【解決手段】エンジンEの出力軸に連結され、走行用油圧回路Z1に作動油を供給する走行用油圧ポンプP1と、エンジンEの出力軸に連結され、振動用油圧回路Z2に作動油を供給する振動用油圧ポンプP2と、走行用油圧ポンプP1からエンジンEの出力軸に許容回転数以上の負荷が作用したとき、振動用油圧ポンプP2を作動させてエンジンEの過回転を抑制する過回転抑制機構30と、を備えることを特徴とする。
前記許容回転数は、ハイアイドルで走行している車両を停止させたときの前記エンジンの最大回転数よりも高く設定することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の建設車両。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
当該建設車両において、回送などで下り坂路を走行させた際や下り坂路にあってHSTによって停止させる(前後進レバーを中立位置に戻す)動作を行った際、車両の落下エネルギーがエンジンブレーキに勝り、エンジンの回転数が過度に上昇するおそれがある。エンジンの許容回転数を上回る過回転はバルブサージングを招き、結果としてバルブやロッカーアーム等の破損を生じ、車両の運転が不可能となる。また、その際のエンジンの損傷は甚大であり、修理費用も高額となる。
【0005】
坂路でのエンジンの過回転を防止するためには、車速変速段のLowを使用することが望ましいが、回送作業時の坂路降下でオペレータがスイッチ操作を忘れてしまうなど、人間の操作に頼るには限界がある。自動で変速Lowに切り替えた場合、高速回転中の吐出量切換えとなり、走行モータに与える負荷が高く走行モータ自体が破損する可能性が高い。自動でブレーキをかける方法は、オペレータが予期しない急ブレーキとなるため、オペレータに過負荷がかかることが予想される。
【0006】
特別な操作を必要としない方法としては、エンジンブレーキの大きいエンジンを選定することや、強化バルブスプリングを採用する等の方法があるが、エンジンブレーキのために必要以上の大排気量エンジンを搭載することは現実的ではない。また、エンジンの内部部品の変更や排気ブレーキの追加等は、エンジンメーカーの協力が不可欠となり、排出ガス規制が厳しい昨今にあっては、容易に変更ができない。車両にサービスブレーキやリターダー等を搭載することも考えられるが、搭載場所やコストの観点を考慮すると、開発初期から十分に検討されない場合を除いては、採用が困難である。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するために創作されたものであり、エンジンの過回転を簡易な構成で抑制することができる建設車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため本発明は、エンジンの出力軸に連結され、走行用油圧回路に作動油を供給する走行用油圧ポンプと、前記エンジンの出力軸に連結され、作業用油圧回路に作動油を供給する作業用油圧ポンプと、前記走行用油圧ポンプから前記エンジンの出力軸に許容回転数以上の負荷が作用したとき、前記作業用油圧ポンプを作動させて前記エンジンの過回転を抑制する過回転抑制機構と、を備えることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、作業用油圧ポンプを作動させることで起動エネルギーとして動力を消費させ、エンジンに入力される動力を軽減することができるためエンジンの過回転を抑制することができる。また、既存の作業用油圧ポンプを作動させるだけでよいため、簡易な構成とすることができる。
【0010】
また、内部に起振軸を備えるとともに被転圧面を転圧するロールを備え、前記作業用油圧ポンプは、前記起振軸を回転させることにより前記ロールを振動させることが好ましい。
【0011】
作業用油圧ポンプの種類は適宜設定すればよいが、かかる構成によれば、ロールを起振させる際に大きなエネルギーが必要となるため、この大きなエネルギーを作業用油圧ポンプ側で消費させ、エンジンの過回転を効率良く抑制することができる。
【0012】
また、前記過回転抑制機構は、前記起振軸を同方向に断続的に回転させることが好ましい。また、前記過回転抑制機構は、前記起振軸を正方向及び逆方向に回転させることが好ましい。かかる構成によれば、例えば、長い坂路又は急勾配の坂路を下る場合に、効率良く過回転を抑制することができる。
【0013】
また、前記許容回転数は、ハイアイドルで走行している車両を停止させたときの前記エンジンの最大回転数よりも高く設定することが好ましい。かかる構成によれば、エンジンの回転数が通常使用される範囲内である場合は過回転抑制機構経由で作業用油圧ポンプが作動しないようにすることができる。
【0014】
また、前記過回転抑制機構は、前記エンジンの過回転が抑制され前記エンジンの回転数が所定回転数以下になったとき、前記作業用油圧ポンプを停止させ、前記所定回転数は、前記エンジンのハイアイドル時の回転数よりも高く設定することが好ましい。
【0015】
作業用油圧ポンプが長時間に亘って作動すると、本来意図しない動作(例えば、振動)が継続することになるが、かかる構成によれば、作業用油圧ポンプを停止させるようにしたため、意図しない動作を防止できる。また、停止させる下限値をハイアイドルよりも高く設定することで、作業用油圧ポンプを確実に停止させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る建設車両によれば、エンジンの過回転を簡易な構成で抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る建設車両として、土工用の振動ローラ1を例示する。振動ローラ1は、振動するロールRを備えた締め固め機械である。振動ローラ1は、ロールRを振動させながら前進又は後進することで、被転圧面を転圧することができる。本実施形態では、建設車両として振動ローラ1を例示したが、建設現場で用いられる他の建設車両に本発明を適用してもよい。
【0019】
振動ローラ1は、
図1に示すように、基体2と、タイヤT,Tと、タイヤ用走行モータM1と、機枠3と、ロールRと、ロール用走行モータM2と、振動用油圧モータM3と、油圧装置10(
図2参照)と、過回転抑制機構30(
図2参照)と、を主に含んで構成されている。タイヤ用走行モータM1、ロール用走行モータM2及び振動用油圧モータM3は、いずれも油圧モータである。
【0020】
図1に示すように、基体2は、エンジンEを搭載するとともに、車軸X1を介してタイヤT,Tを回転可能に支持している。基体2の上部にはハンドルHを備えた運転席5が設けられている。運転席5の座席6の脇には前後進レバーR1が設けられている。前後進レバーR1は、車両の前進又は後進を切り替えるためのレバーである。前後進レバーR1は、前進位置、中立位置、後進位置の3箇所に位置するように構成されている。運転席5の操作パネルSの脇にはスロットルレバーR2が設けられている。スロットルレバーR2は、傾倒角度に応じてエンジンEの回転数を制御できるレバーである。
【0021】
操作パネルSには、ロールRの振動のON又はOFFを切り替える振動スイッチS1及び振動の正回転又は逆回転を切り替える切換えスイッチS2が設置されている。タイヤ用走行モータM1は、タイヤT,Tを支持する車軸X1の近傍に設けられている。
【0022】
機枠3は、連結部4を介して基体2に連結されている。振動ローラ1は、連結部4を中心に鉛直軸周りに回動可能なアーティキュレート式になっている。機枠3は、ロールRを回転かつ振動可能に支持している。ロールRの内部には起振機ケースが設けられており、当該起振機ケースにロールRを振動させる起振軸X2が内蔵されている。偏心錘Y(
図2参照)が固定された起振軸X2を振動用油圧モータM3によって回転させることにより、ロールRを振動させることができる。ロール用走行モータM2及び振動用油圧モータM3は、ロールRの内部に設置されている。
【0023】
具体的な図示は省略するが、振動ローラ1は、作業用及び走行用のHSTブレーキを備えている。また、駐車時に用いられる駐車ブレーキも備えている。なお、本発明は、アーティキュレート式だけでなく、リジッドフレーム式に採用することも可能であるし、タンデムローラ、マカダムローラ等に採用してもよい。
【0024】
図2に示すように、本実施形態の油圧装置10は、走行用の油圧回路を構成する走行用油圧回路Z1と、振動用の油圧回路を構成する振動用油圧回路Z2とで構成されている。走行用油圧回路Z1は、走行用油圧ポンプP1と、タイヤ用走行モータM1と、ロール用走行モータM2と、これらの機器を連結する流路とで閉回路を構成している。
【0025】
走行用油圧ポンプP1は、吐出量を変更可能な可変容量タイプであって、軸継手11を介してエンジンEの出力軸に連結されている。また、振動用油圧ポンプP2は、エンジンEの出力軸に連結されている。つまり、本実施形態では、エンジンEの出力軸に、走行用油圧ポンプP1及び振動用油圧ポンプP2が直列で連結されており、走行用油圧ポンプP1と振動用油圧ポンプP2は、同期して回転する。なお、走行用油圧ポンプP1と振動用油圧ポンプP2は、本実施形態では、スプライン軸で直接的に連結されているが、ギヤ等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0026】
走行用油圧ポンプP1は、第一ポートQ1及び第二ポートQ2を備えている。第一ポートQ1は、タイヤ用走行モータM1の第一ポートQ3及びロール用走行モータM2の第一ポートQ5に流路を介してそれぞれ連結されている。
【0027】
走行用油圧ポンプP1の第二ポートQ2は、タイヤ用走行モータM1の第二ポートQ4及びロール用走行モータM2の第二ポートQ6に流路を介してそれぞれ連結されている。タイヤ用走行モータM1は、作動油が流通することにより、タイヤT,Tを回転駆動させる。ロール用走行モータM2は、作動油が流通することにより、ロールRを回転駆動させる。走行用油圧回路Z1の作動油の流れ方向は、走行用油圧ポンプP1で切り換え可能に構成されている。これにより、タイヤT,T及びロールRを正回転(前進)又は逆回転(後進)させることができる。
【0028】
走行用油圧ポンプP1、タイヤ用走行モータM1及びロール用走行モータM2は、作動油タンク12に連結されるドレン流路Dをそれぞれ有している。また、走行用油圧回路Z1には、油圧が設定以上の圧力に上昇するのを防ぐために、リリーフバルブRVが設けられている。
【0029】
振動用油圧回路Z2は、振動用油圧ポンプP2と、振動用油圧モータM3と、これらの機器を連結する流路とで閉回路を構成している。振動用油圧ポンプP2は、第一ポートU1及び第二ポートU2を備えている。第一ポートU1は、振動用油圧モータM3の第一ポートU3と流路を介して連結されている。第二ポートU2は、振動用油圧モータM3の第二ポートU4と流路を介して連結されている。振動用油圧モータM3は、ロールRを振動させる起振軸X2に連結されており、作動油が流通することにより起振軸X2を回転させる。振動用油圧回路Z2には、油圧が設定以上の圧力に上昇するのを防ぐために、リリーフバルブRVが設けられている。振動用油圧回路Z2の作動油の流れ方向は、振動用油圧ポンプP2で切り換え可能になっている。これにより、起振軸X2を正回転又は逆回転させることができる。
【0030】
図2に示すように、過回転抑制機構30は、エンジンEの過回転を自動で抑制する機構である。過回転抑制機構30は、エンジンEの回転数を検知するセンサ31と、判定部32とで主に構成されている。過回転抑制機構30は、エンジンE及び振動用油圧ポンプP2に電気的に接続されている。判定部32は、演算部、入力部、記憶部、表示部等を主に備えて構成されており、センサ31で取得した回転数に基づいて振動用油圧ポンプP2に作動信号又は停止信号を送信する。
【0031】
判定部32の記憶部には、センサ31によって検知されたエンジンEの回転数に基づいて、振動用油圧ポンプP2を作動させるための上限値(特許請求の範囲の「許容回転数」)と、振動用油圧ポンプP2を停止させるための下限値(特許請求の範囲の「所定回転数」)が予め設定され記憶されている。判定部32は、検知されたエンジンEの回転数が当該上限値以上と判定した場合、振動用油圧ポンプP2に作動信号を送信する。このとき、振動スイッチS1がOFFであっても、振動用油圧ポンプP2は作動する。一方、判定部32は、振動用油圧ポンプP2が作動した後、検知されたエンジンEの回転数が当該下限値以下と判定した場合、振動用油圧ポンプP2に停止信号を送信する。
【0032】
次に、振動ローラ1の基本動作について説明する。エンジンEを起動させ、オペレータがスロットルレバーR2を傾倒させるとともに、前後進レバーR1を傾倒させると、走行用油圧ポンプP1が作動する。走行用油圧ポンプP1からタイヤ用走行モータM1及びロール用走行モータM2に作動油が流通して車両が前進又は後進する。
【0033】
オペレータが振動スイッチS1をONにすることにより、振動用油圧ポンプP2が作動する。振動用油圧ポンプP2から振動用油圧モータM3に作動油が流通することで起振軸X2が回転し、ロールRが振動する。オペレータが振動スイッチS1をOFFにすることにより、ロールRの振動が停止する。
【0034】
次に、過回転抑制機構30の作用効果について
図3A〜3Cを用いて説明する。
図3Aは、本発明の課題を説明するための従来の振動ローラの通常走行時の概念図である。
図3Bは、本発明の課題を説明するための従来の振動ローラの過回転発生時の概念図である。
【0035】
図3Aに示すように、従来の振動ローラにおける通常走行時では、エンジンE側から走行用油圧ポンプP1に動力が入力され、走行用油圧ポンプP1が走行モータMAに出力する。矢印F1は走行用油圧ポンプP1から走行モータMAへの出力を示している。矢印G1はエンジンEの負荷を示している。
【0036】
次に、
図3Bに示すように、従来の振動ローラが下り坂路を走行した際に、車両の落下により走行モータMA側から走行用油圧ポンプP1側へ動力が入力され、エンジンブレーキでは支えきれない分エンジンEの回転数が上昇していき、エンジンEが過回転となりエンジンEが破損するおそれがある。矢印F2は走行モータMAから走行用油圧ポンプP1への出力を示している。矢印G2はエンジンEの負荷が上昇している状態を示している。
【0037】
そこで、
図3Cに示す本実施形態によれば、車両の落下によりタイヤ用走行モータM1及びロール用走行モータM2から走行用油圧ポンプP1に動力が入力されるが、過回転抑制機構30によって振動用油圧ポンプP2が作動するため、振動の起動エネルギーとして動力を消費させ、エンジンEに入力される動力を軽減し、エンジンEの過回転を抑制することができる。矢印G3は、振動用油圧ポンプP2が駆動する状態を示している。
図3Cの矢印G2は、エンジンEの負荷が低減している状態を示している。
【0038】
図4は、本実施形態に係るエンジンEの回転数、振動用油圧モータM3の回転数及び振動用油圧ポンプP2の油圧を時系列で対比したグラフである。
図4では、振動ローラ1が、下り坂路を走行し、過回転抑制機構30が作動した状態を模式的に示している。ここでは、エンジンEの回転数が予め設定された上限値に達したとき(時間t1)、振動用油圧ポンプP2を作動させている。その後、エンジンEの回転数が予め設定された下限値に達したとき(時間t2)、振動用油圧ポンプP2を停止させている。振動用油圧ポンプP2を作動した時間は約1.5秒である。
【0039】
引き続き車両が下り坂路を走行し、再度、エンジンEの回転数が上限値に達したとき(時間t3)、振動用油圧ポンプP2を再度作動させている。その後、エンジンEの回転数が下限値に達したとき(時間t4)、振動用油圧ポンプP2を停止させている。振動用油圧ポンプP2を作動した時間は二回目も約1.5秒である。
【0040】
図4のエンジンの回転数L1に示すように、過回転抑制機構30によって、上限値(許容回転数)に達すると、振動用油圧ポンプP2が作動するため、エンジンEの回転数を低減させることができる。振動用油圧ポンプP2の油圧L3に示すように、時間t1においてロールRを起振させるときの起振エネルギーは大きな立ち上がりとなる。つまり、ロールRを起振させる時には大きなエネルギーが必要となる。本実施形態では、振動用油圧ポンプP2を作動させることにより、振動用油圧ポンプP2がタイヤ用走行モータM1及びロール用走行モータM2からエンジンEに入力されるエネルギーを消費する(奪う)ため、エンジンEの回転数を低減することができる。
【0041】
この際、振動用油圧ポンプP2はすぐに停止されるため、振動用油圧モータM3の回転数L2に示すように、振動用油圧モータM3の回転数はさほど上昇しない。つまり、ロールRを実質的に振動させるわけではない。オペレータは減速感は感じることができるが、ロールRの振動は感じない。ちなみに、振動用油圧モータの回転数L2b(点線部分)は、振動用油圧モータM3を継続して作動させた状態を仮想的に示している。同様に、振動用油圧ポンプP2の油圧L3c(点線部分)は、振動用油圧モータM3を継続して作動させた状態を仮想的に示している。
【0042】
図4の形態のように、振動用油圧ポンプP2を、断続的に正回転させてエンジンEの過回転を抑制するようにしてもよい。このようにすることで、例えば、長い下り坂路を走行する場合においてもエンジンEの過回転を効率良く低減することができる。
【0043】
一方、例えば、下り坂路が長く、かつ、急勾配であるような場合、
図4の形態のように振動用油圧ポンプP2の正回転を繰り返し作動させただけでは、過回転を抑制できないおそれもある。つまり、急勾配であると、エンジンEの回転数の立ち上がりも急になるため、振動用油圧ポンプP2の油圧が完全に下がる前に、再度、振動用油圧ポンプP2を立ち上げざるを得なくなる。このような場合は、エンジンEから奪うエネルギー量も少なくなるため、エンジンEの過回転を効率よく抑制できないおそれがある。
【0044】
このような場合には、過回転抑制機構30は、振動用油圧ポンプP2を正回転→逆回転→正回転→逆回転と回転方向を順次変えつつ、断続的に回転させるように構成してもよい。これにより、正回転を断続的に繰り返す場合と比べて、エンジンEから奪うエネルギー量を多くすることができるため、エンジンEの過回転を効率良く抑制することができる。
【0045】
次に、過回転抑制機構30の上限値及び下限値の設定の一例を説明する。ここでの数値は、あくまで例示であって、本発明を限定するものではない。
図5は、本実施形態に係る過回転抑制機構30の設定の一例を示す概念図である。
図5に示すように、過回転抑制機構30において、振動用油圧ポンプP2をONにする値(「許容回転数」(上限値))は、「過負荷によりエンジンが破損するおそれがある回転数(例えば、3000rpm)」よりも低く、かつ、「車両停止時の回転数(例えば、2400rpm)」よりも高いことが好ましい。「車両停止時の回転数」とは、平坦路をハイアイドルで走行している振動ローラ1が停止する際に、エンジンEに負荷が作用して瞬間的にエンジンEの回転数が増大するときの最大値である。上限値は、「車両停止時の回転数」よりも高く設定することが好ましい。つまり、振動ローラ1を通常使用する範囲内で、過回転抑制機構30経由で振動用油圧ポンプP2が作動しないように設定することが好ましい。
【0046】
一方、過回転抑制機構30において、振動用油圧ポンプP2をOFFにする値(「所定回転数」(下限値))は、「許容回転数」よりも低く、かつ、「ハイアイドル」時よりも高いことが好ましい。振動用油圧ポンプP2の作動を継続すると、ロールRが本格的に振動してしまうため、当該振動を防ぐために過回転抑制機構30の下限値を設定する。「ハイアイドル」時とは、スロットルレバーR2を最も傾倒させたエンジンEの状態を言う。振動ローラ1は、通常、スロットルレバーR2を最も傾倒させた状態(フルスロットル)で走行させるため、下限値を「ハイアイドル」時よりも低く設定すると、エンジンEの回転数が「ハイアイドル」時の回転数よりも下がりようがないため振動用油圧ポンプP2が作動し続けてしまう。しかし、本実施形態のように下限値を「ハイアイドル」時よりも高く設定することで、振動用油圧ポンプP2を確実に停止させることができる。
【0047】
過回転抑制機構30の上限値及び下限値の値は、建設車両の種類、エンジンEの種類、振動用油圧ポンプP2の種類、ロールRの回転モーメント、想定される坂路の勾配等々のマッチングによって適宜設定すればよい。過回転抑制機構30の上限値及び下限値の値は、エンジンEの過回転を確実に抑制するとともに、オペレータが振動を感じることなく、さらに、過回転を抑制した際にオペレータに過度の負担(慣性力)が作用しない範囲で適宜設定することが好ましい。
【0048】
以上説明した本実施形態に係る振動ローラ1によれば、振動用油圧ポンプP2(作業用油圧ポンプ)を作動させることで起動エネルギーとして動力を消費させ、エンジンEに入力される動力を軽減することができるためエンジンEの過回転を抑制することができる。また、既存の振動用油圧ポンプP2を作動させるだけでよいため、簡易な構成とすることができる。
【0049】
また、過回転抑制機構30は、センサ31及び判定部32を含む簡易な構成となっているため、製造コストも低減でき、搭載スペースも小さくて済む。また、既存の振動ローラ1に後付けで過回転抑制機構30を容易に取り付けることもできる。
【0050】
また、作業用油圧ポンプの種類は適宜設定すればよいが、本実施形態では作業用油圧ポンプはロールRを振動させる振動用油圧ポンプP2とした。ロールRを起振させる際には大きなエネルギーを必要とするため、この大きなエネルギーを振動用油圧ポンプP2側で消費させ、エンジンEの過回転を効率良く抑制することができる。また、例えば、作業用油圧ポンプをバックホーのアームを駆動させるための油圧ポンプとすると、アームが本来意図しない状況で動いてしまうおそれがある。しかし、本実施形態では、ロールRの内部で振動エネルギーとして消費できるため、外部に与える悪影響も極力小さくすることができる。
【0051】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、作業用油圧ポンプとして振動用油圧ポンプP2を用いたが、これに限定されるものではない。例えば、散水用のポンプやカッタードラム等、建設車両に設置される他の作業用油圧ポンプとしてもよい。
【0052】
また、ロールRは、本実施形態では1軸としたが、2軸としてもよい。また、過回転抑制機構30は、振動用油圧ポンプP2に直接連結させたが、振動用油圧回路Z2にソレノイドバルブを設け、当該ソレノイドバルブで振動用油圧ポンプP2を制御してもよい。また、本実施形態では、ロールRとタイヤT,Tを備えた振動ローラ1を例示したが、両輪ロールRでもよいし、両輪タイヤT,Tでもよい。また、過回転抑制機構30が作動している間に、音又は光等で外部に報知させる報知機構を備えてもよい。また、振動用油圧ポンプP2は、吐出量を変更可能な可変容量タイプでもよいし、可変不能な固定容量タイプでもよい。
【実施例】
【0053】
次に、本発明の実施例について説明する。振動ローラ1を用いてオーバーラン試験を行った。当該オーバーラン試験では、土工用振動ローラ(酒井重工業社製 SV513)を用いた。当該オーバーラン試験では、過回転抑制機構30を搭載しない振動ローラ(比較例)と、過回転抑制機構30を搭載した振動ローラ1(実施例)とを、同じ下り坂路で走行させ、走行用油圧ポンプの油圧、振動用油圧ポンプの油圧及びエンジンの回転数を計測するとともに、エンジンの回転数の抑制効果について確認することを目的した。振動ローラ1のスロットルレバーR2はフルスロットルにして走行した。フルスロットルにした場合の平地での振動ローラ1の速度は約10km/hである。
【0054】
図6は、比較例における走行用油圧ポンプの油圧、振動用油圧ポンプの油圧及びエンジンの回転数を示すグラフである。
図7は、実施例における走行用油圧ポンプの油圧、振動用油圧ポンプの油圧及びエンジンの回転数を示すグラフである。
【0055】
図6に示す地点E1は、坂路を下り始めた位置である。比較例では、振動スイッチS1はOFFにした状態で坂路を走行させる、つまり、振動用油圧ポンプは作動させないため、油圧H3,H4にほとんど変化はない。回転数H5に示すように、比較例では、地点E2まで走行すると、車両の落下により走行モータ側から走行用油圧ポンプへ動力が入力され、エンジンブレーキで支えきれない分エンジンが過回転となり、最大で2850rpmまで上昇した。
【0056】
これに対し、実施例では
図7に示すようにエンジンEの過回転を抑制することが確認できた。
図7に示す地点E1は、坂路を下り始めた位置である。実施例でも、振動スイッチS1はOFFにした状態で坂路を走行させた。地点E2,E4は、過回転抑制機構30により振動用油圧ポンプP2が作動した位置であり、地点E3,E5は過回転抑制機構30経由で振動用油圧ポンプP2が停止した位置である。当該実施例では、許容回転数(上限値)を2450rpmに設定している。また、所定回転数(下限値)を2350rpmに設定している。
【0057】
回転数J5に示すように、エンジンEの回転数が2450rpmに達すると、過回転抑制機構30により振動用油圧ポンプP2が作動し、油圧J3が立ち上がる。振動用油圧ポンプP2の作動によってエネルギーが消費されるため、エンジンEの回転数J5は減少する。エンジンEの回転数J5が減少して、下限値に達すると、振動用油圧ポンプP2は停止するため、エンジンEの回転数J5は地点E3から地点E4に向けて再度上昇する。エンジンEの回転数J5が2450rpmに達すると、再度、振動用油圧ポンプP2が作動するため、エンジンEの回転数J5は減少する。以上のように、オーバーラン試験においても、過回転抑制機構30の回転抑制効果が確認できた。
【0058】
ちなみに、エンジンEの過回転が発生する手前の走行油圧は、平均で17.5MPa程度である。走行用油圧ポンプP1の吐出量は75cc/revであるから、エンジンEに逆入力されるトルクは、T=75×17.5/(2π)=208.89N・mである。
【0059】
ここで、ロールRを振動させるときの振動起動時に消費するトルクを試算すると、起動波形よりΔP=33.5MPa、振動用油圧ポンプP2の吐出量は39.0cc/revであるから、振動用油圧ポンプP2を回転させるためのトルクは、T=39.0×33.5/(2π)=207.94N・mと想定できる。よって、走行系から入力されるトルクと、振動系で消費するトルクがオーバーラン手前ではほぼ同等となっていることから、ロールRの振動を起動させることにより過回転の抑制が可能であることが計算上も確認できる。