【実施例】
【0026】
本発明のACE阻害化合物について,実験例を用いてさらに説明を行う。
【0027】
<<エラスチン由来のオリゴペプチドによるACE阻害試験>>
<実験概要>
ACE活性試験は,Nakanoらの方法(Nakano et al, Biosci. Biotechnol. Biochem., 70, 1118-1126 (2006))の方法に基づき,基質(Hippuryl-His-Leu)からACEにより分解されるジペプチドをオルトフタルアルデヒドにより蛍光化した後,反応物の蛍光強度を測定することで実施した。ACE活性阻害は試験溶液を加えない未処置溶液(コントロール:C)の活性を100%とした場合の相対活性をもとに評価した。
【0028】
<実験方法>
化合物を0.1M HEPES緩衝液(pH8.3)にて終濃度が80μM及び320μMになるように濃度調製し,試験溶液(試験サンプル:S)とした。0.1M HEPES緩衝液(pH8.3)(未処置溶液)または試験溶液を96穴マイクロプレートに25μl加え,20mU/ml ACE溶液を25μl加えて37℃で5分間インキュベートした。8mM Hippuryl-His-Leu溶液を25μl加え,37℃で30分間反応した。その後,0.1M水酸化ナトリウム溶液を25μl加えて反応停止し,1%オルトフタルアルデヒド溶液を25μl加え,室温で20分間放置した。さらに,0.1M塩酸を25μl入れて室温で10分間放置し,マイクロプレートリーダーで蛍光強度(励起波長:355nm,蛍光波長:460nm)を測定した。なおブランク(B)は20mU/ml ACEの代わりにPBSを用いて同様に試験した。
【0029】
以下の算出式を基に,ACE阻害率(%)を算出した。
ACE活性(%)=(S蛍光強度) − (SB蛍光強度) / (C蛍光強度) − CB蛍光強度)x100
ACE阻害率(%)= 100 − ACE活性(%)
S : 試験サンプル, SB : 試験サンプルブランク, C : コントロール, CB : コントロールブランク
【0030】
各試験サンプルについては下記の由来である。
図1にブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンの全アミノ酸配列(シグナルペプチド26残基が除かれた1番目のGly残基から744番目のLys残基までの配列,配列番号1)を示す。なお,シグナルペプチドを含む
図1の配列全体は,配列番号9として示す。
【0031】
1.化合物番号1〜18については下記の由来である。
(1) 化合物番号1から10については,ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の492番目のVal残基から515番目のGly残基のVAPGVG繰り返し配列(VAPGVGVAPGVGVAPGVGVAPGVG)由来に含まれる。
(2) 化合物番号11については,ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の249番目のGly残基から251番目のPro残基,283番目のGly残基から285番目のPro残基,306番目のGly残基から308番目のPro残基,468番目のGly残基から470番目のPro残基,531番目のGly残基から533番目のPro残基由来のGAP配列である。
(3) 化合物番号12については,ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の370番目のVal残基から372番目のPro残基,659番目のVal残基から661番目のPro残基由来のVSP配列である。
(4) 化合物番号13については,ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の421番目のLeu残基から423番目のPro残基,698番目のLeu残基から700番目のPro残基由来のLSP配列である。
(5) 化合物番号14については,ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の21番目のGly残基から23番目のGly残基,24番目のGly残基から26番目のGly残基,48番目のGly残基から50番目のGly残基,52番目のGly残基から54番目のGly残基,86番目のGly残基から88番目のGly残基,95番目のGly残基から97番目のGly残基,485番目のGly残基から487番目のGly残基,641番目のGly残基から643番目のGly残基,646番目のGly残基から648番目のGly残基,674番目のGly残基から676番目のGly残基,699番目のGly残基から671番目のGly残基由来のGLG配列である。
(6) 化合物番号15については,ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の213番目のGly残基から215番目のGly残基,311番目のGly残基から313番目のGly残基,487番目のGly残基から489番目のGly残基,523番目のGly残基から525番目のGly残基由来のGPG配列である。
(7) 化合物番号16については,ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の586番目のGly残基から588番目のLeu残基由来のGPL配列である。
(8) 化合物番号17については,ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の682番目のThr残基から684番目のPro残基由来のTRP配列である。
(9) 化合物番号18については,ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の692番目のPro残基から694番目のPro残基由来のPRP配列である。
【0032】
2.化合物番号19〜28については下記の由来である。
(1) ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の72番目のAsp残基から81番目のAla残基間の配列に,化合物番号19,20,21,24及び26の化合物配列が含まれる。
(2) ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の234番目のGln残基から246番目のAla残基間の配列に,化合物番号19,20,21,24及び25の化合物配列が含まれる。
(3) ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の285番目のPro残基から295番目のAla残基間の配列に,化合物番号19,20,21,24及び27の化合物配列が含まれる。
(4) ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の372番目のPro残基から383番目のAla残基間の配列に,化合物番号19,20,21,24及び27の化合物配列が含まれる。
(5) ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の423番目のPro残基から434番目のAla残基間の配列に,化合物番号19,20,21,24,25及び27の化合物配列が含まれる。
(6) ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の471番目のPro残基から482番目のAla残基間の配列に,化合物番号19,20,21,24及び27の化合物配列が含まれる。
(7) ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の533番目のPro残基から544番目のAla残基間の配列に,化合物番号20,21,23,24及び27の化合物配列が含まれる。
(8) ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の588番目のLeu残基から594番目のAla残基間の配列に,化合物番号20,21,22及び24の化合物配列が含まれる。
(9) ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の622番目のPro残基から632番目のAla残基間の配列に,化合物番号20,21,24及び27の化合物配列が含まれる。
(10) ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の661番目のPro残基から668番目のAla残基間の配列に,化合物番号19,20,21,24及び27の化合物配列が含まれる。
(11) 化合物番号28については,ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の218番目のGly残基から220番目のAla残基,298番目のGly残基から300番目のAla残基,418番目のGly残基から420番目のAla残基,437番目のGly残基から439番目のAla残基,597番目のGly 残基から599番目のAla残基,671番目のGly残基から673番目のAla残基由来のGAA配列である。
【0033】
<実験結果>
1.結果を
図2及び3に示す。
(1) 検討を行った化合物番号1から28の全てにおいてACE阻害効果を有する化合物であることが分かった。化合物の濃度が80μMのときのACE阻害率は1〜99%を示し,化合物の濃度が320μMのときのACE阻害率は12〜99%を示した。
(2) 特に,化合物番号6,12,13,16,17及び22においては,いずれも100%近いACE阻害効果を示し,また分子量はいずれも400に満たないものであることから,ACE阻害能を有する比較的小さい分子量の化合物であることが分かった。
【0034】
2.これらの結果より,下記が考えられる。
(1) 化合物番号4のVAPGVG,化合物番号1のVAPGVGVAPGVG(VAPGVGの2回繰り返し)のいずれもACE阻害活性を示すことから,ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の492番目のVal残基から515番目のGly残基のVAPGVG繰り返し配列中にあるVAPGVGVAPGVGVAPGVG (VAPGVGの3回繰り返し:分子量1460)及びVAPGVGVAPGVGVAPGVGVAPGVG (VAPGVGの4回繰り返し:分子量1940)もACE阻害活性を有することが推認された。
【0035】
(2) 化合物番号19〜21のAAAA(Aの4回繰り返し),AAA(Aの3回繰り返し),AA(Aの2回繰り返し)のいずれもACE阻害活性を示すことから,ブタ由来のエラスチン前駆体であるトロポエラスチンのアミノ酸残基の234番目のGln残基から246番目のAla残基間に含まれるAAAAAAAA(Aの8回繰り返し),285番目のPro残基から295番目のAla残基間に含まれるAAAAAAA(Aの7回繰り返し),471番目のPro残基から482番目のAla残基間に含まれるAAAAA (Aの5回繰り返し)などAの5回から8回繰り返しのペプチドもACE阻害活性を有することが推認された。
【0036】
(3) 化合物番号6のVAPが100%近いACE阻害効果を有し,そのVAPのVがGに置き換わっている化合物番号11のGAP,そのVAPのAがSに置き換わっている化合物番号12のVSP,そのVAPのVと AがそれぞれLとSに置き換わっている化合物番号13のLSP,そのVAPのVと AがそれぞれTとRに置き換わっている化合物番号17のTRP,そのVAPのVと AがそれぞれPとRに置き換わっている化合物番号18のPRPのいずれも高いACE阻害効果を示していることより,VAPのVをXに,AをZに置き換えたX
1X
2P(X
1又はX
2=I, C, M, D, N, E, Q, H, K, F, Y, W)もACE阻害活性を有することが推認された。
【0037】
(4) 化合物番号10,14,15及び16のそれぞれのGVG,GLG(GVGのVがLに置き換わったもの),GPG(GVGのVがPに置き換わったもの)及びGPL(GVGのVとGがそれぞれPとLに置き換わったもの)がACE阻害活性を示していることより,GVGのVをX
3に,GをX
4に置き換えたG X
3X
4(X
3又はX
4=A, I, S, T, C, M, D, N, E, Q, H, K, R, F, Y, W)もACE阻害活性を有することが推認された。
【0038】
(5) 化合物番号20,22,23,24,25,26,27及び28のそれぞれのAAA, LAA(AAAのAがLに置き換わったもの), SAA(AAAのAがSに置き換わったもの), KAA(AAAのAがKに置き換わったもの), QAA(AAAのAがQに置き換わったもの), DAA(AAAのAがDに置き換わったもの), PAA(AAAのAがPに置き換わったもの), GAA(AAAのAがGに置き換わったもの)がACE阻害活性を示すことより,AAAのAをX
5に置き換えたX
5AA(X
5=V, I, T, C, M, N, E, H, R, F, Y, W)もACE阻害活性を示すことが推認された。