(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-132339(P2019-132339A)
(43)【公開日】2019年8月8日
(54)【発明の名称】抜け止めピン
(51)【国際特許分類】
F16B 21/12 20060101AFI20190712BHJP
【FI】
F16B21/12 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-14767(P2018-14767)
(22)【出願日】2018年1月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】武藤 啓志
【テーマコード(参考)】
3J037
【Fターム(参考)】
3J037AA06
3J037BA01
3J037BB03
3J037BB04
3J037HA07
(57)【要約】
【課題】頭部を手指で確実に掴むことができ、軸部材のピン孔に容易に抜き差し可能な抜け止めピンを提供する。
【解決手段】抜け止めピン11は、ばね性のある金属線材を一体的に曲げ形成してなり、ピン孔に差し込まれる直線状の挿通部13と、軸部材の外周部に弾性的に係合する波状部14と、挿通部と波状部とを繋ぐ折り返し部15とを有し、該折り返し部は、抜け止めピンをピン孔に抜き差しするときに手指を掛ける直線状の把持部15aと、該把持部の一端と挿通部とを直角に繋ぐ第1曲げ部15bと、把持部の他端と波状部とを該波状部が挿通部に近接する向きに繋ぐ第2曲げ部15cとを有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材と軸挿通孔を有した連結部材とを挿脱可能に嵌合した状態で、前記軸部材のピン孔に差し込まれて前記軸部材の抜け止めを行う抜け止めピンにおいて、該抜け止めピンは、ばね性のある金属線材を一体的に曲げ形成してなり、前記ピン孔に差し込まれる直線状の挿通部と、前記軸部材の外周部に弾性的に係合する波状部と、前記挿通部と前記波状部とを繋ぐ折り返し部とを有し、該折り返し部は、前記抜け止めピンを前記ピン孔に抜き差しするときに手指を掛ける直線状の把持部と、該把持部の一端と前記挿通部とを直角に繋ぐ第1曲げ部と、前記把持部の他端と前記波状部とを該波状部が前記挿通部に近接する向きに繋ぐ第2曲げ部とを有していることを特徴とする抜け止めピン。
【請求項2】
前記把持部の長さが50〜100mmであることを特徴とする請求項1記載の抜け止めピン。
【請求項3】
前記金属線材の直径が5mm〜10mmであることを特徴とする請求項1又は2記載の抜け止めピン。
【請求項4】
前記波状部は、前記軸部材の外周部に係合する弧状の係合部と、該係合部の先端に延在して前記挿通部から離間する方向に傾斜した拡開部と、前記係合部の基端と前記第2曲げ部とを繋ぐ直線状の支持部とを有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の抜け止めピン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抜け止めピンに関し、詳しくは、作業機械などの軸部材のピン孔に装着して軸部材の抜け止めを行う抜け止めピンに関する。
【背景技術】
【0002】
円形断面の軸部材と軸挿通孔を有した連結部材とを挿脱可能に嵌合した状態で、軸部材が軸挿通孔から抜け出さないように止める手段として、軸部材に設けたピン孔に抜き差し可能に取り付けられる抜け止めピンがある。この抜け止めピンの一つとしては、周知のベータピンがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ベータピンは、ばね性のある金属線材を略β字状に曲げ形成したもので、取り付けのときにはβ字状の輪状の頭部を指先でつまみ、直線部を先端側から軸部材のピン孔に挿入する。このとき、β字状の波状部は軸部材の外周部により押し拡げられて軸部材に被せられ、ベータピンはこの波状部の弾性力により軸部材に保持される。一方、ベータピンをピン孔から取り外すには、頭部に指先やラジオペンチなどの工具を引っ掛けて引き抜く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−95580号公報(
図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、ベータピンは、軸部材の抜け止めを簡便に行えるといった利点があることから、大型の杭打機など、輸送時にリーダやガントリなどの大型部品の分解・組立にも流用されており、この場合、大径の、例えば、直径70mm程度の軸部材及び、該軸部材の直径に対応した太くて長い抜け止めピンが使用されている。しかし、抜け止めピンが太くなると、弾性力や摩擦力も大きくなり、差し込みを迅速に行うことができないといった課題があった。
【0006】
また、抜け止めピンを差し込むときに、頭部を握る手のひらが滑り、適正な力で差し込むことができず、その上、抜け止めピンを引き抜くときには、指先が滑って互いに締め付けられ苦痛を伴うことから、作業者にとって負担の大きい作業であった。さらに、雨天時や寒冷地で行うといった悪条件であれば、一層負担が大きくなる。加えて、抜け止めピンが連結部材の壁部に密着している場合もあり、抜け止めピンの弾性力や摩擦力に抗して引き抜くことは容易でなく、危険も伴う作業であった。
【0007】
そこで本発明は、頭部を手指で確実に掴むことができ、軸部材のピン孔に容易に抜き差し可能な抜け止めピンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の抜け止めピンは、軸部材と軸挿通孔を有した連結部材とを挿脱可能に嵌合した状態で、前記軸部材のピン孔に差し込まれて前記軸部材の抜け止めを行う抜け止めピンにおいて、該抜け止めピンは、ばね性のある金属線材を一体的に曲げ形成してなり、前記ピン孔に差し込まれる直線状の挿通部と、前記軸部材の外周部に弾性的に係合する波状部と、前記挿通部と前記波状部とを繋ぐ折り返し部とを有し、該折り返し部は、前記抜け止めピンを前記ピン孔に抜き差しするときに手指を掛ける直線状の把持部と、該把持部の一端と前記挿通部とを直角に繋ぐ第1曲げ部と、前記把持部の他端と前記波状部とを該波状部が前記挿通部に近接する向きに繋ぐ第2曲げ部とを有していることを特徴としている。
【0009】
また、前記把持部の長さが50〜100mmであることを特徴としている。さらに、前記金属線材の直径が5mm〜10mmであることを特徴としている。
【0010】
加えて、前記波状部は、前記軸部材の外周部に係合する弧状の係合部と、該係合部の先端に延在して前記挿通部から離間する方向に傾斜した拡開部と、前記係合部の基端と前記第2曲げ部とを繋ぐ直線状の支持部とを有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、抜け止めピンの挿通部の基端側に第1曲げ部を介して直線状の把持部を有するとともに、この把持部と挿通部とが直角をなして形成されているので、軸部材のピン孔に抜け止めピンを抜き差しするときに、把持部を手指で確実に掴むことができ、特に、抜け止めピンを引き抜くときに手指に係る負担を軽減することができる。また、雨天時や寒冷地で行うといった悪条件であれば、より顕著な効果が得られ、抜け止めピンを安全かつ安心して取り扱うことができる。
【0012】
また、直線状の把持部の長さが50〜100mmであるので、手指が折り返し部の曲げ部に掛かり圧迫されることはなく、把持部をより確実に掴むことがでる。さらに、金属線材の直径が5mm〜10mmであるので、大径の軸部材に適用できる充分な弾性力と耐久性をもって軸部材の抜け止めを行うことができる。したがって、小径の軸部材に適用される細くて小さいベータピンのように、着脱を繰り返すことにより容易に変形して再利用できないといった不都合が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の抜け止めピンの一形態例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1及び
図2は、本発明の抜け止めピンの一形態例を示すもので、本形態例に示す抜け止めピン11は、ばね性のある金属線材を略β字状に一体的に曲げ形成してなり、円形断面の軸部材12の先端部に設けたピン孔12aに差し込まれる直線状の挿通部13と、軸部材12の外周部に弾性的に係合する波状部14と、挿通部13と波状部14とを繋ぐ折り返し部15とを有しており、軸部材12と軸挿通孔16a,17aを有した一組の第1連結部材16及び第2連結部材17とを挿脱可能に嵌合した状態で、軸部材12のピン孔12aに差し込まれて軸部材12の抜け止めを行うものである。本実施例では、直径65mm又は70mmの軸部材12に適した抜け止めピン11を示しており、金属線材の直径D1は9mmに形成され、大径の軸部材12に適用可能な弾性力と耐久性を有した太さ、例えば、直径5mm〜10mmであることが望ましい。
【0015】
折り返し部15は、抜け止めピン11の挿通部13をピン孔12aに抜き差しするときに手指を掛ける直線状の把持部15aと、該把持部15aの一端と挿通部13とを略90度の曲げ角度で繋ぐ第1曲げ部15bと、把持部15aの他端と波状部14とを該波状部14が挿通部13に近接する向きに繋ぐ第2曲げ部15cとを有している。把持部15aの長さL1は54mmに形成されており、少なくとも人差し指、中指及び薬指の3本の指が掛けられる長さ、例えば、50〜100mmであることが望ましい。
【0016】
また、第1曲げ部15bの曲げ半径R1は11mmに形成されている。ここで、曲げ半径とは、金属線材の軸心の曲げ半径であり、手指を第1曲げ部15bに片寄せした状態で把持位置が固定できる大きさ、例えば、金属線材の直径D1の1〜1.5倍であることが望ましい。さらに、第2曲げ部15cの曲げ半径R2は20mmに形成されており、所定の弾性力が確保できる大きさ、例えば、第1曲げ部15bの曲げ半径R1の1.5〜2倍であることが望ましい。
【0017】
波状部14は、軸部材12の外周部に係合する弧状の係合部14aと、該係合部14aの先端に延在して前記挿通部13から離間する方向に傾斜した拡開部14bと、係合部14aの基端と前記第2曲げ部15cとを繋ぐ直線状の支持部14cとを有しており、拡開部14bは、その先端を挿通部13の先端にほぼ揃える長さに形成されている。
【0018】
ここで、抜け止めピン11を取り付ける手順について説明する。まず、互いに連結される第1連結部材16と二股状の第2連結部材17との軸挿通孔16a,17aを連通させた状態で、該軸挿通孔16a,17aに軸部材12が挿入される。軸部材12は、軸挿通孔16a,17aに挿通される円柱状の胴部12bと、該胴部12bの基端部に設けられる略矩形環状の取っ手12cとを有し、胴部12bの先端部に、抜け止めピン11の挿通部13が挿入されるピン孔12aが径方向に設けられている。
【0019】
続いて、抜け止めピン11の把持部15aを掴んで挿通部13先端をピン孔12aに挿入すると、波状部14の拡開部14bが軸部材12の胴部12bに当接する。この状態から、手のひらを把持部15aに押し当て更に押し込むと、拡開部14bが胴部12bにより押し拡げられるとともに、胴部12bを弾性的に乗り越え、波状部14の係合部14aが胴部12bに係合する。この結果、抜け止めピン11は、挿通部13と波状部14とで軸部材12を挟んで安定した状態で保持される。一方、抜け止めピン11をピン孔12aから取り外すには、把持部15aに指先を引っ掛けて引っ張ることで胴部12bに対する波状部14の係合状態が解除され、挿通部13がピン孔12aから引き抜かれる。
【0020】
このように、抜け止めピン11の挿通部13の基端側に第1曲げ部15bを介して直線状の把持部15aを有するとともに、把持部15aと挿通部13とが直角をなして形成されているので、軸部材12のピン孔12aに抜け止めピン11を抜き差しするときに、把持部15aを手指で確実に掴むことができ、特に、抜け止めピン11を引き抜くときに手指に係る負担を軽減することができる。また、雨天時や寒冷地で行うといった悪条件であれば、より顕著な効果が得られ、抜け止めピン11を安全かつ安心して取り扱うことができる。この場合、把持部15aに片面テープなどのクッション材を巻き付ければ、更に確実に掴むことができる上に、把持部15aの表面に均一の厚さで巻き付けることが可能となり、繰り返しの使用によりクッション材が解けるといった不具合も抑えることができる。加えて、抜け止めピン11が第2連結部材17の壁部に密着している場合であっても、抜け止めピン11を片手で容易に引き抜くことが可能となり、バールなどの工具を引っ掛けて引き抜くといった大掛かりで危険な作業をなくすことができる。
【0021】
また、金属線材の直径D1が9mm、つまり5mm〜10mmであるので、大径の軸部材に適用できる充分な弾性力と耐久性をもって軸部材の抜け止めを行うことができる。したがって、小径の軸部材に適用される細くて小さいベータピンのように、着脱を繰り返すことにより容易に変形して再利用できないといった不都合が生じない。
【0022】
さらに、把持部15aの長さL1が54mm、つまり50mm〜100mmであるので、手指が第1曲げ部15b及び第2曲げ部15cに掛かり圧迫されることはなく、把持部15aをより確実に掴むことがでる。加えて、第1曲げ部15bの曲げ半径R1が11mm、つまり、金属線材の直径D1(9mm)の1〜1.5倍であるので、把持部15aの位置を挿通部13の軸心に近づけることが可能となり、言い換えれば抜け止めピン11を抜き差しする力の作用位置を挿通部13の軸心に近づけることが可能となるので、ピン孔12aに対する挿通部13の引っ掛かりを防止して抜け止めピン11の抜き差しを容易に行うことができる。
【0023】
また、把持部15aを掴む手指を第1曲げ部15bに片寄せした状態で把持位置が固定されるので、抜け止めピン11を持ち替える必要がなくなるだけでなく、誤って抜け止めピン11を落下させるおそれもなくなる。さらに、第1曲げ部15bの曲げ半径R1の小径化と相俟って折り返し部15をコンパクトに形成することが可能となり、抜け止めピン11の装着箇所の周囲が狭隘であっても、抜け止めピン11の抜き差しを無理なく行うことができる。
【0024】
加えて、第2曲げ部15cの曲げ半径R2が20mm、つまり第1曲げ部15bの曲げ半径R1(11mm)の1.5〜2倍であるので、抜け止めピン11を抜き差しする際に、所定の弾性力を確保しつつ、第2曲げ部15cへの応力を分散して応力集中を緩和することにより、抜け止めピン11の破損を防止することができる。また、波状部14が、係合部14aの先端に延在して挿通部13から離間する方向に傾斜した拡開部14bを有しているので、挿通部13先端をピン孔12aに挿入するときに、拡開部14bを胴部12bの外周面に当接させて滑らかに押し拡げることができる。
【0025】
なお、本発明は、前記形態例に限るものではなく、抜け止めピンの折り返し部に直線状の把持部を有していればよく、挿通部の長さも、抜け止めピンを抜き差しする作業スペースに応じて適宜に延長することができる。また、把持部を平板状に潰すことにより手指との接触を面接触状態となるように形成してもよい。さらに、把持部の表面に転造加工で筋状又は網目状の滑り止めを施してもよい。加えて、本形態例では、軸挿通孔に挿通した軸部材が抜け出さないように抜け止めピンにより抜け止めする構成が示されているが、逆に軸挿通孔を有した連結部材が軸部材から抜け出さないように抜け止めピンにより抜け止めする場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
11…抜け止めピン、12…軸部材、12a…ピン孔、12b…胴部、12c…取っ手、13…挿通部、14…波状部、14a…係合部、14b…拡開部、14c…支持部、15…折り返し部、15a…把持部、15b…第1曲げ部、15c…第2曲げ部、16…第1連結部材、16a…軸挿通孔、17…第2連結部材、17a…軸挿通孔