【実施例】
【0042】
以下に、検知素子1、補償素子2を用いた接触燃焼式水素ガスセンサ100の実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
表1に示す検知素子の構成要件を満たす実施例として、
図5に示すように、検知素子1A、1B、1Cを作製した。具体的には、上述した検知素子の作製方法により、貴金属線11としてコイル状に加工したコイル部11aを有する白金線(線径Dw=0.02mm)に、触媒担体であるアルミナに対して白金または白金・パラジウムを所定濃度(本実施形態では、触媒担持量10〜30wt%)担持した担体部12を、略球状になるように形成し、1300℃で10時間焼成して素子径Dsが0.5mm程度かつ平均粒子径が300〜800nmとなるように検知素子1A、1B、1Cを作製した。検知素子1A、1B、1Cのそれぞれの主な作製条件は以下のとおりである。
(作製条件)
検知素子1A:Ds/Lc=2.0、Ds/Dc=2.0(素子径Ds=0.5mm、コイル径Dc=0.25mm、コイル長Lc=0.25mm)
検知素子1B:Ds/Lc=1.6、Ds/Dc=1.6(素子径Ds=0.5mm、コイル径Dc=0.31mm、コイル長Lc=0.31mm)
検知素子1C:Ds/Lc=1.4、Ds/Dc=1.4(素子径Ds=0.5mm、コイル径Dc=0.36mm、コイル長Lc=0.36mm)
【0044】
また、上述した補償素子の作製方法により、貴金属線11としてコイル状に加工したコイル部11aを有する白金線に、アルミナを用いて作製した担体部13を、略球状に設けた補償素子2を作製した。なお、補償素子2は、対応する検知素子の各部と同じ大きさ(寸法)で形成される。
このように作製した検知素子1と補償素子2とを、
図1に示すブリッジ回路に組み込んで接触燃焼式水素ガスセンサ100を作製した。
【0045】
図5に示すように、Ds/Dc、及びDs/Lcが2.0より徐々に小さくなる場合(
図5(a)(b)において右側に向かっていく場合)、貴金属線11のコイル部11aの曲率が大きくなり貴金属線11内部の応力が高くなるのでコイル部11aの電気抵抗値が徐々に不安定になりやすい。一方、Ds/Dc、及びDs/Lcが2.0より大きい場合、発熱部である貴金属線11のコイル部11aが担体部12(素子球)の中心に集中するので、素子内の中心部が高温になるとともに外側に向かうに従って低温となる温度分布ができる。担体部12の表面での水素ガス燃焼による発熱がコイル部11aの径方向外側にある嵩高いアルミナによる熱伝導ロスによって効率よくコイル部11aに熱を伝達できない。
また、
図6に示すように、比較例としてDs/Dc、及びDs/Lcが1.4より小さい検知素子20(Ds/Dc=1.2、及びDs/Lc=1.2)では、
図6(a)に示すようにコイル部11aの長さ方向の両端部11bが担体部12からはみ出して外部に突出してしまう。それに対して、
図5(a)に示す検知素子1Cのように、Ds/Dcが1.4以上であることで貴金属線11のコイル部11aを外部にはみ出すことなく担体部12の内部に収めることできる。また、上記比較例の作製条件ではシロキサン曝露による担体部12の表面の活性低下の影響が、水素ガスの感度の低下として現れやすくなる。よって、Ds/Dcは、1.4〜2.0であることが好ましいのである。
【0046】
次に、実施例1と同様にして所定の作製条件で作製した接触燃焼式水素ガスセンサを用いて、水素ガスの濃度(ppm)に対する検知素子の起動時間及び応答時間を調べた(
図7から
図12参照)。
(
図7、
図8に係る検知素子の作製条件)
Ds=0.25mm、Dw=0.01mmは共通で、Ds/Dcが以下の各条件である。
条件1)Ds/Dc=1.4
条件2)Ds/Dc=2.0
条件3)Ds/Dc=2.5
(
図9、
図10に係る検知素子の作製条件)
Ds=0.5mm、Dw=0.02mmは共通で、Ds/Dcが以下の各条件である。
条件1)Ds/Dc=1.4
条件2)Ds/Dc=2.0
条件3)Ds/Dc=2.5
(
図11、
図12に係る検知素子の作製条件)
Ds=0.75mm、Dw=0.03mmは共通で、Ds/Dcが以下の各条件である。
条件1)Ds/Dc=1.4
条件2)Ds/Dc=2.0
条件3)Ds/Dc=2.5
【0047】
図7、
図9、
図11は、上記各Ds/Dcの条件で作製された検知素子の起動時間を比較したグラフである。
図7、
図9、
図11の各グラフは、縦軸が接触燃焼型ガスセンサのセンサ出力・水素濃度換算値(ppm)であり、横軸が起動時間(秒)である。
【0048】
図8、
図10、
図12は、上記各Ds/Dcの条件で作製された検知素子の応答時間を比較したグラフである。
図8、
図10、
図12の各グラフは、縦軸が接触燃焼型ガスセンサのセンサ出力・水素濃度換算値(ppm)であり、横軸が応答時間(秒)である。
ここで、起動時間の目標達成値を2秒以内、応答時間の目標達成値を3秒以内とする。これらの目標達成値を満足することで、FCVで搭載される接触燃焼式水素ガスセンサとしての要求性能を満足することができる。
なお、上記「起動時間の目標達成値が2秒以内」とは、
図7、
図9、
図11において、センサ出力・水素濃度換算値(ppm)が2秒以内に1000ppm以下になることである。また、上記「応答時間の目標達成値を3秒以内」とは、
図8、
図10、
図12において、センサ出力・水素濃度換算値(ppm)が3秒以内に、18000ppm以上になることである。
【0049】
図7〜
図12に示すように、Ds/Dc=1.4、2.0は起動時間及び応答時間の要求性能を満足しているがDs/Dc=2.5は満足していない。すなわち、Ds/Dcが1.4〜2.0の範囲内にあれば、起動時間及び応答時間の要求性能を何れも満たすことができる。
【0050】
[シリコーン被毒耐性について]
シリコーン被毒耐性については、接触燃焼式水素ガスセンサの車両搭載時の実環境の最悪条件を想定した以下の環境下で接触燃焼式水素ガスセンサを100時間動作させてもセンサの感度の変化率が規定値以内であることが要求される。
環境条件(濃度):環状シロキサン1000ppm+水素2000ppm
感度変化率:±15%以内
【0051】
環状シロキサンは貴金属触媒上に吸着・開環し、いくつかの素反応を経て最終的にSiO
2まで酸化される。これまでのTOF−SIMS等を用いた触媒表面状態の観察結果から以下のような知見を得ている。
1)水素とシロキサンが共存するとき、水素が貴金属触媒上に解離吸着している酸素を消費するので、触媒上の酸素吸着サイトに空きができ、そこにシロキサンが直接吸着しやすくなる。
2)シロキサンはSiO
2までの酸化に時間を要するので、吸着量が増加すると未分解生成物が蓄積し、一時的に貴金属の活性が低下する(水素ガスの燃焼が阻害される)。
3)シロキサンがSiO
2にまで酸化されると凝集反応でSiO
2の結晶が成長し、それまでシロキサンの未分解生成物で被覆されていた触媒上の活性サイトが大気に接するようになり、活性が回復する。すなわち、シロキサンの酸化反応を促進するには素子温度が高い方が有利となる。
4)シロキサンは分子サイズが大きいので、素子内部への拡散は制限され、未分解生成物は素子表面により析出しやすい。素子サイズが極端に小さい場合、素子全体の体積に対する表面の比率が高くなるので、素子表面の活性の劣化が水素ガスの感度に現れやすい。
【0052】
[シリコーン被毒耐性試験]
次に、同一の作製条件(Ds=0.5mm、Dw=0.02mm、Ds/Dc=2.0)で作製した3つの接触燃焼式水素ガスセンサを用いて、各温度(Ts=250、280、310℃)でセンサを動作させた状態で水素ガス共存下における環状シロキサン(1000ppm)を暴露した際のシリコーン被毒耐性を比較した(
図13参照)。
図13に示すグラフは、縦軸が接触燃焼型水素ガスセンサのセンサ出力・水素濃度換算値(ppm)であり、横軸が環状シロキサンの暴露時間(時間:hr)である。
図13で示すシリコーン被毒耐性試験の結果は、シロキサン1000ppm+水素2000ppmの混合ガス中に接触燃焼式水素ガスセンサを100時間曝露して、その直前と途中および100時間後の水素20000ppmの感度の変化率を評価したものである。
ここで、シリコーン被毒耐性の要求性能としては、上述したようにシリコーン被毒耐性において100時間時におけるセンサの感度変化率が15%以内とする。この目標達成値を満足することで、FCVで搭載される接触燃焼式水素ガスセンサの要求性能を満足することができる。
【0053】
図13に示す結果によると、例えば20000ppm程度の水素ガス濃度中で測定を行っている場合、動作温度が250℃の接触燃焼式水素ガスセンサは、65時間程度で検出される水素ガス濃度が低下して、感度変化率が−15%(図中に点線で示す17000ppm)を超えてしまう。これは、環状シロキサンの暴露のために接触燃焼式水素ガスセンサの水素ガスに対する活性が悪化したことによるものと考えられる。一方、動作温度が280℃及び310℃の接触燃焼式水素ガスセンサは、暴露時間が100時間においても感度変化率が15%以内を保っており、シリコーン被毒耐性の要求性能を満足することができる。これにより、当該作製条件による接触燃焼式水素ガスセンサにおいては、シリコーン被毒耐性を満たすためにセンサ動作時の素子温度は280℃以上であることが好ましいのである。一方、センサ動作時の素子温度は350℃以下であることが好ましい。なぜなら、センサの動作温度が高いと触媒粒子のシンタリング(凝集)による活性点の減少や白金(Pt)線のコイル部への熱負荷によって抵抗値が時間経過と共に増加し易くなるなどの別の弊害を生じやすくなるからである。よって、センサ動作時の素子温度は280〜350℃に設定されること、すなわち280℃以上、350℃以下の範囲内で設定されることが好ましい。
【0054】
[触媒担体の比表面積と水素ガス感度との関係評価試験]
図14は、触媒担体の一例であるアルミナの比表面積、水素ガス感度との関係を評価した結果である。
図14のグラフは、左側の縦軸が接触燃焼型ガスセンサの水素20000ppmに対するセンサ出力(mV)、右側の縦軸がアルミナの平均粒子径(nm)であり、横軸がアルミナ比表面積(m
2/g)である。アルミナの平均粒子径は焼成条件で制御でき、焼成温度が高いほど粒子径が大きく、比表面積は小さくなる。一般的には、触媒担体(アルミナ)の比表面積が高いほど高活性な触媒を得ることができるが、接触燃焼式水素ガスセンサでは、触媒活性に加えて素子球全体での水素の燃焼効率が感度に影響する。たとえば比表面積が108m
2/gのアルミナ(焼成温度−焼成時間:1100℃−10hで焼成、
図15(a)参照)を用いた検知素子は、緻密な焼結体が形成されるので、水素ガスは素子内部にまで拡散せずに主に素子表面で水素ガスの接触燃焼が起こり白金線等の貴金属線11のコイル部11aへの熱伝導ロスの分、感度(センサ出力)は低くなる。一方、比表面積が1.2m
2/gのアルミナ(焼成温度−焼成時間:1500℃−10hで焼成、
図15(d)参照)を用いた検知素子では、気孔率の高い(粒子間の隙間が大きい)焼結体が形成され、水素ガスは素子内部にまで容易に拡散するものの、触媒としての活性は低いために、感度は低くなる。よって、担体部12においては、アルミナの平均粒子径が300〜800nm(比表面積:4.2〜6.3m
2/g)のアルミナを適用することで、高活性でかつ水素ガスの素子内部への拡散性が優位なポーラス構造を有した焼結体を形成することができる。
【0055】
以上のように、本実施形態に係る接触燃焼式水素ガスセンサ100によれば、所望の起動時間、応答時間及びシリコーン被毒耐性を有する接触燃焼式水素ガスセンサを実現することができる。
【0056】
また、本実施形態に係る接触燃焼式水素ガスセンサ100は、例えば、FCV等の燃料電池を搭載した車両(乗用車、トラック、作業車両等)に搭載可能であり、燃料電池から漏れる水素ガスを検知することができる。