【課題】プロテオグリカンの鉄塩、特定の赤外線吸収ピークを有する新規のプロテオグリカン、それらの製造方法、並びにそれらを含む細胞増殖促進剤及び外用剤を提供すること。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
また、本明細書において、「〜」は特に断りがなければ以上から以下を表す。
【0014】
<プロテオグリカンないしプロテオグリカンの鉄塩>
本発明は、プロテオグリカンの鉄塩に関する。
また、本発明はKBrディスク透過法により測定した赤外吸収スペクトルにおいて、波数2800cm
−1〜2930cm
−1に吸収ピークを有するプロテオグリカンに関するものでもある。
本発明のプロテオグリカンは、波数2800cm
−1〜2930cm
−1に2本の吸収ピークを有することが好ましく、波数2830cm
−1〜2880cm
−1に1本の吸収ピーク、及び波数2890cm
−1〜2930cm
−1に1本の吸収ピークを有することがより好ましく、波数2840cm
−1〜2870cm
−1に1本の吸収ピーク、及び波数2900cm
−1〜2925cm
−1に1本の吸収ピークを有することが更に好ましく、波数2845cm
−1〜2860cm
−1に1本の吸収ピーク、及び波数2905cm
−1〜2920cm
−1に1本の吸収ピークを有することが特に好ましい。
上記吸収ピークは、1850cm
−1〜1900cm
−1の透過率を100%としたとき、波数2830cm
−1〜2880cm
−1のピークの透過率は50%以下の吸収であることが好ましく、具体的には30%以上であってよいが、30%以下であってもよい。
また、2890cm
−1〜2930cm
−1のピークの透過率は30%以下であることが好ましい。
上記吸収ピークはプロテオグリカンが鉄塩を形成することにより発生し得る。
本発明のプロテオグリカン及び本発明のプロテオグリカンの鉄塩をまとめて、以下「プロテオグリカンないしその鉄塩」ともいう。
本発明のプロテオグリカンないしその鉄塩は、上記吸収ピーク以外、後述する原料となるプロテオグリカンと同様の吸収ピーク(特に、透過率50%超のピークについて)を有し得る。
【0015】
本発明のプロテオグリカンないしその鉄塩において、乾燥重量当たりの鉄の含有量は本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましく、4質量%以上であることが特に好ましい。
鉄含有量の上限値としては特に制限はなく、例えば、10質量%以下であり、典型的には8質量%以下である。
【0016】
本発明のプロテオグリカンないしその鉄塩は、鉄塩を形成するプロテオグリカン及び鉄以外の成分(以下、単に「その他の成分」ともいう。)を含んでいても含んでいなくてもよく、その他の成分の乾燥重量当たりの含有量(複数のその他の成分が存在する場合には合計の含有量)が、乾燥重量当たりの鉄の含有量よりも少ないことが好ましい。
上記その他の成分としては、各種ミネラル等が挙げられる。
各種ミネラルとしては、例えば、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、リン、塩素等が挙げられる。
本発明のプロテオグリカンないしその鉄塩において、その他の成分(例えば、カルシウム)の乾燥重量当たりの含有量は1質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0017】
本発明のプロテオグリカンないしその鉄塩は、コロイド粒子であってもコロイド粒子でなくてもよいが、コロイド粒子であることが好ましい。
上記コロイド粒子の平均粒子径としては、500nm〜1500nmが好ましく、700nm〜1200nmがより好ましく、800nm〜1000nmが更に好ましい。
平均粒子径は動的光散乱式粒径分布測定装置(例えば、LB−550、堀場製作所社製)を用いて測定することができる。
【0018】
本発明のプロテオグリカンないしその鉄塩の製造方法としては、プロテオグリカンの鉄塩が形成される限り特に制限はないが、後述する<プロテオグリカンないしその鉄塩の製造方法>において説明する製造方法により形成することが好ましい。
【0019】
本発明のプロテオグリカンないしその鉄塩の原料となるプロテオグリカンは、グリコサミノグリカンとタンパク質の共有結合物の総称であり、一般の糖タンパク質に比べて、糖含量が極めて多いのが特徴である。プロテオグリカンは天然由来の高分子化合物であり、起源となる原料や抽出・製造条件により、分子量や含まれるアミノ酸や糖(中性糖、ウロン酸、アミノ糖など)の種類や量、比率も異なっており、さまざま分子種が存在する。一般的にプロテオグリカンの分子量は数十万から数百万である。プロテオグリカンの原料由来としては、牛、鶏、鯨などの哺乳類の軟骨や、鮭、鮫、エイなどの魚類の軟骨であり、その種類を問わないものであり、食されることも多い。また、プロテオグリカンの抽出薬剤についても、酢酸などの有機酸や酸、アルカリ、グアニジン塩酸など様々あるが、本発明では抽出薬剤や温度や時間などの抽出・製造の条件も限定しないものである。
【0020】
上記原料となるプロテオグリカンは、その他の成分を含んでいても含んでいなくてもよく、その他の成分(例えば、カルシウム)の乾燥重量当たりの含有量(複数のその他の成分が存在する場合には合計の含有量)は、例えば、10質量%以下であり、好ましくは8質量%以下であり、より好ましくは6質量%以下である。
その他の成分(例えば、カルシウム)の含有量の下限値としては特に制限はなく、例えば、0.3質量%以上であり、典型的には0.5質量%以上である。
【0021】
<プロテオグリカンないしその鉄塩の製造方法>
本発明のプロテオグリカンないしその鉄塩の製造方法は、上述した原料となるプロテオグリカンと、鉄化合物とを反応させることを含む。
上記反応としては、鉄塩を形成し得る限り特に制限はなく、例えば、原料となるプロテオグリカンに含まれる上記その他の成分と、上記鉄化合物に含まれる鉄イオンとの塩交換反応、原料となるプロテオグリカンが有する官能基による鉄原子への求核反応等が挙げられ、上記鉄化合物に含まれる鉄イオンによる塩交換反応であることが好ましい。
上記鉄化合物としては、任意の無機鉄塩(例えば、硫酸鉄、塩化鉄等)又は有機鉄塩(例えば、酢酸鉄)が挙げられ、無機鉄塩が好ましく、硫酸鉄(II)七水和物がより好ましい。
【0022】
原料となるプロテオグリカンと、鉄化合物との反応条件としては、0℃以上20℃以下で行うことが好ましく、0℃以上10℃以下で行うことがより好ましく、0℃以上5℃以下で行うことが更に好ましい。
反応時間としては、1時間以上であることが好ましく、10時間以上であることがより好ましく、20時間以上であることが更に好ましい。
【0023】
本発明のプロテオグリカンないしその鉄塩の製造方法は、上記反応後、得られたプロテオグリカンないしその鉄塩を精製することを含むことが好ましい。
上記精製法としては、透析すること及びろ過することよりなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、透析すること及びろ過することの両方を含むことがより好ましい。
透析方法としては特に制限はなく、0℃以上20℃以下で行うことが好ましく、0℃以上10℃以下で行うことがより好ましく、0℃以上5℃以下で行うことが更に好ましい。
ろ過方法としても特に制限はなく、任意のろ紙にて行うことができる。
必要に応じ、凍結乾燥を行い、本発明のプロテオグリカンないしその鉄塩を得ることができる。
【0024】
<細胞増殖促進剤>
本発明の細胞増殖促進剤は、上記プロテオグリカンないしその鉄塩を含む。
本発明の細胞増殖促進剤は、例えば、皮膚線維芽細胞に対して優れた増殖促進作用を有するので、医薬品として創傷の治癒や皮膚の新陳代謝の活性化などに適用することができる。その投与は、経皮投与であることが好ましい。
投与に際してはそれぞれの投与方法に適した剤型に製剤化すればよい。製剤形態としては、例えば、軟膏、乳剤、懸濁剤などが挙げられ、これら製剤の調製は、無毒性の賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、防腐剤、等張化剤、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、着色剤、矯味剤、緩衝剤などの添加剤を使用して自体公知の方法にて行うことができる。無毒性の添加剤としては、例えば、でんぷん、ゼラチン、ブドウ糖、乳糖、果糖、マルトース、炭酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ペトロラタム、グリセリン、エタノール、シロップ、塩化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸、ポリビニルピロリドン、水などが挙げられる。製剤中における有効成分の含有量は、その剤型に応じて異なるが、従来のプロテオグリカンでは一般に0.01〜100質量%の濃度であることが要求されるところ、本発明の細胞増殖促進剤では0.0001〜1質量%の濃度であっても細胞増殖促進作用を発揮することができる。
製剤の投与量は、投与対象者の性別や年齢や体重の他、症状の軽重、医師の診断などにより広範に調整することができるが、従来のプロテオグリカンでは一般に1日当り0.01〜300mg/kg要求されるところ、本発明の細胞増殖促進剤では1日当り0.0001〜3mg/kgであっても細胞増殖促進作用を発揮することができる。
上記の投与量は、1日1回または数回に分けて投与すればよい。本発明の細胞増殖促進剤は、細胞増殖促進作用を発揮するに足る有効量を添加した化粧品の形態で上記の用途などに適用してもよい。
【0025】
<外用剤>
本発明の外用剤は、上記プロテオグリカンないしその鉄塩を含む。
本発明の外用剤は、皮膚に塗布して用いられる剤であれば特に限定はないが、例えば、医療用の皮膚外用剤、化粧料等が挙げられる。本発明の外用剤には、上記プロテオグリカンないしその鉄塩以外に、通常、医薬品、医薬部外品、化粧品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、水性成分、油性成分、粉末成分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、紫外線吸収剤、美白剤、防腐剤、酸化防止剤、界面活性剤、香料、色素などを適宜必要に応じて配合することができる。そのような配合の方法は、日局製剤総則に記載の方法に従って行うことができる。
【0026】
本発明の外用剤の「剤型」としては、皮膚に適用できる剤型であれば特に限定されないが、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ローション剤、ゲル剤などの塗布剤、パップ剤、テープ剤、パッチ剤などの貼付剤等が挙げられる。また、本発明の外用剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品等として利用することができる。
上記外用剤が塗布剤の場合、上記塗布剤における上記プロテオグリカンないしその鉄塩の濃度としては本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが0.3〜500μg/mlとすることができ、0.4〜400μg/mlであることが好ましい。
上記外用剤が塗布剤の場合、その使用方法としては、適量(例えば、数g(1g等)、数十μl(50μl等))を手に取り、1日1回〜数回(例えば、2回又は3回)皮膚に塗布することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
<実施例1>
〔プロテオグリカンの鉄塩の調製〕
原料のプロテオグリカンは、市販の鮭由来プロテオグリカン(角弘プロテオグリカン研究所社製)を以下用いた。
まず、上記原料のプロテオグリカン100mgを脱イオン水50mLに溶解してA液を得、次に0.2Mの硫酸鉄(II)七水和物(和光純薬工業社製)を脱イオン水50mLに溶解してB液を得、A液及びB液を予め4℃に冷却した。
4℃下でA液をスターラーで撹拌しながらB液を加えた後、4℃にて一晩スターラーで撹拌した。
得られた反応液を透析用セルロースチューブ(エーディア社製)に入れ、4℃の低温室で、脱イオン水に対して透析を行った。水の交換は1日3回3日間行った。
透析後に透析用セルロースチューブ内に生じていた沈殿を、ガラスろ紙(GA100、アドバンテック東洋社製)を用いてろ過した。
上記ろ過後にろ液を集め、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮(東京理科器械社製)し、凍結乾燥(東京理科器械社製)した後、綿状の薄い褐色の物質としてプロテオグリカンの鉄塩を得た。
【0029】
〔プロテオグリカンの鉄塩の粒度分布測定〕
上記得られたプロテオグリカンの鉄塩の粒度分布を動的光散乱式粒径分布測定装置(LB−550、堀場製作所社製)を用いて測定した。
上記プロテオグリカンの鉄塩を脱イオン水を用いて0.2%(W/V)に調製して測定した結果、平均粒子径952.1nmのコロイド粒子であった。
【0030】
〔鉄含有量及びカルシウム含有量の測定〕
上記得られたプロテオグリカンの鉄塩の鉄含有量及びカルシウム含有量をエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX−800HS、島津製作所社製)を用いて測定した。
トウモロコシデンプン(製造専用、和光純薬工業社製)に、酸化鉄(III)(和光純薬工業社製)と炭酸カルシウム(和光純薬工業社製)を所定の濃度になるよう十分に混合し、鉄含有量及びカルシウム含有量と蛍光強度との検量線を作成して行った。
上記測定の結果、上記得られたプロテオグリカンの鉄塩の鉄含有量は、乾燥重量当たり4.8質量%であった。カルシウム含有量は検量線の下限値である0.5質量%以下であった。
なお、原料のプロテオグリカンのカルシウム含有量は、キレート滴定法により分析したところ、乾燥重量当たり5.3質量%であった。
原料のプロテオグリカンの鉄含有量は、検量線の下限値である0.5質量%以下であった。
【0031】
〔プロテオグリカンの鉄塩の赤外吸収スペクトルの測定〕
上記得られたプロテオグリカンの鉄塩の赤外吸収スペクトルをフーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR−420、日本分光社製)を用いて、KBrディスク透過法にて測定した。測定範囲4000〜400cm
−1、分解能4cm
−1、積算回数54、スキャンスピード2mm/秒の条件にて測定した。
上記測定の結果、プロテオグリカンの鉄塩に、原料のプロテオグリカン及び硫酸鉄(II)七水和物にない2本のピーク2919cm
−1(透過率24%)及び2851cm
−1
(透過率41%)が観測された。
【0032】
<実施例2>
〔プロテオグリカンの鉄塩のTGF−β1の発現促進評価〕
7週齢の雌のICRマウス(CLEA Japan製)を、各群を8匹として、下記Fe−PG塗布群、PG塗布群及びコントロール群に分け、恒温、恒湿の一定環境の飼育室で7日間飼育し、飼育8日後に左耳介及び背部の皮膚を採取した。なお、実験動物の取り扱いは弘前大学動物実験委員会により承認され、弘前大学動物実験に関する規程に従った。
【0033】
Fe−PG塗布群:上記実施例1で得られたプロテオグリカンの鉄塩(以下、単に「Fe−PG」ともいう。)を背部に0.01mg/背部の量で7日間連日塗布した群、
PG塗布群:市販の鮭由来プロテオグリカン(角弘プロテオグリカン研究所社製)(以下、単に「PG」ともいう。)を背部に0.01mg/背部の量で7日間連日塗布した群、及び
コントロール群:7日間投与した飲水にFe−PG及びPGのいずれも含有させず、背部にFe−PG及びPGのいずれも7日間連日塗布しなかった群。
【0034】
上記採取した各群の皮膚を用いて全RNAを抽出し、逆転写反応で得たcDNAを用いてGAPDHの発現を内部標準として定量的RT−PCRを行った。
【0035】
図1は、Fe−PG塗布群及びPG塗布群のTGF−β1のmRNA発現量の定量的RT−PCR試験結果を示す図である。
図1に示した結果から明らかなように、PG塗布群と比較してFe−PG塗布群はTGF−β1のmRNA発現量がP値(Tukey法)0.05未満の有意差で大きいことが分かる。
【0036】
<実施例3>
〔プロテオグリカンの鉄塩のヒト皮膚線維芽細胞増殖促進評価〕
プロテオグリカンの鉄塩(Fe−PG)の濃度依存的なヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)の増殖促進効果を、Fe−PG又はコントロールとしてPGを0.049,0.098,0.195,0.391,0.781,1.563,3.125,6.25,12.5,25,50,100,200,400,800μg/ml添加した培地を用いて、72時間後にWST−8アッセイにより評価した。具体的には以下の通りである。
【0037】
(NHDFの培養)
NHDFはKurabo社から購入し、5%CO
2,95%空気、37℃にて培養した。培地は、10%FBS(ウシ胎児血清;商品名SH30910.03;Thermo Fisher Scientific社製)、50units/mlペニシリン及び50mg/mlストレプトマイシンのDMEM培地(商品名08456−36;Nacalai Tesque社製)を用いた。
【0038】
(WST−8アッセイ)
WST−8[3−(4,5−dimethyl 2−thiazolyl)−2,5−diphenyl−2H−tetrazolium bromide]を含むセルカウンティングキット(商品名CK04;Dojindo社製)を用いて行った。
NHDF細胞を96ウェル培養プレートに4×10
4個/mlの濃度で各ウェル100μlずつまき、24時間培養後、Fe−PG又はPGを上記各濃度含む、0%FCS(ウシ胎児血清),50units/mlペニシリン及び50mg/mlストレプトマイシンのDMEM培地100μlに各ウェルそれぞれ交換し、72時間培養した。
その後、WST−8を各ウェル10μlずつ加え、1時間培養した。その96ウェル培養プレートはマイクロプレートリーダー(商品名TriStar LB 941;Berthold Technologies社製)を用いて450nmで吸光度を測定した。結果を
図2に示す。
図2中、値は、PGをコントロールとした%で表す。
【0039】
図2に示した結果から明らかなように、コントロールのPGと比較して、Fe−PGは0.391〜400μg/mlの濃度において有意にNHDFの増殖を促進する効果があることが分かる。