【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0054】
(調製例1)
<用いた試料>
本検討例では、ヒトエグサ、クロバラノリ、キリンサイ、オゴノリ、トサカノリ、マツモ、モズク、アカモク、ホンダワラ、ツルモ、ガゴメ、アラメ、およびヒジキの計13種類の海藻を用いて、消化酵素の一つであるリパーゼ酵素阻害についての作用を調べた。
【0055】
<粉末化海藻試料の精製>
ミキサーを用いて海藻を粉砕し、ふるい(メッシュサイズ(#)=250μm)にかけ、250μm以下の粒径の粉末化海藻試料を得た。海藻の乾燥重量の3倍量のエタノールを添加し、室温で24時間撹拌して海藻含有の色素類を抽出除去し、遠心分離機により沈殿物と色素含有エタノール溶液とを分離した。分離後の沈殿物をエバポレーターに供してエタノールを除去後、凍結乾燥した。凍結乾燥後の海藻試料に10倍量の純水を加え、80℃で4時間の間熱水抽出を行った。次いで、この熱水抽出液を遠心分離機にかけ、固液分離した。分離した液体を凍結乾燥して、水溶性食物繊維である多糖類粉末を得た。
【0056】
<塩酸酸性下でのアルギン酸除去>
上記抽出操作により得られた多糖類粉末は、アルギン酸と、フコイダン、カラギーナン等の混合物を含む硫酸化多糖類と、アガロース等からなるものであり得る。アルギン酸の除去は、アルギン酸の酸解離定数を利用するpH調整法により行った。アルギン酸の構成糖であるグルクロン酸の酸解離定数は3.38で、マンヌロン酸のそれは3.65である。アルギン酸が溶解している溶液の水素イオン濃度をpH=1.0以下にすると、アルギン酸の酸解離定数から、高分子のアルギン酸はイオンとして解離できずに沈殿する。しかしながら、フコイダン等の硫酸化多糖類は、その硫酸基がエステル結合のために溶液中の水素イオン濃度に依存せずに溶解したままなので、アルギン酸と硫酸化多糖類の分離が可能であった。
【0057】
上記抽出操作により得られた多糖類粉末を少量の純水に溶かし、溶液を撹拌しながら塩酸を滴下し、溶液のpHを1.0以下に調整した後、24時間冷蔵庫中に静置し、アルギン酸を沈殿させた。沈殿したアルギン酸を遠心分離機により固液分離した。沈殿物を20w/v%炭酸ナトリウム水溶液で中和し、凍結乾燥することで、アルギン酸粉末を得た。遠心分離後の溶液は20w/v%炭酸ナトリウム水溶液で中和し、凍結乾燥することで、中和により生じた塩類と脱アルギン酸多糖類との混合粉末を得た。
【0058】
オゴノリおよびヒトエグサについては、塩酸を添加しても白濁するだけで、明確な沈殿物を生じなかった。また、トサカノリは24時間冷蔵庫に静置した後、溶液全体がゲル化していたため、完全にアルギン酸を分離することがやや困難であった。しかしながら、上記と同様の操作をすることで、アルギン酸粉末および塩類と脱アルギン酸多糖類との混合粉末を得た。
【0059】
<脱色、エタノール沈殿および透析による精製>
脱アルギン酸多糖類とアルギン酸粉末をそれぞれ少量の純水に溶かし、酢酸酸性条件下、70℃の湯浴中で撹拌しながら、試料溶液が薄い黄色になるまで、5w/v%亜塩素酸ナトリウム溶液を滴下した。脱色が終了した後、20w/v%炭酸ナトリウム溶液を加え、溶液の水素イオン濃度をpH=9.5付近とした。しばらくの間撹拌した後、エタノール濃度が80v/v%になるまでエタノールを滴下し、冷蔵庫中にて24時間静置した。静置後のエタノール溶液を遠心分離機により、固液分離した。分離後の沈殿物をエバポレーターに供して、エタノールを除去後、凍結乾燥し、脱アルギン酸多糖類およびアルギン酸のそれぞれの脱色済み粉末を得た。
【0060】
得られた脱アルギン酸多糖類の脱色済み粉末およびアルギン酸の脱色済み粉末を少量の純水に溶かし、この溶液を透析膜(フナコシ株式会社製、品名:Spectra/Por 3、分画分子量:3500;以下、特に明記しない限り同じ透析膜を使用)に入れ、24時間撹拌しながら透析した。その際に、透析開始から2時間後と4時間後に膜外の純水を交換し、24時間後に膜内の溶液を回収した。回収した溶液を凍結乾燥し、精製脱アルギン酸多糖類粉末および精製アルギン酸粉末を得た。
【0061】
図1は、アラメに由来する精製脱アルギン酸多糖類粉末(A)および精製アルギン酸粉末(B)の赤外線スペクトルを示す。
図1中の縦軸は赤外線の透過率[%T]であり、100[%T]は、分析用に照射した赤外線が全て透過したことを示す。また、この透過率の数値が低い場合には、照射した赤外線が透過せずに、化合物に吸収にされたことを示す。
図1中の横軸は波数(カイザー)であり、「cm
−1」=1/波長[μm]を単位として示されている。赤外線の吸収位置と分析対象の化学構造には密接な関連が認められていることから、物質の化学的な構造解析を目的とする汎用分析方法として広く用いられている。
【0062】
図1(B)に示されるように、アルギン酸の場合には、約1750[cm
−1]付近に大きな吸収が有り、アルギン酸特有のカルボキシル基(
図1(B)中の「カルボン酸」)の存在を示す。また、3400[cm
−1]付近の幅が広くかつ吸収強度が比較的大きな吸収は、糖特有の水酸基とともに、カルボキシル基中の水酸基由来の吸収を示す。
【0063】
図1(A)に示されるように、スペクトル中の約1250[cm
−1]付近の吸収は、フコイダンに特有な硫酸基(−SO
3H)に由来する吸収(苔庵泰志、et,al、平成20年度三重県工業研究所研究報告、No.33(2009))であることから、精製脱アルギン酸多糖類は、硫酸化多糖類(フコイダン)の一種であると推測した。さらに、アルギン酸に特有なカルボキシル基に由来する吸収が見られないことから、アルギン酸とフコイダンの分離・精製が十分になされていることも併せて示された。
【0064】
<脱アルギン酸多糖類の二酸化炭素ガス下の加圧および加温による分子量調整>
純水250mLを耐圧反応容器に投入し、30℃に昇温した。30℃になった時点で二酸化炭素ガスを吹き込み、200rpmで撹拌しながら15分間バブリングを行った。脱アルギン酸多糖類粉末を5g投入後、反応容器全体を密閉して二酸化炭素ガスで装置圧力を0.30MPaに調整し、回転数200rpmで所定の温度まで昇温した。昇温は、温度90℃に13分、100℃に15分、110℃に20分で到達した。所定の温度に達した時点を反応開始時点とし、その後所定の時間反応させた。反応温度および反応時間を以下の表1に示す。反応終了後、直ちに冷水によって反応容器を冷却した。試料溶液が冷却された後、pHを測定し凍結乾燥した。
【0065】
【表1】
【0066】
表1には、各海藻由来多糖類加水分解物および抽出時(すなわち、二酸化炭素ガス下の加水分解反応前)の各海藻由来脱アルギン酸多糖類の重量平均分子量を併せて示す。トサカノリおよびアカモクを除き、リパーゼ酵素阻害試験用に重量平均分子量の異なる3種類の試料を用意し、例えば、「ヒトエグサ1、ヒトエグサ2、ヒトエグサ3」のように「海藻名」に「番号」を付して表す。
【0067】
(実施例1:リパーゼ酵素阻害試験)
リパーゼは、トリグリセリドのα位脂肪酸エステルを加水分解し、ジグリセリド成分と遊離の脂肪酸へ分解する。食品中の脂肪は、胆汁酸やリン脂質と共に小さな油滴(ミセル)を形成し、この油滴に対して消化酵素である膵リパーゼが働き、脂肪酸とβ−モノグリセリドあるいはグリセロールとなって吸収される。阻害活性の測定方法としては、DSファーマバイオメディカル株式会社より販売されている「リパーゼキットS」およびリパーゼ酵素阻害試験に用いた試薬類を以下に示す。
・N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid(関東化学株式会社製:以後「TES」と称する)
・Lipase from porcine pancreas (L3126)(SIGMA社製:ブタ膵臓由来リパーゼ)
・Polyphenon 60 from green tea (SIGMA社製:緑茶由来ポリフェノン60、以後「ポリフェノン」と称する)
【0068】
リパーゼ酵素阻害の測定方法は、下記の実験手順に従い阻害率を算出した:
1)リパーゼ酵素阻害実験では、一部の高分子試料において5mg/mL濃度では完全に溶解せず濁ることから、高分子試料の分子量を100000Da前後まで、加水分解を行い、この分子量範囲を高分子試料とした。ただし、トサカノリ、マツモ、アカモクなどは、試料量が少ないため、分子量調整が困難となり、データの欠損を生じた;
2)リパーゼ10mgをTESバッファー100mLに溶解させ、リパーゼ溶液を調製した;
3)発色液を既定の方法に従って調製した;
4)発色液1mLにポリフェノン1.00mg(0.5w/v%)、海藻由来酸性多糖類それぞれ完全に溶解させ5.00[mg/mL]の溶液濃度となるように調製した(ただし、アラメ3の溶液濃度は、2.56[mg/ml]であった);
5)上記3)の溶液にリパーゼ溶液50μLとエステラーゼ阻害液20μLを加え、ボルテックスミキサーにて撹拌後、30℃で5分の予備加熱を行った;
6)予備加熱後、基質液100μLを加え、ボルテックスミキサーにて撹拌後、30℃で30分インキュベートした;
7)インキュベート後、反応停止液2.00mLを加えて、反応を停止させ412nmにて吸光度を測定した;
8)上記3)の操作において酸性多糖を加えないで測定したものをControl(活性100%)として、下式により酸性多糖類の活性阻害率を求め、また、酵素溶液の代わりにバッファーを加えて測定したものをブランク値とした。
【0069】
【数1】
【0070】
試験結果をリパーゼ酵素阻害率とIC
50値を表2に、リパーゼ酵素阻害率の図を
図2に示した(
図2中の「アラメ3(注1)」は、下記表2の「注1」の記載のとおりである)。表2におけるIC
50値は、リパーゼ酵素阻害率が50%以上を示した場合のみを試験対象とした。
【0071】
【表2】
【0072】
リパーゼ阻害作用は、渇藻類由来多糖類の加水分解物で高い傾向が見られた。特に、アラメ、ホンダワラ、ツルモ、およびガゴメに由来する多糖類加水分解物で20%〜70%以上の阻害率が観察された。また、キリンサイに由来する多糖類加水分解物でも20%〜50%以上の阻害率が観察された。また、高いリパーゼ阻害率を示したものほど、IC
50値が低い値であるという傾向が見られた。
【0073】
(調製例2:アラメ由来多糖類フコイダンの調製)
調製例1においてアラメ由来の海藻を採用して調製した精製脱アルギン酸多糖類(アラメフコイダン)から食酢存在下の加圧および加温による分子量調整を経た加水分解物を得、下記の実施例のマウス試験用材料として供した。また、当該精製脱アルギン酸多糖類から別に得られた精製アルギン酸をポジティブ対照群用試料として供した。
【0074】
<食酢存在下の加圧および加温による分子量調整>
純水500mLと精製脱アルギン酸多糖類アラメフコイダン25gおよび食酢(株式会社Mizkan Holdings(ミツカン)製:米酢、酸度4.2%)25mLを耐圧反応容器に投入し、回転数200rpmで撹拌しながら100℃まで昇温した。温度100℃に15分で到達した。100℃の温度に達した時点を反応開始時点とし、その後1.0時間反応させ、反応終了後、直ちに冷水によって反応容器を冷却し、また同様に反応温度100℃で、2.0時間の反応も行い(これらをそれぞれ、反応温度100℃にて反応時間1.0時間および反応温度100℃にて反応時間2.0時間という)、分子量の異なる加水分解物を2つ生成させた。
【0075】
<脱色および透析による精製>
分子量の異なる2つの加水分解物の溶液に対し、酢酸酸性条件下、70℃の湯浴中で撹拌しながら、該加水分解物溶液が薄い黄色になるまで、5w/v%亜塩素酸ナトリウム溶液を滴下した。脱色が終了した後、20w/v%炭酸ナトリウム溶液を加え、溶液の水素イオン濃度をpH=9.5付近とした。しばらくの間撹拌した後、冷蔵庫中にて24時間静置した。
【0076】
24時間後得られた溶液をそれぞれ透析膜(フナコシ株式会社製、品名:Spectra/Por 3、分画分子量:1000)に入れ、24時間撹拌しながら透析した。その際に、透析開始から2時間後と4時間後に膜外の純水を交換し、24時間後に膜内の溶液を回収した。回収した溶液を凍結乾燥し、アラメ由来フコイダン加水分解物粉末を得た。食酢存在下の加圧および加温反応において反応時間1.0時間で調製された加水分解物を「高分子アラメフコイダン」、そして反応時間2.0時間で調製された加水分解物を「低分子アラメフコイダン」とした。
【0077】
得られた高分子アラメフコイダン粉末および中分子アラメフコイダン粉末、ならびに精製アルギン酸粉末(調製例1)を少量の0.1mol/L NaCl溶液に溶かし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析に供し、GPC計算ソフトにより重量平均分子量(Mw[Da])を求めた。ただし、分析カラムの排除限界の上限は400000Daで、下限は10000Daであることから、これらの範囲外の重量平均分子量については、外挿値で示した。HPLC分析装置、分析カラム、分析諸条件および重量平均分子量計算のソフトウェア名を以下に示す。
【0078】
(HPLC装置および分析諸条件)
Agilent製 1100バイナリーポンプ
Agilent製 1100デガッサ
RI検出器:JASCO製 示差屈折計 2031 plus
カラム:SHODEX製 KS−804(排除限界:400000)、
SHODEX製 KS−802(排除限界:10000)、
SHODEX製 KS−G(ガドカラム)
サンプルループ:PHEOMYNE 500μLループ
溶離液:0.1mol/L NaCl
流速:0.700mL/分
カラム温度:40.0℃
重量平均分子量計算ソフトウェア:Chromato−PRO-GPC(株式会社ランタイムインスツルメント製)
【0079】
上記記載の各試料についての重量平均分子量、数質量平均分子量及び保持時間を表3に、GPC分析によるクロマトグラムを
図3に示す。調製例1における精製脱アルギン酸多糖類の分子量は382000Daであったが、食酢存在下の加圧および加温処理により、98400Daの高分子アラメフコイダンおよび57400Daの中分子アラメフコイダンが得られ、これらを実施例2のマウス試験に供した。精製アルギン酸の分子量は高分子アラメフコイダンよりも大きく、高分子アルギン酸と称した。
【0080】
【表3】
【0081】
(実施例2:アラメ由来多糖類フコイダンを摂取したマウスの抗糖尿病作用)
本実施例では、2型糖尿病モデルマウスであるKK−A
yマウスを用いて、調製例2で調製したアラメ由来精製脱アルギン酸多糖類(フコイダン)の加水分解物の抗糖尿病作用を検討した。KK−A
yマウスは、若齢より高血糖を呈する2型糖尿病モデルマウスであり、新薬開発や食品の機能性評価において広く用いられている系統である。さらにKK−A
yマウスは、高脂肪食を摂取させることで肥満、高インスリン血症、インスリン感受性低下(インスリン抵抗性)を引き起こしメタボリックシンドロームのモデルマウスともなる。そこで、KK−A
yマウスに高脂肪・高ショ糖食を摂取させ、同時に高分子アラメフコイダン、中分子アラメフコイダンを摂取させることによる血清グルコース濃度、血清インスリン濃度、インスリン抵抗性に及ぼす影響を検討した。
【0082】
(実験手順)
<実験動物、飼料および飼育条件>
4週齢のKK−A
y/Ta Jcl雄性マウス(日本クレア株式会社)を市販固形飼料(CE−2、日本クレア株式会社)にて1週間の予備飼育を行い、1群6〜9匹として、対照群、高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群の4群に群分けを行った。対照群には、高脂肪・高ショ糖食(F2HFHSD、オリエンタル酵母工業株式会社)を、高分子アラメ群には高脂肪・高ショ糖食に高分子アラメフコイダン粉末を、中分子アラメ群には高脂肪・高ショ糖食に中分子アラメフコイダン粉末を、アルギン酸群には高脂肪・高ショ糖食に高分子アルギン酸粉末を、それぞれ0.5%の割合で混餌したものを3週間摂取させた(この3週間を投与期間という)。動物実験は総理府告示の実験動物の飼養および保管等に関する基準に従い、和洋女子大学倫理委員会の審議、承認を経て実施した(承認番号1603−2)。実験動物はケージに個別に入れ、室温23±2℃、湿度55±5%の12時間明暗サイクル(明期7:00〜19:00、暗期19:00〜7:00)の環境下で飼育した。飼料は毎日17:00に与え、翌日9:00まで摂取させ、摂食量を秤量した。飲料は水道水を自由飲用させた。投与期間の開始時および終了時に、マウスの体重を測定し、そして体重増加量を算出した。
【0083】
<血清グルコース濃度および血清インスリン濃度の測定>
投与終了時、絶食8〜10時間後に、イソフルラン吸引麻酔下で腹部大動脈から全採血し、安楽死させた。採取した血液は、遠心分離(3000rpm、10分)を行い、得られた血清中のグルコース濃度(血清グルコース濃度)を生化学自動分析装置(富士ドライケム4000、富士フイルムメディカル株式会社)および検体スライド(富士フイルムメディカル株式会社)を用いて測定した。血清インスリン濃度の測定は、市販の測定キット(レビスマウスインスリンUタイプ、株式会社シバヤギ)を用いて測定した。
【0084】
<インスリン抵抗性指数の算出>
インスリン抵抗性指数(HOMA−R)は、血清グルコース濃度および血清インスリン濃度を用いて以下の方法で算出した。
HOMA−R=血清グルコース濃度×血清インスリン濃度/405
【0085】
<血清アディポネクチン値の測定>
血清アディポネクチン値の測定は、市販の測定キット(レビスマウスアディポネクチン、株式会社シバヤギ)を用いて測定した。
【0086】
<肝臓中TG濃度の測定>
上記の全採血後、肝臓を摘出し、生理食塩水で各臓器を洗浄した後、湿重量を測定した。摘出した肝臓脂肪の抽出は、Folchらの方法(Folch, J.,Lees, M. and Sloane-Stanley, G.H.:A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues. Journal of Biological Chemistry, 226, 497-509 (1956))を用い、一定量の2−プロパノールにて溶解した。トリグリセライドE−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用い、一定量の抽出液中のトリグリセライド(TG)濃度(肝臓中TG濃度[mg/肝臓])の測定を行った。
【0087】
<糞中TG排泄量の測定>
投与3週目に1日の糞を個別採取し、凍結乾燥後、乾燥糞重量を測定すると共に、糞中脂質の抽出を行った。Hashimotoらの方法(Hashimoto, H., Yamazaki, K., He, H., Kawase, M., Hosoda, M., Hosono, A.: Hypocholesterolemic effects of Lactobacillus casei subsp. casei TMC0409 strain observed in rats fed cholesterol contained diets. Anim. Sci.J., 70, 90-97 (1999))で抽出した後、一定量の99.5%エタノールにて溶解した。トリグリセライドE−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用い、一定量の抽出液中のTG濃度(糞中TG排泄量[mg/24h糞])の測定を行った。
【0088】
<統計処理>
実験結果は体重増加では各群の平均値±標準誤差で、それ以外は平均値で示した。差の検定は対照群を基準として、p<0.05を統計的に有意(有意差5%として表記)と判断し、p<0.1を傾向(有意差10%として表記)と判断した。検定は、Dunnetの検定を行った。
【0089】
(結果)
統計処理結果を表4に示す。
【0090】
【表4】
【0091】
<飼料摂取量>
投与期間中の総摂取量を表5および
図4に示す。いずれの群も対照群との間に有意差は認められなかった。
【0092】
【表5】
【0093】
<体重増加量>
投与期間の開始時および終了時のマウスの体重を表6および
図5に示す。表6には、開始時から終了時の体重増加量も併せて示す。体重および体重増加量は4群間に有意差は認められなかった。
【0094】
【表6】
【0095】
<投与終了時の血清グルコース濃度>
投与終了時の血清グルコース濃度を表7および
図6に示す。血清グルコース濃度は、対照群に比べて低値を示し、アルギン酸群のみ低値傾向を示した(p<0.1)。
【0096】
【表7】
【0097】
<投与終了時の血清インスリン濃度>
投与終了時の血清インスリン濃度を表8および
図7に示す。血清インスリン濃度は、いずれの試験群も対照群に比べて低値を示し、高分子アラメ群は低値傾向を示した(p<0.1)。
【0098】
【表8】
【0099】
<インスリン抵抗性指数>
投与終了時のインスリン抵抗性指数(「HOMA指数」または「HOMA−R」)値を表9および
図8に示す。HOMA−R値は、いずれの試験群も対照群に比べて低値を示し、高分子アラメ群のみ統計的に有意に低値を示した(p<0.05:有意差5%)。
【0100】
【表9】
【0101】
高分子アラメフコイダンまたは中分子アラメフコイダンをマウスに摂取させると、対照群に比べて、血清グルコース濃度および血清インスリン濃度が低値を示した。さらにインスリン抵抗性の指標として広く用いられているインスリン抵抗性指数(HOMA−R)を算出した結果、高分子アラメ群、中分子アラメ群のHOMA−Rは、対照群に比べて低値であった。
【0102】
従って、高分子アラメフコイダン、中分子アラメフコイダンの摂取によってインスリン抵抗性の悪化が軽減されたと考えられる。特に、高分子アラメフコイダン摂取では、インスリン抵抗性指数が対照群に比べて有意に低値であった。
【0103】
また、アラメフコイダンについて、インビトロでα−グルコシダーゼ活性阻害作用を検討した結果、アラメフコイダンのα−グルコシダーゼ活性阻害率は、高分子量域が中分子量域および低分子量域に比べて高い傾向を示していた(下記参考例1)。
【0104】
従って、中分子アラメフコイダンに比べて、高分子アラメフコイダン摂取により、食後の血糖上昇抑制が抑制されたことで、インスリン抵抗性の悪化が有意に軽減されたと考えられる。
【0105】
<血清アディポネクチン値>
投与終了時の血清アディポネクチン値を表10および
図9に示す。血清アディポネクチン値は、アルギン酸群のみ対照群に比べて高値を示したが、有意差は認められなかった。
【0106】
【表10】
【0107】
肥満を伴うメタボリックシンドロームの重要な原因として、アディポネクチンの分泌低下が考えられている。アディポネクチン分泌低下によって更なるインスリン抵抗性の悪化、糖尿病病態の悪化を引き起こすことからアディポネクチンの分泌低下の抑制が予想された。高分子アルギン酸群で血清アディポネクチン値の上昇が見られたが、高分子アラメ群、中分子アラメ群の血清アディポネクチン値は、対照群との間に差は認められなかった。
【0108】
<肝臓中TG濃度>
投与終了時の肝臓中TG濃度を表11および
図10に示す。肝臓中TG濃度は、高分子アラメ群および中分子アラメ群いずれの試験群も対照群に比べて低値を示した。
【0109】
【表11】
【0110】
<乾燥糞重量>
投与3週目の乾燥糞重量を表12および
図11に示した。糞重量は、いずれの試験群も対照群に比べて高値を示し、高分子アラメ群および中分子アラメ群で高値傾向を示した(p<0.1:有意差10%)。
【0111】
【表12】
【0112】
<糞中TG排泄量>
投与3週目の糞中TG排泄量を表13および
図12に示す。糞中TG排泄量は、中分子アラメ群のみ対照群に比べて高値を示し、特に中分子アラメ群は有意に高値を示した(p<0.05:有意差5%)。
【0113】
【表13】
【0114】
試験終了時に摘出した肝臓中のTG濃度を測定した結果、高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群において対照群に比べて低値を示した。特に、中分子アラメ群が最も低値であった。糞中TG排泄量を測定したところ、中分子アラメ群で最も高値であった。
【0115】
血清中の余剰グルコースが肝臓に取り込まれて、TGに変換されて蓄積されると考えられる。従って、血清グルコース濃度の結果と肝臓中TG濃度は正の関係性を示すと考えられ、血清グルコース濃度が対照群に比べて低値であった高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群において肝臓中TG濃度も低値であったことから、高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群で、血清グルコース濃度の上昇抑制が脂肪肝の抑制を生じ得ると考えられた。加えて、食餌由来の脂肪の消化・吸収の抑制も肝臓TG蓄積を抑制すると考えられた。
【0116】
アラメフコイダンについて、インビトロにおけるリパーゼ活性阻害作用を検討した結果、アラメフコイダンのリパーゼ活性阻害率は、中分子量域(重量平均分子量67500)が高分子量域および低分子量域より高いものであった(実施例1)。
【0117】
糞中TG排泄量の結果を実施例1のリパーゼ活性阻害率の結果と併せて考慮すると、重量平均分子量57400である中分子アラメフコイダンは、重量平均分子量は上記中分子量域に近かったことから、中分子アラメ群では、肝臓中リパーゼ活性が阻害され、食餌由来の脂肪の排泄が促進されたことで肝臓TG蓄積が抑制されたと考えられた。
【0118】
(参考例1:アラメ由来多糖類フコイダンのα−グルコシダーゼ阻害活性)
海藻としてアラメを用い、二酸化炭素ガス下の加圧加熱反応による分子量調整を行わなかった、あるいは反応時間を1時間または2時間とした以外は、調製例1の手順に準じて、分子量が異なるアラメフコイダンを調製した。調製されたアラメフコイダンの重量平均分子量は大きい方から順に、382000Da、62000Da、28000Daであった。インビトロでのα−グルコシダーゼ阻害活性試験を下記のように行った。
【0119】
標準物質には、一般的なα−グルコシダーゼ活性阻害剤として知られているトリス塩基(和光純薬工業株式会社製:Trizma Base)を用いた。
【0120】
14.75mgのアラメフコイダン粉末をリン酸バッファー(和光純薬工業株式会社製:中性リンpH標準液、pH=6.8)溶液に添加し、0.5w/v%となるように濃度調整し、完全に溶解させた。この脱アルギン酸多糖類溶液を基に、種々の濃度に再調整し、反応促進剤であるGSH(SIGMA社製:3mM L-Glutathione,reduced)0.100mLおよびα−グルコシダーゼ酵素液(5.1mg/100mL α-Glucosidase from Saccharomyces cerevisiae(SIGMA))0.100mLを加えてボルテックスミキサーにて撹拌後、これらの混合物を37℃で10分間予備加熱した。
【0121】
予備加熱後、基質として10mMのp−ニトロフェニルα−D−グルコシド(SIGMA社製)0.250mLを加えてボルテックスミキサーにて撹拌後、これらの混合物を37℃で20分インキュベートした。インキュベート後、100mM炭酸ナトリウム(キシダ化学社製溶液)8.00mLを加えて反応を停止させ、400nmにて吸光度を測定した。脱アルギン酸多糖類を加えないで測定したものを対照(活性100%)とした。また、酵素液の代わりにバッファーを加えて測定したものをブランク値とした。下記の式に基づいて、脱アルギン酸多糖類のα−グルコシダーゼの酵素活性の阻害率[%]を求めた。
【0122】
【数2】
【0123】
表14は、当該阻害率を示した濃度[mg/mL]と共にα−グルコシダーゼ活性の阻害率[%]、そして50%阻害濃度(IC
50値:[mg/mL])を示す。
【0124】
【表14】
【0125】
アラメフコイダンのα−グルコシダーゼ活性阻害率は、高分子量域(382000Da)が、中分子量域(62000Da)および低分子量域(28000Da)に比べて高い傾向を示していた。