特開2019-12052(P2019-12052A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2019-12052コンクリート構造部材の柱状サンプル採取方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-12052(P2019-12052A)
(43)【公開日】2019年1月24日
(54)【発明の名称】コンクリート構造部材の柱状サンプル採取方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/08 20060101AFI20181221BHJP
【FI】
   G01N1/08 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-130224(P2017-130224)
(22)【出願日】2017年7月3日
(11)【特許番号】特許第6308541号(P6308541)
(45)【特許公報発行日】2018年4月11日
(71)【出願人】
【識別番号】593153428
【氏名又は名称】中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【弁理士】
【氏名又は名称】宮部 岳志
(72)【発明者】
【氏名】阿部 忠
(72)【発明者】
【氏名】大窪 克己
(72)【発明者】
【氏名】高野 真希子
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA16
2G052AC11
2G052AD12
2G052BA02
2G052BA15
(57)【要約】
【課題】コンクリート構造物を構成するコンクリート構造部材が内部欠損を含んだ状態であっても、コンクリート構造部材の内部状態を可視化できる、コンクリート構造部材の柱状サンプル採取方法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造部材において柱状サンプルを採取する部位に、前記柱状サンプルを採取する前に、前記柱状サンプルの径よりも小さく、前記柱状サンプルを採取するために掘削する方向に延伸する接着剤注入孔を形成する工程と、前記接着剤注入孔に接着剤を注入する工程と、前記接着剤注入孔を含む前記柱状サンプルを採取する工程を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造部材において柱状サンプルを採取する部位に、前記柱状サンプルを採取する前に、前記柱状サンプルの径よりも小さく、前記柱状サンプルを採取するために掘削する方向に延伸する接着剤注入孔を形成する工程と、
前記接着剤注入孔に接着剤を注入する工程と、
前記接着剤注入孔を含む前記柱状サンプルを採取する工程を有することを特徴とするコンクリート構造部材の柱状サンプル採取方法。
【請求項2】
前記柱状サンプルを採取するために掘削する方向が、コンクリート構造部材の下側に配置された面から鉛直方向に沿って上に進むものである請求項1に記載の柱状サンプル採取方法。
【請求項3】
前記柱状サンプルを採取するために掘削する方向が、コンクリート構造部材の上側に配置された面から鉛直方向に沿って下に進むものである請求項1に記載の柱状サンプル採取方法。
【請求項4】
前記接着剤注入孔が鉛直方向に延伸し下方に開口し、前記開口をシート材で封止する工程を有する請求項1、2、又は3に記載のコンクリート構造部材の柱状サンプル採取方法。
【請求項5】
前記接着剤注入孔と前記柱状サンプルを採取するために形成される試掘孔が、前記コンクリート構造部材を貫通する請求項1〜4のいずれかに記載のコンクリート構造部材の柱状サンプル採取方法。
【請求項6】
前記接着剤は蛍光材を含有する請求項1〜5のいずれかに記載のコンクリート構造部材の柱状サンプル採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物を構成するコンクリート構造部材におけるひび割れや砂利化などの内部欠損を含んだ状態で、コンクリート構造部材の内部状態の可視化を可能とする、コンクリート構造部材の柱状サンプル採取方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路橋などのコンクリート構造物には、様々な要因による劣化が生じている。例えば、車両が通行するコンクリート橋では、交通車両の増大により疲労劣化が生じている。また、海岸線に建設された構造物では、飛来塩分により蓄積した塩化物イオンが、コンクリートに複合された鉄筋やPCケーブルを腐食させ、構造物の性能低下を招いている。更に、積雪寒冷地域のコンクリート橋では、凍結防止剤の散布による塩害と凍害の影響による複合劣化が生じている。
【0003】
そのため、コンクリート構造物を既定の供用年数にわたって維持管理するためには、劣化により性能が低下したコンクリートを適切に診断し、脆弱したコンクリートを適切に処理し、それを補強する対策が重要となる。
【0004】
そして、コンクリートの診断にあたっては、構造物から採取した柱状サンプルを用いる手法が広く採用され、様々な試験方法も提案されている。例えば、特開2009−244127公報には、セメント硬化体(柱状サンプル)に存在する空隙部に、有機ハロゲン化合物を溶解又は混合した樹脂液を含浸させて硬化させた後、有機ハロゲン化合物由来のハロゲン原子の分布状態を分析することによりセメント硬化体中の空隙部を検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−244127公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の道路橋床版の維持管理などでは、従来知られていた劣化進展過程とは別に、構造物(床版)を構成する部材の内部に構造物表面と平行する方向に発生するひび割れの存在が注目されている。このひび割れは発生しても外面からの目視による確認が不可能であるが、その発生と拡大がもたらすコンクリートの擦り磨きによるせん断応力の伝達性能の低下は、床版の曲げ剛性を大幅に低下させる問題がある。
【0007】
そのため、コンクリート構造物の内部の状態を把握する必要がより高まっているが、内部にひび割れが生じているコンクリート構造部材から従来の手法で柱状サンプルを採取した場合、ひび割れが生じた部位で柱状サンプルが分解するため、柱状サンプルにより内部状態を可視化することが難しかった。
【0008】
なお、コンクリート構造物の内部で生じたひび割れなどの損傷が進行し砂利化した場合も、ひび割れと同様、砂利化した部位で柱状サンプルが分解してしまう。すなわち、コンクリート構造物にひび割れや砂利化などの内部欠損が生じた場合、従来の手法では、柱状サンプルを採取することが難しかった。
【0009】
そこで、中性子線透過法、超音波探傷法、赤外線サーモグラフィ法、或いは電磁波レーダ法などの非破壊検査により、柱状サンプルを採取することなく、コンクリート構造物の内部を診断することが試みられている。しかしながら、非破壊検査による診断では、内部欠損も含めた内部損傷の有無を検出できる場合はあるものの、内部損傷の状態を正確に把握することは難しかった。
【0010】
そこで、本発明は、コンクリート構造物を構成するコンクリート構造部材が内部欠損を含んだ状態であっても、コンクリート構造部材の内部状態を可視化できる、コンクリート構造部材の柱状サンプル採取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るコンクリート構造部材の柱状サンプル採取方法は、コンクリート構造部材において柱状サンプルを採取する部位に、前記柱状サンプルを採取する前に、前記柱状サンプルの径よりも小さく、前記柱状サンプルを採取するために掘削する方向に延伸する接着剤注入孔を形成する工程と、前記接着剤注入孔に接着剤を注入する工程と、前記接着剤注入孔を含む前記柱状サンプルを採取する工程を有する。
【0012】
前記柱状サンプルを採取するために掘削する方向が、コンクリート構造部材の下側に配置された面から鉛直方向に沿って上に進むものであってもよい。
【0013】
前記柱状サンプルを採取するために掘削する方向が、コンクリート構造部材の上側に配置された面から鉛直方向に沿って下に進むものであってもよい。
【0014】
前記接着剤注入孔が鉛直方向に延伸し下方に開口し、前記開口をシート材で封止する工程を有してもよい。
【0015】
前記接着剤注入孔と前記柱状サンプルを採取するために形成される試掘孔が、前記コンクリート構造部材を貫通してもよい。
【0016】
接着剤注入孔がコンクリート構造部材を貫通する場合、接着剤は接着剤注入孔のどちらの開口から注入してもよく、或いは、両方の開口から注入してもよい。
【0017】
前記接着剤は蛍光材を含有するものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、柱状サンプルを採取するための試掘孔と交差して伸びるひび割れが存在し、柱状サンプルがそのひび割れに分割される場合でも、接着剤により一体に接合した状態で採取することができる。従って、コンクリート構造物を構成するコンクリート構造部材が内部欠損を含んだ状態であっても、コンクリート構造部材の内部状態を可視化できる。
【0019】
本発明において、柱状サンプルを採取するために掘削する方向は、柱状サンプルを採取する状況や環境に応じて最適な方向を選択することができる。コンクリート構造部材の下側に配置された面から鉛直方向に沿って上に進むものであってもよく、コンクリート構造部材の上側に配置された面から鉛直方向に沿って下に進むものであってもよい。例えば、コンクリート構造物が道路橋である場合、下側表面から鉛直方向に沿って上方に掘削を進めることにより、交通規制を行うことなく、橋梁の下側から柱状サンプルを採取することが可能となる。なお、接着剤も掘削する方向と同じ方向に注入すればよい。
【0020】
コンクリート構造部材の下側に配置された面から鉛直方向に沿って上に掘削を進める場合、接着剤注入孔は下方に開口することになるが、開口をシート材で封止し接着剤の流出を防止することにより、柱状サンプルをより確実に接合することができる。
【0021】
本発明は、厚み寸法(深さ)が小さいコンクリート構造物にも適用することできる。その場合、接着剤注入孔と柱状サンプルを採取するために形成される試掘孔が、コンクリート構造部材を貫通してもよい。なお、接着剤注入孔がコンクリート構造部材を貫通し下方に開口する場合は、下側の開口をシート材で封止することが好ましい。
【0022】
また、本発明において、接着剤が蛍光材を含有するものであれば、接着剤が浸透したひび割れや砂利化などの内部欠損は、コンクリート部材の他の部位と明確に区別することができる。従って、試掘孔と交差して伸びるひび割れをより明確に可視化できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係るコンクリート構造部材の柱状サンプル採取方法を、コンクリート構造部材の上側に配置された面から掘削を進める場合に適用した実施形態における、柱状サンプルを採取するまでの工程を示す断面図である。
図2】本発明に係るコンクリート構造部材の柱状サンプル採取方法を、コンクリート構造部材を貫通して掘削する場合に適用した実施形態における、接着剤注入孔の下方の開口をシート材で封止する工程を示す断面図である。
図3】採取した柱状サンプルの縦断面を示し、(a)は一般照明の下で得た画像写真、(b)は紫外線照明の下で得た画像写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、図1において、本発明の理解を容易にするため、説明の便宜上、誇張して表示されている部分があり、部位間の相対寸法は正確ではない。
【0025】
まず、図1(a)に示すように、コンクリート構造部材10において柱状サンプル11を採取する部位11aに、柱状サンプル11を採取する前に、柱状サンプル11の径よりも小さく、柱状サンプル11を採取するために掘削する方向Aに延伸する、接着剤注入孔1を形成する。
【0026】
接着剤注入孔1は、公知のドリルで形成することができる。柱状サンプルの大きさ、コンクリート部材の状態、採取環境等を考慮して最適な直径とすればよい。例えば、柱状サンプルがφ10〜25mmであれば、接着剤注入孔1の直径として5〜10mmが好ましい。
【0027】
形成された接着材注入孔1は、粉塵等を除去するために清掃する。そして、図1(b)に示すように、接着剤2を注入する。接着剤注入孔1に注入された接着剤2は、柱状サンプルを採取するために掘削する方向Aと交差する方向Bに延伸するひび割れ3が存在すれば、その中に浸透する。
【0028】
なお、この実施形態では、コンクリート構造部材10の内部に、コンクリート構造部材10の表面と平行する方向に発生するひび割れ3が内部欠損であるが、内部欠損はひび割れに限定されるものではない。砂利化やその他の欠損が含まれる場合であっても、適用可能である。
【0029】
接着剤2は、柱状サンプルとして採取した場合にひび割れで分離される部分を、作業工程に支障を与えない時間内で付着させることができるものが好ましい。例えば、0.05mm程度以上のひび割れに浸透する粘性を有し、ひび割れで分離される部分を三十分程度で付着させることが可能な、樹脂系接着剤を使用してもよい。
【0030】
また、接着剤2は、蛍光材が混合されたものでもよい。なお、蛍光材による発色に制限はなく、使用状況に応じて適宜決めることができる。例えば、自然光で発色するものでもよく、ブラックライト(紫外線)で発色するものでもよい。
【0031】
ひび割れで分離される部分を付着させるための時間が経過したら、柱状サンプル11を採取するための試掘を行う。すなわち、図1(c)に示すように、方向Aに掘削し、接着剤挿入孔1の開口を囲み環状に開口する試掘孔4を形成し、試掘孔4に囲まれた接着剤注入孔1を含む部位11aを、柱状サンプル11として採取する。
【0032】
柱状サンプル11は、試掘孔4と交差して伸びるひび割れ3に分割されるが、ひび割れ3に浸透した接着剤2により一体に接合された状態で採取することができる。従って、コンクリート構造物を構成するコンクリート構造部材が内部に生じたひび割れを含んだ状態であっても、コンクリート構造部材の内部状態を可視化できる。
【0033】
また、ひび割れ3に浸透する接着剤2が、蛍光材の混合されたものであれば、接着剤2が浸透したひび割れ3を、コンクリート部材10の他の部位と明確に区別することができる。すなわち、試掘孔4と交差して伸びるひび割れ3をより明確に可視化できる。
【0034】
柱状サンプル11における接着剤2の浸透状態は、公知の手法により測定することができる。なお、接着剤2に含まれる蛍光材が自然光で発色するものであれば、柱状サンプル11を採取した現場で、即座に、ひび割れ3を視認することができる。
【0035】
コンクリート構造物の下側から柱状サンプルを採取しなければならない場合や、コンクリート構造物の厚み寸法が小さく試掘孔や接着剤注入孔がコンクリート構造部材を貫通する場合は、コンクリート構造部材の下側に配置された面において下方に開口する接着剤注入孔が形成されることになる。これらの場合、コンクリート構造部材の下側に配置された面の開口をシート材で封止することが好ましい。コンクリート構造部材の下側に配置された面における接着剤注入孔の開口をシート材で封止する工程を図2に示す。なお、図2において、図1に示す実施形態と実質的に同じ部分には同符号を付し、その説明を簡略化または省略する。
【0036】
コンクリート構造部材の下側に配置された面において、接着剤注入孔1が下方に開口する場合、接着剤注入孔1に接着剤2を注入した後、接着剤2の流出を防止するために、開口が形成された部位にシート材5を展着し開口を塞ぐ。
【0037】
シート材5は、接着剤2を浸透させることなく接着剤注入孔1の中に保持できるものであれば良く制限は無いが、例えば、壁面はく落防止シートを使用することができる。
【0038】
図1及び図2に示す実施形態では、鉛直方向に沿って掘削が進められているが、コンクリート構造物の側面から水平方向に沿って掘削を進めてもよい。
【実施例】
【0039】
コンクリート供試体から、以下の条件で柱状サンプルを採取した。採取した柱状サンプルの写真を図3に示す。
(接着剤注入孔)
φ10mm、深さ18mmとした。
(接着剤)
浸透性接着剤(0.05mmのひび割れを充填できる浸透性を有する材料)に、蛍光材を適量混入したものを使用した。
(試掘孔)
外径φ25mm、深さ20mmとした。
【0040】
図3(a)に示すように、試掘孔と交差して伸びるひび割れに分割された柱状サンプルを、接着され一体化された状態で採取し、内部状態を可視化できることが確認された。なお、試掘孔と交差して伸びるひび割れは、紫外線照明の下で得られた画像である図3(b)において、白く発色した部分である。
【符号の説明】
【0041】
1 接着剤注入孔
2 接着剤
3 ひび割れ
4 試掘孔
5 シート体
10 コンクリート構造部材
11 柱状サンプル
11a 柱状サンプルを採取する部位
A 掘削する方向
B 掘削する方向と交差する方向
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2017年12月7日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
コンクリート構造部材において柱状サンプルを採取する部位に、前記柱状サンプルを採取する前に、前記柱状サンプルの径よりも小さく、前記柱状サンプルを採取するために掘削する方向に延伸する接着剤注入孔を形成する工程と、
前記接着剤注入孔に接着剤を注入する工程と、
前記接着剤挿入孔の開口を囲み環状に開口する試掘孔を形成する工程と、
前記接着剤注入孔を含む前記柱状サンプルを採取する工程を有することを特徴とするコンクリート構造部材の柱状サンプル採取方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
本発明に係るコンクリート構造部材の柱状サンプル採取方法は、コンクリート構造部材において柱状サンプルを採取する部位に、前記柱状サンプルを採取する前に、前記柱状サンプルの径よりも小さく、前記柱状サンプルを採取するために掘削する方向に延伸する接着剤注入孔を形成する工程と、前記接着剤注入孔に接着剤を注入する工程と、前記接着剤挿入孔の開口を囲み環状に開口する試掘孔を形成する工程と、前記接着剤注入孔を含む前記柱状サンプルを採取する工程を有する。