本発明は、車両用推進軸100のパイプ材110内に挿入される推進軸用制振部材1であって、パイプ材110の中心部に配置され、径方向内側に弾性変形可能な筒状の筒状部2と、筒状部2の外周面から径方向外側へ放射状に延びる複数の脚部3と、脚部3の径方向外側の端部から周方向に延在し、パイプ材110の内周面に当接する複数の当接部4と、を備えることを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
車両用推進軸(プロペラシャフト)は、車両の前後方向に延在する筒状のパイプ材により構成され、車体前部に搭載された変速装置から車体後部に搭載された終減速装置に動力を伝達する部品である。以下、車両用推進軸を「推進軸」と称する場合がある。
このような推進軸において、パイプ材が一定の長さを超えると共振点が低くなる。よって、これを防止すべく、パイプ材を二つに分割し、その二つのパイプ材を自在継手で連結している。
【0003】
また、推進軸には、変速装置のギヤの噛み合い等による振動が伝達して膜振動が生じる。この結果、推進軸から高周波の異音が発生し、運転者が不快に感じることがある。よって、従来から丸めた厚紙をパイプ材に挿入し、推進軸の膜振動を減衰させるということが行われている。
なお、丸められた厚紙は、元の形状に戻ろうとする復元力によりパイプ材の内周面に圧接(緊迫)しているため、経時劣化により緊迫力が低下すると、振動を減衰させる減衰力が低下したり、隣接するダイナミックダンパに干渉したりするおそれがある。
よって、下記特許文献1では、環状の紙管にリングを嵌め込み、紙管の緊迫力低下を抑制している。また、下記特許文献2では、厚紙の外周面に接着層を設けている。さらに下記特許文献3では、外周側の厚紙を内周側の厚紙よりも軸方向外側に突出するように形成し、内周側の厚紙がダイナミックダンパの制振部材に接触しないようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1−3の技術によれば、一種類の推進軸用制振部材で、径が異なる複数のパイプ材に対応することができない。よって、従来は、複数のパイプ材毎に推進軸用制振部材を用意(製造)する必要があった。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するために創作されたものであり、パイプ材内で確実に保持されつつ、径が異なる複数のパイプ材に対応できる推進軸用制振部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、第1発明に係る車両用推進軸は、車両用推進軸のパイプ材内に挿入される推進軸用制振部材であって、前記パイプ材の中心部に配置され、径方向内側に弾性変形可能な筒状の筒状部と、前記筒状部の外周面から径方向外側へ放射状に延びる複数の脚部と、前記脚部の径方向外側の端部から周方向に延在し、前記パイプ材の内周面に当接する複数の当接部を備えることを特徴とする。
【0008】
前記第1発明において、筒状部が径方向内側に弾性変形した状態で推進軸用制振部材をパイプ材内に配置すると、パイプ材内において筒状部が径方向外側に弾性復元力を発揮し、推進軸用制振部材がパイプ材内に圧着する。よって、推進軸用制振部材は、パイプ材内で確実に保持される。
また、推進軸用制振部材は、筒状部の弾性変形量を変化させることで、大径に形成されたパイプ材や小径に形成されたパイプ材にも挿入して圧着させることができる。つまり、径が異なる複数のパイプ材に対応することができる。
【0009】
また、前記発明において、前記筒状部と前記複数の脚部と前記複数の当接部とは、樹脂材料により一体に形成されていてもよい。
また、前記発明において、前記筒状部は、前記複数の脚部の数に対応した多角形筒状であってもよい。
【0010】
前記課題を解決するため、第2発明に係る車両用推進軸は、車両用推進軸のパイプ材内に挿入される推進軸用制振部材であって、前記パイプ材の中心に配置される本体部と、前記本体部の外周面から径方向に延出し、かつ、径方向外側に向うにつれて周方向に湾曲する複数の湾曲脚部と、を備え、前記各湾曲脚部は、径方向内側に弾性変形可能であることを特徴とする。
【0011】
前記第2発明によれば、湾曲脚部が径方向内側に弾性変形した状態でパイプ材に配置すると、パイプ材内において湾曲脚部が径方向外側に弾性復元力を発揮し、推進軸用制振部材がパイプ材内に圧着する。推進軸用制振部材は、パイプ材内で確実に保持される。
また、推進軸用制振部材は、湾曲脚部の弾性変形量を変化させることで、大径に形成されたパイプ材や小径に形成されたパイプ材にも挿入して圧着させることができる。つまり、径が異なる複数のパイプ材に対応することができる。
【0012】
また、前記発明において、前記本体部と前記湾曲脚部とは、樹脂材料により一体に形成してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パイプ材内で確実に保持されつつ、径が異なる複数のパイプ材に対応できる推進軸用制振部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明の第1実施形態、第2実施形態を説明する。各実施形態の説明において、同一の構成要素に関しては同一の符号を付し、重複した説明は省略する。また、推進軸用制振部材(以下、「制振部材」と称する)の説明の前に推進軸100について説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1に示すように、推進軸100は、例えばFF(Front-engine Front-drive)ベースの四輪駆動車に搭載される。推進軸100は、フロアパネル(不図示)の下方に配置され、車両の前後方向に延在し、車体前部の変速装置(不図示)からの動力を車体後部の終減速装置(不図示)に伝達するための軸部材である。
【0017】
推進軸100は、第1パイプ材101及び第2パイプ材102を備えており、前後方向の中間部分で分割された2ピース構造となっている。また、第2パイプ材102の内部の軸方向中央部には、ダイナミックダンパ102aが設けられている。
図2に示すように、第1パイプ材101は、直径R1が75mm、肉厚Lが1.6mm、内径r1が35.9mmに形成された円筒状の鋼管(以下、大径パイプ材110と称する)が用いられている。同様に第2パイプ材102も大径パイプ材110が用いられている。
【0018】
ここで、推進軸100に用いられるパイプ材としては、上記した大径パイプ材110以外に、
図5に示すように、小径パイプ材111(直径R2が65mm、肉厚L2が1.6mm、内径r2が30.9mmの鋼管)を利用する場合がある。つまり、推進軸100に用いられるパイプ材として、径が異なる大径パイプ材110と小径パイプ材111の2種類がある。
【0019】
図1に示すように、第1パイプ材101と第2パイプ材102は、トリポード型等速ジョイント103により接続している。また、トリポード型等速ジョイント103のスタブシャフト104は、フロアパネル(不図示)に取り付けられた軸受構造体105によって回転自在に支持されている。
【0020】
第1パイプ材101及び第2パイプ材102は、十字軸ジョイント106,107を介して変速装置の出力軸(不図示)又は終減速装置の入力軸(不図示)に連結している。このため、変速装置のギヤの噛み合い等による振動が第1パイプ材101及び第2パイプ材102に伝達する。
このような推進軸100において、第1パイプ材101及び第2パイプ材102の膜振動を減衰させるため、第1パイプ材101の内部と第2パイプ材102の内部とには、制振部材1が装着されている。
【0021】
図3、
図4は、大径パイプ材110(第1パイプ材101,第2パイプ材102)内に装着される前の状態の制振部材である。
制振部材1は、約300mm〜500mmの棒状(長尺状)の部品であり、大径パイプ材110の開口から挿入することで、大径パイプ材110内に装着される。
制振部材1は、大径パイプ材110内の中心部に配置され、径方向内側に弾性変形可能な筒状の筒状部2と、筒状部2の外周面から径方向外側へ放射状に延びる複数の脚部3と、脚部3の径方向外側の端部から周方向に延在し、大径パイプ材110の内周面110aに当接する複数の当接部4と、を備える。
【0022】
なお、複数の脚部3と複数の当接部4は同数であり、本実施形態においては4つずつ備えている。また、筒状部2と脚部3と当接部4のそれぞれは、樹脂材料により一体に形成されており、肉薄な方向に荷重を受けると弾性変形して元の形状に復元しようとする弾性復元力を発揮する。
【0023】
図4に示すように、筒状部2は、各脚部3を支持する部位である。筒状部2は、複数の脚部3の数に対応した多角形筒状に形成されている。よって、本実施形態の筒状部2は、断面視で略四角形筒状に形成され、薄板状の4つの辺部2aと、各辺部2a同士を接続する4つの角部2bとを備える。
【0024】
辺部2aは、径方向の厚みが薄く形成され、径方向に荷重が作用すると弾性変形し易い。角部2bは、円弧状を呈し、かつ、円弧状の一端から他端までの角度が略270°に形成されている。
この角部2bによれば、辺部2aに対し径方向内側に向う荷重が作用した場合、角部2bの一端と他端とが近接するように変形する(
図4の矢印A参照)。このため、辺部2aは、中央部が筒状部2の中心O2寄りに近接するように湾曲し易くなる。よって、角部2bを直角状に形成した場合よりも、制振部材1は、作用する荷重に追従して変形し易くなっている。
【0025】
脚部3のそれぞれは、各辺部2aの中央部から径方向外側に延出しており、径方向の荷重に対し変形し難い。
【0026】
当接部4は、大径パイプ材110に挿入された場合、大径パイプ材110の内周面110aに当接する部位である。当接部4は、直線状に延在し、かつ、脚部3に直交している。また、当接部4は、径方向の厚みが薄く形成され、径方向に荷重が作用すると弾性変形し易い。
【0027】
筒状部2の中心O2から当接部4の外面4aまでの距離R3は、大径パイプ材110の内径r1(
図2参照)よりも大径に形成されている。よって、制振部材1を大径パイプ材110内に挿入する際、各当接部4の外面4aを径方向内側に押圧した状態(
図4の矢印B参照)で挿入している。
【0028】
上記理由から、
図2に示すように、制振部材1は、筒状部2が径方向内側に弾性変形した状態で大径パイプ材110内に装着されている。具体的には、各辺部2aの中央部が径方向内側に窪むように湾曲した状態となっている。また、各当接部4は、第1パイプ材101の内周面101aに沿って円弧状となっている。一方で、脚部3は径方向に延在しているため、変形しない。
よって、第1パイプ材101に挿入された制振部材1は、各辺部2aが径方向外側に向う弾性復元力を発揮しており(
図2の矢印C参照)、当接部4が大径パイプ材110の内周面110aに押し付けられ、大径パイプ材110内に圧着している。
【0029】
また、制振部材1は、筒状部2の中心O1から当接部4の外面4aまでの距離がR3に形成され、小径パイプ材111の内径r2よりも大きい。このため、制振部材1は、小径パイプ材111にも装着可能となっている。
つまり、各当接部4の外面4aを径方向内側に押圧した状態(
図4の矢印B参照)で小径パイプ材111内に挿入することで、
図5に示すように、制振部材1を小径パイプ材111内に装着させることができる。
また、小径パイプ材111に装着された制振部材1は、各辺部2aが径方向外側に向う弾性復元力を発揮し(
図5の矢印C参照)、その弾性復元力により当接部4が小径パイプ材111の内周面111aに押し付けられ、小径パイプ材111内に圧着する。
【0030】
以上、第1実施形態の制振部材1によれば、第1パイプ材101及び第2パイプ材102の膜振動を確実に減衰させることができる。
また、制振部材1は、径が異なる大径パイプ材110及び小径パイプ材111であっても、内部に圧着するため、パイプ材の中心軸方向に移動することがなく、確実に保持される。よって、制振部材1が隣接して配置されるダイナミックダンパ102a(
図1)に接触することが回避される。
なお、小径パイプ材111に挿入された制振部材1は、大径パイプ材110に挿入された場合よりも辺部2aの弾性変形量が大きい。よって、大径パイプ材110に挿入された場合よりも辺部2aが発揮する弾性復元力も大きくため、より強固に固定される。
【0031】
また、筒状部2の厚み及び形状を代えることで、筒状部2の弾性力(弾性変形のし易さ及び弾性復元力の大きさ)を大きくしたり、小さくしたりすることができる。よって、第1実施形態の制振部材1は、パイプ材への挿入し易さとパイプ材内での保持力とを両立させることが容易な構造といえる。
また、当接部4の長さ(接触面積)や厚みを代えることで、制振性能の調整を行うことができる。言い換えると、第1実施形態の制振部材1は、筒状部2の弾性力(パイプ材への挿入し易さとパイプ材内での保持力)とは別個独立して制振性能の調整を行うことができる。よって、筒状部2の弾性力を変更することなく、所望の制振性能を得ることができる。
【0032】
以上、実施形態について説明したが、第1発明の制振部材は第1実施形態の例に限定されない。
筒状部2は、径方向内側に弾性変形可能な形状、つまり径方向の厚みが肉薄であれば、実施形態で説明した四角形筒状に限定されず、三角形筒状や五角形筒状などの多角形筒状、星形筒状及び円筒状であってもよい。
また、筒状部2と脚部3と当接部4を樹脂材で一体に形成しているが、筒状部2が弾性変形可能な材料であれば特に限定されない。
また、筒状部2の角部2bは、円弧状のものに限定されず、
図6に示す制振部材1Aのように、直角状の角部2cであってもよい。
また、当接部4は、直線状のものに限定されず、
図6に示すように、当接部4Aを円弧状に形成し、パイプ材の内周面に沿って変形し易くしてもよい。
【0033】
(第2実施形態)
つぎに第2実施形態の制振部材10について説明する。
図7に示すように、制振部材10は、大径パイプ材110内の中心に配置される本体部11と、本体部11の外周面11aから径方向に延出する複数の湾曲脚部12と、を備える。また、本体部11と複数の湾曲脚部12とは樹脂材料により一体に形成されている。
【0034】
図8、
図9は、大径パイプ材110内に装着される前の状態の制振部材10である。
本体部11は、複数の湾曲脚部12を支持する部位である。
本体部11は、円筒状に形成され、軽量化している。
湾曲脚部12は、合計で6つ形成され、本体部11の外周面11aに等間隔で配置されている。
各湾曲脚部12は、径方向外側に向うにつれて周方向(
図8,
図9において右回り方向)に湾曲している。つまり、各湾曲脚部12は、基部12aから先端12bに向うにつれて、本体部11の中心O11と湾曲脚部12の基部12aとを通過する仮想径線L3から離間するように湾曲している。このため、各湾曲脚部12は、径方向内側への荷重を受けると(
図8の矢印D参照)、先端12bが径方向内側に移動するように弾性変形し易くなっている。
【0035】
本体部11の中心O11から湾曲脚部12の先端12bまでの距離R4は、大径パイプ材110の内径r1(
図7参照)よりも大径に形成されている。よって、制振部材10を大径パイプ材110内に挿入する際、湾曲脚部12を径方向内側に押圧した状態で挿入している(
図9の矢印B参照)。
【0036】
上記理由から、大径パイプ材110内の制振部材10は、
図7に示すように、各湾曲脚部12の先端12bが径方向内側に弾性変形した状態で大径パイプ材110の内周面110aに当接している。
よって、大径パイプ材110内の制振部材10は、弾性復元力により湾曲脚部12の先端12bが大径パイプ材110の内周面110aに押し付けられた状態(
図7の矢印E参照)、つまり、大径パイプ材110内に圧着している。
【0037】
また、第2実施形態の制振部材10は、本体部11の中心O11から湾曲脚部12の先端12bまでの距離がR4に形成され、小径パイプ材111の内径r2(
図5参照)よりも大きく、小径パイプ材111(
図5参照)にも対応できる。
つまり、特に図示しないが、小径パイプ材111内に制振部材10を装着させた場合であっても、湾曲脚部12の先端12bが径方向内側へ弾性変形しており、この弾性復元力により制振部材10が小径パイプ材111内に圧着する。
【0038】
以上、第2実施形態の制振部材10によれば、径が異なる複数のパイプ材(大径パイプ材110、小径パイプ材111)でも、第1パイプ材101及び第2パイプ材102内に圧着できるため、中心軸O方向に移動することなく確実に保持される。また、第1パイプ材101及び第2パイプ材102の膜振動を確実に減衰させることができる。
さらに、湾曲脚部12の厚みを代えることで、湾曲脚部12の弾性力(弾性変形のし易さ及び弾性復元力の大きさ)と制振性能とを調整することができる。
【0039】
以上、第2実施形態について説明したが、第2発明は第2実施形態の例に限定されない。例えば、本体部11は、軽量化の観点から筒状(円筒状)に形成されているが、中実であってもよい。