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特開2019-131486海藻由来多糖類の加水分解物を含む糖尿病治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-131486(P2019-131486A)
(43)【公開日】2019年8月8日
(54)【発明の名称】海藻由来多糖類の加水分解物を含む糖尿病治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/715 20060101AFI20190712BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20190712BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20190712BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20190712BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190712BHJP
   A61K 36/03 20060101ALI20190712BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20190712BHJP
   A61P 1/10 20060101ALI20190712BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20190712BHJP
   A61K 36/04 20060101ALI20190712BHJP
   A61K 36/05 20060101ALI20190712BHJP
【FI】
   A61K31/715
   C12N9/99
   A23L33/105
   A61P3/10
   A61P43/00 111
   A61K36/03
   A61P1/16
   A61P1/10
   A61P3/06
   A61K36/04
   A61K36/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2018-12979(P2018-12979)
(22)【出願日】2018年1月29日
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100207136
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 有希
(71)【出願人】
【識別番号】507149707
【氏名又は名称】学校法人和洋学園
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100207136
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 有希
(72)【発明者】
【氏名】室田 明彦
(72)【発明者】
【氏名】鬘谷 要
(72)【発明者】
【氏名】本 三保子
(72)【発明者】
【氏名】仲村 麻恵
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 一泰
(72)【発明者】
【氏名】上岡 秀也
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD27
4B018MD67
4B018ME03
4B018MF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086EA25
4C086EA26
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA72
4C086ZA75
4C086ZC20
4C086ZC33
4C086ZC35
4C088AA13
4C088AA14
4C088AA15
4C088BA12
4C088BA26
4C088CA05
4C088CA11
4C088CA12
4C088CA16
4C088CA22
4C088MA52
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA72
4C088ZA75
4C088ZC20
4C088ZC33
4C088ZC35
(57)【要約】
【課題】食品として摂取可能な材料に基づく糖尿病治療剤を提供し、さらに、そのような食品として摂取可能な材料の新規な用途を提供すること。
【解決手段】アラメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ所定の重量平均分子量を有する加水分解物を含む、糖尿病治療剤が開示される。また、アラメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ所定の重量平均分子量を有する加水分解物を含む、脂肪肝抑制剤が開示される。さらに、アラメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ所定の重量平均分子量を有する加水分解物を含む、便秘改善促進剤が開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜460000Daの重量平均分子量を有する加水分解物を含む、糖尿病治療剤。
【請求項2】
海藻に由来する多糖類の加水分解物を含むリパーゼ阻害剤。
【請求項3】
前記海藻が渇藻類である、請求項2に記載のリパーゼ阻害剤。
【請求項4】
前記加水分解物が、
ヒトエグサに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜32000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
クロバラノリに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜38000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
キリンサイに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜414000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
オゴノリに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ28000Da〜126000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
モズクに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ28000Da〜128000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
アカモクに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ272000Da〜408000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
ホンダワラに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜497000Da重量平均分子量を有する加水分解物;
ツルモに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜144000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
ガゴメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜385000
Daの重量平均分子量を有する加水分解物;および、
アラメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜123000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項2に記載のリパーゼ阻害剤。
【請求項5】
アラメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜119000Daの重量平均分子量を有する加水分解物を含む、脂肪肝抑制剤。
【請求項6】
アラメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜119000Daの重量平均分子量を有する加水分解物を含む、便秘改善促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻由来多糖類の加水分解物を含む糖尿病治療剤、リパーゼ阻害剤、脂肪肝抑制剤および便秘改善促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の生活様式の変化から、糖尿病患者と、いわゆる糖尿病予備軍といわれる潜在的な糖尿病患者の数は大きく増加しており、深刻な社会問題となっている。一方で、糖尿病は、生活習慣の改善による予防効果が期待でき、特に食習慣の改善による効果が大きいため、このような目的に沿った食品の開発が望まれている。
【0003】
例えば、海藻には食物繊維が豊富に含まれている。ワカメやコンブに含まれる代表的な水溶性食物繊維であるアルギン酸は、血糖値の上昇抑制、コレステロール抑制および肥満細胞抑制の効果を生じ、糖尿病改善が期待されることが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
特許文献1には、アルギン酸が海藻(褐藻類)から得られることが好ましいこと、アルギン酸を二酸化炭素の共存する水性媒体中で、加圧下、高温に加熱して加水分解すること、ならびにそのように加水分解したアルギン酸で抗糖尿病作用が確認されたことが記載されている。
【0005】
糖尿病の予防または改善のために、食品として摂取可能な材料を見出す必要性がなお存在する。また、海藻などの食品として摂取可能な材料に基づく新規な用途の製品開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−33372号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】New Diet Therapy,30(4),45-51頁,2015年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、食品として摂取可能な材料に基づく糖尿病治療剤を提供することを目的とする。さらに、そのような食品として摂取可能な材料の新規な用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アラメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜460000Daの重量平均分子量を有する加水分解物を含む、糖尿病治療剤を提供する。
【0010】
本発明は、海藻に由来する多糖類の加水分解物を含むリパーゼ阻害剤を提供する。
【0011】
1つの実施形態では、上記リパーゼ阻害剤は、上記海藻が渇藻類である。
【0012】
1つの実施形態では、上記リパーゼ阻害剤は、上記加水分解物が、
ヒトエグサに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜32000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
クロバラノリに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜38000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
キリンサイに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜414000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
オゴノリに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ28000Da〜126000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
モズクに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ28000Da〜128000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
アカモクに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ272000Da〜408000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
ホンダワラに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜497000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
ツルモに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜144000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
ガゴメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜385000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;および、
アラメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜123000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0013】
本発明は、アラメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜119000Daの重量平均分子量を有する加水分解物を含む、脂肪肝抑制剤を提供する。
【0014】
本発明は、アラメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜119000Daの重量平均分子量を有する加水分解物を含む、便秘改善促進剤を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、食品として利用可能な材料に基づく、糖尿病治療剤が提供される。このような糖尿病治療剤は、糖尿病の予防または治療のために、食品として日常的に摂取することができる。さらに、本発明によれば、食品として利用可能な材料に基づく、リパーゼ阻害剤、肝臓脂質抑制剤、および便秘改善剤もまた提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】精製脱アルギン酸多糖類(A)および精製アルギン酸(B)の赤外線吸収スペクトルを示す。
図2】各種海藻由来多糖類のリパーゼ酵素阻害率の結果を示すグラフである。
図3】高分子アラメフコイダン粉末、中分子アラメフコイダン粉末、および高分子アルギン酸粉末のGPC分析によるクロマトグラムである。
図4】高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群および対照群のマウスの投与期間中の各試料の総摂取量を示すグラフである。
図5】高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群および対照群のマウスの投与期間の開始時および終了時の体重を示すグラフである。
図6】高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群および対照群のマウスの投与終了時の血清グルコース濃度を示すグラフである。
図7】高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群および対照群のマウスの投与終了時の血清インスリン濃度を示すグラフである。
図8】高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群および対照群のマウスの投与終了時のインスリン抵抗性指数(HOMA−R)値を示すグラフである。
図9】高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群および対照群のマウスの投与終了時の血清アディポネクチン値を示すグラフである。
図10】高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群および対照群のマウスの投与終了時の肝臓中トリグリセリド(TG)濃度を示すグラフである。
図11】高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群および対照群のマウスの投与3週目の乾燥糞重量を示すグラフである。
図12】高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群および対照群のマウスの投与3週目の糞中トリグリセリド(TG)排泄量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、詳細に説明する。なお、本明細書において、分子量の単位として示す「Da」は「ダルトン」を意味する。
【0018】
本明細書において「海藻」とは、海産種群の藻類の総称であり、例えば、容易に肉眼で判別することができる藻類が挙げられる。海藻には、褐藻類、紅藻類および緑藻類が包含される。海藻は、その収穫地または収穫時期に限定されるものではない。本明細書における「海藻」としては、例えば、褐藻類として、アラメ、ガゴメコンブ(本明細書中において「ガゴメ」ともいう)、ヒジキ、ホンダワラ、マコンブ、ワカメ、アカモク、ツルモ、マツモ、メカブ、モズクなど;紅藻類として、キリンサイ、クロバラノリ(別名を「スサビノリ」ともいう)、トサカノリ、オゴノリなど;ならびに緑藻類として、ヒトエグサ(別名を「アオサ」ともいう)などが挙げられる。1つの実施形態では、海藻は、褐藻類である。別の実施形態では、海藻は、アラメ、ホンダワラ、ツルモ、ガゴメおよびキリンサイからなる群から選択され得る。さらに別の実施形態では、海藻は、アラメである。
【0019】
本明細書において、海藻「に由来する多糖類」とは、材料の海藻(例えば、アラメ)に含まれる任意の多糖類およびその塩をいい、例えば、アルギン酸、フコイダン、アガロース、カラギーナン、ポルフィラン、およびラムナン硫酸、ならびにそれらの塩が挙げられる。このような多糖類は、単独の多糖類のみであっても、または異なる多糖類の混合物であってもよい。
【0020】
本明細書において「アルギン酸」とは、カルボキシル基を有する酸性多糖類であり、β−D−マンヌロン酸とα−L−グルロン酸とが1,4グリコシド結合した直鎖ポリマーおよびその塩であり、このようなものであれば特に限定されない。β−D−マンヌロン酸は、その少なくとも一部がC−5エピマーであってもよい。
【0021】
本明細書において「フコイダン」とは、L−フコース(6−デオキシ−L−ガラクトース)を主構成糖とする硫酸化多糖類である。フコイダンは、L−フコース4硫酸の1,2グリコシド結合を主体として含み、1,3結合および/または1,4結合を含んでいてもよい。フコイダンの構成糖の組成は由来する海藻の種類に依存するが、その構成糖には、ウロン酸およびガラクトース、ならびに少量のキシロース、マンノース、ラムノースなども含まれ得る。
【0022】
フコイダンの構造に関して、構成糖および硫酸含有量のモル比は、例えば、モズク由来フコイダン(例えば、沖縄産モズクフコイダン、タングルウッド社製:AHフコイダン85)の糖組成では、L−フコース:D−ガラクトース:D−グルコース:D−マンノース:D−キシロース、D−アセチル化グルコース:硫酸=5:1:1:0.5:0.5:2:7とされている。
【0023】
海藻に由来する多糖類の「加水分解物」(本明細書中において「分解物」ともいう)は、加水分解を生じる任意の方法によって得られ得る。加水分解方法は特に限定されない。原料の海藻の乾燥、粉砕および抽出操作等における加熱、撹拌等によって、海藻由来多糖類の加水分解物が生じ得る。特定の実施形態においては、加水分解方法として、例えば、(1)二酸化炭素ガスの存在下で、海藻または該海藻に由来する多糖類を含有する水性媒体を加圧および加熱する方法、ならびに(2)海藻または該海藻に由来する多糖類を食酢媒体中で加熱、あるいは加圧および加熱する方法が挙げられる。
【0024】
上記(1)および(2)の方法における「海藻」は、好ましくは粉末であり、その粉末の平均粒径は、例えば、1μm〜10mm、好ましくは10μm〜1mmである。このような粉末は、当業者が通常用いる粉砕技術により調製され得る。上記(1)および(2)の方法において、「海藻に由来する多糖類」として、海藻から予め抽出した多糖類画分、または単離した多糖類もしくは単離および精製した多糖類が用いられ得る。このような多糖類画分または多糖類は、海藻をエタノール沈殿後の熱水抽出によって得られ得る。多糖類画分または多糖類は、必要に応じて、乾燥等により粉末化され得る。
【0025】
なお、本明細書において用語「海藻または該海藻に由来する多糖類」とは、「海藻」または「該海藻に由来する多糖類」のいずれか一方の場合に加えて、「海藻」と「該海藻に由来する多糖類」とが組み合わされた場合も包含することが意図される。
【0026】
上記(1)の方法において「二酸化炭素ガスの存在下」とは、水性媒体(例えば、水)に海藻または該海藻に由来する多糖類を添加する前に、水性媒体に二酸化炭素ガスを吹き込む(バブリングする)ことにより行われ得る。「二酸化炭素ガスの存在下」は、水性媒体に二酸化炭素ガスを飽和させた状態にあることが好ましい。
【0027】
上記(1)の方法において、水性媒体に対し、海藻または該海藻に由来する多糖類は、水性媒体重量と該多糖類重量との合計に対する該多糖類の重量の割合(すなわち、海藻に由来する多糖類の濃度)が、好ましくは、0.05〜20重量%、より好ましくは、0.1〜10重量%であるように添加され得る。海藻に由来する多糖類の濃度が0.05重量%以上であることで、加水分解物の収率が向上し、海藻に由来する多糖類の濃度が20重量%以下であることで、水性媒体中に海藻に由来する多糖類がより均一に分散または溶解し、それにより加水分解反応がより効率的に進行し、分子量をより精密に制御し得る。
【0028】
上記(2)の方法において「食酢媒体」は、水性媒体(例えば、水)と食酢とが混合した媒体をいい、例えば、水性媒体に海藻に由来する多糖類を添加する前に、水性媒体に食酢を添加して調製され得る。食酢とは、食用にする酢をいい、日本農林規格(JAS)に規定されるもの、または消費者庁が告示する食酢品質表示基準に定義されるもののいずれかに該当するものを指して言う。食酢は醸造酢および合成酢を包含し、これら醸造酢および合成酢についても食酢品質表示基準に定義されている。醸造酢としては、例えば、穀物酢(例えば、米酢、米黒酢、大麦黒酢など)および果実酢(例えば、リンゴ酢、ブドウ酢など)が挙げられる。食酢の酸度は、好ましくは、4〜5%の範囲内であり、一例として、穀物酢にみられるような酸度4.2%が挙げられる。例えば酸度4.2%の食酢の場合、水性媒体中の食酢の濃度は、0.1〜30容量%であることが好ましく、2〜20容量%であることがより好ましい。そのような酸度および濃度であることで、加水分解物の収率および加水分解反応による分子量制御の精密さを向上させ得る。
【0029】
上記(2)の方法において、食酢媒体に対し、海藻または該海藻に由来する多糖類は、食酢媒体重量と該多糖類重量との合計に対する該多糖類の重量の割合(すなわち、海藻に由来する多糖類の濃度)が、好ましくは、0.05〜20重量%、より好ましくは、0.1〜10重量%であるように添加され得る。海藻に由来する多糖類の濃度が0.05重量%以上であることで、加水分解物の収率が向上し、海藻に由来する多糖類の濃度が20重量%以下であることで、水性媒体中に海藻に由来する多糖類がより均一に分散または溶解し、それにより加水分解反応がより効率的に進行し、分子量をより精密に制御し得る。
【0030】
上記(1)および(2)の方法において、加水分解反応での加熱時の温度は、加水分解反応のために設定される所定の温度であり、「反応温度」ともいう。加熱温度(反応温度)は、80℃以上であることが好ましく、80℃〜130℃であることがより好ましく、90℃〜120℃であることがさらに好ましい。上記(2)の方法においては、加水分解反応での加熱時の温度は加熱時間に依存し得るが、食酢媒体に対し、加圧を行うことなく、例えば、80℃以上100℃未満の温度を付与してもよく、あるいは、加圧下、100℃以上(例えば100℃〜130℃)の温度を付与してもよい。上記(1)の方法においては、加水分解反応での加熱時の温度として、加圧下、100℃以上(例えば100℃〜130℃)の温度を水性媒体に付与することが好ましい。加熱時の温度が80℃以上であることで、加水分解反応の速度が向上し、加熱時の温度が130℃以下であることで、副生成物の量が抑制されて、分解物の収率が向上し得る。
【0031】
上記(1)および(2)の方法において、加圧時の圧力は、加熱時の温度(反応温度)などの条件を考慮して適宜設定すればよい。例えば、加熱時の温度を105℃〜130℃とし、より好ましくは110℃から120℃とする場合、加圧時の圧力は、0.05MPa以上であることが好ましく、0.12MPa〜0.27MPaであることがより好ましく、0.14MPa〜0.2MPaであることがさらに好ましい。加圧時の圧力が0.05MPa以上であることで、加水分解反応の速度が向上し、加圧時の圧力が0.27MPa以下であることで、副生成物の量が抑制されて、分解物の収率が向上する。
【0032】
加熱の時間は、加熱時の温度(反応温度)、加水分解方法(例えば、上記(1)または(2)の方法のいずれを用いるか)などの条件を考慮して適宜設定すればよい。加熱の時間は、海藻由来多糖類を含む反応溶液を加熱後、設定した加熱時の温度(反応温度)に到達するまでの時間および到達した時点から加熱を終了するまでの時間を含む。到達するまでの時間は、加熱時の温度(反応温度)、加水分解方法などに依存するが、一般に、5分〜80分であり得る。本明細書中において「反応時間」とは、上記「加熱の時間」とは別意で用いられ、具体的には、上記「加熱の時間」のうち、設定した所定の加熱時の温度(反応温度)に到達した時点から加熱を終了するまでの時間をいう。加熱時の温度(反応温度)が上記範囲内である場合には、反応時間は、好ましくは、0分間〜6時間、または10分間〜4時間、または15分間〜2時間であり、「0分間」とは、設定した所定の加熱時の温度(反応温度)に到達した時点で加熱を止めて(例えば、反応溶液を含む容器を冷却することによる)、反応を停止する場合をいう。例えば、海藻の種類および加水分解方法により得られる加水分解物の分子量に依存して、加熱の時間または反応時間を決定し得る。
【0033】
海藻に由来する多糖類の加水分解反応の速度は、特に加熱時の温度と、加水分解を開始してから初期の圧力(初期圧力)との影響を受け易いので、これらの条件を適宜調節することで、分解物の分子量を容易に調節できる。
【0034】
加水分解終了時の反応液のpHは、4〜6.8であることが好ましく、4.5〜5.5であることがより好ましい。
【0035】
加水分解反応は、バッチ式または連続式のいずれで行ってもよい。
【0036】
本発明の1つの実施形態では、上記加水分解物は、脱アルギン酸(アルギン酸除去)の処理が施されたものであってもよい。脱アルギン酸処理は、海藻に由来する多糖類の加水分解反応の前または後のいずれに行ってもよい。
【0037】
海藻に由来する多糖類の加水分解物は、例えば、加水分解反応前に、粉末化海藻試料からの色素除去および水溶性多糖類抽出;塩酸酸性下でのアルギン酸除去;および脱色、エタノール沈殿および透析による精製により、精製多糖類を得た後に、加水分解反応を施すことによって製造され得る。海藻に由来する多糖類の加水分解物はまた、加水分解反応を行った後、塩酸酸性下でのアルギン酸除去;および脱色、エタノール沈殿および透析による精製を施しても得られ得る。
【0038】
脱アルギン酸処理が施された場合、海藻に由来する多糖類の加水分解物は、アルギン酸以外の多糖類、例えば、硫酸化多糖類(例えば、フコイダン)の加水分解物となり得る。
【0039】
海藻に由来する多糖類の加水分解物の分子量は、由来する海藻の種類、採取時期および産地等、多糖類の抽出または精製方法および加水分解方法に依存し得るが、1つの実施形態では、海藻に由来する多糖類の加水分解物は、その重量平均分子量が、その未加水分解物(すなわち、海藻に天然に存在し得る多糖類)の重量平均分子量に対して約90%以下の値となる。また、海藻に由来する多糖類の加水分解物の重量平均分子量の下限は、10000Daであり得る。海藻に由来する多糖類が硫酸化多糖類を含む場合、加水分解物は、加水分解反応の制御の観点から、10000Da以上であることが好ましい。
【0040】
本発明の糖尿病治療剤は、アラメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜460000Daの重量平均分子量を有する加水分解物を含む。好ましくは、重量平均分子量は、15000Da〜460000Da、より好ましくは、40000Da〜460000Daである。「加水分解物」を含むとは、当該加水分解物を含む限り、その様式は限定されない。本発明の糖尿病治療剤は、例えば、加水分解方法によって生じた産物の液状物そのもの、または当該液状物から水分を除去して得られる粉末(例えば、凍結乾燥物、または加熱で水分を蒸発して得られた粉末)、あるいは当該液状物または当該粉末から抽出された海藻由来多糖類の加水分解物を含有し得る。「多糖類の加水分解物」は、海藻に対して、加水分解反応として、必要に応じて上述したような脱アルギン酸(アルギン酸除去)、脱色、精製などの処理が施されたものを含む場合も包含される。
【0041】
本発明の糖尿病改善剤は、その糖尿病改善効果に基づき、食品または医薬品の添加剤として用いられ得る。糖尿病改善効果は、例えば、血清グルコース濃度(または血清グルコース値)、血清インスリン濃度(または血清インスリン値)、インスリン抵抗性指数(「HOMA−R」または「HOMA指数」ともいう)などの要因を指標にして判断され得る。さらに、血清アディポネクチン値、肝臓脂肪量(または肝臓中トリグリセリド(TG)濃度)などの要因も、糖尿病改善の指標として用いられ得る。糖尿病改善効果は、上記の要因の任意の組み合わせによっても判断され得る。
【0042】
本発明の糖尿病改善剤は、食品中に配合されても、または糖尿病改善剤自体を食品とすることもできる。本発明の糖尿病改善剤は、医薬品に含有されてもよい。医薬品は、好ましくは、経口投与用である。このような医薬品としては、例えば、糖尿病の予防または改善用の医薬品などが挙げられる。このように、本発明の糖尿病改善剤は、それ自体が糖尿病の予防または治療を用途とする食品添加剤、食品および医薬品などのいずれの形態でも提供され得、あるいはこの改善剤が、食品添加剤、食品および医薬品の成分として含有され得る。本発明の糖尿病改善剤の摂取量は、年齢、状態等により適宜調節され得るが、例えば、ヒトへの摂取量の換算は当業者に通常用いる方法によりなされ得る。
【0043】
本発明のリパーゼ阻害剤は、海藻に由来する多糖類の加水分解物を含む。1つの実施形態では、海藻は、褐藻類である。別の実施形態では、海藻は、ヒトエグサ、クロバラノリ、キリンサイ、オゴノリ、アカモク、モズク、ホンダワラ、ツルモ、ガゴメ、およびアラメからなる群から選択され得る。さらに別の実施形態では、海藻は、アラメである。1つの実施形態では、海藻に由来する多糖類の加水分解物は、下記のとおりである:
ヒトエグサに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜32000Da、好ましくは10000Da〜26000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
クロバラノリに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜38000Da、好ましくは10000Da〜24000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
キリンサイに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜414000Da、好ましくは10000Da〜41000Da、または108000Da〜414000Da、より好ましくは10000からDaから30000Da、または121000Da〜414000Da、よりさらに好ましくは10000Daから20000Da、または131000Da〜414000Da、なおより好ましくは140000Da〜414000Da、なおより好ましくは147000Da〜414000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
オゴノリに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ28000Da〜126000Da、好ましくは38000Da〜117000Da、より好ましくは50000Daから104000Daの重量平均分子量の重量平均分子量を有する加水分解物;
モズクに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ28000Da〜128000Da、好ましくは41000Da〜112000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
アカモクに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ272000Da〜408000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
ホンダワラに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜497000Da、よりさらに好ましくは10000Da〜60000Da、または96000Da〜497000Da、なおより好ましくは10000Da〜50000Da、または106000Da〜497000Da、なおよりさらに好ましくは113000Da〜497000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
ツルモに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜144000Da、よりさらに好ましくは10000Da〜75000Da、なおより好ましくは10000Da〜46000Da、または136000Da〜144000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
ガゴメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜385000Da、好ましくは10000Da〜230000Da、より好ましくは10000Da〜140000Da、よりさらに好ましくは10000Da〜50000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;および、
アラメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜123000Da、好ましくは10000Da〜116000Da、より好ましくは14000Da〜103000Da、よりさらに好ましくは25000Da〜90000Daの重量平均分子量を有する加水分解物;
あるいは
これらの2つ以上の組合せ。「加水分解物」を含むとは、上述したとおり当該加水分解物を含む限り、その様式は限定されない。
【0044】
本発明のリパーゼ阻害剤は、上述のような海藻に由来する多糖類の加水分解物を含むが、例えば、下記実施例1に説明するリパーゼ阻害試験またはこれと実質的に同等の試験において、リパーゼ阻害効果を示し得る。本発明のリパーゼ阻害剤は、リパーゼ阻害率が、例えば20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、よりさらに好ましくは50%以上、なおより好ましくは60%以上、なおよりさらに好ましくは70%以上である。本発明のリパーゼ阻害剤は、食品に配合されても、または医薬品に含有されてもよい。本発明のリパーゼ阻害剤は、そのリパーゼ阻害効果に基づき、食品または医薬品の添加剤として用いられ得る。リパーゼ阻害効果に基づく食品または医薬品の用途としては、例えば、脂肪肝抑制、メタボリックシンドロームの予防または改善などが挙げられる。本発明のリパーゼ阻害剤の摂取量は、年齢、状態等により適宜調節され得るが、例えば、ヒトへの摂取量の換算は当業者に通常用いる方法によりなされ得る。
【0045】
本発明の脂肪肝抑制剤は、アラメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜119000Daの重量平均分子量を有する加水分解物を含む。好ましくは、重量平均分子量は、10000Da〜87000Da、より好ましくは、10000Da〜83000Da、よりさらに好ましくは10000Da〜78000Da、なおより好ましくは10000Da〜74000Da、なおよりさらに好ましくは10000Da〜69000Daである。「加水分解物」を含むとは、上述したとおり当該加水分解物を含む限り、その様式は限定されない。
【0046】
本発明の脂肪肝抑制剤は、その脂肪肝抑制効果に基づき、食品または医薬品の添加剤として用いられ得る。脂肪肝抑制効果は、例えば、肝臓脂肪量(または肝臓中トリグリセリド(TG)濃度)、糞便中脂肪排泄量(または糞中トリグリセリド(TG)排泄量)などを指標にして判断され得る。さらに、糞便中胆汁酸排泄量なども、脂肪肝抑制の指標として用いられ得る。
【0047】
本発明の脂肪肝抑制剤は、食品中に配合されても、または脂肪肝抑制剤自体を食品とすることもできる。本発明の脂肪肝抑制剤は、医薬品に含有されてもよい。このような医薬品としては、例えば、脂肪肝の予防または改善用の医薬品などが挙げられる。このように、本発明の脂肪肝抑制剤は、それ自体が脂肪肝の予防または治療を用途とする食品添加剤、食品および医薬品などのいずれの形態でも提供され得、あるいはこの改善剤が、食品添加剤、食品および医薬品の成分として含有され得る。本発明の脂肪肝抑制剤の摂取量は、年齢、状態等により適宜調節され得るが、例えば、ヒトへの摂取量の換算は当業者に通常用いる方法によりなされ得る。
【0048】
本発明の便秘改善促進剤は、アラメに由来する多糖類の加水分解物であって、かつ10000Da〜119000Daの重量平均分子量を有する加水分解物を含む。好ましくは、重量平均分子量は、10000Da〜87000Da、より好ましくは、10000Da〜82000Da、よりさらに好ましくは10000Da〜78000Da、なおより好ましくは10000Da〜74000Da、なおよりさらに好ましくは10000Da〜70000Daである。「加水分解物」を含むとは、上述したとおり当該加水分解物を含む限り、その様式は限定されない。
【0049】
本発明の便秘改善促進剤は、その便秘改善促進効果に基づき、食品または医薬品の添加剤として用いられ得る。便秘改善促進効果は、例えば、糞便量(例えば、乾燥重量)などを指標にして判断され得る。
【0050】
本発明の便秘改善促進剤は、食品中に配合されても、または便秘改善促進剤自体を食品とすることもできる。本発明の便秘改善促進剤は、医薬品に含有されてもよい。このような医薬品としては、例えば、便秘の予防または改善用の医薬品などが挙げられる。このように、本発明の便秘改善促進剤は、それ自体が便秘の予防または治療を用途とする添加剤、食品および医薬品などのいずれの形態でも提供され得、あるいはこの改善剤が、添加剤、食品および医薬品の成分として含有され得る。本発明の便秘改善促進剤の摂取量は、年齢、状態等により適宜調節され得るが、例えば、ヒトへの摂取量の換算は当業者に通常用いる方法によりなされ得る。
【0051】
上述したような添加剤、食品および医薬品は、製剤化する場合、その製剤の形態は特に限定されない。例えば、目的に応じて、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、細粒剤、液剤(水薬等)等の経口剤とすることができ、これらはいずれも公知の方法で製剤化することができる。また、製剤の製造で通常使用される各種添加剤を、当業者が適宜選択可能な量にて配合してもよい。このような製剤添加剤としては、賦形剤、滑沢剤、可塑剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、安定剤、矯味剤、着色剤、香料等が例示できる。製剤添加剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせおよび比率は、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0052】
上記のように、本発明の糖尿病治療剤、脂肪肝抑制剤および便秘改善促進剤は、医薬品だけでなく食品でも利用され得るため、より汎用性が高く、年齢、性別を問わず、多くの物が簡便に摂取することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0054】
(調製例1)
<用いた試料>
本検討例では、ヒトエグサ、クロバラノリ、キリンサイ、オゴノリ、トサカノリ、マツモ、モズク、アカモク、ホンダワラ、ツルモ、ガゴメ、アラメ、およびヒジキの計13種類の海藻を用いて、消化酵素の一つであるリパーゼ酵素阻害についての作用を調べた。
【0055】
<粉末化海藻試料の精製>
ミキサーを用いて海藻を粉砕し、ふるい(メッシュサイズ(#)=250μm)にかけ、250μm以下の粒径の粉末化海藻試料を得た。海藻の乾燥重量の3倍量のエタノールを添加し、室温で24時間撹拌して海藻含有の色素類を抽出除去し、遠心分離機により沈殿物と色素含有エタノール溶液とを分離した。分離後の沈殿物をエバポレーターに供してエタノールを除去後、凍結乾燥した。凍結乾燥後の海藻試料に10倍量の純水を加え、80℃で4時間の間熱水抽出を行った。次いで、この熱水抽出液を遠心分離機にかけ、固液分離した。分離した液体を凍結乾燥して、水溶性食物繊維である多糖類粉末を得た。
【0056】
<塩酸酸性下でのアルギン酸除去>
上記抽出操作により得られた多糖類粉末は、アルギン酸と、フコイダン、カラギーナン等の混合物を含む硫酸化多糖類と、アガロース等からなるものであり得る。アルギン酸の除去は、アルギン酸の酸解離定数を利用するpH調整法により行った。アルギン酸の構成糖であるグルクロン酸の酸解離定数は3.38で、マンヌロン酸のそれは3.65である。アルギン酸が溶解している溶液の水素イオン濃度をpH=1.0以下にすると、アルギン酸の酸解離定数から、高分子のアルギン酸はイオンとして解離できずに沈殿する。しかしながら、フコイダン等の硫酸化多糖類は、その硫酸基がエステル結合のために溶液中の水素イオン濃度に依存せずに溶解したままなので、アルギン酸と硫酸化多糖類の分離が可能であった。
【0057】
上記抽出操作により得られた多糖類粉末を少量の純水に溶かし、溶液を撹拌しながら塩酸を滴下し、溶液のpHを1.0以下に調整した後、24時間冷蔵庫中に静置し、アルギン酸を沈殿させた。沈殿したアルギン酸を遠心分離機により固液分離した。沈殿物を20w/v%炭酸ナトリウム水溶液で中和し、凍結乾燥することで、アルギン酸粉末を得た。遠心分離後の溶液は20w/v%炭酸ナトリウム水溶液で中和し、凍結乾燥することで、中和により生じた塩類と脱アルギン酸多糖類との混合粉末を得た。
【0058】
オゴノリおよびヒトエグサについては、塩酸を添加しても白濁するだけで、明確な沈殿物を生じなかった。また、トサカノリは24時間冷蔵庫に静置した後、溶液全体がゲル化していたため、完全にアルギン酸を分離することがやや困難であった。しかしながら、上記と同様の操作をすることで、アルギン酸粉末および塩類と脱アルギン酸多糖類との混合粉末を得た。
【0059】
<脱色、エタノール沈殿および透析による精製>
脱アルギン酸多糖類とアルギン酸粉末をそれぞれ少量の純水に溶かし、酢酸酸性条件下、70℃の湯浴中で撹拌しながら、試料溶液が薄い黄色になるまで、5w/v%亜塩素酸ナトリウム溶液を滴下した。脱色が終了した後、20w/v%炭酸ナトリウム溶液を加え、溶液の水素イオン濃度をpH=9.5付近とした。しばらくの間撹拌した後、エタノール濃度が80v/v%になるまでエタノールを滴下し、冷蔵庫中にて24時間静置した。静置後のエタノール溶液を遠心分離機により、固液分離した。分離後の沈殿物をエバポレーターに供して、エタノールを除去後、凍結乾燥し、脱アルギン酸多糖類およびアルギン酸のそれぞれの脱色済み粉末を得た。
【0060】
得られた脱アルギン酸多糖類の脱色済み粉末およびアルギン酸の脱色済み粉末を少量の純水に溶かし、この溶液を透析膜(フナコシ株式会社製、品名:Spectra/Por 3、分画分子量:3500;以下、特に明記しない限り同じ透析膜を使用)に入れ、24時間撹拌しながら透析した。その際に、透析開始から2時間後と4時間後に膜外の純水を交換し、24時間後に膜内の溶液を回収した。回収した溶液を凍結乾燥し、精製脱アルギン酸多糖類粉末および精製アルギン酸粉末を得た。
【0061】
図1は、アラメに由来する精製脱アルギン酸多糖類粉末(A)および精製アルギン酸粉末(B)の赤外線スペクトルを示す。図1中の縦軸は赤外線の透過率[%T]であり、100[%T]は、分析用に照射した赤外線が全て透過したことを示す。また、この透過率の数値が低い場合には、照射した赤外線が透過せずに、化合物に吸収にされたことを示す。図1中の横軸は波数(カイザー)であり、「cm−1」=1/波長[μm]を単位として示されている。赤外線の吸収位置と分析対象の化学構造には密接な関連が認められていることから、物質の化学的な構造解析を目的とする汎用分析方法として広く用いられている。
【0062】
図1(B)に示されるように、アルギン酸の場合には、約1750[cm−1]付近に大きな吸収が有り、アルギン酸特有のカルボキシル基(図1(B)中の「カルボン酸」)の存在を示す。また、3400[cm−1]付近の幅が広くかつ吸収強度が比較的大きな吸収は、糖特有の水酸基とともに、カルボキシル基中の水酸基由来の吸収を示す。
【0063】
図1(A)に示されるように、スペクトル中の約1250[cm−1]付近の吸収は、フコイダンに特有な硫酸基(−SOH)に由来する吸収(苔庵泰志、et,al、平成20年度三重県工業研究所研究報告、No.33(2009))であることから、精製脱アルギン酸多糖類は、硫酸化多糖類(フコイダン)の一種であると推測した。さらに、アルギン酸に特有なカルボキシル基に由来する吸収が見られないことから、アルギン酸とフコイダンの分離・精製が十分になされていることも併せて示された。
【0064】
<脱アルギン酸多糖類の二酸化炭素ガス下の加圧および加温による分子量調整>
純水250mLを耐圧反応容器に投入し、30℃に昇温した。30℃になった時点で二酸化炭素ガスを吹き込み、200rpmで撹拌しながら15分間バブリングを行った。脱アルギン酸多糖類粉末を5g投入後、反応容器全体を密閉して二酸化炭素ガスで装置圧力を0.30MPaに調整し、回転数200rpmで所定の温度まで昇温した。昇温は、温度90℃に13分、100℃に15分、110℃に20分で到達した。所定の温度に達した時点を反応開始時点とし、その後所定の時間反応させた。反応温度および反応時間を以下の表1に示す。反応終了後、直ちに冷水によって反応容器を冷却した。試料溶液が冷却された後、pHを測定し凍結乾燥した。
【0065】
【表1】
【0066】
表1には、各海藻由来多糖類加水分解物および抽出時(すなわち、二酸化炭素ガス下の加水分解反応前)の各海藻由来脱アルギン酸多糖類の重量平均分子量を併せて示す。トサカノリおよびアカモクを除き、リパーゼ酵素阻害試験用に重量平均分子量の異なる3種類の試料を用意し、例えば、「ヒトエグサ1、ヒトエグサ2、ヒトエグサ3」のように「海藻名」に「番号」を付して表す。
【0067】
(実施例1:リパーゼ酵素阻害試験)
リパーゼは、トリグリセリドのα位脂肪酸エステルを加水分解し、ジグリセリド成分と遊離の脂肪酸へ分解する。食品中の脂肪は、胆汁酸やリン脂質と共に小さな油滴(ミセル)を形成し、この油滴に対して消化酵素である膵リパーゼが働き、脂肪酸とβ−モノグリセリドあるいはグリセロールとなって吸収される。阻害活性の測定方法としては、DSファーマバイオメディカル株式会社より販売されている「リパーゼキットS」およびリパーゼ酵素阻害試験に用いた試薬類を以下に示す。
・N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid(関東化学株式会社製:以後「TES」と称する)
・Lipase from porcine pancreas (L3126)(SIGMA社製:ブタ膵臓由来リパーゼ)
・Polyphenon 60 from green tea (SIGMA社製:緑茶由来ポリフェノン60、以後「ポリフェノン」と称する)
【0068】
リパーゼ酵素阻害の測定方法は、下記の実験手順に従い阻害率を算出した:
1)リパーゼ酵素阻害実験では、一部の高分子試料において5mg/mL濃度では完全に溶解せず濁ることから、高分子試料の分子量を100000Da前後まで、加水分解を行い、この分子量範囲を高分子試料とした。ただし、トサカノリ、マツモ、アカモクなどは、試料量が少ないため、分子量調整が困難となり、データの欠損を生じた;
2)リパーゼ10mgをTESバッファー100mLに溶解させ、リパーゼ溶液を調製した;
3)発色液を既定の方法に従って調製した;
4)発色液1mLにポリフェノン1.00mg(0.5w/v%)、海藻由来酸性多糖類それぞれ完全に溶解させ5.00[mg/mL]の溶液濃度となるように調製した(ただし、アラメ3の溶液濃度は、2.56[mg/ml]であった);
5)上記3)の溶液にリパーゼ溶液50μLとエステラーゼ阻害液20μLを加え、ボルテックスミキサーにて撹拌後、30℃で5分の予備加熱を行った;
6)予備加熱後、基質液100μLを加え、ボルテックスミキサーにて撹拌後、30℃で30分インキュベートした;
7)インキュベート後、反応停止液2.00mLを加えて、反応を停止させ412nmにて吸光度を測定した;
8)上記3)の操作において酸性多糖を加えないで測定したものをControl(活性100%)として、下式により酸性多糖類の活性阻害率を求め、また、酵素溶液の代わりにバッファーを加えて測定したものをブランク値とした。
【0069】
【数1】
【0070】
試験結果をリパーゼ酵素阻害率とIC50値を表2に、リパーゼ酵素阻害率の図を図2に示した(図2中の「アラメ3(注1)」は、下記表2の「注1」の記載のとおりである)。表2におけるIC50値は、リパーゼ酵素阻害率が50%以上を示した場合のみを試験対象とした。
【0071】
【表2】
【0072】
リパーゼ阻害作用は、渇藻類由来多糖類の加水分解物で高い傾向が見られた。特に、アラメ、ホンダワラ、ツルモ、およびガゴメに由来する多糖類加水分解物で20%〜70%以上の阻害率が観察された。また、キリンサイに由来する多糖類加水分解物でも20%〜50%以上の阻害率が観察された。また、高いリパーゼ阻害率を示したものほど、IC50値が低い値であるという傾向が見られた。
【0073】
(調製例2:アラメ由来多糖類フコイダンの調製)
調製例1においてアラメ由来の海藻を採用して調製した精製脱アルギン酸多糖類(アラメフコイダン)から食酢存在下の加圧および加温による分子量調整を経た加水分解物を得、下記の実施例のマウス試験用材料として供した。また、当該精製脱アルギン酸多糖類から別に得られた精製アルギン酸をポジティブ対照群用試料として供した。
【0074】
<食酢存在下の加圧および加温による分子量調整>
純水500mLと精製脱アルギン酸多糖類アラメフコイダン25gおよび食酢(株式会社Mizkan Holdings(ミツカン)製:米酢、酸度4.2%)25mLを耐圧反応容器に投入し、回転数200rpmで撹拌しながら100℃まで昇温した。温度100℃に15分で到達した。100℃の温度に達した時点を反応開始時点とし、その後1.0時間反応させ、反応終了後、直ちに冷水によって反応容器を冷却し、また同様に反応温度100℃で、2.0時間の反応も行い(これらをそれぞれ、反応温度100℃にて反応時間1.0時間および反応温度100℃にて反応時間2.0時間という)、分子量の異なる加水分解物を2つ生成させた。
【0075】
<脱色および透析による精製>
分子量の異なる2つの加水分解物の溶液に対し、酢酸酸性条件下、70℃の湯浴中で撹拌しながら、該加水分解物溶液が薄い黄色になるまで、5w/v%亜塩素酸ナトリウム溶液を滴下した。脱色が終了した後、20w/v%炭酸ナトリウム溶液を加え、溶液の水素イオン濃度をpH=9.5付近とした。しばらくの間撹拌した後、冷蔵庫中にて24時間静置した。
【0076】
24時間後得られた溶液をそれぞれ透析膜(フナコシ株式会社製、品名:Spectra/Por 3、分画分子量:1000)に入れ、24時間撹拌しながら透析した。その際に、透析開始から2時間後と4時間後に膜外の純水を交換し、24時間後に膜内の溶液を回収した。回収した溶液を凍結乾燥し、アラメ由来フコイダン加水分解物粉末を得た。食酢存在下の加圧および加温反応において反応時間1.0時間で調製された加水分解物を「高分子アラメフコイダン」、そして反応時間2.0時間で調製された加水分解物を「低分子アラメフコイダン」とした。
【0077】
得られた高分子アラメフコイダン粉末および中分子アラメフコイダン粉末、ならびに精製アルギン酸粉末(調製例1)を少量の0.1mol/L NaCl溶液に溶かし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析に供し、GPC計算ソフトにより重量平均分子量(Mw[Da])を求めた。ただし、分析カラムの排除限界の上限は400000Daで、下限は10000Daであることから、これらの範囲外の重量平均分子量については、外挿値で示した。HPLC分析装置、分析カラム、分析諸条件および重量平均分子量計算のソフトウェア名を以下に示す。
【0078】
(HPLC装置および分析諸条件)
Agilent製 1100バイナリーポンプ
Agilent製 1100デガッサ
RI検出器:JASCO製 示差屈折計 2031 plus
カラム:SHODEX製 KS−804(排除限界:400000)、
SHODEX製 KS−802(排除限界:10000)、
SHODEX製 KS−G(ガドカラム)
サンプルループ:PHEOMYNE 500μLループ
溶離液:0.1mol/L NaCl
流速:0.700mL/分
カラム温度:40.0℃
重量平均分子量計算ソフトウェア:Chromato−PRO-GPC(株式会社ランタイムインスツルメント製)
【0079】
上記記載の各試料についての重量平均分子量、数質量平均分子量及び保持時間を表3に、GPC分析によるクロマトグラムを図3に示す。調製例1における精製脱アルギン酸多糖類の分子量は382000Daであったが、食酢存在下の加圧および加温処理により、98400Daの高分子アラメフコイダンおよび57400Daの中分子アラメフコイダンが得られ、これらを実施例2のマウス試験に供した。精製アルギン酸の分子量は高分子アラメフコイダンよりも大きく、高分子アルギン酸と称した。
【0080】
【表3】
【0081】
(実施例2:アラメ由来多糖類フコイダンを摂取したマウスの抗糖尿病作用)
本実施例では、2型糖尿病モデルマウスであるKK−Aマウスを用いて、調製例2で調製したアラメ由来精製脱アルギン酸多糖類(フコイダン)の加水分解物の抗糖尿病作用を検討した。KK−Aマウスは、若齢より高血糖を呈する2型糖尿病モデルマウスであり、新薬開発や食品の機能性評価において広く用いられている系統である。さらにKK−Aマウスは、高脂肪食を摂取させることで肥満、高インスリン血症、インスリン感受性低下(インスリン抵抗性)を引き起こしメタボリックシンドロームのモデルマウスともなる。そこで、KK−Aマウスに高脂肪・高ショ糖食を摂取させ、同時に高分子アラメフコイダン、中分子アラメフコイダンを摂取させることによる血清グルコース濃度、血清インスリン濃度、インスリン抵抗性に及ぼす影響を検討した。
【0082】
(実験手順)
<実験動物、飼料および飼育条件>
4週齢のKK−A/Ta Jcl雄性マウス(日本クレア株式会社)を市販固形飼料(CE−2、日本クレア株式会社)にて1週間の予備飼育を行い、1群6〜9匹として、対照群、高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群の4群に群分けを行った。対照群には、高脂肪・高ショ糖食(F2HFHSD、オリエンタル酵母工業株式会社)を、高分子アラメ群には高脂肪・高ショ糖食に高分子アラメフコイダン粉末を、中分子アラメ群には高脂肪・高ショ糖食に中分子アラメフコイダン粉末を、アルギン酸群には高脂肪・高ショ糖食に高分子アルギン酸粉末を、それぞれ0.5%の割合で混餌したものを3週間摂取させた(この3週間を投与期間という)。動物実験は総理府告示の実験動物の飼養および保管等に関する基準に従い、和洋女子大学倫理委員会の審議、承認を経て実施した(承認番号1603−2)。実験動物はケージに個別に入れ、室温23±2℃、湿度55±5%の12時間明暗サイクル(明期7:00〜19:00、暗期19:00〜7:00)の環境下で飼育した。飼料は毎日17:00に与え、翌日9:00まで摂取させ、摂食量を秤量した。飲料は水道水を自由飲用させた。投与期間の開始時および終了時に、マウスの体重を測定し、そして体重増加量を算出した。
【0083】
<血清グルコース濃度および血清インスリン濃度の測定>
投与終了時、絶食8〜10時間後に、イソフルラン吸引麻酔下で腹部大動脈から全採血し、安楽死させた。採取した血液は、遠心分離(3000rpm、10分)を行い、得られた血清中のグルコース濃度(血清グルコース濃度)を生化学自動分析装置(富士ドライケム4000、富士フイルムメディカル株式会社)および検体スライド(富士フイルムメディカル株式会社)を用いて測定した。血清インスリン濃度の測定は、市販の測定キット(レビスマウスインスリンUタイプ、株式会社シバヤギ)を用いて測定した。
【0084】
<インスリン抵抗性指数の算出>
インスリン抵抗性指数(HOMA−R)は、血清グルコース濃度および血清インスリン濃度を用いて以下の方法で算出した。
HOMA−R=血清グルコース濃度×血清インスリン濃度/405
【0085】
<血清アディポネクチン値の測定>
血清アディポネクチン値の測定は、市販の測定キット(レビスマウスアディポネクチン、株式会社シバヤギ)を用いて測定した。
【0086】
<肝臓中TG濃度の測定>
上記の全採血後、肝臓を摘出し、生理食塩水で各臓器を洗浄した後、湿重量を測定した。摘出した肝臓脂肪の抽出は、Folchらの方法(Folch, J.,Lees, M. and Sloane-Stanley, G.H.:A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues. Journal of Biological Chemistry, 226, 497-509 (1956))を用い、一定量の2−プロパノールにて溶解した。トリグリセライドE−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用い、一定量の抽出液中のトリグリセライド(TG)濃度(肝臓中TG濃度[mg/肝臓])の測定を行った。
【0087】
<糞中TG排泄量の測定>
投与3週目に1日の糞を個別採取し、凍結乾燥後、乾燥糞重量を測定すると共に、糞中脂質の抽出を行った。Hashimotoらの方法(Hashimoto, H., Yamazaki, K., He, H., Kawase, M., Hosoda, M., Hosono, A.: Hypocholesterolemic effects of Lactobacillus casei subsp. casei TMC0409 strain observed in rats fed cholesterol contained diets. Anim. Sci.J., 70, 90-97 (1999))で抽出した後、一定量の99.5%エタノールにて溶解した。トリグリセライドE−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用い、一定量の抽出液中のTG濃度(糞中TG排泄量[mg/24h糞])の測定を行った。
【0088】
<統計処理>
実験結果は体重増加では各群の平均値±標準誤差で、それ以外は平均値で示した。差の検定は対照群を基準として、p<0.05を統計的に有意(有意差5%として表記)と判断し、p<0.1を傾向(有意差10%として表記)と判断した。検定は、Dunnetの検定を行った。
【0089】
(結果)
統計処理結果を表4に示す。
【0090】
【表4】
【0091】
<飼料摂取量>
投与期間中の総摂取量を表5および図4に示す。いずれの群も対照群との間に有意差は認められなかった。
【0092】
【表5】
【0093】
<体重増加量>
投与期間の開始時および終了時のマウスの体重を表6および図5に示す。表6には、開始時から終了時の体重増加量も併せて示す。体重および体重増加量は4群間に有意差は認められなかった。
【0094】
【表6】
【0095】
<投与終了時の血清グルコース濃度>
投与終了時の血清グルコース濃度を表7および図6に示す。血清グルコース濃度は、対照群に比べて低値を示し、アルギン酸群のみ低値傾向を示した(p<0.1)。
【0096】
【表7】
【0097】
<投与終了時の血清インスリン濃度>
投与終了時の血清インスリン濃度を表8および図7に示す。血清インスリン濃度は、いずれの試験群も対照群に比べて低値を示し、高分子アラメ群は低値傾向を示した(p<0.1)。
【0098】
【表8】
【0099】
<インスリン抵抗性指数>
投与終了時のインスリン抵抗性指数(「HOMA指数」または「HOMA−R」)値を表9および図8に示す。HOMA−R値は、いずれの試験群も対照群に比べて低値を示し、高分子アラメ群のみ統計的に有意に低値を示した(p<0.05:有意差5%)。
【0100】
【表9】
【0101】
高分子アラメフコイダンまたは中分子アラメフコイダンをマウスに摂取させると、対照群に比べて、血清グルコース濃度および血清インスリン濃度が低値を示した。さらにインスリン抵抗性の指標として広く用いられているインスリン抵抗性指数(HOMA−R)を算出した結果、高分子アラメ群、中分子アラメ群のHOMA−Rは、対照群に比べて低値であった。
【0102】
従って、高分子アラメフコイダン、中分子アラメフコイダンの摂取によってインスリン抵抗性の悪化が軽減されたと考えられる。特に、高分子アラメフコイダン摂取では、インスリン抵抗性指数が対照群に比べて有意に低値であった。
【0103】
また、アラメフコイダンについて、インビトロでα−グルコシダーゼ活性阻害作用を検討した結果、アラメフコイダンのα−グルコシダーゼ活性阻害率は、高分子量域が中分子量域および低分子量域に比べて高い傾向を示していた(下記参考例1)。
【0104】
従って、中分子アラメフコイダンに比べて、高分子アラメフコイダン摂取により、食後の血糖上昇抑制が抑制されたことで、インスリン抵抗性の悪化が有意に軽減されたと考えられる。
【0105】
<血清アディポネクチン値>
投与終了時の血清アディポネクチン値を表10および図9に示す。血清アディポネクチン値は、アルギン酸群のみ対照群に比べて高値を示したが、有意差は認められなかった。
【0106】
【表10】
【0107】
肥満を伴うメタボリックシンドロームの重要な原因として、アディポネクチンの分泌低下が考えられている。アディポネクチン分泌低下によって更なるインスリン抵抗性の悪化、糖尿病病態の悪化を引き起こすことからアディポネクチンの分泌低下の抑制が予想された。高分子アルギン酸群で血清アディポネクチン値の上昇が見られたが、高分子アラメ群、中分子アラメ群の血清アディポネクチン値は、対照群との間に差は認められなかった。
【0108】
<肝臓中TG濃度>
投与終了時の肝臓中TG濃度を表11および図10に示す。肝臓中TG濃度は、高分子アラメ群および中分子アラメ群いずれの試験群も対照群に比べて低値を示した。
【0109】
【表11】
【0110】
<乾燥糞重量>
投与3週目の乾燥糞重量を表12および図11に示した。糞重量は、いずれの試験群も対照群に比べて高値を示し、高分子アラメ群および中分子アラメ群で高値傾向を示した(p<0.1:有意差10%)。
【0111】
【表12】
【0112】
<糞中TG排泄量>
投与3週目の糞中TG排泄量を表13および図12に示す。糞中TG排泄量は、中分子アラメ群のみ対照群に比べて高値を示し、特に中分子アラメ群は有意に高値を示した(p<0.05:有意差5%)。
【0113】
【表13】
【0114】
試験終了時に摘出した肝臓中のTG濃度を測定した結果、高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群において対照群に比べて低値を示した。特に、中分子アラメ群が最も低値であった。糞中TG排泄量を測定したところ、中分子アラメ群で最も高値であった。
【0115】
血清中の余剰グルコースが肝臓に取り込まれて、TGに変換されて蓄積されると考えられる。従って、血清グルコース濃度の結果と肝臓中TG濃度は正の関係性を示すと考えられ、血清グルコース濃度が対照群に比べて低値であった高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群において肝臓中TG濃度も低値であったことから、高分子アラメ群、中分子アラメ群、アルギン酸群で、血清グルコース濃度の上昇抑制が脂肪肝の抑制を生じ得ると考えられた。加えて、食餌由来の脂肪の消化・吸収の抑制も肝臓TG蓄積を抑制すると考えられた。
【0116】
アラメフコイダンについて、インビトロにおけるリパーゼ活性阻害作用を検討した結果、アラメフコイダンのリパーゼ活性阻害率は、中分子量域(重量平均分子量67500)が高分子量域および低分子量域より高いものであった(実施例1)。
【0117】
糞中TG排泄量の結果を実施例1のリパーゼ活性阻害率の結果と併せて考慮すると、重量平均分子量57400である中分子アラメフコイダンは、重量平均分子量は上記中分子量域に近かったことから、中分子アラメ群では、肝臓中リパーゼ活性が阻害され、食餌由来の脂肪の排泄が促進されたことで肝臓TG蓄積が抑制されたと考えられた。
【0118】
(参考例1:アラメ由来多糖類フコイダンのα−グルコシダーゼ阻害活性)
海藻としてアラメを用い、二酸化炭素ガス下の加圧加熱反応による分子量調整を行わなかった、あるいは反応時間を1時間または2時間とした以外は、調製例1の手順に準じて、分子量が異なるアラメフコイダンを調製した。調製されたアラメフコイダンの重量平均分子量は大きい方から順に、382000Da、62000Da、28000Daであった。インビトロでのα−グルコシダーゼ阻害活性試験を下記のように行った。
【0119】
標準物質には、一般的なα−グルコシダーゼ活性阻害剤として知られているトリス塩基(和光純薬工業株式会社製:Trizma Base)を用いた。
【0120】
14.75mgのアラメフコイダン粉末をリン酸バッファー(和光純薬工業株式会社製:中性リンpH標準液、pH=6.8)溶液に添加し、0.5w/v%となるように濃度調整し、完全に溶解させた。この脱アルギン酸多糖類溶液を基に、種々の濃度に再調整し、反応促進剤であるGSH(SIGMA社製:3mM L-Glutathione,reduced)0.100mLおよびα−グルコシダーゼ酵素液(5.1mg/100mL α-Glucosidase from Saccharomyces cerevisiae(SIGMA))0.100mLを加えてボルテックスミキサーにて撹拌後、これらの混合物を37℃で10分間予備加熱した。
【0121】
予備加熱後、基質として10mMのp−ニトロフェニルα−D−グルコシド(SIGMA社製)0.250mLを加えてボルテックスミキサーにて撹拌後、これらの混合物を37℃で20分インキュベートした。インキュベート後、100mM炭酸ナトリウム(キシダ化学社製溶液)8.00mLを加えて反応を停止させ、400nmにて吸光度を測定した。脱アルギン酸多糖類を加えないで測定したものを対照(活性100%)とした。また、酵素液の代わりにバッファーを加えて測定したものをブランク値とした。下記の式に基づいて、脱アルギン酸多糖類のα−グルコシダーゼの酵素活性の阻害率[%]を求めた。
【0122】
【数2】
【0123】
表14は、当該阻害率を示した濃度[mg/mL]と共にα−グルコシダーゼ活性の阻害率[%]、そして50%阻害濃度(IC50値:[mg/mL])を示す。
【0124】
【表14】
【0125】
アラメフコイダンのα−グルコシダーゼ活性阻害率は、高分子量域(382000Da)が、中分子量域(62000Da)および低分子量域(28000Da)に比べて高い傾向を示していた。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、例えば、食品添加剤、食品およびその材料、ならびに医薬品およびその材料に関する製造分野において有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12