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  • 特開2019117768-全固体二次電池 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-117768(P2019-117768A)
(43)【公開日】2019年7月18日
(54)【発明の名称】全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20190627BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20190627BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-252350(P2017-252350)
(22)【出願日】2017年12月27日
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(72)【発明者】
【氏名】若井 栄一
(72)【発明者】
【氏名】藤木 聡
(72)【発明者】
【氏名】相原 雄一
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ04
5H029AJ12
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK18
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL16
5H029AL18
5H029AM11
5H029AM12
5H029BJ13
5H029DJ08
5H029EJ01
5H029EJ05
5H029EJ07
5H029HJ00
5H029HJ04
(57)【要約】
【課題】短絡の発生が抑制された全固体二次電池を提供する。
【解決手段】正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に配置された固体電解質層と、前記正極層と前記固体電解質層との間に配置された緩衝層と、を含み、前記緩衝層は、Li以外の単体金属および単体半金属ならびにこれらの酸化物および硫化物からなる群から選択される1種以上を含み、前記緩衝層の厚みが、1.0nm以上1000nm以下である、全固体二次電池が提供される。これにより、短絡の発生が抑制された全固体二次電池が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、
負極層と、
前記正極層及び前記負極層の間に配置された固体電解質層と、
前記正極層と前記固体電解質層との間に配置された緩衝層と、を含み、
前記緩衝層は、Li以外の単体金属および単体半金属ならびにこれらの酸化物および硫化物からなる群から選択される1種以上を含み、
前記緩衝層の厚みが、1.0nm以上1000nm以下である、全固体二次電池。
【請求項2】
前記単体金属および単体半金属のヤング率は、10GPa以上400GPa以下である、請求項1に記載の全固体二次電池。
【請求項3】
前記単体金属および単体半金属は、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Zn、Ga、Ge、Se、Sr、Y、Zr、Mo、In、Sn、Ag、Sb、BaおよびBiからなる群から選択される1種以上である、請求項1または2に記載の全固体二次電池。
【請求項4】
前記単体金属は、卑金属である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の全固体二次電池。
【請求項5】
前記単体金属は、Znを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の全固体二次電池。
【請求項6】
前記固体電解質層は、硫黄と、ケイ素、リンおよびホウ素からなる群から選択される1種以上の元素とを含有する固体電解質を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の全固体二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、全固体二次電池が注目されている。全固体二次電池は、正極活物質層、負極活物質層、及びこれらの活物質層の間に配置された固体電解質層を有する。全固体二次電池では、リチウムイオン(lithium ion)を伝導させる媒体が固体電解質となっている。
【0003】
このような固体電解質を用いた全固体二次電池は、電解液を用いた従来のリチウムイオン電池と比較すると、構成物がすべて固体材料である点において大きく異なる。そして、電極活物質と固体電解質との界面がすべて固体−固体界面となるため、これらの界面抵抗が大きい。
【0004】
特許文献1には、正極活物質層と固体電解質層との間でのリチウムイオンの移動を円滑にし、界面抵抗を低減させることを目的として、正極活物質層と固体電解質層との間にリン酸リチウムを含有する界面修飾層を配置することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017−126437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、全固体二次電池は、層間の界面が固体−固体界面となるため、リチウムイオンの移動経路の分布が不均一となり、この結果充放電時に局所的に電流が集中しやすい。このような場合、全固体二次電池内で短絡が生じやすくなる問題がある。特許文献1にはこのような短絡を防止することについての開示がない。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、短絡の発生が抑制された、新規かつ改良された全固体二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、
正極層と、
負極層と、
上記正極層及び上記負極層の間に配置された固体電解質層と、
上記正極層と上記固体電解質層との間に配置された緩衝層と、を含み、
上記緩衝層は、Li以外の単体金属および単体半金属ならびにこれらの酸化物および硫化物からなる群から選択される1種以上を含み、
前記緩衝層の厚みが、1.0nm以上1000nm以下である、全固体二次電池が提供される。
【0009】
本観点によれば緩衝層は、固体電解質層や正極活物質層の緩衝層との界面付近において固体電解質層や正極活物質層を構成する固体電解質粒子や正極活物質粒子の間隙を埋めることができ、この結果固体電解質粒子や正極活物質粒子の接触をより確実なものとすることができる。このため、充放電時において全固体二次電池中でリチウムイオンの移動経路が均一に分布し、局所的にリチウムイオンの移動が生じることが防止される。この結果、全固体二次電池1の充放電時における短絡が防止される。
【0010】
ここで、上記単体金属および単体半金属のヤング率は、10GPa以上400GPa以下であってもよい。
この観点によれば、全固体二次電池の短絡をより効果的に抑制することができる。
【0011】
また、上記単体金属および単体半金属は、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Zn、Ga、Ge、Se、Sr、Y、Zr、Mo、In、Sn、Ag、Sb、BaおよびBiからなる群から選択される1種以上であってもよい。
この観点によれば、全固体二次電池の短絡をより効果的に抑制することができる。
【0012】
また、上記単体金属は、卑金属であってもよい。
この観点によれば、全固体二次電池の短絡をより効果的に抑制することができる。
【0013】
また、上記単体金属は、Znを含んでもよい。
この観点によれば、全固体二次電池の短絡をより効果的に抑制することができる。
【0014】
また、固体電解質層は、硫黄と、ケイ素、リンおよびホウ素からなる群から選択される1種以上の元素とを含有する固体電解質を含んでいてもよい。
この観点によれば、固体電解質層のリチウム伝導性が向上し、全固体二次電池の電池特性が向上する。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、全固体二次電池の短絡を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る全固体二次電池の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、図中の各構成要素は、説明の容易化のために適宜拡大または縮小されており、図中の各構成要素の大きさ、比率は、実際のものとは異なる。
【0018】
<1.全固体二次電池の構成>
まず、図1に基づいて、本実施形態に係る全固体二次電池1の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る全固体二次電池の概略構成を示す断面図である。
【0019】
図1図2に示すように、全固体二次電池1は、図1に示すように、正極層10、負極層20、固体電解質層30および緩衝層40を備える。
(正極層)
正極層10は、正極集電体11及び正極活物質層12を含む。正極集電体11としては、例えば、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)またはこれらの合金からなる板状体または箔状体等が挙げられる。正極集電体11は省略されても良い。なお、正極集電体11は、全固体二次電池1の使用時において、図示せぬ端子を介して、配線に接続される。
【0020】
正極活物質層12は、通常正極活物質及び固体電解質を含む。なお、正極活物質層12に含まれる固体電解質は、固体電解質層30に含まれる固体電解質と同種のものであっても、同種でなくてもよい。固体電解質の詳細は固体電解質層30の項にて詳細に説明する。
【0021】
正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出することが可能な正極活物質であればよい。
【0022】
例えば、正極活物質は、コバルト酸リチウム(以下、LCOと称する)、ニッケル酸リチウム(Lithium nickel oxide)、ニッケルコバルト酸リチウム(lithium nickel cobalt oxide)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(以下、NCAと称する)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、NCMと称する)、マンガン酸リチウム(Lithium manganate)、リン酸鉄リチウム(lithium iron phosphate)等のリチウム塩、硫化ニッケル、硫化銅、硫黄、酸化鉄、または酸化バナジウム(Vanadium oxide)等を用いて形成することができる。これらの正極活物質は、それぞれ単独で用いられてもよく、また2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0023】
また、正極活物質は、上述したリチウム塩のうち、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩を含んで形成されることが好ましい。ここで、「層状」とは、薄いシート状の形状を表す。また、「岩塩型構造」とは、結晶構造の1種である塩化ナトリウム型構造のことを表し、具体的には、陽イオンおよび陰イオンの各々が形成する面心立方格子が互いに単位格子の稜の1/2だけずれて配置された構造を表す。
【0024】
このような層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩としては、例えば、LiNiCoAl(NCA)、またはLiNiCoMn(NCM)(ただし、0<x<1、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z=1)などの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩が挙げられる。
【0025】
正極活物質が、上記の層状岩塩型構造を有する三元系遷移金属酸化物のリチウム塩を含む場合、全固体二次電池1のエネルギー(energy)密度および熱安定性を向上させることができる。
【0026】
正極活物質は、被覆層によって覆われていてもよい。ここで、本実施形態の被覆層は、全固体二次電池の正極活物質の被覆層として公知のものであればどのようなものであってもよい。被覆層の例としては、例えば、LiO−ZrO等が挙げられる。
【0027】
また、正極活物質が、NCAまたはNCMなどの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩にて形成されており、正極活物質としてニッケル(Ni)を含む場合、全固体二次電池1の容量密度を上昇させ、充電状態での正極活物質からの金属溶出を少なくすることができる。これにより、本実施形態に係る全固体二次電池1は、充電状態での長期信頼性およびサイクル(cycle)特性を向上させることができる。
【0028】
ここで、正極活物質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状を挙げることができる。また、正極活物質の粒径は特に制限されず、従来の全固体二次電池の正極活物質に適用可能な範囲であれば良い。なお、正極活物質層12における正極活物質の含有量も特に制限されず、従来の全固体二次電池の正極層に適用可能な範囲であれば良い。
【0029】
また、正極活物質層12には、上述した正極活物質および固体電解質に加えて、例えば、導電助剤、結着材、フィラー(filler)、分散剤、イオン導電助剤等の添加物が適宜配合されていてもよい。
【0030】
正極活物質層12に配合可能な導電助剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、金属粉等を挙げることができる。また、正極活物質層12に配合可能な結着剤としては、例えば、スチレンブタジエンゴム(styrene−butadiene rubber:SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等を挙げることができる。さらに、正極層10に配合可能なフィラー、分散剤、イオン導電助剤等としては、一般にリチウムイオン二次電池の電極に用いられる公知の材料を用いることができる。
【0031】
(負極層)
負極層20は、負極集電体21及び負極活物質層22を含む。負極集電体21としては、例えば、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)またはこれらの合金からなる板状体または箔状体等が挙げられる。負極集電体21は省略されても良い。
【0032】
負極活物質層22は、例えば、負極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを含む層であることができる。
【0033】
負極活物質は、正極活物質層12に含まれる正極活物質と比較して充放電電位が低く、リチウムとの合金化、またはリチウムの可逆的な吸蔵および放出が可能な活物質材料にて構成される。
【0034】
例えば、負極活物質として、金属活物質またはカーボン(carbon)活物質等を用いることができる。金属活物質としては、例えば、リチウム(Li)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、およびケイ素(Si)等の金属、ならびにこれらの合金等を用いることができる。また、カーボン活物質としては、例えば、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス(coke)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール(furfuryl alcohol)樹脂焼成炭素、ポリアセン(polyacene)、ピッチ(pitch)系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛、および難黒鉛化性炭素等を用いることができる。なお、これらの負極活物質は、単独で用いられてもよく、また2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0035】
導電助剤は、正極活物質層12における導電助剤と同様の導電助剤を用いることができる。固体電解質は、正極活物質層12に含まれる固体電解質と同様の化合物を用いることができる。そのため、これらの構成についてのここでの説明は省略する。
【0036】
また、負極活物質層22には、上述した負極活物質、固体電解質、および導電助剤に加えて、例えば、結着材、フィラー、分散剤、およびイオン導電剤等の添加物が適宜配合されていてもよい。負極活物質層22に配合される添加剤としては、上述した正極活物質層12に配合される添加剤と同様のものを用いることができる。
なお、以上説明した負極層20は、全固体二次電池1の使用時において、図示せぬ端子を介して、配線に接続される。
【0037】
(固体電解質層)
固体電解質層30は、正極層10および負極層20の間に形成され、固体電解質を含む。
【0038】
固体電解質は、例えば硫化物系固体電解質材料で構成される。硫化物系固体電解質材料としては、例えば、LiS−P、LiS−P−LiX(Xはハロゲン元素、例えばI、Cl)、LiS−P−LiO、LiS−P−LiO−LiI、LiS−SiS、Li2−SiS−LiI、LiS−SiS−LiBr、LiS−SiS−LiCl、LiS−SiS−B−LiI、LiS−SiS−P−LiI、LiS−B、LiS−P−Z(m、nは正の数、ZはGe、ZnまたはGaのいずれか)、LiS−GeS、LiS−SiS−LiPO、LiS−SiS−LiMO(p、qは正の数、MはP、Si、Ge、B、Al、GaまたはInのいずれか)等を挙げることができる。ここで、硫化物系固体電解質材料は、出発原料(例えば、LiS、P等)を溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法等によって処理することで作製される。また、これらの処理の後にさらに熱処理を行っても良い。固体電解質は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良く、両者が混ざった状態でも良い。
【0039】
また、固体電解質として、上記の硫化物固体電解質材料のうち、硫黄と、ケイ素、リンおよびホウ素からなる群から選択される1種以上の元素とを含有する材料を用いることが好ましい。これにより、固体電解質層のリチウム伝導性が向上し、全固体二次電池1の電池特性が向上する。特に、固体電解質として少なくとも構成元素として硫黄(S)、リン(P)およびリチウム(Li)を含むものを用いることが好ましく、特にLiS−Pを含むものを用いることがより好ましい。
【0040】
ここで、固体電解質を形成する硫化物系固体電解質材料としてLiS−Pを含むものを用いる場合、LiSとPとの混合モル比は、例えば、LiS:P=50:50〜90:10の範囲で選択されてもよい。また、固体電解質層30には、結着剤を更に含んでいても良い。固体電解質層30に含まれる結着剤は、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等を挙げることができる。固体電解質層30内の結着剤は、正極活物質層12内の結着剤と同種であってもよいし、異なっていても良い。
【0041】
(緩衝層)
緩衝層40は、正極層10の正極活物質層12と固体電解質層30との間に配置されている。そして、緩衝層40は、Li以外の単体金属および単体半金属ならびにこれらの酸化物および硫化物からなる群から選択される1種以上を含む。これにより、全固体二次電池1の充放電時における短絡が防止される。
【0042】
詳細に説明すると、まず、緩衝層40の構成成分が単体金属または単体半金属の場合、これらは、初期の充放電により酸化され、酸化物または硫化物となる。そして、(半)金属酸化物および硫化物は、電気抵抗率が比較的高い微電気抵抗物である。
【0043】
次に、緩衝層40は、正極活物質層12と固体電解質層30との間に配置されるが、全固体二次電池1製造時には一般にプレスにより押圧されている。したがって、緩衝層40は、固体電解質層30や正極活物質層12の緩衝層40との界面付近において固体電解質層30や正極活物質層12を構成する固体電解質粒子や正極活物質粒子の間隙を埋めることができ、この結果固体電解質粒子や正極活物質粒子の接触をより確実なものとすることができる。このような緩衝層40に起因する固体電解質粒子や正極活物質粒子の接触は、全固体二次電池1の緩衝層40の平面方向に比較的均一に生じる。このため、充放電時において全固体二次電池1中でリチウムイオンの移動経路が均一に分布し、局所的にリチウムイオンの移動が生じることが防止される。
【0044】
さらに、上述したように緩衝層40を構成する(半)金属酸化物および硫化物は、電気抵抗率が比較的高く、固体電解質層30や正極活物質層12の表面付近における間隙は微電気抵抗物としての緩衝層40で充填される。このため、不本意な短絡が防止される。さらには、このような緩衝層40で間隙が充填されることから、固体電解質層30および正極活物質層12の界面付近における不本意な副反応等が防止される。以上の各効果が相乗的に作用することにより、全固体二次電池1の充放電時における短絡が防止される。
【0045】
また、緩衝層40を構成する単体金属または単体半金属のヤング率は、特に限定されないが、例えば10GPa以上400GPa以下、好ましくは100GPa以上200GPa以下である。緩衝層40を構成する単体金属または単体半金属のヤング率が上述した範囲内であると、上述したようにプレスされた際に適度に伸びて、固体電解質層30や正極活物質層12の緩衝層40との界面付近において固体電解質層30や正極活物質層12を構成する固体電解質粒子や正極活物質粒子の間隙を適度に埋めることができる。上記ヤング率が前記下限値未満だと、その単体金属または単体半金属の種類によっては、プレスされた際に過度に伸びてしまい、界面抵抗を却って増加させてしまう場合がある。一方で、上記ヤング率が前記上限値を超えると、プレス条件によっては、単体金属または単体半金属が十分に伸びず、上記間隙を埋める効果を十分に得られない場合がある。
【0046】
緩衝層40を構成する成分は、上述したようにLi以外の単体(半)金属ならびにこれらの酸化物および硫化物であればよい。例えば、このような成分としては、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Zn、Ga、Ge、Se、Sr、Y、Zr、Mo、In、Sn、Ag、Sb、BaおよびBiならびにこれらの酸化物および硫化物等が挙げられる。これらの成分は、上述した範囲のヤング率を有することから、緩衝層40の効果が十分に発揮される。
【0047】
さらに、単体金属は、卑金属であることが好ましい。単体金属が卑金属である場合、容易に酸化して酸化物または硫化物が生成する。したがって、より確実に緩衝層40の機能が発揮される。
【0048】
また、緩衝層40は、ZnまたはBiあるいはこれらの酸化物または硫化物で構成されることが好ましく、ZnまたはZnの酸化物または硫化物で構成されることが好ましい。これらの成分は、特に適度な大きさのヤング率(Zn:108GPa、Bi:32GPa)を有するともに、適度な大きさの電気抵抗(絶縁性)を有している。したがって、全固体二次電池1の短絡がより一層抑制される。
【0049】
また、緩衝層40は、主として上述した単体(半)金属ならびにこれらの酸化物および硫化物で構成されている。具体的には、緩衝層40における単体(半)金属ならびにこれらの酸化物および硫化物の含有量は、例えば90質量%以上、好ましくは95質量%以上である。なお、緩衝層40には、全固体二次電池1の充放電反応に起因した他の物質が含まれていてもよい。特に好ましくは、緩衝層40は、本質的に上述した単体(半)金属ならびにこれらの酸化物および硫化物からなる。
【0050】
また、緩衝層40の厚さは、1.0nm以上1000nm以下である。緩衝層40の厚さが上記下限値未満であると、緩衝層40の機能が十分に発揮されず、短絡の抑制効果を得られない。一方で、緩衝層40の厚さが上記上限値を超えると、緩衝層40による界面抵抗が大きく、却って短絡の抑制が困難となる緩衝層40の厚さは、好ましくは50nm以上500nm以下である。
【0051】
以上説明した全固体二次電池1は、緩衝層40により、充放電時において電流が局所的に集中することが防止されており、また、正極活物質層12および固体電解質層30の界面における間隙が充填されている。したがって、全固体二次電池1は充放電時における短絡が防止されている。
【0052】
<2.全固体二次電池の製造方法>
続いて、本実施形態に係る全固体二次電池の製造方法の一例について説明する。本実施形態に係る全固体二次電池1は、正極層10、負極層20、および固体電解質層30をそれぞれ製造した後、正極層10の正極活物質層12上または固体電解質層30の正極活物質側の面に緩衝層40を形成し、上記の各層を積層することにより製造することができる。正極層10、負極層20、及び固体電解質層30は公知の方法で作製することができる。
【0053】
(正極層作製工程)
正極活物質は、公知の方法で作製することができる。続いて、作製した正極活物質と、後述する方法で作製した固体電解質と、各種添加材とを混合し非極性溶媒に添加してスラリー(slurry)またはペースト(paste)を形成する。さらに、得られたスラリーまたはペーストを正極集電体11上に塗布し、乾燥した後に、圧延することで、正極層10を得ることができる。正極集電体11を用いずに、正極活物質と、各種添加剤との混合物をペレット(pellet)状に圧密化成形することで正極層10を作製してもよい。なお、正極活物質層12の密度比を高めるために、必要に応じてロールプレス等のプレス工程を行うこともできる。
【0054】
(負極層作製工程)
負極層20は、正極層と同様の方法で作製することができる。具体的には、まず、負極活物質と、固体電解質と、導電助剤と、各種添加剤とを混合し、水または有機溶媒などの溶媒に添加することでスラリーまたはペーストを形成する。さらに、得られたスラリーまたはペーストを集電体に塗布し、乾燥した後に、圧延することで、負極層20を得ることができる。なお、金属LiまたはLiイオンと合金を作る金属の箔状体を負極層20として用いてもよい。
【0055】
(固体電解質層作製工程)
固体電解質層30は、硫化物系固体電解質材料にて形成された固体電解質により作製することができる。
【0056】
まず、溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法により出発原料を処理する。
【0057】
例えば、溶融急冷法を用いる場合、出発原料(例えば、LiS、P等)を所定量混合し、ペレット状にしたものを真空中で所定の反応温度で反応させた後、急冷することによって硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、LiSおよびPの混合物の反応温度は、好ましくは400℃〜1000℃であり、より好ましくは800℃〜900℃である。また、反応時間は、好ましくは0.1時間〜12時間であり、より好ましくは1時間〜12時間である。さらに、反応物の急冷温度は、通常10℃以下であり、好ましくは0℃以下であり、急冷速度は、通常1℃/sec〜10000℃/sec程度であり、好ましくは1℃/sec〜1000℃/sec程度である。
【0058】
また、メカニカルミリング法を用いる場合、ボールミルなどを用いて出発原料(例えば、LiS、P等)を撹拌させて反応させることで、硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、メカニカルミリング法における撹拌速度および撹拌時間は特に限定されないが、撹拌速度が速いほど硫化物系固体電解質材料の生成速度を速くすることができ、撹拌時間が長いほど硫化物系固体電解質材料への原料の転化率を高くすることができる。
【0059】
その後、溶融急冷法またはメカニカルミリング法により得られた混合原料を所定温度で熱処理した後、粉砕することにより粒子状の固体電解質を作製することができる。固体電解質がガラス転移点を持つ場合は、熱処理によって非晶質から結晶質に変わる場合がある。
【0060】
続いて、上記の方法で得られた固体電解質を、例えば、エアロゾルデポジション(aerosol deposition)法、コールドスプレー(cold spray)法、スパッタ法等の公知の成膜法を用いて成膜することにより、固体電解質層30を作製することができる。なお、固体電解質層30は、固体電解質粒子単体を加圧することにより作製されてもよい。また、固体電解質層30は、固体電解質と、溶媒、結着剤を混合し、塗布乾燥し加圧することにより固体電解質層30を作製してもよい。なお、固体電解質層30の密度比を高めるために、必要に応じてロールプレス等のプレス工程を行うこともできる。
【0061】
(緩衝層形成工程)
次に、正極層10の正極活物質層12上または固体電解質層30の正極活物質側の面に緩衝層40を形成する。緩衝層40の形成方法は特に限定されず、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の物理的気相成長法、プラズマCVD等の化学的気相成長法やスピンコート、スクリーン印刷等の湿式塗布法を適宜利用することができる。上述した中でも真空蒸着等の物理的気相成長法を用いて単体(半)金属の形成を行うことが簡便であり、かつ緩衝層40の厚さの制御の観点からも好ましい。
【0062】
(積層工程)
次いで、正極活物質層12(すなわち、正極層10)及び固体電解質層30と、負極活物質層22(すなわち、負極層20)とを積層することで電極積層体を作製する。この際に、緩衝層40が正極活物質層12と固体電解質層30との間に配置されるように積層を行う。ついで、電極積層体をプレスする。以上の工程により、全固体二次電池1が作製される。プレスを行うための具体的なプレス方法は特に制限されず、従来の全固体二次電池1の作製に使用されるプレス方法であってもよい。たとえば、ロールプレス等によってプレスを行えば良い。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例は、あくまでも一例であって、本発明を限定するものではない。
【0064】
[1.全固体二次電池の製造]
<実施例1>
(正極構造体の作製)
正極活物質としてのLiNi0.8Co0.15Al0.05(NCA)三元系粉末と、硫化物系固体電解質としてのLiS−P(80:20モル%)非晶質粉末と、正極層導電性物質(導電助剤)としての気相成長炭素繊維粉末とを60:35:5の質量%比で秤量し、自転公転ミキサを用いて混合した。
【0065】
次いで、この混合粉に、結着剤としてのスチレン・ブタジエンゴム(SBR)が溶解した脱水キシレン溶液をSBRが混合粉の総質量に対して5.0質量%となるように添加して1次混合液を調製した。さらに、この1次混合液に、粘度調整のための脱水キシレンを適量添加することで、2次混合液を調製した。さらに、混合粉の分散性を向上させるために、直径5mmのジルコニアボールを、空間、混合粉、ジルコニアボールがそれぞれ混練容器の全容積に対して1/3ずつを占めるように2次混合液に投入した。これにより生成された3次混合液を自転公転ミキサに投入し、3000rpmで3分撹拌することで、正極活物質層塗工液を調製した。
【0066】
次いで、正極集電体として厚さ20μmのアルミ箔集電体を用意し、卓上スクリーン印刷機に正極集電体を載置し、孔径が2.0cm×2.0cmで厚みが150μmのメタルマスクを用いて正極活物質層塗工液をシート上に塗工した。その後、正極活物質層塗工液が塗工されたシートを60℃のホットプレートで30分乾燥させた後、80℃で12時間真空乾燥させた。これにより、正極集電体上に正極活物質層を形成した。乾燥後の正極集電体及び正極活物質層の総厚さは165μm前後であった。
【0067】
(負極構造体の作製)
負極活物質としての黒鉛粉末(80℃で24時間真空乾燥したもの)と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを95.0:5.0の質量%比で秤量した。そして、これらの材料と適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)とを自転公転ミキサに投入し、3000rpmで3分撹拌した後、1分脱泡処理することで、負極活物質層塗工液を調製した。
【0068】
次いで、負極集電体として厚さ20μmのニッケル箔集電体を用意し、孔径が2.2cm×2.2cmで厚みが250μmのメタルマスクを用いて負極活物質層塗工液をニッケル集電体上に塗工した。負極層塗工液が塗工されたシートを、80℃に加熱された乾燥機内に収納し、15分乾燥した。さらに、乾燥後のシートを80℃で24時間真空乾燥を行った。これにより、負極構造体を作製した。負極構造体の厚みは140μm前後であった。
【0069】
(固体電解質層の作製)
硫化物系固体電解質としてのLiS−P(80:20モル%)非晶質粉末に、SBRが溶解した脱水キシレン溶液をSBRが混合粉の総質量に対して2.0質量%となるように添加して1次混合液を調製した。さらに、この1次混合液に、粘度調整のための脱水キシレンを適量添加することで、2次混合液を調製した。さらに、混合粉の分散性を向上させるために、直径5mmのジルコニアボールを、空間、混合粉、ジルコニアボールがそれぞれ混練容器の全容積に対して1/3ずつを占めるように3次混合液に投入した。これにより得られた3次混合液を自転公転ミキサに投入し、3000rpmで3分撹拌することで、固体電解質層塗工液を調製した。
【0070】
卓上スクリーン印刷機にポリエチレンテレフタレート(Polyethyleneterephthalate:PET)を載置し、孔径が2.5cm×2.5cmで厚みが300μmのメタルマスクを用いて固体電解質層塗工液をPETシート上に塗工した。その後、40℃のホットプレートで10分乾燥させた後、40℃で12時間真空乾燥させ、固体電解質層を形成した。乾燥後の固体電解質層の総厚さは180μm前後であった。
【0071】
(緩衝層の作製)
上記のようにして得られた正極構造体の正極質層上に真空蒸着法によって、緩衝層としての厚さ100nmの亜鉛層を形成し、正極/緩衝層の構造体を得た。
【0072】
(全固体二次電池の作製)
正極/緩衝層構造体、固体電解質層および負極構造体をトムソン刃で打ちぬいた。PET上の固体電解質層を、正極/緩衝層構造体に対し、正極/緩衝層構造体の緩衝層側面が接するように重ねてロールギャップ150μmのロールプレス機を用いたドライラミネーション法により、貼り合わせることで、正極/緩衝層構造体と固体電解質層の集合体を形成した。
【0073】
上記正極/緩衝層構造体と固体電解質層の集合体の固体電解質層面と負極構造体の負極活物質層側面とを重ねて、一軸プレス機を用いて10トンの圧力で加圧成型を行うことで、全固体二次電池の単セルを作製した。
【0074】
(全固体二次電池の封入)
作製した単セルを、端子を取り付けたアルミニウムラミネートフィルムに入れ、真空機で100Paまで真空排気した後、ヒートシールを行いパックした。
【0075】
<実施例2>
真空蒸着で形成した亜鉛層の厚みが1,000nm(1μm)であること以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る全固体二次電池を製造した。
【0076】
<実施例3>
真空蒸着で形成した亜鉛層の厚みが1.0nmであること以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る全固体二次電池を製造した。
【0077】
<実施例4>
緩衝層としての亜鉛層の形成を正極活物質上ではなく、固体電解質層上に行った以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る全固体二次電池を製造した。具体的には、真空蒸着により、固体電解質層面上に亜鉛層を形成させて、固体電解質層/緩衝層の構造体を形成した。ついで、固体電解質層/緩衝層構造体の緩衝層側と正極構造体の正極活物質層側とを重ねて、ロールプレス機で貼り合せることにより、実施例4に係る全固体二次電池を製造した。
【0078】
<実施例5>
亜鉛に代えてビスマス(Bi)を用いて真空蒸着を行い、緩衝層として亜鉛層に代えてビスマス層を形成した以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係る全固体二次電池を製造した。
【0079】
<実施例6>
亜鉛に代えてビスマス(Bi)を用いて真空蒸着を行い、緩衝層として亜鉛層に代えてビスマス層を形成した以外は、実施例4と同様にして、実施例6に係る全固体二次電池を製造した。
【0080】
<比較例1>
緩衝層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る全固体二次電池を製造した。
【0081】
<比較例2>
真空蒸着で形成した亜鉛層の厚みが2,000nm(2μm)であること以外は実施例1と同様にして、比較例2に係る全固体二次電池を製造した。
【0082】
<比較例3>
真空蒸着で形成した亜鉛層の厚みが0.5nmであること以外は実施例1と同様にして、比較例3に係る全固体二次電池を製造した。
【0083】
<比較例4>
正極活物質層と固体電解質層との間に緩衝層を形成せず、負極活物質層と固体電解質層との間に緩衝層を形成した以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係る全固体二次電池を製造した。具体的には、真空蒸着により負極構造体の負極活物質層面上に厚み100nmの亜鉛層を形成させて、負極/緩衝層の構造体を形成した。次いで、負極/緩衝層構造体の緩衝層側面と正極構造体の正極活物質層側面とが接するように、負極/緩衝層構造体と正極構造体とを重ねて、一軸プレス機で加圧成形を行なった。
【0084】
<比較例5>
正極活物質層と固体電解質層との間に緩衝層を形成せず、負極活物質層と固体電解質層との間に緩衝層を形成し、緩衝層を亜鉛層ではなくビスマス層とした以外は、実施例1と同様にして、比較例5に係る全固体二次電池を製造した。具体的には、真空蒸着により負極構造体の負極活物質層面上に厚み100nmのビスマス層を形成させて、負極/緩衝層の構造体を形成した。次いで、負極/緩衝層構造体の緩衝層側面と正極構造体の正極活物質層側面とが接するように、負極/緩衝層構造体と正極構造体とを重ねて、一軸プレス機で加圧成形を行なった。
【0085】
[2.評価]
(充電時短絡試験)
各実施例および比較例に係る全固体二次電池(単セル)の容量(Ah)を東洋システム製充放電評価装置 TOSCAT−3100により測定した。初期容量の測定では、Cレートで0.1Cで充電を行い、0.01Cで放電した。その後、任意のレート(0.1C、0.33C、0.5C)で充電し、0.1Cで放電を行なった。ここでCレートとは、セル容量に対する電流値の比を意味する。
【0086】
充電時に短絡が発生した場合には、充電の途中で電圧の低下が生じたり、完全に充電できないために放電容量が低下したりする。したがって、充電時におけるこのような状況の発生を短絡の発生と判断し、各実施例および比較例に係る全固体二次電池(単セル)について、上記レート毎に短絡の有無の評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(緩衝層の元素状態評価)
充電時短絡試験後の各実施例1〜4に係る全固体二次電池を解体し、正極/緩衝層構造体を取り出した。X線光電子分光解析装置(アルバックファイ社製、ESCA5800)を用いて、正極/緩衝層構造体の緩衝層側からX線光電子分光(XPS)測定を行った。実施例1〜4のいずれにおいても、結合エネルギーがおよそ1022eVを中心とするピークが観測され、亜鉛が2価で存在することが分かった。さらにオージェ測定を行うと、結合エネルギーがおよそ497eVを中心とするピークが観測され、緩衝層中の金属亜鉛が酸化亜鉛または硫化亜鉛に変化していることが確認できた。
【0088】
各実施例および比較例に係る全固体二次電池の構成および充電時短絡試験の結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1から明らかなように、実施例1〜6にかかる全固体二次電池は、充電時における短絡が好適に防止されており、高レートの場合であっても短絡が防止されていた。
【0091】
これに対し、比較例1〜5に係る全固体二次電池は、比較的低いレートでも短絡が生じた。特に、比較例4、5においては、負極活物質層と固体電解質層との間に緩衝層を形成しても、短絡が防止できないことが判明した。
【0092】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0093】
1 全固体二次電池
10 正極層
11 正極集電体
12 正極活物質層
20 負極層
21 負極集電体
22 負極活物質層
30 固体電解質層
40 緩衝層
図1