特開2019-131708(P2019-131708A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2019131708-ポリプロピレン樹脂組成物 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-131708(P2019-131708A)
(43)【公開日】2019年8月8日
(54)【発明の名称】ポリプロピレン樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/12 20060101AFI20190712BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20190712BHJP
【FI】
   C08L23/12
   C08K9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-14836(P2018-14836)
(22)【出願日】2018年1月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100098752
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 吏規夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 優
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勇史
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB121
4J002BB212
4J002FB086
4J002FD016
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】剛性、耐傷付き性及び軽量性に優れ、グローブボックスなどの車両用部品としてのポリプロピレン樹脂成形体に好適なポリプロピレン樹脂組成物の提供を目的とする。
【解決手段】ポリプロピレン樹脂組成物中に、有機変性クレーを3〜30重量%、さらに好ましくは酸変性ポリプロピレンを含み、タルクについては含まず、ポリプロピレン樹脂組成物の比重を1.04以下とし、押出成形、射出成形、ブロー成形、ホットプレスなどによって成形されるポリプロピレン樹脂成形体に好適なプロピレン樹脂組成物とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂組成物中に、有機変性クレーを3〜30重量%含み、タルクを含まないことを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリプロピレン樹脂組成物中に、酸変性ポリプロピレンを含むことを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリプロピレン樹脂組成物の比重が1.04以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剛性及び耐傷付き性に優れるポリプロピレン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のグローブボックス等の車両用部品には、ポリプロピレン樹脂組成物から射出成形や押出成形等により成形されたポリプロピレン樹脂成形体が多用されている。車両用部品として使用されるポリプロピレン樹脂成形体には、剛性が求められている。
【0003】
従来、ポリプロピレン樹脂成形体の剛性を向上させるため、タルクを添加することが行われている。特に、十分な剛性を得るために、タルクの添加量を20重量%以上にしたタルク強化ポリプロピレン樹脂組成物が、車両用部品の成形に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−293084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、タルクが20重量%以上添加されたタルク強化ポリプロピレン樹脂組成物から成形されたポリプロピレン成形体は、タルク自体の色が白く、かつ含まれるタルクの量が多いため、表面が傷付いた際に、露出したタルクで傷の内部が白く見えることで、表面の傷が一層目立つようになる。
【0006】
また、タルク強化ポリプロピレン樹脂組成物は、タルクを20重量%以上添加したことにより比重が1.05以上になり、軽量化が求められる車両用部品においては、好ましいものではなかった。
【0007】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、剛性、耐傷付き性及び軽量性に優れるポリプロピレン樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、ポリプロピレン樹脂組成物中に、有機変性クレーを3〜30重量%含み、タルクを含まないことを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物に係る。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、前記ポリプロピレン樹脂組成物中に、酸変性ポリプロピレンを含むことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2において、前記ポリプロピレン樹脂組成物の比重が1.04以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリプロピレン樹脂組成物中に有機変性クレーを3〜30重量%含み、タルクを含まないため、剛性及び耐傷付き性に優れ、比重が1.05未満のポリプロピレン樹脂組成物が得られる。また、ポリプロピレン樹脂組成物中に酸変性ポリプロピレンを含むことにより、さらに剛性を大にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例及び比較例の配合及び物性等を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明におけるポリプロピレン樹脂組成物は、ポリプロピレン樹脂と、有機変性クレーとを含み、さらに好ましくは酸変性ポリプロピレンを含み、タルクを含まない配合からなる。ポリプロピレン樹脂組成物の比重は、1.05未満が好ましい。
【0014】
ポリプロピレン樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレンを主体とする共重合体(例えばプロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体)、又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0015】
有機変性クレーとしては、セピオライトなどの鎖状粘土鉱物、パリゴスカイトなどの長繊維状粘土鉱物、サポナイト、ヘクトライトなどの板状・層状粘土鉱物を有機処理したものが用いられる。例えば、第四級アルキルアンモニウム塩で変性(表面処理)された粘土鉱物混合物を挙げる。入手可能な有機変性クレーとして、例えば、BYK Chemie GmbH社のGaramite(登録商標)1958、1210、7305を挙げる。
【0016】
有機変性クレーの含有量は、少なすぎると効果が小になり、一方、多すぎるとポリプロピレン樹脂組成物の比重が大になるため、ポリプロピレン樹脂組成物中に3〜30重量%が好ましく、より好ましくは4〜20重量%である。タルクに代えて有機変性クレーをポリプロピレン樹脂組成物に含有させたことにより、有機変性クレーの少ない含有量で剛性及び耐傷付き性を高めることができ、ポリプロピレン樹脂組成物の比重を1.05未満にできる。さらに、有機変性クレーの含有量をポリプロピレン樹脂組成物中に4〜15重量%とすれば、ポリプロピレン樹脂組成物の比重を1.0未満にできる点でより好ましい。
【0017】
酸変性ポリプロピレンとしては、制限されることなく使用できる。酸変性ポリプロピレンは、ポリプロピレンを、不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト共重合して変性したものである。不飽和カルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸などを挙げることができる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、マレイン酸モノエチルエステル等を挙げることができる。
【0018】
好ましい酸変性ポリプロピレンとして、マレイン酸変性ポリプロピレンを挙げることができる。マレイン酸変性ポリプロピレンの含有量は、多すぎると高温時の変色や、流動性の著しい低下の原因となるため、ポリプロピレン樹脂組成物中に0〜30重量%が好ましく、より好ましくは、5〜20重量%である。マレイン酸変性ポリプロピレンの含有量を5〜20重量%とすることで、引張強度および弾性率を高めることができる。
【0019】
ポリプロピレン樹脂組成物は、押出成形機などでペレット化され、作製されたペレットを用いて周知のプラスチック成形方法、例えば押出成形、射出成形、ブロー成形、ホットプレスなどによってポリプロピレン樹脂成形体が製造される。ポリプロピレン樹脂成形体としては、自動車のグローブボックス等の車両用内装部品が特に好適である。
【実施例】
【0020】
以下の原料成分を用い、図1の表に示す配合からなるポリプロピレン樹脂組成物のペレットを押出成形機で作製し、射出成形により、ISO多目的試験片および100×200×2mmの板状のポリプロピレン樹脂成形体を作成した。
【0021】
ポリプロピレン:品名;ノバテックPP BC05GS、日本ポリプロ社製
酸変性ポリプロピレン:マレイン酸変性ポリプロピレン、品名;ユーメックス1001、三洋化成社製
タルク:品名;SK−7800、海城社製
有機変性クレー:品名;Garamite(登録商標)1958、BYK Chemie GmbH社製
【0022】
実施例及び比較例のポリプロピレン樹脂成形体に対して、引張試験(ISO 527準拠)、弾性率試験(ISO 527準拠)、耐傷付き性試験(引掻き試験)を行った。引張試験で用いた試験片は、ISO多目的試験片形状である。弾性率試験は、剛性を判断するために行い、用いた試験片はISO多目的試験片形状である。
【0023】
耐傷付き性試験の方法は、エリクセン社製引掻き硬度計(先端径0.75mm)を用いて、荷重10N、50mm/sの速度で50mmの直線に引掻き、目視にて傷の程度及び白化の有無を確認した(n=3)。
【0024】
引張試験の評価は、最大点応力の値が20Mpa未満「×」、20〜30MPa未満「〇」、30MPa以上「◎」とした。
弾性率試験の評価は、弾性率が2000MPa未満「×」、2000〜2400MPa未満「〇」、2500MPa以上「◎」とした。
耐傷付き性の評価は、明らかに白化が見られるもの「×」、白化がみられないものの、傷が少しあるもの「〇」、白化が見られず、傷も目立っていないもの「◎」とした。
【0025】
また、総合評価は、各評価の最も悪い評価を総合評価とした。すなわち、各評価に1つでも「×」がある場合に総合評価「×」、各評価に「×」が無く、「△」が1つでもある場合に総合評価「△」、各評価に「×」及び「△」が無く、「〇」のみまたは「〇」と「◎」の場合に総合評価「〇」、各評価が「◎」のみの場合に総合評価「◎」とした。
【0026】
実施例1は、ポリプロピレン95重量部と有機変性クレー5重量部(5重量%)からなる例である。実施例1は、比重0.93、引張試験の最大点応力23.0MPa、評価「〇」、弾性率2000MPa、評価「〇」、耐傷付き性の評価「〇」であり、総合評価「〇」であった。
【0027】
実施例2は、ポリプロピレン90重量部と有機変性クレー10重量部(10重量%)からなる例である。実施例2は、比重0.95、引張試験の最大点応力25.0MPa、評価「〇」、弾性率2600MPa、評価「◎」、耐傷付き性の評価「〇」であり、総合評価「〇」であった。
【0028】
実施例3は、ポリプロピレン85重量部と有機変性クレー15重量部(15重量%)からなる例である。実施例3は、比重1.00、引張試験の最大点応力26.0MPa、評価「〇」、弾性率2800MPa、評価「◎」、耐傷付き性の評価「〇」であり、総合評価「〇」であった。
【0029】
実施例4は、ポリプロピレン80重量部と有機変性クレー20重量部(20重量%)からなる例である。実施例4は、比重1.04、引張試験の最大点応力27.0MPa、評価「〇」、弾性率3000MPa、評価「◎」、耐傷付き性の評価「〇」であり、総合評価「〇」であった。
【0030】
実施例5は、ポリプロピレン70重量部、酸変性ポリプロピレン20重量部、有機変性クレー10重量部(10重量%)からなる例である。実施例5は、比重0.96、引張試験の最大点応力41.0MPa、評価「◎」、弾性率3200MPa、評価「◎」、耐傷付き性の評価「◎」であり、総合評価「◎」であった。
【0031】
実施例6は、ポリプロピレン85重量部、酸変性ポリプロピレン10重量部、有機変性クレー5重量部(5重量%)の例である。実施例6は、比重0.93、引張試験の最大点応力24.0MPa、評価「〇」、弾性率2500MPa、評価「◎」、耐傷付き性の評価「◎」であり、総合評価「〇」であった。
【0032】
実施例7は、ポリプロピレン90重量部、酸変性ポリプロピレン6重量部、有機変性クレー4重量部(4重量%)からなる例である。実施例7は、比重0.93、引張試験の最大点応力22.0MPa、評価「〇」、弾性率2100MPa、評価「〇」、耐傷付き性の評価「〇」であり、総合評価「〇」であった。
【0033】
比較例1は、実施例4における有機変性クレー20重量部に代えてタルク20重量部を添加した例であり、ポリプロピレン80重量部とタルク20重量部とからなり、酸変性ポリプロピレン及び有機変性クレーを含まない例である。比較例1は、比重1.05、引張試験の最大点応力22.0MPa、評価「〇」、弾性率2200MPa、評価「〇」、耐傷付き性の評価「×」であり、総合評価「×」であった。タルクを含む比較例1は、有機変性クレーを含む実施例4と比べて比重が大、弾性率(剛性)が小、さらに耐傷付き性が悪いものであった。
【0034】
比較例2は、ポリプロピレン92.5重量部、酸変性ポリプロピレン5重量部、有機変性クレー2.5重量部(2.5重量%)からなる例である。比較例2は、比重0.92、引張試験の最大点応力18.5MPa、評価「×」、弾性率1750MPa、評価「×」、耐傷付き性の評価「〇」であり、総合評価「×」であった。比較例2は、有機変性クレーの量が、本発明における有機変性クレーの下限である3重量%よりも少ない2.5重量%であるため、引張試験の最大点応力及び弾性率(剛性)の何れも実施例1〜7と比べて悪くなった。
【0035】
このように、本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、ポリプロピレン樹脂組成物中に、有機変性クレーを3〜30重量%含み、タルクを含まないため、剛性及、耐傷付き性及び軽量性に優れ、車両用部品としてのポリプロピレン樹脂成形体に好適な素材である。
図1