【解決手段】前記人工界面層は、リチウムイオンを伝導するが、電子非伝導性である。また、前記リチウム金属電極を、製造するための方法を提供する。前記リチウム金属電極を含む、固体電気化学セルを提供する。固体型リチウム−硫黄電気化学セルを提供し、このセルは、約3mAh/cm
前記酸が、ホウ酸、スルファミン酸、アスコルビン酸、及び3−ホスホノプロピオン酸からなる群から選択される酸である、請求項17に記載の、人工界面層を有するリチウム金属電極を製造する方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、電解質の還元分解、特に、リチウム金属電極による固体電解質の還元分解を防止するための、構造又はシステムに対する必要性が存在する。より詳細には、リチウム金属電極によるチオリン酸リチウム固体電解質の分解を防止するための、構造又はシステムに対する必要性が存在する。さらに、高い容量のリチウム電気化学セル、特に、カソード活物質として元素硫黄を含む、電気化学セルに対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、これらの及びそのほかの目的に取り組むものであり、本発明の第一の実施態様は、リチウム金属と非水性溶媒に溶解した酸との反応によって生じた、塩及び/又は化合物を含む、人工界面層である表面層を有する、リチウム金属のリチウム電極であって、この人工界面層が、リチウムイオンを伝導し、かつ電子非伝導性である、リチウム電極を提供するものである。
【0009】
第一の実施態様における一つの態様では、人工界面層の深さは、1nmから1000nmまでである。
【0010】
第一の実施態様における別の態様では、酸は、有機酸又は無機酸である。
【0011】
第一の実施態様における特別な態様では、酸は、ホウ酸、スルファミン酸、アスコルビン酸、及び3−ホスホノプロピオン酸からなる群から選択される酸である。
【0012】
第二の実施形態では、本発明は、以下を含む電気化学セルを提供する:
リチウム金属アノード;
リチウムイオンを吸収し、かつ放出することができるカソード;及び
リチウム金属アノードとカソードの間に配置された非水性電解質;
ここで、
人工界面層が、非水性電解質とリチウム金属アノードの間にあり、
この人工界面層は、リチウム金属と非水性溶媒に溶解した酸との反応によって生じた、塩及び/又は化合物を含み、かつ
この人工界面層は、リチウムイオンを伝導し、かつ電子非伝導性である。
【0013】
第二の実施態様における一つの態様では、人工界面層の深さは、1nmから1000nmまでである。
【0014】
第二の実施態様における別の態様では、酸は、有機酸又は無機酸であり、かつさらなる態様では、酸は、ホウ酸、スルファミン酸、アスコルビン酸、及び3−ホスホノプロピオン酸からなる群から選択される酸である。
【0015】
第三の実施形態では、本発明は、以下を含む固体電気化学セルを提供する:
リチウム金属アノード;
リチウムイオンを吸収し、かつ放出することができるカソード;及び
リチウム金属アノードとカソードの間に配置された固体電解質;
ここで、
人工界面層が、固体電解質とリチウム金属アノードの間にあり、
この人工界面層は、リチウム金属と非水性溶媒に溶解した酸との反応によって生じた、塩及び/又は化合物を含み、かつ
この人工界面層は、リチウムイオンを伝導し、かつ電子非伝導性である。
【0016】
第三の実施態様における一つの態様では、人工界面層の深さは、1nmから1000nmまでである。
【0017】
第三の実施態様における別の態様では、酸は、有機酸又は無機酸であり、かつさらなる態様では、酸は、ホウ酸、スルファミン酸、アスコルビン酸、及び3−ホスホノプロピオン酸からなる群から選択される酸である。
【0018】
第三の実施態様における特別な態様では、リチウムイオンを吸収し、かつ放出することができるカソードは、元素硫黄を含み、かつ特殊な態様では、このカソードは、セレン及び/又はテルルをさらに含む。
【0019】
第三の実施態様におけるさらなる特別な態様では、固体電解質は、チオリン酸リチウム固体電解質であり、さらには、このチオリン酸リチウムは、LiF、LiCl、LiBr、LiI、Li
3N、Li
3P、Li
2O、Li
3BO
3、及びLiBH
4からなる群から選択されるリチウム塩でドープされていてもよい。
【0020】
添付した図面と関連させて考慮しながら、以下の詳細な説明を参照することにより、本発明及びその多くの付随する利益をより良く理解することができるので、本発明をより完全に理解し、かつ本発明に伴う多くの利益を容易に得ることできるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書の記載を通じて、「人工界面層」との用語は、ここに記載された実施態様によるリチウム金属電極の処理によって得られる界面層を記述するために使用されている。これに対して、「自然界面層」との用語は、電気化学的サイクルを通して行ったときに、固体電解質表面−リチウム金属電極表面の境界で、形成することが示される界面層を記述するものである。リチウム金属電極と、ハロゲン化リチウムをドープしたチオリン酸リチウムの場合には、Li
3P、Li
2S、及びハロゲン化リチウムを含む自然界面層が形成される。
【0023】
別途の定義がされていない限り、電気化学セルとの用語は、簡素な試験用セル又は電池(バッテリー)の構造を意味するものと広義に解釈され得るものである。
【0024】
本明細書中で使用される、「a」及び「an」のような語句は、「one or more(1又は複数)」の意味を有する。「〜からなる群から選択される」、「〜から選択される」のような表現は、特定の物質の混合物を含む。「含む」のような用語は、別段の具体的な注記がない限り、「少なくとも含む」ことを意味する、オープンな用語である。ここで言及されたすべての参考文献、特許、出願、試験、基準、文書、刊行物、パンフレット、教本、論文等は、参照として本明細書に組み込まれる。数値限定又は数値範囲が述べられているときには、端点が含まれる。また、数値限定又は数値範囲の範囲内にある、すべての数値及び部分的範囲は、あたかも明確に、完全に書き出されているかのように、具体的に包含される。
【0025】
出願人は、商業的に実現可能である、十分な電圧及びエネルギー容量を有する、リチウム−硫黄電池を開発することを目標として、継続する研究に取り組んでいる。カソード活物質としての硫黄の、潜在的なエネルギー容量及び相対的な経済的優位性のために、この継続する研究開発の一部として、固体型リチウム−硫黄電池が目標とされた。固体電解質は、上述した液体電解質中での、硫黄の溶解によって引き起こされる課題に対して、解決の可能性を提示する。
【0026】
固体型システムについてのこの継続した開発において、
図1に示されているリチウム対称セルが作製され、固体型システムの試験性能を評価するために使用された。この対称セルの作製方法は、実験の部(実施例)に記載されている。
図2Aは、ハロゲン化リチウムをドープしたチオリン酸リチウム固体電解質を用いたLi−Li対称セルの長期サイクルを示したものである。リチウム金属電極は、試験前に処理されていない。
図2Aに示されているように、脱離及び挿入の電位は、サイクルを通じて安定しておらず、これは文献での報告に類似している[Garcia−Mendez及びそのほか、DOI: 10.1016/j.electacta.2017.03.200]。
図2Bは、
図2Aからの最初及び最後のサイクルを示したものである。過電圧(すなわち、0mVから電圧が平坦域となるまでの間隔)の状態が長くなっているため、サイクルにわたって、抵抗層が、リチウム金属と固体電解質との間に形成されたことが明らかである。
【0027】
低い過電圧は、セルのより高い放電電位につながり、したがって、より高いエネルギー密度につながるので、一般的に、電極サイクルの間の、低く安定な過電圧が望ましい。理想的には、サイクル間の電極の過電圧は、ほとんどゼロである。安定な過電圧は、リチウム金属と固体電解質との間の、安定な界面層の指標と考えられる。したがって、安定な過電圧がまた望ましい。
図2は、ハロゲン化リチウムをドープしたチオリン酸リチウム固体電解質を用いたときの、Li
3P、Li
2S及びハロゲン化リチウムからなる「自然」界面層の挙動を示したものである[Garcia−Mendez及びそのほか、DOI: 10.1016/j.electacta.2017.03.200]。
【0028】
本発明者らは、セル(電池)の構築の前に、リチウム金属電極表面に、「人工界面層」、すなわち、通常のサイクル条件下では形成されない界面層を、事前に適用することによって、著しくかつ予想外の過電圧の減少が起こり、かつリチウム対称セル試験構造によって評価したときに、長期サイクルの間に、著しくかつ予想外の過電圧の安定性が得られたことを見出した。
【0029】
本発明者らは、リチウム金属表面を非水性溶媒に溶解した酸で処理することによって、セルの構築中にリチウム金属が電解質と接触するときに、人工界面層として機能する表面層が得られることを見出した。
【0030】
本発明において、人工界面層として記載される層は、リチウムイオン伝導性であるが、電子非伝導性である。こうした導電特性を有するリチウム電極は、液体電解質又は固体電解質と接触して使用することができる。ここで記載する特別な実施態様では、電解質は、固体電解質とすることができる。
【0031】
ここで記載する実施例の実施態様で示すように、結果として生じる人工界面層は、固体電気化学セルのサイクル動作の間の、安定なリチウム挿入とリチウム脱離とを支える。
【0032】
使用される酸は、有機酸又は無機酸とすることができ、ホウ酸、スルファミン酸、アスコルビン酸、及び3−ホスホノプロピオン酸のような酸を含むが、これらに限定されない。好ましい実施態様では、無機酸は、有機酸よりも、人工界面層の生成により効果的であり得る。一つの特別な実施態様では、処理のための酸は、ホウ酸である。
【0033】
図13は、ジメチルスルホキシド中の溶液としてのホウ酸で処理したリチウム薄片表面の走査型電子顕微鏡画像を示したものである。走査型電子顕微鏡(SEM)画像は、形成された人工界面層上に存在する表面ピッティング(孔食)の形成を示している。エネルギー分散型分光法(EDS)によって測定された、ホウ酸によって作り出された人工界面層の組成は、浅いくぼみを含む表面にわたって均一に分散した、ホウ素、酸素、及び硫黄原子の存在を示している。EDSでは、リチウムを検出することはできず、したがって、正確な組成をこのデータによって示すことはできないかもしれないけれども、本発明者らは、この表面は、主としてBO
2のようである、ということに気が付いた。
【0034】
しかしながら、酸処理の影響は、電極表面の化学的組成を変化させ、かつ形成された人工界面層は、この電極を用いて構成された固体電気化学セルの性能を著しくかつ予想外に改良すると推察される。
図8Aから
図10Aは、サイクルを通じて、セルの平均した脱離及び挿入の電位が安定していることを示しており、
図8Bから
図10Bは、最初と最後のサイクルの間で、電位プロファイルが変化しないことを示しており、このことは、安定な人工界面層であることを示すものである。
【0035】
酸処理のために使用される溶媒は、意図した処理濃度まで酸を溶解させる、任意の非水性溶媒とすることができる。適切な処理溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)及びジオキサンのようなエーテルを含むことができるが、これらに限定されない。本発明の実施態様によれば、非プロトン性溶媒を使用することができる。
【0036】
表面処理は、リチウム金属表面を、溶解させた酸と効果的に接触させる任意の方法で、実施することができる。酸溶液は、任意の通常のコーティング法を適用することによって、表面に噴霧することができ、又は酸溶媒の浴に金属薄片を入れることによって、浸漬被覆することもできる。
【0037】
図14は、3秒及び10秒の浸漬時間について、ホウ酸のDMSO溶液を使った人工界面層の厚さに対する、浸漬被覆法の浸漬時間の影響を示している。結果として得られた表面は、表面層をより深く精査するために、X線光電子分光法(XPS)装置内で、スパッタリングによって評価した。リチウムの組成は、未処理である試料と処理を行った試料との間の表面層の相対的な深さを示した。浸漬時間が長いほど、より厚い人工界面層が形成される。
【0038】
したがって、いくつかの実施態様では、人工界面層を形成するための処理方法は、上述したような酸溶液を使用することができ、ここで、酸濃度は、0.1重量%から30重量%までであり、かつ処理時間は、1秒から600秒までとすることができる。しかしながら、溶媒を変えることによって、目標とする深さと組成の、目標とする人工界面層を得るために、酸処理時間及び酸濃度を変えることができる。
【0039】
さらに、本発明者らは、本発明の実施形態により処理されたリチウム金属が、空気中で改良された安定性を示すことを見出した。
【0040】
したがって、第一の実施形態では、本発明は、リチウム金属と非水性溶媒中の酸との反応によって生じた、塩及び/又は化合物を含む表面層を有する、リチウム金属のリチウム電極を提供する。
【0041】
酸処理によって形成された人工界面層の深さは、使用された酸/溶媒の組み合わせ、酸の濃度、及び処理時間の長さによって決まる。一つの実施態様では、人工界面層の深さは、1nmから1000nmまで、好ましくは5nmから500nmまで、最も好ましくは10nmから250nmまでである。
【0042】
第二の実施態様では、本発明は、以下を含む電気化学セルを提供する:
リチウム金属アノード;
リチウムイオンを吸収し、かつ放出することができるカソード;及び
リチウム金属アノードとカソードの間に配置された非水性電解質;
ここで、
人工界面層が、非水性電解質とリチウム金属アノードの間にあり、かつ
この人工界面層は、リチウム金属と非水性溶媒に溶解した酸との反応によって生じた、塩及び/又は化合物を含む。
【0043】
第二の実施態様における態様では、人工界面層の深さは、1nmから1000nmまで、好ましくは5nmから500nmまで、最も好ましくは10nmから250nmまでである。
【0044】
第二の実施態様における別の態様では、酸は、有機酸又は無機酸であり、かつさらなる態様では、酸は、ホウ酸、スルファミン酸、アスコルビン酸、及び3−ホスホノプロピオン酸からなる群から選択される酸である。
【0045】
第三の実施形態では、本発明は、以下を含む固体電気化学セルを提供する:
リチウム金属アノード;
リチウムイオンを吸収し、かつ放出することができるカソード;及び
リチウム金属アノードとカソードの間に配置された固体電解質;
ここで、
人工界面層が、固体電解質とリチウム金属アノードの間にある。
【0046】
第三の実施態様における態様では、人工界面層の深さは、1nmから1000nmまで、好ましくは5nmから500nmまで、最も好ましくは10nmから250nmまでである。
【0047】
第三の実施態様における別の態様では、酸は、有機酸又は無機酸であり、かつさらなる態様では、酸は、ホウ酸、スルファミン酸、アスコルビン酸、及び3−ホスホノプロピオン酸からなる群から選択される酸である。
【0048】
固体電気化学セルは、熱を加えて又は熱を加えずに、カソード、固体電解質、及びアノードを一緒にプレスすることによって組立てられる。典型的な手順は、以下の3つの工程を含むことができる:
(1)固体電解質の粉末をプレスしてペレットにすること、
(2)カソード材料を固体電解質表面に広げて、それから、この「積層体(積み重なったもの)」を、再びプレスすること、その後、
(3)アノード材料を固体電解質の反対側の表面に広げて、この積層体(積み重なったもの)の、3度目のプレスを行うこと。
【0049】
カソードは、放電時にリチウムイオンの挿入、すなわち、インターカレーションをすることができ、かつ充電時にリチウムイオンの脱離、すなわち、デインターカレーションをすることができるような、当業者に知られた任意のカソードとすることができる。
【0050】
本発明の特定の実施態様では、カソード活物質は、上述した潜在的な優位性のために、元素硫黄である。
【0051】
カソードは、当業者に知られた慣用的な方法によって作製することができる。例えば、元素硫黄、炭素及び固体電解質を乳鉢の中で混合することができる。典型的な処方は、20〜80重量%の元素硫黄、5〜30重量%の炭素、及び20〜50重量%の固体電解質を含むことができる。この複合材料は、成分を10分から1時間までの範囲で、乳鉢中で混合して粉末混合物を調製し、その後に、この粉末混合物を1〜7日間、ボールミル粉砕することによって、形成することができる。
【0052】
別の実施例としての手順では、元素硫黄、硫化リチウム、五硫化リン、及び導電性カーボンを、乳鉢の中で合わせて、10分から1時間混合することができる。五硫化リンに対する硫化リチウムの割合は、2/1から4/1までの範囲とすることができる。硫黄の含有量は、全組成の20〜80重量%の範囲とすることができる。それから、この混合物を、1〜7日間ボールミル粉砕することができる。
【0053】
セレン及びテルルのような、硫黄の代替物のカルコゲニドも、カソード活物質として使用することができる。任意のこれらの混合物もまた使用することができる。
【0054】
導電性カーボンの例は、ケッチェンブラック(カーボンブラック)、アセチレンブラック、気相成長カーボンファイバー、グラフェン、天然黒鉛、人造黒鉛、及び活性炭を含むが、これらに限定されない。
【0055】
上述の粒子を、1又は複数のバインダー、及びカソード構造を準備するために通常使用されるそのほかの材料と混合することによって、カソードを調製することができる。これらの材料は、スラリーとして混合され、金属薄片上に被覆され、かつ乾燥させることができる。活物質を使用したカソードの構築方法は、一般的に知られており、ここで記載した粒子に適合する任意のこのような方法を用いることができる。
【0056】
セルの使用の電位窓において化学的に安定である当業者に知られた適切なバインダーは、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含むことができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレン−ブタジエンゴム、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ETCFE)、及びエチレン−アクリル酸共重合体を含むことができる。これらのバインダーは、単独で使用することができ、又は混合物を使用することもできる。
【0057】
成分は、適切な溶媒の存在下で湿式混合するか、又は乳鉢若しくはそのほかの一般的に知られた混合装置を用いて乾式混合することができる。その後、この混合物を、一般的に知られている方法で集電体に適用することができる。任意の適切な集電体を使用することができる。好ましい集電体は、カーボン、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、及び銅のいずれであってもよい。
【0058】
当業者に知られているように、固体電解質は、リチウムイオンを透過する任意の固体電解質とすることができる。先に参照したManthiramによる概説には、本発明の範囲内で使用することができる固体電解質が記載されている。人工界面層は、形成され得る自然界面層には見られない原子から構成されているので、セルのアノードとしての役割を果たすためのリチウム電極の酸処理は、固体電解質の化学的組成の観点から選択することができる。効果的な処理は、本発明の実施形態で概要が述べられているような実験によって、決定することができる。
【0059】
特別な実施形態では、固体電解質は、上述したような(Garcia−Mendez)チオリン酸リチウム固体電解質とすることができる。特別な実施形態では、チオリン酸リチウムは、リチウム塩でドープされていてよく、このリチウム塩は、LiF、LiCl、LiBr、LiI、Li
3N、Li
3P、Li
2O、Li
3BO
3、又はLiBH
4のようなリチウム塩を含むが、これらに限定されない。
【0060】
図11は、導電性カーボン、二つの異なる種類の硫黄、及びこれらの成分を混合するための一段階又は二段階のボールミル粉砕工程を用いて作製された、正極を有する固体型リチウム−硫黄セルの出力特性を示したものである。リチウム金属負極は使用前に処理されておらず、したがって、このリチウム金属負極は、この技術における現在の最新技術を代表するものである。3つのすべてのセルは、1Cレートまで、ほとんど等しい放電容量を与えており、同じような性能を有している。
【0061】
図12は、リチウム負極が、試験前に本発明に従ってホウ酸で処理されたことを除いて、
図11で記載したボールミル粉砕方法を用いた、同じ正極のサイクル挙動を示したものである。放電容量は、二段階のボールミル粉砕工程で、工業用カーボンを固体電解質の成分と混合した
図12Bで最も高い。何より重要なことは、リチウム金属負極で、約3mAh/cm
2の持続的な放電容量が得られたということである。本発明に基づく、ホウ酸での処理とその結果として生じる人工界面層は、高度に安定なリチウムの挿入と脱離とを支えるものであり、これは、
図11に示されているものよりも予想外に優れたものであった。本発明者らは、3mAh/cm
2という持続的な放電容量は、今日までに、固体型のリチウム硫黄セルについて報告された、最も高い性能であると確信している。
【0062】
上記の説明は、当業者が本発明を行い、かつ用いることができるようにするために提示したものであり、特定の適用及びその必要条件に照らして記載したものである。好ましい実施態様に対する様々な改変は、当業者にとっては、すぐに分かることであり、かつここで定義された一般的な原理は、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、そのほかの実施態様にも適用することができる。したがって、これらの実施態様は、示されている実施例に限定されることを意図するものではなく、ここに開示された原理及び特徴に整合する、最も広い範囲と調和するものである。この点に関して、本発明の範囲内にある実施態様というのは、広範に考慮される本発明のあらゆる利益を示す、というわけではない。
【実施例】
【0063】
実施例1:リチウム−硫黄固体電気化学セルの作製
硫黄/固体電解質/リチウムのセルを以下のとおりに作り上げた。最初に、ヨウ化リチウムをドープしたチオリン酸リチウム80〜300mgを、0.5〜10トンの圧力を使用して、1.128cm直径のペレットにコールドプレスした。次に、硫黄、カーボン、及びハロゲン化リチウムでドープしたチオリン酸リチウムの混合物1〜300mgを、この固体電解質のペレットの上に広げ、この積層体を、0.1〜6トンの圧力を使用して、再びプレスした。最後に、リチウム薄片をこの固体電解質の反対側に置き、続いて集電体の機能を果たす銅薄片を置き、この積層体を、0〜4トンの圧力でプレスした。
【0064】
処理されたリチウム電極のガルバニック試験
リチウム金属を正極及び負極の両方に使用した、いわゆる、リチウム対称セルを、定電流でサイクルすることによって、主に、リチウム金属上の人工界面層を試験した。
図1は、セルの設計及びアセンブリの概略を示したものである。まず、固体電解質の粉末をプレスしてペレットにした。次に、ピストンを取り外して、このペレットの両側で、セルにリチウム円盤を入れ、その後、ピストンを置いて、これらに軽い圧力を加えた。長期サイクルにかける前に、未使用のセルについて、低率で数回の調整サイクルを行った。
【0065】
図2Aは、ヨウ化リチウムでドープしたチオリン酸リチウム固体電解質を用いたLi−Li対称セルの長期サイクルを示したものである。リチウム金属電極は、試験前に処理されなかった。脱離及び挿入電位は、文献による報告と同じように、サイクルを通じて安定していない[Garcia−Mendez及びそのほか、DOI: 10.1016/j.electacta.2017.03.200]。
図2Bは、
図2Aからの最初及び最後のサイクルを示したものである。過電圧(すなわち、0mVから電圧が平坦域となるまでの間隔)の状態が長くなっているため、サイクルにわたって、抵抗層がリチウム金属と固体電解質との間に形成されたことが明らかである。
【0066】
低い過電圧は、セルのより高い放電電位につながり、したがって、より高いエネルギー密度につながるので、一般的に、電極サイクルの間の、低く安定な過電圧が望ましい。理想的には、サイクル間の電極の過電圧は、ほとんどゼロである。安定な過電圧は、リチウム金属と固体電解質との間の、安定な界面層の指標である。したがって、安定な過電圧がまた望ましい。
図2は、ハロゲン化リチウムをドープしたチオリン酸リチウム固体電解質を用いたときの、Li
3P、Li
2S及びハロゲン化リチウムからなる「自然」界面層の挙動を示したものである[Garcia−Mendez及びそのほか、DOI: 10.1016/j.electacta.2017.03.200]。
【0067】
図3Aは、ヨウ化リチウムをドープしたチオリン酸リチウム固体電解質を用いたLi−Li対称セルの長期サイクルを示したものである。リチウム金属電極は、試験前に、純粋なDMSO溶媒で処理された。脱離及び挿入電位は、サイクルを通じて安定しておらず、不安定な人工界面層であることを示唆している。
図3Bは、
図3Aの区画からの最初及び最後のサイクルを示したものである。過電圧が縮小しているため、サイクルにわたって、リチウム金属と固体電解質の間に、より少ない抵抗層が生成したことが明らかである。
【0068】
図4Aは、ヨウ化リチウムをドープしたチオリン酸リチウム固体電解質を用いたLi−Li対称セルの長期サイクルを示したものである。リチウム金属電極は、試験前に、DMSO溶媒中のホウ酸で処理された。脱離及び挿入電位は、サイクルを通じて非常に安定しており、安定な人工界面層であることを示唆している。過電圧も、250μA/cm
2で約10mVと低い。
図4Bは、
図4Aからの最初及び最後のサイクルを示したものである。サイクルにわたって、リチウム金属と固体電解質の間が、ほとんど変化しなかったことが明らかである。
【0069】
図5Aは、ヨウ化リチウムをドープしたチオリン酸リチウム固体電解質を用いたLi−Li対称セルの長期サイクルを示したものである。リチウム金属電極は、試験前に、DMSO溶媒中のスルファミン酸で処理された。脱離及び挿入電位は、サイクルを通じて極めて安定しており、安定な人工界面層であることを示唆している。過電圧は、250μA/cm
2で約40mVであり、これは、
図4での過電圧よりも著しく高く、より高い抵抗界面層であることを示している。
図5Bは、
図5Aからの最初及び最後のサイクルを示したものである。サイクルにわたって過電圧が変化しなかったことから、界面層は比較的安定である。
【0070】
図6Aは、ヨウ化リチウムをドープしたチオリン酸リチウム固体電解質を用いたLi−Li対称セルの長期サイクルを示したものである。リチウム金属電極は、試験前に、DMSO溶媒中のアスコルビン酸で処理された。脱離及び挿入電位は、サイクルを通じて非常に不安定であり、不安定な人工界面層であることを示唆している。
図6Bは、
図6Aからの最初及び最後のサイクルを示したものである。界面層は、120サイクルの後で、かなり不安定であった。
【0071】
図7Aは、ヨウ化リチウムをドープしたチオリン酸リチウム固体電解質を用いたLi−Li対称セルの長期サイクルを示したものである。リチウム金属電極は、試験前に、DMSO溶媒中の3−ホスホノプロピオン酸で処理された。平均の脱離及び挿入電位は、サイクルを通じて極めて安定していた。
図7Bは、最初と最後のサイクルとの間で、電位プロファイルが変化することを示している。連続したサイクルの同一プロファイルは、界面層で可逆的なプロセスが起こっていることを示唆するものである。
【0072】
図8Aは、1mA/cm
2での、ヨウ化リチウムをドープしたチオリン酸リチウム固体電解質を用いたLi−Li対称セルの長期サイクルを示したものである。リチウム金属電極は、試験前に、DMSO溶媒中のホウ酸で処理された。平均の脱離及び挿入電位は、サイクルを通じて安定しており、かつ
図8Bは、最初と最後のサイクルとの間で、電位プロファイルが変化しないことを示しており、これらは、安定な人工界面層であることを示すものである。
【0073】
図9Aは、2mA/cm
2での、ヨウ化リチウムをドープしたチオリン酸リチウム固体電解質を用いたLi−Li対称セルの長期サイクルを示したものである。リチウム金属電極は、試験前に、DMSO溶媒中のホウ酸で処理された。平均の脱離及び挿入電位は、サイクルを通じて安定しており、かつ
図9Bは、最初と最後のサイクルとの間で、電位プロファイルが変化しないことを示しており、これらは、安定な人工界面層であることを示すものである。
【0074】
図10Aは、4mA/cm
2での、ヨウ化リチウムをドープしたチオリン酸リチウム固体電解質を用いたLi−Li対称セルの長期サイクルを示したものである。リチウム金属電極は、試験前に、DMSO溶媒中のホウ酸で処理された。平均の脱離及び挿入電位は、サイクルを通じて安定しており、かつ
図10Bは、最初と最後のサイクルとの間で、電位プロファイルが変化しないことを示しており、これらは、安定な人工界面層であることを示すものである。
【0075】
図11は、導電性カーボンと、二つの異なる種類の硫黄と、これらの成分を混合するための一段階又は二段階のボールミル粉砕工程とを用いて作製された正極を有する、固体型リチウム−硫黄セルの出力特性を示したものである。リチウム金属負極は、使用前に処理されなかった。3つのすべてのセルは、同じような性能を有しており、1Cレートまで、ほとんど等しい放電容量を与えている。
【0076】
図12は、リチウム負極が、試験前にホウ酸で処理されたことを除いて、
図11で記載したボールミル粉砕方法を用いた、同じ正極のサイクル挙動を示したものである。放電容量は、二段階のボールミル粉砕工程で、工業用カーボンを固体電解質の成分と混合したときの、
図12Bで最も高い。何より重要なことは、リチウム金属負極で、約3mAh/cm
2の持続的な放電容量が得られたということである。ホウ酸での処理とその結果として生じる人工界面層は、安定なリチウムの挿入と脱離を支えるものである。本発明者らは、3mAh/cm
2という、この持続的な放電容量は、今日までに、固体型のリチウム硫黄セルについて報告された、最も高い性能であると確信している。
【0077】
図13は、EDSにより測定された、ホウ酸を用いて作り出された人工界面層の組成を示したものである。ホウ素、酸素、及び硫黄は、浅いくぼみを含んでいる表面にわたって均一に分散されている。EDSでは、リチウムを検出することはできず、この表面は主としてBO
2のようである。
【0078】
図14は、界面層の厚さに対する浸漬時間の影響を示したものである。実施例の浸漬溶液として、ホウ酸が使用された。表面層をより深く精査するために、XPS機器内でのスパッタリングが使用された。リチウムの組成は、この三つの試料間の表面層の相対的な深さを明らかにするものであり、浸漬時間が長いほど、より厚い人工界面層が形成されることを示している。
【0079】
当業者に理解されるように、ここに記載された実施態様による電気化学的セルは、ケーシング及びリード端子のような付随的構造を含む、正式なバッテリー構造に構築することができ、そこには、ここに記載された実施態様による電気化学的セルの一つ又は複数が含まれている。これらのバッテリーは、例えば、携帯電話機、コンピューター、及びゲーム機器のような電力工学設備への利用のために設計することができるが、これらに限定されるものではない。さらに、乗り物のような、より大きい設備に電力を供給するために設計されたバッテリーは、ここに記載された実施態様による電気化学的セルの一つ又は複数を使って作製することができる。本発明による高い容量を有するリチウムセルの利用については、当業者は、容易に思い描くことができる。
【0080】
本発明の利点は、添付の特許請求の範囲でとりわけ指摘したように、理解されかつ得ることができる。当然のことながら、本発明は、そのほかの及び異なる実施態様とすることができ、そのいくつかの詳細は、全てが本発明から逸脱するというわけではなく、種々の明らかな事項について改変することができる。この点に関して、本明細書での記載は、本質的に例示としてのものであって、制限としてのものではない、ということが理解されるべきである。