【解決手段】正極と、負極と、該正極および該負極の間に配置され、セルロース繊維不織布からなるセパレータとを備えた非水電解質二次電池であって、前記正極および前記負極と前記セパレータとの間の少なくとも1つにフッ素樹脂からなるフッ素樹脂材が配置され、前記フッ素樹脂がフッ化ビニリデンと該フッ化ビニリデン以外のフッ素原子含有単量体との共重合体を50〜100質量%含有し、前記フッ素樹脂材の厚さが0.1μm以上、1μm未満であることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0029】
(実施形態1)
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、正極と、負極と、該正極および該負極の間に配置され、セルロース繊維不織布からなるセパレータとを備える。
【0030】
<正極>
前記正極は、非水電解質二次電池の正極として一般に用いられる正極活物質を用いて形成することができる。正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウムなどのリチウム塩、硫化ニッケル、硫化銅、硫黄、酸化鉄、酸化バナジウムなどが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。これらの正極活物質は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
<負極>
前記負極は、非水電解質二次電池の負極として一般に用いられる負極活物質を用いて形成することができる。負極活物質としては、例えば、金属活物質、カーボン活物質などが挙げられる。金属活物質としては、例えば、リチウム、インジウム、アルミニウム、スズ、ケイ素などの金属やこれらの合金などが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。また、カーボン活物質としては、例えば、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素などが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。これらの負極活物質は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0032】
<セパレータ>
(セルロース繊維不織布)
本実施形態では、前記正極および前記負極の間に配置されるセパレータを構成する材料として、セルロース繊維不織布が使用される。このように、本実施形態に係る非水電解質二次電池は、セルロース繊維不織布からなるセパレータが使用されているので、耐熱性に優れる。
【0033】
なお、本明細書において、「耐熱性に優れる」とは、200℃以上、好ましくは300℃以上の温度に対して、熱的に安定であることを意味する。
【0034】
前記セルロース繊維不織布の厚さは、絶縁性を保持する観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、電池のエネルギー密度を向上させる観点から、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0035】
前記セルロース繊維不織布は、例えば、セルロース繊維と水溶性開孔剤とを含む成膜液を用いて形成することができる。
【0036】
(セルロース繊維)
前記セルロース繊維の原料となるセルロースは、特に限定されるものではなく、例えば、植物、動物、バクテリア産生ゲルなどの生合成から単離して精製した天然セルロースを使用することができる。より具体的には、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンターのような綿系パルプ、麦わらパルプやバガスパルプなどの非木材系パルプ、バクテリアセルロースやホヤから単離されるセルロース、海草から単離させるセルロースなどを挙げることができる。
【0037】
前記セルロース繊維は、平均繊維径が、3nm〜300nm程度であることが好ましい。平均繊維径が3nm以下の場合は、セパレータのイオン電導性が不十分となるおそれがある。また、平均繊維径が1μmよりも大きい繊維をできるだけ含まないことが好ましい。具体的には、平均繊維径が1μm以下の繊維の割合が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。さらに平均繊維径が500nm以下の繊維の割合が80質量%以上であることが好ましい。平均繊維径が大きい繊維の割合を少なくすることにより、成膜の際にセパレータとしての厚さ、細孔径、および透気度などの制御が容易となる。
【0038】
なお、平均繊維径は、セパレータの状態のものを、または微細セルロースファイバーの希薄溶液をキャスト成膜し乾固させたものを、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡により観察して測定することができる。0.1〜2重量%未満の微細セルロースファイバー水分散物の粘度(E型またはB型粘度計)、引張強度、および多孔質膜の比表面積を総合的に評価することにより、平均繊維径が1μm未満の繊維の割合を求めることができる(例えば、国際公開2013/054884号を参照)。
【0039】
(水溶性開孔剤)
前記成膜液の原料として前記セルロース繊維と共に用いられる前記水溶性開孔剤は、成膜液を乾燥させるなど、水溶性開孔剤を除去することにより、成膜液を乾燥させた膜において多数の開孔部を形成するものである。
【0040】
前記水溶性開孔剤としては、既知の水溶性有機溶媒を使用することができ、例えば、1,5−ペンタンジオール、1−メチルアミノ−2,3−プロパンジオールなどの高級アルコール類;イプロシンカプロラクトン、α−アセチル−γ−ブチルラクトンなどのラクトン類;ジエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類;トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;グリセリン、炭酸プロピレン、N-メチルピロリドンなどが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。これらの水溶性開孔剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの水溶性開孔剤のなかでは、電解液溶媒として使用され、残留しても影響の少ない、炭酸プロピレンが好ましい。
【0041】
前記成膜液における前記水溶性開孔剤の含有量は、必要とする膜の特性などに応じて調整することができるが、セパレータとして必要な開孔を確保する観点から、前記セルロース繊維100質量部に対して5質量部以上が好ましく、100質量部以上がより好ましく、また3000質量部以下が好ましく、1000質量部以下がより好ましい。
【0042】
(その他の成分)
前記成膜液の原料には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、その他の成分として、バインダー成分、添加剤などを適宜添加することができる。
【0043】
前記成膜液の原料には、前記バインダー成分として、水に溶解または水に分散可能なポリマーが添加されていることが好ましい。このようなポリマーの水への溶解性は温度および濃度に依存するが、例えばポリマー粉末を水に加えて攪拌した場合、水に一部が溶解する条件であれば、ポリマー粉末表面が水に溶解してポリマー粉末が水に分散した状態になる。このようなポリマーを使用することにより、セルロース繊維不織布の強度を向上させることができる。
【0044】
前記ポリマーとしては、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂およびこれらの変性体などが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。これらのポリマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのポリマーのなかでは、セルロース繊維と多数の水素結合を形成できるという観点から、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0045】
前記ポリビニルアルコールは、重合度、けん化度、変性基ともに特に限定しないが、セルロース繊維とより多くの水素結合を形成できるという観点から、高重合度および高けん化度が好ましい。具体的には重合度は1000以上、けん化度は85%以上が好ましい。
【0046】
前記成膜液における前記バインダーの含有量は、前記セルロース繊維に対して0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。バインダーが0.1質量%未満であると、セパレータの機械的強度(破断伸率)が不足して脆くなってしまうおそれがある。バインダーが40質量%よりも多いと、セパレータの孔が塞がれてイオン電導性が低下するおそれがある。
【0047】
なお、破断伸率の指標としては破断伸度が挙げられるが、破断伸度とは、JIS K7127に準拠して測定された値のことをいう。
【0048】
前記添加剤としては、例えば、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、シラノール化合物、オキサゾリン化合物、アミン化合物、金属アルコキシドおよびその加水分解物などの水酸基またはカルボキシル基と反応し得る架橋剤、消泡剤、レベリング剤、無機フィラー、可塑剤、分散剤、その他の添加剤などが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。これらの添加剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
(セパレータの透気度)
以上のようにして得られるセパレータの透気度は、電池としての特性を担保する観点から、50秒/100ml以上、500秒/100ml以下であることが好ましい。透気度が50秒/100mlよりも小さい場合は、セパレータの孔径サイズが大きくなるため、不活性リチウムによって短絡するおそれがあり、500秒/100mlよりも大きい場合は、イオン伝導度が低下する場合があるためである。
【0050】
なお、本明細書において、「透気度」とは、JIS P8117に準拠して測定された値のことをいう。
【0051】
<フッ素樹脂材>
本実施形態では、発明の特徴として、前記正極および前記負極と前記セパレータとの間の少なくとも1つに、後述するフッ素樹脂からなる、厚さが0.1μm以上、1μm未満のフッ素樹脂材が配置される。このように、本実施形態に係る非水電解質二次電池は、所定の位置に、特定のフッ素樹脂からなる、特定の厚さのフッ素樹脂材が配置されているので、耐電圧性に優れる。
【0052】
なお、本明細書において、「耐電圧性に優れる」とは、4.2V以上の高電圧の負荷に対して、電気化学的に安定であることを意味する。
【0053】
前記フッ素樹脂材は、前記正極および前記負極と前記セパレータとの間の少なくとも1つに配置される、すなわち正極とセパレータとの間、および/または負極とセパレータとの間に配置される。これらのなかでは、高電圧負荷に対して正極の酸化を防止して電気化学的安定性を向上させる(耐電圧性を向上させる)観点から、正極とセパレータとの間に配置されることが好ましく、透気度の上昇を抑制するとともに、非水電解質二次電池の薄型化およびコスト削減の観点から、正極とセパレータとの間のみに配置されることがより好ましい。
【0054】
また、前記正極と前記セパレータとの間に配置されるフッ素樹脂材は、具体的には、生産性および厚さの調整などの加工性を向上させる観点から、セルロース繊維不織布(セパレータ)の正極側の側面に積層されたコーティング層、および正極のセパレータ側の側面に積層されたコーティング層であることが好ましく、セルロース繊維不織布の正極側の側面に積層されたコーティング層であることがより好ましい。
【0055】
前記フッ素樹脂材および前記コーティング層(各フッ素樹脂材および各コーティング層)の厚さは、0.1μm以上、1μm未満である。このように、本実施形態に係る非水電解質二次電池は、各フッ素樹脂材および各コーティング層の厚さが特定の厚さであるので、透気度の上昇を抑制して、電極間におけるリチウムイオンの移動の阻害を防止することができ、良好な電池性能(サイクル特性)を実現することができる。
【0056】
前記フッ素樹脂材または前記コーティング層の厚さは、耐電圧性を向上させる観点から、0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.3μm以上であり、透気度の上昇を抑制して良好な電池性能を実現する観点から、1μm未満である。
【0057】
(フッ素樹脂)
前記フッ素樹脂材および前記コーティング層の原料として用いられるフッ素樹脂は、フッ化ビニリデンと該フッ化ビニリデン以外のフッ素原子含有単量体との共重合体(以下、「フッ化ビニリデン系共重合体」ともいう)を50〜100質量%含有する。
【0058】
このように、本実施形態に係る非水電解質二次電池は、前記フッ素樹脂として、その原料にフッ化ビニリデンを必須成分として含有する前記フッ化ビニリデン系共重合体を50〜100質量%含有するので、電解液との親和性(濡れ性)および耐酸化性に優れる。
【0059】
また、前記フッ化ビニリデン系共重合体は、フッ化ビニリデンと該フッ化ビニリデン以外のフッ素原子含有単量体との共重合体であるため、フッ化ビニリデンの単独重合体(ポリフッ化ビニリデン)と対比して、脱HFが起こりにくく、高電圧化に対してより電気化学的に安定であり、より耐電圧性に優れ、良好な電池性能を実現することができる。
【0060】
前記フッ化ビニリデン以外のフッ素原子含有単量体としては、例えば、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびフルオロアルキルビニルエーテルなどが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。これらのフッ化ビニリデン以外のフッ素原子含有単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのフッ化ビニリデン以外のフッ素原子含有単量体のなかでは、耐酸化性を向上させる観点から、ヘキサフルオロプロピレンが好ましい。
【0061】
したがって、前記フッ化ビニリデン系共重合体としては、例えば、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体などが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。これらの共重合体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの共重合体のなかでは、耐酸化性を向上させる観点から、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体が好ましい。
【0062】
フッ化ビニリデンと該フッ化ビニリデン以外のフッ素原子含有単量体とのmol比(フッ化ビニリデン/フッ化ビニリデン以外のフッ素原子含有単量体)は、耐電圧性を向上させる観点から、好ましくは70/30〜99.9/0.1、より好ましくは80/20〜99.5/0.5である。
【0063】
前記フッ化ビニリデン系共重合体の重量平均分子量は、セルロース繊維不織布に対する密着性を向上させる観点から、好ましくは1000以上、1000万以下、より好ましくは5000以上、500万以下、さらに好ましくは1万以上、300万以下である。
【0064】
なお、本明細書において、前記フッ化ビニリデン系共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定された重量平均分子量(ポリスチレン換算)を意味する。
【0065】
また、前記フッ化ビニリデン系共重合体は、前記フッ素樹脂材が前記セルロース繊維不織布上または前記正極上に積層されたコーティング層である場合、該コーティング層のセルロース繊維不織布および正極に対する密着性を向上させる観点から、極性基を有することが好ましい。セルロース繊維不織布および正極の表面は親水性であるため、フッ化ビニリデン系共重合体が、その表面に極性基を有する場合には、セルロース繊維不織布および正極と強固に密着でき、剥離を防止することができる。
【0066】
前記極性基は、炭素原子と異なった電気陰性度をもつ原子を含む基を意味し、例えば、ハロゲン類、水酸基(−OH)、アミノ基(−NH
2)、ニトロ基(−NO
2)、カルボキシル基(−COOH)、ホルミル基(−CHO)、アルコキシ基(−OR)、エステル基(−COOR)、ニトリル基(−CN)などが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。これらの極性基は、それぞれ単独で1個以上を有していてもよく、2種類以上を有していてもよい。これらの極性基のなかでは、セルロースと水素結合を形成可能、かつ耐酸化性を向上させる観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0067】
前記極性基を有するフッ化ビニリデン系共重合体は、例えば、フッ化ビニリデンと、該フッ化ビニリデン以外のフッ素原子含有単量体と、前記極性基を有する単量体と、必要に応じて他の単量体とを含有する単量体成分を乳化重合、溶液重合、懸濁重合などの一般に使用される方法で共重合することにより、調製することができる。
【0068】
前記極性基を有する単量体としては、例えば、ハロゲン原子含有単量体、水酸基含有単量体、アミノ基含有単量体、ニトロ基含有単量体、カルボキシル基含有単量体、ホルミル基含有単量体、アルコキシ基含有単量体、エステル基含有単量体、ニトリル基含有単量体などが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。これらの極性基を有する単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの極性基を有する単量体のなかでは、セルロースと水素結合を形成可能、かつ耐酸化性を向上させる観点から、カルボキシル基含有単量体が好ましい。
【0069】
前記カルボキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、フラン酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸などの不飽和ジカルボン酸またはこれらの無水物およびそれらのモノエステルなどが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。
【0070】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味し、アクリル酸およびメタクリル酸は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。また、(メタ)アクリロニトリルは、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを意味し、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0071】
前記他の単量体としては、フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体であり、例えば、エチレン、クロロエチレン、トリクロロエチレン、塩化ビニル、プロピレン、(メタ)アクリル酸アルキル、およびスチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。これらの他の単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0072】
前記フッ化ビニリデン系共重合体の原料として用いられる単量体成分におけるフッ化ビニリデンの含有率は、電解液との親和性(濡れ性)および耐酸化性を向上させる観点から、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは60〜90質量%、さらに好ましくは70〜85質量%である。
【0073】
前記フッ化ビニリデン系共重合体の原料として用いられる単量体成分におけるフッ化ビニリデン以外のフッ素原子含有単量体の含有率は、高電圧化に対して電気化学的安定性および耐電圧性を向上させる観点から、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは5〜35質量%、さらに好ましくは10〜25質量%である。
【0074】
前記フッ化ビニリデン系共重合体の原料として用いられる単量体成分における極性基を有する単量体の含有率は、前記セルロース繊維不織布および前記正極に対する密着性を向上させる観点から、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%、さらに好ましくは1〜5質量%である。
【0075】
前記極性基を有するフッ化ビニリデン系共重合体は、商業的に容易に入手することができるものであり、ジカルボン酸変性フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(カルボキシル基を有するフッ化ビニリデン系共重合体)としては、例えば、(株)クレハ製、商品名:KFポリマー(登録商標)W#9300;モノカルボン酸変性フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(カルボキシル基を有するフッ化ビニリデン系共重合体)としては、例えば、(株)クレハ製、商品名:KFポリマー(登録商標)W#9700などが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。これらのフッ化ビニリデン系共重合体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0076】
前記フッ素樹脂は、前記フッ化ビニリデン系共重合体を50〜100質量%含有するが、本発明の効果を阻害しない範囲内で、その他の樹脂を含有するものであってもよく、その他の樹脂を含有せずにフッ化ビニリデン系共重合体を100質量%含有するもの、すなわちフッ化ビニリデン系共重合体のみからなるものであってもよい。これらのフッ素樹脂のなかでは、耐電圧性および耐熱性を向上させる観点から、フッ化ビニリデン系共重合体のみからなるものが好ましい。
【0077】
前記その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂;フッ化ビニリデンの単独重合体(ポリフッ化ビニリデン)などが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。
【0078】
前記フッ素樹脂における前記フッ化ビニリデン系共重合体の含有率は、耐電圧性および耐熱性を向上させる観点から、50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくはその上限値の100質量%である。
【0079】
<非水電解質二次電池の製造方法>
次に、本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法を説明する。この製造方法は、正極と、負極と、該正極および該負極の間に配置され、セルロース繊維不織布からなるセパレータとを備えた非水電解質二次電池を製造する方法であり、前記正極および前記負極を形成する電極形成工程と、セルロース繊維と水溶性開孔剤とを含む成膜液を用いてセルロース繊維不織布を形成する不織布形成工程と、フッ素樹脂を含有するフッ素樹脂溶液を用いてフッ素樹脂材を形成するフッ素樹脂材形成工程とを備える。
【0080】
<電極形成工程>
例えば負極に関して説明すると、天然黒鉛若しくは人造黒鉛、或いはそれらが混合された電極活物質と、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスの電極バインダーと、電子伝導性を補助する導電助剤と、これらの物質の水に対する分散性を向上させるカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩と、を水溶媒に分散させた合剤スラリーを準備する。この合剤スラリーを集電箔である銅箔上にアプリケータなどで塗布する工程と、恒温機で水溶媒を乾燥させる乾燥工程により活物質層が形成される。ここでは、負極の例を説明したが、電極活物質は正極または負極のいずれでも構わない。電極活物質層の厚みは特に限定されない。また、電極活物質層の上に多孔質絶縁層を設置したものを用いてもよい。
【0081】
<不織布形成工程>
次に、前記セルロース繊維と前記水溶性開孔剤とを含む成膜液を用いてセルロース繊維不織布を形成する不織布形成工程について説明する。
【0082】
(成膜液の調製工程)
まず、所定濃度の前記セルロース繊維の水懸濁液を調製する。なお、溶液中のセルロース繊維の濃度は、成膜の方法によって、適宜、調整すればよい。また、溶液の溶媒は、取り扱いの観点およびコスト削減の観点から水が好ましいが、水よりも蒸気圧が高い溶媒を添加して用いることもできる。
【0083】
次に、作製したセルロース繊維の水懸濁液に、前記水溶性開孔剤、必要に応じて前記ポリマーなどを添加した混合懸濁液を、分散機(例えば、高圧ホモジナイザー)を使用して、所定回数、処理した後、十分に攪拌を行なうことにより、微細化されたセルロース繊維(微細セルロース繊維)を含有する成膜液を調製する。
【0084】
なお、前記微細セルロース繊維の水懸濁液に、前記ポリマーなどを添加する場合、該ポリマーなどと前記水溶性開孔剤とを添加する順序は、いずれを先に添加してもよく、同時に添加してもよい。
【0085】
前記分散機としては、例えば、スクリュー型ミキサー、パドル型ミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサーなどが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。また、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダーなどの強力な叩解能力のある装置を用いることで、より微細セルロース繊維を含有する成膜液を得ることができる。
【0086】
(成膜液の塗工工程)
次に、前記で調製した成膜液を基材上に塗工する。基材を形成する材料としては、特に限定されないが、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸など)、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、セルロース系(セルロース、トリアセチルセルロースなど)、ポリアミド系(ナイロンなど)、アクリル系(ポリアクリロニトリルなど)、ポリスチレン系、ポリイミド系、ポリカーボネート系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリビニルアルコール系、紙系、フッ素化合物系〔テフロン(登録商標)など〕、ガラス、金属、またはこれらの誘導体などが挙げられる。
【0087】
なお、基材の形状は特に限定されず、フィルムやシートである場合は、厚さは10μm以上、1000μm以下であればよい。
【0088】
前記成膜液を前記基材上に塗工する方法としては、例えば、コンマコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、ダイレクトグラビアコーター、リバースグラビアコーター、オフセットグラビアコーター、ロールキスコーター、リバースキスコーター、マイクログラビアコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、ディップコーター、ブレードコーター、ブラシコーター、カーテンコーター、ダイスロットコーター、キャストコーターなどのいずれかの方法、または2つ以上の塗布方法を組み合わせて塗布することができる。なお、塗布方法は、バッチ式であってもよく、連続式も使用することができる。
【0089】
なお、前記基材に対する、前記成膜液および乾燥後の塗膜の密着性を考慮して、基材に対して、フッ素コーティング、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、アンカーコートなどの表面処理を予め行なってもよい。
【0090】
(成膜液の乾燥工程)
次に、前記基材上に塗工された前記成膜液を乾燥させる。乾燥方法としては、例えば、温風乾燥、赤外線乾燥、オーブン乾燥、ホットプレート乾燥、真空乾燥などが挙げられる。
【0091】
また、前記成膜液の乾燥工程は、水および水溶性開孔剤の残存量を十分に低減する観点から、50℃以上で行なうことが好ましく、60℃以上で行なうことがより好ましい。また、セルロースや他の添加剤の変性を抑制する観点から、130℃以下で行なうことが好ましく、110℃以下で行なうことがより好ましい。
【0092】
なお、水および水溶性開孔剤を蒸発させて得られた塗膜(セルロース繊維不織布)は、有機溶媒などを用いて洗浄することが好ましい。これにより、水溶性開孔剤の除去量を多くできる。有機溶媒は特に限定されないが、例えば、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、n−ヘキサン、プロパノールなどの比較的揮発速度の速い有機溶剤を単独でまたは2種以上を混合して、1回から数回に分けて使用することができる。
【0093】
残留した水溶性開孔剤を洗浄する目的では、エタノール、メタノールなどの水と親和性の高い溶媒が好ましいが、空気中の水分を吸湿したりして、セルロース繊維不織布の物性やセパレータのシート形状に影響を与えるため、水分量が管理された状態で使用することが好ましい。n−ヘキサン、トルエンなどの疎水性が高い溶媒は、水溶性開孔剤の洗浄効果は劣るが吸湿しにくいため好適に使用できる。
【0094】
以上の理由から、次第に疎水性が高くなるように溶媒の種類を代えて洗浄を繰り返しながら溶媒置換していく手法が好ましい。例えば、アセトン、トルエン、n−ヘキサンの順序で洗浄を行なうことができる。
【0095】
(塗膜の剥離工程)
最後に、前記成膜液の乾燥工程により形成された塗膜を前記基材から剥離することにより、セルロース繊維不織布を得る。剥離後に、セルロース繊維不織布自体が崩壊しない程度の強度を有する場合は、基材からセルロース繊維不織布を剥離した後、再度、乾燥を行なってもよい。なお、セルロース繊維不織布を剥離するタイミングは特に限定されず、後述するフッ素樹脂溶液の乾燥工程後に基材から剥離してもよい。
【0096】
<フッ素樹脂材形成工程>
次に、前記フッ素樹脂を含有するフッ素樹脂溶液を用いてフッ素樹脂材を形成するフッ素樹脂材形成工程について説明する。このフッ素樹脂材形成工程では、フッ素樹脂溶液を例えば基材上に塗工することによりフッ素樹脂材を形成してもよいが、生産性および厚さの調整などの加工性を向上させる観点から、前記セルロース繊維不織布の少なくとも一側面にフッ素樹脂溶液によりフッ素樹脂材としてのコーティング層を積層すること、および前記正極の一側面にフッ素樹脂溶液により同様のコーティング層を積層することが好ましく、セルロース繊維不織布の少なくとも一側面にフッ素樹脂溶液により同様のコーティング層を積層することがより好ましい。以下の説明では、セルロース繊維不織布の少なくとも一側面にフッ素樹脂溶液によりコーティング層を積層する方法を例にして説明する。
【0097】
(フッ素樹脂溶液の調製工程)
まず、前記フッ素樹脂として、前記フッ化ビニリデン系共重合体を50〜100質量%含有するフッ素樹脂を用い、該フッ素樹脂を溶解可能な溶媒で希釈することにより、所定濃度のフッ素樹脂溶液を調製する。
【0098】
前記フッ素樹脂を溶解可能な溶媒としては、例えば、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、またはこれらの混合液などが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。これらの溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの溶媒のなかでは、セルロース繊維不織布の物性やセパレータのシート形状への影響を少なくする観点から、N,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。
【0099】
前記フッ素樹脂溶液における前記フッ素樹脂の濃度は、特に限定されず、乾燥後の塗膜の厚さを考慮して適宜調整すればよいが、例えば0.1〜1.5質量%である。
【0100】
(フッ素樹脂溶液のコーティング工程)
次に、前記で調製したフッ素樹脂溶液を前記セルロース繊維不織布の少なくとも一側面にコーティングする。フッ素樹脂溶液をセルロース繊維不織布の少なくとも一側面にコーティングする方法は、前記成膜液の塗工工程と同様の方法を例示することができる。
【0101】
また、この際、後述するフッ素樹脂溶液の乾燥工程後における前記コーティング層(前記フッ素樹脂材)の厚さが0.1μm以上、1μm未満となるように調整する。
【0102】
(フッ素樹脂溶液の乾燥工程)
次に、前記セルロース繊維不織布の少なくとも一側面にコーティングされたフッ素樹脂溶液を乾燥させる。乾燥方法としては、前記成膜液の乾燥工程と同様の方法を例示することができる。この乾燥工程により、セルロース繊維不織布の少なくとも一側面に前記フッ素樹脂からなるコーティング層が積層される。
【0103】
(セルロース繊維不織布の剥離工程)
最後に、前記不織布形成工程において、前記セルロース繊維不織布を前記基材から剥離していない場合には、前記フッ素樹脂溶液の乾燥工程により前記コーティング層が積層されたセルロース繊維不織布を基材から剥離することにより、該コーティング層が積層されたセルロース繊維不織布からなるセパレータを得る。剥離後に、セパレータ自体が崩壊しない程度の強度を有する場合は、基材からセパレータを剥離した後、再度、乾燥を行なってもよい。
【0104】
以上のようにして得られる前記正極と、前記負極と、セルロース繊維不織布の一側面に前記コーティング層が積層されたセパレータとを用いて、例えば、以下のようにしてラミネートセル(非水電解質二次電池)を作製することができる。
【0105】
ポリプロピレン製のねじ込み式フタ付きのセル(内径約18mm)内において、前記正極と前記負極とを前記セパレータで挟み込み積層する。その際、前記セパレータは、その一側面に積層された前記コーティング層が正極側の側面に向くように配置する。
【0106】
この積層体に、例えば、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを3:7の割合で混合したものを非水溶媒とし、これに電解質としてLiPF
6を1mol/Lの濃度で溶解した電解液を加えることにより、ラミネートセルを作製する。
【0107】
したがって、本実施形態に係る非水電解質二次電池は、セルロース繊維不織布の一側面に、特定のフッ素樹脂からなるコーティング層が積層されたセパレータを有するので、耐熱性に優れるのみならず、高電圧化に対して電気化学的に安定であり、耐電圧性にも優れる。
【0108】
また、前記コーティング層は、特定の厚さであるので、透気度の上昇を抑制して、電極間におけるリチウムイオンの移動の阻害を防止することができ、良好な電池性能(サイクル特性)を実現することができる。
【0109】
さらに、前記特定のフッ素樹脂の表面に極性基を有するので、該フッ素樹脂からなるコーティング層は前記セルロース繊維不織布に対する密着性に優れ、剥離を防止することができる。
【0110】
(実施形態2)
実施形態2に係る非水電解質二次電池では、前記フッ素樹脂材が、前記セルロース繊維不織布の前記正極側の側面に積層されたコーティング層ではなく、前記正極の前記セパレータ側の側面に積層されたコーティング層である。その他の構成は実施形態1と同様である。
【0111】
この実施形態2に係る非水電解質二次電池は、実施形態1と同様に、前記フッ素樹脂材が前記正極と前記セパレータとの間に配置されているので、実施形態1と同様の作用効果を奏することができる。
【0112】
(実施形態3)
実施形態3に係る非水電解質二次電池では、前記フッ素樹脂材が、前記セルロース繊維不織布または前記正極の一側面に積層されたコーティング層ではなく、正極および前記負極と前記セパレータとの間の少なくとも1つに配置される。その他の構成は実施形態1および2と同様である。
【0113】
前記フッ素樹脂材の具体的な例としては、例えば、フィルム状、シート状などが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。
【0114】
この実施形態3に係る非水電解質二次電池は、実施形態1および2と同様に、前記フッ素樹脂材が前記正極と前記セパレータとの間に配置されることで、実施形態1および2と同様の作用効果を奏することができる。
【0115】
(その他の実施形態)
上述の実施形態は本願発明の例示であって、本願発明はこれらの例に限定されず、これらの例に周知技術や慣用技術、公知技術を組み合わせたり、一部置き換えたりしてもよい。また当業者であれば容易に思いつく改変発明も本願発明に含まれる。
【0116】
また、非水電解質二次電池の形状は、ラミネートセルに限定されず、例えば、円柱形や角柱型などであってもよい。
【実施例】
【0117】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0118】
(実施例1)
微細セルロース繊維、水溶性開孔剤として炭酸プロピレン〔東邦化学工業(株)製〕、およびバインダー成分としてポリビニルアルコール〔重合度3500、和光純薬工業(株)製〕をそれぞれ最終濃度が0.5質量%、2質量%、0.005質量%となるように混合した後、撹拌することにより、成膜液を調製した。
【0119】
なお、前記微細セルロース繊維は、酢酸菌由来であって、平均繊維径が30nmであり、繊維径が1um以上のセルロース繊維の含有率が1%未満のものを用いた。
【0120】
前記で得られた成膜液をアプリケータにてギャップ1.2mmでポリエステル基材上に塗工し、85℃のオーブン中で水を乾燥した後、成膜した塗膜をポリエステル基材から剥離することにより、厚さ15μmのセルロース繊維不織布を得た。
【0121】
なお、セルロース繊維不織布の厚さは、マイクロメーター〔(株)テクロック製、商品名:PG−02J〕を用いて測定した。
【0122】
次に、フッ素樹脂としてジカルボン酸変性フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔(株)クレハ製、商品名:KFポリマー(登録商標)W#9300〕を濃度が0.5質量%となるようにN,N−ジメチルホルムアミドに溶解することにより、極性基としてカルボキシル基を有するフッ化ビニリデン系共重合体溶液(前記フッ化ビニリデン系共重合体を100質量%含有するフッ素樹脂溶液)を調製した。
【0123】
前記セルロース繊維不織布の一側面に、前記で得られたカルボキシル基を有するフッ化ビニリデン系共重合体溶液をワイヤーバー(巻線5番)でコーティングした。
【0124】
その後、85℃のオーブン中で乾燥し、トルエンで洗浄後、85℃のホットプレート上で乾燥することにより、セルロース繊維不織布の一側面に、極性基としてカルボキシル基を有する、前記フッ化ビニリデン系共重合体からなるコーティング層が積層されたセパレータを得た。
【0125】
前記で得られたセパレータを用いてラミネートセル(非水電解質二次電池)を作製した。具体的には、セパレータの前記コーティング層が正極側の側面に向くように、正極、セパレータ、負極の順に重ね、得られた積層体に電解液を加えることにより、ラミネートセルを作製した。なお、正極はニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(LiNo
0.85Co
0.14Al
0.01O
2)、負極は人造黒鉛、電解液は1mol/LのLiPF
6を溶解させたエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(3:7)を用いた。
【0126】
<コーティング層の厚さ>
前記で得られたセパレータの厚さをマイクロメーター〔(株)テクロック製、商品名:PG−02J〕で測定し、式:
〔セパレータの厚さ(μm)〕−〔前記セルロース繊維不織布の厚さ(μm)〕
に基づいて、コーティング層の厚さ(μm)を求めた。その結果を表1に示す。
【0127】
<透気度>
前記で得られたセパレータを切り取ることにより、幅が80mmで長さが80mmの試験片を得た。そして、JISP8117に規定されるガーレー式透気度計〔ガーレー式デンソメーター、(株)東洋精機製作所製〕を用い、外形28.6mmの円孔に密着固定された該試験片について、100mlの空気が透過する時間を測定することにより、透気度(秒/100ml)を求めた。その結果を表1に示す。
【0128】
<耐熱温度>
前記で得られたセパレータを切り取ることにより、幅が3mmで長さが30mm(測定部20mm、TD方向が長軸)の試験片を得た。得られた試験片を10℃/min.で350℃まで昇温し、厚さあたり2mN/μmの力がかかるように熱機械分析装置〔セイコーインスツル(株)製、品名:EXSTAR6000〕を用いて測定して、5%以上変位が生じた点を耐熱温度(℃)とした。その結果を表1に示す。
【0129】
<サイクル特性>
器内温度を25℃に設定した恒温器の中に前記で得られたラミネートセルを設置し、10時間率で充放電(4.35−2.75V)を行なって化成した。その後、2時間率で定電流定電圧充電と5時間率で定電流放電を1サイクル行ない、得られた値の初期容量を確認した。その後に1時間率で、充放電(4.35−2.8V)を300回行なった。1時間率の100サイクル毎に、2時間率で定電流定電圧充電と5時間率で定電流放電を1サイクル行ない、得られた値の初期容量に対する割合を容量維持率(%)とした。その結果を表1に示す。
【0130】
なお、容量維持率(%)が、対比するその数値よりも2%以上高い場合には、サイクル特性に優れるといえる。
【0131】
<密着性>
前記セルロース繊維不織布の一側面に前記フッ素樹脂溶液をコーティングした後の乾燥時または乾燥後において、セルロース繊維不織布とコーティング層との境界端部を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて、コーティング層のセルロース繊維不織布に対する密着性を評価した。
【0132】
(評価基準)
○:コーティング層の剥離が発生している。
×:コーティング層の剥離が発生していない。
【0133】
(実施例2)
実施例1で用いたフッ化ビニリデン系共重合体溶液の濃度を1.0質量%に変更したこと以外は実施例1と同様にして得られたセパレータを用いてラミネートセルを作製した。その後、実施例1と同様にして物性を調べた。その結果を表1に示す。
【0134】
(実施例3)
フッ素樹脂をモノカルボン酸変性フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔(株)クレハ製、商品名:KFポリマー(登録商標)W#9700〕に変更したこと以外は実施例1と同様にして得られたセパレータを用いてラミネートセルを作製した。その後、実施例1と同様にして物性を調べた。その結果を表1に示す。
【0135】
(比較例1)
実施例1で得られたセルロース繊維不織布(コーティング層なし)をセパレータとして用いてラミネートセルを作製した。その後、実施例1と同様にして物性を調べた。その結果を表1に示す。
【0136】
(比較例2)
フッ素樹脂をフッ化ビニリデンの単独重合体(ポリフッ化ビニリデン、極性基なし)〔(株)クレハ製、商品名:KFポリマー(登録商標)W#7300〕に変更したこと以外は実施例1と同様にしてフッ素樹脂からなるコーティング層が積層されたセパレータを作製しようとしたが、該コーティング層の剥離が発生した。そのため、ラミネートセルを作製することができなかった。
【0137】
(比較例3)
実施例1で用いたフッ化ビニリデン系共重合体溶液の濃度を2.0質量%に変更したこと以外は実施例1と同様にして得られたセパレータを用いてラミネートセルを作製した。その後、実施例1と同様にして物性を調べた。その結果を表1に示す。
【0138】
(比較例4)
実施例1で得られた成膜液に、微細セルロース繊維の固形分対比が20質量%となるように水分散ポリフッ化ビニリデン系粒子としてフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロペン共重合体〔(株)クレハ製、水分散粒子型 VDF−HFP〕を添加し、撹拌することにより、フッ素樹脂粒子含有成膜液を調製した。
【0139】
前記で得られたフッ素樹脂粒子含有成膜液を用いて、実施例1と同様にしてフッ素樹脂粒子含有セルロース繊維不織布(コーティング層なし)を得た。
【0140】
前記で得られたフッ素樹脂粒子含有セルロース繊維不織布(コーティング層なし)をセパレータとして用いてラミネートセルを作製した。その後、実施例1と同様にして物性を調べた。その結果を表1に示す。
【0141】
(比較例5)
厚さが14μmのポリエチレン多孔質フィルム上にアルミナ粒子が4μmの厚さでコーティングされた積層膜をセパレータとして用いてラミネートセルを作製した。その後、実施例1と同様にして物性を調べた。その結果を表1に示す。
【0142】
【表1】
【0143】
表1に示された結果から、実施例1から3の非水電解質二次電池は、比較例1から5の非水電解質二次電池と対比して、いずれも耐熱性および耐電圧性の両方に優れるとともに、密着性に優れることが分かる。
【0144】
すなわち、実施例1から3においては、セパレータを構成する原料としてセルロース繊維不織布が使用され、該セルロース繊維不織布の一側面にフッ素樹脂として前記フッ化ビニリデン系共重合体溶液からなるコーティング層が積層されたセパレータを有するので、耐熱性に優れるのみならず、高電圧化に対して電気化学的に安定であり、耐電圧性にも優れる。
【0145】
また、前記コーティング層は、その厚さが0.1μm以上、1μm未満であるので、透気度の上昇を抑制して、電極間におけるリチウムイオンの移動の阻害を防止することができ、良好な電池性能(サイクル特性)を実現することができる。
【0146】
さらに、前記フッ化ビニリデン系共重合体の表面に極性基としてカルボキシル基を有するので、該共重合体からなるコーティング層は前記セルロース繊維不織布に対する密着性に優れ、剥離を防止することができる。
【0147】
これに対して、比較例1では、セルロース繊維不織布の一側面にコーティング層が積層されていないため、耐電圧性に劣り、電気化学的安定性にも劣るものと考えられ、このことで良好な電池性能を実現することができないことが分かる。
【0148】
比較例2では、フッ素樹脂が極性基を有していないので、該フッ素樹脂からなるコーティング層がセルロース繊維不織布から剥離する、すなわち密着性に劣ることが分かる。
【0149】
比較例3では、コーティング層の厚さが本発明の範囲外であるため、透気度が上昇しており、電極間におけるリチウムイオンの移動が阻害されるものと考えられ、このことで良好な電池性能を実現することができないことが分かる。
【0150】
比較例4では、フッ素樹脂が、前記セルロース繊維不織布の一側面にフッ素樹脂溶液により積層されたコーティング層ではなく、樹脂粒子としてセルロース繊維不織布内に点在しているので、耐電圧性に劣り、電気化学的安定性にも劣るものと考えられ、このことで良好な電池性能を実現することができないことが分かる。
【0151】
比較例5では、セパレータを構成する原料としてセルロース繊維不織布ではなく、ポリエチレン多孔質フィルムが使用されているので、耐熱性に劣ることが分かる。