【解決手段】本開示の一態様は、車両の燃料タンクで発生した蒸発燃料を吸着及び脱離するキャニスタである。キャニスタは、活性炭が充填された充填室を備える。充填室は、蒸発燃料が鉛直方向と交差する方向に流れる流路を構成する流通部と、流通部の鉛直方向上方に突出した少なくとも1つのバッファ部と、を有する。
【背景技術】
【0002】
車両の燃料タンクには、蒸発した燃料の大気放出を防ぐキャニスタが装着される。キャニスタは、蒸発燃料を活性炭に吸着させると共に、吸引した空気により活性炭から燃料を脱離してパージを行い、エンジンに供給する。
【0003】
キャニスタの充填室内に充填された活性炭は、振動等によって微細化される。活性炭が微細化されると、
図4に示すように、充填室103内に空隙が生じる。蒸発燃料が水平方向に流れるように配置された横置き型のキャニスタ101では、このような空隙によって、蒸発燃料が活性炭層105内を通過しないショートパスSが発生し、蒸発燃料が吸着されずに大気に放出される。
【0004】
そこで、充填室内での空隙の発生が抑えられるように、活性炭を蒸発燃料の流れ方向に付勢するスプリング等の弾性体が設けられる(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記公報に開示される従来のキャニスタでは、スプリングを配置するためのスペースが必要となり、キャニスタのサイズが大きくならざるを得ない。また、スプリングに加え、スプリングを受けるグリッド状の板部材も必要であるため、キャニスタの部品点数が増加する。
【0007】
本開示の一局面は、スプリング等の弾性体を使用することなく、活性炭の微細化に起因するショートパスの発生を抑制できるキャニスタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、車両の燃料タンクで発生した蒸発燃料を吸着及び脱離するキャニスタである。キャニスタは、活性炭が充填された充填室を備える。充填室は、蒸発燃料が鉛直方向と交差する方向に流れる流路を構成する流通部と、流通部の鉛直方向上方に突出した少なくとも1つのバッファ部と、を有する。
【0009】
このような構成によれば、横置き型のキャニスタにおいて、活性炭の微細化に伴う空隙が流通部の鉛直方向上方に設けられたバッファ部内に優先的に発生する。そのため、流通部における空隙の発生が抑制される。その結果、弾性体によって活性炭を蒸発燃料の流れ方向に付勢することなく、蒸発燃料のショートパスの発生を抑制できる。したがって、キャニスタが小型化されると共に、部品点数の低減によってキャニスタのコストが削減される。
【0010】
本開示の一態様は、充填室の蒸発燃料の流路における端部を塞ぐ蓋部をさらに備えてもよい。少なくとも1つのバッファ部は、蓋部と連続する位置に設けられてもよい。このような構成によれば、充填室が、開口よりも内側が広がった袋構造とならない。そのため、充填室の蓋部が取り付けられる端部から活性炭を充填することで、充填室内に活性炭が行き渡り易くなり、活性炭の充填率を高めることができる。また、活性炭を充填室に投入する作業性も向上する。
【0011】
本開示の一態様は、少なくとも1つのバッファ部として、1つのバッファ部を備えてもよい。このような構成によれば、空隙の発生する領域を必要最小限にすることができる。その結果、キャニスタの吸着効率の低下を抑制できる。
【0012】
本開示の一態様は、蒸発燃料を取り込むように構成されたチャージポートと、大気に開放された大気ポートと、をさらに備えてもよい。チャージポートは、充填室の第1端部に接続されてもよい。大気ポートは、充填室の第2端部に接続されてもよい。バッファ部の充填室における蒸発燃料の流れ方向と垂直な断面積は、第1端部の充填室における蒸発燃料の流れ方向と垂直な断面積よりも大きくてもよい。バッファ部は、第1端部の上端よりも上方に突出してもよい。このような構成によれば、より確実に蒸発燃料のショートパスの発生を抑制できる。
【0013】
本開示の一態様では、充填室は、筒状体であってもよい。充填室の軸と鉛直方向との双方と平行な断面において、充填室の上面は、充填室の第1端部から第2端部まで充填室の軸に対し一定角度で傾斜してもよい。このような構成によれば、バッファ部を容易に形成することができる。その結果、キャニスタの製造効率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1−1.構成]
図1Aに示すキャニスタ1は、車両の燃料タンクで発生した蒸発燃料を吸着及び脱離する。キャニスタ1は、チャージポート2Aと、パージポート(図示省略)と、大気ポート2Cと、充填室3と、蓋部4と、活性炭5と、フィルタ6A,6Bとを備える。
【0016】
<ポート>
チャージポート2Aは、配管によって車両の燃料タンクに接続される。チャージポート2Aは、燃料タンクで発生した蒸発燃料を充填室3内に取り込むように構成されている。
【0017】
パージポートは、パージ弁を介して車両のエンジンの吸気管に接続される。パージポートは、充填室3内の蒸発燃料を充填室3から排出し、エンジンに供給するように構成されている。
【0018】
大気ポート2Cは、配管を介して車両の給油口に接続され、大気に開放される。大気ポート2Cは、蒸発燃料を取り除いた気体を大気中に放出する。また、大気ポート2Cは、外部空気(つまりパージ空気)を取り込むことで、充填室3で吸着した蒸発燃料を脱離(つまりパージ)する。大気ポート2Cは、充填室3を挟んでチャージポート2A及びパージポートと対向する位置に配置されている。ただし、各ポートの配置は、上記の位置に限定されない。
【0019】
<充填室及び蓋部>
充填室3は、活性炭5を収納し、チャージポート2Aから取り込んだ蒸発燃料を吸着する空間を有している。また、充填室3は、吸着した蒸発燃料をパージポートから排出するように構成されている。
【0020】
充填室3は、第1端部3Cに底壁3Fが設けられると共に第2端部3Dが開放された有底の筒状体である。充填室3の第1端部3Cの底壁3Fには、チャージポート2A及びパージポートが接続されている。
【0021】
充填室3の第2端部3Dは、板状の蓋部4によって閉塞されている。つまり、蓋部4は、充填室3の蒸発燃料の流路における端部を塞いでいる。蓋部4には、大気ポート2Cが接続されている。
【0022】
蓋部4は、充填室3の第2端部3Dに溶着されている。また、蓋部4は、充填室3における第1端部3Cの底壁3Fと平行に配置されている。充填室3の中心軸と垂直な(つまり蓋部4と平行な)断面形状は特に限定されず、四角形や円形とすることができる。本実施形態では、充填室3は、中心軸が水平方向となるように横向きに車両内に配置される。
【0023】
充填室3の底壁3Fの内側には、第1フィルタ6Aが配置されている。また、蓋部4の内側には、第2フィルタ6Bが配置されている。充填室3の第1フィルタ6Aと第2フィルタ6Bとで挟まれた空間には、活性炭5が密に充填されている。
【0024】
第1フィルタ6A及び第2フィルタ6Bは、それぞれ、活性炭5を通過させない一方で、気体が通過可能に構成されている。また、本実施形態では、第1フィルタ6Aと第1端部3Cの底壁3Fとの間、及び第2フィルタ6Bと蓋部4との間には、活性炭5を鉛直方向と交差する方向(例えば水平方向)に付勢する弾性体を備えていない。なお、第1端部3Cの底壁3Fと第1フィルタ6Aとの間には、第1フィルタ6Aを支持する突起3Gが設けられている。
【0025】
充填室3は、流通部3Aと、1つのバッファ部3Bとを有する。換言すれば、充填室3の内部空間は、流通部3Aとバッファ部3Bとに区画される。
【0026】
(流通部)
流通部3Aは、蒸発燃料が活性炭5と接触しながら、つまり活性炭層を通過しながら、鉛直方向と交差する方向に流れる流路を構成する。
【0027】
本実施形態では、流通部3Aにおける蒸発燃料の流れ方向は、水平方向であり、充填室3の中心軸方向と平行である。また、流通部3Aは、充填室3のうち、第1端部3Cと同径の筒状部分によって構成されている。なお、流通部3Aは、3°未満の傾斜角度で、第1端部3Cから第2端部3Dに向かって拡径していてもよい。
【0028】
(バッファ部)
バッファ部3Bは、充填室3のうち、車両に取り付けられた状態で流通部3Aの鉛直方向上方に突出した部位で構成されている。バッファ部3Bは、充填室3を構成する筒状体を部分的に拡径することで構成されている。
【0029】
本実施形態のバッファ部3Bは、充填室3のうち、蓋部4と連続する位置に設けられている。そのため、第2端部3Dの開口面積は、第1端部3Cにおける充填室3の内部空間の断面積と第2端部3Dにおけるバッファ部3Bの内部空間の断面積との和である。
【0030】
具体的には、バッファ部3Bは、充填室3を構成する筒状体において、第2端部3D近傍が、他の部分よりも非連続的に上方に向かって拡径された部分である。つまり、筒状体の第2端部3D近傍における上面の一部又は全体が段差状に盛り上がることで、バッファ部3Bが構成されている。なお、第2端部3D近傍の上面以外の面(つまり、側面及び下面)は、流通部3Aに対し径方向に突出していない。ここで、「上面」とは、充填室3の外面のうち、車両に配置した状態における鉛直方向上方から視認できる面を意味する。
【0031】
バッファ部3Bの充填室3における蒸発燃料の流れ方向と垂直な断面積は、第1端部3Cのうち、活性炭5が充填されている部分の上記流れ方向と垂直な断面積よりも大きい。また、バッファ部3Bは、第1端部3Cの上端よりも上方に突出している。
【0032】
充填室3のバッファ部3Bにおける壁の厚みは、流通部3Aにおける壁の厚みと同様である。つまり、バッファ部3Bにおいて充填室3の壁は、他の部分に対し薄肉化されていない。
【0033】
バッファ部3Bの上面のうち、蒸発燃料の流れ方向において流通部3Aの上面と接続する立ち上がり面3Eは、充填室3の軸方向及び径方向に対し傾斜している。立ち上がり面3Eの充填室3の軸方向に対する傾斜角度θは、例えば3°以上である。
【0034】
バッファ部3Bは、充填室3の軸方向における一部に設けられている。バッファ部3Bの充填室3の軸方向長さL1は、流通部3Aの軸方向長さ(つまり、第1フィルタ6Aと第2フィルタ6Bとの距離)L0の1/3以下が好ましい。
【0035】
<活性炭>
活性炭5は、充填室3内に充填され、活性炭層を形成している。活性炭5は、空気等と共にキャニスタ1に供給された蒸発燃料を吸着する。また、外部空気の導入により蒸発燃料を脱離する。
【0036】
活性炭5としては、公知の粒状の活性炭の集合体が使用できる。また、初期状態(つまりキャニスタ1の使用前の状態)では、活性炭5は、充填室3内全体、つまり流通部3Aとバッファ部3Bとの双方に充填されている。
【0037】
活性炭5が経年によって微細化すると、
図1Bに示すように、重力の作用によって活性炭5が下方に移動してバッファ部3B内に空隙が形成される一方で、バッファ部3Bよりも下方にある流通部3A内では活性炭層が維持される。
【0038】
チャージポート2Aから取り込まれた蒸発燃料は、充填室3の主に流通部3A内で活性炭5に吸着される。蒸発燃料が吸着された気体は、流通部3Aを通過して大気ポート2Cから放出される。
【0039】
また、大気ポート2Cから給気することで、活性炭5に吸着されていた蒸発燃料は、パージポートからエンジンに排出される。その結果、蒸発燃料を含んだ空気がエンジンに供給される。
【0040】
[1−2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)キャニスタ1を横置きした際に、活性炭5の微細化に伴う空隙が流通部3Aの鉛直方向上方に設けられたバッファ部3B内に優先的に発生する。そのため、流通部3Aにおける空隙の発生が抑制される。結果として、弾性体によって活性炭5を蒸発燃料の流れ方向に付勢することなく、蒸発燃料のショートパスの発生を抑制できる。したがって、キャニスタ1が小型化されると共に、部品点数の低減によってキャニスタ1のコストが削減される。
【0041】
(1b)バッファ部3Bが蓋部4と連続する位置に設けられているので、充填室3の蓋部4が取り付けられる第2端部3Dから活性炭5を充填することで、充填室3内に活性炭5が行き渡り易くなる。その結果、活性炭5の充填率を高めることができる。また、活性炭5を充填室3に投入する作業性も向上する。
【0042】
(1c)1つのバッファ部3Bのみを充填室3に設置することで、空隙の発生する領域を必要最小限にすることができる。その結果、キャニスタ1の吸着効率の低下を抑制できる。
【0043】
[2.第2実施形態]
[2−1.構成]
図2に示すキャニスタ11は、燃料タンクで発生した蒸発燃料を吸着及び脱離する。キャニスタ11は、チャージポート2Aと、パージポート(図示省略)と、大気ポート2Cと、充填室13と、蓋部4と、活性炭5と、フィルタ6A,6Bとを備える。
【0044】
キャニスタ11のチャージポート2A、パージポート、大気ポート2C、蓋部4、活性炭5及びフィルタ6A,6Bは、
図1Aのキャニスタ1と同様であるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0045】
<充填室>
充填室13は、第1端部13Cから第2端部13Dに向かって連続的に拡径する筒状体である。
【0046】
具体的には、充填室13の軸と鉛直方向との双方と平行な断面において、充填室13の上面13Eは、充填室13の第1端部13Cから第2端部13Dまで充填室13の軸に対し一定角度で傾斜している。上面13Eの充填室13の軸に対する傾斜角度θは、例えば3°以上である。
【0047】
充填室13は、
図1Aの充填室3と同様に、流通部13Aと、1つのバッファ部13Bとを有する。流通部13Aは、蒸発燃料が鉛直方向と交差する方向に流れる流路を構成する部位である。バッファ部13Bは、流通部13Aの鉛直方向上方に突出している。
【0048】
本実施形態では、バッファ部13Bは、充填室13の軸方向の中間点(つまり、第1端部13Cからの軸方向における距離が充填室13の長さL0の1/2である点)Pよりも上方に位置する部位である。バッファ部13Bの上面は、流通部13Aの上面のうち、バッファ部13Bよりも第1端部13C寄りの部分(つまり、中間点Pと第1端部13Cとの間の部分)と面一である。
【0049】
なお、充填室13の軸と鉛直方向との双方と平行な断面において、充填室13の下面(つまり上面13Eと対向する面)13Fは、充填室13の軸と略平行である。ここで、「略平行」とは、傾斜角が3°未満であることを意味する。
【0050】
[2−2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(2a)筒状の充填室13を連続的に拡径させることで、鉛直方向上方に突出したバッファ部13Bを容易に形成することができる。その結果、キャニスタ11の製造効率を高めることができる。
【0051】
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0052】
(3a)上記実施形態のキャニスタ1において、バッファ部3Bは、必ずしも蓋部4と連続する位置に設けられなくてもよい。また、充填室3は、複数のバッファ部3Bを有してもよい。
【0053】
例えば、
図3に示すキャニスタ21のように、充填室23が、流通部23Aと、軸方向に離間した複数のバッファ部23B,23C,23Dとから構成されてもよい。
図3のキャニスタ21では、複数のバッファ部23B,23C,23Dは、いずれも蓋部4と離間している。このようなバッファ部23B,23C,23Dは、ビードとして機能し、充填室23の剛性を高め得る。
【0054】
(3b)上記実施形態のキャニスタ1,11は、活性炭が充填された1又は複数の副室を備えてもよい。副室は、充填室3,13の下流側に配置される。副室が設けられる場合は、大気ポート2Cは副室の下流端に設けられる。さらに、副室に充填室3,13と同等のバッファ部を設けてもよい。
【0055】
(3c)上記実施形態のキャニスタ1,11は、必ずしも流通部3A,13Aにおける蒸発燃料の流れ方向が水平方向と一致する必要はない。蒸発燃料の流れ方向は、水平方向に対し傾斜していてもよい。
【0056】
(3d)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0057】
1…キャニスタ、2A…チャージポート、2C…大気ポート、3…充填室、
3A…流通部、3B…バッファ部、3C…第1端部、3D…第2端部、
3E…立ち上がり面、3F…底壁、3G…突起、4…蓋部、5…活性炭、
6A…第1フィルタ、6B…第2フィルタ、11…キャニスタ、13…充填室、
13A…流通部、13B…バッファ部、13C…第1端部、13D…第2端部、
13E…上面、13F…下面、21…キャニスタ、23…充填室、23A…流通部、
23B,23C,23D…バッファ部。