特開2019-119921(P2019-119921A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人茨城大学の特許一覧 ▶ 春日電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2019119921-帯電物体の位置決め方法と除電装置 図000003
  • 特開2019119921-帯電物体の位置決め方法と除電装置 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-119921(P2019-119921A)
(43)【公開日】2019年7月22日
(54)【発明の名称】帯電物体の位置決め方法と除電装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/54 20060101AFI20190701BHJP
   H05F 3/04 20060101ALI20190701BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20190701BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20190701BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20190701BHJP
   C23C 14/02 20060101ALI20190701BHJP
【FI】
   C23C14/54 B
   H05F3/04 J
   H05H1/46 A
   H01L21/68 N
   H01L21/31 D
   C23C14/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-2302(P2018-2302)
(22)【出願日】2018年1月11日
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(71)【出願人】
【識別番号】000183738
【氏名又は名称】春日電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076163
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋 宣之
(72)【発明者】
【氏名】池畑 隆
(72)【発明者】
【氏名】野村 信雄
(72)【発明者】
【氏名】峯村 和樹
(72)【発明者】
【氏名】最上 智史
【テーマコード(参考)】
2G084
4K029
5F045
5F131
5G067
【Fターム(参考)】
2G084AA12
2G084BB12
2G084CC02
2G084CC33
2G084DD12
2G084DD14
2G084DD21
2G084FF07
2G084FF40
4K029BD01
4K029CA05
4K029DA06
4K029DC37
4K029FA05
4K029FA09
4K029JA01
4K029KA01
5F045AA19
5F045EH19
5F131BA03
5F131BA23
5F131CA04
5F131CA06
5F131CA09
5F131CA32
5F131CA38
5F131DA33
5F131DA52
5F131DB51
5F131EA03
5F131EB62
5F131HA25
5F131JA12
5F131JA23
5F131JA34
5F131JA35
5F131JA36
5F131KA34
5F131KB46
5G067AA42
5G067DA01
5G067DA21
(57)【要約】
【課題】 成膜処理と同一のチャンバー内で、チャンバー内の真空度を落とさずに除電処理ができる帯電物体の位置決め方法と除電装置とを提供することである。
【解決手段】 高真空に保たれたチャンバー1には、高真空を必要とする高真空処理機構Dと、除電機構Sが備えられている。また、上記除電機構Sは、電圧を印加する放電電極3と、アースに接続された接地電極4と、上記電圧印加放電電極3及び接地電極4で形成される電界E1中にガスGを供給するガス供給手段とで構成され、上記電界E1中でプラズマが生成される。そして、上記帯電物体2の電荷量に応じたプラズマの適正密度を特定し、この適正密度が形成されたエリアA1内のプラズマの雰囲気中であって、上記帯電物体2の除電対象面2aを晒すための適正位置を基準に、上記帯電物体2の位置を特定している。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高真空を維持するチャンバーの同一空間内に、高真空処理機構と除電機構とが備えられ、
上記除電機構は、電圧を印加する放電電極と、
アースされた接地電極と、
上記放電電極と接地電極間にプラズマ生成用のガスを供給するガス供給手段とを備え、
上記放電電極に電圧が印加された状態で上記ガスを供給することによって、上記放電電極と接地電極との間にプラズマが生成されるとともに、
帯電物体の電荷を、上記プラズマを介して上記接地電極側に放電する除電方法であって、
上記帯電物体の電荷量に応じたプラズマの適正密度を特定するプロセスと、
上記適正密度エリア内のプラズマの雰囲気中に上記帯電物体の除電対象面を晒すための適正位置を特定するプロセスと、
上記適正位置を基準に上記帯電物体の位置を特定するプロセスと、
上記適正密度を保ったプラズマを介して上記帯電物体の除電対象面の電荷を接地電極側に放電するプロセスとを実行する帯電物体の位置決め方法。
【請求項2】
高真空を維持するチャンバーの同一空間内に、
帯電物体に薄膜形成や微細な回路形成などの高真空を必要とする高真空処理機構と、
プラズマを生成して上記帯電物体の除電対象面を除電する除電機構と、
上記帯電物体を保持する保持手段とが備えられ、
上記除電機構は、電圧を印加する放電電極と、
アースに接続された接地電極と、
上記放電電極と接地電極間にプラズマ生成用のガスを供給するガス供給手段とで構成され、
上記放電電極及び接地電極の間で形成される電界と上記ガス供給手段から供給されるガスとでプラズマが生成される一方、
上記保持手段は、上記生成されたプラズマ中で上記除電対象面の電荷を放電するのに必要なプラズマ密度が保たれた適正密度エリアであって、上記除電対象面が晒される適正位置に帯電物体を保つ構成にした除電装置。
【請求項3】
上記チャンバーまたは上記保持手段、あるいは上記ガス供給手段が上記接地電極を兼ねる構成にした請求項2に記載の除電装置。
【請求項4】
上記放電電極がメッシュ電極からなり、上記帯電物体に対して上記放電電極の外側にガス供給手段が設けられ、上記メッシュ電極を通過して上記ガスが供給される構成にした請求項2又は3に記載の除電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高真空を維持した空間内で除電する帯電物体の位置決め方法と除電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体集積回路などのデバイスの製造プロセスでは、高真空下で薄膜形成や微細な回路形成などの成膜処理がされている。このようなデバイスの製造プロセスでは、常時排気されるガス排気手段がチャンバーに接続され、チャンバー内は高真空状態に保たれている。
【0003】
薄膜を形成する基板は、絶縁材料が使用されているため、静電気が帯電しやすい性質を持っている。静電気が帯電したままで上記基板が成膜処理されると、均一な薄膜が形成されない等の問題が生じてしまう。
また、基板を基にして製造されたデバイスは、静電気敏感デバイスと呼ばれ、静電気の帯電とこれに起因する放電とによってすぐに損傷してしまう。
上記のような問題を解決するために、高真空下で行なわれる薄膜形成プロセスでは、必要に応じて除電処理を行う必要がある。
【0004】
このような除電処理として、プラズマを生成させて除電する方法が知られている。この方法では、高電圧を印加する放電電極と、この放電電極との間で電界を形成する接地電極と、これら放電電極及び接地電極間に形成される電界内にガスを供給するガス供給手段とがチャンバー内に設けられる。
そして、この放電電極に高電圧を印加すると、チャンバー内のガスが電離し、プラズマが生成される。上記基板の表面がプラズマに晒されると、上記基板の表面電荷がプラズマを介して接地電極側へ放電し、基板の表面が除電される。
【0005】
しかし、プラズマで基板の表面を除電する除電装置を、上記成膜処理を行う高真空のチャンバーの同一空間内で用いることは難しかった。
その理由は、薄膜成形される高真空下では、ほとんどプラズマが生成されないからである。上記成膜形成プロセスで使用される高真空(10−6〜10−2[Pa])に対し、上記プラズマ生成に最適な低真空(1[Pa]以上)では、それらの真空度に大きな差がある。
【0006】
例えば、高真空中にプラズマ生成用のガスを投入すると、ほんのわずかな時間でチャンバー内にガスが拡散してしまう。そこで、プラズマを生成するために多くのガスを供給すると、チャンバー内の真空度が下がり、高真空状態が失われてしまう。
また、高真空を維持するためにガスの供給量を少なくすると、すぐにチャンバー内全体にガスが拡散して、ガス密度が薄くなってしまう。ガス密度が薄くなれば、プラズマが生成されなくなるので、プラズマを利用する除電ができなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−051523号公報
【特許文献2】特開平10−298758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の方法や装置では、高真空が必要な成膜処理と、低真空が最適な除電処理とを、チャンバーの同一空間内で一緒に行うことができなかった。なぜなら、高真空状態を維持しながら成膜形成するプロセスの前後や途中で、プラズマによる除電を行うために多くのガスを供給すると、必要な高真空が破壊されるからである。もし、チャンバー内が低真空状態になってしまえば、再び成膜処理を行うために、チャンバー内を高真空状態に戻さなければならないので、その処理効率が落ちてしまうという問題が発生してしまう。
【0009】
この発明の目的は高真空下での成膜処理と同一のチャンバー内で、除電処理ができる帯電物体の位置決め方法と除電装置とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、高真空を維持するチャンバーの同一空間内に、高真空処理機構と除電機構とを備えている。そして、上記除電機構は、電圧を印加する放電電極と、アースされた接地電極と、上記放電電極と接地電極間にプラズマ生成用のガスを供給するガス供給手段とを備えている。
また、上記放電電極に電圧が印加された状態で上記ガスを供給することによって、上記放電電極と接地電極との間にプラズマが生成される。このプラズマを介して、帯電物体の電荷を上記接地電極側に放電する除電方法を前提としている。
【0011】
そして、先ず、上記帯電物体の電荷量に応じたプラズマの適正密度を特定する。次に、上記適正密度エリア内のプラズマの雰囲気中に上記帯電物体の除電対象面を晒すための適正位置を特定するとともに、上記適正位置を基準に上記帯電物体の位置を決める。さらに、上記適正密度を保ったプラズマを介して上記帯電物体の除電対象面の電荷を接地電極側に放電して、上記帯電物体の電荷を除電する。
【0012】
なお、この発明は、出願人が実験を重ねる中で、高真空下でも、プラズマが拡散する前の所定密度のプラズマを利用することで、上記プラズマを介して帯電物体の電荷が瞬間的に除電されるとともに、瞬間的に除電されるので、成膜処理にも影響を及ぼさないことを見出したものである。
また、上記プラズマの適正密度は、高真空のレベル、帯電物体の電荷量、求められる除電時間などに応じて決められる。
【0013】
第2の発明の除電装置は、高真空を維持するチャンバーの同一空間内に、帯電物体に薄膜形成や微細な回路形成などの高真空を必要とする高真空処理機構と、プラズマを生成して上記帯電物体を除電する除電機構と、上記帯電物体を保持する保持手段とを備えている。そして、上記除電機構は、電圧を印加する放電電極と、アースされた接地電極と、上記放電電極と接地電極間にプラズマ生成用のガスを供給するガス供給手段とで構成されている。
【0014】
上記のような構成を前提として、上記放電電極及び接地電極の間で形成される電界と上記ガス供給手段から供給されるガスとでプラズマが生成される。また、上記保持手段は、生成されたプラズマ中で上記除電対象面の電荷を放電するのに必要なプラズマ密度が保たれた適正密度エリアであって、上記除電対象面が晒される適正位置で帯電物体を保つ構成にしたことを特徴としている。
【0015】
第3の発明の除電装置は、上記チャンバー、または上記保持手段、あるいは上記ガス供給手段が上記接地電極を兼ねたことを特徴としている。
なお、接地電極は、放電電極との間で電界を形成する役目と、電荷をアース側に放電する役目とを担っている。
【0016】
第4の発明の除電装置は、上記放電電極がメッシュ電極からなり、上記帯電物体に対して上記放電電極の外側にガス供給手段が設けられ、上記メッシュ電極を通過して上記ガスが供給される構成にしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明では、プラズマの適正密度エリア内の適正な位置に除電対象面を位置させるようにしたので、プラズマが拡散する前の高い密度のプラズマを除電に利用できる。
つまり、高真空に保たれたチャンバー内において、拡散前のプラズマを除電に利用できるので、プラズマを生成するガスの供給量を少なくしても、帯電物体の電荷を除電できる。
チャンバー内に供給するガスの総量が抑えられるので、チャンバー内全体の真空度が下がることを防止できる。
【0018】
また、ガスの総量を少なくできるので、高真空を保つ真空ポンプなどを介して、チャンバー内に拡散したガスが速やかに排気される。速やかにガスが排気されるので、高真空処理機構に必要な高真空を維持できる。
このように、チャンバー内の高真空を維持しながら除電できるので、チャンバーの同一空間内で高真空処理機構と除電機構とを一緒に設けることができる。
【0019】
第2の発明では、チャンバーの同一空間内で高真空処理機構と除電機構とを一緒に設けられる構成にできるので、帯電物体の処理プロセスの途中であっても、必要に応じた除電ができる。
また、チャンバー内の高真空が維持されるので、従来のように、一旦低真空状態にして除電処理をした後、再び、真空ポンプによってチャンバー内を高真空状態にするまでの時間がかからない。つまり、デバイスの製造にかかる時間が大幅に短縮される。
【0020】
第3の発明によれば、電界が、上記放電電極と、その周囲に存在する上記チャンバー、または上記保持手段、あるいは上記ガス供給手段との間で形成されるので、接地電極が必要なくなる。チャンバー内に上記接地電極を設けない分、装置を小型化できる。
【0021】
第4の発明によれば、上記放電電極がメッシュ電極になっているので、その電極の外側から供給されたプラズマ生成用のガスが上記メッシュ電極を通過して、放電電極と接地電極との間に形成された電界に供給される。上記メッシュ電極を通過したガスは、確実に電界に供給されるので、メッシュ電極を通過したガスのほとんどをプラズマ化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態の除電装置を示した模式図である。
図2】第2実施形態の除電装置を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
第1実施形態の除電装置は、図1に示すように、高真空が保たれるチャンバー1内に、半導体集積回路の電子部品を組み込む基板などに薄膜を形成する高真空処理機構Dとプラズマを介して除電する除電機構Sとを備えている。
上記チャンバー1には、真空ポンプPが接続され、チャンバー1の空間内を常時排気して、高真空が保たれるようにしている。このようなチャンバー1の空間内は、10−6〜10−2[Pa]の高真空が保たれている。
【0024】
上記高真空処理機構Dでは、例えば、スパッタ処理が行われている。
この高真空処理機構Dとなる図示していないスパッタ処理装置は、チャンバー1内に、スパッタリング用のターゲットと上記基板とが、保持手段によって保持されている。そして、チャンバー1内に設けられたイオン源から上記ターゲットにイオンビームが照射されると、上記ターゲットの原子がスパッタされ、上記基板の表面に上記原子が付着して薄膜が形成される。
【0025】
次に、上記高真空処理機構Dと同一空間内に設けられる除電機構Sを説明する。
上記チャンバー1内に設けられる除電機構Sは、電圧を印加する放電電極3と、この放電電極3との間で電界E1を形成する接地電極4と、上記放電電極3と接地電極4との間にガスGを供給するガス供給手段とで構成されている。
【0026】
上記放電電極3は、先端を尖らせ、図示しない絶縁体からなる支持手段を介してチャンバー1の側壁に支持されている。そして、上記放電電極3は、絶縁体で被覆された導線によってチャンバー1外の電源5と接続されている。さらに、電源5はアースに接続されている。
【0027】
上記放電電極3には、電源5からの高電圧が印加される。そして、上記電源5は、直流電源であって、負極の電圧を出力し続ける。
なお、この電源5は負極の電圧を印加しているが、正極の電圧を使用してもよい。また、上記電源5は直流電源で説明しているが、交流電源を使用してもよい。
【0028】
さらに、上記チャンバー1内には、上記放電電極3に対向する位置で、板状の接地電極4が設けられている。この接地電極4は、図示しない支持手段を介してチャンバー1に固定されている。そして、この接地電極4は、絶縁体で被覆された導線によってアースされている。
【0029】
この接地電極4は、高電圧が印加される放電電極3との間で電界E1を形成するために設けられている。しかし、高真空に保たれたチャンバー内では、上記放電電極3に高電圧が印加されても、放電は起こらない。その理由は、チャンバー1内が高真空状態になっているので、プラズマが生成される程度のガスGがなく、電気的にほぼ絶縁状態になっているからである。
【0030】
また、上記チャンバー1の側壁には、上記放電電極3と接地電極4との間に形成される電界E1にガスGを供給するガスノズル6が設けられている。そして、上記ガスノズル6の噴出口6aは、上記電界E1へ向けられている。
さらに、上記ガスノズル6には、チャンバー1外に設けられたバルブVを介して、図示しないプラズマ生成用のガス供給源が接続されている。そして、上記バルブVには、これらのバルブVの開閉を制御するためのバルブ制御部7が接続されている。
【0031】
この第1実施形態では、上記ガスノズル6、上記バルブV、上記バルブ制御部7及び図示していないガス供給源によって、この発明のガス供給手段を構成している。
なお、上記ガスGは、主にエアや窒素ガスが用いられているが、必要に応じて最適なガスGを選べばよく、ガスの種類は限定されない。
【0032】
上記バルブ制御部7は、上記バルブVを瞬間的に開いて、ガスGを供給するように制御している。上記バルブVを介して上記噴出口6aから上記ガスGが瞬間的に噴出されると、電界E1が形成された空間に局所的に上記ガスGが供給される。
【0033】
この電界E1が形成された空間へ局所的に上記ガスGが供給されると、プラズマが生成されるが、そのプラズマ密度は、電界E1の強さとガスGの濃度との相関関係に応じて決まる。
ただし、高真空が保たれているチャンバー1内では、生成されたプラズマは、ほんのわずかな時間でチャンバー1内に拡散してしまうが、それでもガスノズル6の噴出口6aに近いところはプラズマ密度が高く、噴出口6aから離れれば離れるほどプラズマ密度が低くなる。
【0034】
また、上記帯電物体2を保持する保持手段は、帯電物体2の位置を固定する保持板8と、この保持板8を移動させる図示していない移動機構とを備え、この移動機構によって帯電物体2をチャンバー1の内外に搬送できるようにしている。
この移動機構としては、例えば、ロボットアームのハンド等が典型的である。
【0035】
このような除電装置において、帯電物体2の位置は次のように決められる。
まず、帯電物体2の除電対象面2aの電荷量を、図示していない表面電位計などで測定する。
【0036】
次に、測定された帯電物体2の電荷量に応じたプラズマの適正密度を特定する。このプラズマの適正密度は、上記除電対象面2aの電荷量を放電するのに必要なプラズマ密度から求められる。
したがって、除電対象面2aの電荷量、プラズマの拡散速度、求められる除電処理時間に応じて、プラズマの適正密度が特定される。
【0037】
例えば、プラズマ密度が高い方が、単位時間当たりの帯電電荷をより多く放電できる。しかし、プラズマの密度はガス濃度にも依存しているので、チャンバー1内の真空度、すなわちガスGの拡散速度も考慮し、プラズマが希釈化される過程での適正密度を特定しなければならない。
なお、プラズマの適正密度の特定は、プラズマ密度測定装置を用いてもよいし、帯電したサンプルを用いてシミュレーションを繰り返して特定するようにしてもよい。
【0038】
プラズマ密度は、上記したような高真空下では、噴出口6aと帯電物体2の除電対象面2aとの距離によっても大きく異なる。高真空下でノズルから瞬間的かつ局所的にガスGが供給されるので、噴出口6aに近いところではプラズマ密度が高くなる一方で、時間の経過とともにプラズマがチャンバー1内に拡散して密度が希釈化されていく。そのため、噴出口6aと帯電物体2の除電対象面2aとの距離によってもプラズマ密度が相違してくる。したがって、プラズマの適正密度は、噴出口6aから帯電物体2までの距離にも依存することになる。
【0039】
上記のようにプラズマの適正密度が特定されたら、適正密度を保ったプラズマの雰囲気中であって、上記帯電物体2の除電対象面2aを晒すための適正位置が決められる。このようなプラズマの適正密度が形成された適正密度の雰囲気中を適正密度エリアA1としている。
【0040】
上記エリアA1は、除電に必要な最小のプラズマが生成さていれば良いので、プラズマが拡散する前の密度の高いプラズマの雰囲気中に帯電物体2を持っていくことで、帯電物体2を除電することができる。
なお、上記帯電物体2は、上記移動機構によって上記適正位置に保持される。
【0041】
次に、上記除電装置の作用を説明する。
チャンバー1内は、上記真空ポンプPによって、上記高真空処理機構Dが処理可能な高真空が維持されている。また、帯電物体2は、チャンバー1内で保持板8に保持される。そして、この保持板8は図示していない移動機構で移動可能になっているので、チャンバー1内における帯電物体2の除電対象面2aの位置を自由に特定できる。
【0042】
上記移動機構は、プラズマが生成される適正密度エリアA1内であって、あらかじめ決められた位置に帯電物体2の除電対象面2aを移動する。
そして、上記放電電極3に高電圧を印加した状態のままで、上記バルブ制御部7によってバルブVを瞬間的に開状態にして、一定濃度のプラズマ生成用のガスGを瞬間的かつ局所的に供給する。
【0043】
上記ガスノズル6から瞬間的かつ局所的にガスGが供給されると、電界E1が形成された空間内に瞬間的かつ局所的にプラズマ生成可能な雰囲気が形成される。
そして、上記ガスGと上記電界E1とによってプラズマが生成される。この生成されたプラズマは、時間の経過とともにチャンバー1内に拡散するので、その拡散前の除電に最適なプラズマ密度を除電に利用している。
【0044】
なお、プラズマの生成は、一般的に1〜10+2[Pa]の低真空状態が好ましいとされている。そこで、上記エリアA1は、シミュレーション等を繰り返して、瞬間的かつ局地的にプラズマ生成に最適な真空度が決められるとともに、上記帯電物体2の電荷量に応じた適正密度のプラズマが特定されるようにしている。
【0045】
この第1実施形態では、帯電物体2の除電対象面2aが、拡散前の高い密度のプラズマであって、除電に最適な適正密度のプラズマに晒されることになる。
このようにプラズマに晒される除電対象面2aの電荷は、導電特性を持ったプラズマを介して接地電極4側に放電される。
なお、電荷を放電するための接地電極4は、アースされていればよいので、アースされたチャンバー1を接地電極としてもよい。
【0046】
上記のような除電処理の間、チャンバー1の空間内は上記真空ポンプPによって常時排気されているので、チャンバー1内に拡散した少量のガスGは、すぐに排気される。
【0047】
この第1実施形態では、チャンバー1内に拡散する前の密度の高いプラズマを除電処理に利用しているので、そのプラズマを生成するガスGの総量が少なくてすむ。したがって、ガスGの総量を少なくできるので、チャンバー1内の高真空を保つことができる。
上記のように除電された帯電物体2は、上記移動機構によって上記高真空処理機構Dエリアに搬送される。
【0048】
この第1実施形態では、プラズマの適正密度エリアA1内の適正な位置に除電対象面を位置させるようにしたので、プラズマが拡散する前の高い密度のプラズマを除電に利用できる。
つまり、高真空に保たれたチャンバー1内において、拡散前のプラズマを除電に利用できるので、プラズマを生成するガスGの供給量を少なくしても、帯電物体2の電荷を放電できる。
このように、チャンバー1内に供給するガスGの総量が抑えられるので、チャンバー1内全体の真空度が下がることを防止できる。
【0049】
また、ガスGの総量を少なくできるので、高真空を保つ真空ポンプPなどを介して、チャンバー1内に拡散したガスGが速やかに排気される。速やかにガスGが排気されるので、高真空処理機構Dに必要な高真空を維持できる。
このように、チャンバー1内の高真空を維持しながら除電できるので、チャンバー1の同一空間内で高真空処理機構Dと除電機構Sとを一緒に設けられる。
【0050】
このようにチャンバー1の同一空間内で高真空処理機構Dと除電機構Sとを一緒に設けても、高真空を破壊することなく除電することができる。
さらに、チャンバー1内の高真空が維持されるので、低真空から高真空に戻す時間が短くなり、例えば成膜処理にかかる時間を短くすることができる。
【0051】
なお、この第1実施形態では、高真空処理機構Dとしてスパッタ処理装置を説明しているが、例えば、真空蒸着処理装置、CVD処理装置など、高真空下で除電を行う必要があればどのような処理装置でも利用することができる。
また、この第1実施形態では、移動機構としてロボットアームのハンドを例に説明したが、他の移動機構を用いることができる。例えば、ベルトコンベアを移動機構として用いることができる。
【0052】
さらに、この第1実施形態では、接地電極4を設けて説明したが、上記接地電極4を省略して、例えば、チャンバー1の側壁を接地電極として用いてもよい。このような場合には、放電電極3とチャンバー1の側壁との間で電界E1が形成される。接地電極は、放電電極3との電位差があればよいので、上記チャンバー1の他、放電電極3の近辺に配置されたガスノズル6などを接地電極としてもよい。
【0053】
また、この第1実施形態では、上記放電電極3は、先端を尖らせた電極を用いたが、板、線、メッシュ状など、様々な形態のものを用いることができる。
そして、この第1実施形態では、デバイスの製造プロセスで、必要に応じて除電することができる。高真空処理機構Dと除電機構Sとの間を移動機構で往復させることで、随時除電処理できる。
【0054】
次に、図2を用いて、第2実施形態を説明する。
この第2実施形態では、帯電物体2を保持している保持板9がアースされているとともに、メッシュ状の放電電極10の外側からガスノズル11の噴出口11aを電界E2に向けている構成に特徴がある。その他の構成は、上記第1実施形態と同じであり、第1実施形態と同じ構成要素には、同じ符号を用いている。
【0055】
第2実施形態では、上記放電電極10は、格子状に編まれたメッシュ電極からなり、図示しない絶縁体からなる支持手段によってチャンバー1の側壁に支持されている。そして、上記放電電極10は、絶縁体で被覆された導線によってチャンバー1外の電源5と接続されている。
【0056】
この放電電極10に対向して保持手段の保持板9が設けられるとともに、上記保持板9が放電電極10と平行に配置されている。この保持板9は、図示しない移動機構に支持されており、高真空処理機構Dと除電機構Sとを往復できるようになっている。
上記保持板9における放電電極10側には、帯電物体2が図示しない爪部によって固定されている。この保持板9は、導電性を備えるとともに、上記帯電物体2よりも大きな面積を備えている。そして、上記保持板9に帯電物体2を重ねたとき、上記帯電物体2の外周から上記保持板9がはみ出すように設けられている。
【0057】
そして、この第2実施形態では、上記放電電極10と、帯電物体2を保持している保持板9とで電界E2が形成される。このように、第2実施形態では、保持板9が接地電極を兼ねている。
【0058】
また、上記帯電物体2に対して上記放電電極10の外側には、ガスノズル11がチャンバー1の側壁に設けられている。このガスノズル11は、その噴出口11aが上記放電電極10と保持板9との間に形成される電界E2に向けられている。そして、上記噴出口11aから噴出したガスGは、メッシュ状の上記放電電極10を通過して、上記電界E2に供給される。
【0059】
その他の構成は第1実施形態と同じであるが、上記チャンバー1内は真空ポンプPで常時排気され、全体として高真空が保たれるように構成されている。そして、上記帯電物体2の位置決めについても、第1実施形態と同様である。
【0060】
このような装置において、上記放電電極10に高電圧を印加すれば、対向する保持板9との間に電界E2が形成される。そして、プラズマ生成用のガスGを放電電極10のメッシュ電極を通過させて上記電界E2内に供給すれば、上記電界E2とガスGとによってプラズマが生成される。図2に示したエリアA2内では、瞬間的かつ局地的に上記帯電物体2の電荷量に応じた適正密度のプラズマが形成される。
【0061】
上記プラズマは、噴出口11aから噴出されたガスGの噴出方向に広がり、帯電物体2の除電対象面2aにぶつかる。そのとき、帯電物体2の除電対象面2aは適正密度のプラズマに晒されている。
同時に、接地電極を兼ねている保持板9も上記プラズマに晒される。上記保持板9がプラズマに晒されると、上記帯電物体2の除電対象面2aの電荷が上記プラズマを介して保持板9に流れ、帯電物体2が除電される。
【0062】
この第2実施形態によれば、プラズマを生成する電界E2が、上記放電電極10と上記保持手段の保持板9との間で形成されるので、第1実施形態で設けられていた接地電極を除いた分、装置が小型化される。
また、上記放電電極10がメッシュ電極になっているので、その電極の外側から供給されたプラズマ生成用のガスGがメッシュ電極を通過して、放電電極10と接地電極となる保持板9との間に形成された電界E2に供給される。上記メッシュ電極を通過したガスGは、確実に電界E2に供給されるので、メッシュ電極を通過したガスGのほとんどをプラズマ化させることができる。
【0063】
なお、第1,2実施形態の除電装置は、帯電物体2の除電対象面2aのみを除電する構成にしたが、帯電物体2の両面を同時に除電する構成にしてもよい。このような場合には、処理される両面を、プラズマに晒すように設ければよい。
この装置の放電電極、接地電極及びガスノズルの配置、印加電圧、プラズマ生成用のガスGの供給量や供給時間などは、帯電物体2の大きさや種類、除電目的に応じて設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
高真空が必要な成膜処理と同一のチャンバー内で、帯電物体の除電に適用できる。
【符号の説明】
【0065】
1…チャンバー、2…帯電物体、3,10…放電電極、4…接地電極、5…電源、6,11…ガスノズル、7…バルブ制御部、D…高真空処理機構、S…除電機構、E1,E2…電界、V…バルブ
図1
図2