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特開2019-132710画像処理方法、プログラムおよび記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-132710(P2019-132710A)
(43)【公開日】2019年8月8日
(54)【発明の名称】画像処理方法、プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20190712BHJP
   C12N 5/073 20100101ALI20190712BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20190712BHJP
【FI】
   G01N21/17 620
   C12N5/073
   G06T1/00 290B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-15377(P2018-15377)
(22)【出願日】2018年1月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(71)【出願人】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】黒見 靖
(72)【発明者】
【氏名】小林 正嘉
(72)【発明者】
【氏名】大林 徹也
(72)【発明者】
【氏名】会田 拓也
【テーマコード(参考)】
2G059
4B065
5B057
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB14
2G059EE02
2G059EE09
2G059EE12
2G059FF02
2G059GG01
2G059HH01
2G059JJ05
2G059JJ13
2G059JJ17
2G059JJ22
2G059KK02
2G059LL01
2G059MM01
4B065AA90X
4B065AC20
4B065CA60
5B057AA07
5B057BA02
5B057CA02
5B057CA08
5B057CA13
5B057CA16
5B057CB02
5B057CB08
5B057CB12
5B057CB16
5B057CC02
5B057CD17
5B057DA16
5B057DB03
5B057DB05
5B057DB09
(57)【要約】
【課題】OCT撮像により得られる情報を、特に胚の評価作業を効果的に支援するために有用な態様で、ユーザに提示することのできる技術を提供する。
【解決手段】本発明に係る画像処理方法は、培養された胚を光干渉断層撮像して求められた、胚を含む三次元空間内の各位置からの信号光の強度分布を示す原信号データを取得する工程(S102)と、原信号データに基づき、胚の内部に原点を有する球座標で表される三次元空間内の各位置と、当該位置からの信号光の強度分布との対応を表す球座標データを作成する工程(S103〜S105)と、球座標データに基づき、信号光の強度分布を球座標における2つの偏角を座標軸とする二次元マップとして出力する工程(ステップS106、S107)とを備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養された胚を光干渉断層撮像して求められた、前記胚を含む三次元空間内の各位置からの信号光の強度分布を示す原信号データを取得する工程と、
前記原信号データに基づき、前記胚の内部に原点を有する球座標で表される前記三次元空間内の各位置と、当該位置からの前記信号光の強度分布との対応を表す球座標データを作成する工程と、
前記球座標データに基づき、前記信号光の強度分布を前記球座標における2つの偏角を座標軸とする二次元マップとして出力する工程と
を備える画像処理方法。
【請求項2】
前記2つの偏角の組で特定される1つの動径方向の各位置からの前記信号光の強度から求めた指標値の大きさを前記二次元マップに表す請求項1に記載の画像処理方法。
【請求項3】
前記指標値の相対的な大きさを前記二次元マップ上の点の明暗または濃淡によって表す請求項2に記載の画像処理方法。
【請求項4】
前記指標値は、前記1つの動径方向において前記信号光の強度が連続して所定の閾値を超える領域の長さに対応する値である請求項2または3に記載の画像処理方法。
【請求項5】
前記指標値は、前記1つの動径方向において前記信号光の強度が連続して所定の閾値を超える領域における前記信号光の強度の積分値に対応する値である請求項2または3に記載の画像処理方法。
【請求項6】
前記胚の表面を球面近似し、該近似球の中心を前記原点とする請求項1ないし5のいずれかに記載の画像処理方法。
【請求項7】
擬円筒図法により前記二次元マップを作成する請求項1ないし6のいずれかに記載の画像処理方法。
【請求項8】
コンピュータに、
培養された胚を光干渉断層撮像して求められた、前記胚を含む三次元空間内の各位置からの信号光の強度分布を示す原信号データを取得する工程と、
前記原信号データに基づき、前記胚の内部に原点を有する球座標で表される前記三次元空間内の各位置と、当該位置からの前記信号光の強度分布との対応を表す球座標データを作成する工程と、
前記球座標データに基づき、前記信号光の強度分布を前記球座標における2つの偏角を座標軸とする二次元マップとして出力する工程と
を実行させるためのプログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のプログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、胚を断層撮像することで得られる胚の三次元画像に対応するデータを二次元的に表現するための画像処理に関するものであり、特に培養された胚の評価作業を支援するのに好適な画像処理に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば不妊治療を目的とした生殖補助医療においては、体外で受精させ一定期間培養した胚(受精卵)を胎内に戻すことが行われる。しかしながら、その成功率は必ずしも高くなく、患者の精神的および経済的な負担も大きい。この問題を解決するために、培養される胚の状態を的確に判断する方法が模索されている。
【0003】
従来、胚培養が良好に進行しているか否かの評価については、例えば顕微鏡観察により医師や胚培養士が目視で行うことが一般的である。その判断指標として例えばVeeck分類やGardner分類などが広く用いられているが、これらは胚の形態学的特徴に対するおおよその判断基準を示したものにすぎず、最終的な評価は評価者の主観的判断に依存しているのが現状である。このため、客観的かつ定量的な評価を可能とするための技術が求められる。
【0004】
例えば特許文献1では、光干渉断層撮像(光コヒーレンストモグラフィ、Optical Coherence Tomography;OCT)等の非侵襲の断層撮像技術を応用して胚の品質を評価する技術が提案されている。この技術では、OCT撮像により得られる断層画像から胚の三次元像が再構成される。そして、その三次元像に基づき、胚の形態学的基準としての割球の数、その規則性、フラグメンテーション率等の基準を用いて胚の品質が評価される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017−521067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記文献には、OCT撮像で得られる三次元像に基づき胚の評価が可能であることが記載され、胚を種々の方向から見た三次元像の例が開示されているものの、具体的な像の加工や定量的な指標の算出については述べられていない。すなわち、この従来技術は、これまでの目視観察に供されていた顕微鏡像のような二次元像を単に三次元像に置き換えたものにすぎない。このため、従来の二次元像を用いるケースに比べれば胚の評価作業をより効果的に支援することができるものの、OCT撮像結果から得られる情報が十分有効に活用されているとは言えない。例えば胚の内部構造を把握するためには、特許文献1の図5Aないし図5Iに例示されているように、胚を種々の方向から見た像を表示させそれを逐次観察して総合的な判断を行うことが必要になる。
【0007】
このように、OCT撮像による得られる断層画像およびそれから再構成される三次元像は、例えば胚の内部構造等、胚の評価のために有用な多くの情報を提供することができる可能性を有しているが、それをわかりやすく提示するための具体的な方法についてはこれまで確立されるに至っていない。
【0008】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、OCT撮像により得られる情報を、特に胚の評価作業を効果的に支援するために有用な態様で、ユーザに提示することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の一の態様は、培養された胚を光干渉断層撮像して求められた、前記胚を含む三次元空間内の各位置からの信号光の強度分布を示す原信号データを取得する工程と、前記原信号データに基づき、前記胚の内部に原点を有する球座標で表される前記三次元空間内の各位置と、当該位置からの前記信号光の強度分布との対応を表す球座標データを作成する工程と、前記球座標データに基づき、前記信号光の強度分布を前記球座標における2つの偏角を座標軸とする二次元マップとして出力する工程と、を備える画像処理方法である。
【0010】
また、この発明の他の一の態様は、上記各工程をコンピュータに実行させるためのプログラムである。また、この発明の他の一の態様は、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0011】
詳しくは後述するが、胚、特に哺乳類の受精卵は、その外形が概ね球形であり、またその内部構造も比較的高い回転対称性を有している。このことから、三次元像における胚の各位置を、胚の内部に原点を設定した球座標により表すことは極めて合理的である。具体的には、胚内部の各位置の座標が球座標系で表されることで、1つの動径方向における胚の各位置からの信号光の強度分布を見ることで、胚の内部から表面にかけての内部構造を知ることが可能である。
【0012】
ユーザによる胚の評価作業を効果的に支援するためには、上記のような有用情報をどのような形式でユーザに提示するかが問題となる。例えば球座標の2つの偏角を座標軸とする二次元マップ上の各点に、それらの偏角の組で表される1つの動径方向の信号光の強度分布を表すことができる。このような二次元マップは、胚が原点から見た各動径方向においてどのような構造を有しているか、また原点に対してどの程度の対称性を有しているか等、胚の内部構造に関わる情報を端的に示すものとなる。そのため、ユーザはこのマップを一見して胚の内部構造を容易に把握することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
上記のように、本発明によれば、培養された胚をOCT撮像することにより得られる情報を、特に胚の評価作業を効果的に支援するために有用な態様でユーザに提示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】断層撮像を行うための画像処理装置の構成例を示す原理図である。
図2】この画像処理装置における撮像原理を説明する図である。
図3】OCT装置の具体的構成例を示す図である。
図4】処理対象となる胚の代表的な構造を例示する図である。
図5】この実施形態の画像処理方法を示すフローチャートである。
図6】直交座標から極座標への座標変換により得られる効果を示す図である。
図7】二次元マップの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る画像処理方法の具体的な実施形態について説明する。本実施形態は、培養容器に担持された培地(培養液)中で培養された胚を、光干渉断層撮像(Optical Coherence Tomography;OCT)技術によって断層撮像し、これにより得られたデータに基づき、胚の三次元的な内部構造を二次元マップとして表示出力することで、ユーザ(具体的には医師または胚培養士)による胚の評価作業を支援するための本発明に係る画像処理方法を具現化したものである。例えば不妊治療を目的とする受精卵の培養において、培養が良好に進行しているか否かを判断するための知見を得ることを目的として、本実施形態の画像処理方法を適用することができる。
【0016】
最初に、断層画像を撮像するための画像処理装置の構成と、当該画像処理装置による撮像原理とについて説明する。その後に、撮像により取得されたデータを用いて二次元マップを作成する画像処理について説明する。
【0017】
図1は断層撮像を行うための画像処理装置の構成例を示す原理図である。この画像処理装置1は、培地中で培養された胚を被撮像物として断層撮像し、得られた断層画像を画像処理して、被撮像物の立体像を作成する。以下の各図における方向を統一的に示すために、図1に示すようにXYZ直交座標軸を設定する。ここでXY平面が水平面を表す。また、Z軸が鉛直軸を表し、より詳しくは(−Z)方向が鉛直下向き方向を表している。
【0018】
画像処理装置1は保持部10を備えている。保持部10は、ガラス製または樹脂製の透明な底部を持つディッシュやプレートと呼ばれる培養容器11を、その開口面を上向きにして略水平姿勢に保持する。容器11には予め適宜の培地Mが所定量注入されており、培地中では容器11の底部111に試料Sp(ここでは胚)が培養されている。図1では1つの試料Spのみが記載されているが、1つの容器11内で複数の試料Spが培養されていてもよい。
【0019】
保持部10により保持された容器11の下方に、撮像ユニット20が配置される。撮像ユニット20には、被撮像物の断層画像を非接触、非破壊(非侵襲)で撮像することが可能な光干渉断層撮像(Optical Coherence Tomography;OCT)装置が用いられる。詳しくは後述するが、OCT装置である撮像ユニット20は、被撮像物への照明光を発生する光源21と、ビームスプリッタ22と、物体光学系23と、参照ミラー24と、分光器25と、光検出器26とを備えている。
【0020】
また、画像処理装置1はさらに、装置の動作を制御する制御ユニット30と、撮像ユニット20の可動機構を制御する駆動制御部40とを備えている。制御ユニット30は、CPU(Central Processing Unit)31、A/Dコンバータ32、信号処理部33、3D復元部34、インターフェース(IF)部35、画像メモリ36およびメモリ37を備えている。
【0021】
CPU31は、所定の制御プログラムを実行することで装置全体の動作を司り、CPU31が実行する制御プログラムや処理中に生成したデータはメモリ37に保存される。A/Dコンバータ32は、撮像ユニット20の光検出器26から受光光量に応じて出力される信号をデジタルデータに変換する。信号処理部33は、A/Dコンバータ32から出力されるデジタルデータに基づき後述する信号処理を行って、被撮像物の断層画像を作成する。3D復元部34は、撮像された複数の断層画像の画像データに基づいて、撮像された胚の三次元像(3D像)を作成する機能を有する。信号処理部33により作成された断層画像の画像データおよび3D復元部34により作成された三次元像の画像データは、画像メモリ36により適宜記憶保存される。
【0022】
インターフェース部35は画像処理装置1と外部との通信を担う。具体的には、インターフェース部35は、外部機器と通信を行うための通信機能と、ユーザからの操作入力を受け付け、また各種の情報をユーザに報知するためのユーザインターフェース機能とを有する。この目的のために、インターフェース部35には、装置の機能選択や動作条件設定などに関する操作入力を受け付け可能な例えばキーボード、マウス、タッチパネルなどの入力デバイス351と、信号処理部33により作成された断層画像や3D復元部34により作成された立体像など各種の処理結果を表示する例えば液晶ディスプレイからなる表示部352とが接続されている。
【0023】
また、CPU31は駆動制御部40に制御指令を与え、これに応じて駆動制御部40は撮像ユニット20の可動機構に所定の動作を行わせる。次に説明するように、駆動制御部40により実行される撮像ユニット20の走査移動と、光検出器26による受光光量の検出との組み合わせにより、被撮像物である試料Sp(具体的には胚)の断層画像が取得される。
【0024】
図2はこの画像処理装置における撮像原理を説明する図である。より具体的には、図2(a)は撮像ユニット20における光路を示す図であり、図2(b)は試料Spの断層撮像の様子を模式的に示す図である。前記したように、撮像ユニット20は光干渉断層撮像(OCT)装置として機能するものである。なお、ここでは説明のために試料Spを略球形として表示しているが、実際の撮像において試料Spの形状は特に限定されない。
【0025】
撮像ユニット20では、例えば発光ダイオードまたはスーパールミネッセントダイオード(SLD)などの発光素子を有する光源21から、広帯域の波長成分を含む低コヒーレンス光ビームL1が出射される。光ビームL1はビームスプリッタ22に入射して分岐し、破線矢印で示すように一部の光L2が容器11に向かい、一点鎖線矢印で示すように一部の光L3が参照ミラー24に向かう。
【0026】
容器11に向かった光L2は、物体光学系23を経て容器11に入射する。より具体的には、ビームスプリッタ22から出射される光L2は、物体光学系23を介して容器底部111に入射する。物体光学系23は、ビームスプリッタ22から容器11に向かう光L2を容器11内の試料Spに収束させる機能と、試料Spから出射される反射光を集光してビームスプリッタ22に向かわせる機能とを有する。図では物体光学系23は単一の対物レンズにより代表的に表されているが、複数の光学素子が組み合わされたものであってもよい。
【0027】
物体光学系23は、駆動制御部40に設けられた焦点調整機構41により、Z方向に移動可能に支持されている。これにより、被撮像物に対する物体光学系23の焦点位置がZ方向に変更可能となっている。物体光学系23の光軸は鉛直方向と平行であり、したがって平面状の容器底部111に垂直である。また、物体光学系23への照明光の入射方向は光軸と平行であり、その光中心が光軸と一致するように、物体光学系23の配置が定められている。
【0028】
試料Spが光L2に対する透過性を有するものでなければ、容器底部111を介して入射した光L2は試料Spの表面で反射される。一方、試料Spが光L2に対してある程度の透過性を有するものである場合、光L2は試料Sp内まで進入してその内部の構造物により反射される。光L2として例えば近赤外線を用いることで、入射光を試料Sp内部まで到達させることが可能である。試料Spからの反射光は散乱光として種々の方向に放射される。そのうち物体光学系23の集光範囲内に放射された光L4が、物体光学系23で集光されてビームスプリッタ22へ送られる。
【0029】
参照ミラー24は、駆動制御部40に設けられたミラー駆動機構42により、その反射面を光L3の入射方向に対し垂直姿勢に、しかも、該入射方向に沿った方向(図ではY方向)に移動可能に支持されている。参照ミラー24に入射した光L3は反射面で反射されて、入射光路を逆向きに辿るように進む光L5としてビームスプリッタ22に向かう。この光L5が参照光となる。ミラー駆動機構42により参照ミラー24の位置が変更されることにより、参照光の光路長が変化する。
【0030】
試料Spの表面もしくは内部の反射面で反射された反射光L4と、参照ミラー24で反射された参照光L5とは、ビームスプリッタ22を介して光検出器26に入射する。このとき、反射光L4と参照光L5との間で位相差に起因する干渉が生じるが、干渉光の分光スペクトルは反射面の深さにより異なる。つまり、干渉光の分光スペクトルは被撮像物の深さ方向の情報を有している。したがって、干渉光を波長ごとに分光して光量を検出し、検出された干渉信号をフーリエ変換することにより、被撮像物の深さ方向における反射光強度分布を求めることができる。このような原理に基づくOCT撮像技術は、フーリエドメイン(Fourier Domain)OCT(FD−OCT)と称される。
【0031】
この実施形態の撮像ユニット20は、ビームスプリッタ22から光検出器26に至る干渉光の光路上に分光器25が設けられている。分光器25としては、例えばプリズムを利用したもの、回折格子を利用したもの等を用いることができる。干渉光は分光器25により波長成分ごとに分光されて光検出器26に受光される。
【0032】
光検出器26が検出した干渉光に応じて光検出器26から出力される干渉信号をフーリエ変換することで、試料Spのうち、光ビームL2の入射位置における深さ方向、つまりZ方向の反射光強度分布が求められる。容器11に入射する光ビームL2をX方向に走査することで、XZ平面と平行な平面における反射光強度分布が求められ、その結果から当該平面を断面とする試料Spの断層画像を作成することができる。以下、本明細書では、X方向へのビーム走査によってXZ平面と平行な断面における1つの断層画像Itを取得する一連の動作を、1回の撮像と称することとする。
【0033】
また、Y方向におけるビーム入射位置を多段階に変更しながら、その都度断層画像の撮像を行うことで、図2(b)に示すように、試料SpをXZ平面と平行な断面で断層撮像した多数の断層画像Itを得ることができる。Y方向の走査ピッチを小さくすれば、試料Spの立体構造を把握するのに十分な分解能の画像データを得ることができる。X方向およびY方向へのビーム走査は、例えば図示しないガルバノミラー等の光路を変化させる光学部品を用いてビーム入射位置をXY方向に変化させる方法、試料Spを担持する容器11と撮像ユニット20とのいずれかをXY方向に移動させてこれらの相対位置を変化させる方法などにより実現可能である。
【0034】
なお、上記の原理説明では、撮像ユニット20において光源21からの光を照明光と参照光とに分岐させる分波機能、および信号光と参照光とを合成して干渉光を生じさせる機能がビームスプリッタ22により実現されている。一方、近年では、OCT装置においてこのような分波・合波機能を担うものとして、以下に例示するような光ファイバカプラが用いられる場合がある。
【0035】
図3はOCT装置の具体的構成例を示す図である。なお、理解を容易にするために、以下の説明では、上記した原理図の構成と同一のまたは相当する構成に同一符号を付すものとする。その構造および機能は、特に説明のない限り上記原理図のものと基本的に同じであり、詳しい説明は省略する。また、光ファイバカプラによる干渉光を検出するOCT撮像原理も基本的に上記と同じであるので、詳しい説明を省略する。
【0036】
図3(a)に示す構成例では、撮像ユニット20aは、ビームスプリッタ22に代わる分波・合波器として光ファイバカプラ220を備えている。光ファイバカプラ220を構成する光ファイバの1つ221は光源21に接続されており、光源21から出射される低コヒーレンス光は、光ファイバカプラ220により2つの光ファイバ222,223への光に分岐される。光ファイバ222は物体系光路を構成する。より具体的には、光ファイバ222の端部から出射される光はコリメータレンズ223を介して物体光学系23に入射する。被撮像物からの反射光(信号光)は物体光学系23、コリメータレンズ223を介して光ファイバ222に入射する。
【0037】
他の光ファイバ224は参照系光路を構成する。より具体的には、光ファイバ224の端部から出射される光はコリメータレンズ225を介して参照ミラー24に入射する。参照ミラー24からの反射光(参照光)はコリメータレンズ225を介して光ファイバ224に入射する。光ファイバ222を伝搬する信号光と光ファイバ224を伝搬する参照光とが光ファイバカプラ220において干渉し、干渉光が光ファイバ226および分光器25を介して光検出器26に入射する。光検出器26により受光された干渉光から被撮像物における反射光の強度分布が求められることは上記原理通りである。
【0038】
図3(b)に示す例でも、撮像ユニット20bに光ファイバカプラ220が設けられる。ただし光ファイバ224は使用されず、光ファイバ222から出射される光の光路に対してコリメータレンズ223およびビームスプリッタ227が設けられる。そして、前述の原理通り、ビームスプリッタ227により分岐される2つの光路にそれぞれ物体光学系23、参照ミラー24が配置される。このような構成ではビームスプリッタ227により信号光と参照光とが合成され、それにより生じた干渉光が光ファイバ222,226を通って光検出器26へ導かれる。
【0039】
これらの例では、図2(a)の原理図では空間中を進行する各光の光路の一部が光ファイバに置き換えられているが動作原理は同じである。これらの例においても、焦点調整機構41が物体光学系23を容器11に対し接近・離間方向に移動させることにより、被撮像物に対する物体光学系23の焦点深さを調整することが可能である。また、ミラー駆動機構42が参照ミラー24を光の入射方向に沿って移動させることにより、参照光の光路長を変更可能である。
【0040】
以下、この画像処理装置1を用いた画像処理方法について詳説する。画像処理装置1の構成は、上記したビームスプリッタを用いるもの、光ファイバカプラを用いるもののいずれであっても適用可能である。また、断層画像を撮像するための撮像装置としては上記したFD−OCT撮像装置に限定されず、例えばタイムドメインOCT(TD−OCT)撮像装置など他の撮像原理に基づくものも適用可能である。以下の画像処理方法では、試料Spおよびその周囲を含む三次元空間内の各位置に入射した照明光の反射光が信号光とされ、三次元空間内の位置と、当該位置からの信号光の光量に対応する信号の強度とを対応付けたデータが使用される。したがって、このようなデータを取得することのできる撮像方法であればよい。
【0041】
図4は処理対象となる胚の代表的な構造を例示する図である。画像処理装置1が、例えば不妊治療を目的として利用されるとき、体外受精されたヒト受精卵の培養の初期段階のものが画像処理装置1の撮像対象物となる。既に知られているように、卵子が受精すると卵割が開始され、桑実胚と呼ばれる状態を経て胚盤胞が形成される。本実施形態の画像処理方法は、例えば受精直後から胚盤胞期における胚を観察するのに好適な情報をユーザに提供するものである。
【0042】
図4(a)は初期段階(例えば4細胞期から桑実胚期)の胚の構造を模式的に示すものである。胚E1の外形は概ね球形である。その表面は透明帯と呼ばれるゼリー状の糖タンパク質の層Zで覆われており、その内部に受精卵が細胞分裂することで生じる複数の細胞Cが含まれる。培養が良好に進行する状態では、図4(a)に示すように、透明帯Zの内部は大きさの均等な複数の細胞Cにより占められる。一方、培養の状態が良好でない場合、図4(b)に示すように、胚E2において細胞Cの大きさが不揃いであったり、卵割により生成される細胞C以外にフラグメントと呼ばれる微小な断片が生じたりすることがある。なお、図4(b)では細胞Cの大きさのばらつきとフラグメントFとが共に発生した状態を示しているが、これらの一方のみが出現することもある。
【0043】
いずれにしても、胚の状態としては図4(a)に示すものよりも劣っていると言える。したがって、桑実胚までの初期胚においては、卵割により形成される各細胞Cの大きさが揃っているか、各細胞Cの表面が滑らかであるか、フラグメントFが生じているか等が、培養状態を評価するための指標となり得る。
【0044】
図4(c)および図4(d)は胚盤胞期における胚の内部構造を模式的に示すものである。このうち図4(c)は状態が良好な胚E3を示し、図4(d)はこれより状態の劣る胚E4を示している。胚盤胞期においては、図4(c)に示すように、卵割の進んだ細胞Cが胚の表面に薄い層として並び栄養外胚葉Tを形成する。栄養外胚葉Tで囲まれる内部空間は、胞胚腔Bとよばれる空洞が生じる。また、内部空間の一部に、多数の細胞Cが密集した内細胞塊Iが形成される。
【0045】
状態のよい胚E3では、栄養外胚葉Tが多数の細胞Cにより密に形成され、また内細胞塊Iも比較的多くの細胞Cにより密に構成される。一方、これより状態の劣る胚E4では、栄養外胚葉Tがより少ない細胞Cで疎に形成されたり、内細胞塊Iが少ない細胞で構成され小さいものとなったりすることがある。したがって、栄養外胚葉Tの厚さや密度、内細胞塊Iの大きさや密度により、胚の培養状態を指標することができる。
【0046】
図5はこの実施形態の画像処理方法を示すフローチャートである。なお、以下に示す一連の処理のうち、ステップS101は、画像処理装置1とは別に準備された適宜のインキュベータ内で実施される。また、ステップS102以降の処理については、画像処理装置1に設けられたCPU31がメモリ37に予め記録された制御プログラムを実行することにより実現されるが、これに限定されない。
【0047】
例えば、図5のステップS103以降については、一般的な演算機能および画像出力機能を有するコンピュータ装置によって実行することが可能であり、これらの処理については、画像処理装置1とは別のコンピュータ装置が画像処理装置1からOCT撮像データを受け取って処理する構成であってもよい。このようにすれば、画像処理装置1のCPU31は撮像に特化された処理のみを実行すればよいこととなり、その処理負荷が軽減される。
【0048】
以下、具体的な処理の内容を説明する。最初に、評価の対象となる胚が適宜の培養環境下で培養される(ステップS101)。培養された胚は、適宜のタイミングで、画像処理装置1によりOCT撮像される(ステップS102)。撮像により得られたデータ、具体的には胚およびその周囲を含む三次元空間の各位置からの反射光強度を表すデータが、原信号データとしてメモリ37または画像メモリ36に保存される。この原信号データを用いて、特許文献1に示されたような胚の三次元像を構成し画像として出力することが可能である。
【0049】
図6は直交座標から極座標への座標変換により得られる効果を示す図である。撮像対象物に対しXY方向へのビーム走査で取得される原信号データでは、XYZ座標系で三次元空間内の各位置が表されている。しかしながら、前記したように胚の外形は概ね球形であり、またその内部構造も比較的高い回転対称性を有している。このため、胚の構造をより端的に表現するためには、胚の中心を原点とする球座標で各位置を表す方が好ましい。そこで、図6(a)に示すように、XYZ直交座標系から、動径rおよび2つの偏角θ、φを座標変数とするrθφ球座標系への座標変換を行う。
【0050】
よく知られているように、直交座標系における点Pの座標(x,y,z)と球座標系における点Pの座標(r,θ,φ)との間には、原点Oが共通であれば下式:
x=r・sinθ・cosφ
y=r・sinθ・sinφ
z=r・cosθ
の関係がある。
【0051】
具体的には、原信号データから胚の中心位置を特定し(ステップS103)、この中心位置を球座標系の原点Oとする。この原点Oは、原信号データにおけるXYZ直交座標系の原点とは一致する必要はない。そして、適宜の変換処理により直交座標から球座標への座標変換を行う(ステップS104)。このように座標変換を行うことにより、XYZ直交座標系で特定される三次元空間内の各位置と、その位置からの信号光強度とを関連付けた原信号データから、rθφ球座標系で特定される三次元空間内の各位置と、その位置からの信号光強度とを関連付けたデータ(球座標データ)を作成することができる。
【0052】
「胚の中心」については、原信号データに基づき例えば次のようにして求めることができる。原信号データから構成される胚の三次元像が中実の球体とみなせる場合には、画像におけるその重心を胚の中心とすることができる。三次元画像処理において、中実のオブジェクトの重心を求める方法は公知であり、そのような方法を適用することが可能である。また、例えば胚の表面を近似的に表す球面を特定し、該近似球面の中心を胚の中心としてもよい。この方法は、例えば図6(b)に示す胚盤胞E5のように胚の内部が中空である場合や胚の内部構造が複雑である場合にも適用可能である。
【0053】
こうして球座標への座標変換を行うことで、原点から各動径方向に見たときの信号光の強度分布を求めることができる。信号光の強度分布が球座標で表されていると、胚が原点から見て各方向にどのような構造を有しているかを把握するのに好都合である。例えば、原点から見た胚の等方性を定量的に評価することができる。例えば、各動径方向における透明帯Zの厚さや密度を求めて、その均一性を評価することができる。また、胚盤胞においては、栄養外胚葉Tについて同様に厚さや密度の分布を求めることができる。また、内細胞塊Iの大きさ(厚さおよび径方向への広がり)を評価することもできる。具体的には次の通りである。
【0054】
図6(b)に示すように、座標変換により球座標が設定された胚盤胞E5に対し、原点Oから延びる1つの動径方向r1を考える。この方向には内細胞塊Iが存在しないものとする。注目点を原点Oから動径方向r1に沿って移動させたとき、原点Oの周辺は胚胞腔Bが占めており、薄い栄養外胚葉Tを経て胚E5の外部に至る。このため、当該動径方向における信号光強度をプロットすると、図6(c)に実線で示すように、栄養外胚葉Tの層に対応する位置で信号強度が高く、その両側では信号強度が低くなる。つまり、この場合の信号強度分布においては、栄養外胚葉Tに対応する1つのピークが現れる。
【0055】
このピークの幅は、この方向における栄養外胚葉Tの厚さが大きいほど大きくなる。また、ピークの高さはこの方向における栄養外胚葉Tの密度が高いほど大きくなる。図6(c)に示すように、バックグラウンドレベルと有意なピークとを分離するための適宜の閾値Th1を予め定めておけば、信号強度が閾値Th1を連続して超える領域の幅T1により、動径方向r1における栄養外胚葉Tの厚さを定量的に表すことができる。また、ピークの高さにより栄養外胚葉Tの密度を表すことができる。
【0056】
なお、動径方向r1に栄養外胚葉Tとは異なる他の構造体がある場合には、その位置で同様に信号強度が高くなると考えられる。ピーク位置は当該構造物の原点Oからの距離を表すことになる。また動径方向r1における信号強度の積分値により、当該方向に存在する構造物の総量を表すことができる。
【0057】
一方、動径方向r1とは異なるもう1つの動径方向として、内細胞塊Iが存在する方向r2を考えてみる。この方向における信号強度分布には、内細胞塊Iからの信号光に対応する成分と栄養外胚葉Tからの信号光に対応する成分とが含まれる。つまり、この方向における信号強度をプロットすると、図6(c)に点線で示すように、内細胞塊Iに対応するピークと、栄養外胚葉Tに対応するピークとが重畳された形となる。内細胞塊Iと栄養外胚葉Tとの間に密度の差があればそれに応じてピーク高さが変わると考えられる。
【0058】
ここで、バックグラウンドレベルと有意なピークとを分離するための閾値Th1を連続的に超える領域を抽出すれば、その領域の幅T4は内細胞塊Iと栄養外胚葉Tとを合わせた幅に相当することとなる。また、例えば仮に内細胞塊Iが栄養外胚葉Tよりも高密度であるとすると、内細胞塊Iに対応する信号強度と栄養外胚葉Tに対応する信号強度とを分離するような閾値Th2を設定することが可能である。このような閾値Th2を用いれば、当該方向r2における内細胞塊Iの幅T2と栄養外胚葉Tの幅T3とを個別に求めることが可能になる。
【0059】
このように、各動径方向における信号強度の分布態様から、胚の三次元構造を推定することが可能である。例えば、信号強度分布において現れるピークの位置、高さおよび幅が各動径方向に概ね一定であれば、原点Oから見た胚の等方性が高いと言える。一方、特定の方向においてピークの位置、高さおよび幅のいずれかが他の方向よりも有意に高いとき、当該方向に特異な構造があると言える。
【0060】
このような各動径方向における信号強度分布を定量的に表す指標値をそれぞれスカラー量として導出し(ステップS105)、それを単一の二次元マップ上に集約して可視化することができれば(ステップS106)、三次元像を種々の方向から観察しなくても、一見して胚の内部構造を把握することができるような画像表示が可能となる。二次元マップの座標軸は、例えば2つの偏角θ、φとすることができる。すなわち、このマップ上において2つの偏角θ、φの組によって特定される1つの点は、当該偏角の値を座標値とする1つの動径方向を表すこととなる。
【0061】
1つの動径方向における信号強度分布をスカラー量として表す方法としては、上記したように、当該方向において信号強度が閾値を超える領域の幅、信号強度のピーク高さ、信号強度の積分値等を用いることができる。領域の幅を用いる場合、各方向における構造物の厚さの分布を表すことができる。また、信号強度のピーク高さあるいは積分値を用いる場合、各方向における構造物の密度分布を表すことができる。
【0062】
これらのスカラー量を二次元マップ上で表現する方法としては、スカラー量の値を所定の閾値で二値化して二値化画像として表す方法、スカラー量の値に応じてマップ上の各点の明暗または濃淡を異ならせる方法、スカラー量の値に応じて形状や大きさを異ならせたオブジェクト(例えば円形)をマップ上に配置する方法などが考えられる。このように、動径方向における信号強度分布を表すスカラー量の選択およびその表現方法を目的に応じて適宜に選択することで、2つの偏角θ、φを座標軸として各方向における信号強度分布を表す二次元マップを作成することができる。
【0063】
また、球座標で表現される各方向を二次元平面上にマッピングするには、例えば擬円筒図法を用いることが可能である。すなわち、2つの偏角θ、φをそれぞれ緯度、経度に相当するものとして、略球体である地球表面の地形を平面地図上に表現する場合と同様の図法を用いることができる。このような作図法はいくつか知られており、目的に応じて適宜選択することができる。
【0064】
上記のような画像処理の各要素は、既に実用化されている一般的な三次元画像処理アプリケーションを用いて実現することができるものである。こうして作成された二次元マップは、例えば表示部352に表示出力することによりユーザに提示される(ステップS107)。ユーザは、表示されたマップを見て、胚の状態を簡単に、かつ的確に把握することが可能である。
【0065】
図7は二次元マップの例を示す図である。図7(a)は初期胚における透明帯の厚さ分布Zを表現したマップの例である。ここでは、偏角θを緯度、偏角φを経度として扱い、実体における面積を図上で維持することのできる地図図法であるサンソン図法が用いられている。また、高輝度であるほど、透明帯Zが厚いことを表す。マップが一様な輝度で表されていれば透明帯Zの厚さが均一であると言えるが、この例では、図の左端部付近に高輝度の(明度の高い)領域があり、この部分で透明帯Zが特に厚くなっていることがわかる。また、中央部から右寄りの部分に暗い(明度の低い)領域があり、この部分では透明帯Zが薄いことがわかる。
【0066】
このように、従来の技術では三次元像を種々の方向から観察しなければわからなかった透明帯Zの厚さ分布を、本実施形態では単一の二次元マップにおける明暗(もしくは濃淡)により表現することが可能となっている。
【0067】
また、図7(b)は胚盤胞における表面の厚さ分布を表現したマップの例である。図示の方法としては図7(a)の例と同じとし、また内細胞塊Iと栄養外胚葉Tとを特に区別せず単に構造物の厚さとして各位置の輝度により表現したものである。図の中央部分(破線で囲んだ部分)に高輝度の大きな領域があり、他の部分より厚い構造物があることがわかる。この部分が内細胞塊Iに対応すると考えられる。また、その他の領域では輝度ムラは比較的小さいが、局所的には周囲より暗い部分や明るい部分があり、栄養外胚葉Tの厚さにムラがあることが示されている。
【0068】
このように、従来のように二次元像または三次元像で胚の表面を観察しただけではわからず、三次元像をさらに加工(例えば表面の構造物を画像上で消去する等)することで初めて可視化することのできる胚の内部構造を、本実施形態では単一の二次元マップにおける明暗(もしくは濃淡)により表現することが可能となっている。各構造物のより詳細な形状や大きさ等については、三次元像の観察と併用することによりさらに詳しい情報を得ることが可能である。
【0069】
以上のように、この実施形態では、胚をOCT撮像することにより得られる原信号データから、胚を含む三次元空間内の各位置からの信号強度を球座標により表す球座標データが作成される。胚は概ね球形であり、その内部構造も一般的には中心に対し比較的高い回転対称性を有するから、胚の内部に原点を有する球座標により座標位置を指定して信号強度分布を表すことは、胚の構造を定量的に表現するために非常に有益である。
【0070】
OCT撮像では撮像データから胚の三次元像を再構成することが可能であるが、ユーザが胚の内部構造を把握するためには、三次元像を種々の方向から観察する必要があり、また画像処理によって外側の構造物を消去する等の加工が必要となる場合もある。また、単に画像を観察するだけでは構造物のサイズ等の定量的な情報を直ちに知ることは難しい。
【0071】
これに対し、例えば胚の中心付近を原点とする極座標によって信号強度分布を表すようにすれば、その分布プロファイルから、各動径方向における構造物の位置、寸法および密度等の定量的な情報を容易に導出することが可能である。また、その結果から各動径方向における構造物の分布状態を把握することができるので、例えば胚の等方性を評価することも可能となる。
【0072】
このような定量的な情報を可視化して表す方法としては、種々のものが考えられる。例えば1つの動径方向における信号強度分布から1つのスカラー量を導出し、該スカラー量を当該動径方向の信号強度分布を表す指標値として、球座標における2つの偏角を座標軸とする二次元マップ上にマッピングする方法がある。このようにすれば、三次元構造を有する胚における構造物の分布状態を単一のマップとして可視化することが可能となる。
【0073】
このようなマップが画像として表示または出力されることにより、ユーザは胚の状態を容易に把握することができる。このため、本実施形態の画像処理方法は、ユーザによる胚の評価作業を効果的に支援することができるものとなっている。
【0074】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態の画像処理装置1は、試料SpをOCT撮像する機能、および撮像データから出力画像を作成し出力する機能を有するものである。しかしながら、本発明の画像処理方法は、自身は撮像機能を持たず、撮像機能を有する他の装置での撮像により得られた撮像データを取得したコンピュータ装置によって実行することも可能である。
【0075】
これを可能とするために、図5の各処理ステップのうちステップS102ないしS107をコンピュータ装置に実行させるためのソフトウェアプログラムとして、本発明が実施されてもよい。なお、ステップS107の表示出力については、コンピュータ装置とは別体の表示装置によって行われてもよい。この場合、コンピュータ装置は、表示装置に対して表示すべき画像に対応する画像データを出力することになる。
【0076】
このようなプログラムの配布は、例えばインターネット等の電気通信回線を介してダウンロードする形式によって行うことが可能であり、また当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を配布することによっても可能である。また、既存のOCT撮像装置にインターフェースを介してこのプログラムを読み込ませることで、当該装置により本発明を実施することも可能となる。
【0077】
また、上記実施形態で例示した二次元マップは、各動径方向の信号強度分布から求められる指標値として構造物の厚さを採り、これを地図図法のうちサンソン図法を応用してマッピングしたものである。これは、マップに現れる構造物の面積の相対的な大小関係を実物と同じにすることで、構造物の大きさを直感的に把握できるようにすることを志向したものである。しかしながら、指標値およびその表示方法についてはこれに限定されず、例えば構造物の位置や形状をより的確に表したい場合等、目的に応じて適宜の図法によりマップが作成されてよい。
【0078】
また、上記実施形態では各動径方向における構造物の厚さがマップ上の点の輝度によって表されている。したがって例えば図7(b)中央部の明るい領域が内細胞塊Iに対応していると推定することが可能である。これに代えて、例えば以下のような表現方法も考えられる。例えば仮に内細胞塊Iが胚内の他の構造物よりも高い密度を有するとすると、各動径方向の信号強度分布においては、高密度の内細胞塊Iに対応する位置で他の構造物(例えば栄養外胚葉T)に対応する信号よりも高い信号強度が現れると考えられる。このことから、ある閾値(例えば図6(c)に示される閾値Th2)よりも高い信号強度が現れる動径方向に対応するマップ上の点が他の動径方向に対応する点とは異なる色で表示されるようにしてもよい。このようにすれば、マップ上の色によって構造物の密度を、輝度によって厚さを表現することが可能になり、ユーザが胚の構造をより直感的に把握することが可能な表示とすることができる。
【0079】
また例えば、複数種の指標値を組み合わせたマップが作成されてもよく、また互いに異なる指標値を表す複数のマップが1つの画面上に並べて表示されるような出力形態であってもよい。このようにすれば、各種の指標値から総合的に胚の状態を評価する作業を効果的に支援することが可能になる。またOCT撮像により得られる三次元像が併せて表示される態様であってもよい。
【0080】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る画像処理方法においては、球座標の2つの偏角の組で特定される1つの動径方向の各位置からの信号光の強度から求めた指標値の大きさが二次元マップとして表される態様であってもよい。このような構成によれば、胚の中心部から表面までの構造が包括的に1つの指標値で表され、これがマッピングされることで、ユーザが胚の全体構造を把握しやすくなる。このため、三次元像を種々の方向から観察するという作業を省くまたはその手間を軽減することができる。
【0081】
この場合、指標値の相対的な大きさが例えば二次元マップ上の点の明暗または濃淡によって表されてもよい。このような表現方法では、ユーザはマップの各部を詳細に検討しなくても、マップ全体を一見して胚の概略構造を直感的に把握することが可能となる。
【0082】
また例えば、指標値は、1つの動径方向において信号光の強度が連続して所定の閾値を超える領域の長さに対応する値であってもよい。このような構成によれば、1つの動径方向に存在する構造物の厚さを指標値によって表すことができる。また例えば、指標値は、1つの動径方向において信号光の強度が連続して所定の閾値を超える領域における信号光の強度の積分値に対応する値であってもよい。このような構成によれば、1つの動径方向に存在する構造物の量を指標値によって表すことができる。
【0083】
また、球座標の原点については、例えば胚の表面を球面近似し、該近似球の中心を原点とする方法により求めることができる。一般的に培養下の胚は概ね球状の外形を有しているから、胚の表面を球面に近似すれば、該近似球面の中心が胚の中心と概ね一致することになる。この位置を球座標の原点とすることで、胚の各位置の座標を、各種の可視化に適した態様で表すことが可能となる。胚の内部は分裂した細胞で占められる場合もあり、また空洞が生じている場合もある。上記した原点の求め方はいずれの場合にも適用可能である。
【0084】
また例えば、擬円筒図法を用いて二次元マップが作成されてもよい。球状の構造物を二次元の図面として表現する場合、構造物の形状、大きさ等に何らかの歪みが現れることが避けられない。この問題は、球体である地球の表面を平面地図として表示するケースと共通するものである。地図作成の分野ではこの問題に対応して各種の地図図法が考案されており、これらの図法の多くは胚の二次元マップを作成する際にも応用可能なものである。その1つとして擬円筒図法があり、これを用いてマッピングを行うことで、一定の条件、例えば構造物の面積の大小関係を維持したマップ表示が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
この発明は、培養された胚の状態を評価する作業を支援する目的に適用することが可能であり、例えば不妊治療における体外受精、人工授精の成功確率を高めるために利用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 画像処理装置
10 保持部
20 撮像ユニット
21 光源
22 ビームスプリッタ
24 基準ミラー
26 光検出器
30 制御ユニット
33 信号処理部
34 3D復元部
352 表示部
Sp 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7