【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に制限されない。
【0050】
<実施例1>
[重イオンビームのワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性の判定]
実施例1では、L型能登島株のワムシ(Brachionus plicatilis)を用いて重イオンビームのワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性の判定を行った。以下の実施例と比較例との説明では、L型能登島株のワムシ(Brachionus plicatilis)を、単に「ワムシ」と記載する場合がある。
【0051】
まず、上記のL型能登島株のワムシ培養水を、メッシュサイズ40μmのセルストレーナーを用いて濃縮した。濃縮後のワムシ培養水を1.8パーセント海水で洗浄後、クロレラ入り1.8パーセント海水で再懸濁し、約150倍に濃縮させた濃縮ワムシ培養水を得た。当該濃縮ワムシ培養水を200μl PCRチューブに分注した。分注された濃縮ワムシ培養水中のワムシを、それぞれサンプル個体群とした。
【0052】
200μl PCRチューブに分注された濃縮ワムシ培養水に、照射線量が25Gy、50Gy、75Gy、100Gy、150Gy、200GyのArイオンビーム(LET312keV/μm)をそれぞれ1.17Gy/秒〜3.57Gy/秒の強度で照射した。照射から2時間経過後、回収された濃縮ワムシ培養水を、クロレラ入り1.8パーセント海水に懸濁させた。またControlとして、Arイオンビームを照射しなかった濃縮ワムシ培養水も、Arイオンビームを照射した濃縮培養水に対し行った方法と同様の方法で、懸濁させた。クロレラ入り1.8パーセント海水の添加量は、濃縮ワムシ培養水100μlに対し20mlとした。懸濁液は約15℃で保存した。
【0053】
25GyのArイオンビームが照射されたサンプル個体群の懸濁液を3枚の24wellプレートに分画した。サンプル個体は、1wellに1つずつ分画されるようにした。これにより、25GyのArイオンビームが照射されたサンプル個体は、1プレートあたり24区画に分画された。分画後のサンプル個体を下記の培養条件で増殖させた。培養期間は分画日の翌日を第1日目として22日間とした。
<サンプル個体群の培養条件>
培養温度:20℃
培養塩濃度:1.8パーセント
日照条件:全暗
震盪条件:静置
【0054】
サンプル個体の培養期間中、5日目、7日目、11日目、13日目、16日目、20日目、22日目の各well内のサンプル個体数(1+n)を顕微鏡観察により目視で計測した。分画に用いた3枚の24wellプレート、すなわち第一ないし第三の24wellプレートについて、24well中(全区画数F)に対する、個体数(1+n)が20以上になったwell数(区画数f)の割合をそれぞれ計測日ごとに算出した。さらに当該算出値に基づき、計測日ごとに、(区画数f/区画数F×100)(%)の第一ないし第三の24wellプレートの平均値を算出した。
【0055】
上記に説明した25GyのArイオンビームを照射したサンプル個体群と同様の方法で、50Gy、75Gy、100Gy、150Gy、200GyのArイオンビーム(LET312keV/μm)を照射したサンプル個体およびControlのサンプル個体についても分画、培養し、(区画数f/区画数F×100)(%)の平均値を算出した。各平均値を表1と
図4に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1、
図4において、20日目の平均値に着目すると、50Gy、75Gyまたは100GyのArイオンビームを照射したときに、当該平均値が15%以上90%以下の範囲内であった。従って、本発明のワムシの変異系統の作出方法の重イオンビーム照射ステップで照射するArイオンビーム(LET=312keV/μm)としては、照射線量は50Gy、75Gyまたは100Gyとすることが好ましいことが分かった。
【0058】
[第一の個体群の平均背甲長より7%大きい個体(平均背甲長が300μm以上のワムシ)の有増殖性変異系統の作出]
<実施例1-1、1-2、比較例1-1、1-2、1-3>
上記の実施例1と同様の方法で、L型能登島株のワムシ培養水を濃縮、再懸濁し、150倍濃縮ワムシ培養水を用意した。この濃縮ワムシ培養水を200μl PCRチューブに分注した。分注された200μl PCRチューブ内の濃縮ワムシ培養水に照射線量が異なるArイオンビーム(LET=312keV/μm)を照射した。Arイオンビーム照射後の濃縮ワムシ培養水を、それぞれ実施例1-1(Arイオンビームの照射線量75Gy)、実施例1-2(同100Gy)、比較例1-1(同25Gy)、比較例1-2(同150Gy)、比較例1-3(同200Gy)とした。
【0059】
上記の重イオンビーム照射ステップ後、培養ステップを行うため、実施例1-1の濃縮ワムシ培養水中のワムシを、24wellプレートに1wellあたりの個体数を1として分画した。その後、該24wellプレートを温度条件20℃で静置し、各well内でワムシを培養した。
【0060】
分画日を第1日目として3週間経過後(第21日目)に培養ステップを終了し、選抜ステップを行った。選抜ステップでは、まず第一の増殖力選抜工程として、1well内の培養後の個体数が20以上であるwellを、増殖力ある個体が存在するwellとして選抜した。各well内のワムシの個体数は、顕微鏡観察により目視で計測した。実施例1-2および比較例1-1、1-2、1-3の濃縮ワムシ培養水についても実施例1-1と同様の方法で培養ステップを行った。培養ステップ後、ワムシの個体数が20以上に増殖したwellの数は、実施例1-1、1-2、比較例1-1、1-2および比較例1-3でそれぞれ確認されたものを合わせて、530であった(第1ないし第530のwell)。第1ないし第530のwellは、それぞれ、いずれの実施例または比較例に対応するwellであるかが識別可能な状態にして、次の第二の増殖力選抜工程を行った。
【0061】
48wellプレートを用意し、第1のwellから全個体数の1/10程度のワムシをランダムに抽出し、該48wellプレートに移し、ルゴール染色した。ルゴール染色液は、0.7%NaCl溶液50mlにヨウ素1.5gとヨウ化カリウム2.5gを溶解して作製したものを用いた。具体的には、当該ルゴール染色液を48wellプレートに4μl添加し、さらに20個体程度のワムシを含む培養水200μlを添加した。当該48wellプレートを1分間90rpmで振とうさせてワムシを染色した。第2ないし第530のwellのワムシに対しても、第1のwellと同様にwell内のワムシのランダムな抽出およびルゴール染色を行った。
【0062】
第二の増殖力選抜工程として、第1のwellから抽出され、染色されたワムシ群に、背甲長が300μm以上のワムシが存在するか否かを確認するため、染色されたワムシ群をZeiss AxioCam HRc顕微鏡用デジタルカメラで撮影し、各ワムシの背甲長を画像解析ソフトImageJで解析した。なお、第一の個体群の定常期の平均背甲長は280μmであったため、第一の個体群より平均背甲長が7%以上大きな個体を選抜するため、第二の増殖力選抜工程において、背甲長が300μm以上のワムシが存在する区画を選抜した。
図5は、本発明のワムシの有増殖性変異系統の作出方法の選抜ステップにある実施例を示す図である。
図5(a)は、本発明の実施例1-1のルゴール染色された個体群の光学顕微鏡写真である。
図5(a)の写真の中で明らかに背甲長が長い個体を10個体以上選抜し、識別番号を設定して解析した。
図5(a)中のワムシを図示する数字は、識別番号である。
図5(b)は、本発明の実施例1-1の選抜ステップにおける解析結果である。
図5(b)において、左列に示される数値は、
図5(a)に示す識別番号と対応するワムシの識別番号である。右列に示される数値は、ImageJで解析された各ワムシの背甲長(μm)である。
図5(b)の解析結果から、第1のwellから抽出されたワムシ群には背甲長が300μm以上のワムシが存在することを確認できた。
【0063】
第2ないし第530のwellについても、第1のwellで実施した方法と同様の方法で、背甲長が300μm以上のワムシが存在するか否かを確認した。その結果、背甲長が300μm以上のワムシが存在することを確認できたwellの数は、第1ないし第530のwellのうち、29であった。そこで、第1ないし第29のwellを選抜well(第1ないし第29の選抜well)とし、選抜well中のワムシを用いて、背甲長が300μm以上であるワムシの変異系統を樹立した。なお、第1ないし第29の選抜wellは、いずれの実施例または比較例に対応するwellであるかが識別可能な状態にして、系統樹立を行った。
【0064】
変異系統の樹立に際しては、単一個体分離を3回行った。1回の単一個体分離につき、24wellプレートを、選抜well数と同数用意した。各選抜well内から目視で背甲長が大きなワムシを抽出し、用意した24wellプレートに1wellあたり1個体ずつ分画した。該24wellプレートをインキュベーターに収容し、20℃で培養した。培養期間中、2〜3日ごとに各wellに培養水(0.02μl濃縮クロレラ/1μl 1.8パーセント海水)を添加し、培養を行った。各wellからワムシを回収し、上記の第二の増殖力選抜工程で行った背甲長計測と同様の方法で、単一個体分離後培養されたワムシの背甲長を計測した。最も平均背甲長が大きいワムシの存在したwellを選抜し、そのwellのワムシを用いて再度単一個体分離を行った。同じ工程を繰り返し、合計3回の単一個体分離を行った。選抜後順次培養水を増やし、20mlになるまで培養し系統樹立とした。
【0065】
上記のとおり、実施例1-1、実施例1-2および比較例1-1、1-2、1-3の濃縮ワムシ培養水について培養ステップ、選抜ステップを行い、単一個体分離後培養されたワムシの定常期における平均背甲長を計測した。実施例1-1、1-2および比較例1-1、1-2、1-3を用いた、平均背甲長が300μm以上のワムシの変異系統の作出結果を表2に示す。表2中、「収容個体数」とは、第一の培養において分画された総個体数である。「選抜大型株数」とは、選抜ステップで樹立された、平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統数である。また選抜頻度は、次式により算出した。
選抜頻度(%)=(選抜大型株数/収容個体数)×100
【0066】
【表2】
【0067】
実施例1-1で作出したワムシの変異体と、重イオンビームを照射せずに培養したL型能登島株のワムシとをルゴール染色し、顕微鏡を用いてデジタルカメラで撮影した。
図6は本発明のワムシの変異体の実施例の写真である。撮影は、デジタルカメラを用いて行った。上記に説明する計測方法でワムシの背甲長を計測した結果、実施例1-1のワムシの変異体の背甲長は約380μmであった。一方、第一の個体群のワムシに重イオンビームを照射せずに定常期まで培養した任意のL型能登島株のワムシの背甲長は、280μmであった。これにより実施例1-1では、大型化したワムシの変異系統を作出できることを確認できた。
【0068】
表2に示されるように、実施例1-1の照射線量75GyのArイオンビーム(LET 312keV/μm)を照射したワムシからは平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統を6系統を樹立でき、選抜頻度は1.3%であった。また実施例1-2の照射線量100GyのArイオンビーム(LET 312keV/μm)を照射したワムシからは、同変異系統を2系統を樹立でき、選抜頻度は0.4%であった。一方、比較例1-1、1-2、1-3では所望の変異系統を作出できなかった。また作出されたワムシの変異系統(TYA-03株)に属する個体の背甲長及び背甲幅の計測結果を表3に示す。なお、表3の識別番号1〜20で示されるTYA-03株の個体は、実施例1-1より選抜された。
【0069】
【表3】
【0070】
実施例1-1より選抜され作出されたワムシの変異系統(TYA-01株、TYA-05株)に属する個体について、TYA-03株に属する個体と同様に任意の20個体から計測・算出された平均背甲長及び平均背甲幅を表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
<実施例2>
[重イオンビームのワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性の判定]
実施例1と同様の方法で、濃縮ワムシ培養水に、照射線量が25Gy、50Gy、75Gy、100Gy、150Gy、200GyのArイオンビーム(LET189keV/μm)を照射し、(区画数f/区画数F×100)(%)の平均値を算出した。またControlとして、Arイオンビームを照射しなかった濃縮ワムシ培養水も、Arイオンビームを照射した濃縮培養水に対し行った方法と同様の方法で、(区画数f/区画数F×100)(%)の平均値を算出した。各平均値を表5と
図7に示す。
【0073】
【表5】
【0074】
表5、
図7において、21日目の平均値に着目すると、25Gy、50Gy、75Gyまたは100GyのArイオンビームを照射したときに、平均値が15%以上90%以下の範囲内であった。従って、本発明のワムシの変異体の作出方法の重イオンビーム照射ステップで照射するArイオンビーム(LET=189keV/μm)としては、照射線量は25Gy、50Gy、75Gyまたは100Gyとすることが好ましいことが分かった。
【0075】
[第一の個体群の平均背甲長より7%大きい個体(平均背甲長が300μm以上のワムシ)の有増殖性変異系統の作出]
<実施例2-1、2-2>
上記の実施例1と同様の方法で、L型能登島株のワムシ培養水を濃縮、再懸濁し、150倍濃縮ワムシ培養水を用意した。この濃縮ワムシ培養水を200μl PCRチューブに分注した。分注された200μl PCRチューブ内の濃縮ワムシ培養水に照射線量が異なるArイオンビーム(LET=189keV/μm)を照射した。Arイオンビーム照射後の濃縮ワムシ培養水を、それぞれ実施例2-1(Arイオンビームの照射線量50Gy)、実施例2-2(同75Gy)とした。
【0076】
実施例2-1、2-2について、実施例1-1と同様の方法で、培養ステップと選抜ステップとを行い、単一個体分離後培養されたワムシの平均背甲長を計測した。第一の増殖力選抜工程で選抜された選抜well数は、実施例2-1、2-2でそれぞれ確認されたものを合わせて210であった。また選抜wellのうち背甲長300μm以上のワムシの存在を確認できたwell数は、実施例2-1、2-2でそれぞれ確認されたものを合わせて23であった。これらのwellに属するワムシを用いて、平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統を樹立した。なお、実施例2-1、2-2における培養ステップおよび選抜ステップの各wellは、それぞれいずれの実施例に対応するwellであるかが識別可能な状態にして、各ステップを実施した。実施例2-1、2-2を用いた平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統の作出結果を表6に示す。
【0077】
【表6】
【0078】
表6に示されるように、平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統の作出において、実施例2-1の照射線量50GyのArイオンビーム(LET 189keV/μm)を照射したワムシからは1系統を樹立でき、選抜頻度は0.2%であった。また実施例2-2の照射線量75GyのArイオンビーム(LET 189keV/μm)を照射したワムシからは、9系統を樹立でき、選抜頻度は1.6%であった。また作出されたワムシの変異系統(TYA-18株)に属する個体の背甲長及び背甲幅の計測結果を表7に示す。なお、表7の識別番号1〜20で示されるTYA-18株の個体は、実施例2-2より選抜された。
【0079】
【表7】
【0080】
<実施例3>
[重イオンビームのワムシの有増殖性変異系統の作出誘導性の判定]
実施例1と同様の方法で、濃縮ワムシ培養水に、照射線量が100Gy、150Gy、200Gy、300Gy、400Gy、600GyのCイオンビーム(LET22.6keV/μm)を照射し、(区画数f/区画数F×100)(%)の平均値を算出した。またControlとして、Cイオンビームを照射しなかった濃縮ワムシ培養水も、Cイオンビームを照射した濃縮培養水に対し行った方法と同様の方法で、(区画数f/区画数F×100)(%)の平均値を算出した。各平均値を表8と
図8に示す。
【0081】
【表8】
【0082】
表8、
図8において、21日目の平均値に着目すると、100Gy、150Gy、200Gy、300Gy、400Gy、または600GyのCイオンビームを照射したときに、平均値が15%以上90%以下の範囲内であった。従って、本発明のワムシの変異体の作出方法の重イオンビーム照射ステップで照射するCイオンビーム(LET=22.6keV/μm)としては、照射線量は100Gy、150Gy、200Gy、300Gy、400Gy、または600Gyとすることが好ましいことが分かった。
【0083】
<実施例3-1、3-2、3-3>
[第一の個体群の平均背甲長より7%大きい個体(平均背甲長が300μm以上のワムシ)の有増殖性変異系統の作出]
上記の実施例1と同様の方法で、L型能登島株のワムシ培養水を濃縮、再懸濁し、150倍濃縮ワムシ培養水を用意した。この濃縮ワムシ培養水を200μl PCRチューブに分注した。分注された200μl PCRチューブ内の濃縮ワムシ培養水に照射線量が異なるCイオンビーム(LET=22.6keV/μm)を照射した。Cイオンビーム照射後の濃縮ワムシ培養水を、それぞれ実施例3-1(Cイオンビームの照射線量150Gy)、実施例3-2(同200Gy)、実施例3-3(同300Gy)とした。
【0084】
実施例1-1と同様の方法で、培養ステップと選抜ステップとを行い、単一個体分離後培養されたワムシの背甲長を計測した。培養ステップの増殖力選抜で選抜された選抜well数は、実施例3-1、3-2、3-3でそれぞれ確認されたものを合わせて69であった。また選抜wellのうち背甲長300μm以上のワムシの存在を確認できたwell数は、実施例3-1、3-2、3-3でそれぞれ確認されたものを合わせて29であった。これらの29wellのワムシを用いて、平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統を樹立した。なお、実施例3-1、3-2、3-3における培養ステップおよび選抜ステップの各wellは、それぞれいずれの実施例に対応するwellであるかが識別可能な状態にして、各ステップを実施した。実施例3-1、3-2、3-3を用いた平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統の作出結果を表9に示す。
【0085】
【表9】
【0086】
表9に示されるように、平均背甲長300μm以上のワムシの変異系統の作出において、実施例3-1の照射線量150GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは1系統を樹立でき、選抜頻度は0.1%であった。また実施例3-2の照射線量200GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは、2系統を樹立でき、選抜頻度は0.3%であった。実施例3-3の照射線量300GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは、8系統を樹立でき、選抜頻度は1.2%であった。また作出されたワムシの変異系統(TYC-02株)に属する個体の背甲長及び背甲幅の計測結果を表10に示す。なお、表10の識別番号1〜20で示されるTYC-02株の個体は、実施例3-3より選抜された。
【0087】
【表10】
【0088】
実施例3-3より選抜され作出されたワムシの変異系統(TYC-01株、TYC-03株及びTYC-05株)に属する個体について、TYC-02株に属する個体と同様に任意の20個体から計測・算出された平均背甲長及び平均背甲幅を表11に示す。
【表11】
【0089】
<実施例4-1、4-2、4-3、比較例4-1、4-2>
[第一の個体群の平均背甲長より11%大きい個体(平均背甲長が340μm以上のワムシ)の有増殖性変異系統の作出]
上記の実施例1と同様の方法で、L型能登島株のワムシ培養水を濃縮、再懸濁し、150倍濃縮ワムシ培養水を用意した。この濃縮ワムシ培養水を200μl PCRチューブに分注した。分注された200μl PCRチューブ内の濃縮ワムシ培養水に照射線量が異なるArイオンビーム(LET=312keV/μm)を照射した。Arイオンビーム照射後の濃縮ワムシ培養水を、それぞれ実施例4-1(Arイオンビームの照射線量50Gy)、実施例4-2(同75Gy)、実施例4-3(同100Gy)、比較例4-1(同150Gy)、比較例4-2(同200Gy)とした。
【0090】
実施例1-1と同様の方法で、培養ステップと選抜ステップとを行い、単一個体分離後培養されたワムシの対数増殖期における背甲長を計測した。第一の増殖力選抜工程で選抜された選抜well数は、実施例4-1、4-2、4-3、比較例4-1、4-2でそれぞれ確認されたものを合わせて405であった。また選抜wellのうち背甲長340μm以上のワムシの存在を確認できたwell数は、実施例4-1、4-2、4-3、比較例4-1、4-2でそれぞれ確認されたものを合わせて44であった。なお、第一の個体群の対数増殖期の平均背甲長は305μmであったため、第一の個体群より平均背甲長が11%以上大きな個体を選抜するため、第二の増殖力選抜工程において、背甲長が340μm以上のワムシが存在する区画を選抜した。これらの44wellのワムシを用いて、平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統を樹立した。なお、実施例4-1、4-2、4-3、比較例4-1、4-2における培養ステップおよび選抜ステップの各wellは、それぞれいずれの実施例、比較例に対応するwellであるかが識別可能な状態にして、各ステップを実施した。実施例4-1、4-2、4-3、比較例4-1、4-2を用いた平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統の作出結果を表12に示す。
【0091】
【表12】
【0092】
表12に示されるように、平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統の作出において、実施例4-1の照射線量50GyのArイオンビーム(LET 312keV/μm)を照射したワムシからは2系統を樹立でき、選抜頻度は0.2%であった。また実施例4-2の照射線量75GyのArイオンビーム(LET 312keV/μm)を照射したワムシ及び実施例4-3の照射線量100GyのArイオンビーム(LET 312keV/μm)を照射したワムシからは、それぞれ1系統を樹立でき、選抜頻度は0.1%であった。一方、比較例4-1、4-2では所望の変異系統を作出できなかった。また作出されたワムシの変異系統(TYA-41株)に属する個体の背甲長及び背甲幅の計測結果を表13に示す。なお、表13の識別番号1〜20で示されるTYA-41株の個体は、実施例4-1より選抜された。
【0093】
【表13】
【0094】
実施例4-1より選抜され作出されたワムシの変異系統(TYA-43株)に属する個体、実施例4-2より選抜され作出されたワムシの変異系統(TYA-57株)に属する個体及び実施例4-3より選抜され作出されたワムシの変異系統(TYA-65株)に属する個体について、TYA-41株に属する個体と同様に任意の20個体から計測・算出された平均背甲長及び平均背甲幅を表14に示す。
【表14】
【0095】
表3に示した実施例1-1のTYA-03株に属する各個体の背甲長と、表13に示した実施例4-1のTYA-41株に属する各個体の背甲長とを比較すると、実施例4-1のワムシの背甲長の方が大きく、それらの平均背甲長についても培養を対数増殖期までとした実施例4-1の方が50μmほど大きかった。また、表14に示す通り、培養を対数増殖期までとした実施例4において、平均背甲長が約344〜353μmと、第一の個体群の平均背甲長に対して、約12〜16%大型化したワムシの変異系統を樹立することができた。
【0096】
<実施例5-1、5-2、5-3、5-4、5-5、5-6>
[第一の個体群の平均背甲長より11%大きい個体(平均背甲長が340μm以上のワムシ)の有増殖性変異系統の作出]
上記の実施例1と同様の方法で、L型能登島株のワムシ培養水を濃縮、再懸濁し、150倍濃縮ワムシ培養水を用意した。この濃縮ワムシ培養水を200μl PCRチューブに分注した。分注された200μl PCRチューブ内の濃縮ワムシ培養水に照射線量が異なるCイオンビーム(LET=22.6keV/μm)を照射した。Cイオンビーム照射後の濃縮ワムシ培養水を、それぞれ実施例5-1(Cイオンビームの照射線量100Gy)、実施例5-2(同150Gy)、実施例5-3(同200Gy)、実施例5-4(同300Gy)、実施例5-5(同400Gy)、実施例5-6(同600Gy)とした。
【0097】
実施例1-1と同様の方法で、培養ステップと選抜ステップとを行い、単一個体分離後培養されたワムシの対数増殖期における背甲長を計測した。第一の増殖力選抜工程で選抜された選抜well数は、実施例5-1、5-2、5-3、5-4、5-5、5-6でそれぞれ確認されたものを合わせて804であった。また選抜wellのうち背甲長340μm以上のワムシの存在を確認できたwell数は、実施例5-1、5-2、5-3、5-4、5-5、5-6でそれぞれ確認されたものを合わせて133であった。これらの133wellのワムシを用いて、平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統を樹立した。なお、実施例5-1、5-2、5-3、5-4、5-5、5-6における培養ステップおよび選抜ステップの各wellは、それぞれいずれの実施例に対応するwellであるかが識別可能な状態にして、各ステップを実施した。実施例5-1、5-2、5-3、5-4、5-5、5-6を用いた平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統の作出結果を表15に示す。
【0098】
【表15】
【0099】
表15に示されるように、平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統の作出において、実施例5-1の照射線量100GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは10系統を樹立でき、選抜頻度は4.2%であった。また実施例5-2の照射線量150GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは、6系統を樹立でき、選抜頻度は2.5%であった。実施例5-3の照射線量200GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは、5系統を樹立でき、選抜頻度は2.1%であった。実施例5-4の照射線量300GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは、8系統を樹立でき、選抜頻度は3.3%であった。実施例5-5の照射線量400GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは、8系統を樹立でき、選抜頻度は3.3%であった。実施例5-6の照射線量600GyのCイオンビーム(LET 22.6keV/μm)を照射したワムシからは、1系統を樹立でき、選抜頻度は0.4%であった。また作出されたワムシの変異系統(TYC-221株)に属する個体の背甲長及び背甲幅の計測結果を表16に示す。なお、表16の識別番号1〜20で示されるTYC-221株の個体は、実施例5-6より選抜された。
【0100】
【表16】
【0101】
実施例5-6で作出したワムシの変異系統(TYC-221株)に属する任意の個体をルゴール染色し、顕微鏡を用いてデジタルカメラで撮影した写真を
図9Bに示す。この個体の背甲長は425μmであった。一方、第一の個体群のワムシに重イオンビームを照射せずに対数増殖期まで培養した任意の個体についても同様に染色し、撮影した写真を
図9Aに示す。この個体の背甲長は301μmであった。本発明の方法により、大型化したワムシの変異系統を作出できることを確認できた。
【0102】
実施例5-1〜5-6より選抜され作出されたワムシの変異系統に属する個体について、TYC-221株に属する個体と同様に任意の20個体から計測・算出された平均背甲長及び平均背甲幅を表17に示す。
【0103】
【表17】
【0104】
表10に示した実施例3-3のTYC-02株に属する各個体の背甲長と、表16に示した実施例5-6のTYC-221株に属する各個体の背甲長とを比較すると、実施例5-6のワムシの背甲長の方が大きく、それらの平均背甲長についても培養を対数増殖期までとした実施例5-6の方が45μmほど大きかった。また、表17に示す通り、培養を対数増殖期までとした実施例5において、平均背甲長が約340〜378μmと、第一の個体群の平均背甲長に対して、約11〜24%大型化したワムシの変異系統を樹立することができた。
【0105】
<実施例6-1、6-2>
[第一の個体群の平均背甲長より11%大きい個体(平均背甲長が340μm以上のワムシ)の有増殖性変異系統の作出]
上記の実施例1と同様の方法で、L型能登島株のワムシ培養水を濃縮、再懸濁し、150倍濃縮ワムシ培養水を用意した。この濃縮ワムシ培養水を200μl PCRチューブに分注した。分注された200μl PCRチューブ内の濃縮ワムシ培養水に照射線量が異なるCイオンビーム(LET=22.6keV/μm)を照射した。Cイオンビーム照射後の濃縮ワムシ培養水を、それぞれ実施例6-1(Cイオンビームの照射線量200Gy)、実施例6-2(同300Gy)とした。
【0106】
実施例1-1と同様の方法で、培養ステップと選抜ステップとを行い、単一個体分離後培養されたワムシの対数増殖期における背甲長を計測した。第一の増殖力選抜工程で選抜された選抜well数は、実施例6-1、6-2でそれぞれ確認されたものを合わせて122であった。また選抜wellのうち背甲長340μm以上のワムシの存在を確認できたwell数は、実施例6-1、6-2でそれぞれ確認されたものを合わせて60であった。これらの60wellのワムシを用いて、平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統を樹立した。なお、実施例6-1、6-2における培養ステップおよび選抜ステップの各wellは、それぞれいずれの実施例に対応するwellであるかが識別可能な状態にして、各ステップを実施した。実施例6-1、6-2を用いた平均背甲長340μm以上のワムシの変異系統の作出結果を表18に示す。
【0107】
【表18】
【0108】
作出されたワムシの変異系統(TYC-78株)に属する個体の背甲長及び背甲幅の計測結果を表19に示す。なお、表19の識別番号1〜20で示されるTYC-78株の個体は、実施例6-1より選抜された。
【0109】
【表19】
【0110】
実施例6-1及び6-2より選抜され作出されたワムシの変異系統に属する個体について、TYC-78株に属する個体と同様に任意の20個体から計測・算出された平均背甲長及び平均背甲幅を表20に示す。
【0111】
【表20】