特開2019-128048(P2019-128048A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-128048(P2019-128048A)
(43)【公開日】2019年8月1日
(54)【発明の名称】スラグ排出孔構造及びスラグ排出方法
(51)【国際特許分類】
   F27D 3/15 20060101AFI20190708BHJP
   F27D 3/14 20060101ALI20190708BHJP
   F27B 3/10 20060101ALI20190708BHJP
【FI】
   F27D3/15 S
   F27D3/14 Z
   F27B3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-8022(P2018-8022)
(22)【出願日】2018年1月22日
(71)【出願人】
【識別番号】593213342
【氏名又は名称】株式会社日向製錬所
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小森 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 修司
【テーマコード(参考)】
4K045
4K055
【Fターム(参考)】
4K045AA04
4K045BA01
4K045CA08
4K045DA01
4K045RA19
4K055AA03
4K055JA17
4K055LA23
(57)【要約】
【課題】操業条件等により熔融スラグの粘度が変動した場合であっても、安定的にその熔融スラグを排出することができるスラグ排出孔構造及びスラグ排出方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るスラグ排出孔構造2は、電気炉1の内部側に位置するスラグ流入口21と、外部側に位置するスラグ流出口22と、スラグ流入口21とスラグ流出口22とを連通するスラグ流路23とを備え、スラグ流路23の内壁には略円筒形の第1の銅製部材31が組み込まれ、さらに第1の銅製部材31の孔31hの内壁には略円筒形の第2の銅製部材32が組み込まれ、第2の銅製部材32の孔32hの内壁が熔融スラグの流路の一部を構成している。また、本発明に係るスラグ排出方法は、孔径の異なる複数の第2の銅製部材32,32’を準備しておき、熔融スラグの粘度に応じて所定の孔径の第2の銅製部材32,32’を選択して使用することで、熔融スラグの排出量を調整する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気炉の内部側に位置するスラグ流入口と、該電気炉の外部側に位置するスラグ流出口と、該スラグ流入口と該スラグ流出口とを連通するスラグ流路とを備える、電気炉内で生成した熔融スラグを排出するスラグ排出孔構造であって、
前記スラグ流路の内壁には、略円筒形の第1の銅製部材が組み込まれ、さらに該第1の銅製部材の孔の内壁には、略円筒形の第2の銅製部材が組み込まれており、
前記第2の銅製部材の孔の内壁が、前記熔融スラグの流路の一部を構成する
スラグ排出孔構造。
【請求項2】
排出する前記熔融スラグの粘度に応じて、前記第2の銅製部材の孔径が調整されている
請求項1に記載のスラグ排出孔構造。
【請求項3】
前記第1の銅製部材と前記第2の銅製部材は、それぞれが交換可能に設けられている
請求項1又は2に記載のスラグ排出孔構造。
【請求項4】
前記第1の銅製部材と前記第2の銅製部材は、それぞれ、前記熔融スラグが排出される側の端部正面に、内部に冷却水を供給するための給水口と、内部から該冷却水を排出するための排水口とが設けられており、
前記給水口に給水配管が接続され、前記排水口に排水配管が接続されている
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスラグ排出孔構造。
【請求項5】
電気炉内で生成した熔融スラグを該電気炉から排出するスラグ排出方法であって、
前記電気炉の側壁に設けられたスラグ排出孔であり、スラグが流通するスラグ流路の内壁に略円筒形の第1の銅製部材が組み込まれ、さらに該第1の銅製部材の孔の内壁に略円筒形の第2の銅製部材が組み込まれているスラグ排出孔を介して熔融スラグを排出し、
その際、孔径の異なる複数の前記第2の銅製部材を準備しておき、
排出する前記熔融スラグの粘度に応じて、所定の孔径の前記第2の銅製部材を選択して使用することにより、該スラグ排出孔からの熔融スラグの排出量を調整する
スラグ排出方法。
【請求項6】
孔径の異なる2種類の前記第2の銅製部材を準備しておき、
排出する前記熔融スラグの粘度が所定以上に高い場合には、孔径が大きい前記第2の銅製部材を使用し、排出する前記熔融スラグの粘度が所定より低い場合には、孔径が小さい前記第2の銅製部材を使用する
請求項5に記載のスラグ排出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製錬プロセスに使用される電気炉から熔融スラグを排出する技術に関する。より詳しくは、操業条件等によってスラグの粘度が変動した場合でも、安定的に熔融スラグを排出することができるスラグ排出孔構造及びスラグ排出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製錬プロセスに使用される電気炉では、電気エネルギーを利用して原料を加熱し、単純熔解して処理する。また、例えば更に炭素質還元剤を共存させて還元反応を同時に起こすことにより原料を処理する。ここで使用される電気炉は、一般的には、炉床及び炉壁に耐火レンガを積み上げて炉内空間が形成され、その炉内空間を覆うように炉蓋を備えている。そして、炉蓋の略中央部には、炉内と炉外とを連通するようにして電極が挿し込まれており、その電極に電気エネルギーが印加されることで原料を加熱する。
【0003】
電気炉内で原料処理が進むと、原料中の不要物から酸化物の熔体が生成し、また、原料中の目的金属の熔体も生成して、それぞれの熔体が比重によって分離する。酸化物の熔体(スラグ熔体(熔融スラグともいう))は、一般的に目的金属の熔体(熔融金属)よりも比重が小さいため、電気炉内の熔体は、上層のスラグ熔体と下層の熔融金属との2層に分離する。このように、スラグ熔体が熔融金属の表面上に浮上して上層を形成することで、熔融金属の表面が空気によって酸化されるのを防止することができる。なお、スラグ熔体と熔融金属との界面では、物質の移動及び化学反応が起こる場合もある。
【0004】
電気炉内での製錬反応が十分に進行すると、スラグ熔体は電気炉から排出され、例えば水冷固化されて粉粒状のスラグとなる。このようにして回収したスラグは、路盤材やケーソンの中詰材等として利用される。
【0005】
スラグ熔体を電気炉から排出するに際しては、電気炉の側面(炉壁)においてスラグ熔体の層の高さ位置に相当する高さに設けられたスラグ排出孔から排出する。具体的に、スラグ排出孔は、炉内側のスラグ熔体の流入口と、炉壁側のスラグ熔体の流出口と、流入口と流出口とを連通するスラグ流路とで構成されている。このような構造であることから、スラグ流路の内壁やその周辺部にある耐火レンガは、スラグの通過により損耗し易い。
【0006】
そのため、スラグ流路の内壁は、例えば銅製の水冷ジャケット等で構成されており、スラグ熔体と耐火レンガが直接接触することが無いような構造となっている。また同時に、耐火レンガへの熱の伝わりを抑制するような構造となっており、これらにより、スラグ流路の耐火レンガを保護している。
【0007】
なお、電気炉からスラグ排出孔を介してスラグ熔体が排出(スラグ流出口から排出)されると、その近傍に設けられたスラグ樋を通じて、あるいは更に取鍋に装入されて、水砕処理を行う工程(水砕工程)等の後工程に移送される。水砕工程では、電気炉から排出されたスラグを所定の水量の水で破砕して水砕スラグを製造する。
【0008】
さて、上述のようなスラグ排出孔から排出されるスラグ熔体は、原料組成や操業条件等によって粘度が変動することがある。そして、その粘度の変動に伴って、スラグ熔体の流量の変動が生じることで、以下のような問題が発生する。
【0009】
すなわち、例えばスラグ熔体の粘度が低下すると、その粘度低下に伴って、排出されるスラグ熔体の流量が増加し、スラグ排出孔の先に設けたスラグ樋の許容量を超えて周辺にもスラグ熔体が溢れてしまい、作業後のスラグ樋周辺の清掃作業の負荷が高まる。また、スラグ熔体排出作業における火傷等の危険が増大するという問題が発生する。
【0010】
また、スラグ熔体の粘度が上昇すると、その粘度上昇に伴って、排出されるスラグ熔体の流量が減少し、スラグ熔体を排出するための所要時間が増大し、水砕処理を経て得られた水砕スラグの生産効率が低下する等の問題が発生する。
【0011】
このようなことから、操業条件等によってスラグの粘度が変動した場合でも、スラグ熔体の排出量(流量)の変動を抑制することができる方法が望まれる。
【0012】
例えば特許文献1には、損耗する耐火レンガを容易に交換可能とする炉体構造について開示されている。しかしながら、スラグ排出孔(スラグ出湯口)自体が耐火レンガであるため、排出孔の形状が損耗によって変形するおそれがあり、そのような構造だけでスラグ流量を調整することは困難である。また、特許文献2には、排出孔を有する内筒材と、それを取り囲む外筒材とを組み合わせて構成された出滓口であって交換容易なものが開示されている。しかしながら、上記と同様、スラグ熔体の流量まで調整することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−314969号公報
【特許文献2】特開2002−349839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、電気炉内に生成した熔融スラグを排出するに際して、操業条件等により熔融スラグの粘度が変動した場合であっても、安定的にその熔融スラグを排出することができるスラグ排出孔構造及びスラグ排出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明の第1の発明は、電気炉の内部側に位置するスラグ流入口と、該電気炉の外部側に位置するスラグ流出口と、該スラグ流入口と該スラグ流出口とを連通するスラグ流路とを備える、電気炉内で生成した熔融スラグを排出するスラグ排出孔構造であって、前記スラグ流路の内壁には、略円筒形の第1の銅製部材が組み込まれ、さらに該第1の銅製部材の孔の内壁には、略円筒形の第2の銅製部材が組み込まれており、前記第2の銅製部材の孔の内壁が、前記熔融スラグの流路の一部を構成する、スラグ排出孔構造である。
【0016】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、排出する前記熔融スラグの粘度に応じて、前記第2の銅製部材の孔径が調整されている、スラグ排出孔構造である。
【0017】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記第1の銅製部材と前記第2の銅製部材は、それぞれが交換可能に設けられている、スラグ排出孔構造である。
【0018】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記第1の銅製部材と前記第2の銅製部材は、それぞれ、前記熔融スラグが排出される側の端部正面に、内部に冷却水を供給するための給水口と、内部から該冷却水を排出するための排水口とが設けられており、前記給水口に給水配管が接続され、前記排水口に排水配管が接続されている、スラグ排出孔構造である。
【0019】
(5)本発明の第5の発明は、電気炉内で生成した熔融スラグを該電気炉から排出するスラグ排出方法であって、前記電気炉の側壁に設けられたスラグ排出孔であり、スラグが流通するスラグ流路の内壁に略円筒形の第1の銅製部材が組み込まれ、さらに該第1の銅製部材の孔の内壁に略円筒形の第2の銅製部材が組み込まれているスラグ排出孔を介して熔融スラグを排出し、その際、孔径の異なる複数の前記第2の銅製部材を準備しておき、排出する前記熔融スラグの粘度に応じて、所定の孔径の前記第2の銅製部材を選択して使用することにより、該スラグ排出孔からの熔融スラグの排出量を調整する、スラグ排出方法である。
【0020】
(6)本発明の第6の発明は、第5の発明において、孔径の異なる2種類の前記第2の銅製部材を準備しておき、排出する前記熔融スラグの粘度が所定以上に高い場合には、孔径が大きい前記第2の銅製部材を使用し、排出する前記熔融スラグの粘度が所定より低い場合には、孔径が小さい前記第2の銅製部材を使用する、スラグ排出方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電気炉内に生成した熔融スラグを排出するに際して、操業条件等により熔融スラグの粘度が変動した場合であっても、安定的にその熔融スラグを排出することができるスラグ排出孔構造及びスラグ排出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】電気炉の側壁の断面図であり、スラグ排出孔構造の段面を模式的に示す図である。
図2】電気炉の側壁に設けられるスラグ排出孔構造を示す正面図である。
図3】第1の銅製部材の構成を示す図であり、(A)が斜視図であり、(B)が断面図である。
図4】第2の銅製部材の構成を示す図であり、(A)が斜視図であり、(B)が断面図である。
図5】スラグ排出孔構造の斜視図であり、第1の銅製部材と第2の銅製部材に接続された給水配管同士、第1の銅製部材と第2の銅製部材に接続された排水配管同士が、結束部材で結束されている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0024】
≪1.スラグ排出孔構造≫
本実施の形態に係るスラグ排出孔構造は、金属製錬プロセスにおいて使用される電気炉の側壁に設けられた、熔融スラグを電気炉外に排出するスラグ排出孔の構造体である。電気炉内では、投入された金属原料に電気エネルギーが加えられて熔体の層が形成され、その熔体層においては、比重差により、上層に熔融スラグが、下層に熔融金属が分離する。
【0025】
スラグ排出孔構造は、内部において形成される熔融スラグの層の位置に相当する電気炉の高さ位置の側壁に設けられる、熔融スラグを排出するための排出孔の構造体である。
【0026】
図1は、電気炉の側壁の断面図であり、本実施の形態に係るスラグ排出孔構造の段面を模式的に示す図である。図1に示すように、スラグ排出孔構造2は、電気炉1の側壁10に設けられる構造体であり、具体的にスラグ排出孔構造2は、電気炉1の内部側(図1向かって右側)に位置するスラグ流入口21と、電気炉1の外部側(図1向かって左側)に位置するスラグ流出口22と、スラグ流入口21とスラグ流出口22とを連通するスラグ流路23と、を備えている。
【0027】
電気炉1の側壁10において、スラグ排出孔構造2の周囲には、カーボンブロック11と角ジャケット12とが設けられており、さらにその周囲には銅ブロック(銅クーラー)13が設けられている。スラグ排出孔構造2を通って排出される熔融スラグは、高温のものであるため、スラグ排出孔構造2の周囲にこれら部材を包囲させることによって、電気炉1の側壁10を構成している耐火物14の熱損耗を防ぐようにしている。耐火物14の表面(電気炉1の外部表面)は、鉄皮15で構成されている。
【0028】
また、図2は、電気炉1の側壁に設けられるスラグ排出孔構造2の正面図である。なお、図2は、電気炉1の側壁の一部分を示すものであり、スラグ排出孔構造2に対して銅ブロックより外側の部分の構成は省略している。
【0029】
[スラグ流入口]
スラグ流入口21は、電気炉1の内部側に位置し、当該スラグ排出孔構造2に対して熔融スラグが流入する入口を構成する。例えば、図1に示すように、スラグ流入口21は、電気炉1の側壁を構成するカーボンブロック11の隙間11gと連続して設けられている。なお、カーボンブロック11により構成される隙間11gの大きさは、電気炉1の大きさ等により適宜設定でき特に限定されないが、例えば80mm〜130mm程度である。
【0030】
詳しくは後述するが、スラグ流入口21は、主として第2の銅製部材32により構成されており、略円筒形の第2の銅製部材32の孔の径(孔径)により、スラグ流入口21の口径が決定される。
【0031】
[スラグ流出口]
スラグ流出口22は、電気炉1の外部側に位置し、当該スラグ排出孔構造2から熔融スラグが流出する出口を構成する。
【0032】
詳しくは後述するが、スラグ流出口22は、第1の銅製部材31により構成されており、略円筒形の第1の銅製部材31の孔の径(孔径)により、スラグ流出口22の口径が決定される。
【0033】
[スラグ流路]
スラグ流路23は、スラグ流入口21とスラグ流出口22とを連通して、電気炉1の内部からスラグ流入口21を介して流入した熔融スラグを、スラグ流出口22を経て電気炉1の外部へ排出する流路を構成する。
【0034】
ここで、スラグ流路23の内壁には、略円筒形の第1の銅製部材31が組み込まれている。また、さらにその第1の銅製部材31の孔の内壁には、略円筒形の第2の銅製部材32が組み込まれている。そして、その第2の銅製部材32の孔の内壁が、熔融スラグの流路の一部を構成している。
【0035】
(第1の銅製部材)
第1の銅製部材31は、銅を含む金属材料からなり、内部に中空部を有する略円筒形の形状の部材である。図3は、第1の銅製部材31の構成を示す図であり、(A)が斜視図であり、(B)が断面図である。上述のように、第1の銅製部材31は、略円筒形の部材であり、電気炉1の炉内側端部31aと炉外側端部31bとを連通するように軸方向に、所定の径の孔31hが設けられている。
【0036】
第1の銅製部材31は、スラグ流路23を構成し、スラグ流入口21から流入した熔融スラグを、軸方向に設けられた孔31hを介して通過させる。なお、第1の銅製部材31においては、炉内側端部31aの孔径よりも炉外側端部31bの孔径の方がやや大きい。
【0037】
また、第1の銅製部材31の炉外側端部31bの上部には、第1の銅製部材31の内部に冷却水を供給するために給水口31iと、その内部から冷却水を排出するための排水口31oとが設けられている。給水口31iと排水口31oには、それぞれ、冷却水を供給するための配管(給水配管)41と、冷却水を排出するための配管(排水配管)42が接続されるように構成されている(図2図5も参照)。なお、図1及び図3(B)の断面図では、排水口31oの断面と、その排水口31oに接続される排水配管42を示す。
【0038】
第1の銅製部材31は、上述のようにスラグ流路23を構成するものであり、スラグ流路23において交換可能に設けられている。すなわち、第1の銅製部材31において、熔融スラグが接触する孔31hの内壁が、その熔融スラグの熱負荷により損耗等が生じた場合に、あるいは定期的なタイミングで、新規の部材(第1の銅製部材31)に交換することが可能なように、容易に着脱できるようになっている。
【0039】
(第2の銅製部材)
第2の銅製部材32は、第1の銅製部材31と同様に、銅を含む金属材料からなり、内部に中空部を有する略円筒形の形状の部材である。図4は、第2の銅製部材32の構成を示す図であり、(A)が斜視図であり、(B)が断面図である。上述のように、第2の銅製部材32は、略円筒形の部材であり、電気炉1の炉内側端部32aと炉外側端部32bとを連通するように軸方向に、所定の径の孔32hが設けられている。
【0040】
なお、第2の銅製部材32においては、炉内側端部32aの孔径よりも炉外側端部32bの孔径の方がやや大きい。
【0041】
図1に示すように、第2の銅製部材32の軸方向の長さ(炉内側端部32aから炉外側端部32bまでの長さ)は、第1の銅製部材31の軸方向の長さよりも短く、例えばおよそ第1の銅製部材31の長さの半分程度〜1/3程度の長さである。
【0042】
第2の銅製部材32は、スラグ流路23を構成する第1の銅製部材31の孔31hの内壁に組み込まれている。特に、図1の断面図に示すように、第2の銅製部材32は、第1の銅製部材31の炉内側端部31aの側の末端に組み込まれて設けられており、第1の銅製部材31の炉内側端部31aの面と第2の銅製部材32の炉内側端部32aの面とが、断面視したときに面一の状態となっている。
【0043】
このように、第2の銅製部材32は、第1の銅製部材31の孔31hの内壁の一部に組み込まれており、これにより、第2の銅製部材32の孔32hの内壁が、熔融スラグの流路の一部を構成するようになっている。
【0044】
また、第2の銅製部材32は、第1の銅製部材31の炉内側端部31aの側の末端に設けられており、当該スラグ排出孔構造2のスラグ流入口21を主として構成している。したがって、第2の銅製部材32は、電気炉1の内部から当該スラグ排出孔構造2に流入するスラグ流量、言い換えると、当該スラグ排出孔構造2により電気炉1から排出する熔融スラグの流量を調整する部材となっている。なお、熔融スラグの流量調整については、後で詳述する。
【0045】
また、第2の銅製部材32の炉外側端部32bの上部には、第2の銅製部材32の内部に冷却水を供給するために給水口32iと、その内部から冷却水を排出するための排水口32oとが設けられている。給水口32iと排水口32oには、それぞれ、冷却水を供給するための配管(給水配管)51と、冷却水を排出するための配管(排水配管)52が接続されるように構成されている(図2図5も参照)。なお、図1及び図4(B)の断面図では、排水口32oの断面と、その排水口32oに接続される排水配管52を示す。
【0046】
第2の銅製部材32は、上述のように第1の銅製部材31の内壁に組み込まれてスラグ流路23の一部を構成するものであり、交換可能に設けられている。すなわち、第2の銅製部材32において、熔融スラグが接触する孔32hの内壁が、その熔融スラグの熱負荷により損耗等が生じた場合に、あるいは定期的なタイミングで、新規の部材(第2の銅製部材32)に交換することが可能なように、容易に着脱できるようになっている。
【0047】
ここで、図4(C)は、図4(B)に示す第2の銅製部材32によりも、炉内側端部32aにおける孔32hの径(孔径)が小さい第2の銅製部材32’の態様を示す断面図である。すなわち、第2の銅製部材32’の中空部の断面積が小さい。第2の銅製部材32,32’は、上述のように、当該スラグ排出孔構造2のスラグ流入口21を主として構成し、排出する熔融スラグの流量を調整する部材となっている。そして具体的に、その熔融スラグの流量の調整は、炉内側端部32aにおける孔32hの径を調整することで行われる。
【0048】
図4(C)に示す第2の銅製部材32’は、図4(B)に示す第2の銅製部材32によりも、炉内側端部32aにおける孔32hの径が小さいことから、その炉内側端部32aの孔32hを通過するスラグの流量は、第2の銅製部材32よりも少なくなる。また、そのスラグ流量は、炉内側端部32aの孔32hの径をさらに小さくするほど少なくすることができる。
【0049】
この第2の銅製部材32,32’のように、炉内側端部32aの孔32hの径が異なるように調整した複数の部材(第2の銅製部材)を準備しておき、例えば、電気炉1から排出する熔融スラグの粘度に応じて第2の銅製部材32,32’を適宜交換することで、適度な量の熔融スラグを安定的に排出させることができる。
【0050】
第2の銅製部材32において、炉内側端部32aの孔32hの径を小さくする方法(例えば第2の銅製部材32’を作製する方法)は、特に限定されないが、孔32hの内壁のうち炉内側端部32aの側の内壁の所定の範囲に硬化肉盛り溶接を施して硬化肉盛り部33を形成することによって行うことができる。このような硬化肉盛り溶接によれば、その溶接厚みを制御することによって、容易に孔径を調整することができる。
【0051】
(第1の銅製部材と第2の銅製部材の冷却について)
上述したように、第1の銅製部材31と第2の銅製部材32においては、それぞれ、炉外側端部31b,32bの上部に、内部に冷却水を供給するために給水口31i,32iと、その内部から冷却水を排出するための排水口31o,32oとが設けられている。そして、図1図2、及び図5に示すように、給水口31i,32iにはそれぞれ、冷却水を供給するための給水配管41,51が正面から接続され、排水口31o,32oにはそれぞれ、冷却水を排出するための排水配管42,52が正面から接続されている。
【0052】
図3(B)、図4(B)に示すように、第1の銅製部材31と第2の銅製部材32のそれぞれは、銅製部材の内部(略円筒形の銅枠の内部)が空洞となっている。給水口31i,32iを介して給水された冷却水は、内部の空洞の中を、略円筒形を構成する銅枠を周るように流れて、排水口31o,32oから排出される。このようにして、空洞の内部を、給水口31i,32iから排水口31o,32oへと冷却水が流れることによって、第1の銅製部材31、第2の銅製部材32が冷却され、熱負荷による損耗等を防ぐことができるようになっている。なお、給水口31i,32iと排水口31o,32oとの間には、図示しない隔壁が設けられ、冷却水の給水と排出が区別されている。
【0053】
また、第1の銅製部材31と第2の銅製部材32においては、上述のように、給水口31i,32iに対して正面から給水配管41,51が接続されており、排水口31o,32oに対して正面から排水配管42,52が接続されている。すなわち、第1の銅製部材31と第2の銅製部材32のそれぞれは、給水配管41,51と排水配管42,52とによって、炉外側から炉内側の方向に押されるように構成されている。
【0054】
特に、第2の銅製部材32は、当該スラグ排出孔構造2のスラグ流入口21を主として構成しており、電気炉1の内部からの所定量の熔融スラグの流出(排出)に伴って炉内側から炉外側の方向に押し出される力が働く。熔融スラグの流出に伴う押し出し力によって第2の銅製部材32が押し出されて設置位置がずれたり、抜け落ちてしまうと、スラグ流量を適切に調整することができない。この点、第2の銅製部材32の炉外側端部32bの上部に設けられている給水口32iと排水口32oの正面から、それぞれ、給水配管51と排水配管52が接続されていることにより、熔融スラグによる押し出し力に対向することができ、第2の銅製部材32が押し出されてしまうことを防ぐことができる。
【0055】
さらに図5に示すように、第1の銅製部材31と第2の銅製部材32に接続された給水配管41,51同士、第1の銅製部材31と第2の銅製部材32に接続された排水配管42,52同士が、結束部材60で結束されている。言い換えると、第2の銅製部材32に接続された給水配管51は、第1の銅製部材31に接続された給水配管51と結束部材で結束されており、第2の銅製部材32に接続された排水配管52は、第1の銅製部材31に接続された排水配管52と結束部材で結束されている。
【0056】
このように、第2の銅製部材32は、その正面から接続された給水配管51と排水配管52によって熔融スラグによる押し出しに対向できるようになっているとともに、さらに第1の銅製部材31の給水配管41と排水配管42とそれぞれ結束されていることで、給水配管51と排水配管52を強固に固定でき、熔融スラグによる押し出しへの対向力を高めることができる。
【0057】
≪2.スラグ排出方法≫
次に、スラグ排出孔構造2によって電気炉1の内部に生成した熔融スラグを電気炉1から排出する方法について説明する。
【0058】
本実施の形態に係るスラグ排出孔構造2は、内部において形成される熔融スラグの層の位置に相当する電気炉1の高さ位置の側壁に設けられている。また、電気炉1の外部には、スラグ排出孔構造2に連続するように、スラグ樋(図示しない)が設置されており、スラグ排出孔構造2から排出された熔融スラグは、水砕設備等の次工程の処理設備に移送される。
【0059】
スラグ排出孔構造2は、上述したように、スラグが流通するスラグ流路23の内壁に略円筒形の第1の銅製部材31が組み込まれており、さらにその第1の銅製部材31の孔31hの内壁の一部に略円筒形の第2の銅製部材32が組み込まれており、第2の銅製部材32の孔32hの内壁が、熔融スラグの流路の一部を構成している。
【0060】
図1の断面図に示したように、第2の銅製部材32は、第1の銅製部材31の炉内側端部31aの側の末端に組み込まれて設けられており、当該スラグ排出孔構造2のスラグ流入口21を主として構成している。したがって、電気炉1から排出される熔融スラグは、先ず、当該スラグ排出孔構造2の末端の位置するスラグ流入口21を構成する第2の銅製部材32を通過し、その後、スラグ流路23を構成する第1の銅製部材31を通って、スラグ流出口22から電気炉1の外に排出される。
【0061】
さて、電気炉1の内部に生成する熔融スラグは、電気炉1に投入された原料の組成等によって、その粘度が変動することが知られている。そのため、生成した熔融スラグを電気炉1から排出するに際して、一定の操業方法(排出方法)で熔融スラグを排出した場合、所定より高粘度の熔融スラグであれば排出時間が長くなり、所定より低粘度の熔融スラグであれば排出流量が増加して、スラグ樋の許容量を超えて周辺にも熔融スラグが溢れてしまう可能性がある。
【0062】
そこで、本実施の形態に係るスラグ排出方法においては、孔径の異なる複数の第2の銅製部材32を準備しておき、排出する熔融スラグの粘度に応じて、所定の孔径の第2の銅製部材32を選択して使用することにより、そのスラグ排出孔構造2からの熔融スラグの排出量を調整することを特徴としている。
【0063】
具体的には、第2の銅製部材として、例えば、図4(B)に断面図を示す第2の銅製部材32と、図4(C)に断面図を示す第2の銅製部材32’の2種類を準備しておく。第2の銅製部材32’は、孔32hの内壁のうち炉内側端部32aの側の内壁に硬化肉盛り部33が形成されており、その孔径が図4(B)の第2の銅製部材32よりも小さい。
【0064】
そして、電気炉1内に投入した原料組成に応じて、排出する熔融スラグの粘度が所定以上に高い場合には、孔径が大きい第2の銅製部材32を使用し、排出する熔融スラグの粘度が所定より低い場合には、孔径が小さい第2の銅製部材32’を使用する。
【0065】
排出する熔融スラグの粘度が低い場合には、スラグ流量が多くなることが予想されるが、このとき、孔径を調整して孔径が小さい第2の銅製部材32’を介して排出するようにすることで、排出される熔融スラグの流量が過剰に増えることを有効に防ぐことができる。これにより、スラグ樋の許容量を超えて周辺にも熔融スラグが溢れてしまう事態を防ぐことができる。一方で、排出する熔融スラグの粘度が低い場合には、孔径が小さい第2の銅製部材32を介して排出するようにすることで、排出に要する時間が長期化することを防ぎ、操業効率の低下を抑えることができる。
【0066】
なお、第2の銅製部材32,32’の交換作業は、例えば以下のようにして、第2の銅製部材32から第2の銅製部材32’に交換することができる。
【0067】
すなわち、熔融スラグの排出作業中は、第2の銅製部材32の孔32hの内壁を熔融スラグが通過しているため、交換作業に際しては、まず、水冷ジャケット構造を有する水冷栓棒を第2の銅製部材32の孔径に挿入して、熔融スラグを冷却し固化させる。これにより、固化したスラグがキャップ代わりになり、スラグ排出孔構造2からの流出が止まる。
【0068】
次に、第2の銅製部材32の周辺が十分に冷却されたら、その第2の銅製部材32への冷却水の給排水を停止し、給水配管51及び排水配管52を取り外す。その後、第2の銅製部材32に対して適度な打撃や動揺(こじり)を付与して、第1の銅製部材31から第2の銅製部材32を取り外すとともに、孔径がより小さい第2の銅製部材32’を取り付け、交換する。
【0069】
以後は逆の手順で、給水配管51及び排水配管52を取り付け、冷却水の給排水を再開する。なお、熔融スラグの排出作業は、キャップ代わりとなるように固化させたスラグをドリル等の工具を使用して破砕することによって孔32hを開通することにより、再開させることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 電気炉
2 スラグ排出孔構造
10 (電気炉の)側壁
11 カーボンブロック
12 角ジャケット
13 銅ブロック
14 耐火物
15 鉄皮
21 スラグ流入口
22 スラグ流出口
23 スラグ流路
31 第1の銅製部材
32,32’ 第2の銅製部材
31a,32a 炉内側端部
31b,32b 炉外側端部
31h,32h 孔
31i,32i 給水口
31o,32o 排水口
33 硬化肉盛り部
41,51 給水配管
42,52 排水配管
60 結束部材
図1
図2
図3
図4
図5