【解決手段】透明基板10の両面に複数のマイクロレンズセル11が配列された拡散板1であって、透明基板10の一方の面に形成され、凹形状又は凸形状の複数のマイクロレンズセル11からなる第1マイクロレンズアレイ12Aと、一方の面とは反対側の他方の面に形成され、凹形状又は凸形状の複数のマイクロレンズセル11からなる第2マイクロレンズアレイ12Bと、を有し、第1マイクロレンズアレイ12Aを構成するマイクロレンズセル11から出射した光が、第2マイクロレンズアレイ12Bを構成するマイクロレンズセル11に入射するように構成される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る拡散板を模式的に示した平面図であり、
図2は、上記実施形態に係る拡散板を模式的に示した断面図である。
本実施形態に係る拡散板1は、基板両面に複数のマイクロレンズセル(以下、レンズセル)11が配置されたマイクロレンズアレイ型の両面拡散板である。拡散板1は、透明基板10と、透明基板10の両面に形成された複数のレンズセル11からなる第1マイクロレンズアレイ(以下、第1レンズアレイ)12Aと、第2マイクロレンズアレイ(以下、第2レンズアレイ)12Bを有している。なお、一般に拡散板1は、複数の単位セル(図示せず)から構成されるが、
図1では、その単位セルにおいて矩形状に切り出した一部を模式的に示している。
【0018】
<透明基板10>
透明基板10は、本実施形態に係る拡散板1に入射する光の波長帯域において、透明とみなすことが可能な材質からなる基板である。この基板材料については、例えば、公知の樹脂材料であってもよいし、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、白板ガラス等の無機材料からなる公知の光学ガラスであってもよい。しかし、基板材料は、レンズ部分(複数のレンズセル11)を含む全体が、無機材料のみからなることが好ましい。拡散板1の基板材料が無機材料のみからなることにより、特に入射光として高出力のレーザ光を用いる場合に、有機材料の変質による拡散特性の劣化を生じることがない。透明基板10の外形形状は特に限定されず、例えば拡散板1が実装される投影装置、表示装置、照明装置等の光学機器の形状に応じて、任意の形状とすることができる。
【0019】
<第1レンズアレイ12A、第2レンズアレイ12B>
拡散板1において、透明基板10の一方の面に、複数のレンズセル11からなる第1レンズアレイ12Aが形成され、この一方の面とは反対側の面である他方の面に、複数のレンズセル11からなる第2レンズアレイ12Bが形成されている。
図1及び
図2に示す第1レンズアレイ12A及び第2レンズアレイ12Bのいずれのレンズセル11も、それぞれ凹形状のレンズからなる凹レンズによって形成されているが、これに限定されず、第1レンズアレイ12A及び第2レンズアレイ12Bのそれぞれのレンズセル11は、凸形状のレンズからなる凸レンズであってもよい。なお、本実施形態に示す拡散板1において、第1レンズアレイ12Aが配置される側の面が入射面、第2レンズアレイ12Bが配置される側の面が出射面とする。
【0020】
拡散板1の第1レンズアレイ12A及び第2レンズアレイ12Bにおけるレンズセル11の配置は、各レンズセル11の頂点が多角形に配置される多角配置とされる。また、
図1に模式的に示したように、それぞれ複数のレンズセル11は、互いに隣接するように(換言すれば、隣接するレンズセル11、11間に非レンズ領域となる隙間(平坦部)が存在しないように)配置される。透明基板10の両面にそれぞれレンズセル11を隙間なく配置させる(換言すれば、レンズセル11の充填率が100%となるように配置させる)ことで、入射光のうち拡散板1で散乱せずにそのまま透過してしまう成分を抑制することが可能となる。その結果、複数のレンズセル11が隙間なく互いに隣接するように配置された第1レンズアレイ12A及び第2レンズアレイ12Bを有する拡散板1は、拡散性能を更に向上させることが可能となる。
【0021】
また、拡散板1の第1レンズアレイ12A及び第2レンズアレイ12Bにおいて、隣接するレンズセル11、11のレンズ間ピッチは、入射光径よりも小さい。具体的には、レンズ間ピッチは、概ね入射光径の1/3以下とする。特にレーザ光を入射光とする拡散板1の使用条件では、入射光径は最大でも3mm程度と考えられる。従って、レンズ間ピッチが1mm以下であれば、どのようなレーザ光源に対しても好適に使用可能な拡散板1が得られる。
【0022】
本実施形態における拡散板1では、第1レンズアレイ12A及び第2レンズアレイ12Bをそれぞれ構成するレンズセル11は、以下に示す3つの条件を満足するように配設されている。
(1)単位セルの4辺の境界は、アレイ配列でパターンに不連続が生じないこと。
(2)各レンズセル11の頂点の平面位置及び高さ位置(換言すれば、凹レンズの深さの最も低い位置)と、隣接するレンズセル11、11のレンズ間稜線とは、回折が十分抑圧されるように不規則(ランダム)化されていること。
(3)非拡散透過光を抑圧するため、隣接するレンズセル11、11間に非レンズ領域が生じないようにすること。
【0023】
ここで、「不規則(ランダム)」とは、拡散板1における第1レンズアレイ12A及び第2レンズアレイ12Bの任意の領域において、レンズセル11の配置に関する規則性(周期性)が実質的に存在しないことを意味する。従って、任意の領域でも微小領域においてレンズセル11の配置にある種の規則性(周期性)が存在したとしても、任意の領域全体としてレンズセル11の配置に規則性(周期性)が存在しないものは、「不規則(ランダム)」に含まれるものとする。また、第1レンズアレイ12A及び第2レンズアレイ12Bは、レンズセル11の配置に加えて、レンズセル11の曲率半径、レンズセル11の深さ(高さ)の少なくともいずれか一方が「不規則(ランダム)」であってもよい。
【0024】
上記の3つの条件を満たすようにレンズセル11が配置された、本実施形態における拡散板1の第1レンズアレイ12A及び第2レンズアレイ12Bにおいて、互いに隣り合うレンズセル11、11間の稜線は、全て互いに平行ではなく、かつ、透明基板10に対して平行ではないようになっている。レンズセル11、11間で互いに平行な稜線が存在する場合、回折光成分が増加してしまうからである。
【0025】
ここで、「稜線」とは、複数のレンズセル11が隣接している隣接レンズ境界部にあって、レンズセル11の曲率半径が急激に変化している線状の領域を指すものとする。このような稜線の幅は、通常光の波長程度以下であるが、この稜線の幅は、エッチング等のプロセス条件で回折光が適切な大きさとなるよう制御される。また、「平行ではない」とは、平行か否かを判断する2つの線のうちの少なくとも一方が、曲線である場合を含むものとする。具体的には、隣接するレンズセル11によって囲まれるレンズセルの領域は、レンズセル11の光軸方向から見ると多角形となり、多角形の各辺は、レンズセル11の断面から見ると曲線となる。
【0026】
<入射面のレンズセル11と出射面のレンズセル11との関係性>
本発明に係る拡散板1は、第1レンズアレイ12Aを構成するレンズセル11から出射した光が、透明基板10の内部を透過して、第2レンズアレイ12Bを構成するレンズセル11に入射するように構成される。即ち、第1レンズアレイ12Aを構成するレンズセル11から出射した光は、第2レンズアレイ12Bを構成するレンズセル11の周囲を画成する稜線の内側のレンズ領域を通過する。
【0027】
第1レンズアレイ12Aのいずれか1つのレンズセル11から出射した光が入射する第2レンズアレイ12Bのレンズセル11は、少なくとも1つあればよい。即ち、第1レンズアレイ12Aの1つのレンズセル11から出射した光は、第2レンズアレイ12Bの少なくとも1つのレンズセル11に入射し、その第2レンズアレイ12Bのレンズセル11から拡散板1の出射面側に出射する。光は、第1レンズアレイ12Aのレンズセル11によって拡散された後、第2レンズアレイ12Bのレンズセル11によって更に拡散されることになるため、スペックルノイズは低減される。しかも、拡散板1は、透明基板10の一方の面に第1レンズアレイ12Aを有し、他方の面に第2レンズアレイ12Bを有するので、例えば
図8に示す光学機器100の拡散板101、102のように、離間して独立に配置される2枚の拡散板を光が順次透過する場合の透過率(約99%)に比較して、高い透過率(約99.5%)を有することができる。
【0028】
次に、この拡散板1における入射面のレンズセル11と出射面のレンズセル11との関係性について、更に
図3、
図4を用いて説明する。
図3、
図4は、本実施形態に係る拡散板1の入射面のレンズセル11と出射面のレンズセル11との関係性を説明する模式図である。
図3は、入射面のレンズセル11が凹レンズである場合を示し、
図4は、入射面のレンズセル11が凸レンズである場合を示す。
本実施形態に係る両面にレンズセル11がそれぞれランダムに配置された拡散板1において、出射面である第1レンズアレイ12Aの拡散角(半値全幅)は、レンズセル11の平均ピッチ(レンズセル11の頂点間の平均距離)P
1、透明基板10の屈折率n、レンズセル11の平均曲率半径R
1を用いると、以下の式1で表される。
【0030】
また、出射面(第1レンズアレイ12Aが配置される側の面)にランダムに形成されたレンズセル11の焦点距離f
1は、以下の式2で表される。
【0032】
ここで、
図3に示すように、入射面のレンズセル11が凹レンズであり、出射面のレンズセル11が凸レンズ又は凹レンズである場合、出射面のレンズセル11の平均ピッチ(レンズセル11の頂点間の平均距離)をP
2、透明基板10の厚みをtとすると、スペックルノイズをより好適に低減させる条件は、以下の式3で表される。
【0034】
入射面のレンズセル2は凹レンズからなるため焦点距離は負となるので、式3に式1及び式2を代入すると、以下の式4となる。
【0036】
一方、
図4に示すように、入射面のレンズセル11が凸レンズであり、出射面のレンズセル11が凸レンズ又は凹レンズである場合、出射面のレンズセル11の平均ピッチ(レンズセル11の頂点間の平均距離)をP
2、透明基板10の厚みをtとすると、スペックルノイズをより好適に低減させる条件は、入射面のレンズセル2が凸レンズからなるため焦点距離は正となるので、式3に式1及び式2を代入すると、以下の式5となる。
【0038】
拡散板1において、入射面の第1レンズアレイ12Aのレンズセル11と出射面の第2レンズアレイ12Bのレンズセル11とが、上記の式4又は式5の条件を満たすことにより、第1レンズアレイ12Aのレンズセル11から出射した拡散光は、確実に第2レンズアレイ12Bのいずれか1つ以上のレンズセル11に入射し、そのレンズセル11で更に拡散されて出射することになる。従って、拡散板1は、光の拡散効率が高く、スペックルノイズをより好適に低減させることができる。
【0039】
<レンズ配置の不規則(ランダム)化>
図5を用いて、レンズセル11を不規則(ランダム)配置させる方法の一例について説明する。
先ず、レンズセル11の不規則(ランダム)配置の基準となる、規則性を有するレンズ配置に着目する。このような規則性を有するレンズ配置としては、レンズセルの頂点位置が正方形状に配置される四角配置や、正六角形の頂点及び正六角形の中心に対応する位置に単レンズの頂点位置が配置される六角配置等の多角形に配置される。
図5では、レンズセルの頂点位置が六角配置される場合を、基準となるレンズ配置として黒丸で示している。その上で、規則的なレンズセルの頂点位置を初期値として、この初期値の位置から半径Δrの範囲内で、レンズセルの頂点位置をランダムに変位させる。この配置方法によれば、基準となる位置からのレンズセルの頂点位置のズレ方向と、基準となる位置からのレンズセルの頂点位置のズレ量と、に対して、2つの不規則(ランダム)性が導入されることとなる。このとき、出射面である第2レンズアレイ12Bを構成するレンズセル11のピッチ(P
2)について、上記の式4又は式5を満足させることにより、スペックルノイズをより好適に低減させることができる。
【0040】
<レンズセル11の形状>
拡散板1において、第1レンズアレイ12Aを構成するレンズセル11の形状は、円形又は楕円形であってよく、また、第2レンズアレイ12Bを構成するレンズセル11の形状も、円形又は楕円形であってよい。即ち、拡散板1の各面に配置されるレンズセル11の形状は、一般的な円形状に限定されず、楕円形状であってもよい。なお、レンズセル11の形状が円形又は楕円形であるとは、レンズセル11の光軸を透過した光の強度分布が円形又は楕円形となることを意味する。
【0041】
レンズセル11が楕円形である場合は、拡散板1の同一面に配置される全てのレンズセル11の長軸方向と短軸方向がそれぞれ揃うように各レンズセル11が配向される。また、拡散板1の第1レンズアレイ12Aを構成するレンズセル11の形状と第2レンズアレイ12Bを構成するレンズセル11の形状がいずれも楕円形である場合は、第1レンズアレイ12Aを構成するレンズセル11の長軸方向及び短軸方向と、第2レンズアレイ12Bを構成するレンズセル11の長軸方向及び短軸方向とは、それぞれ90°ずれるように配向される。これにより、レンズセル11が楕円形の場合でも、拡散板1から出射される拡散光の拡散角の分布は、レンズセル11が円形の場合と同等に、XY方向で均一となり、良好な拡散性が得られる。
【0042】
<反射防止膜>
拡散板1には、
図2に示すように、その両面に透過率の増加や反射迷光の防止等の点で、ARコート(Anti-Reflection Coating)と呼ばれる反射防止膜13を形成することができる。反射防止膜13としては、例えば、SiO
2、Al
2O
3、MgF
2、CeO
2、TiO
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、Y
2O
3、Tb
2O
3、ZnS、ZrO
2等の一般的な誘電体透明膜が使用可能である。特に入射光が高出力レーザ等による高い光密度となる場合では、例えばTa
2O
5やSiO
2等の耐光性の高い材料を用いることが好ましい。また、拡散板1に対する反射防止膜13の成膜では、表面にレンズセル11による凹凸があるため、膜厚がレンズセル11の中心部と周縁部とで異なってしまう場合がある。また、レンズセル11の中心部と周縁部では入射光の入射角は異なっているために、設計で想定する角度範囲を通常よりも広くとる等の工夫が必要となる。
【0043】
<拡散板1の製造方法>
次に、以上説明した本実施形態に示す拡散板1の製造方法の一例について、
図6A、
図6Bを用いて簡単に説明する。
本実施形態に示す拡散板1は、主として、基板洗浄工程、レジスト塗布工程、露光工程、現像工程、エッチング工程を経て製造される。即ち、本実施形態に示す拡散板1は、透明基板上にレジストを形成した後、レジストを露光、現像することによってレンズセル11となるパターンを形成し、そのパターンをエッチングによって基板上に転写することで製造される。
【0044】
先ず、
図6Aにおいて、基板洗浄工程では、基板材料となるガラス基板等の透明基板10が、洗浄剤によって洗浄される。洗浄後の透明基板10を乾燥させた後、レジスト塗布工程において、透明基板10の一方の面にレジストが塗布される。レジスト塗布工程では、有機材料によって構成される例えばフォトレジスト等のレジスト14が、透明基板10の一方の面に塗布される。
【0045】
露光現像後のレジスト14は、後述するエッチング工程においてエッチングガスによってドライエッチングされる。エッチングガスとして一般的にはCF
4、SF
6、CHF
3等のフッ素系エッチングガスが用いられるため、透明基板10としては、上記のようなフッ素系エッチングガスと反応して不揮発性物質となるAl
2O
3やアルカリ金属等のアルカリ成分を含有しない(または、アルカリ成分の含有量が20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である)石英ガラスやテンパックスガラス等を用いることが好ましい。例えば、Al
2O
3を27%含有し、アルカリ金属を全く含まないガラス基板(例えば、コーニング社の製品名:イーグルXG等)を上記のようなフッ素系エッチングガスを用いてドライエッチングすると、表面にエッチングされないAl
2O
3の微小突起が発生して、透過率が低下する場合がある。
【0046】
次いで、透明基板10の一方の面に塗布されたレジスト14に対して、グレースケールマスクを用いて所望パターンの露光を実施する。グレースケールマスクを用いた露光は、マスク部分の濃淡によって光の透過量を制御するものである。即ち、光の透過量の大きい部分はレジスト14の深くまで露光され、光の透過量の小さい部分はレジスト14の浅いところまでしか露光されない。グレースケールマスクを用いた露光では、このようにしてレジスト14に対してランダムな3次元の露光を行う。レジスト14において露光により感光したレジスト部分15は、次の現像工程によって容易に除去される。
【0047】
現像工程では、透明基板10上のレジスト14において、露光工程で露光により感光した不要なレジスト部分15を現像して除去する。これにより、透明基板10の一方の面に、レンズセルに対応する凹部がランダム配置された所望のレンズセルパターン16が形成される。
【0048】
次いで、エッチング工程では、現像が終了して一方の面にレンズセルパターン16が形成された透明基板10に対して、上記のようなフッ素系エッチングガスを用いてドライエッチングを実施する。これにより、レジスト40によって形成されたレンズセルパターン16が透明基板10に転写され、一方の面に、複数のレンズセル11がランダム配置された第1レンズアレイ12Aを有する透明基板10が得られる。
【0049】
ここで、透明基板10に転写されるレンズセルパターン16の形状は、グレースケールマスク露光の条件だけではなく、ドライエッチングの条件も加味して決定される。ドライエッチングにおけるレジスト14のエッチング速度と透明基板10(例えばガラス等)のエッチング速度との比(=透明基板のエッチング速度/レジストのエッチング速度)を、「エッチング選択比」とすると、エッチング工程における各エッチングガスの流量比率を調節することで、このエッチング選択比を変化させることが可能である。これにより、転写するレンズ形状(例えば、レンズセル11の曲率半径)の微調整を行うことが可能である。
【0050】
具体的には、エッチングガスとしてCF
4、Ar、O
2を用いる場合、流量比(=「CF
4ガスの流量/Arガスの流量」)を0.25〜4の範囲で変化させると、上記のようなエッチング選択比は、1.0〜1.7まで変化する。更に、この状態でO
2ガスを3%〜10%添加すると、上記のようなエッチング選択比を0.7〜1.0まで低減することができる。このように、エッチングガスの条件によって、上記のようなエッチング選択比を0.7〜1.7まで変化させることが可能である。このような現象は、グレースケール露光で得られたレンズセルパターン16の曲率半径を、エッチングによって70%〜170%の範囲で調整可能であることを意味している。
【0051】
次いで、透明基板10の他方の面にもランダム配置された複数のレンズセル11を形成する。本実施形態に示す拡散板1は、透明基板10の両面にそれぞれレンズセル11がランダム配置される両面拡散板であるため、上記の工程を経て得られた透明基板10の他方の面にも、上記と同様の工程によってレンズセル11をランダム配置させる。即ち、
図6Bに示すように、透明基板10の他方の面にも、
図6Aと全く同様にして基板洗浄工程、レジスト塗布工程、露光工程、現像工程、エッチング工程を実施する。これにより、透明基板10の他方の面にも、複数のレンズセル11がランダム配置された第2レンズアレイ12Bが形成された本実施形態に示す拡散板1が得られる。
【0052】
その後、ARコート工程が実施される。ARコート工程では、第1レンズアレイ12A及び第2レンズアレイ12Bが形成された拡散板1の両面に対して、上記のような誘電体を用いて蒸着又はスパッタリングにより反射防止膜13を形成する。
【0053】
なお、以上の製造方法では、1枚の透明基板10の両面にそれぞれレジスト塗布工程、露光工程、現像工程、エッチング工程を実施することによって、1枚の透明基板10の両面にレンズセル11がランダム配置された拡散板1を製造するようにしたが、これに限定されない。例えば、
図6Aに示す製造工程によって得られた片面のみにレンズセル11を有する透明基板10を2枚用意し、レンズセル11が形成された面を外側に向けて2枚の透明基板10、10同士を接合一体化することにより、一体化されて1枚となった透明基板10の両面にレンズセル11がランダム配置された拡散板1を製造するようにしてもよい。
【0054】
また、以上の説明では、第1レンズアレイ12Aと第2レンズアレイ12Bの両方のレンズセル11がランダム配置される拡散板1を例示したが、これに限定されない。拡散板1は、第1レンズアレイ12Aと第2レンズアレイ12Bのうちの少なくとも一方のレンズセル11がランダム配置されるものであればよい。
【0055】
<光学機器>
本発明に係る拡散板1は、光源からの光を拡散させる必要がある光学機器に実装される。このように光源からの光を拡散させる必要がある光学機器としては、例えば、プロジェクタ等の投影装置、ヘッドアップディスプレイ等の表示装置、各種照明装置等を挙げることができる。特に、本発明に係る拡散板1は、色ムラの発生が問題視される用途の光学機器に好適に使用することができる。
【0056】
図7は、拡散板1が実装された光学機器の一実施形態を模式的に示す図である。
この光学機器は、光源3、4として複数の青色LD(レーザダイオード)31、41を用いて、拡散された白色光を出射するように構成されるプロジェクタ2を例示しており、
図7では、そのプロジェクタ2の光照射部の構成を模式的に示している。
【0057】
プロジェクタ2において、一方の光源3の各青色LD31から出射された青色光L1は、出射面のみに拡散角5°の拡散特性を有する複数のレンズセルが配置された1枚の拡散板21を透過して拡散し、第1ダイクロイックミラー23に入射する。第1ダイクロイックミラー23は、青色光を反射させて黄色光を透過させる特性を有する。このため、第1ダイクロイックミラー23に入射した青色光L1は、第1ダイクロイックミラー23で反射され、蛍光体ホイール22に入射する。
【0058】
蛍光体ホイール22は、入射面に蛍光体層を有し、その蛍光体層に青色光L1が照射されることで励起され、黄色の蛍光からなる黄色光L2を発する。蛍光体ホイール22から発せられた黄色光L2は、第1ダイクロイックミラー23を透過し、第2ダイクロイックミラー24に入射する。第2ダイクロイックミラー24は、青色光を透過させて黄色光を反射させる特性を有する。このため、第2ダイクロイックミラー24に入射した黄色光L2は、第2ダイクロイックミラー24で反射される。
【0059】
また、他方の光源4の各青色LD41から出射された青色光L3は、本実施形態に係る1枚の拡散板1を透過して拡散される。
図7に示す拡散板1において、入射面(第1レンズアレイ12A)のレンズセル11は5°の拡散角を有し、出射面(第2レンズアレイ12B)のレンズセル11は10°の拡散角を有している。拡散板1を透過して拡散された青色光L3は、第2ダイクロイックミラー24を透過し、この第2ダイクロイックミラー24で反射された蛍光体ホイール22からの黄色光L2と混ざり合う。これにより、プロジェクタ2は白色に視覚される光を照射する。
【0060】
このような光照射部の構成を有するプロジェクタ2によれば、光源4の各青色LD41から出射した青色光L3が、本発明に係る拡散板1を透過することによって拡散されるので、スペックルノイズは低減される。このため、スペックルノイズに起因する色ムラの発生は抑制される。しかも、拡散板1は1枚の透明基板10の両面にレンズセル11が配置されているため、
図8に示す従来の光学機器100のように、それぞれ片面のみにレンズセルが配置された2枚の独立した拡散板101、102を離間させて設ける場合に比較して、高い透過率を有することができる。このため、このプロジェクタ2は、従来に比較して明るい光を照射可能となる。
【0061】
なお、
図8に示す従来の光学機器100において、
図7に示す本発明に係るプロジェクタ2と同一符号の部位は、同一構成の部位を示している。
図8に示す拡散板101は、出射面のみに拡散角5°の拡散特性を有する複数のレンズセルが配置されたものであり、拡散板102は、出射面のみに拡散角10°の拡散特性を有する複数のレンズセルが配置されたものである。
図7に示すプロジェクタ2は、これら2枚の拡散板101、102と同等の機能を1枚の拡散板1によって果たすことが可能であるため、プロジェクタ2は、光照射部の構成を簡素にすることができ、小型化、低コスト化を実現可能である。
【実施例】
【0062】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
ガラス基板からなる透明基板の両面に、それぞれ有機材料からなるレジストをグレースケールマスク露光及び現像することによって、所望のレンズセルの配列パターンに対応するレンズセルパターンを形成し、そのレンズセルパターンをドライエッチングすることによって透明基板へ転写し、入射面と出射面の両面にそれぞれ凹レンズからなるレンズセルがランダム配置されたレンズアレイを有する両面拡散板を作製した。
【0063】
入射面と出射面の距離、即ち透明基板の厚みtは14mmであり、屈折率nは1.48(波長λ:455nm)である。入射面と出射面のレンズセルの平均ピッチP
1、P
2はいずれも82μmであり、入射面のレンズセルの平均曲率半径R
1は1253μmである。また、入射面のレンズセルの焦点距離f
1は−1305.2μmである。この両面拡散板の入射面と出射面の拡散角を、浜松ホトニクス社製の拡散角測定機:半導体レーザプロファイラFFP測定システムで測定したところ、いずれも1.8°であった。なお、入射光はレーザダイオード(波長:450nm)を使用した。入射光の半径はφ1〜1.5mmであり、透明基板と測定機との距離は2.8mmである。
【0064】
この両面拡散板において、入射面のレンズセルを透過した光が、出射面の少なくとも1つ以上のレンズセルに入射するためには、上記式から、出射面のレンズセルの平均ピッチP
2は85μm以下である必要がある。得られた両面拡散板の出射面のレンズセルの平均ピッチP
2は82μmであるから、入射面から出た光は出射面の少なくとも1つ以上のレンズセルに入射して拡散されるものである。
この両面拡散板の拡散角強度分布を
図9Aに示し、そのX軸方向の拡散特性を
図9Bに示す。
【0065】
(比較例1)
実施例1と同様のガラス基板からなる透明基板の一方の面のみに、実施例1と同様にして、凹レンズからなるレンズセルがランダム配置されたレンズアレイを有する片面拡散板を作製した。この片面拡散板の拡散角を実施例1と同様に測定したところ、1.8°であった。
この片面拡散板の拡散角強度分布を
図10Aに示し、そのX軸方向の拡散特性を
図10Bに示す。
【0066】
<実施例1と比較例1の比較>
図9に示す実施例1と
図10に示す比較例1とを比較すると、比較例1では、実施例1に比べて明らかに輝点が多く、スペックルノイズが多く発生していることがわかる。従って、入射面のレンズセルから出射した光が出射面のレンズセルに入射するように構成される両面拡散板は、片面拡散板に比べて、スペックルノイズの低減効果に優れていることがわかる。
【0067】
(実施例2)
実施例1と同様のガラス基板からなる透明基板の両面に、実施例1と同様にして、それぞれ凹レンズからなるレンズセルがランダム配置されたレンズアレイを有する3種類の両面拡散板を作製した。この3種類の両面拡散板の拡散角を実施例1と同様に測定したところ、入射面がそれぞれ2°、5°、10°であり、出射面がいずれも10°であった。
【0068】
両面拡散板の仕様(透明基板の厚みt、屈折率n、レンズセルの平均ピッチP
1、P
2入射面のレンズセルの平均曲率半径R
1、入射面のレンズセルの焦点距離f
1)は実施例1と同一である。入射面と出射面のレンズセルの平均ピッチP
1、P
2が82μmである場合、上記式から、入射面の拡散角が1.68°以上であれば、出射面のレンズセルの平均ピッチP
2は82μm以上となり、入射面から出た光は、出射面の少なくとも1つ以上のレンズセルに入射して拡散されるものである。
入射面の拡散角が2°の両面拡散板の拡散角度強度分布を
図11Aに示し、そのX軸方向の拡散特性を
図11Bに示す。また、入射面の拡散角が5°の両面拡散板の拡散角度強度分布を
図12Aに示し、そのX軸方向の拡散特性を
図12Bに示す。更に、入射面の拡散角が10°の両面拡散板の拡散角度強度分布を
図13Aに示し、そのX軸方向の拡散特性を
図13Bに示す。
【0069】
(比較例2)
実施例2と同様のガラス基板からなる透明基板の一方の面のみに、実施例2と同様にして、凹レンズからなるレンズセルがランダム配置されたレンズアレイを有する片面拡散板を作製した。この片面拡散板の拡散角を実施例2と同様に測定したところ、入射面は無であり、出射面が10°であった。
この片面拡散板の拡散角度強度分布を
図14Aに示し、そのX軸方向の拡散特性を
図14Bに示す。
【0070】
<実施例2と比較例2の比較>
図11〜
図13に示す実施例2と
図14に示す比較例2とを比較すると、比較例2の拡散特性の方が、強度が上下に大きく振れる輝点が複数生じており、スペックルノイズが多く発生していることがわかる。従って、入射面のレンズセルから出射した光が出射面のレンズセルに入射するように構成される両面拡散板は、片面拡散板に比べて、スペックルノイズの低減効果に優れていることがわかる。また、
図11〜
図13から、入射面の拡散角が出射面の拡散角に近づくほど、拡散特性はTOPHAT型からガウシアン型になることがわかる。
【0071】
(実施例3)
楕円形のレンズセルを有する拡散板の拡散特性についてシミュレーション(ZEMAX社の製品名:OpticStudioを使用)した。
X軸方向の拡散角6°、Y軸方向の拡散角2.8°を持つ凹レンズからなるレンズセルが入射面にランダム配置され、出射面には、入射面のレンズセルの長軸方向及び短軸方向に対して90°ずらすことにより、X軸方向の拡散角2.8°、Y軸方向の拡散角6°を持つ凹レンズからなるレンズセルがランダム配置された両面拡散板の拡散特性を
図15A、
図15Bに示す。
図15Aは、その両面拡散板の拡散角強度分布を示し、
図15Bは、その両面拡散板のX軸方向の拡散特性を示している。
このように、同じ楕円形の拡散特性を有する各レンズセルの長軸方向及び短軸方向を90°ずらして両面に配向させることにより、拡散角は、片面拡散板と両面拡散板とでほぼ同じ値(約10°)を採り、その拡散特性はガウシアン型の円形となる。即ち、光の拡散角の分布はXY方向で均一となり、良好な拡散性が得られることがわかる。
【0072】
(比較例3)
X軸方向の拡散角6°、Y軸方向の拡散角2.8°を持つ凹レンズからなるレンズセルが入射面にランダム配置された片面拡散板の拡散特性を
図16A、
図16Bに示す。
図16Aは、その片面拡散板の拡散角強度分布を示し、
図16Bは、その片面拡散板のX軸方向の拡散特性を示している。
このように、片面拡散板では、レンズセルが楕円形状である場合、そのレンズセルにより構成されるレンズアレイを出射した光の拡散角の分布も楕円形状となり、光の拡散角の分布はXY方向で不均一となった。