500の制御ブロック図である。
制御装置500は、CPU、ROM、RAM、ハードディスク等から構成されるコンピュータであり、ガラスシートの製造装置100に含まれる種々の機器の制御を行う制御部として機能する。
制御装置500は、
図4に示すように、ガラスシートの製造装置に含まれる各種のセンサ(例えば、熱電対ユニット380等)やスイッチ(例えば、主電源スイッチ381等)等による信号、入力装置(図示せず)等を介した作業者からの入力信号を受けて、冷却ユニット340、ヒータ360a〜360e、冷却ローラ330の動作を制御する冷却ローラ駆動モータ390、引っ張りローラ350a〜350eの動作を制御する引っ張りローラ駆動モータ391、切断装置400の動作を制御する切断装置駆動モータ392、放射板移動モータ393等の制御を行う。
【0036】
制御装置500は、特に、後述するように、冷却ゾーン42aあるいは徐冷空間42b〜42fにおけるガラスシートGSが放射板等の放射源から放射熱を受けて形成される、ガラスシートGSの移動方向の温度分布を、ガラスシートGSと放射源のモデルを用いて定式化した温度分布の解析式を用いた計算を行なって推定する。制御装置500は、この推定した温度分布を用いて、ガラスシートGSの移動方向における温度分布が所望の分布になるように冷却ゾーン42aあるいは徐冷空間42b〜42fを調整する。
具体的には、制御装置550におけるガラスシートGSの温度分布の推定は、熱電対ユニット380の特定の位置における計測結果を用いて、解析式からガラスシートGSの移動方向の温度分布を計算する。ここで、熱電対ユニット380が計測する温度は、上記解析式における境界条件として用いられる。熱電対ユニット380が計測する特定の位置の温度は、例えば、冷却ゾーン42aや徐冷空間42b〜42eの入口におけるガラスシートGS近傍の温度であることが好ましい。この温度の計測結果から、ガラスシートGSの入口におけるガラスシートGSの温度を求め、この入口におけるガラスシートGSの温度を用いて、冷却ゾーン42aあるいは徐冷空間42a〜42eにおけるガラスシートGSの移動方向の温度分布を推定する。
【0037】
図5(a)は、ヒータ360aとガラスシートGSの位置を説明する図である。
図5(a)に示すように、2つの断熱部材41の間に形成される徐冷空間42bには、ガラスシートGSに対向するように、放射板360a3が設けられている。
図5(a)では、ガラスシートSGの一方の面の側の放射板360a3及びヒータ360aが示されているが、ガラスシートSGの両側に、放射板360a3及びヒータ360aが設けられている。放射板360a3は、放射板移動モータ393による信号を受けて、ガラスシートGSに対して近づくようにあるいは遠ざかるように、ガラスシートGSから放射板360a3までの離間距離が調整される。ヒータ360aは、ガラスシートGSの移動方向の2箇所に熱源360a1、360a2が設けられ、熱源360a1、360a2は、放射板360a3が均等な温度分布になるように放射板360a3を加熱するように構成されている。
【0038】
ガラスシートGSは、
図5(a)において上から下の方向に向けて移動する。この移動方向をZ方向とし、Z方向の位置をzで表す。
図5(a)では、
図5(a)の上側の断熱板41の高さ方向の位置をz=0とする。このz=0の位置が、徐冷空間42bの入口の位置となる。一方、
図5(a)に示す下側の断熱板41の位置が、ガラスシートGSの出口の位置となり、
図5(a)では、z=Hとなっている。Hは、徐冷空間42bのガラスシートGSの移動方向の長さである。
一方、放射板360a3は、ガラスシートGSの面と平行に配置され、放射板360a3とガラスシートGSの離間距離はDである。
放射板360a3の加熱された温度をTwとし、下記解析式を用いて算出される、ガラスシートGSの移動方向(Z方向)における温度分布をT(z)とする。
【0039】
図5(a)に示すような放射板360a3及びガラスシートGSの配置において、ガラスシートGSの温度分布が、放射板360a3の放射熱を受けてできるものと想定したとき、温度分布T(z)を求める解析式は、下記式で表される微分方程式である。
ここで、Tは、ガラスシートGSの温度分布T(z)である。
また、σは、ステファンボルツマン定数であり、ε
G及びε
Wは、ガラスシートGS及び放射板360a3の放射率であり、ρは、ガラスシートGSの密度であり、Vは、ガラスシートGSの移動速度であり、tは、ガラスシートGSの厚さであり、Cpは、ガラスシートGSの単位質量当たりの定圧比熱である。また、Hは、徐冷空間のZ方向の長さである。
【0040】
このような解析式は、ステファン=ボルツマンの法則に基づく熱放射と、ガラスシートGSの各位置における放射板360a3を見込む形態係数F
G→Wを用いて定めることができる。
図5(b)は、熱放射における形態係数を説明する図である。
形態係数F
G→Wは、位置zにおいて、放射板360a3を見込む角度は、φ1(φ1<0)〜φ2(0<φ2)であるので、形態係数F
G→Wは、1/2・cosφを被積分関数として、積分範囲をφ1〜φ2とした積分結果である。したがって、形態係数F
G→Wは、1/2・(sinφ2−sinφ1)である。
【0041】
一方、ガラスシートGSの微小部分dzが受ける熱量dQは、ステファン=ボルツマンの法則を用いて、dQ=fs・σ・(T
w4−T(z)
4)dzと表される。
ここで、放射係数fs=F
G→W・ε
G・ε
W/{1−F
G→W・F
W→G・(1−ε
G)・(1−ε
W)}である。F
W→Gは、放射板360a3からガラスシートGSを見込んだ形態係数であり、F
W→G=dz/H・F
G→Wであるので、放射係数fs≒F
G→W・ε
G・ε
Wである。
一方、dQは、ガラスシートGSに温度変化dTを与え、dQ=ρ・V・t・Cp・dTと表すことができる。
以上より、dQ=ρ・V・t・Cp・dTと、dQ=F
G→W・ε
G・ε
W・σ・(T
w4−T(z)
4)dzを纏めることにより、下記解析式で表すことができる。形態係数F
G→Wのsinφ1及びsinφ2は、sinφ1=−z/(z
2+D
2)
(1/2)であり、sinφ2=(H−z)/{(H−z)
2+D
2}
(1/2)である。
【0043】
上記解析式は、ガラスシートGSの温度Tがzの関数で表される微分方程式であり、上記微分方程式は、解析解を得ることはできないが、数値解を得ることができる。この数値解である温度分布T(z)に基づいてガラスシートGSの温度分布を推定することができる。
このとき、上記微分方程式は、1次の微分方程式であるので、初期条件を入力する必要がある。本実施形態では、z=0、すなわち、徐冷空間42bの入口における熱電対ユニット380の計測温度を、入口におけるガラスシートGSの温度とし、この温度を1次の微分方程式の初期条件として与える。この場合、熱電対ユニット380は、ガラスシートGSに対して可能な限り近い断熱部材41の部分に設けられることが、温度の計測結果を小さい誤差でガラスシートGSの温度と見なすことができる点から好ましい。
図6は、解析式から算出されるガラスシートGSの温度分布T(z)の一例を示す図である。
図6では、H=600mmとし、入口におけるガラスシートGSの温度(初期条件)を1100℃としている。
【0044】
制御装置500は、解析式を算出して得た温度分布T(z)をガラスシートGSの温度分布としてを推定するが、この推定結果において、例えば、徐冷空間360aの中間の位置(例えば、z=100〜500mmの範囲)における温度が所望の温度に対してずれていた場合、制御装置500は、温度分布が目標とする温度分布になるように調整をする。温度分布T(z)に影響を与える調整可能なパラメータは、放射板360a3の温度Tw及び離間距離Dの他に、ガラスシートVの移動速度、及び、徐冷空間360aのガラスシートGSの移動方向の長さHを含むが、熱源360a1,360a2の発熱量を調整し、あるいは、離間距離Dを調整することが好ましい。これらの調整により、徐冷空間42bにおける入口や出口におけるガラスシートGSの温度が略同じであっても、中間の位置におけるガラスシートGSの温度を調整することができる。このように、制御装置500は、徐冷空間360aにおける入口及び出口の間の中間の位置におけるガラスシートGSの温度を調整することができるので、ガラスシートGSの反り及び歪(残留応力)の低減に寄与する。
また、本実施形態では、熱流体の解析ソフトを利用してガラスシートの移動方向の温度分布を計算せず、上述の解析式(微分方程式)を用いるので、ガラスシートGSの温度分布を、解析式から計算した温度分布T(z)から容易に推定することができる。
【0045】
上述したように、ガラスシートGSの温度分布の調整は、上述した複数の調整パラメータにより可能であるが、その中でも、放射板360a3のような放射源のガラスシートGSからの離間距離D、及び放射源の発熱温度、すなわち温度T
wの少なくとも1つを用いて調整されることが、ガラスシートGSの温度分布の徐冷空間の入口と出口の間の中間の位置における温度を調整する上で好ましい。
【0046】
冷却空間である冷却ゾーン42a及び徐冷空間42b〜42fの1つにおける出口におけるガラスシートGSの推定温度を、ガラスシートGSの移動方向下流側に隣接する徐冷空間の入口におけるガラスシートGSの温度を初期条件として与えて、ガラスシートGSの移動方向の温度分布を、上述の解析式を用いた計算を行って推定する、ことが好ましい。これにより、
図3に示すように、冷却ゾーン42a、徐冷空間42b〜42fがガラスシートGSの移動方向に連続して直列に配置されている場合、徐冷ゾーン42aの入口におけるガラスシートGSの温度を初期条件として設定するだけで、冷却ゾーン42a、徐冷空間42b〜42fにおける温度分布T(z)から、ガラスシートGSの移動方向における温度分布を推定することができ、演算効率がよい。
このようなガラスシートGSの温度の推定は、ガラスシートGSを移動しながら反りや歪を抑制しながら冷却するオーバーフローダウンドロー法により行われる徐冷工程において適している。
【0047】
なお、上述の実施形態では、上述の解析式を用いて計算された温度分布T(z)を、ガラスシートGSの推定された温度分布そのものとして用いるが、必要に応じて、温度分布T(z)に補正を加えたものを、ガラスシートGSの移動方向の推定した温度分布としてもよい。補正方法として、熱流体の解析ソフトを利用したガラスシートの移動方向の温度分布のシミュレーション結果と、同じ状態及び条件におけるガラスシートGSの解析式を用いて計算した温度分布T(z)の計算結果とのずれを予め求めて、温度分布T(z)の計算結果をシミュレーション結果に補正できる補正式を確立しておき、この補正式を用いて、解析式の計算結果を補正するとよい。
【0048】
また、上述の解析式が微分方程式である場合、上記実施形態では、ガラスシートGSの温度分布を算出する際、初期条件(境界条件)として徐冷空間の入口におけるガラスシートGSの温度の計測結果を用いたが、熱電対ユニット380による計測結果の温度を予め定めた補正式に基づいて補正して、ガラスシートSGの入口における温度として用いてもよい。また、初期条件(境界条件)として用いるガラスシートSGの温度は、入口における温度には限定されず、出口における温度でもよいし、特定された中間の位置における温度であってもよい。
【0049】
また、本実施形態では、予め配置された徐冷装置300のガラスシートの製造オペレーション中の熱電対ユニット380による温度の計測結果に応じて、徐冷空間の調整を行うが、装置の設計段階において、設計した徐冷装置300が適切に稼動してガラスシートGSの温度が目標とする温度になるか否かを検討するときに、ガラスシートGSの移動方向の温度分布の推定を利用することができる。
例えば、
図5(a)に示す徐冷空間360aにおける長さHのような、設計段階で決定すべき形状寸法を適正化する検討を行う場合、徐冷空間におけるガラスシートGSの移動方向の温度分布を計算して、計算した温度分布が、目標とする温度分布に近いか否かを判断することができる。この後、決定した形状寸法を用いたシミュレーションモデルを用いて、熱流体の解析ソフトを利用して詳細解析により、徐冷空間を調整することができ、効率のよい徐冷装置300の開発を効率よく行う点から好ましい。
【0050】
本実施形態では、ガラスシートGSに熱を与える放射源として放射板を用いるが、放射板に限定されず、ヒータ等を用いることができる。この場合、ヒータが面状に均一に熱放射をする場合、上述の形態係数F
G→Wは、1/2・(sinφ2−sinφ1)が用いられる。しかし、点状のヒータを用いる場合、上述の形態係数F
G→Wは、1/2・(sinφ2−sinφ1)とは異なり、点状の放射源として定式化される。
【0051】
以上、本発明のガラスシートの製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。