【実施例】
【0034】
(実施例1)
前記押出複合材の製造方法の実施例を、
図1〜
図4を用いて説明する。本例の製造方法においては、
図1に示すように、分散予定材30により表面が覆われたマトリクス塊20を作製する。次いで、
図2に示すように、金属マトリクス2となるマトリクス塊20と、分散質3となる分散予定材30とが接触した状態でマトリクス塊20にダイス41を押し当ててダイス41を回転させる(矢印410)。そして、ダイス41の回転によってマトリクス塊20を塑性流動させ、分散予定材30をマトリクス塊20中に分散させる。その後、
図3に示すようにマトリクス塊20をダイス41から押し出すことにより、金属マトリクス2と、金属マトリクス2中に分散した分散質3とを有する押出複合材1を作製することができる。
【0035】
以下、本例の製造方法をより詳細に説明する。本例のマトリクス塊20は、Al:0.30質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、直径90mm、長さ100mmの円柱状を呈するビレットである。マトリクス塊20は、前記Cu基合金からなり、直径95mm、長さ180mmの円柱状を呈する鋳塊を溶製法によって作製した後、鋳塊の表面を面削することにより作製した。
【0036】
このようにして得られたマトリクス塊20を大気雰囲気中で800℃の温度に2時間保持して予熱を行った。この予熱により、
図1に示すように、マトリクス塊20の表面に分散予定材30としてのCu酸化物の皮膜31が形成された。Cu酸化物の皮膜31の質量は、マトリクス塊20中のAlの質量の3.5〜9.5倍であった。
【0037】
本例において押出複合材1の作製に使用した熱間押出機4の要部を
図1に示す。熱間押出機4は、マトリクス塊20の攪拌及び押出を行うためのダイス41と、ダイスを保持するダイホルダ42と、マトリクス塊20を保持するためのコンテナ43と、を有している。
【0038】
図4に示すように、ダイス41は、マトリクス塊20を押し出すための開口部411を有している。本例のダイス41における開口部411は、直径25mmの円形を呈している。ダイス41の内側面412、つまり、マトリクス塊20に押し当てられる面は、
図1に示すように、径方向の外方に向かうにつれて後方に突出するように傾斜している。また、ダイス41の内側面412には、複数の溝413が設けられている。本例の溝413は、時計回り方向に旋回しながら開口部411から内側面412の外周端縁へ向かうらせん状を呈している。
【0039】
図1に示すように、ダイホルダ42はコンテナ43の前方に配置されている。ダイホルダ42の後端部、つまり、コンテナ43側の端部は、ダイス41を保持することができるように構成されている。また、ダイホルダ42は、ダイス41を回転させながらコンテナ43側へ移動することができるように構成されている。
【0040】
本例においては、
図1に示すように、表面にCu酸化物の皮膜31を有するマトリクス塊20をコンテナ43に挿入した後、ダイホルダ42を回転させつつ後方、つまりコンテナ43側に移動させた(矢印421参照)。そして、ダイホルダ42に保持されたダイス41を回転させながらマトリクス塊20に押し当てた。
【0041】
ダイス41の回転速度は、例えば500〜5000rpmの範囲内から適宜設定することができる。本例のダイス41の回転速度は1500rpmとし、ダイホルダ42の回転方向は、ダイス41の内側面412側から見た場合に時計回りになる方向(
図2及び
図4、矢印410参照)とした。また、ダイス41の押し付け荷重は10kNとした。
【0042】
このようにしてダイス41を回転させながらマトリクス塊20に押し当てることにより、
図2に示すように、マトリクス塊20全体を塑性流動させた。マトリクス塊20とダイス41との接触部分においては、マトリクス塊20が溝413に沿って回転中心軸側へ導かれ、マトリクス塊20の外表面から内部へ向かう方向への塑性流動が発生した。また、分散予定材30としてのCu酸化物の皮膜31は、この塑性流動に巻き込まれることによって破砕された。以上の結果、マトリクス塊20全体にCu酸化物の粒子310が分散された。
【0043】
マトリクス塊20を十分に攪拌した後、
図3に示すように、ダイホルダ42をさらに後方へ移動させることにより(矢印422参照)、ダイス41の押し付け荷重を100kNまで増加させた。これにより、ダイス41の前方へマトリクス塊20を押し出し、押出複合材1を形成した。
【0044】
本例の方法により得られた押出複合材1は、丸棒状を呈しており、金属マトリクス2としてのCu基合金全体に、分散質3としてのCu酸化物が分散した構造を有している。
【0045】
本例の押出複合材1は、アルミナ分散強化銅のプリフォームとして使用することができる。押出複合材1をアルミナ分散強化銅とする場合には、押出複合材1を700〜1050℃に加熱すればよい。これにより、Cu酸化物中の酸素を拡散させ、金属マトリクス2中のAlを内部酸化させることができる。その結果、金属マトリクスとしてのCu基合金中に分散質としてのアルミナが分散されたアルミナ分散強化銅を作製することができる。
【0046】
本例においては、押出複合材1を真空中で850℃の温度に1時間保持し、金属マトリクス中のAlを内部酸化させてアルミナ分散強化銅とした。内部酸化処理を行った後、アルミナ分散強化銅の表面の酸化皮膜を除去し、更に引き抜き加工を施して直径16mmの丸棒状とした。
【0047】
以上により得られたアルミナ分散強化銅中の化学成分を分析したところ、アルミナの含有量は0.60質量%であり、金属マトリクス中の金属Alの量は0.01質量%であった。また、アルミナ分散強化銅の丸棒を適当な長さに切断した後、鍛造加工を施すことにより抵抗スポット溶接用の電極を作製した。この電極をスポット溶接装置に取り付け、板厚1mmの亜鉛メッキ鋼板に繰り返しスポット溶接を行い、電極が使用不能となるまでの溶接回数を計測した。その結果、本例の方法により得られた電極は、約4000回のスポット溶接後に使用不能となった。
【0048】
本例の作用効果を説明する。本例の製造方法は、ダイス41の回転によってマトリクス塊20を機械的に攪拌することにより、マトリクス塊20中にCu酸化物の粒子310を分散させることができる。そのため、比較的高価な金属マトリクスの粉末の使用を回避し、粉末冶金法に比べて材料コストを低減することができる。また、Cu酸化物の粒子310を分散させた後にマトリクス塊20を押し出すことにより、押出複合材1を作製することができるため、粉末冶金法に比べて工程数を削減し、製造コストを低減することができる。
【0049】
更に、本例の製造方法は、マトリクス塊20中と分散予定材30とを機械的に攪拌することによって分散予定材30をマトリクス塊20中に分散させることができるため、金属マトリクス2中の分散質3の材質や量、存在形態を自由に選択することができる。それ故、本例の製造方法によれば、優れた性能を有する押出複合材1を作製することができる。
【0050】
以上のように、本例の製造方法によれば、優れた性能を有する押出複合材1を安価に作製することができる。
【0051】
(実施例2)
本例は、マトリクス塊22を攪拌した際の加工発熱によってマトリクス塊22の表面に分散予定材30としてのCu酸化物の皮膜31を形成した例である。なお、本例以降の実施例及び比較例において用いる符号のうち、既出の実施例等において用いた符号と同一のものは、特に説明のない限り既出の実施例等における構成要素等と同様の構成要素等を示す。
【0052】
本例においては、実施例1と同様に、溶製法によって鋳塊を作製した後、鋳塊の表面を面削することにより、マトリクス塊22を作製した。本例のマトリクス塊22は、Al:0.60質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、直径90mm、長さ150mmの円柱状を呈するビレットである。
【0053】
マトリクス塊22を窒素雰囲気中で800℃の温度に2時間保持して予熱を行った後、
図5に示すように、マトリクス塊22をコンテナ43内に挿入した。なお、予熱が完了した後、マトリクス塊22の表面にCu酸化物の皮膜は形成されなかった。
【0054】
次いで、ダイス41を回転させながらマトリクス塊22に押し当て、マトリクス塊22を塑性流動させた。ダイス41によって攪拌されたマトリクス塊22は、加工発熱によって温度が上昇する。本例においては、マトリクス塊22を30秒間攪拌した。これにより、ダイス41の外側面414、つまり、ダイホルダ42に保持されている側の面が黒色に変色した。その後、ダイホルダ42を前方へ移動させてダイス41をマトリクス塊22から引き離した。
【0055】
ダイス41がマトリクス塊22から引き離されると、加熱されたマトリクス塊22に大気が接触する。その結果、
図6に示すように、マトリクス塊22の表面に分散予定材30としてのCu酸化物の皮膜31が形成された。その後、マトリクス塊22にダイス41を再び押し当てて回転させることにより、Cu酸化物の皮膜31を破砕しつつマトリクス塊22を攪拌した。
【0056】
本例では、マトリクス塊22の攪拌を30秒間行い、次いでCu酸化物の皮膜31の形成を30秒間行うサイクルを5回繰り返すことにより、Cu酸化物の粒子310をマトリクス塊22中に分散させた。なお、いずれのサイクルにおいても、ダイス41の回転速度は3000rpmとした。
【0057】
前述したサイクルを5回繰り返した後、ダイス41をマトリクス塊22に押し当ててマトリクス塊22の押出を行い、押出複合材を得た。得られた押出複合材に、実施例1と同様の方法により内部酸化処理、酸化皮膜の除去及び引き抜き加工を施し、直径16mmの丸棒状を呈するアルミナ分散強化銅を得た。本例におけるアルミナ分散強化銅中のアルミナの含有量は1.20質量%であり、金属マトリクス中のAl量は0.01質量%であった。
【0058】
以上により得られたアルミナ分散強化銅の丸棒を適当な長さに切断した後、鍛造加工を施すことにより抵抗スポット溶接用の電極を作製した。この電極をスポット溶接装置に取り付け、板厚1mmの亜鉛メッキ鋼板に繰り返しスポット溶接を行い、電極が使用不能となるまでの溶接回数を計測した。その結果、本例の方法により得られた電極は、約6000回のスポット溶接後に使用不能となった。その他は実施例1と同様である。
【0059】
分散予定材30がマトリクス塊20を構成する金属の酸化物である場合には、実施例1に示したように、予熱等の熱処理によってマトリクス塊20の表面に予め分散予定材30を形成してもよいし、本例に示したように、コンテナ43内においてマトリクス塊22を酸化させることにより形成してもよい。本例の方法によれば、マトリクス塊22の表面を酸化させるための熱処理等を省略することができる。それ故、押出複合材の製造工程を簡素化することができる。その他、本例の方法は、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0060】
(比較例1)
本例は、従来の粉末冶金法によって作製された抵抗スポット溶接用の電極の耐久性を評価した例である。本例においては、粉末冶金法によって作製されたアルミナ分散強化銅に鍛造加工を施すことにより、抵抗スポット溶接用の電極を作製した。なお、アルミナ分散強化銅中に含まれるアルミナの質量は約0.6質量%であり、金属Alの質量は約0.04質量%であった。
【0061】
得られた電極をスポット溶接装置に取り付け、板厚1mmの亜鉛メッキ鋼板に繰り返しスポット溶接を行い、電極が使用不能となるまでの溶接回数を計測した。その結果、本例の方法により得られた電極は、約2000回のスポット溶接後に使用不能となった。
【0062】
実施例1、2と比較例1との比較から、実施例1及び実施例2の製造方法により作製された押出複合材をスポット溶接用の電極とすることにより、従来の粉末冶金法により作製された電極に比べてスポット溶接における耐久性を向上可能であることが理解できる。更に、実施例1、2の製造方法によれば、押出複合材を安価に作製可能であることが容易に理解できる。
【0063】
また、実施例1、2の製造方法により得られたアルミナ分散強化銅は、比較例1、つまり、従来の粉末冶金法によるアルミナ分散強化銅に比べて金属Alの含有量が少なくなっている。かかる結果から、実施例1、2の製造方法によれば、従来の粉末冶金法によるアルミナ分散強化銅に比べて高い導電率を備えたアルミナ分散強化銅を作製可能であることが容易に理解できる。
【0064】
(実施例3)
本例は、純アルミニウムを金属マトリクスとする押出複合材の製造方法の例である。本例においては、実施例1と同様に、溶製法によって鋳塊を作製した後、鋳塊の表面を面削することにより、マトリクス塊23を作製した。本例のマトリクス塊23は、純アルミニウムからなり、直径90mm、長さ150mmの円柱状を呈するビレットである。
【0065】
また、本例においては、
図7に示すように、直径25mmの円形を呈する開口部415を備えたダイス41と、分散予定材30を供給するための供給口441を備えたコンテナ44とを有する熱間押出機403を使用した。コンテナ44の供給口441は、マトリクス塊23を攪拌する際に、マトリクス塊23の塑性流動に分散予定材30を巻き込むことができる位置であれば、どのような位置に設けられていてもよい。本例のコンテナ44における供給口441は、具体的には、コンテナ44の後方の壁部442、つまり、ダイス41に対面する壁部に設けられている。また、供給口441は、直径10mmの円形を呈している。供給口441は、コンテナ44の外部に設けられた分散予定材30のタンク(図示略)と、分散予定材供給管443を介して接続されている。
【0066】
本例の製造方法においては、マトリクス塊23を窒素雰囲気中で800℃の温度に2時間保持して予熱を行った後、マトリクス塊23をコンテナ44内に挿入した。次いで、ダイホルダ42に保持されたダイス41を回転させながらマトリクス塊23に押し当て、マトリクス塊23を塑性流動させた。なお、本例におけるダイス41の回転速度は1500rpmとした。
【0067】
また、マトリクス塊23の攪拌と同時に、供給口441からコンテナ44内に分散予定材30としてのカーボンナノチューブ32を供給した。供給口441からコンテナ44内に供給されたカーボンナノチューブ32は、マトリクス塊23の塑性流動に巻き込まれ、マトリクス塊23中に分散された。
【0068】
マトリクス塊23を十分に攪拌した後、ダイス41を押し付け荷重100kNでマトリクス塊23に押し当て、マトリクス塊23の押出を行った。以上により、押出複合材を得た。
【0069】
本例により得られた押出複合材は、直径25mmの丸棒状を呈しており、金属マトリクス2としての純アルミニウムと、金属マトリクス2中に分散した分散質3としてのカーボンナノチューブとを有する、カーボンナノチューブ分散アルミニウムとなった。また、押出複合材の化学分析を行ったところ、押出複合材の組成は、Al−1%Cであった。
【0070】
得られた押出複合材からJIS Z2241:2011に規定する5号試験片を採取した。この試験片を230℃まで加熱し、JIS Z2241:2011の規定に準じた方法により高温引張試験を行った。高温引張試験により得られた引張強さは550MPaであった。
【0071】
マトリクス塊23と分散予定材30とを別々に準備し、分散予定材30をマトリクス塊23中に分散させる場合には、本例の製造方法のように、マトリクス塊23の攪拌と同時にコンテナ44内に分散予定材30を供給してもよい。また、図には示さないが、コンテナ44内にマトリクス塊23と分散予定材30とを挿入した後、ダイス41を回転させてマトリクス塊23及び分散予定材30を攪拌することもできる。いずれの場合においても、マトリクス塊23と分散予定材30とが接触した状態でマトリクス塊23を塑性流動させることにより、マトリクス塊23中に分散予定材30を分散させることができる。その結果、優れた性能を有する押出複合材を安価に作製することができる。
【0072】
(比較例1)
本例は、粉末冶金法により、Al−1%Cの組成を有するカーボンナノチューブ分散アルミニウムを作製した例である。
【0073】
本例では、アトマイズ法によって得られた純アルミニウム粉末とカーボンナノチューブとを、カーボンナノチューブの含有量が1質量%となるように混合して混合粉末を作製した。この混合粉末を金属カプセル内に収容した後、金属カプセル内を減圧しながら加熱することにより、混合粉末の脱ガスを行った。
【0074】
脱ガスが完了した後、金属カプセルにホットプレスを施すことにより、カプセル内の混合粉末を圧縮してかさ密度を増大させた。その後、金属カプセルから取り出した混合粉末の圧粉体に熱間押出を施すことにより、直径25mmの丸棒状を呈するカーボンナノチューブ分散アルミニウムの押出材を得た。
【0075】
得られた押出材を用い、実施例1と同様の方法により高温引張試験を行ったところ、押出材の引張強さは550MPaであった。
【0076】
実施例3と比較例2との比較から、実施例1の製造方法によれば、従来の粉末冶金法による複合材と同等以上の性能を有する押出複合材を安価に作製可能であることが容易に理解できる。
【0077】
本発明に係る押出複合材及びその製造方法の態様は、上述した実施例の態様に限定されるものではなく、その趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0078】
金属マトリクスと分散質との組み合わせは、実施例1〜3に記載した組み合わせに限らず、所望する特性に応じて適宜変更することができる。例えば、実施例3においては、金属マトリクスが純アルミニウムであり、分散質がカーボンナノチューブである例を示したが、分散質をSiやセラミクス等に変更してもよい。また、金属マトリクスを純銅や銅合金に変更し、分散質をCr、Zr、P等に変更することもできる。同様に、実施例1及び2においても金属マトリクス及び分散質を適宜変更することができる。
【0079】
また、実施例1〜実施例3においては、マトリクス塊の攪拌と押出とを逐次的に行う例を示したが、マトリクス塊の攪拌と押出とを並行して行ってもよい。
【0080】
実施例1〜3には、マトリクス塊をコンテナに挿入する前に余熱を行う例を示したが、予熱を行わずにダイスをマトリクス塊内に押し当てて回転させることも可能である。予熱を行わない場合においても、ダイスの回転によって摩擦熱が生じるため、予熱を行う場合と同様にマトリクス塊を塑性流動させることができる。