特開2019-131701(P2019-131701A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2019-131701タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-131701(P2019-131701A)
(43)【公開日】2019年8月8日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20190712BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20190712BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20190712BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20190712BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20190712BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08L9/06
   C08K3/36
   C08K5/11
   B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-14633(P2018-14633)
(22)【出願日】2018年1月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(72)【発明者】
【氏名】中村 文彦
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131AA02
3D131AA03
3D131BB01
3D131BB03
3D131BB11
3D131BC02
3D131BC12
3D131BC18
3D131BC33
4J002AC03W
4J002AC08X
4J002DJ016
4J002EH097
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD140
4J002FD150
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】低転がり抵抗性を悪化させることなく耐摩耗性とスノー性能を改良する。
【解決手段】ガラス転移温度が−70〜−20℃のスチレンブタジエンゴムと、ブタジエンゴムとを含むゴム成分、シリカ、及び、下記一般式(1)で表されるエーテルエステル、を含むタイヤ用ゴム組成物である。式中、R及びRは炭素数8〜30の炭化水素基、Rは炭素数1〜30の炭化水素基、R及びRは炭素数2〜4のアルキレン基、a及びbはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、(RO)及び(RO)の60質量%以上がオキシエチレン基からなる。また、該ゴム組成物を用いて作製された空気入りタイヤである。
【化1】

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が−70〜−20℃のスチレンブタジエンゴムと、ブタジエンゴムとを含むゴム成分、
シリカ、及び、
下記一般式(1)で表されるエーテルエステル、
を含むタイヤ用ゴム組成物。
【化1】
式中、R及びRはそれぞれ独立に炭素数8〜30の炭化水素基を表し、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を表し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数2〜4のアルキレン基を表し、a及びbはそれぞれ独立にオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、(RO)及び(RO)の60質量%以上がオキシエチレン基からなる。
【請求項2】
前記ゴム成分100質量部に対して、前記シリカを20〜120質量部含み、かつ、前記エーテルエステルを1〜10質量部含む、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のゴム組成物を用いて作製された空気入りタイヤ。
【請求項4】
オールシーズンタイヤである、請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ用ゴム組成物において、低燃費性に寄与する低転がり抵抗性を改良するため、充填剤としてシリカを用いることが知られている。しかしながら、シリカは、その粒子表面に存在するシラノール基により凝集しやすく、そのため、低転がり抵抗性の改良効果を十分に引き出すことは難しい。
【0003】
また、タイヤ用ゴム組成物においては、耐摩耗性を向上させることが求められるとともに、例えばオールシーズンタイヤ向けのゴム組成物では、雪道での走行も可能にするためスノー性能(雪道での走行性能)が求められる。しかしながら、従来のゴム組成物では、低転がり抵抗性を悪化させることなく、耐摩耗性とスノー性能を改良するという点で改善の余地がある。
【0004】
特許文献1,2には、シリカの分散性を向上するために、グリセリンモノ脂肪酸エステルを配合することが提案されている。特許文献3には、低燃費性、耐摩耗性を維持又は改善しつつ、タイヤ外観を改善するために、ポリエチレングリコールモノ脂肪酸エステル及び/又はポリエチレングリコールジ脂肪酸エステルからなる非イオン界面活性剤を配合することが提案されている。特許文献4には、シリカの分散剤として、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とポリオキシエチレングリセリントリ脂肪酸エステルを併用することが提案されている。しかしながら、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとジカルボン酸とのエステルを用いることにより、低転がり抵抗性を悪化させることなく、耐摩耗性とスノー性能を改良できることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−113602号公報
【特許文献2】特開2016−113515号公報
【特許文献3】特開2015−000972号公報
【特許文献4】特開2014−210829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、シリカ配合のゴム組成物において、低転がり抵抗性を悪化させることなく、耐摩耗性とスノー性能を改良することができるタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物は、ガラス転移温度が−70〜−20℃のスチレンブタジエンゴムと、ブタジエンゴムとを含むゴム成分、シリカ、及び、下記一般式(1)で表されるエーテルエステル、を含むものである。
【0008】
【化1】
【0009】
式中、R及びRはそれぞれ独立に炭素数8〜30の炭化水素基を表し、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を表し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数2〜4のアルキレン基を表し、a及びbはそれぞれ独立にオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、(RO)及び(RO)の60質量%以上がオキシエチレン基からなる。
【0010】
本発明の実施形態に係る空気入りタイヤは、該ゴム組成物を用いて作製されたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、上記特定のゴム成分とともにエーテルエステルを配合することにより、シリカ配合のゴム組成物において、低転がり抵抗性を悪化させることなく、耐摩耗性とスノー性能を改良することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムからなるゴム成分に、シリカと、特定のエーテルエステルを配合してなるものである。
【0013】
ゴム成分は、ガラス転移温度(Tg)が−70〜−20℃のスチレンブタジエンゴム(SBR)と、ブタジエンゴム(BR)を含む。このようなガラス転移温度を持つスチレンブタジエンゴムをブタジエンゴムとともにゴム成分として用い、かつエーテルエステルを配合することにより、低転がり抵抗性の悪化を抑えながら、耐摩耗性を改良することができる。
【0014】
該スチレンブタジエンゴムのガラス転移温度は、より好ましくは−70℃以上−50℃未満であり、より好ましくは−70〜−60℃である。ここで、ガラス転移温度は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分にて(測定温度範囲:−150℃〜50℃)測定される値である。
【0015】
Tgが−70〜−20℃のSBRとしては、溶液重合SBR(SSBR)でもよく、乳化重合SBR(ESBR)でもよく、変性SBRでも、未変性SBRでもよい。変性SBRとしては、酸素原子及び/又は窒素原子を含む官能基が導入されたSBRが挙げられ、例えば、アミノ基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、カルボキシル基及びカルボン酸誘導体基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基が導入されたSBRが挙げられる。
【0016】
ブタジエンゴムとしても、特に限定されず、一般にタイヤ用ゴム組成物に用いられている各種ブタジエンゴムを用いることができ、例えばシス−1,4結合含有量が90質量%以上の高シスポリブタジエンを用いてもよい。
【0017】
ゴム成分としては、上記のTgが−70〜−20℃のSBRと、BRのみで構成してもよいが、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン−イソプレンゴム、ブタジエン−イソプレンゴム、及び、スチレン−ブタジエン−イソプレンゴムなどの他のジエン系ゴムを1種又は2種以上併用してもよい。
【0018】
好ましい一実施形態に係るゴム成分は、Tgが−70〜−20℃のSBRと、BRとの組み合わせ、又は、Tgが−70〜−20℃のSBRと、BRと、NR及び/又はIRとの組み合わせが挙げられる。例えば、ゴム成分100質量部は、Tgが−70〜−20℃のSBRを40〜70質量部と、BRを20〜50質量部と、NR及び/又はIRを0〜30質量部で構成されてもよく、また、Tgが−70〜−20℃のSBRを45〜65質量部と、BRを30〜45質量部と、NR及び/又はIRを0〜20質量部で構成されてもよい。
【0019】
充填剤としてのシリカとしては、特に限定されず、例えば、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカを用いてもよい。シリカのBET比表面積(JIS K6430に記載のBET法に準じて測定)は、特に限定されず、例えば100〜300m/gでもよく、150〜250m/gでもよい。
【0020】
シリカの配合量は、特に限定されず、ゴム成分100質量部に対して、20〜120質量部でもよく、40〜100質量部でもよく、50〜90質量部でもよい。本実施形態では、主たる充填剤としてシリカを用いることが好ましく、すなわち、充填剤の50質量%以上がシリカであることが好ましく、より好ましくは充填剤の70質量%超がシリカである。
【0021】
充填剤としてはシリカ単独でもよいが、シリカとともにカーボンブラックを配合してもよい。カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。例えば、タイヤトレッドゴムに用いる場合、SAF級(N100番台)、ISAF級(N200番台)、HAF級(N300番台)、FEF級(N500番台)(ともにASTMグレード)のものが好ましく用いられる。これら各グレードのカーボンブラックは、いずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。カーボンブラックの配合量は、特に限定されず、ゴム成分100質量部に対して、1〜70質量部でもよく、1〜50質量部でもよく、5〜40質量部でもよい。
【0022】
本実施形態に係るゴム組成物には、下記一般式(1)で表されるエーテルエステルが配合される。該エーテルエステルは、ポリオキシアルキレンを持つジカルボン酸ジエステルであり、ポリオキシアルキレン部分がシリカ表面に吸着することで、シリカの凝集が抑制されると考えられる。また、両末端の炭化水素基によりゴム成分への親和性が向上すると考えられる。このようにエーテルエステルがゴム成分とシリカの両者に作用することにより、上記特定のゴム成分を使用することと相俟って、低転がり抵抗性を悪化させることなく、耐摩耗性を改良できると考えられる。また、該エーテルエステルを配合することにより、低温での硬さ変化が少なく、そのためスノー性能を改良することができると考えられる。
【0023】
【化2】
【0024】
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数8〜30の1価の炭化水素基を表す。該炭化水素基の炭素数は、より好ましくは10〜24であり、更に好ましくは12〜20である。炭化水素基としては、直鎖又は分岐の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、例えばアルキル基又はアルケニル基であることが好ましい。
【0025】
式(1)中、Rは、炭素数1〜30の2価の炭化水素基を表す。該炭化水素基の炭素数は、より好ましくは1〜20であり、更に好ましくは2〜10であり、2〜8でもよい。2価の炭化水素基としては、直鎖又は分岐の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基でもよく、芳香族炭化水素基でもよい。例えば、直鎖又は分岐のアルカンジイル基、直鎖又は分岐のアルケンジイル基、又は、置換基(例えばアルキル基及び/又はアルケニル基など)を有してもよいフェニレン基などが挙げられる。Rは、ジカルボン酸のカルボキシル基を除いた部分であり、ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、アリルマロン酸、2,4−ヘキサジエン二酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0026】
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数2〜4のアルキレン基を表し、a及びbはそれぞれ独立にオキシアルキレン基の平均付加モル数を表す。R及びRは、より好ましくは、それぞれ独立に炭素数2又は3のアルキレン基を表す。R及びRのアルキレン基は直鎖状でも分岐状でもよい。RO及びROで表されるオキシアルキレン基としては、それぞれオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基などが挙げられる。式(1)における(RO)及び(RO)は、それぞれ炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等)を付加重合させることにより得られるポリオキシアルキレン鎖である。アルキレンオキサイド等の重合形態は特に限定されず、単独重合体でも、ランダム共重合体でも、ブロック共重合体でもよい。
【0027】
式(1)中の(RO)及び(RO)は、主としてオキシエチレン基からなることが好ましく、(RO)及び(RO)の60質量%以上がオキシエチレン基からなることが好ましい。すなわち、(RO)で表されるポリオキシアルキレン鎖と(RO)で表されるポリオキシアルキレン鎖は、両者の全体でオキシエチレン基を60質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは80質量%以上含むことであり、特に好ましくは100質量%、即ち下記一般式(2)で示されるようにオキシエチレン基のみからなることである。一実施形態として、(RO)及び(RO)のそれぞれが60質量%以上のオキシエチレン基からなることが好ましい。
【0028】
【化3】
【0029】
式(2)中のR、R、R、a及びbは、式(1)のR、R、R、a及びbと同じである。
【0030】
オキシアルキレン基の平均付加モル数を表すa及びbは、それぞれ1以上であることが好ましく、aとbの合計、即ちa+bは、1〜30でもよく、2〜25でもよく、3〜20でもよい。
【0031】
上記エーテルエステルのHLB(親水親油バランス)は、特に限定されず、例えば3〜15でもよく、4〜14でもよく、5〜12でもよい。ここで、HLBは、下記のグリフィンの式により算出される値であり、値が大きいほど分子全体に占める親水部分の割合が多く、親水性が高いことを表す。
HLB=20×(親水部分の分子量)/(全体の分子量)
式中の親水部分の分子量とは、(RO)及び(RO)で表されるポリオキシアルキレン鎖の分子量である。
【0032】
上記エーテルエステルの配合量は、特に限定されるものではないが、ゴム成分100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜8質量部である。
【0033】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記成分の他に、シランカップリング剤、オイル、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0034】
シランカップリング剤としては、スルフィドシランやメルカプトシランなどが挙げられる。シランカップリング剤の配合量は、特に限定されないが、シリカ配合量に対して2〜20質量%であることが好ましい。
【0035】
加硫剤としては、硫黄が好ましく用いられる。加硫剤の配合量は、特に限定するものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、及びグアニジン系などの各種加硫促進剤が挙げられ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は、特に限定するものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0036】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、例えば、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、ゴム成分に対し、シリカ及びエーテルエステルとともに、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合して未加硫のゴム組成物を調製することができる。
【0037】
本実施形態に係るゴム組成物は、タイヤ用ゴム組成物として用いることができる。タイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラックやバスの重荷重用タイヤなど各種用途及び各種サイズの空気入りタイヤが挙げられる。該ゴム組成物は、スノー性能に優れることから、オールシーズンタイヤ向けのゴム組成物として好適に用いられる。
【0038】
一実施形態に係る空気入りタイヤは、上記ゴム組成物からなるゴム部分を備えたものである。タイヤの適用部位としては、例えば、トレッドゴム、サイドウォールゴムなどが挙げられ、好ましくはトレッドゴムに用いることである。空気入りタイヤのトレッドゴムには、キャップゴムとベースゴムとの2層構造からなるものと、両者が一体の単層構造のものがあるが、接地面を構成するゴムに好ましく用いられる。すなわち、単層構造のものであれば、当該トレッドゴムが上記ゴム組成物からなり、2層構造のものであれば、キャップゴムが上記ゴム組成物からなることが好ましい。
【0039】
空気入りタイヤの製造方法は、特に限定されない。例えば、上記ゴム組成物を、常法に従い、押出加工によって所定の形状に成形し、他の部品と組み合わせて未加硫タイヤ(グリーンタイヤ)を作製する。例えば、上記ゴム組成物を用いてトレッドゴムを作製し、他のタイヤ部材と組み合わせて未加硫タイヤを作製する。その後、例えば140〜180℃で加硫成型することにより、空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
[エーテルエステルの合成]
実施例及び比較例で用いたエーテルエステルA〜Hを以下の方法により合成した。
【0042】
[エーテルエステルA]
オレイルアルコール(東京化成工業(株)製)67g(0.25モル)に水酸化カリウム触媒0.1gを加え110〜120℃で撹拌しながらエチレンオキシド(東京化成工業(株)製)55g(1.25モル)を圧入し、付加反応を行った。反応物をフラスコに移し、触媒の水酸化カリウムをリン酸で中和した。中和物からリン酸塩を濾別してオレイルアルコールエチレンオキサイド5モル付加物92g(収率75質量%)を得た。オレイルアルコールの代わりにセチルアルコール(東京化成工業(株)製)61g(0.25モル)を用い、その他は同様にしてセチルアルコールエチレンオキサイド5モル付加物87g(収率75質量%)を得た。0℃にてジクロロメタン溶媒中にマレイン酸ジクロリドを溶解させ、トリエチルアミン触媒下で、上記付加重合により得られた2つの化合物を1モル当量ずつ加えた。その後、室温で5時間撹拌させ、エーテルエステルAを得た。エーテルエステルAは、式(2)において、R,R:オレイル基(C1835)とセチル基(C1633)、R:C、a+b=10であり、HLB=8.5である。
【0043】
[エーテルエステルB]
トリデシルアルコール(東京化成工業(株)製)50g(0.25モル)に水酸化カリウム触媒0.1gを加え110〜120℃で撹拌しながらエチレンオキシド(東京化成工業(株)製)28g(0.625モル)を圧入し、付加反応を行った。反応物をフラスコに移し、触媒の水酸化カリウムをリン酸で中和した。中和物からリン酸塩を濾別してトリデシルアルコールエチレンオキサイド2.5モル付加物70g(収率90質量%)を得た。0℃にてジクロロメタン溶媒中にマレイン酸ジクロリドを溶解させ、トリエチルアミン触媒下で、上記付加重合により得られた化合物を2モル当量加えた。その後、室温で5時間撹拌させ、エーテルエステルBを得た。エーテルエステルBは、式(2)において、R,R:トリデシル基(C1327)、R:C、a+b=5であり、HLB=6である。
【0044】
[エーテルエステルC]
トリデシルアルコール(東京化成工業(株)製)50g(0.25モル)に水酸化カリウム触媒0.1gを加え110〜120℃で撹拌しながらエチレンオキシド(東京化成工業(株)製)50g(1.125モル)を圧入し、付加反応を行った。反応物をフラスコに移し、触媒の水酸化カリウムをリン酸で中和した。中和物からリン酸塩を濾別してトリデシルアルコールエチレンオキサイド4.5モル付加物86g(収率87質量%)を得た。0℃にてジクロロメタン溶媒中にマレイン酸ジクロリドを溶解させ、トリエチルアミン触媒下で、上記付加重合により得られた化合物を2モル当量加えた。その後、室温で5時間撹拌させ、エーテルエステルCを得た。エーテルエステルCは、式(2)において、R,R:トリデシル基(C1327)、R:C、a+b=9であり、HLB=9である。
【0045】
[エーテルエステルD]
トリデシルアルコール(東京化成工業(株)製)50g(0.25モル)に水酸化カリウム触媒0.1gを加え110〜120℃で撹拌しながらエチレンオキシド(東京化成工業(株)製)72g(1.625モル)を圧入し、付加反応を行った。反応物をフラスコに移し、触媒の水酸化カリウムをリン酸で中和した。中和物からリン酸塩を濾別してトリデシルアルコールエチレンオキサイド6.5モル付加物101g(収率83質量%)を得た。0℃にてジクロロメタン溶媒中にマレイン酸ジクロリドを溶解させ、トリエチルアミン触媒下で、上記付加重合により得られた化合物を2モル当量加えた。その後、室温で5時間撹拌させ、エーテルエステルDを得た。エーテルエステルDは、式(2)において、R,R:トリデシル基(C1327)、R:C、a+b=13であり、HLB=11である。
【0046】
[エーテルエステルE]
ラウリルアルコール(東京化成工業(株)製)47g(0.25モル)に水酸化カリウム触媒0.1gを加え110〜120℃で撹拌しながらエチレンオキシド(東京化成工業(株)製)50g(1.125モル)を圧入し、付加反応を行った。反応物をフラスコに移し、触媒の水酸化カリウムをリン酸で中和した。中和物からリン酸塩を濾別してラウリルアルコールエチレンオキサイド4.5モル付加物108g(収率92質量%)を得た。0℃にてジクロロメタン溶媒中にマレイン酸ジクロリドを溶解させ、トリエチルアミン触媒下で、上記付加重合により得られた化合物を2モル当量加えた。その後、室温で5時間撹拌させ、エーテルエステルEを得た。エーテルエステルEは、式(2)において、R,R:ラウリル基(C1225)、R:C、a+b=9であり、HLB=9.5である。
【0047】
[エーテルエステルF]
オレイルアルコール(東京化成工業(株)製)67g(0.25モル)に水酸化カリウム触媒0.1gを加え110〜120℃で撹拌しながらエチレンオキシド(東京化成工業(株)製)50g(1.125モル)を圧入し、付加反応を行った。反応物をフラスコに移し、触媒の水酸化カリウムをリン酸で中和した。中和物からリン酸塩を濾別してオレイルアルコールエチレンオキサイド4.5モル付加物93g(収率80質量%)を得た。オレイルアルコールの代わりにセチルアルコール(東京化成工業(株)製)61g(0.25モル)を用い、その他は同様にしてセチルアルコールエチレンオキサイド4.5モル付加物88g(収率80質量%)を得た。0℃にてジクロロメタン溶媒中にアジピン酸ジクロリドを溶解させ、トリエチルアミン触媒下で、上記付加重合により得られた2つの化合物を1モル当量ずつ加えた。その後、室温で5時間撹拌させ、エーテルエステルFを得た。エーテルエステルFは、式(2)において、R,R:オレイル基(C1835)とセチル基(C1633)、R:C、a+b=9であり、HLB=8である。
【0048】
[エーテルエステルG]
トリデシルアルコール(東京化成工業(株)製)50g(0.25モル)に水酸化カリウム触媒0.1gを加え110〜120℃で撹拌しながらエチレンオキシド(東京化成工業(株)製)55g(1.25モル)を圧入し、付加反応を行った。反応物をフラスコに移し、触媒の水酸化カリウムをリン酸で中和した。中和物からリン酸塩を濾別してトリデシルアルコールエチレンオキサイド5モル付加物85g(収率81質量%)を得た。0℃にてジクロロメタン溶媒中にアジピン酸ジクロリドを溶解させ、トリエチルアミン触媒下で、上記付加重合により得られた化合物を2モル当量加えた。その後、室温で5時間撹拌させ、エーテルエステルGを得た。エーテルエステルGは、式(2)において、R,R:トリデシル基(C1327)、R:C、a+b=10であり、HLB=9.5である。
【0049】
[エーテルエステルH]
オレイルアルコール(東京化成工業(株)製)67g(0.25モル)に水酸化カリウム触媒0.1gを加え110〜120℃で撹拌しながらエチレンオキシド(東京化成工業(株)製)55g(1.25モル)を圧入し、付加反応を行った。反応物をフラスコに移し、触媒の水酸化カリウムをリン酸で中和した。中和物からリン酸塩を濾別してオレイルアルコールエチレンオキサイド5モル付加物92g(収率75質量%)を得た。オレイルアルコールの代わりにセチルアルコール(東京化成工業(株)製)61g(0.25モル)を用い、その他は同様にしてセチルアルコールエチレンオキサイド5モル付加物87g(収率75質量%)を得た。0℃にてジクロロメタン溶媒中にイタコン酸ジクロリドを溶解させ、トリエチルアミン触媒下で、上記付加重合により得られた2つの化合物を1モル当量ずつ加えた。その後、室温で5時間撹拌させ、エーテルエステルHを得た。エーテルエステルHは、式(2)において、R,R:オレイル基(C1835)とセチル基(C1633)、R:C、a+b=10であり、HLB=8.3である。
【0050】
[ゴム組成物及びタイヤの作製及び評価]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ゴム成分に対し硫黄及び加硫促進剤を除く配合剤を添加し混練し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。表1中の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0051】
・SBR1:旭化成(株)製「タフデン1834」(Tg=−68℃の未変性SSBR。ゴムポリマー100質量部に対して37.5質量部のオイルを含む油展ゴム。表中、括弧書きでゴムポリマー分を表示。)
・SBR2:住友化学(株)製「SE−6529」(Tg=−4℃の未変性SSBR)
・BR:宇部興産(株)製「BR150B」
・NR:RSS#3
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」(BET:205m/g)
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
・オイル:JX日鉱日石エネルギー(株)製「JOMOプロセスP200」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ワックス:日本精鑞(株)製「OZOACE0355」
・シランカップリング剤:エボニック・デグサ社製「Si69」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
・加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」
・加硫促進剤2:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
【0052】
得られた各ゴム組成物をトレッドゴムに用いて、常法に従い加硫成型することにより空気入りラジアルタイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)を作製した。得られた試験タイヤについて、スノー性能と低転がり抵抗性と耐摩耗性を評価した。各測定・評価方法は以下の通りである。
【0053】
・スノー性能:試験タイヤ4本を乗用車に装着し、雪道を60km/h走行からABS作動させて20km/hまで減速したときの制動距離を測定し(n=10の平均値)、制動距離の逆数について比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど制動距離が短く、雪上路面での制動性能に優れることを示す。
【0054】
・低転がり抵抗性:転がり抵抗測定ドラム試験機を用いて、空気圧230kPa、荷重4410N、温度23℃、80km/hの条件で各タイヤの転がり抵抗を測定し、転がり抵抗の逆数について比較例1の値を100として指数で示した。指数が大きいほど、転がり抵抗が小さく、低燃費性に優れることを示す。
【0055】
・耐摩耗性:試験タイヤ4本を乗用車に装着し、乾燥路面において2500km毎に左右ローテーションさせながら10000km走行させて、走行後の4本のトレッド残溝深さの平均値を、比較例1を100とする指数で表示した。指数の大きいものほど、残溝深さが大きく、耐摩耗性が良好である。
【0056】
【表1】
【0057】
結果は表1に示す通りである。シリカ量を略同等で比較した場合、比較例1に対し、エーテルエステルを用いた実施例1〜10及び12〜14では、低転がり抵抗性を悪化させることなく、耐摩耗性とスノー性能をともに改良することができた。シリカとカーボンブラックを半量ずつ配合した場合でも、比較例2に対し、実施例11では、低転がり抵抗性を悪化させることなく、耐摩耗性とスノー性能をともに改良することができた。一方、比較例3では、エーテルエステルを配合したものの、ゴム成分として用いたSBRがガラス転移温度の高いものであったため、耐摩耗性の改良効果が得られず、低転がり抵抗性及びスノー性能も悪化した。
【0058】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。