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特開2019-113423接触燃焼式水素ガスセンサ及びそれを備えた車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-113423(P2019-113423A)
(43)【公開日】2019年7月11日
(54)【発明の名称】接触燃焼式水素ガスセンサ及びそれを備えた車両
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/16 20060101AFI20190621BHJP
【FI】
   G01N27/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-247079(P2017-247079)
(22)【出願日】2017年12月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 洋
(72)【発明者】
【氏名】杠 泰成
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
(72)【発明者】
【氏名】一色 義基
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA02
2G060AB03
2G060AE19
2G060BA03
2G060BB03
2G060BB04
2G060BB16
2G060BB18
2G060BD03
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】所望の起動時間、応答時間及びシリコーン被毒耐性を有する接触燃焼式水素ガスセンサを提供する。
【解決手段】水素ガスを検知する接触燃焼式水素ガスセンサ100において、コイル状で所定のコイル径Dc、コイル長及び線径の貴金属線11と前記貴金属線11を覆う略球状で所定の素子径Dsの担体部12とを有する検知素子1を備え、前記担体部12は、触媒担体に貴金属触媒を担持して構成され、前記担体部12の所定の素子径Dsが0.2〜0.6mmであり、前記担体部12の所定の素子径Ds/前記貴金属線11のコイル径Dcが1.4〜2.0である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを検知する接触燃焼式水素ガスセンサにおいて、
コイル状で所定のコイル径、コイル長及び線径の貴金属線と前記貴金属線を覆う略球状で所定の球径の担体部とを有する検知素子を備え、
前記担体部は、触媒担体に貴金属触媒を担持して構成され、
前記担体部の所定の球径が0.2〜0.6mmであり、
前記担体部の所定の球径/前記貴金属線のコイル径が1.4〜2.0である接触燃焼式水素ガスセンサ。
【請求項2】
前記貴金属線のコイル径/前記貴金属線のコイル長が0.8〜1.1である請求項1に記載の接触燃焼式水素ガスセンサ。
【請求項3】
前記貴金属線のコイル径/前記貴金属線の線径が12〜30である請求項1または請求項2の接触燃焼式水素ガスセンサ。
【請求項4】
動作時の素子温度が280〜350℃に設定される請求項1〜3の何れか一項に記載の接触燃焼式水素ガスセンサ。
【請求項5】
前記担体部は、アルミナを焼結して形成され、平均粒子径が300〜800nmである請求項1〜4の何れか一項に記載の接触燃焼式水素ガスセンサ。
【請求項6】
前記担体部における前記貴金属触媒の担持量が10〜30wt%である請求項1〜5の何れか一項に記載の接触燃焼式水素ガスセンサ。
【請求項7】
燃料電池を搭載した車両であって、
請求項1〜6の何れか一項に記載の接触燃焼式水素ガスセンサを備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスを検知する接触燃焼式水素ガスセンサ及びそれを備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、焼結体のガス感応部を有するガスセンサとしては、接触燃焼式ガスセンサ、半導体式ガスセンサ、固体電解質式ガスセンサ等が知られている。
【0003】
例えば、接触燃焼式ガスセンサは、検知対象となる可燃性ガスに対して燃焼反応する検知素子と燃焼反応しない補償素子の2つの素子を有しているものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
次に、接触燃焼式ガスセンサにより可燃性ガスの濃度を検知する一般的な原理を説明する。接触燃焼式ガスセンサの検知素子は、白金等の貴金属線と、当該貴金属線を覆う、白金等の貴金属触媒を担持したアルミナ等の金属酸化物焼結体からなるガス感応部(燃焼触媒部)とで構成される。この検知素子を所定温度に加熱しておき、ガス感応部において検知対象となる可燃性ガスを貴金属触媒と接触・燃焼させることで、燃焼の際に生じる温度変化を貴金属線の抵抗値の変化として検出する。一方、補償素子は、検知素子のように貴金属触媒を担持しないが、その他の構成は検知素子と同様に構成される。つまり、補償素子は、白金等の貴金属線と、当該貴金属線を覆う、貴金属触媒を担持していないアルミナ等の金属酸化物焼結体とで構成される。補償素子上では貴金属触媒を担持していないので可燃性ガスの燃焼が起こらず、その貴金属線の抵抗値は変化しない。可燃性ガスの燃焼熱は可燃性ガスの濃度に比例し、貴金属線の抵抗値は燃焼熱に比例するため、可燃性ガスの燃焼による貴金属線の抵抗の変化値を測定することによって可燃性ガスの濃度を測定することができる。このため、検知素子と補償素子とを2辺としたブリッジ回路に電圧の差が生じる。この電圧の差は、可燃性ガスの爆発下限界までは、ガス濃度に比例した出力として検出される。
【0005】
このような接触燃焼式ガスセンサは、例えば、燃料電池システムからの水素ガスの漏れを検知する水素ガスセンサ(水素ディテクタ)として、圧縮水素ガスを燃料とする燃料電池自動車(以下、FCVという)に搭載されている。水素ガスを検知する方式(センサ)にはいくつかあるが、FCVの安全基準を満たすために、0〜4vol%の水素ガスを検知することが求められる車載用の水素ガスセンサとしては、接触燃焼式ガスセンサが適している。
【0006】
FCVは、ユーザーが燃料電池システムを起動させようと操作すると、まず水素ガスセンサが起動して水素の濃度を検知し、水素の漏れがないことを確認した後、燃料電池システムが起動する。このため、FCVに接触燃焼式ガスセンサを搭載する場合、水素ガスセンサは、起動してから水素を検知可能になるまでの時間、すなわち起動時間及び応答時間が所定値以下である性能が求められる。また、道路の舗装に用いるアスファルトやシリコーン製品から環境雰囲気に放出される環境物質である環状シロキサンは、水素ガスセンサの感度に影響を与えることが知られている。具体的には、接触燃焼式の水素ガスセンサは高温で動作するため、触媒表面で環状シロキサンが酸化される。この結果、シリコン酸化物が表面に付着して水素に対する触媒の活性サイトを覆ってしまい、水素に対する触媒作用が失われるメカニズムが考えられている。そのため、所望のシリコーン被毒耐性を有する接触燃焼式水素ガスセンサが求められる。具体的には、水素ガス共存下においてシロキサンが暴露された際においてもセンサの感度変化率が低く抑えられる接触燃焼式ガスセンサが求められる。
【0007】
例えば、特許文献1に記載の接触燃焼式ガスセンサの場合、白金線(ヒーターコイル)による発熱が触媒層全体に伝導するとともに触媒層が外気と触れているところでは放熱が起こる。このような接触燃焼式ガスセンサの発熱と放熱のバランスが平衡になった時点でガスを検知可能な安定状態となる。そのため、上述した起動時間、応答時間及びシリコーン被毒耐性等の要求性能を満たすためには、例えば、検知ガスが水素である場合は、水素の燃焼による燃焼熱、接触燃焼式ガスセンサが有する発熱及び放熱に寄与する様々なパラメータを検討する必要がある。すなわち、当該パラメータとセンサの性能との関係を調べて、所望の起動時間、応答時間及びシリコーン被毒耐性などの要求性能を満足するように構成された接触燃焼式水素ガスセンサが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4559894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、所望の起動時間、応答時間及びシリコーン被毒耐性を有する接触燃焼式水素ガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、本発明の接触燃焼式水素ガスセンサは、水素ガスを検知する接触燃焼式水素ガスセンサにおいて、コイル状で所定のコイル径、コイル長及び線径の貴金属線と前記貴金属線を覆う略球状で所定の球径の担体部とを有する検知素子を備え、前記担体部は、触媒担体に貴金属触媒を担持して構成され、前記担体部の所定の球径が0.2〜0.6mmであり、前記担体部の所定の球径/前記貴金属線のコイル径が1.4〜2.0であるものである。
【0012】
また、本発明の接触燃焼式水素ガスセンサは、前記貴金属線のコイル径/前記貴金属線のコイル長が0.8〜1.1であるものである。
【0013】
また、本発明の接触燃焼式水素ガスセンサは、前記貴金属線のコイル径/前記貴金属線の線径が12〜30であるものである。
【0014】
また、本発明の接触燃焼式水素ガスセンサは、動作時の素子温度が280〜350℃に設定されるものである。
【0015】
また、本発明の接触燃焼式水素ガスセンサは、前記担体部は、アルミナを焼結して形成され、平均粒子径が300〜800nmであるものである。
【0016】
また、本発明の接触燃焼式水素ガスセンサは、前記担体部における前記貴金属触媒の担持量が10〜30wt%であるものである。
【0017】
また、本発明の車両は、燃料電池を搭載した車両であって、上記接触燃焼式水素ガスセンサを備えるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、所望の起動時間、応答時間及びシリコーン被毒耐性を有する接触燃焼式水素ガスセンサを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るブリッジ回路を有する接触燃焼式水素ガスセンサを示す概略図。
図2】検知素子の構成を示す模式図。
図3】補償素子の構成を示す模式図。
図4】検知素子の構成を示す部分断面側面図。
図5】素子径及び線径が同じでその他の作製条件の異なる検知素子を比較するための図であり、(a)は部分断面側面図、(b)は部分断面上面図。
図6】検知素子の担持部から貴金属線が外部にはみ出した条件を示す図であり、(a)は部分断面側面図、(b)は部分断面上面図。
図7】各Ds/Dcの条件で作製された接触燃焼式水素ガスセンサの起動時間を比較したグラフ。
図8】各Ds/Dcの条件で作製された接触燃焼式水素ガスセンサの応答時間を比較したグラフ。
図9】各Ds/Dcの条件で作製された接触燃焼式水素ガスセンサの起動時間を比較したグラフ。
図10】各Ds/Dcの条件で作製された接触燃焼式水素ガスセンサの応答時間を比較したグラフ。
図11】各Ds/Dcの条件で作製された接触燃焼式水素ガスセンサの起動時間を比較したグラフ。
図12】各Ds/Dcの条件で作製された接触燃焼式水素ガスセンサの応答時間を比較したグラフ。
図13】各種条件で作製された接触燃焼式水素ガスセンサのシリコーン被毒耐性を比較したグラフ。
図14】接触燃焼式水素ガスセンサの水素に対するセンサ出力とアルミナ比表面積の関係を示すグラフ。
図15】焼成条件が異なるアルミナ粒子を示す写真であり、各焼成条件が(a)は1100℃−10h、(b)は1200℃−10h、(c)は1300℃−10h、(d)は1500℃−10h。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の一実施形態である接触燃焼式水素ガスセンサ100について図を参照しながら説明する。
【0021】
接触燃焼式水素ガスセンサ100は、図1に示すように、被検知ガスである水素ガスを燃焼させて検知する検知素子1と、環境の変化等、水素ガスの燃焼以外の温度変化に基づく、検知素子1の抵抗値の変化を補正する補償素子2と、固定抵抗R1、R2とを有し、これらによりブリッジ回路を構成している。検知素子1は、水素ガスの燃焼熱に応じて抵抗値が変化する。検知素子1と補償素子2とは、2つの抵抗である固定抵抗R1、R2を介して電源Eに並列に接続される。ブリッジ回路は、電源Eによって常時約90〜120mAの電流を供給し、水素ガスが接触燃焼し易い所定の温度に検知素子1を保持している。
【0022】
検知素子1と補償素子2とは、抵抗値が等しくなるように設定してある。このため、水素ガスが存在しない場合には、ブリッジ回路は平衡状態となり、センサ出力Vは生じない。一方、水素ガスが存在すると、その燃焼によって検知素子1の温度が上昇して抵抗値が大きくなるため、ブリッジ回路の平衡がくずれ、センサ出力Vが生じる。このセンサ出力Vは水素ガスの濃度に比例するため、この接触燃焼式水素ガスセンサ100により空気中の水素ガスの濃度を測定することができる。
【0023】
検知素子1は、図2に示すように、コイル状の貴金属線11と、当該貴金属線11を覆い、水素ガスと接触して燃焼させるガス感応部である略球状の担体部12とを有する。また、貴金属線11は、当該担体部12を加熱するための加熱手段になる。
貴金属線11の材質としては、例えば白金等を適用できる。担体部12は、触媒担体に貴金属触媒を担持して構成される。貴金属触媒としては、水素ガスに触媒活性を有する貴金属であればよく、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、白金とパラジウム等が使用でき、特に限定されない。触媒担体は、貴金属触媒を担持するものであれば特に限定されず、例えば、アルミナ、シリカアルミナ等の金属酸化物の焼結体を適用することができる。
【0024】
このような検知素子1は、例えば、触媒担体を構成するアルミナ等の金属酸化物と、白金等の貴金属触媒と、エチレングリコール等の有機溶媒(バインダー)とを混合してペースト状にして、このペースト状にしたものを貴金属線11のコイル状の部分であるコイル部11aに、所定の球径になるように付着させた後、貴金属線11の自己加熱によって焼成して担体部12を焼結体として形成させることにより作製することができる。
【0025】
検知素子1は、水素ガス中に置かれたとき、通電により発熱することで自身が備える貴金属触媒が加熱されて水素ガスと反応し、その反応熱に応じて(水素ガスの濃度に応じて)出力値が変化する。
【0026】
補償素子2は、図3に示すように、基本的な構成は図2に示す検知素子1と同様であり、異なる構成は貴金属触媒を含まないことである。具体的には、補償素子2は、検知素子1と同一のコイル状の貴金属線11と、当該貴金属線11を覆うとともに、貴金属触媒を含まない検知素子1と同一の触媒担体で構成される略球状の担体部13とを有する。また、貴金属線11は、当該担体部13を加熱するための加熱手段になる。
貴金属線11の材質としては、例えば白金等を適用できる。触媒担体は、例えば、アルミナ、シリカアルミナ等の金属酸化物の焼結体を適用することができる。
【0027】
補償素子2は、検知素子1と同様に水素ガスが存在する空気中に置かれて通電されることで、検知素子1の温度補償を行うための素子であり、検知素子1が有する貴金属触媒による燃焼熱に応じた出力値の変化分のみ取り出すために用いられる。補償素子2の担体部13中には、貴金属触媒が担持されておらず、検知素子1のように貴金属触媒の触媒反応による水素ガスの燃焼は生じない。当該補償素子2は、通電されることにより発熱してその周囲を覆う担体部13を加熱するものであり、熱により自らの抵抗値が変化する。
【0028】
このような補償素子2は、例えば、触媒担体を構成するアルミナ等の金属酸化物と、エチレングリコール等の有機溶媒(バインダー)とを混合してペースト状にして、このペースト状にしたものを貴金属線11のコイル状の部分であるコイル部11aに、所定の球径になるように付着させた後、貴金属線11の自己加熱によって焼成して担体部13を焼結体として形成させることにより作製することができる。
【0029】
ここで、起動時間とは、接触燃焼式水素ガスセンサ100の電源EをONした時から検知素子1が安定するまでの時間であり、貴金属線11のコイル部11aのジュール発熱が触媒担体であるアルミナ等に伝導・放熱し、温度が安定するまでの時間である。
また、応答時間とは、検知素子1上での水素燃焼時の発熱が貴金属線11のコイル部11aに伝達し、検知素子1の発熱と放熱が平衡に達するまでの時間である。
また、図4に示すように、検知素子1の素子径をDs、貴金属線11のコイル部11aのコイル径をDc、コイル部11aのコイル長をLc、貴金属線11の線径をDwとする。
【0030】
例えば、貴金属線11のコイル部11aの発熱量が同じであれば、素子サイズ(例えば、素子径Ds)が小さいほど検知素子1の担体部12全体に熱が伝導する時間が短くなる。すなわち、熱平衡にいたる時間が短く素子温度は速やかに安定する。
【0031】
検知素子1の放熱率は触媒担体である担体部12の熱伝導率に依存する。例えば、担体部12をアルミナで構成する場合、熱伝導率はアルミナの気孔率とアルミナの粒子径で決まる。気孔率が低ければ、担体部12はアルミナが密な状態となり、担体部12は熱を伝えやすくなる。逆に、気孔率が高ければ、担体部12はアルミナが疎な状態となり、担体部12は熱を伝え難くなる。一方、気孔率が低いと水素ガスが素子内部にまで拡散し難く、主に素子表面で水素ガスの触媒燃焼が起こることになり、気孔率が高ければ素子内部にまで水素ガスが速やかに拡散し素子全体で水素を燃焼できる。
【0032】
接触燃焼式水素ガスセンサ100の検知素子1は、素子全体で水素燃焼が起こる方が高感度となる。すなわち、所定の要求性能を満たすには、貴金属線11のコイル部11aの発熱量と素子サイズ、触媒の気孔率がバランスの取れた構成条件である必要がある。
詳細は後述するが、以上の知見から導かれる要求性能を満たす構成要件を表1に整理する。
【0033】
【表1】
なお、表1中の素子温度Tsとは、接触燃焼式水素ガスセンサ100の動作時の検知素子1の設定温度のことである。
【0034】
以下において、表1中のそれぞれの項目について図を用いて詳細に説明する。
【0035】
以上のように構成される接触燃焼式水素ガスセンサ100において、検知素子1の担体部12の球径である素子径Dsは、0.2〜0.6mmであること、すなわち0.2mm以上、0.6mm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.3mm以上、0.6mm以下の範囲内であることである。すなわち、素子径Dsが0.2mm以上であることで検知素子1の耐久性の一例である後述するシリコーン被毒耐性を維持できる。また、素子径Dsを0.6mm以下とすることで、十分なシリコーン被毒耐性を保持することができるとともに、小型の接触燃焼式水素ガスセンサを構成してセンサ出力を抑えて、消費電力をより抑えることができる。
【0036】
また、素子径Dsとコイル部11aのコイル径Dcの比である素子径Ds/コイル径Dcは、1.4〜2.0であること、すなわち1.4以上、2.0以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.5以上、1.9以下の範囲内であることである。詳細については後述する実施例で説明する。
【0037】
また、コイル部11aのコイル径Dcとコイル長Lcの比であるコイル径Dc/コイル長Lcは、0.8〜1.1であること、すなわち0.8以上、1.1以下の範囲内であることが好ましい。
【0038】
また、コイル部11aのコイル径Dcと貴金属線11の線径Dwの比であるコイル径Dc/Dwは、12〜30であること、すなわち、12以上、30以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは13以上、29以下の範囲内であることである。
【0039】
また、担体部12における触媒の担持量は、10〜30w%であること、すなわち、10wt%以上、30wt%以下であることが好ましい。このような触媒の担持量の範囲内にすることで、担体部12における発熱と放熱の熱バランスを保持することができる。
【0040】
また、コイル部11aの巻き数は、コイル径Dcや線径Dwに応じて適宜設定すればよく、例えば、表1に示す構成要件においては、巻き数が5回〜20回であることが好ましい。巻き数が5回未満であると検知素子の機械的強度が不足する。一方、巻き数が20回より大きくなるとコイル部11aにおいて隣合う貴金属線11の隙間が狭くなり、過度の温度上昇が生じるおそれがある。
【0041】
なお、検知素子1及び補償素子2を備えた接触燃焼式水素ガスセンサ100のその他の構成、機能については、従来公知の接触燃焼式水素ガスセンサと同様である。
【実施例】
【0042】
以下に、検知素子1、補償素子2を用いた接触燃焼式水素ガスセンサ100の実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
表1に示す検知素子の構成要件を満たす実施例として、図5に示すように、検知素子1A、1B、1Cを作製した。具体的には、上述した検知素子の作製方法により、貴金属線11としてコイル状に加工したコイル部11aを有する白金線(線径Dw=0.02mm)に、触媒担体であるアルミナに対して白金または白金・パラジウムを所定濃度(本実施形態では、触媒担持量10〜30wt%)担持した担体部12を、略球状になるように形成し、1300℃で10時間焼成して素子径Dsが0.5mm程度かつ平均粒子径が300〜800nmとなるように検知素子1A、1B、1Cを作製した。検知素子1A、1B、1Cのそれぞれの主な作製条件は以下のとおりである。
(作製条件)
検知素子1A:Ds/Lc=2.0、Ds/Dc=2.0(素子径Ds=0.5mm、コイル径Dc=0.25mm、コイル長Lc=0.25mm)
検知素子1B:Ds/Lc=1.6、Ds/Dc=1.6(素子径Ds=0.5mm、コイル径Dc=0.31mm、コイル長Lc=0.31mm)
検知素子1C:Ds/Lc=1.4、Ds/Dc=1.4(素子径Ds=0.5mm、コイル径Dc=0.36mm、コイル長Lc=0.36mm)
【0044】
また、上述した補償素子の作製方法により、貴金属線11としてコイル状に加工したコイル部11aを有する白金線に、アルミナを用いて作製した担体部13を、略球状に設けた補償素子2を作製した。なお、補償素子2は、対応する検知素子の各部と同じ大きさ(寸法)で形成される。
このように作製した検知素子1と補償素子2とを、図1に示すブリッジ回路に組み込んで接触燃焼式水素ガスセンサ100を作製した。
【0045】
図5に示すように、Ds/Dc、及びDs/Lcが2.0より徐々に小さくなる場合(図5(a)(b)において右側に向かっていく場合)、貴金属線11のコイル部11aの曲率が大きくなり貴金属線11内部の応力が高くなるのでコイル部11aの電気抵抗値が徐々に不安定になりやすい。一方、Ds/Dc、及びDs/Lcが2.0より大きい場合、発熱部である貴金属線11のコイル部11aが担体部12(素子球)の中心に集中するので、素子内の中心部が高温になるとともに外側に向かうに従って低温となる温度分布ができる。担体部12の表面での水素ガス燃焼による発熱がコイル部11aの径方向外側にある嵩高いアルミナによる熱伝導ロスによって効率よくコイル部11aに熱を伝達できない。
また、図6に示すように、比較例としてDs/Dc、及びDs/Lcが1.4より小さい検知素子20(Ds/Dc=1.2、及びDs/Lc=1.2)では、図6(a)に示すようにコイル部11aの長さ方向の両端部11bが担体部12からはみ出して外部に突出してしまう。それに対して、図5(a)に示す検知素子1Cのように、Ds/Dcが1.4以上であることで貴金属線11のコイル部11aを外部にはみ出すことなく担体部12の内部に収めることできる。また、上記比較例の作製条件ではシロキサン曝露による担体部12の表面の活性低下の影響が、水素ガスの感度の低下として現れやすくなる。よって、Ds/Dcは、1.4〜2.0であることが好ましいのである。
【0046】
次に、実施例1と同様にして所定の作製条件で作製した接触燃焼式水素ガスセンサを用いて、水素ガスの濃度(ppm)に対する検知素子の起動時間及び応答時間を調べた(図7から図12参照)。
図7図8に係る検知素子の作製条件)
Ds=0.25mm、Dw=0.01mmは共通で、Ds/Dcが以下の各条件である。
条件1)Ds/Dc=1.4
条件2)Ds/Dc=2.0
条件3)Ds/Dc=2.5
図9図10に係る検知素子の作製条件)
Ds=0.5mm、Dw=0.02mmは共通で、Ds/Dcが以下の各条件である。
条件1)Ds/Dc=1.4
条件2)Ds/Dc=2.0
条件3)Ds/Dc=2.5
図11図12に係る検知素子の作製条件)
Ds=0.75mm、Dw=0.03mmは共通で、Ds/Dcが以下の各条件である。
条件1)Ds/Dc=1.4
条件2)Ds/Dc=2.0
条件3)Ds/Dc=2.5
【0047】
図7図9図11は、上記各Ds/Dcの条件で作製された検知素子の起動時間を比較したグラフである。図7図9図11の各グラフは、縦軸が接触燃焼型ガスセンサのセンサ出力・水素濃度換算値(ppm)であり、横軸が起動時間(秒)である。
【0048】
図8図10図12は、上記各Ds/Dcの条件で作製された検知素子の応答時間を比較したグラフである。図8図10図12の各グラフは、縦軸が接触燃焼型ガスセンサのセンサ出力・水素濃度換算値(ppm)であり、横軸が応答時間(秒)である。
ここで、起動時間の目標達成値を2秒以内、応答時間の目標達成値を3秒以内とする。これらの目標達成値を満足することで、FCVで搭載される接触燃焼式水素ガスセンサとしての要求性能を満足することができる。
なお、上記「起動時間の目標達成値が2秒以内」とは、図7図9図11において、センサ出力・水素濃度換算値(ppm)が2秒以内に1000ppm以下になることである。また、上記「応答時間の目標達成値を3秒以内」とは、図8図10図12において、センサ出力・水素濃度換算値(ppm)が3秒以内に、18000ppm以上になることである。
【0049】
図7図12に示すように、Ds/Dc=1.4、2.0は起動時間及び応答時間の要求性能を満足しているがDs/Dc=2.5は満足していない。すなわち、Ds/Dcが1.4〜2.0の範囲内にあれば、起動時間及び応答時間の要求性能を何れも満たすことができる。
【0050】
[シリコーン被毒耐性について]
シリコーン被毒耐性については、接触燃焼式水素ガスセンサの車両搭載時の実環境の最悪条件を想定した以下の環境下で接触燃焼式水素ガスセンサを100時間動作させてもセンサの感度の変化率が規定値以内であることが要求される。
環境条件(濃度):環状シロキサン1000ppm+水素2000ppm
感度変化率:±15%以内
【0051】
環状シロキサンは貴金属触媒上に吸着・開環し、いくつかの素反応を経て最終的にSiOまで酸化される。これまでのTOF−SIMS等を用いた触媒表面状態の観察結果から以下のような知見を得ている。
1)水素とシロキサンが共存するとき、水素が貴金属触媒上に解離吸着している酸素を消費するので、触媒上の酸素吸着サイトに空きができ、そこにシロキサンが直接吸着しやすくなる。
2)シロキサンはSiOまでの酸化に時間を要するので、吸着量が増加すると未分解生成物が蓄積し、一時的に貴金属の活性が低下する(水素ガスの燃焼が阻害される)。
3)シロキサンがSiOにまで酸化されると凝集反応でSiOの結晶が成長し、それまでシロキサンの未分解生成物で被覆されていた触媒上の活性サイトが大気に接するようになり、活性が回復する。すなわち、シロキサンの酸化反応を促進するには素子温度が高い方が有利となる。
4)シロキサンは分子サイズが大きいので、素子内部への拡散は制限され、未分解生成物は素子表面により析出しやすい。素子サイズが極端に小さい場合、素子全体の体積に対する表面の比率が高くなるので、素子表面の活性の劣化が水素ガスの感度に現れやすい。
【0052】
[シリコーン被毒耐性試験]
次に、同一の作製条件(Ds=0.5mm、Dw=0.02mm、Ds/Dc=2.0)で作製した3つの接触燃焼式水素ガスセンサを用いて、各温度(Ts=250、280、310℃)でセンサを動作させた状態で水素ガス共存下における環状シロキサン(1000ppm)を暴露した際のシリコーン被毒耐性を比較した(図13参照)。図13に示すグラフは、縦軸が接触燃焼型水素ガスセンサのセンサ出力・水素濃度換算値(ppm)であり、横軸が環状シロキサンの暴露時間(時間:hr)である。図13で示すシリコーン被毒耐性試験の結果は、シロキサン1000ppm+水素2000ppmの混合ガス中に接触燃焼式水素ガスセンサを100時間曝露して、その直前と途中および100時間後の水素20000ppmの感度の変化率を評価したものである。
ここで、シリコーン被毒耐性の要求性能としては、上述したようにシリコーン被毒耐性において100時間時におけるセンサの感度変化率が15%以内とする。この目標達成値を満足することで、FCVで搭載される接触燃焼式水素ガスセンサの要求性能を満足することができる。
【0053】
図13に示す結果によると、例えば20000ppm程度の水素ガス濃度中で測定を行っている場合、動作温度が250℃の接触燃焼式水素ガスセンサは、65時間程度で検出される水素ガス濃度が低下して、感度変化率が−15%(図中に点線で示す17000ppm)を超えてしまう。これは、環状シロキサンの暴露のために接触燃焼式水素ガスセンサの水素ガスに対する活性が悪化したことによるものと考えられる。一方、動作温度が280℃及び310℃の接触燃焼式水素ガスセンサは、暴露時間が100時間においても感度変化率が15%以内を保っており、シリコーン被毒耐性の要求性能を満足することができる。これにより、当該作製条件による接触燃焼式水素ガスセンサにおいては、シリコーン被毒耐性を満たすためにセンサ動作時の素子温度は280℃以上であることが好ましいのである。一方、センサ動作時の素子温度は350℃以下であることが好ましい。なぜなら、センサの動作温度が高いと触媒粒子のシンタリング(凝集)による活性点の減少や白金(Pt)線のコイル部への熱負荷によって抵抗値が時間経過と共に増加し易くなるなどの別の弊害を生じやすくなるからである。よって、センサ動作時の素子温度は280〜350℃に設定されること、すなわち280℃以上、350℃以下の範囲内で設定されることが好ましい。
【0054】
[触媒担体の比表面積と水素ガス感度との関係評価試験]
図14は、触媒担体の一例であるアルミナの比表面積、水素ガス感度との関係を評価した結果である。図14のグラフは、左側の縦軸が接触燃焼型ガスセンサの水素20000ppmに対するセンサ出力(mV)、右側の縦軸がアルミナの平均粒子径(nm)であり、横軸がアルミナ比表面積(m/g)である。アルミナの平均粒子径は焼成条件で制御でき、焼成温度が高いほど粒子径が大きく、比表面積は小さくなる。一般的には、触媒担体(アルミナ)の比表面積が高いほど高活性な触媒を得ることができるが、接触燃焼式水素ガスセンサでは、触媒活性に加えて素子球全体での水素の燃焼効率が感度に影響する。たとえば比表面積が108m/gのアルミナ(焼成温度−焼成時間:1100℃−10hで焼成、図15(a)参照)を用いた検知素子は、緻密な焼結体が形成されるので、水素ガスは素子内部にまで拡散せずに主に素子表面で水素ガスの接触燃焼が起こり白金線等の貴金属線11のコイル部11aへの熱伝導ロスの分、感度(センサ出力)は低くなる。一方、比表面積が1.2m/gのアルミナ(焼成温度−焼成時間:1500℃−10hで焼成、図15(d)参照)を用いた検知素子では、気孔率の高い(粒子間の隙間が大きい)焼結体が形成され、水素ガスは素子内部にまで容易に拡散するものの、触媒としての活性は低いために、感度は低くなる。よって、担体部12においては、アルミナの平均粒子径が300〜800nm(比表面積:4.2〜6.3m/g)のアルミナを適用することで、高活性でかつ水素ガスの素子内部への拡散性が優位なポーラス構造を有した焼結体を形成することができる。
【0055】
以上のように、本実施形態に係る接触燃焼式水素ガスセンサ100によれば、所望の起動時間、応答時間及びシリコーン被毒耐性を有する接触燃焼式水素ガスセンサを実現することができる。
【0056】
また、本実施形態に係る接触燃焼式水素ガスセンサ100は、例えば、FCV等の燃料電池を搭載した車両(乗用車、トラック、作業車両等)に搭載可能であり、燃料電池から漏れる水素ガスを検知することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、水素ガスの燃焼熱に応じて抵抗値が変化する検知素子を備えた接触燃焼式水素ガスセンサに利用できる。
【符号の説明】
【0058】
1 検知素子
2 補償素子
11 貴金属線
11a コイル部
12 担体部
100 接触燃焼式水素ガスセンサ
Ds 素子径
Dc コイル径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15