【解決手段】本発明に係る電動機用ステータ110は、ステータコア120と、ステータコアのティース部122に巻着されるコイル130とを備え、ステータコアのヨーク部外周面121Bから径方向内側に窪む溝部123を更に備え、筒状ケーシング30に焼嵌めされることで生じるステータコア内の圧縮応力を有効に低減するよう、溝部123の底壁123A、側壁123Bの寸法、形状、位置関係等を適切に設定する。
筒状のヨーク部と、このヨーク部の内周面から径方向内側に突出する複数のティース部と、を備えるステータコアと、前記ティース部に巻着されるコイルと、を備える電動機用ステータであって、
前記ヨーク部の外周面に、軸方向に沿って形成された複数の溝部と、
を更に備え、
この溝部の各々は、
底壁と、
前記底壁の側端辺から前記ヨーク部の径方向外側に向けて立ち上がる側壁とからなり、
下記式(1)で定義される、前記溝部の角占有率Rが、0.50〜0.70である、
電動機用ステータ。
R=(A°/360°)×P×1.5 (1)
前記式(1)において、
A:前記ステータの水平断面視において、前記底壁の一端と前記ステータの中心点とを結ぶ線分と、前記底壁の他端と前記ステータの中心点とを結ぶ線分間の角度(°)
P:前記ステータに形成される極数
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば空調機器用の圧縮機として、特許文献1に開示されるような回転圧縮機が用いられている。回転圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮機構と、圧縮機構とシャフト等で接続され、圧縮機構の回転要素を回動するための電動機と、圧縮機構及び電動機を密閉的に収容する筒型ケーシングとを備える。更に、回転圧縮機は、圧縮前の冷媒を導入する冷媒導入管と、回転圧縮機で圧縮された冷媒を吐出する冷媒吐出管とを備える。
【0003】
圧縮機構及び電動機(以下、「電動機等」と記す。)は、これらとほぼ同径の金属製の筒型ケーシングに焼嵌めされる。これにより、電動機の例えばステータコアの外側周面(及び圧縮機構の外側周面)と筒型ケーシングの内側周面とが接触し、電動機等が回転圧縮機に収容される。
【0004】
電動機等の動作時の静音性向上を図る目的や、衝撃が加わってもこれらを保持可能とするため、電動機等は、筒型ケーシングから強く加締められる。その結果、電動機等に強い圧縮応力が生じる。当該圧縮応力は、電動機のステータコアの鉄損を増大させる。鉄損が増大すれば、電動機の効率の低下を招くこととなる。この課題を解決するものとして、特許文献2に記載の技術が挙げられる。
【0005】
特許文献2に記載の技術は、本体ケーシングと、電動機とを備え、本体ケーシングと電動機のステータとの間に所定の隙間が設けられ、ステータの平面視において、ステータのティースの本数以上の溶接ポイントを筒状ヨーク部の外周面に設ける構造を備える。これにより、ケーシングからの強い圧縮応力を緩和させ、更に、ケーシングの剛性低下と、電動機を含む圧縮機の騒音の抑制を図る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電動機用ステータコアの外周面には、その軸方向に沿った溝部が形成される。この溝部は、圧縮機構で圧力を高められた冷媒の通路として機能する。特許文献2に記載のステータコアは、水平断面視において、円弧状に窪む溝部を備える。
図5に、このような円弧状に窪む溝部を備えた電動機用ステータのケーシングからの圧縮応力シミュレーション結果を示す(なお、本願に添付の
図5は、グレースケールであるため、別途物件提出書で提出する
図5のカラー図も併せて参照されたい。)。
【0008】
図5に示されるように、円弧状溝部の底面中央付近、筒状ヨーク部内周のティース近傍領域、ケーシングとステータコアとの接触箇所の夫々に、強い局所応力が加わっていることが示された。このような局所応力は、ステータコアの鉄損を増大させることはもちろん、薄い電磁鋼板が積層されたステータコアに積層方向(以下、この方向を「回転軸方向」又は「軸方向」と言う場合がある。)の形状歪を発生させる。
【0009】
また、特許文献2に記載の技術において、前述のケーシングとステータコアの接触箇所は、溶接ポイント箇所と対応する。従って、溶接ポイントにも過度な応力が加わるため、溶接ポイントと電動機との係合強度に懸念が生じる。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、溶接ポイント等を用いずケーシングによって強く焼嵌めされた場合であっても、ステータコア内に生じる圧縮応力を大きく低減させる電動機用ステータを提供することを目的とする。また、当該電動機用ステータを備える電動機、及び回転圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る電動機用ステータは、
筒状のヨーク部と、このヨーク部の内周面から径方向内側に突出する複数のティース部と、を備えるステータコアと、前記ティース部に巻着されるコイルと、を備える電動機用ステータであって、
前記ヨーク部の外周面に、軸方向に沿って形成された複数の溝部と、
を更に備え、
この溝部の各々は、
底壁と、
前記底壁の側端辺から前記ヨーク部の径方向外側に向けて立ち上がる側壁と、
を備え、
前記溝部の角占有率が、0.50〜0.70であることを特徴とする。
ここで、上記角占有率は、下式(1)により算出される値である。
式(1):(A°/360°)×P×1.5
ここで、Aは、前記ステータの水平断面視において、前記溝部底壁の一端と前記ステータの中心点とを結ぶ線分と、前記底壁の他端と前記ステータの中心点とを結ぶ線分との間の角度(°)であり、Pは、ステータの極数である。
また、前記溝部の角占有率が、0.55〜0.60であることが、より好ましい。
【0012】
また、本発明に係る電動機用ステータは、
前記溝部の面積占有率が、0.036〜0.042であることが好ましい。
ここで、上記面積占有率は、下式(2)により算出される値である。
式(2):面積S1 mm
2/面積S2 mm
2
ここで、S1は、ステータの任意の断面における全溝部の合計面積であり、S2は、同じ断面におけるステータコア外径を直径とする円の面積である。
【0013】
更に、本発明に係る電動機用ステータは、
水平断面視において、前記底壁の幅が、前記ティース部の幅より広いことが好ましい。
【0014】
更に、本発明に係る電動機用ステータは、
水平断面視において、前記底壁の前記側端辺と、前記ヨーク部の内周面との最少距離を結ぶ線分(狭小線)の垂線が、前記底壁の幅方向と平行であることが好ましい。
【0015】
更に、本発明に係る電動機用ステータは、
水平断面視において、前記底壁の輪郭が、直線状である、
又は、水平断面視において、前記底壁の輪郭が、前記ヨーク部外周面の輪郭と略同一の曲率を有するよう、前記ヨーク部の径方向外側に湾曲することが好ましい。
【0016】
更に、本発明に係る電動機用ステータは、
水平断面視において、前記側壁が、前記底壁の前記側端辺から略垂直に立ち上がることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る電動機は、
前記電動機用ステータと、
前記電動機用ステータを収容する筒型ケーシングと、
前記電動機用ステータ内に配置され、前記電動機用ステータに対して回動可能に支持されるロータと、
を備える。
【0018】
また、本発明に係る回転圧縮機は、
前記電動機と、
冷媒を圧縮するための圧縮機構と、
を備え、
前記電動機は、前記圧縮機構の回転要素を回動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る電動機用ステータは、ステータコアの外周面から径方向内側に窪む溝部において、(1)角占有率:0.50〜0.70(より好ましくは、0.55〜0.60)、(2)面積占有率:0.036〜0.042、(3)水平断面視、ティース部の幅より広い底壁幅となるよう設計が施されている。そのため、ケーシングによって強く焼嵌めされた(圧縮された)場合であっても、ステータコア内の圧縮応力を大きく低減させることができる。従って、圧縮応力に起因するステータコアの鉄損を減少させることができる。また、圧縮応力が低減されるため、ステータコアに発生する積層方向の形状歪を防止することができる。また、本発明に係る電動機及び回転圧縮機は、前記電動機用ステータを備えるものであり、同様の技術的効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<回転圧縮機>
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を詳細に説明する。まず、
図1を参照して、本実施形態に係る回転圧縮機1の全体構成を説明する。
図1は、回転圧縮機1の垂直断面図である。
【0022】
図1に示されるように、回転圧縮機1は、電動機10、圧縮機構20、筒型ケーシング30を備える。更に、回転圧縮機1は、圧縮前の冷媒を導入する冷媒導入管40と、回転圧縮機1で圧縮された冷媒を吐出する冷媒吐出管50を備える。本実施形態において、冷媒導入管40は、アキュムレータ60と接続される。
【0023】
電動機10と圧縮機構20とは、回転圧縮機1の軸方向上下に並んで配置される。このとき、電動機10のロータ140と、圧縮機構20の回転要素210(例えば、シリンダ211内で偏心回動する偏芯ローラ212等)とが連結され、電動機10の回転運動が、圧縮機構20の回転要素210に伝達される。その結果、回転要素210が回動し、圧縮機構20に導入された冷媒の圧縮が行なわれる。
【0024】
電動機10と圧縮機構20の双方は、筒型ケーシング30内に収容される。前述のように、電動機10と圧縮機構20とは、筒型ケーシング30に焼嵌めされる。すなわち、電動機10は、筒型ケーシング30(胴部310)に接触した状態で収容される。
【0025】
圧縮機構20で圧縮された冷媒は、後述する電動機用ステータ110とロータ140との間隙領域や、ステータ110の外周面に形成される溝部(後述する)と筒型ケーシング30との間隙領域等を通過し、更に冷媒吐出管50に向けて上昇する。これによって、冷媒導入管40から筒型ケーシング30に導入された冷媒が圧縮され、冷媒吐出管50から排出される機構が実現される。
【0026】
筒型ケーシング30は、有底で上部開口の胴部310と、胴部310の上部開口を覆う蓋部320を備える。蓋部320が胴部310に被せられることで、筒型ケーシング30が、密閉される。本実施形態において、前述の冷媒吐出管50は、蓋部320を貫通するよう、その中央部に設けられる。
【0027】
<電動機>
次に、
図2を参照して、本実施形態に係る電動機10を詳細に説明する。ここで、
図2は、電動機10の水平断面図である。本実施形態に係る電動機10は、集中巻線型のモータである。
図2に示されるように、電動機10は、ステータ110、ロータ140等を備える。ステータ110は、複数の電磁鋼板を上下積層したものである。また、ロータ140も同様に、複数の電磁鋼板を上下積層したものである。また、ロータ140は、シャフト141に回転可能な状態で軸支される。ただし、ステータ110、ロータ140の素材や構成は、これに限られるものではない。
【0028】
ステータ110は、ステータコア120に加えて、ステータコア内に磁束を生じさせるコイル130を備える。
図2に示されるように、ステータコア120は、筒状のヨーク部121と、ティース部122を備え、ティース部122にコイル130が巻着される。
【0029】
ステータコア120は、複数のティース部122を備える。複数のティース部122は、全て筒状ヨーク部121の内周面121Aから径方向内側に伸びるよう設けられる。また、複数のティース部122は、ヨーク部内周面121Aの周方向に沿い、各々所定間隔を隔てて配設される。
【0030】
本実施形態における各ティース部122は、
図2に示されるような、コイル130が巻着される長尺のコイル巻着部122Aと、コイル巻着部122Aの幅TWよりも幅広形状を有する扁平の先端部122Bとを備えている。先端部122Bが、ロータ140の外周面142と相対する。
【0031】
ステータ110に備わるコイル130は、U、V、W相の3相であり、互いに星型結線されており、同時に3相中の2相が通電して駆動される120°矩形波通電である。もしくは3相が通電される180°正弦波通電である。
図2に示されるように、本実施形態に係るステータ110は、12個のティース部122の各々に巻着される合計12個のコイル130を備える。従って、このステータ110を含む電動機10の極数Pは、8である。
【0032】
ただし、電動機10の極数Pは、これに限られるものではない。ティース部122の数を増やして、コイル数をこれより多くすることで、10極以上の極を備えることができる。これに対して、ティース部122の数を減らして、コイル数をこれより少なくすることで、6極以下の極を備えることができる。
【0033】
ヨーク部121の外周面121Bには、その軸方向に沿って形成される複数の溝部123が設けられる。溝部123の各々は、ヨーク部121の径方向内側に窪むよう形成される。また、
図2に示されるように、本実施形態における溝部123の各々は、ヨーク部121を挟んでティース部122と相対するよう配置される。更に、溝部123の各々は、ヨーク部121の上面側から底面側に渡って形成される。
【0034】
このように溝部123が設けられることにより、電動機10が筒型ケーシング30に収容される際、ヨーク部121と筒型ケーシング30との間に貫通路が形成される。前述のように、圧縮機構20で圧縮された冷媒は、貫通路としての溝部123を通過し、冷媒吐出管50に向けて上昇する。
【0035】
溝部123の各々は、底壁123Aと、底壁123Aの側端辺1231から前記ヨーク部121の径方向外側に向けて立ち上がる側壁123Bを2つ備える。底壁123Aと側壁123Bとの接合箇所は、角張るような形状や適切なR形状であってもよいし、丸みを帯びた形状であってもよい。
【0036】
ここで、水平断面視(すなわち
図2)において、底壁123Aの一端(すなわち、底壁123Aと側壁123B1との接合箇所)とステータ110の中心点Oとを結ぶ線分と、底壁123Aの他端(すなわち、底壁123Aと側壁123B2との接合箇所)とステータ110の中心点Oとを結ぶ線分との間の角度をA°とし、ステータ110に形成される極数をP(本実施形態における極数は8個)とする場合、溝部123の角占有率Rを下記式(1)で定義する。
R=(A°/360°)×P×1.5 (1)
【0037】
上記角占有率Rが、0.50〜0.70である場合、ステータコア120内に生成される筒型ケーシング30からの圧縮応力が大きく低減される。詳細は後述するが、溝部123の角占有率Rが、0.50を下回る場合、溝部底壁123Aに加えて、ヨーク部内周面121Aにおいて隣り合うティース部122間の領域に、強い圧縮応力が広範に生じる。
【0038】
また、溝部123の角占有率Rが、0.70を上回る場合、ヨーク部外周面121Bと筒型ケーシング30との接触面積が少なくなり、筒型ケーシング30とステータコア120との嵌合が解除され易い状態が生じ得る。それに加えて、角占有率Rが、0.70を上回る場合、ヨーク部外周面121Bの筒型ケーシング30との接触箇所124に強い圧縮応力が生じる。これにより、当該接触箇所124が破損する危険性が高まり、筒型ケーシング30がステータコア120を安定に保持できない事態が生じ得る。
【0039】
これに対して、溝部123の角占有率Rが、0.50〜0.70の範囲内にある場合、溝部底壁123Aに加わる圧縮応力が、上記の場合と比べて著しく低減される。また、ステータコア120の他の箇所にも、強い圧縮応力は生じない。従って、角占有率Rがこの数値範囲内にあることにより、ステータコア120内の圧縮応力を大きく低減させ、その結果、ステータコア120の鉄損の増大、ひいては電動機10の動作効率低減を防ぐことができる。また、このようにステータコア120内に加わる圧縮応力を低減可能であるため、ステータコア120の積層方向の形状歪を防ぐことができる。
【0040】
更に、上記角占有率Rが、0.55〜0.60である場合、ステータコア120内に生成される筒型ケーシング30からの圧縮応力が、上記数値範囲の条件(R:0.50〜0.70)に比べて、より大きく低減される。
【0041】
更に、水平断面視(すなわち
図2)において、ステータ110の任意の断面における溝部123全ての合計面積(mm
2)をS1とし、これと同一断面におけるステータ110の面積(mm
2)をS2とする場合、溝部123の面積占有率Sを下記式(2)で定義する。
S=S1/S2 (2)
【0042】
このとき、S2は、ステータ110の外径(中心点Oを通過するヨーク部外周面121Bの2点間の距離)φを直径とする円の面積である(例えば、ステータ110の外径φが150mmの場合、S2は、17,663mm
2である。ただし、円周率を3.14として計算した。)。
【0043】
上記面積占有率Sが、0.036〜0.042である場合、筒型ケーシング30によるステータコア120の安定保持、及びロータ140に十分な回転エネルギーを付与可能な磁界の生成能力を維持しながら、ステータコア120内に加わる圧縮応力を大きく低減させることができる。
【0044】
更に、上記面積占有率Sが、0.039〜0.041であることがより好ましい。面積占有率Sが、この数値範囲内であることで、ステータコア120内の圧縮応力低減効果が、より有効に発揮される。
【0045】
また、水平断面視における溝部底壁123Aの幅BW(溝部側壁の一方123B1から他方123B2の距離)が、ティース部コイル巻着部122Aの幅TWに比べて長い程、特に、溝部底壁123A近傍に生じる圧縮応力が大きく低減される。ただし、底壁123Aの幅BWが長すぎると、ステータコア外周面121Bと筒型ケーシング30との接触領域が少なくなり、ステータコア120が筒型ケーシング30から外れ易くなる。
【0046】
更に、
図2に示されるように、水平断面視における溝部底壁123Aの輪郭は、直線状であるか、又はヨーク部外周面121Bの輪郭と略同一の曲率を有するよう径方向外側に湾曲する形状であることが好ましい。
【0047】
底壁123Aの輪郭形状を上記のようにすることで、ステータコア120に生じる圧縮応力、特に、底壁123A近傍に生じる圧縮応力を大きく低減することができる。更に、底壁123Aの輪郭が、ヨーク部外周面121Bの輪郭と略同一の曲率を有するよう径方向外側に湾曲する場合の方が、当該輪郭が直線状である場合と比べて、底壁123A近傍に生じる圧縮応力をより低減させることができる。
【0048】
また、溝部側壁123Bの双方(123B1、123B2)が、底壁123Aの側端辺1231から、ヨーク部121の径方向外側に向かって垂直に立ち上がることが好ましい。側壁123Bが底壁123Aから垂直に立ち上がる構造とすることで、ステータコア120における溝部123の形成作業を容易に行え、且つステータコア120に生じる圧縮応力を低減させることができる。すなわち、複雑な形状を採用せずとも、ステータコア120に生じる圧縮応力を有効に低減させることができる。
【0049】
なお、上記において、ステータ110(ステータコア120)が、筒型ケーシング30の胴部310に焼嵌められる態様を説明した。ただし、ステータ110(ステータコア120)と、筒型ケーシング30との嵌合方法は、筒型ケーシング30に対してステータ110が適切に保持されるものであれば、これに限られない。また、電動機10として、モータが想定されるが、発電機であってもよい。モータの種類も特に限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
以上説明した電動機(モータ)用ステータに関して、具体的な実施の例を以下に記す。ただし、本発明は、下記の実施例により限定及び制限されるものではない。
【0051】
まず、
図3及び
図4を参照して、本発明に係る電動機用ステータの実施例及び比較例の詳細を説明する。ここで、
図3は、各実施例及び比較例において、筒型ケーシング30の胴部310に焼嵌めされたステータコア120に生じる圧縮応力のシミュレーション結果を示す。ここで、表示色が赤い領域程、応力が強く加わっており、表示色が青い領域程、応力が弱い。赤色と青色の間の色に関しては、橙、黄、緑、水色の順に圧縮応力が弱まる(なお、本願に添付の
図3は、グレースケールであるため、別途物件提出書で提出する
図3のカラー図も併せて参照されたい。
図3(グレースケール)において、青色表示領域(圧縮応力が弱い領域)と赤色表示領域(圧縮応力が強い領域)の双方とも、区別の付かない状態で表示される。ここで、ティース部122の全域は青色で表示されている。また、筒型ケーシング30の全域は赤色で表示されている。ヨーク部121には、濃淡が現れており、濃く表示される領域程、圧縮応力が強いことを示す。)。
【0052】
また、
図4は、各実施例及び比較例に係るステータコア120の部分拡大図を示す。より詳しくは、ステータコア120の水平断面における、溝部底壁123Aとヨーク部内周面121Aとの最少距離を示す狭小線と、狭小線の垂線とを示す図である。ここで、上記狭小線とは、同一断面において、底壁側端辺1231と、前記ヨーク部内周面121Aとの最小距離を結ぶ線分である。
【0053】
なお、各実施例及び比較例に関する、角占有率R、個々の溝部123の寸法(単位:mm)、ステータコア120に形成される全ての溝部123の合計面積(単位:mm
2)、面積占有率Sの値は、下表1の通りである。ここで、全ての実施例、比較例で用いられるステータコア120は、外径150mmの断面円形状を有する。また、極数は8個である。
【0054】
【表1】
【0055】
図3に示されるように、角占有率Rが、0.50〜0.70の範囲内(より正確には、0.55〜0.60の範囲内)に収まる実施例1及び実施例2において、加わる圧縮応力が比較例に比べて大きく低減された。特に、溝部底壁123A近傍に生じる圧縮応力の低減が顕著に現れた。このことから、ステータコア120において、角占有率Rの条件を前記数値範囲内にすることで、筒型ケーシング30に焼嵌めされたステータコアに生じる圧縮応力を大きく低減可能であることが見出された。
【0056】
なお、比較例5において、溝部底壁123Aに生じる圧縮応力は、実施例1及び実施例2に比べて少ない。しかしながら、ヨーク部121と筒型ケーシング30との接触箇所124や、ヨーク部内周面121Aのティース部122近傍箇所等の複数箇所に局所的で強い圧縮応力が生じている。接触箇所124にこのような局所的な圧縮応力が生ずれば、筒型ケーシング30との係合が容易に解除される状態が形成されてしまう。また、局所的な圧縮応力は、ステータコア120の積層方向の形状(変形)歪を誘発しやすい。これに対して、実施例1、実施例2において、そのような局所的な圧縮応力は生じていない。
【0057】
ここで、
図4に示される実施例1及び実施例2を参照すると、水平断面において、溝部底壁123Aの側端辺1231と、ヨーク部内周面121Aとの最少距離を結ぶ線分(狭小線)の垂線が、底壁123Aの幅方向に略平行である場合に圧縮応力が低減されていることが分かる。これに対して、上記垂線が、底壁123Aの幅方向と平行でない場合、それより強い圧縮応力が加わっている。従って、角占有率Rが、前述の数値範囲内にある場合であって、更に、狭小線が上記条件を満たす場合、ステータコア120に生じる圧縮応力を大きく低減可能であることが示唆された。
【0058】
また、
図3を参照して、実施例1と実施例2とを比較すると、実施例1における溝部底壁123A近傍の圧縮応力が、実施例2のそれに比べて低減されるというシミュレーション結果が得られた。実施例1は、ステータコア外周面121Bに対応するよう湾曲する溝部底壁123Aを備えるものである。これに対して、実施例2は、直線状の底壁123Aを備えるものである。従って、角占有率Rが0.50〜0.70の範囲内(より正確には、0.55〜0.60の範囲内)にある溝部123において、底壁123Aの形状がステータコア外周面121Bに対応するよう湾曲する場合、底壁123Aの形状が直線状である場合に比べて、より圧縮応力低減効果を発揮することが示唆された。
【0059】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、以上の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。