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特開2019-124336スライド式切換弁、および、それを備える冷凍サイクルシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-124336(P2019-124336A)
(43)【公開日】2019年7月25日
(54)【発明の名称】スライド式切換弁、および、それを備える冷凍サイクルシステム
(51)【国際特許分類】
   F16K 3/02 20060101AFI20190704BHJP
   F16K 11/065 20060101ALI20190704BHJP
   F16K 31/122 20060101ALI20190704BHJP
   F16K 3/314 20060101ALI20190704BHJP
   F25B 41/04 20060101ALI20190704BHJP
【FI】
   F16K3/02 B
   F16K11/065 Z
   F16K31/122
   F16K3/314 A
   F25B41/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-7236(P2018-7236)
(22)【出願日】2018年1月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 宏光
(72)【発明者】
【氏名】上野 知之
(72)【発明者】
【氏名】谷本 大典
【テーマコード(参考)】
3H053
3H056
3H067
【Fターム(参考)】
3H053AA25
3H053AA35
3H053BA17
3H053BD10
3H053DA12
3H056AA08
3H056BB32
3H056BB50
3H056CA01
3H056CB02
3H056CD06
3H056CD10
3H056DD03
3H056GG01
3H056GG13
3H067AA15
3H067CC11
3H067CC22
3H067CC32
3H067CC60
3H067DD05
3H067DD13
3H067DD33
3H067EA16
3H067EA38
3H067FF17
3H067GG01
3H067GG23
(57)【要約】
【課題】スライド弁を備えるスライド式切換弁において、スライド弁の外周部が高温高圧となる空気調和機等の冷凍システムの異常な運転状態においても、十分な耐圧性能を有するとともに、流量低下を抑えることができ、スライド式切換弁の大型化及びシステムの効率低下を回避できること。
【解決手段】補強ピン42の小径部42Bは、補強ピン42がスライド弁40における一対の第1の壁部に跨るように、一対の第1の壁部の中央部における下端部近傍の溝40Gに圧入され固定され、スライド弁40に作用した圧力が、スライド弁40における補強ピン42の小径部42Bの周囲の補強部分40REおよび張出部40T、小径部42Bで受け止められ、スライド弁40の内周面が大径部42Aの両端面部で受け止められるもの。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各配管が接続される複数のポートが一列に配置される弁座と、該弁座における流体入出ポートを連通させる連通路を内側に有し該弁座のシール面に移動可能に配されるスライド弁と、該スライド弁を駆動するピストン部材と、を備える弁本体部と、
前記弁本体部における前記ピストン部材を駆動制御するパイロットバルブ部と、を備え、
前記スライド弁は、連通路を有し、該連通路の一部を形成する一対の第1の壁部と、該第1の壁部の下部に跨って配される補強ピンとを備え、前記第1の壁部には、該補強ピンの両端部を、それぞれ、固定する溝が設けられるとともに、該溝の周囲に形成される肉厚の補強部とを備えることを特徴とするスライド式切換弁。
【請求項2】
前記補強ピンは、大径部と、該大径部の両端に、それぞれ、形成され前記第1の壁部の溝に固定される小径部とを含んでなり、前記第1の壁部の下部が互いに近接する方向の圧力が前記スライド弁に作用した場合、前記大径部の端面が、前記スライド弁の内周面における前記第1の壁部の溝の周縁を受け止めることを特徴とする請求項1記載のスライド式切換弁。
【請求項3】
前記一対の第1の壁部は、それぞれ、その下部に、前記補強ピンの中心軸線に沿って外方に張り出す張出部を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスライド式切換弁。
【請求項4】
圧縮機と、蒸発器、および、凝縮器とを備え、請求項1乃至請求項3のうちのいずれか一項に記載のスライド式切換弁が、選択的に切り換えられることにより、前記圧縮機からの冷媒が前記凝縮器に供給されることを特徴とする冷凍サイクルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライド弁を備えるスライド式切換弁、および、それを備える冷凍サイクルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷媒回路を備える空気調和機において、冷房運転および暖房運転における冷媒の流れを切り替えるためのスライド式切換弁が実用に供されている。スライド式切換弁は、例えば、特許文献1に示されるように、四方切換弁とされ、バルブ本体内にスライド弁を備えている。スライド弁は、一般的に耐熱性および耐圧性の高い樹脂材料で形成されており、その中央部がドーム部となり、そのドーム部の縁部が平板状の摺動部となっている。ドーム部は、その開口端面が長円形状に形成されており、その内側には、一方の下部側面から他方の下部側面にわたって、金属材料からなる補強用棒部材が掛け渡されている。この補強用棒部材は、一端から他端まで一様な直径を有し、ドーム部の中央部において短径方向に延びており、その両端がドーム部内側の取り付け溝(孔)に嵌めこまれている(特許文献1の図2参照)。また、特許文献1では、補強用棒部材の両端の断面を中央部の断面よりも大きな円形、楕円形または多角形の断面とすることにより、ドーム部の内周部に作用する接触面圧を低減させ、スライド式切換弁内における高低圧差の大きな環境下でもスライド弁の破損を防止するための補強用棒部材の提案がなされている(特許文献1の図8図9参照)。
【0003】
さらに、例えば、特許文献2に示されるように、ステム(ピン部)と、ステムの横断面積よりも大なる表面積を有する矩形状のワッシャ(鍔部)とを一体に形成した補強用部材が、提案されている(特許文献2における図2(d)参照)。これにより、補強用部材の両端部により、弁体の下部の内周部に作用する面圧が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−304438号公報
【特許文献2】特開2009−287707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1および特許文献2では、スライド弁におけるドーム部の下部側面において、
ドーム部の厚さに比べて補強ピン(補強用棒部材)の両端の径が大きく、この端を収容するスライド弁の取り付け溝の溝幅も大となり、スライド弁の圧力を受ける箇所に薄肉部が生じてしまう。
【0006】
空気調和機において、万一、リリーフ弁等の安全装置が故障した場合、異常な運転状態となる虞があり、上述の特許文献1および特許文献2に示される四方切換弁において、スライド弁の外周温度が高温となり、正常の運転状態における圧力以上の高圧となることがある。
【0007】
このような高温高圧の冷媒がスライド弁の外周部に作用した場合、スライド弁の開口端面近傍に形成される補強ピンの取付孔周縁に薄肉部があると、高温高圧の冷媒による熱変形によってスライド弁の耐圧性能を十分に確保できない場合がある。このような場合の対策として、スライド弁のドーム部全体の肉厚をより厚くすることも考えられる。
しかしながら、ドーム部全体の肉厚をより厚くすることは、スライド弁の外側に向けて厚くすると、他の部品との配置関係に起因して限界があるとともに、四方切換弁の大型化に繋がり、また、スライド弁のドーム部の内側に向けて厚くすると、低圧側の流量低下によりシステムの効率低下を招くので得策とは言えない。
【0008】
以上の問題点を考慮し、本発明は、スライド弁を備えるスライド式切換弁であって、スライド弁の外周部が高温高圧となる空気調和機等の冷凍システムの異常な運転状態においても、十分な耐圧性能を有するとともに、流量低下を抑えることができ、スライド式切換弁の大型化及びシステムの効率低下を回避できるスライド式切換弁、および、それを備える冷凍サイクルシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、本発明に係るスライド式切換弁は、各配管が接続される複数のポートが一列に配置される弁座と、弁座における流体入出ポートを連通させる連通路を内側に有し弁座のシール面に移動可能に配されるスライド弁と、スライド弁を駆動するピストン部材と、を備える弁本体部と、弁本体部におけるピストン部材を駆動制御するパイロットバルブ部と、を備え、スライド弁は、連通路を有し、連通路の一部を形成する一対の第1の壁部と、第1の壁部の下部に跨って配される補強ピンとを備え、第1の壁部には、補強ピンの両端部を、それぞれ、固定する溝が設けられるとともに、溝の周囲に形成される肉厚の補強部とを備えることを特徴とする。
【0010】
補強ピンは、大径部と、大径部の両端にそれぞれ、形成され第1の壁部の溝に固定される小径部とを含んでなり、第1の壁部の下部が互いに近接する方向の圧力がスライド弁に作用した場合、大径部の端面が、スライド弁の内周面における第1の壁部の溝の周縁を受け止めるものでもよい。一対の第1の壁部は、それぞれ、その下部に、前記補強ピンの中心軸線に沿って外方に張り出す張出部を有するものでもよい。
【0011】
本発明に係る冷凍サイクルシステムは、圧縮機と、蒸発器、および、凝縮器とを備え、上述のスライド式切換弁が、選択的に切り換えられることにより、圧縮機からの冷媒が凝縮器に供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るスライド式切換弁、および、それを備える冷凍サイクルシステムによれば、スライド弁は、スライド弁の連通路の一部を形成する一対の第1の壁部の下部に跨って配される補強ピンと、補強ピンの両端部が、それぞれ、固定される第1の壁部の溝の周囲に形成される肉厚の補強部と、を備えるのでスライド弁の外周部が高温高圧となる空気調和機等の冷凍システムの異常な運転状態においても、十分な耐圧性能を有するとともに、流量低下を抑えることができ、スライド式切換弁の大型化及びシステムの効率低下を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(A)は、本発明に係るスライド式切換弁の一例に用いられるスライド弁の断面図であり、(B)は、(A)における部分拡大図であり、(C)は、(B)における矢印ICの示す方向から見た矢視図である。
図2】本発明に係るスライド式切換弁の一例における弁本体部を示す断面図である。
図3】本発明に係るスライド式切換弁の一例を備える冷凍サイクルシステムの構成を示す図である。
図4】(A)、(C)は、比較例におけるスライド弁の要部を部分的に示す部分断面図であり、(B)は、(A)における矢印IVBの示す方向から見た矢視図である。
図5】(A)、(B)、および、(C)は、それぞれ、図2に示される例において用いられる補強ピンの他の一例を部分的に示す図である。
図6】(A)、(B)、および、(C)は、それぞれ、図2に示される例において用いられる補強ピンのさらなる他の一例を部分的に示す図である。
図7】(A)は、本発明に係るスライド式切換弁の一例に用いられるスライド弁の他の一例を示す断面図であり、(B)は、(A)に示されるスライド弁における要部を部分的に拡大した部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図3は、本発明に係るスライド式切換弁の一例を備える冷凍サイクルシステムの構成を概略的に示す。
【0015】
図3に示される例は、スライド式切換弁(以下、切換弁ともいう)を、空気調和機の冷媒流れを切り換える四方弁として利用した例である。切換弁は、例えば、冷房運転時に圧縮機14、室外熱交換器16、膨張弁18、及び室内熱交換器20を経由して冷媒を圧縮機14に還流させ、また、暖房運転時に圧縮機14、室内熱交換器20、膨張弁18、及び室外熱交換器16を経由して冷媒を圧縮機14に還流させるように冷媒の還流方向を逆転させるものである。また、切換弁は、弁本体部10と、パイロットバルブ部12と、を備えて構成されている。
【0016】
切換弁の弁本体部10は、全体として筒状のケーシング10CAと、このケーシング10CAの内部にスライド自在に設けられたスライド弁40と、を有している。ケーシング10CAの外周部に設けられた複数の開口部10P1、10P2、10P3、および、10P4には、それぞれ、ケーシング10CAの径方向に突出する複数の継手22、24、26、および、28が、ろう付け等によって固定されている。
【0017】
ケーシング10CAは、内部が密閉されたシリンダーとして、その軸方向の両端部を塞ぐ栓体10D1、および、栓体10D2と、ケーシング10CAの内部に固定された弁座30と、を有して構成されている。栓体10D1、および、栓体10D2には、それぞれ、パイロットバルブ部12の切換継手管12P1、12P2が接続されている。上述の開口部10P1、10P2、10P3にそれぞれ対応する弁座30の各接続部には、継手22、24、26の先端が挿入されるとともに、ポート30P1、30P2、および、30P3を構成する開口が設けられている。弁座30におけるスライド弁40に向き合う内面は、スライド弁40を摺動案内する摺接面となっている。
【0018】
ケーシング10CAの開口部10P4は、圧縮機14からの高圧冷媒を弁本体部10に流入させる流入ポートであって、高圧導管である継手(D継手)28を介して圧縮機14の吐出口に接続されている。弁座30におけるポート30P2は、冷媒を圧縮機14に還流させる流出側のポート30P2であって、低圧導管である継手(S継手)24を介して圧縮機14の吸入口に接続されている。弁座30におけるポート30P3は、継手(E継手)26を介して室内熱交換器20に接続される室内側のポート30P3である。ポート30P1は、継手(C継手)22を介して室外熱交換器16に接続される室外側のポート30P1である。
【0019】
ケーシング10CA内には、ケーシング10CAの軸方向に沿って延びケーシング10CAの内周面に摺接する左右一対のピストン部材10Rおよびピストン部材10Lを連結する連結部材32と、連結部材32に支持されるドーム状のスライド弁40とが、備えられている。ケーシング10CAの内部空間は、一対のピストン部材10Rおよび10L相互間に形成され上述の開口部10P4が連通する高圧室10Bと、一方のピストン部材10Lと栓体10D2との間に形成される第一作動室10Aと、他方のピストン部材10Rと栓体10D1との間に形成される第二作動室10Cと、からなる。また、ドーム状のスライド弁40内部には、連通空間(以下、連通路ともいう)40PAが形成されている。連通空間40PAは、スライド弁40の位置に応じて弁座30における流出側のポート30P2と室内側のポート30P3とを連通させ(図3参照)、あるいは、流出側のポート30P2と室外側のポート30P1とを連通させる。
【0020】
パイロットバルブ部12は、電磁切換部12Vに接続される高圧継手管12P4と、低圧継手管12P3と、2つの切換継手管12P1、12P2と、電磁切換部12Vの内部に配されるパイロットスライド弁(不図示)を駆動する電磁コイル部12Bと、電磁コイル部12Bに通電するリード線12bとを備える。パイロットバルブ部12の高圧継手管12P4は、弁本体部10の継手28と接続される。低圧継手管12P3は、弁本体部10の継手24と接続されている。切換継手管12P2は、弁本体部10の第一作動室10Aに接続され、切換継手管12P1は、切換弁の第二作動室10Cに接続される。
【0021】
このような切換弁10は、パイロットバルブ部12から弁本体部10の第二作動室10Cに流入させた高圧冷媒の圧力によって、スライド弁40を一方向(図3において左側方向)にスライドさせることで、冷凍サイクルシステムにおける冷房モードとされる。斯かる冷房モードの場合、スライド弁40の連通空間40PAによって、流出側のポート30P2と室内側のポート30P3とが連通されるとともに、弁本体部10の高圧室10Bを介して開口部10P4と弁座30における室外側のポート30P1とが連通される。
一方、切換弁10は、パイロットバルブ部12から第一作動室10Aに流入させた高圧冷媒の圧力によって、スライド弁40は他方向(図3において右側方向)にスライドさせることで、冷凍サイクルシステムにおける暖房モードとされる。斯かる暖房モードの場合、スライド弁の連通空間40PAによって、流出側のポート30P2と室外側のポート30P1とが連通されるとともに、高圧室10B介して開口部10P4と室内側のポート30P3とが連通される。そして、冷凍サイクルシステムの運転中、スライド弁40の外周部には、高圧冷媒が作用し、スライド弁40の内周部には、低圧冷媒が作用することとなる。
【0022】
スライド弁40は、例えば、耐熱性および耐圧性を有するナイロン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂材料により成形されている。スライド弁40は、上述の弁座30のシール面30aに摺接される摺接面40aを、下端部の略長方形の開口部の周縁に有している。その開口部は、スライド弁40の内部に形成されドーム状の横断面を有する連通路40PA(図1(A)参照)に連通している。連通路40PAは、弁座30のポート30P1とポート30P2とを連通させ、または、弁座30のポート30P2とポート30P3とを連通させるものとされる。なお、図2は、弁座30のポート30P2とポート30P3とを連通させた状態にあるスライド弁40の位置を示す。
【0023】
連通路40PAは、スライド弁40におけるX座標軸に沿って向き合った長辺の一対の壁部(以下、第1の壁部ともいう)と、スライド弁40におけるY座標軸に沿って向き合った短辺の一対の壁部(以下、第2の壁部ともいう)と、一対の第1の壁部と一対の第2の壁部とを連結する上壁部とに囲まれて形成されている。
【0024】
各第1の壁部の下端部は、図1(A)に示されるように、Y座標軸に沿って外方に向けて張り出す張出部40Tを有している。一対の第1の壁部の中央部における下端部近傍の溝40Gには、後述する補強ピン42が一対の第1の壁部に跨るように、小径部42Bが圧入され固定されている。溝40GのZ座標軸方向の長さBは、図1(A)に示されるように、張出部40Tの高さDよりも小なる値に設定されている。また、長さBは、スライド弁40の内側に形成されるドーム状の横断面の縦方向の寸法Cの1/2未満に設定されている。溝40GのY座標軸方向の深さDpは、図1(B)に部分的に拡大されて示されるように、補強ピン42の大径部42Aの端面と各第1の壁部の内周面との間に、所定の隙間CLが形成されるように設定されている。これにより、補強ピン42の小径部42Bが溝40Gに圧入されるとき、補強ピン42の大径部42Aの端面がスライド弁40の内周面に干渉することが回避されるので円滑な圧入作業が可能となる。
上述の隙間CLを設けることにより、スライド弁40の内周面と補強ピン42との接触動作は、下記のようになる。即ち、スライド弁40外周部に作用する冷媒の圧力(高圧)とスライド弁40の内周部に作用する冷媒の圧力(低圧)との圧力差により、スライド弁40には、力が、一対の第1の壁部の下端部が互いに近接する方向にスライド弁40の外周部に作用することになる。この場合、先ず、スライド弁40の溝40Gの内周面と補強ピン42の小径部42Bとの当接により、補強ピン42の中心軸線に沿って作用した圧力が、スライド弁40における補強ピン42の小径部42Bの周囲の補強部分40REおよび張出部40T、小径部42Bで受け止められ、次に、より大きな圧力差がスライド弁40外周部に作用した場合、スライド弁40の一対の第1の壁部の下端部がさらに互いに近接する方向に変形することにより、スライド弁40の内周面と大径部42Aの端面との隙間CLが、なくなり、スライド弁40の内周面が、補強ピン42の大径部42Aの両端面部で受け止められることとなる。
【0025】
X座標軸方向の溝40Gの幅は、小径部42Bの直径よりも若干小さい値に設定されている。その際、連通路40PAの内周面から張出部40Tの外周面までの長さLbは、溝40Gの閉端部とスライド弁40の外周部との間の最小の厚みLaに比して大に設定されている。また、Lbは、溝40GのY座標軸方向の深さDpの2倍以上に設定されている。
【0026】
これらの構造により、上述のより大きな圧力差によるスライド弁40の変形により、スライド弁40の内周面が補強ピン42の大径部42Aの端面に当接した際に、最小の厚みLa部に加え、厚みLb部分でも、力を受けることとなり、耐圧強度を大きくできる。
中実軸である補強ピン42は、大径部42Aと、大径部42Aの両端に同心上にそれぞれ形成される小径部42Bとから構成されている。補強ピン42の大径部42Aの直径は、スライド弁40の大きさおよびスライド弁40の外周部に作用する冷媒の圧力に応じて約1mm以上20mm以下の範囲に設定されている。また、補強ピン42は、補強ピン42の大径部42Aの外周面と、摺接面40aとの間に、零を越える所定の隙間Aがあるように配置されている。
【0027】
補強ピン42の端部は、小径部42Bに限られることなく、例えば、図6(A)、(B)、および、(C)に示されるように、補強ピン44が、円柱部44Aと、円柱部44Aの両端に、それぞれ、形成される二面取りの端部44Bと、からなるものでもよい。二面取りの端部44Bは、互いに向かい合う平行な平坦面を有している。さらに、図7(A)、(B)、および、(C)に示されるように、補強ピン46が、円柱部46Aと、円柱部46Aの両端に、それぞれ、形成される略弦月状断面を有する端部46Bとからなるものでもよい。
【0028】
図4(A)、(B)、および、(C)は、それぞれ、本発明の一例との比較例として補強ピン42´の両端が大径とされるスライド弁40´の一部を示す。スライド弁40´は、上述の弁座30のシール面30aに摺接される摺接面40´aを、下端部の略長方形の開口部の周縁に有している。その開口部は、スライド弁40´の内部に形成されるドーム状の横断面を有する連通路40´PAに連通している。連通路40´PAは、スライド弁40´におけるX座標軸に沿って向き合った長辺の一対の壁部(以下、第1の壁部ともいう)と、スライド弁40´におけるY座標軸に沿って向き合った短辺の一対の壁部(以下、第2の壁部ともいう)と、一対の第1の壁部と一対の第2の壁部とを連結する上壁部とに囲まれて形成されている。
【0029】
各第1の壁部の下端部は、Y座標軸に沿って外方に向けて張り出す張出部40´Tを有している。一対の第1の壁部の中央部における下端部近傍の溝40´Gには、補強ピン42´が一対の第1の壁部に跨るように、その両端部が圧入され固定されている。補強ピン42´は、一端から他端まで同一の直径を有している。図4(A)に示されるように、スライド弁40´の外周部の最小肉厚部は、厚みLa´となる。スライド弁40外周部に作用する冷媒の圧力(高圧)とスライド弁40の内周部に作用する冷媒の圧力(低圧)との圧力差により、力がスライド弁40´の一対の第1の壁部の下端部を互いに近接する方向にスライド弁40´の外周部に作用した場合、図4(C)に示されるように、スライド弁40が変形するとき、負荷が溝40´Gの閉端部とスライド弁40´の外周部との間の最小の厚みLa´となる部分(薄肉部)に集中する。これによって、一様な補強ピン42の直径をより大きくしたとき、スライド弁40´の耐圧強度は、この薄肉部の強度で規制され、耐圧強度の低下を招く虞がある。
【0030】
一方、本発明に係るスライド式切換弁の一例においては、図1(A)に示されるように、補強ピン42の先端が小径(小径部42B)とされるので、スライド弁40の外周と溝40Gとの最小肉厚部は、厚みLaとなり、これは、図4(A)の最小肉厚部の厚みLa´よりも大きくなる。さらに、より大きな圧力差がスライド弁40に作用した場合、スライド弁40の一対の第1の壁部の下端部を互いに近接し、スライド弁40の内周面が、図1(D)に示されるように、補強ピン42の大径部42Aの端面と当接することで、最小の厚みLaよりも大きな厚肉部(スライド弁40の張出部40Tの外面と補強ピン42の大径部42Aの端面まで距離が距離Lbである部分)も力を受け止めることで、圧力がスライド弁40の最小の厚みLaの部分(薄肉部)に集中することなく、補強ピン42の中心軸線に沿って作用した圧力が、スライド弁40における補強ピン42の小径部42Bの周囲の補強部分40REおよび張出部40T、小径部42Bおよび大径部42Aの端面部で受け止められる。これにより、補強ピン42の先端を大径とした場合よりも、薄肉部の肉厚を大きくすることができるとともに、補強ピン42の取り付け溝40Gの周囲に作用する負荷を受ける部分に補強部40REを設けることができ、従って、スライド弁40の耐圧強度が高められる。
【0031】
図7(A)および(B)は、本発明に係るスライド式切換弁の一例において用いられるスライド弁の他の一例の要部を示す。なお、図7(B)は、(A)の部分拡大図を示す。
図1(A)に示されるスライド弁40は、張出部40Tを備えるものとされるが、その代わりに、図7(A)および(B)に示される例においては、スライド弁50は、そのような張出部を備えないものとされる。なお、スライド弁50の補強ピン42の構成は、スライド弁40の補強ピン42の構成と同一なのでその重複説明を省略する。
スライド弁50は、例えば、耐熱性および耐圧性を有する66ナイロン、ポリフェニレンファイド(PPS)等の樹脂材料により成形されている。スライド弁50は、上述の弁座30のシール面30aに摺接される摺接面50aを、下端部の略長方形の開口部の周縁に有している。その開口部は、スライド弁50の内部に形成されるドーム状の横断面を有する連通路50PAに連通している。連通路50PAは、弁座30のポート30P1とポート30P2とを連通させ、または、弁座30のポート30P2とポート30P3とを連通させるものとされる。
【0032】
連通路50PAは、スライド弁50におけるX座標軸に沿って向き合った長辺の一対の壁部(以下、第1の壁部ともいう)と、スライド弁50におけるY座標軸に沿って向き合った短辺の一対の壁部(以下、第2の壁部ともいう)と、一対の第1の壁部と一対の第2の壁部とを連結する上壁部とに囲まれて形成されている。
【0033】
一対の第1の壁部の中央部における下端部近傍の溝50Gには、補強ピン42が一対の第1の壁部に跨るように、小径部42Bが圧入され固定されている。溝50GのZ座標軸方向の長さBは、図7(A)に示されるように、スライド弁50の内部に形成されるドーム状の横断面の縦方向の寸法Cの1/2未満に設定されている。
【0034】
溝50GのY座標軸方向の深さDpは、図7(B)に部分的に拡大されて示されるように、補強ピン42の大径部42Aの端面と各第1の壁部の内周面との間に、所定の隙間CLが形成されるように設定されている。これにより、補強ピン42の小径部42Bが溝50Gに圧入されるとき、補強ピン42の大径部42Aの端面がスライド弁50の内周面に干渉することが回避されるので円滑な圧入作業が可能となる。
X座標軸方向の溝50Gの幅は、小径部42Bの直径よりも若干小の値に設定されている。その際、連通路50PAの内周面から外周面までの厚みtは、例えば、溝50GのY座標軸方向の深さDpの2倍以上に設定されている。また、補強ピン42は、補強ピン42の大径部42Aの外周面と、摺接面50aとの間に、零を越える所定の隙間Aがあるように配置されている。
【0035】
圧力がスライド弁50の一対の第1の壁部の下端部を互いに近接する方向にスライド弁50の外周部に作用した場合、補強ピン42の中心軸線に沿って作用した圧力が、スライド弁50における補強ピン42の小径部42Bの周囲の補強部分50RE、および、小径部42Bおよび大径部42Aの端面部で受け止められるのでスライド弁50の耐圧強度が高められる。
【0036】
斯かる構成において、パイロットバルブ部12により、スライド弁40が所定位置まで移動せしめられることによって冷房運転状態、または、暖房運転状態に切り換えられる。
冷房運転状態の場合、図3に示されるように、圧縮機14からの高圧の冷媒が凝縮器として機能する室外熱交換器16に供給される。一方、暖房運転状態の場合、圧縮機14からの高圧の冷媒が凝縮器として機能する室内熱交換器20に供給される。
【0037】
本発明に係るスライド式切換弁の一例を空気調和機に用いた例を挙げて説明したが、これに限らず他の冷凍システムに用いても良い。
【符号の説明】
【0038】
10 弁本体部
12 パイロットバルブ部
30 弁座
40、50 スライド弁
40G、50G 溝
40RE、50RE 補強部分
42 補強ピン
42A 大径部
42B 小径部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7