【解決手段】ポリオレフィン系樹脂発泡シート10と、ポリオレフィン系樹脂発泡シートの表面に形成された塗膜11,12とを備え、塗膜11,12には、アニオン系界面活性剤が含まれているシート材。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明のシート材について説明する。
以下においては、シート材の基体がポリオレフィン系樹脂発泡シートで、該ポリオレフィン系樹脂発泡シートが押出発泡体である場合を例示する。
より詳しくは、以下においては、ポリオレフィン系樹脂を含むポリオレフィン系樹脂組成物を押出発泡させることによってシート状に形成されたポリオレフィン系樹脂発泡シートが基体として備えられているシート材をガラス板の合紙として利用する場合を例示しつつ本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
図1に示すように本実施形態のシート材1は、例えば、ガラス板2を複数枚上下方向に積層して積層体100を形成する際に隣接するガラス板2の間に介装させて合紙として用いられるものである。
本実施形態における前記ガラス板2は、プラズマディスプレイパネルや液晶ディスプレイパネルなどのフラットディスプレイパネル用のガラス板である。
本実施形態のシート材1は、
図2に示すように当該シート材1の基体となるポリオレフィン系樹脂発泡シート10と、ポリオレフィン系樹脂発泡シート上に形成された塗膜とを備えている。
本実施形態のシート材1は、ポリオレフィン系樹脂発泡シート10の第1の表面に積層された第1塗膜11と、前記第1の表面とは反対面となる第2の表面に積層された第2塗膜12とを備えている。
言い換えれば、本実施形態のシート材1は、ポリオレフィン系樹脂発泡シート10の両表面上に塗膜が形成されており、第1塗膜11/ポリオレフィン系樹脂発泡シート10/第2塗膜12の3層構造を備えている。
【0022】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂発泡シート10に含有させる前記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エチレン−αオレフィン樹脂などを挙げることができる。
ポリオレフィン系樹脂発泡シートを構成するポリオレフィン系樹脂組成物には、ポリオレフィン系樹脂を1種単独で含有させる必要はなく、2種以上を含有させてもよい。
ポリオレフィン系樹脂組成物に含有させるポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂が好ましい。
前記低密度ポリエチレン樹脂としては、例えば、中低圧法によって重合される直鎖低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)や、高圧法によって分子構造中に長鎖分岐が形成された低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)が挙げられる。
【0023】
前記低密度ポリエチレン樹脂としては、メルトマスフローレイト(以下「MFR」ともいう)が2〜6g/10minで、樹脂密度が925kg/m
3以上、935kg/m
3以下の低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)を用いることが好ましい。
上記のようなMFRの低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)が好ましいのは、MFRが2g/10min未満では、後述する高分子型帯電防止剤などとの押出機中での混練性に問題が生じ、押出発泡時に破泡などが生じて良好なポリオレフィン系樹脂発泡シートを得ることが難しくなるおそれを有するためである。
また、上記のようなMFRの低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)が好ましいのは、MFRが6g/10minを超えると溶融張力が低くなりすぎて低密度のポリオレフィン系樹脂発泡シートが得られにくくなり、ダイス先端にメヤニ状の堆積物が発生しやすくなるためである。
【0024】
上記のメルトマスフローレイトは、本明細書中においては、特段の断りがない限りにおいて、後述する高分子型帯電防止剤のMFRについても、JIS K 7210:1999「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)」及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」B法記載の方法(但し、試験温度190℃、荷重21.18N)により測定される値を意図している。
【0025】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂発泡シート10に含まれる前記ポリエチレン系樹脂として、上記のような密度を有していることが好ましいのは、樹脂密度が925kg/m
3未満では、押出後の発泡シートからの発泡剤の逸散が速く、樹脂自体の剛性が小さく、収縮を抑制できなくなるおそれがある一方で樹脂密度を935kg/m
3を超えた値とすると樹脂自体の剛性が大きすぎて、シート材が良好なクッション性を示さなくなるおそれを有するためである。
【0026】
ポリオレフィン系樹脂発泡シート10を構成するポリオレフィン系樹脂組成物には、必要に応じて高分子型帯電防止剤を含有させてもよい。
前記高分子型帯電防止剤としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエステルアミド、ポリエーテルエステルアミド、エチレン−メタクリル酸共重合体などのアイオノマー、ポリエチレングリコールメタクリレート系共重合体等の第四級アンモニウム塩、特開2001−278985号公報に記載のオレフィン系ブロックと親水性ブロックとの共重合体等が挙げられる。
【0027】
これらのなかでは、オレフィン系ブロックと親水性ブロックとの共重合体が好ましく、ポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体(ポリエーテル系ブロックとポリオレフィン系ブロックとのブロック共重合体)を採用することが好ましい。
なお、高分子型帯電防止剤としては、2以上の物質の混合品であっても良く、帯電防止性能の更なる向上を目的とし、前記ブロック共重合体にポリアミドを混合したもの、又は、ポリアミド系ブロックをさらに共重合させたものであってもよい。
【0028】
前記高分子型帯電防止剤としては、ポリエーテル系ブロックと、プロピレンを70モル%以上含むオレフィン系ブロックとの共重合体を主成分とするものがより好ましい。
なお、高分子型帯電防止剤は、前記ポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体が占める割合を70質量%以上とすることが好ましく、80質量%以上とすることがさらに好ましい。
【0029】
前記ポリオレフィン系樹脂とともに発泡シートを構成する前記高分子型帯電防止剤としては、結晶化温度が10℃〜90℃で、融点が100℃〜130℃で、MFRが20〜40g/10minの高分子型帯電防止剤が好ましい。
高分子型帯電防止剤の結晶化温度が90℃以下であることが好ましいのは、結晶化温度が90℃を超えると、押出機中で結晶化が進んで分散が悪くなったり、また、押出発泡時に気泡膜が延伸される際に高分子型帯電防止剤が変形せず、塊となって帯電防止剤の分散粒子間距離が広くなって添加量に見合う帯電防止機能を発現させ難くなったりするためである。
【0030】
また、高分子型帯電防止剤のMFRが前記のような範囲内であることが好ましいのは、高分子型帯電防止剤のMFRが20g/10min未満では、押出機中やダイス内でのポリオレフィン系樹脂への分散が不均一となって表面固有抵抗値は優れるものの静電気減衰率が悪くなる傾向を示すためである。
また、MFRが前記のような範囲内であることが好ましいのは、MFRが40g/10minを超える高分子型帯電防止剤を用いるとポリオレフィン系樹脂中での分散性が低下するとともにポリオレフィン系樹脂組成物の溶融張力を低下させてしまうために低密度の発泡シートが得られなかったり、連通化したような粗大気泡を発生させたりするおそれを有するためである。
【0031】
なお、前記結晶化温度は、本明細書中においては、特段の断りがない限りにおいて、JISK7122「プラスチックの転移温度測定方法」記載の方法に従って測定した値を意図している。
具体的には、示差走査熱量計(例えば、エス・アイ・アイナノテクノロジー社製「DSC6220」)を用い、測定容器に試料を約6.5mg充てんして、窒素ガス流量30ml/minのもと10℃/minの昇温冷却速度で30℃〜200℃の間で昇温・冷却し、冷却時の発熱ピーク温度を結晶化温度として測定することができる。
なお、発熱ピークが2つ以上現れる場合、全ピーク面積の5%以上を有する面積ピークの内、最も高温側のピークの頂点の温度を結晶化温度とする。
【0032】
前記ポリオレフィン系樹脂組成物に前記高分子型帯電防止剤を含有させる場合、前記高分子型帯電防止剤は、ポリオレフィン系樹脂組成物に含まれるポリオレフィン系樹脂の総量を100質量部とした際に、2質量部以上15質量部以下となる割合でポリオレフィン系樹脂組成物に含有されることが好ましい。
【0033】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂発泡シート10は、押出発泡法によって製造されるため、これまでに述べた成分に加えて発泡に必要な成分がさらに含有され得る。
この発泡のための成分としては、発泡剤や気泡調整剤を挙げることができる。
【0034】
前記発泡剤としては、イソブタン、ノルマルブタン、プロパン、ペンタン、ヘキサン、シクロブタン、シクロペンタンなどの炭化水素、二酸化炭素、窒素などの無機ガスを挙げることができる。
なかでも、前記発泡剤としては、イソブタンとノルマルブタンとの混合ブタンが好ましい。
【0035】
このようにしてイソブタン/ノルマルブタンの混合ブタンを用いると、イソブタンによって、押出工程における発泡剤の急激な逸散が抑制される。一方、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が優れるノルマルブタンが、連続気泡率の増大を抑制するので、収縮が少なく、かつ連続気泡率の少ないクッション性に優れたポリオレフィン系樹脂発泡シート10を得ることができる。
【0036】
なお、押出発泡に際して用いる発泡剤の量は、求める発泡度合いにもよるが、ポリオレフィン系樹脂と高分子型帯電防止剤との合計100質量部に対して、通常、5質量部以上、25質量部以下とされる。
通常、発泡剤の添加割合がこのような範囲とされるのは、発泡剤が5質量部未満であると十分な発泡を得にくく、25質量部を超えると気泡膜が破れて良好なポリオレフィン系樹脂発泡シートが得られなくなるおそれを有するためである。
【0037】
また、発泡剤によって形成される気泡を調整するための前記気泡調整剤としては、タルク、シリカなどの無機粉末や分解型発泡剤としても用いられる多価カルボン酸と炭酸ナトリウムあるいは重曹(重炭酸ナトリウム)との混合物、アゾジカルボン酸アミドなどが挙げられる。
これらは単独で用いても、複数のものを併用してもよい。この気泡調整剤の添加量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部あたり0.5質量部以下とすることが好ましい。
【0038】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂発泡シート10には、上記のような成分以外にも、必要に応じて、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤等の添加剤を含有させてもよい。
なお、ポリオレフィン系樹脂と高分子型帯電防止剤との他にポリオレフィン系樹脂発泡シート10に含有される成分の割合は、10質量%以下であることが好ましく5質量%以下であることがより好ましい。
即ち、ポリオレフィン系樹脂発泡シート10を構成しているポリオレフィン系樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂と高分子型帯電防止剤との合計割合は90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
なお、その他の成分の含有量が10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい点については、任意成分である高分子型帯電防止剤がポリオレフィン系樹脂発泡シート10に含まれていない場合においても同じである。
【0039】
上記のようなポリオレフィン系樹脂組成物によって構成されるポリオレフィン系樹脂発泡シート10の密度(見掛け密度)については、特に限定されるものではなく、ガラス板の合紙などとして一般に求められているクッション性を発揮させる程度であれば良く、通常、70kg/m
3未満とされ、好ましくは10kg/m
3以上、60kg/m
3以下とされる。
このような密度を選択し得るのは、密度が70kg/m
3以上では、ポリオレフィン系樹脂発泡シート10の柔軟性が不足して緩衝性が低いものとなるおそれを有するためであり、密度が小さすぎるとポリオレフィン系樹脂発泡シート10の強度が十分なものにならない結果、緩衝性が低いものとなるおそれを有するためである。
さらに、気泡膜の厚みが薄くなりすぎると、収縮が大きくなる結果、長尺なポリオレフィン系樹脂発泡シート10を作製した際に、これを一つのロールとして巻き取ることが困難になる。
したがって、ポリオレフィン系樹脂発泡シート10の密度は、10kg/m
3以上とすることが好ましく、15kg/m
3以上とすることが好ましい。
【0040】
本実施形態のシート材は、前記のようにポリオレフィン系樹脂発泡シート10の両面にアニオン系界面活性剤を含む塗膜11,12を有する。
ポリオレフィン系樹脂発泡シート10の前記第1塗膜11と前記第2塗膜12とは、含有するアニオン系界面活性剤の種類や含有量が共通していても共通していなくてもよい。
前記シート材をガラス板用の合紙として表裏を気にせず用いることができる点において第1塗膜11のアニオン系界面活性剤の種類や含有量は、第2塗膜12と共通していることが好ましい。
【0041】
第1塗膜11及び第2塗膜12は、アニオン系界面活性剤以外の成分を含んでいてもよいが、それぞれアニオン系界面活性剤を90質量%以上の割合で含有することが好ましい。
第1塗膜11や第2塗膜12のアニオン系界面活性剤の含有量は、95質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることが特に好ましい。
第1塗膜11及び第2塗膜12は、実質的にアニオン系界面活性剤のみで構成されていることがとりわけ好ましい。
【0042】
前記第1塗膜11及び前記第2塗膜12は、水洗後のガラス板2の表面を清浄にすべく前記アニオン系界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル構造を有し、且つ、ポリオキシエチレン構造の末端にアニオン性官能基を有するアニオン系界面活性剤(以下「ポリオキシエチレンアルキルエーテル型アニオン系界面活性剤」ともいう)を含んでいる。
しかも、前記第1塗膜11及び前記第2塗膜12は、上記のようなポリオキシエチレンアルキルエーテル型アニオン系界面活性剤としてアルキル鎖の炭素数が14以下のポリオキシエチレンアルキルエーテル型アニオン系界面活性剤を含む。
即ち、前記第1塗膜11及び前記第2塗膜12は、下記一般式(1)で表されるアニオン系界面活性剤を含む。
【0044】
ここで、一般式(1)において、「R-」は下記一般式(2)で表される1価の有機基であり、「n」は1〜150の整数で、「-X」はアニオン性官能基である。
【0046】
ここで、一般式(2)における「m」は1〜14の整数である。
【0047】
即ち、一般式(1)の「R-」は、直鎖状又は分枝状アルカンから1個の水素原子を除いた1価基である。
【0048】
前記アニオン性官能基(-X)としては、例えば、下記一般式(a1)〜(a4)で表されるものが挙げられる
【0050】
ここで一般式(a1)〜(a4)における「M
+」は、1価の陽イオンを表している。
【0051】
なお、一般式(2)における「m」は、6以上(6〜14)であることが好ましく、8以上(8〜14)であることがより好ましく、10以上(10〜14)であることが特に好ましい。
「m」は、12であるか13であるかのいずれかであることがとりわけ好ましい。
また、前記アニオン性官能基(-X)は、一般式(a2)で表される硫酸塩であることが好ましい。
さらに、上記の陽イオン(M
+)としては、リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオンなどの金属イオンやアンモニウムイオンが好適である。
なかでも前記陽イオン(M
+)は、ナトリウムイオンであることが好ましい。
【0052】
即ち、一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル型アニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムか、ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸ナトリウムかの何れかであることがとりわけ好ましい。
【0053】
前記第1塗膜11及び前記第2塗膜12には、上記一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルが1種単独で含まれていても2種以上含まれていてもよい。
前記第1塗膜11及び前記第2塗膜12には、上記一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル以外のアニオン系界面活性剤を含有させることも可能であるが、前記第1塗膜11及び前記第2塗膜12に含有されるアニオン系界面活性剤は、95質量%以上が上記一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルであることが好ましい。
前記第1塗膜11及び前記第2塗膜12に含有されるアニオン系界面活性剤に占める上記一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルの割合は98質量%以上であることが特に好ましい。
第1塗膜11及び第2塗膜12は、実質的に上記一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルのみで構成されていることがとりわけ好ましい。
【0054】
前記塗膜11,12に含有されるアニオン系界面活性剤は、シート材1によって表面保護される保護対象物である前記ガラス板2とシート材1との接触によって該ガラス板2の表面に移行し、該ガラス板2の表面に親水性の保護膜を形成する。
このことによりガラス板2は異物の付着が保護され、水洗後に清浄な表面状態となり得る。
しかも、ガラス板2は、水洗後に清浄な表面状態となり得る状態が長期間にわたって持続され得る。
したがって、ガラス板2は、例えば、本実施形態のシート材1を合紙として介挿させた状態で3ヶ月以上にも及ぶ長期保管がされた後でもその表面を容易に清浄化させることができる。
【0055】
尚、本実施形態において上記のような鎖長のアルキル基を有するアニオン系界面活性剤を塗膜に含有させているのは、同じような鎖長のアルキル基を有していても界面活性剤がノニオン系界面活性剤であったり、同じアニオン系界面活性剤でもアルキル基の鎖長が長かったりするとガラス板2の表面の保護膜に十分な親水性が発揮されず、ガラス板2の表面に水洗除去がアニオン系界面活性剤よりも容易ではない親油性の付着物を生じさ易くなるためである。
【0056】
また、本実施形態において上記のようなアニオン系界面活性剤をポリオレフィン系樹脂発泡シートの内部からブリードアウトさせるのではなく塗膜の状態でポリオレフィン系樹脂発泡シートの表面上に保持させているのは、アニオン系界面活性剤が十分にブリードアウトするまでにガラス板2の表面に親油性の付着物を生じさせてしまうことを抑制するとともにブリードアウトするアニオン系界面活性剤に同伴されてポリオレフィン系樹脂発泡シートの内部からオリゴマーなどの親油性の低分子量化合物が滲出することを抑制するためである。
したがって、本実施形態のポリオレフィン系樹脂発泡シート10を構成する前記ポリオレフィン系樹脂組成物には、必要であれば、アニオン系界面活性剤やノニオン系界面活性剤などの低分子型帯電防止剤を含有させてもよいが、上記のような理由から前記ポリオレフィン系樹脂組成物への低分子型帯電防止剤の含有はできるだけ制限されることが好ましい。
具体的には、前記ポリオレフィン系樹脂組成物における低分子型帯電防止剤の含有量は、2質量%以下とされることが好ましく、1質量%以下とされることがより好ましく、実質的に含有されないことが特に好ましい。
【0057】
前記第1塗膜11及び前記第2塗膜12のそれぞれは、ポリオレフィン系樹脂発泡シート10の単位面積(1m
2)当りにおける前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル型アニオン系界面活性剤の含有量が、3mg/m
2以上100mg/m
2以下であることが好ましい。
それぞれの塗膜のポリオキシエチレンアルキルエーテル型アニオン系界面活性剤の含有量は、3mg/m
2以上80mg/m
2以下であることがより好ましく、4mg/m
2以上50mg/m
2以下であることが特に好ましい。尚、塗膜の単位面積当たりにおける界面活性剤の含有量は、次のようにして求めることができる。
【0058】
(界面活性剤の定量)
シート材から一辺が約10cmの正方形の試料を切り出す。
次に、該試料を50mlの蒸留水に漬けて、23℃の室温下に40分間保管し、界面活性剤を溶出する。
得られた溶出液を、液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析計(LC/MS/MS)で測定し、標準液から得られた検量線をもとに、溶出液における界面活性剤の濃度(d(%))を算出する。
濃度(d(%))と溶出液に用いた蒸留水の量(50ml)から溶出液に含まれる界面活性剤の質量(m
1(mg)=50×d)を求める。
溶出後の試料を再び50mlの蒸留水に漬けて、同様の測定を行い、溶出液に含まれる界面活性剤の質量(m
2(mg))を求める。
このような測定を繰り返し、界面活性剤の溶出が検出限界以下となるまで実施し、試験片に付着していた界面活性剤の総量(M=m
1+m
2+・・・)を求める。
前記試料の表面積(S:上記においては、約200cm
2(約100cm
2×2(両面)))をできるだけ正確に測定し、先に得られた界面活性剤の総量(M)を前記表面積(S)で除して塗膜の単位面積当たりの界面活性剤量(M/S)を求めることができる。
尚、前記第1塗膜11と前記第2塗膜12とを個々に測定する必要がある場合は、試料を厚み方向中央部で切断して2枚のスライス片を作製するか、試料の片面に対する十分なふき取りを行った上で上記のような測定を行えばよい。
また、LC/MS/MSの試験条件は次の通りとすることができる。
【0059】
(LC/MS/MSの試験条件)
・使用装置:
液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析計(LC/MS/MS)(型番「UHLC ACCELA」Thermo SCIENTIFIC社製)
・カラム:
Thermo製 Hypersil GOLD C18 1.9μm(2.1mmI.D.*100mmL)
・測定条件:
カラム温度(40℃),移動相(A:10mM酢酸アンモニウム/B:アセトニトリル=10/90)
・検量線作成方法:
検出する界面活性剤の標準液を濃度0.01ppm〜10ppmの間で数点作製し、同条件でLC/MS/MSにて測定し、検出されるピーク面積と標準液の濃度における検量線を作成する。
【0060】
上記のような塗膜11,12を有するシート材1は、ポリオレフィン系樹脂発泡シートに前記アニオン系界面活性剤が含まれている塗工液を塗布することによって製造される。
即ち、本実施形態のシート材1の製造方法は、合紙として用いられるシート材の製造方法であって、ポリオレフィン系樹脂発泡シート10に前記一般式(1)で表されるアニオン系界面活性剤が含まれている塗工液を塗布する工程を実施し、前記ポリオレフィン系樹脂発泡シートの表面に前記塗工液で形成された塗膜11,12を有する前記シート材1を製造するというものである。
そして、前記のように製造するシート材1の塗膜11,12に含まれる前記アニオン系界面活性剤の単位面積当たりの含有量は、所定の範囲内であることが好ましい。
より具体的には、前記塗工液を塗布する前記工程は、前記塗膜の単位面積当たりにおける前記アニオン系界面活性剤の含有量が3mg/m
2以上100mg/m
2以下となるように実施することが好ましい。
【0061】
上記のような塗膜11,12の形成は、ポリオレフィン系樹脂発泡シート10の製造に連続して行うことができる。
前記の通り本実施形態に係るポリオレフィン系樹脂発泡シート10は、押出発泡法で製造される。
具体的には、ポリオレフィン系樹脂発泡シート10は、前記ポリオレフィン系樹脂組成物を押出機の先端に装着したサーキュラーダイなどから連続的にシート状に押出発泡して押出発泡シートを作製する押出工程、押出されたシートを巻取り機により巻き取ってシートロールを作製する巻き取り工程を行って製造することができる。
【0062】
本実施形態における前記押出工程では、サーキュラーダイから連続的に押出される筒状の発泡体を押出直後に内外から冷却エアを吹き付けて空冷する1次冷却、及び、空冷後の発泡体を冷却用マンドレルを用いてさらに冷却する2次冷却が行われる。
前記押出工程では、冷却用マンドレルの下流側に設けたカッターで筒状の発泡体が押出方向に切断しつつ引き取られる。
本実施形態における前記押出工程では、サーキュラーダイの直径よりも径大な外径を有する冷却用マンドレルを使って2次冷却が行われる。
したがって、該2次冷却は、冷却用マンドレルの外周面を1次冷却された筒状の発泡体の内周面に摺接させることによって実施される。
該2次冷却では、1次冷却された筒状の発泡体を冷却しつつ同時に冷却用マンドレルによる拡径も行われる。
前記のように押出方向にカッターで切断された発泡体は、展開されて帯状とされた後で前記原反ロールを構成すべく巻き取られる。
【0063】
前記塗膜11,12は、このようにして作製されるポリオレフィン系樹脂発泡シート10に塗工液を塗布することによって形成される。
前記塗膜11,12は、前記アニオン系界面活性剤を含む塗工液を用意する塗工液準備工程と、前記ポリオレフィン系樹脂発泡シート10の両面に前記塗工液を塗布する塗布工程と、を実施することで形成させ得る。
該塗工液の塗布は、押出工程と並行して実施されても、押出工程が完了した後に改めて実施されてもよい。
即ち、巻取り工程で作製されるシートロールは、塗膜の形成されたシート材がロール状に巻回されたものでも、ポリオレフィン系樹脂発泡シートだけがロール状に巻回されたものでもよい。
【0064】
前記塗工液準備工程では、アニオン系界面活性剤のみを含む塗工液を調製しても、アニオン系界面活性剤とともに塗工液の粘度を調整するための溶媒を含有する塗工液を調製してもよい。
前記塗布工程は、ロールコート、キスコート、スプレーコート、刷毛塗り、などといった一般的な方法で実施することができる。
【0065】
塗工液の塗布を押出工程と並行して実施する場合、塗工液の塗布は、冷却用マンドレルよりも上流側で行っても下流側で行ってもよい。
塗工液の塗布は、必要であれば、押出し直後の円筒状の発泡体の内外に塗工液をスプレーコートするようにして行ってもよく、冷却用マンドレルでの2次冷却前に実施される1次冷却を兼ねるように実施してもよい。
このような場合、ポリオレフィン系樹脂発泡シート(円筒状の発泡体)と冷却用マンドレルとの間に生じる摩擦力の軽減を図り得る。
冷却用マンドレルで2次冷却された後のポリオレフィン系樹脂発泡シートであっても、通常、その表面温度は、常温(23℃)よりも温度が高いため、塗工液の塗布を押出工程と並行して実施する場合、塗工液の塗布をどの場所で実施しても塗工液は暖かな状態のポリオレフィン系樹脂発泡シートに塗工されることになる。
そうすると、塗膜では、アニオン系界面活性剤が分子運動し易い状態になり、親水性の官能基が表面濃化し易くなり、ガラス板に水洗除去が容易な保護膜を形成させる上で有利となる。
【0066】
前記塗布工程でポリオレフィン系樹脂発泡シートの両面に塗膜を形成させるためには、必ずしもポリオレフィン系樹脂発泡シートの両面に塗工液を塗布しなくてもよい。
例えば、ポリオレフィン系樹脂発泡シートの一面側のみに塗膜を形成させ、シートロールを形成させた際に塗膜が形成されていない他面側に塗工液の一部を転写させる方法を採用してもよい。
【0067】
前記塗布工程を前記押出工程と並行して実施せず押出工程を終えた後に実施する場合、塗工液の塗布は、シートロールを巻き換える際などに実施することができる。
【0068】
尚、本実施形態においては押出発泡によって製造したポリオレフィン系樹脂発泡シートをガラス板の合紙として用いる場合を例示しているが、本発明のシート材は、その用途をガラス板の合紙に限定するものではなく、ガラス板以外の部材でも水洗が予定されているものであれば、その包装等に利用することでガラス板の合紙として用いる場合と同様の効果を期待することができる。
即ち、本発明は上記例示に何等限定されるものではない。
【実施例】
【0069】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
日本ポリエチレン株式会社製の低密度ポリエチレン樹脂(商品名:「LF580」、密度:931kg/m
3、MFR=4.0g/10min)100質量部に対して、三洋化成株式会社製の高分子型帯電防止剤(ポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体、商品名:「ペレクトロンLMP」、結晶化温度:56℃、融点:115℃、MFR=30g/10min)4質量部、及び、三協化成社製の気泡調整剤マスターバッチ(アゾジカルボンアミド含有マスターバッチ:商品名「セルマイクMB1023」)0.15質量部の比率で配合された配合物をタンデム押出機の第一押出機(シリンダー径:φ90mm)に供給し、該押出機内での最高到達温度が210℃となるように溶融混練した。
また、該第一押出機の途中から発泡剤として混合ブタン(イソブタン/ノルマルブタン=50/50(モル比))を前記低密度ポリエチレン樹脂100質量部に対する割合が18質量部となるように圧入した。
【0070】
この第一押出機での溶融混練後は、該第一押出機に連結された第二押出機(シリンダー径:φ150mm)で発泡に適する温度域(111℃)まで溶融混練物を冷却し、出口直径が222mm(スリット0.04mm)のサーキュラーダイより大気中に押出発泡し、円筒状態のポリオレフィン系樹脂発泡シート(筒状発泡体)を作製した。
なお、押出時の樹脂温度は116℃であった。
押出発泡された筒状発泡体は、エアーを吹き付けて冷却した後、直径が770mm、長さ650mmの冷却用マンドレル上を沿わせて冷却し、該冷却用マンドレルの後ろ側に設けたカッターで押出し方向に沿って筒状発泡体を切断して長尺帯状のポリオレフィン系樹脂発泡シートを得た。
この長尺帯状のポリオレフィン系樹脂発泡シートに塗膜を形成させるための塗工液として、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、10%水溶液を調製した。
該ポリオレフィン系樹脂発泡シートの片面(前記筒状発泡体の状態において内周面となる側)に噴霧機によって前記塗工液をスプレーコートし、塗膜を作製した。
該塗膜を形成させた後のシート材は、巻取りスピード50m/minでロール状に巻取った。
【0071】
得られた実施例1のシート材の物性は、表のとおり。
実施例2以下については、塗布する界面活性剤種及び塗布量を表の通りに変更した。
表に示した界面活性剤の詳細は下記の通り。
なお、比較例3では、塗膜は形成させない代わりにポリオレフィン系樹脂発泡シートを押出発泡法で製造するためのポリオレフィン系樹脂組成物中に界面活性剤を含有させた。
1)アニオン系界面活性剤1(A-SSA1):
ポリオキシエチレンラウリル(C12)エーテル硫酸ナトリウム
2)アニオン系界面活性剤2(A-SSA2):
ポリオキシエチレントリデシル(C13)エーテル硫酸ナトリウム
3)アニオン系界面活性剤3(A-SSA3):
ポリオキシエチレンアルキル(C12−C14)エーテル硫酸ナトリウム
4)アニオン系界面活性剤4(A-SSA4):
ポリオキシエチレンアルキル(C16−C18)エーテル硫酸ナトリウム
5)ノニオン系界面活性剤1(N-SSA1):
ポリエチレングリコール(分子量1500)
6)ノニオン系界面活性剤2(N-SSA2):
ポリオキシアルキレントリデシルエーテル
【0072】
【表1】
【0073】
(界面活性剤の定量)
各実施例、比較例のシート材から一辺が約10cmの正方形の試料を切り出し、試料の表面積(S≒200cm
2)を正確に求めた。
次に、該試料を50mlの蒸留水に漬けて、23℃の室温下に40分間保管し、界面活性剤を溶出させた。
得られた溶出液を、液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析計(LC/MS/MS)で測定し、標準液から得られた検量線をもとに、溶出液における界面活性剤の濃度(d(%))を算出した。
濃度(d(%))と溶出液に用いた蒸留水の量(50ml)から溶出液に含まれる界面活性剤の質量(m
1(mg)=50×d)を求めた。
溶出後の試料を再び50mlの蒸留水に漬けて、同様の測定を行い、溶出液に含まれる界面活性剤の質量(m
2(mg))を求めた。
第1回目の溶出質量(m
1)を表面積(S)で除して「第1回目溶出量」を算出するとともに第2回目の溶出質量(m
2)を表面積(S)で除して「第2回目溶出量」を算出した。
なお、LC/MS/MSの試験条件は次の通りとした。
【0074】
(LC/MS/MSの試験条件)
使用装置:
液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析計(LC/MS/MS)(型番「UHLC ACCELA」Thermo SCIENTIFIC社製)
カラム:
Thermo製 Hypersil GOLD C18 1.9μm(2.1mmI.D.*100mmL)
測定条件:
カラム温度(40℃),移動相(A:10mM酢酸アンモニウム/B:アセトニトリル=10/90)
検量線作成方法:
検出する界面活性剤の標準液を濃度0.01ppm〜10ppmの間で数点作製し、同条件でLC/MS/MSにて測定し、検出されるピーク面積と標準液の濃度における検量線を作成する。
【0075】
(接触角の測定)
実施例、比較例で得られたシート材がディスプレイ用ガラスを梱包した状態で長期間保管した際のガラス表面に清浄性を発揮させる効果を有しているかの評価を以下のようにサイクル加熱後の接触角にて判定した。
まず、合紙発泡シートを5cm×10cmの大きさに切り、これを洗浄・乾燥したガラス板(日本電気硝子株式会社製 無アルカリガラス OA−10G)の上に乗せ、前記シート材の全体に荷重が加わるように1kgの重りを乗せて、下記サイクルにて恒温恒湿槽(ISUZU製作所製、商品名「HPAV−120−40」)での加熱を行った。
【0076】
(サイクル条件)
シート材の加熱は、下記(1)〜(4)を1サイクルとして実施した。
(1)20℃・60%RHから60℃・90%RHまで1時間で昇温
(2)60℃・90%RHで1時間保持
(3)60℃・90%RHから20℃・60%RHまで1時間で降温
(4)20℃・60%RHで1時間保持
【0077】
上記のサイクル加熱試験後のガラス板の表面からシート材を取り除き、家庭用アルカリ洗剤(花王株式会社製、商品名「アタック」)を0.4%含有する洗浄水で前記ガラス板を洗浄し、蒸留水にてすすぎ洗いを実施した後、温度30℃、相対湿度0%にて24時間乾燥した。
シート材と接していたガラス板表面における精製水の接触角を協和界面化学株式会社製、固液界面解析装置(商品名「DROP MASTER300」)によって測定した。
なお、測定は、サイクル加熱を60サイクル実施した後、120サイクル実施した後、及び、180サイクル実施した後の3通りで行った。
また、接触角は、それぞれ20点の測定を行い、その平均値によって算出した。
結果を表2に併せて示す。
【0078】
尚、実施例1と同じ界面活性剤を用い、ポリオレフィン系樹脂発泡シートへの界面活性剤の塗布量を大きく減らして上記と同様の評価を実施したところ下記の通りとなった。
【0079】
【表2】
【0080】
上記の結果から、塗膜の単位面積当たりにおけるアニオン系界面活性剤の含有量が、1mg/m
2以下では、十分顕著な効果が認められず、効果の顕著性からは、3mg/m
2以上程度の含有量を確保した方が好ましいことがわかる。
【0081】
上記のようなことからも、本発明のシート材は、ガラス板などを保護対象物としたときに、水洗後の表面を清浄にさせるのに有効であることがわかる。