【解決手段】テーパーボルト51に拡開スリーブ52が外装される拡開スリーブ打込式のあと施工アンカー50の打込み用のアンカー打込棒10であり、後端に打撃受面15が設けられると共に先端が拡開スリーブ52の後端に打ち込まれる有底筒状の筒体11を有し、あと施工アンカーへの適正打込み済み打撃痕による刻印形成用の刻印部17が筒体11に設けられ、適正打込み済み打撃痕による刻印53があと施工アンカーの拡開スリーブの種別を示すように刻印部17が形成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーは、テーパーボルトに応じた拡開スリーブの径や拡開スリーブの長さ、特に拡開スリーブの長さに相当する拡開スリーブの埋込み長が画一的に決められているわけではない。そのため、
図19に示すように、例えば同一の形状と大きさのテーパーボルト101に対して外径Dが同一であるが長さL1、L2が異なる拡開スリーブ102a、102bが外装され、拡開スリーブ102a、102bがコンクリート構造物103に打ち込まれて拡開され、異なる長さL1、L2に対応する埋込み長でコンクリート構造物103に打設される場合も生ずる。斯様な状況に対処して適正な施工状態の管理を行うためには、拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーの打設時と打設後の双方で適正なアンカーが打設されたこと、施工状態が適正であることを確認できるようにすることが求められる。
【0006】
特許文献1の打込棒を用いる施工管理では、拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーを打設した施行者はどのような拡開スリーブを打ち込んだか認識しているため、打設時、施工直後に適正なアンカーを打設したこと、適正な施工を行ったことを確認することは可能である。しかし、アンカー打設後に施工済みアンカーのボルト突出長を管理者が確認しても、管理者はどのような拡開スリーブを打ち込んだかを後から認識できないため、アンカー打設後に適正なアンカーが打設されたかを確認することは困難であり、アンカー打設時と打設後の双方で適正なアンカーが打設されたことを確認することはできない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、アンカーの打設時と打設後の双方で適正なアンカーが打設されていること、施工状態が適正であることを確認することを可能にするアンカー打込棒及びあと施工アンカー設置構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアンカー打込棒は、テーパーボルトに拡開スリーブが外装される拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーの打込み用のアンカー打込棒であって、後端に打撃受面が設けられると共に先端が拡開スリーブ後端に打ち込まれる有底筒状の筒体を有し、あと施工アンカーへの適正打込み済み打撃痕による刻印形成用の刻印部が前記筒体に設けられ、前記適正打込み済み打撃痕による刻印が前記あと施工アンカーの拡開スリーブの種別を示すように前記刻印部が形成されていることを特徴とする。
これによれば、刻印部による適正打込み済み打撃痕による刻印があと施工アンカーの拡開スリーブの種別を示し、この刻印により施工者、管理者はアンカーの打設時と打設後の双方で適正なアンカーが打設されていることを確認することができる。また、刻印部による適正打込み済み打撃痕による刻印により、アンカーの打設時と打設後の双方において施工者、管理者はアンカーの施工状態が適正であることを確認することができる。従って、アンカーの打設時と打設完了後の期間の双方において、適切な施工管理を行うことができる。また、アンカー打込棒で刻印を形成することにより、個々のアンカーに予め刻印を施して出荷する場合よりも全体の工事価格を下げることが可能となり、拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーの設置を伴う工事の施工コストを低減することができる。
【0009】
本発明のアンカー打込棒は、前記刻印部の支持部が前記筒体内で着脱可能に設けられていることを特徴とする。
これによれば、刻印部の支持部の交換によって刻印部を交換することが可能となり、刻印部やその支持部が打撃によって摩耗した場合に容易に交換することができる。また、刻印部の支持部以外の筒体の構成部材が打撃によって摩耗した場合にも容易に交換することができる。また、拡開スリーブの種別に合わせて対応する刻印部に交換して適応させることができる。
【0010】
本発明のアンカー打込棒は、前記刻印部が前記あと施工アンカーの拡開スリーブの後端に打ち込まれる前記筒体の先端に設けられていることを特徴とする。
これによれば、拡開して打設された拡開スリーブの後端の刻印により、打設されたあと施工アンカーの拡開スリーブの種別を容易に認識することができる。
【0011】
本発明のアンカー打込棒は、前記刻印部が前記あと施工アンカーのテーパーボルトの後端に打ち込まれる前記筒体の底部に設けられていることを特徴とする。
これによれば、拡開スリーブを拡開して打設されたあと施工アンカーのテーパーボルトの後端の刻印により、打設されたあと施工アンカーの拡開スリーブの種別を容易に認識することができる。
【0012】
本発明のアンカー打込棒は、前記刻印部を先端に有する刻印部材が前記底部に螺合して設けられ、前記刻印部材の螺合量の調整により前記刻印部の前記筒体の長手方向における位置が調整可能であることを特徴とする。
これによれば、刻印部材の底部への螺合量を調整して、テーパーボルトの後端により適切な適正打込み済み打撃痕の刻印を施すことができる位置に刻印部の位置を調整して位置決めすることができる。従って、例えばコンクリート構造物のコンクリート強度の違いによって、拡開スリーブの貫入量が微妙に異ならせることが必要になった場合等にも、刻印部の位置を適切な位置に調整し、確実に適正打込み済み打撃痕による刻印を形成することができる。
【0013】
本発明のあと施工アンカー設置構造は、テーパーボルトに拡開スリーブが外装される拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーが前記拡開スリーブを拡開してコンクリート構造物に打設され、打設された前記あと施工アンカーに本発明のアンカー打込棒の前記適正打込み済み打撃痕による前記刻印が形成されていることを特徴とする。
これによれば、適正打込み済み打撃痕による刻印によって施工者、管理者はあと施工アンカーの拡開スリーブの種別を認識することができ、施工者、管理者はアンカーの打設時と打設後の双方で適正なアンカーが打設されていることを確認することができる。また、適正打込み済み打撃痕による刻印により、アンカーの打設時と打設後の双方において施工者、管理者はアンカーの施工状態が適正であることを確認することができる。従って、アンカーの打設時と打設完了後の期間の双方において、適切な施工管理を行うことができる。また、アンカー打込棒で刻印を形成することにより、個々のアンカーに予め刻印を施して出荷する場合よりも全体の工事価格を下げることが可能となり、拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーの設置を伴う工事の施工コストを低減することができる。
【0014】
本発明のあと施工アンカー設置構造は、前記刻印が前記テーパーボルトの後端に形成されて露出していることを特徴とする。
これによれば、刻印が露出していることにより、施工者、管理者は特別な作業を要せずにそのままの状態で刻印を視認することができる。従って、施工者、管理者がアンカーと施工状態の適正性を非常に容易に確認することが可能となり、施工管理作業を効率化することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アンカーの打設時と打設後の双方で適正なアンカーが打設されていること、施工状態が適正であることを確認することが可能となる。従って、アンカーの打設時と打設完了後の期間の双方において、適切な施工管理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)は本発明による第1実施形態のアンカー打込棒の斜視図、(b)はその正面図、(c)はその側面図、(d)はその縦断面図。
【
図2】(a)は第1実施形態のアンカー打込棒で打設される拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーの側面図、(b)はその縦断面図、(c)は同図(b)のA−A断面図。
【
図3】(a)〜(d)は第1実施形態のアンカー打込棒で拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーを打設する施工手順を示す説明図。
【
図4】第1実施形態のあと施工アンカー設置構造を示す斜視説明図。
【
図5】既設のあと施工アンカー設置構造に第1実施形態のあと施工アンカー設置構造を併設した状態を示す斜視説明図。
【
図6】(a)は第1実施形態の変形例のアンカー打込棒の斜視図、(b)はその正面図、(c)はその側面図、(d)はその縦断面図。
【
図7】(a)は本発明による第2実施形態のアンカー打込棒の斜視図、(b)はその正面図、(c)はその側面図、(d)はその縦断面図、(e)は同図(c)のB−B断面図。
【
図8】(a)は第2実施形態のアンカー打込棒の分解側面図、(d)はその分解縦断面図。
【
図9】(a)〜(d)は第2実施形態のアンカー打込棒で拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーを打設する施工手順を示す説明図。
【
図10】(a)、(b)は第2実施形態のあと施工アンカー設置構造を示す斜視説明図。
【
図11】既設のあと施工アンカー設置構造に第2実施形態のあと施工アンカー設置構造を併設した状態を示す斜視説明図。
【
図12】(a)は第2実施形態の変形例のアンカー打込棒の側面図、(b)はその縦断面図。
【
図13】(a)は第2実施形態の変形例のアンカー打込棒で打設される拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーの側面図、(b)はその縦断面図。
【
図14】(a)〜(d)は第2実施形態の変形例のアンカー打込棒で拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーを打設する施工手順を示す説明図。
【
図15】(a)、(b)は第2実施形態の変形例のあと施工アンカー設置構造を示す斜視説明図。
【
図16】(a)は本発明による第3実施形態のアンカー打込棒の正面図、(c)はその側面図、(d)はその縦断面図。
【
図17】(a)は第3実施形態のアンカー打込棒の分解側面図、(d)はその分解縦断面図。
【
図18】第3実施形態のアンカー打込棒で拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーを打設する施工手順を示す説明図。
【
図19】従来の拡開スリーブの長さが異なる拡開スリーブ打込み式のあと施工アンカーを打設した状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1実施形態のアンカー打込棒及びあと施工アンカー設置構造〕
本発明による第1実施形態のアンカー打込棒10は、拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーの打込み用のアンカー打込棒であり、
図1に示すように、有底筒状の筒体11から構成される。図示例の筒体11は有底円筒状であり、筒体11の長さの約1/3程度の厚さがある肉厚の底部12と、底部12の先端側に設けられる周壁部13と、周壁部13の内側に設けられる中空部14を有する。中空部14はあと施工アンカーの拡開スリーブを打ち込んだ際に、テーパーボルトのコンクリート表面63から適正な長さで突出する突出部分を収容可能な長さで形成されている。筒体11の後端である底部12の後端は打撃受面15になっており、又、筒体11の先端である周壁部13の先端は拡開スリーブ後端に打ち込まれる打撃面16になっている。
【0018】
筒体11の先端である打撃面16には、あと施工アンカーへの適正打込み済み打撃痕による刻印形成用の刻印部17が設けられており、刻印部17は適正打込み済み打撃痕による刻印があと施工アンカーの拡開スリーブの種別を示すように形成されている。本実施形態の刻印部17は、正面視略円形で先端側に突出する突起状に形成され、本例では略半球形の突起状に形成されており、突起状の刻印部17が筒体11の周方向に間隔を開けて複数設けられている。そして、突起状の刻印部17の個数は、あと施工アンカーの拡開スリーブの種別に対応するようになっており、突起状の刻印部17の打撃によって形成される拡開スリーブ後端の適正打込み済み打撃痕による刻印は、あと施工アンカーの拡開スリーブの種別を示すようになっている。
【0019】
第1実施形態のアンカー打込棒10で打ち込まれる拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーは、例えば
図2に示すような金属製のあと施工アンカー50であり、あと施工アンカー50はテーパーボルト51に拡開スリーブ52が外装されている構造である。テーパーボルト51には、その後端面511から順に、ねじ溝が形成されているねじ軸部512、円柱状の軸部513、先端に向かってテーパー状に拡がるように形成されている略截頭円錐状の拡径部514が設けられている。
【0020】
拡開スリーブ52は、非拡開状態において略円筒状に形成され、非拡開状態では主としてテーパーボルト51のねじ軸部512と軸部513の外側に外装して取り付けられている。拡開スリーブ52は、その後端面521から順に、スリーブ本体522と、スリーブ本体522の先端側に設けられる拡開部523を備える。拡開部523は、拡開スリーブ52の先端からスリーブ本体522まで切り込まれたスリット524で複数に分割されて片状に形成されている。図示例の拡開スリーブ52では、4本のスリット524が形成され、4個の片状の拡開部523が設けられている。更に、拡開部523の外面には、拡開変形を容易化するために周方向に延びる弧状溝525が、拡開スリーブ52の長手方向に並んで複数形成されている。
【0021】
あと施工アンカー50は、非拡開状態の拡開スリーブ52がテーパーボルト51の拡径部514に向かって打ち込まれると、拡開スリーブ52の拡開部523が拡径部514に倣って拡開し、拡開状態になる構成である。尚、拡開スリーブ52の種別は、アンカー打込棒10の突起状の刻印部17の個数で示される種別になっており、
図1及び
図2の例では、3個の突起状の刻印部17やその適正打込み済み打撃痕による刻印で示される、拡開スリーブ52の外径Dに対して拡開スリーブ52の埋込長に相当する拡開スリーブ52の長さLが3倍か3倍以上の規格品の拡開スリーブ52になっている。
【0022】
第1実施形態のアンカー打込棒10を用いてあと施工アンカー50を施工する際には、
図3(a)に示すように、コンクリート構造物60に所定径で所定の穿孔深さの穿孔61を形成し、穿孔61内の清掃を施す。本例の穿孔61の深さはあと施工アンカー50の拡開スリーブ52の長さと略同一になっている。その後、
図3(b)に示すように、あと施工アンカー50を穿孔61内に挿入し、挿入したあと施工アンカー50のテーパーボルト51の後部に位置するねじ軸部512に外挿するようにしてアンカー打込棒10を被せ、アンカー打込棒10の先端の打撃面16を拡開スリーブ52の後端面521に近接或いは当接させて配置する。
【0023】
そして、
図3(c)に示すように、例えばアンカー打込棒10の打撃受面15を作業者の人力によってハンマー41で打撃することにより、アンカー打込棒10の打撃面16を拡開スリーブ52の後端面521に打ち込んでテーパーボルト51に対して拡開スリーブ52を孔奥方向に打ち込む。テーパーボルト51の拡径部514に向かって打ち込まれた拡開スリーブ52の拡開部523は拡径部514に倣って拡開し、拡開した拡開部523はコンクリート構造物60の孔壁62に押し付けられ、あと施工アンカー50がコンクリート構造物60に機械的定着で固定される。
【0024】
この際、あと施工アンカー50は、拡開スリーブ52が全長に亘って穿孔61に内挿されるまで打ち込まれて打設され、拡開スリーブ52はその長さLに相当する埋込長で打設される。この打込みの過程では、打込み始めは少ない抵抗でアンカー打込棒10により拡開スリーブ52が打ち込まれていくが、拡開部523が拡開し始めると打込抵抗が増し、適正な拡開状態で適正な埋込長の状態になると拡開スリーブ52はそれ以上進まなくなり、アンカー打込棒10の突起状の刻印部17が拡開スリーブ52の後端面521にめり込み、後端面521に適正打込み済み打撃痕による刻印53が形成される(
図3(d)、
図4、
図5参照)。この刻印53は、打設されたあと施工アンカー50の拡開スリーブ52の種別を示すこととなる。刻印53の深さは0.3〜0.5mmとなるようにすると好適である。
【0025】
上述の施工工程により、あと施工アンカー50が拡開スリーブ52を拡開してコンクリート構造物60に打設され、打設された拡開スリーブ52に、換言すれば打設されたあと施工アンカー50に、アンカー打込棒10の適正打込み済み打撃痕による刻印53が形成された第1実施形態のあと施工アンカー設置構造が構築される(
図3(d)、
図4参照)。第1実施形態のあと施工アンカー設置構造は、既存の拡開スリーブ打込式のあと施工アンカー105を打設して形成された既設のあと施工アンカー設置構造に併設することも可能であり、既設のあと施工アンカー設置構造に後から第1実施形態のあと施工アンカー設置構造を追加して構築することができる(
図5参照)。
【0026】
その後、例えば
図3(d)、
図4に示すように、コンクリート構造物60に適正に打設されたあと施工アンカー50のコンクリート表面63から突出するねじ軸部512に取付物71を外挿し、更に、その外側にワッシャー72、緩み止め機能を有するスプリングワッシャー73を順に外挿し、ナット74を螺合することにより、取付物71をコンクリート構造物60に取り付ける。
【0027】
尚、上記第1実施形態のアンカー打込棒10における刻印部17は略半球形の突起状に形成し、折れにくい刻印部17としたが、本発明における突起状の刻印部の形状はこれに限定されない。例えば
図6に示すように、潰れにくい略直方体形の突起状の刻印部17aとし、刻印部17aを筒体11の周方向に間隔を開けて複数設け、突起状の刻印部17aの個数をあと施工アンカーの拡開スリーブの種別に対応させてもよい。
【0028】
第1実施形態によれば、刻印部17、17aによる適正打込み済み打撃痕による刻印53があと施工アンカー50の拡開スリーブ52の種別を示し、この刻印53により施工者、管理者はアンカーの打設時と打設後の双方で適正なアンカーが打設されていることを確認することができる。また、適正なあと施工アンカー50の打込みを行うことで刻印部17、17aにより初めて刻印53が形成され、この刻印53により、アンカーの打設時と打設後の双方において施工者、管理者はアンカーの施工状態が適正であることを確認することができる。従って、アンカーの打設時と打設完了後の期間の双方において、適切な施工管理を行うことができる。また、アンカー打込棒10で刻印53を形成することにより、個々のアンカーに予め刻印を施して出荷する場合よりも全体の工事価格を下げることが可能となり、拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーの設置を伴う工事の施工コストを低減することができる。また、拡開して打設された拡開スリーブ52の後端の刻印により、打設されたあと施工アンカー50の拡開スリーブ52の種別を容易に認識することができる。
【0029】
〔第2実施形態のアンカー打込棒及びあと施工アンカー設置構造〕
本発明による第2実施形態のアンカー打込棒20も、拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーの打込み用のアンカー打込棒であり、
図7に示すように、有底筒状の筒体21から構成される。図示例の筒体21は略有底円筒状であり、略円筒状で内側が貫通している筒部22と、筒部22の後側に設けられる底部26を有する(
図7、
図8参照)。筒体21の先端に相当する筒部22の先端は拡開スリーブ後端に打ち込まれる打撃面23になっており、又、筒部22の外周面の所定箇所にはスパナ掛用の切欠き221が形成されている。筒部22の内側には中空部24が設けられ、筒部22の後部内側には雌ねじ部25が形成されている。中空部24はあと施工アンカーの拡開スリーブを打ち込んだ際に、テーパーボルトのコンクリート表面63から適正な長さで突出する突出部分を収容可能な長さで且つ後述する刻印部291で収容したテーパーボルトの後端に刻印可能な長さで形成されている。
【0030】
底部26は、略円柱状の基部27を有し、基部27の外周面の所定箇所にはスパナ掛用の切欠き271が形成されていると共に、筒体21の後端に配置される基部27の後端は打撃受面272になっている。基部27の先端側には雄ねじ部28が設けられており、雄ねじ部28から先端側に突出するようにして、基部27、雄ねじ部28よりも小径の略円柱状の小径部29が設けられている。小径部29の先端には、あと施工アンカーへの適正打込み済み打撃痕による刻印形成用の刻印部291が先端側に突出して形成されている。刻印部291は適正打込み済み打撃痕による刻印があと施工アンカーの拡開スリーブの種別を示すように数字、文字又は所定個数の突起等で形成され、図示例では数字が浮彫のような形で形成されている。
【0031】
刻印部291を支持する支持部に相当する底部26は、筒体21内で着脱可能に設けられており、例えばスパナ42をスパナ掛用の切欠き221、271に係合して回転することにより、底部26の雄ねじ部28を筒部22の雌ねじ部25に螺合して底部26が筒部22に着脱可能に設けられ、底部26が筒部22に取り付けられる。底部26を筒部22に取り付けて筒体21を構成した状態では、少なくとも刻印部291が中空部24内に突出して配置され、刻印部291はあと施工アンカーのテーパーボルトの後端に打ち込まれる筒体21の底部26に設けられ、刻印部291の打撃によって形成されるテーパーボルト後端の適正打込み済み打撃痕による刻印は、あと施工アンカーの拡開スリーブの種別を示すようになっている。
【0032】
第2実施形態のアンカー打込棒20を用いて第1実施形態と同様のあと施工アンカー50を施工する際には、
図9(a)に示すように、コンクリート構造物60に所定径で所定の穿孔深さの穿孔61を形成し、穿孔61内の清掃を施す。本例の穿孔61の深さもあと施工アンカー50の拡開スリーブ52の長さと略同一になっている。その後、
図9(b)に示すように、あと施工アンカー50を穿孔61内に挿入し、挿入したあと施工アンカー50のテーパーボルト51の後部に位置するねじ軸部512に外挿するようにしてアンカー打込棒20を被せ、アンカー打込棒20の先端の打撃面23を拡開スリーブ52の後端面521に近接或いは当接させて配置する。
【0033】
そして、
図9(c)に示すように、例えばアンカー打込棒20の打撃受面272を作業者の人力によってハンマー41で打撃することにより、アンカー打込棒20の打撃面23を拡開スリーブ52の後端面521に打ち込んでテーパーボルト51に対して拡開スリーブ52を孔奥方向に打ち込む。テーパーボルト51の拡径部514に向かって打ち込まれた拡開スリーブ52の拡開部523は拡径部514に倣って拡開し、拡開した拡開部523はコンクリート構造物60の孔壁62に押し付けられ、あと施工アンカー50がコンクリート構造物60に機械的定着で固定される。
【0034】
この際、あと施工アンカー50は、拡開スリーブ52が全長に亘って穿孔61に内挿されるまで打ち込まれて打設され、拡開スリーブ52はその長さLに相当する埋込長で打設される。この打込みの最終段階において、筒体21の中空部24の後端近傍に設けられている刻印部291がテーパーボルト51の後端面511にめり込み、後端面511に適正打込み済み打撃痕による刻印54が形成される(
図9(d)、
図10、
図11参照)。この刻印54は、打設されたあと施工アンカー50の拡開スリーブ52の種別を示すこととなり、図示例では、数字の「3」の刻印54により、拡開スリーブ52の外径Dに対して拡開スリーブ52の埋込長に相当する拡開スリーブ52の長さLが3倍か3倍以上の規格品の拡開スリーブ52であることが示されている。刻印54の深さは0.3〜0.5mmとなるようにすると好適である。
【0035】
上述の施工工程により、あと施工アンカー50が拡開スリーブ52を拡開してコンクリート構造物60に打設され、打設された拡開スリーブ52に、換言すれば打設されたあと施工アンカー50に、アンカー打込棒20の適正打込み済み打撃痕による刻印54が形成された第2実施形態のあと施工アンカー設置構造が構築される(
図9(d)、
図10参照)。第2実施形態のあと施工アンカー設置構造も、既存の拡開スリーブ打込式のあと施工アンカー105を打設して形成された既設のあと施工アンカー設置構造に併設することが可能であり、既設のあと施工アンカー設置構造に後から第2実施形態のあと施工アンカー設置構造を追加して構築することができる(
図11参照)。
【0036】
その後、例えば
図9(d)、
図10(b)に示すように、コンクリート構造物60に適正に打設されたあと施工アンカー50のコンクリート表面63から突出するねじ軸部512に取付物71、75を外挿し、更に、その外側にワッシャー72、スプリングワッシャー73を順に外挿し、ナット74を螺合することにより、取付物71、75をコンクリート構造物60に取り付ける。第2実施形態では、取付物71、75をナット74等で取り付けた取付構造の状態においても、テーパーボルト51の後端に形成された刻印54が外側に露出するようになっている。
【0037】
第2実施形態によれば、第1実施形態と対応する構成から対応する効果を得ることができると共に、拡開スリーブ52を拡開して打設されたあと施工アンカー50のテーパーボルト51の後端の刻印54により、打設されたあと施工アンカー50の拡開スリーブ52の種別を容易に認識することができる。更に、刻印54が露出していることにより、施工者、管理者は特別な作業を要せずにそのままの状態で刻印54を視認することができる。従って、施工者、管理者がアンカーと施工状態の適正性を非常に容易に確認することが可能となり、施工管理作業を効率化することができる。
【0038】
また、刻印部291を支持する支持部に相当する底部26を筒体21内で着脱可能に設けることにより、刻印部291を支持する底部26の交換によって刻印部291を交換することが可能となり、刻印部291が打撃によって摩耗した場合に容易に交換することができる。また、刻印部291の支持部以外の筒体の構成部材、本実施形態では筒部22が打撃によって摩耗した場合にも容易に交換することができる。また、拡開スリーブ52の種別に合わせて対応する刻印部291に交換して適応させることができる。
【0039】
尚、第2実施形態のアンカー打込棒20で打ち込まれる拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーは上述のあと施工アンカー50以外にも適宜であり、例えば
図13に示すように、テーパーボルト51aのねじ軸部512aの長さがテーパーボルト51のねじ軸部512よりも長く、ねじ軸部512aの後端近くの途中にねじ軸部512よりも小径でねじ溝のない段落とし部515aが形成され、その他の構成はあと施工アンカー50と同じあと施工アンカー50aをアンカー打込棒20で打設してもよい。
【0040】
あと施工アンカー50aを打設するアンカー打込棒20には、筒部22及び中空部24の長さがあと施工アンカー50を打設するものよりも長いものを用いて、あと施工アンカー50を打設する工程と同様の工程で打設し、あと施工アンカー50aが拡開スリーブ52を拡開してコンクリート構造物60に打設され、打設された拡開スリーブ52に、換言すれば打設されたあと施工アンカー50aに、アンカー打込棒20の適正打込み済み打撃痕による刻印54が形成されたあと施工アンカー設置構造が構築される(
図12、
図14(a)〜(c)、
図15(a)参照)。
【0041】
その後、例えば
図14(d)、
図15(b)に示すように、コンクリート構造物60に適正に打設されたあと施工アンカー50のコンクリート表面63から突出するねじ軸部512aの段落とし部515aよりも先端側に取付物71、75を外挿し、更に、その外側にワッシャー72を外挿してナット74を螺合することにより、取付物71、75をコンクリート構造物60に取り付ける。尚、あと施工アンカー50aでは、ナット74が振動等で緩んでもナット74が段落とし部515aに落ちてねじ軸部515aから外れて芯ズレを生じ、ナット74が段落とし部515aよりも外側に外れること、落下を防止することができると共に、段落とし部515aに落ちたナット74の状態を点検時に発見・補修することが可能である。
【0042】
〔第3実施形態のアンカー打込棒及びあと施工アンカー設置構造〕
本発明による第3実施形態のアンカー打込棒30も、拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーの打込み用のアンカー打込棒であり、
図16に示すように、有底筒状の筒体31から構成される。図示例の筒体31は略有底円筒状であり、略円筒状で内側が貫通している筒部32と、筒部32の後側に設けられる底部36を有する(
図16、
図17参照)。筒体31の先端に相当する筒部32の先端は拡開スリーブ後端に打ち込まれる打撃面33になっており、又、筒部32の内側には中空部34が設けられ、筒部32の後部外側には雄ねじ部35が形成されている。中空部34はあと施工アンカーの拡開スリーブを打ち込んだ際に、テーパーボルトのコンクリート表面63から突出する突出部分を収容可能な長さで且つ後述する刻印部372で収容したテーパーボルトの後端に刻印可能な長さで形成されている。
【0043】
底部36は、略有底円筒状であり、その内部の奥側には小径の雌ねじ部361が形成され、開口側には雌ねじ部361よりも大径の雌ねじ部362が形成されている。筒体21の後端に配置される底部36の後端は打撃受面363になっている。底部36には着脱可能に刻印部材37が設けられる。刻印部材37は略円柱状であり、刻印部材37の後部外側には雄ねじ部371が形成されており、刻印部材37を底部36内に挿入し、雄ねじ部371を雌ねじ部361に螺合して刻印部材37が底部36に着脱可能に取り付けられる。
【0044】
刻印部材37の先端には、あと施工アンカーへの適正打込み済み打撃痕による刻印形成用の刻印部372が先端側に突出して形成されている。刻印部372は適正打込み済み打撃痕による刻印があと施工アンカーの拡開スリーブの種別を示すように数字、文字又は所定個数の突起等で形成され、図示例では数字が浮彫のような形で形成されている。刻印部材37が取り付けられた状態の底部36は、刻印部372を支持する支持部に相当する刻印部材372を支持する底部36となる。また、刻印部372は、底部36に対する刻印部材37の螺合量を調整することにより、筒体31の長手方向における位置が調整可能になっている。
【0045】
底部36は、その雌ねじ部362を筒部32の雄ねじ部35に螺合して筒部32に着脱可能に設けられる。底部36が筒部32に取り付けられた状態では、刻印部372を支持する支持部に相当する刻印部材372を支持する底部36が筒体31内で着脱可能に設けられると共に、少なくとも刻印部372が中空部34内に突出して配置される。この刻印部372の打撃によって形成されるテーパーボルト後端の適正打込み済み打撃痕による刻印は、あと施工アンカーの拡開スリーブの種別を示すようになっている。
【0046】
第3実施形態のアンカー打込棒30を用いて第1、第2実施形態と同様のあと施工アンカー50を施工する際には、基本的に、第2実施形態のアンカー打込棒20を用いてあと施工アンカー50を施工する場合と同様の手順で行う。この際、あと施工アンカー50は、拡開スリーブ52が全長に亘って穿孔61に内挿されるまで打ち込まれて打設され、拡開スリーブ52はその長さLに相当する埋込長で打設される。この打込みの最終段階において、筒体31の中空部34の後部に設けられている刻印部372がテーパーボルト51の後端面511にめり込み、後端面511に適正打込み済み打撃痕による刻印55が形成される(
図18参照)。この刻印55も、打設されたあと施工アンカー50の拡開スリーブ52の種別を示すこととなる。刻印55の深さも0.3〜0.5mmとなるようにすると好適である。
【0047】
そして、あと施工アンカー50が拡開スリーブ52を拡開してコンクリート構造物60に打設され、打設された拡開スリーブ52に、換言すれば打設されたあと施工アンカー50に、アンカー打込棒30の適正打込み済み打撃痕による刻印55が形成された第3実施形態のあと施工アンカー設置構造が構築される(
図18参照)。第3実施形態のあと施工アンカー設置構造も、既存の拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーを打設して形成された既設のあと施工アンカー設置構造に併設することが可能であり、既設のあと施工アンカー設置構造に後から第3実施形態のあと施工アンカー設置構造を追加して構築することができる。
【0048】
その後、第2実施形態と同様に、コンクリート構造物60に適正に打設されたあと施工アンカー50のコンクリート表面63から突出するねじ軸部512に取付物71、75を外挿し、更に、その外側にワッシャー72、スプリングワッシャー73を順に外挿し、ナット74を螺合することにより、取付物71、75をコンクリート構造物60に取り付ける。第3実施形態でも、取付物71、75をナット74等で取り付けた取付構造の状態において、テーパーボルト51の後端に形成された刻印55が外側に露出する(
図10参照)。
【0049】
第3実施形態によれば、第2実施形態と対応する構成から対応する効果を得ることができる。更に、刻印部材372の径の調整、及びこれに対応して刻印部372の大きさの調整を行うことができ、例えばテーパーボルトの径に近い大きさのより視認し易い刻印55を形成することができる。また、刻印部材37の底部36への螺合量を調整して、テーパーボルトの後端により適切な適正打込み済み打撃痕の刻印55を施すことができる位置に刻印部372の位置を調整して位置決めすることができる。従って、例えばコンクリート構造物のコンクリート強度の違いによって、拡開スリーブの貫入量が微妙に異ならせることが必要になった場合等にも、刻印部372の位置を適切な位置に調整し、確実に適正打込み済み打撃痕による刻印55を形成することができる。
【0050】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、各実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記変形例や追記した内容も含まれる。
【0051】
例えば第1実施形態では、突起状の刻印部17があと施工アンカーの拡開スリーブの後端に打ち込まれる筒体21の先端に一体的に設けられる構成としたが、突起状等の筒体21の先端に設けられる刻印部を筒体内で着脱可能に設ける構成とすることも可能である。その具体例として、突起状等の刻印部を支持する短筒状の支持部を筒体の前部に螺合して取り付ける構成等が挙げられる。
【0052】
また、第1、第3実施形態のアンカー打込棒10、30で打設される拡開スリーブ打込式のあと施工アンカーも、第2実施形態と同様、あと施工アンカー50以外にも適宜である。この場合には、あと施工アンカー50とは異なるあと施工アンカーの種別に対応する長さ等を有する第1、第3実施形態のアンカー打込棒10、30を用いて刻印形成等の施工を行う。
【0053】
また、第1〜第3実施形態のアンカー打込棒10、20、30の材質は適用可能な範囲で適宜であり、例えばS45C等の炭素鋼とすると良好である。また、第1〜第3実施形態のアンカー打込棒10、20、30の強い衝撃を受ける打撃受面16、272、363、打撃面16、23、33、及び刻印部17、291、372は表面強度を局所的に高め、耐摩耗性を向上すると好適であり、例えばこれらの領域に局所的に高周波焼き入れ処理を行って表面強度を高めると、アンカー打込棒10、20、30の耐久性を増大させることができる。