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特開2019-124337スライド式切換弁、および、それを備える冷凍サイクルシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-124337(P2019-124337A)
(43)【公開日】2019年7月25日
(54)【発明の名称】スライド式切換弁、および、それを備える冷凍サイクルシステム
(51)【国際特許分類】
   F16K 11/065 20060101AFI20190704BHJP
   F16K 3/314 20060101ALI20190704BHJP
   F25B 41/04 20060101ALI20190704BHJP
【FI】
   F16K11/065 Z
   F16K3/314 A
   F25B41/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-7239(P2018-7239)
(22)【出願日】2018年1月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 知之
(72)【発明者】
【氏名】木村 宏光
(72)【発明者】
【氏名】谷本 大典
【テーマコード(参考)】
3H053
3H067
【Fターム(参考)】
3H053AA25
3H053DA12
3H067AA15
3H067CC32
3H067DD05
3H067DD12
3H067DD33
3H067EA16
3H067GG23
(57)【要約】
【課題】スライド弁を備えるスライド式切換弁において、スライド弁の外周部が高温高圧となる空気調和機等の冷凍システムの異常な運転状態においても、十分な耐圧性能を有するとともに、流量低下を抑えることができ、スライド式切換弁の大型化及びシステムの効率低下を回避できること。
【解決手段】
スライド弁40における補強ピン42が一対の第1の壁部40W1に跨るように、補強ピン42の端部が、第1の壁部40W1の内周部の中央部における下端部近傍の溝40Gに圧入され固定されるとともに、肉厚な補強部40HWTが、各第1の壁部40W1における溝40Gの周縁に形成されるもの。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各配管が接続される複数のポートが一列に配置される弁座と、該弁座における流体入出用ポートを、開口部を介して連通させる連通路を内側に有し該弁座のシール面に移動可能に配されるスライド弁と、該スライド弁を駆動するピストン部材と、を備える弁本体部と、前記弁本体部における前記ピストン部材を駆動制御するパイロットバルブ部と、を備え、
前記スライド弁は、前記連通路の一部を形成する一対の第1の壁部と、該第1の壁部の下部に跨って配される補強ピンと、を備え、
前記一対の第1の壁部の内周部は、該補強ピンの両端部がそれぞれ固定される溝と、該溝の周縁および前記開口部の周縁に形成される肉厚の補強部と、を有し、
該補強部は、前記スライド弁が停止したとき、該補強部の周縁が前記流体入出用ポートの開口端に張り出すことがない位置に設けられることを特徴とするスライド式切換弁。
【請求項2】
前記補強部における前記連通路の一部を形成する部分は、湾曲面を有することを特徴とする請求項1記載のスライド式切換弁。
【請求項3】
前記補強部における前記連通路の一部を形成する部分は、第1の壁部の内周部の溝の周縁から広がり前記弁座における流体入出用ポート近傍に至ることを特徴とする請求項1記載のスライド式切換弁。
【請求項4】
前記補強部における前記連通路の一部を形成する部分は、第1の壁部の内周部の溝の周縁から広がり前記連通路の上部近傍に至ることを特徴とする請求項1記載のスライド式切換弁。
【請求項5】
前記スライド弁が移動する際、前記補強部が、少なくとも流体流入用ポートを横切ることを特徴とする請求項1記載のスライド式切換弁。
【請求項6】
前記スライド弁の前記連通路の断面積は、弁座における前記スライド弁の連通路に連通するポートの断面積に比して大に設定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちのいずれかに記載のスライド式切換弁。
【請求項7】
圧縮機と、蒸発器、および、凝縮器とを備え、請求項1乃至請求項6のうちのいずれか一項に記載のスライド式切換弁が、選択的に切り換えられることにより、前記圧縮機からの冷媒が前記凝縮器に供給されることを特徴とする冷凍サイクルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライド弁を備えるスライド式切換弁、および、それを備える冷凍サイクルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷媒回路を備える空気調和機において、冷房運転および暖房運転における冷媒の流れを切り替えるためのスライド式切換弁が実用に供されている。スライド式切換弁は、例えば、特許文献1に示されるように、四方切換弁とされ、バルブ本体内にスライド弁を備えている。スライド弁は、一般的に耐熱性および耐圧性の高い樹脂材料で形成されており、その中央部がドーム部となり、そのドーム部の縁部が平板状の摺動部となっている。ドーム部は、その開口端面が長円形状に形成されており、その内側には、一方の下部側面から他方の下部側面にわたって、金属材料からなる補強用棒部材が掛け渡されている。この補強用棒部材は、一端から他端まで一様な直径を有し、ドーム部の中央部において短径方向に延びており、その両端がドーム部内側の取り付け溝(孔)に嵌めこまれている(特許文献1の図2参照)。また、特許文献1では、補強用棒部材の端面における応力集中を防止するために補強用棒部材の取付部を取付部以外の部分よりも肉厚が大きくなるように形成された例が、示されている(特許文献1の図12参照)。
【0003】
さらに、スライド弁においてバルブシート部とのシール性を向上させるために、例えば、特許文献2に示されるように、スライド弁の開口部がバルブシート部に形成される流路の断面形状に対応する形状とされるとともにOリング溝が設けられるものが提案されている(特許文献2における図2および図3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−304438号公報
【特許文献2】特開平10−122395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空気調和機において、万一、リリーフ弁等の安全装置が故障した場合、異常な運転状態となる虞があり、上述の特許文献1に示される四方切換弁において、スライド弁の外周温度が高温となり、正常の運転状態における圧力以上の高圧となることがある。
【0006】
このような高温高圧の冷媒がスライド弁の外周部に作用した場合、スライド弁の開口端面近傍に形成される補強ピンの取付孔周縁に薄肉部があると、高温高圧の冷媒による熱変形によってスライド弁の耐圧性能を十分に確保できない場合がある。このような場合の対策として、引用文献1に提案されるように、補強用棒部材の取付部を取付部以外の部分よりも肉厚が大きくなるように、スライド弁の補強ピン取付部の一部を肉厚とすることが考えられるが、この場合でも、まだ耐圧的に十分とは言えない場合がある。そこで、スライド弁のドーム部全体の肉厚をより厚くすることも考えられる。
【0007】
しかしながら、ドーム部全体の肉厚をより厚くすることは、スライド弁の外側に向けて厚くすると、他の部品との配置関係に起因して限界があるとともに、四方切換弁の大型化に繋がり、また、スライド弁のドーム部の内側に向けて厚くすると、低圧側のポートを塞いだり、スライド弁の連通路の断面積が小さくなることにより、低圧側の流量低下によりシステムの効率低下を招くので得策とは言えない。
【0008】
以上の問題点を考慮し、本発明は、スライド弁を備えるスライド式切換弁、および、それを備える冷凍サイクルシステムであって、スライド弁の外周部が高温高圧となる空気調和機等の冷凍システムの異常な運転状態においても、十分な耐圧性能を有するとともに、流量低下を抑えることができ、スライド式切換弁の大型化及びシステムの効率低下を回避できるスライド式切換弁、および、それを備える冷凍サイクルシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、本発明に係るスライド式切換弁は、各配管が接続される複数のポートが一列に配置される弁座と、弁座における流体入出用ポートを、開口部を介して連通させる連通路を内側に有し弁座のシール面に移動可能に配されるスライド弁と、スライド弁を駆動するピストン部材と、を備える弁本体部と、弁本体部におけるピストン部材を駆動制御するパイロットバルブ部と、を備え、スライド弁は、連通路の一部を形成する一対の第1の壁部と、第1の壁部の下部に跨って配される補強ピンと、を備え、一対の第1の壁部の内周部は、補強ピンの両端部がそれぞれ固定される溝と、溝の周縁および開口部の周縁に形成される肉厚の補強部と、を有し、補強部は、スライド弁が停止したとき、補強部の周縁が流体入出用ポートの開口端に張り出すことがない位置に設けられることを特徴とする。
【0010】
補強部における連通路の一部を形成する部分は、湾曲面を有するものでもよく、また、第1の壁部の内周部の溝の周縁から広がり弁座における流体入出用ポート近傍に至るように構成されてもよい。補強部における前記連通路の一部を形成する部分は、第1の壁部の内周部の溝の周縁から広がり連通路の上部近傍に至るように構成されてもよい。また、スライド弁が移動する際、補強部が、少なくとも流体流入用ポートを横切るものでもよい。
スライド弁の前記連通路の断面積は、弁座におけるスライド弁の連通路に連通するポートの断面積に比して大に設定されてもよい。
【0011】
さらに、本発明に係る冷凍サイクルシステムは、圧縮機と、蒸発器、および、凝縮器とを備え、上述のスライド式切換弁が、選択的に切り換えられることにより、圧縮機からの冷媒が凝縮器に供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るスライド式切換弁、および、それを備える冷凍サイクルシステムによれば、スライド弁は、連通路の一部を形成する一対の第1の壁部と、第1の壁部の下部に跨って配される補強ピンと、を備え、一対の第1の壁部の内周部は、補強ピンの両端部がそれぞれ固定される溝と、溝の周縁および開口部の周縁に形成される肉厚の補強部と、を有し、補強部は、スライド弁が停止したとき、補強部の周縁が流体入出用ポートの開口端に張り出すことがない位置に設けられるのでスライド弁の外周部が高温高圧となる空気調和機等の冷凍システムの異常な運転状態においても、十分な耐圧性能を有するとともに、流量低下を抑えることができ、スライド式切換弁の大型化及びシステムの効率低下を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るスライド式切換弁の一例に用いられるスライド弁を示す斜視図である。
図2】(A)は、図1におけるII−II線に沿って示される断面図であり、(B)は、(A)に示される断面図におけるIIB−IIB線に沿って示される断面図である。
図3図1に示されるスライド弁の下面図である。
図4】本発明に係るスライド式切換弁の一例を備える冷凍サイクルシステムの構成を示す図である。
図5図4に示される例に用いられるスライド式切換弁の弁本体部を示す断面図である。
図6】本発明に係るスライド式切換弁の一例に用いられるスライド弁の他の一例の下面図である。
図7】本発明に係るスライド式切換弁の一例に用いられるスライド弁のさらなる他の一例の下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図4は、本発明に係るスライド式切換弁の一例を備える冷凍サイクルシステムの構成を概略的に示す。
【0015】
図4に示される例は、スライド式切換弁(以下、切換弁ともいう)を、空気調和機の冷媒流れを切り換える四方弁として利用した例である。切換弁は、例えば、冷房運転時に圧縮機14、室外熱交換器16、膨張弁18、及び室内熱交換器20を経由して冷媒を圧縮機14に還流させ、また、暖房運転時に圧縮機14、室内熱交換器20、膨張弁18、及び室外熱交換器16を経由して冷媒を圧縮機14に還流させるように冷媒の還流方向を逆転させるものである。また、切換弁は、弁本体部10と、パイロットバルブ部12と、を備えて構成されている。
【0016】
切換弁の弁本体部10は、全体として筒状のケーシング10CAと、このケーシング10CAの内部にスライド自在に設けられたスライド弁40と、を有している。ケーシング10CAの外周部に設けられた複数の開口部10P1、10P2、10P3、および、10P4には、それぞれ、ケーシング10CAの径方向に突出する複数の継手22、24、26、および、28が、ろう付け等によって固定されている。
【0017】
ケーシング10CAは、内部が密閉されたシリンダーとして、その軸方向の両端部を塞ぐ栓体10D1、および、栓体10D2と、ケーシング10CAの内部に固定された弁座30と、を有して構成されている。栓体10D1、および、栓体10D2には、それぞれ、パイロットバルブ部12の切換継手管12P1、12P2が接続されている。上述の開口部10P1、10P2、10P3にそれぞれ対応する弁座30の各接続部には、継手22、24、26の先端が挿入されるとともに、ポート30P1、30P2、および、30P3を構成する開口が設けられている。弁座30におけるスライド弁40に向き合う内面は、スライド弁40を摺動案内する摺接面となっている。
【0018】
ケーシング10CAの開口部10P4は、圧縮機14からの高圧冷媒を弁本体部10に流入させる流入ポートであって、高圧導管である継手(D継手)28を介して圧縮機14の吐出口に接続されている。弁座30におけるポート30P2は、冷媒を圧縮機14に還流させる流出側のポート30P2であって、低圧導管である継手(S継手)24を介して圧縮機14の吸入口に接続されている。弁座30におけるポート30P3は、継手(E継手)26を介して室内熱交換器20に接続される室内側のポート30P3である。ポート30P1は、継手(C継手)22を介して室外熱交換器16に接続される室外側のポート30P1である。
【0019】
ケーシング10CA内には、ケーシング10CAの軸方向に沿って延びケーシング10CAの内周面に摺接する左右一対のピストン部材10Rおよびピストン部材10Lを連結する連結部材32と、連結部材32に支持されるドーム状のスライド弁40とが、備えられている。ケーシング10CAの内部空間は、一対のピストン部材10Rおよび10L相互間に形成され上述の開口部10P4が連通する高圧室10Bと、一方のピストン部材10Lと栓体10D2との間に形成される第一作動室10Aと、他方のピストン部材10Rと栓体10D1との間に形成される第二作動室10Cと、からなる。また、ドーム状のスライド弁40内部には、連通空間(以下、連通路ともいう)40PAが形成されている。連通空間40PAは、スライド弁40の位置に応じて弁座30における流出側のポート30P2と室内側のポート30P3とを連通させ(図3参照)、あるいは、流出側のポート30P2と室外側のポート30P1とを連通させる。
【0020】
パイロットバルブ部12は、電磁切換部12Vに接続される高圧継手管12P4と、低圧継手管12P3と、2つの切換継手管12P1、12P2と、電磁切換部12Vの内部に配されるパイロットスライド弁(不図示)を駆動する電磁コイル部12Bと、電磁コイル部12Bに通電するリード線12bとを備える。パイロットバルブ部12の高圧継手管12P4は、弁本体部10の継手28と接続される。低圧継手管12P3は、弁本体部10の継手24と接続されている。切換継手管12P2は、弁本体部10の第一作動室10Aに接続され、切換継手管12P1は、切換弁の第二作動室10Cに接続される。
【0021】
このような切換弁10は、パイロットバルブ部12から弁本体部10の第二作動室10Cに流入させた高圧冷媒の圧力によって、スライド弁40を一方向(図3において左側方向)にスライドさせることで、冷凍サイクルシステムにおける冷房モードとされる。斯かる冷房モードの場合、スライド弁40の連通空間40PAによって、流出側のポート30P2と室内側のポート30P3とが連通されるとともに、弁本体部10の高圧室10Bを介して開口部10P4と弁座30における室外側のポート30P1とが連通される。
【0022】
一方、切換弁10は、パイロットバルブ部12から第一作動室10Aに流入させた高圧冷媒の圧力によって、スライド弁40は他方向(図3において右側方向)にスライドさせることで、冷凍サイクルシステムにおける暖房モードとされる。斯かる暖房モードの場合、スライド弁の連通空間40PAによって、流出側のポート30P2と室外側のポート30P1とが連通されるとともに、高圧室10B介して開口部10P4と室内側のポート30P3とが連通される。そして、冷凍サイクルシステムの運転中、スライド弁40の外周部には、高圧冷媒が作用し、スライド弁40の内周部には、低圧冷媒が作用することとなる。
【0023】
スライド弁40は、例えば、耐熱性および耐圧性を有するナイロン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂材料により成形されている。スライド弁40は、図1に示されるように、上述の弁座30のシール面30aに摺接される摺接面40aを、下端部の開口部40Hの周縁に有している。開口部40Hの両端は、弁座30のポート30P2およびポート30P3の円形断面に対応した半円形状を有している。その両端に連なる開口部40Hの中央部分は、後述する溝40Gに近づくにつれて両端の部分に比して狭まっている。
【0024】
その開口部40Hは、スライド弁40の内部に形成されドーム状の横断面を有する連通路40PA(図2(A)および(B)参照)に連通している。連通路40PAは、弁座30のポート30P1とポート30P2とを連通させ、または、弁座30のポート30P2とポート30P3とを連通させるものとされる。なお、図4および図5は、弁座30のポート30P2とポート30P3とを連通させた状態にあるスライド弁40の位置を示す。
【0025】
連通路40PAは、スライド弁40におけるX座標軸に沿って向き合った長辺の一対の壁部(以下、第1の壁部40W1ともいう)と、スライド弁40におけるY座標軸に沿って向き合った短辺の一対の壁部(以下、第2の壁部40W2ともいう)と、一対の第1の壁部40W1と一対の第2の壁部40W2とを連結する上壁部とによって囲まれて形成されている。
【0026】
各第1の壁部40W1の下端部は、図1に示されるように、Y座標軸に沿って外方に向けて張り出す張出部40Tを有している。各第2の壁部40W2の下端部は、X座標軸に沿って外方に向けて張り出す張出部40Kを有している。
一対の第1の壁部40W1の内周部には、溝40Gが、その壁部の中央部の下端近傍に設けられている。図3に示されるように、後述する補強ピン42が一対の第1の壁部40W1に跨るように、その端部が、圧入により固定されている。各第1の壁部40W1における溝40Gの周縁に設けられた湾曲面は、第1の壁部40W1の厚みが開口部40Hの両端側から溝40Gに近づくにつれて漸増するように形成されている。従って、図3に示されるように、各第1の壁部40W1において、溝40Gの周縁の厚みtbは、開口部40Hの両端近傍の厚みtaに比して大となる。これにより、各第1の壁部40W1には、溝40Gの周縁に肉厚な補強部40HWTが、形成されるので、溝40Gの周縁の強度が向上することとなる。また、補強部40HWTの内周面が湾曲面により形成されているので連通路40PA内の圧力損失が抑制できるため連通路40PAにおける流量低下を小さくできる。
【0027】
中実軸である補強ピン42は、一端から他端まで一様な直径を有している。補強ピン42の直径は、スライド弁40の大きさおよびスライド弁40の外周部に作用する冷媒の圧力に応じて約1mm以上20mm以下の範囲に設定されている。また、補強ピン42は、補強ピン42の外周面と、摺接面40aとの間に、零を越える所定の隙間があるように配置されている。
【0028】
斯かる構成において、パイロットバルブ部12により、スライド弁40が所定位置まで移動せしめられることによって冷房運転状態、または、暖房運転状態に切り換えられる。冷房運転状態の場合、図4に示されるように、圧縮機14からの高圧の冷媒が凝縮器として機能する室外熱交換器16に供給される。一方、暖房運転状態の場合、圧縮機14からの高圧の冷媒が凝縮器として機能する室内熱交換器20に供給される。
【0029】
本発明に係るスライド式切換弁の一例に用いられる図1に示されるスライド弁40の位置が、図4および図5に示される冷房運転状態の場合、即ち、スライド弁40の連通路40PAが、ポート30P2とポート30P3とを連通させている位置において、スライド弁40は、補強部40HWTの内周縁がポート30P2とポート30P3との開口端に張り出すことがない位置にある。且つ、連通路40PAの断面積が、図2(B)に示されるように、ポート30P2、およびポート30P3のいずれの断面積よりも大きいものとなっている。
【0030】
これにより、冷房運転時において、スライド弁40における低圧側の流量の減少が抑えられ、冷凍サイクルシステムの効率低下を回避できる。
【0031】
冷凍サイクルシステムが上述の冷房運転状態から暖房運転状態に切り換わる場合、スライド弁40は、図4に示される状態から、右方向へスライドされる。その移動途中において、補強部40HWTの内周面は、ポート30P2を横切った後、連通路40PAがポート30P2とポート30P1を連通する位置でスライド弁40は、停止する。これにより、冷凍サイクルシステムが暖房運転状態になるとき、スライド弁40は、補強部40HWTの内周縁がポート30P2とポート30P1との開口端に張り出すことがない位置にある。且つ、連通路40PAの断面積が、図2(B)に示されるように、ポート30P2、および、ポート30P1のいずれの断面積よりも大きいものとなっている。
【0032】
これにより、暖房運転時において、スライド弁40における低圧側の流量の減少が抑えられ、冷凍サイクルシステムの効率低下を回避できる。
【0033】
図6は、本発明に係るスライド式切換弁の一例において用いられるスライド弁の他の一例を示す。なお、図6において、図1に示される例における構成要素と同一の構成要素について同一の符合を付して示し、その重複説明を省略する。
【0034】
スライド弁50は、例えば、耐熱性および耐圧性を有するナイロン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂材料により成形されている。スライド弁50は、上述の弁座30のシール面30aに摺接される摺接面50aを、下端部の開口部50Hの周縁に有している。開口部50Hの両端は、それぞれ、弁座30のポート30P2およびポート30P3の円形断面に対応した半円形状を有している。その両端に連なる開口部50Hの中央部分は、後述する溝50G周縁近傍の一部が両端の部分に比して狭まっている。
その開口部50Hは、スライド弁50の内部に形成されドーム状の横断面を有する連通路50PAに連通している。連通路50PAは、弁座30のポート30P1とポート30P2とを連通させ、または、弁座30のポート30P2とポート30P3とを連通させるものとされる。
【0035】
連通路50PAは、スライド弁50におけるX座標軸に沿って向き合った長辺の一対の壁部(以下、第1の壁部50W1ともいう)と、スライド弁50におけるY座標軸に沿って向き合った短辺の一対の壁部(以下、第2の壁部ともいう)と、一対の第1の壁部50W1と一対の第2の壁部とを連結する上壁部とに囲まれて形成されている。
【0036】
各第1の壁部50W1の下端部は、Y座標軸に沿って外方に向けて張り出す張出部50Tを有している。各第2の壁部の下端部は、X座標軸に沿って外方に向けて張り出す張出部50Kを有している。
【0037】
一対の第1の壁部50W1の内周部には、溝50Gが、中央部の下端部近傍に設けられている。補強ピン42が一対の第1の壁部50W1に跨るように、その端部が、圧入により溝50Gに固定されている。各第1の壁部50W1における溝50Gの周縁には、矩形状断面を有する二つの突起部が、設けられている。これらの二つの突起部により、溝50Gの周縁の厚みが、両端近傍の厚みより部分的に大きく形成されている。これにより、第1の壁部50W1には、肉厚な補強部50HWTが、溝50Gの周縁に形成されることとなる。
【0038】
図7は、本発明に係るスライド式切換弁の一例において用いられるスライド弁のさらなる他の一例を示す。なお、図7において、図1に示される例における構成要素と同一の構成要素について同一の符合を付して示し、その重複説明を省略する。
【0039】
スライド弁60は、例えば、耐熱性および耐圧性を有するナイロン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂材料により成形されている。スライド弁60は、上述の弁座30のシール面30aに摺接される摺接面60aを、下端部の開口部60Hの周縁に有している。開口部60Hの両端は、それぞれ、弁座30のポート30P2およびポート30P3の円形断面に対応した略半円形状を有している。その両端に連なる開口部60Hの中央部分は、後述する溝60G周縁近傍が、両端の部分に比して狭まっている。開口部60Hの中央部分における両端の周縁は、それぞれ、開口部60Hの一部を形成する円弧60Ha、および、円弧60Hbと交わっている。円弧60Ha、および、円弧60Hbは、それぞれ、所定の中心角(180度+2α)を有している。なお、角度αは、例えば、0度<α≦45度の範囲に設定される。
【0040】
その開口部60Hは、スライド弁60の内部に形成されドーム状の横断面を有する連通路60PAに連通している。連通路60PAは、弁座30のポート30P1とポート30P2とを連通させ、または、弁座30のポート30P2とポート30P3とを連通させるものとされる。
【0041】
連通路60PAは、スライド弁60におけるX座標軸に沿って向き合った長辺の一対の壁部(以下、第1の壁部60W1ともいう)と、スライド弁60におけるY座標軸に沿って向き合った短辺の一対の壁部(以下、第2の壁部ともいう)と、一対の第1の壁部60W1と一対の第2の壁部とを連結する上壁部とに囲まれて形成されている。
【0042】
各第1の壁部60W1の下端部は、Y座標軸に沿って外方に向けて張り出す張出部60Tを有している。各第2の壁部の下端部は、X座標軸に沿って外方に向けて張り出す張出部60Kを有している。
【0043】
一対の第1の壁部60W1の内周部には、溝60Gが、その中央部における下端部近傍に設けられている。補強ピン42が一対の第1の壁部60W1に跨るように、その端部が、圧入により溝60Gに固定されている。各第1の壁部60W1における溝60Gの周縁は、第1の壁部60W1の厚みが、上述の開口部60Hにおける弁座30のポート30P2、30P3に対応する半円から溝60G側にさらに円周方向に角度αだけ延びた円弧60Haおよび60Hbの各端から溝60Gまで部分的に大きく形成されている。これにより、各第1の壁部60W1には、肉厚な補強部60HWTが、開口部60Hにおける一方の半円の各端から他方の半円の各端まで延在するように、溝60Gの周縁に形成されることとなる。従って、補強部60HWTの強度が、図3および図6に示される例に比して向上することとなる。
【0044】
なお、図6及び図7に示される実施例においても、スライド弁50、または、スライド弁60が停止したとき、補強部50HWT、補強部60HWTの内周縁が、ポート30P1とポート30P2、又は、ポート30P2とポート30P3との開口端に張り出すことがない位置にある。且つ、連通路50PA、又は、連通路60PAの断面積が、ポート30P1、ポート30P2、およびポート30P3のうちのいずれかの断面積よりも大きい値となっている。
【0045】
本発明に係るスライド式切換弁の一例を空気調和機に用いた例を挙げて説明したが、これに限らず他の冷凍システムに用いても良い。
【符号の説明】
【0046】
10 弁本体部
12 パイロットバルブ部
30 弁座
40、50、60 スライド弁
40G、50G、60G 溝
40HWT、50HWT、60HWT 補強部
42 補強ピン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7