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特開2019-133914ビス(フルオロスルホニル)イミド塩電解質及びイオン液体システムを有する水系電解質、並びにこの電解質システムを用いた電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-133914(P2019-133914A)
(43)【公開日】2019年8月8日
(54)【発明の名称】ビス(フルオロスルホニル)イミド塩電解質及びイオン液体システムを有する水系電解質、並びにこの電解質システムを用いた電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/36 20100101AFI20190712BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20190712BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190712BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20190712BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20190712BHJP
【FI】
   H01M10/36 A
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/58
   H01M4/485
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-227140(P2018-227140)
(22)【出願日】2018年12月4日
(31)【優先権主張番号】15/831,781
(32)【優先日】2017年12月5日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】武市 憲典
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ルイトン
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL04
5H029AM00
5H029HJ02
5H029HJ10
5H050AA02
5H050AA15
5H050BA08
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB05
5H050EA08
5H050EA24
5H050FA02
5H050HA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来のリチウムイオン電池と同等以上のエネルギー密度を有する、水系電解質を有するリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】リチウム二次電池に適した水系電解質組成物は、水;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI);並びに有機カチオン及びビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)を含むイオン液体;を含み、イオン液体が20℃で液体であり、前記有機カチオンは、アルキル−アンモニウムカチオン、アルキルピペリジニウムカチオン、アルキルピロリジニウムカチオン、アルキルイミダゾリウムカチオン及びアルキルホスホニウムカチオンからなる群より選択される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水;
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI);並びに
有機カチオン及びビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)を含むイオン液体;
を含み、
前記イオン液体が20℃で液体である、
リチウムイオン二次電池のための水系電解質。
【請求項2】
前記イオン液体の前記有機カチオンは、アルキル−アンモニウムカチオン、アルキルピペリジニウムカチオン、アルキルピロリジニウムカチオン、アルキルイミダゾリウムカチオン及びアルキルホスホニウムカチオンからなる群より選択される、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池のための水系電解質。
【請求項3】
前記カチオンは、下記式(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)並びにこれらの混合物からなる群より選択される、請求項2に記載のリチウムイオン二次電池のための水系電解質:
【化1】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、H、又はエーテル状酸素で置換されていてもよい、直線状、分岐状、環状、若しくは脂環式の、1〜18の炭素原子を有する炭化水素基であり、ただし、少なくとも1つのR〜Rは、Hではない。)
【請求項4】
前記リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、水、及び前記イオン液体のモル比が、1モルの前記LiFSIに対して、0.1〜20モルの前記イオン液体及び0.1〜10モルの水であるものである、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池のための水系電解質。
【請求項5】
前記LiFSIの濃度が2M〜20Mである、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池のための水系電解質。
【請求項6】
式(I)のフルオロアルキルスルホニル基を含むアニオンのリチウム塩を更に含み:
【化2】
(式中、Rは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である。)
LiFSI及び前記リチウムフルオロアルキルスルホニル基アニオン塩の合計モル数に対する前記リチウムフルオロアルキルスルホニル基アニオン塩のモル比が、1/2未満である、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池のための水系電解質。
【請求項7】
前記LiFSI及び前記リチウムフルオロアルキルスルホニル基アニオン塩の合計濃度が、2M〜20Mである、請求項6に記載のリチウムイオン二次電池のための水系電解質。
【請求項8】
リチウムイオンの挿入及び脱離が可能なアノード;
リチウムイオンの挿入及び脱離が可能なカソード;並びに
前記アノード及びカソードに接触している水系電解質;
を含み、
前記水系電解質が、
水;
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI);及び
有機カチオン及びビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)を含むイオン液体;
を含み、
前記イオン液体が20℃で液体である、
リチウム二次電池。
【請求項9】
前記イオン液体の前記有機カチオンは、アルキル−アンモニウムカチオン、アルキルピペリジニウムカチオン、アルキルピロリジニウムカチオン、アルキルイミダゾリウムカチオン及びアルキルホスホニウムカチオンからなる群より選択される、請求項8に記載のリチウム二次電池。
【請求項10】
前記カチオンは、下記式(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)並びにこれらの混合物からなる群より選択される、請求項9に記載のリチウム二次電池:
【化3】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、H、又はエーテル状酸素で置換されていてもよい、直線状、分岐状、環状、若しくは脂環式の、1〜18の炭素原子を有する炭化水素基であり、ただし、少なくとも1つのR〜Rは、Hではない。)
【請求項11】
前記リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、水、及び前記イオン液体のモル比が、1モルの前記LiFSIに対して、0.1〜20モルの前記イオン液体及び0.1〜10モルの水であるものである、請求項8に記載のリチウム二次電池。
【請求項12】
前記LiFSIの濃度が2M〜20Mである、請求項8に記載のリチウム二次電池。
【請求項13】
式(I)のフルオロアルキルスルホニル基を含むアニオンのリチウム塩を更に含み:
【化4】
(式中、Rは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である。)
LiFSI及び前記リチウムフルオロアルキルスルホニル基アニオン塩の合計モル数に対する前記リチウムフルオロアルキルスルホニル基アニオン塩のモル比が、1/2未満である、
請求項8に記載のリチウム二次電池。
【請求項14】
前記LiFSI及び前記リチウムフルオロアルキルスルホニル基アニオン塩の合計濃度が、2M〜20Mである、請求項13に記載のリチウム二次電池。
【請求項15】
リチウムイオンの挿入及び脱離が可能な前記カソードは、LiMn、LiCoO、LiFe(PO)、LiMn1/3Ni1/3Co1/3、LiNi0.5Mn1.5及びLiCoPOからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含む、請求項8に記載のリチウム二次電池。
【請求項16】
リチウムイオンの挿入及び脱離が可能な前記アノードは、水に対して安定であり、かつ0.5VvsLi/Liよりも大きい酸化還元電位を有する、請求項8に記載のリチウム二次電池。
【請求項17】
リチウムイオンの挿入及び脱離が可能な前記アノードは、LiTi12、硫黄単体、Mo、Cu、TiS、NbS及びLiテレフタレートからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含む、請求項8に記載のリチウム二次電池。
【請求項18】
請求項8のリチウム二次電池を含む、乗り物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン二次電池を含む高エネルギー電池での使用に適した水系電解質組成物に関し、この水系電解質は、広い電気化学的窓の性能、向上された安全性、及び車両構造における利便性を提供する。
【背景技術】
【0002】
EV、PHV、HV等の電気自動車の急速な開発及び商品化のため、本質的に安全な高エネルギー電池が至急に求められている。現行のLiイオン二次電池は、可燃性の非水電解液を含んでいるため、外部の電池制御回路や内部安全部品を車両に搭載する必要がある。一方、Ni−MH電池のような水系(水性)電解質を使用する電池は、電解質の不燃性のために、より遥かに安全である。しかしながら、水系電解質の限られた電気化学的安定性に起因する低い電圧プロファイルのために、水系電解質を有する電池のエネルギー密度は非常に低い。従来の水系電解質では、水の分解電圧によって決定される電気化学的安定性(電気化学的窓)は、通常2V未満である。
【0003】
したがって、水系電解質の電気化学的安定性が低い電圧プロファイルを有するので、今日までに知られている水系電解質電池は、現在のリチウムイオン電池と競合又は現在のリチウムイオン電池を置換するのに必要なエネルギー密度を提供しない。分解を抑制することによって電気化学的窓を広げる努力の一つは、高濃度の水系電解質組成物を調製することを含んでおり、そのようなシステムは、約3Vほどの幅の電気化学的窓で実施できる。リチウムイオン電池電解質用の一つのシステムでは、組成物が、高濃度のLi塩(21m)を含み、この塩と水分子との間の複合体の形成によって、水を安定化させると考えられる。分子のクラスターを有する自由水(バルク水、規則的な水)の窓は、個々の水分子の窓とは異なるので、高濃度の塩イオンによって配位された水分子は、「個々の水分子」のように振る舞ってより広い電気化学的窓を有することができる。
【0004】
しかしながら、このようなシステムの窓の還元(負)電圧の限界は、約1.8V(vsLi/Li)であり、この還元電圧の値は、アノード材料としての有用性に適した候補を制限する。例えば、現在注目されている一つのアノード材料、リチウムチタン酸化物(LiTi12)(LTO)は、LTOの酸化還元電位が約1.5Vであるため、このような電池システムには適していない。
【0005】
したがって、本発明の1つの目的は、高エネルギー密度を提供するアノード及びカソード材料を有する二次電池において、互換性がありかつ機能的であるために十分に広い電気化学的窓を有する水系電解質組成物を提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、高いエネルギー密度を提供するアノード及びカソード材料を有する二次電池において、互換性がありかつ機能的であるために十分に広い電気化学的窓を有するリチウムイオン二次電池用の水系電解質システムを提供することである。
【0007】
本発明の更なる目的は、従来のリチウムイオン電池と同等以上のエネルギー密度を有する、水系電解質を有するリチウムイオン二次電池を提供することである。
【発明の概要】
【0008】
これら及びその他の目的は本開示によって達成されており、本開示の第1の実施形態は、下記を含むリチウム二次電池のための水系電解質を包含している:水;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI);並びに有機カチオン及びビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)を含むイオン液体。ここで、前記イオン液体が、20℃で液体である。
【0009】
この第1の実施形態の一態様において、前記イオン液体の前記有機カチオンは、アルキル−アンモニウムカチオン、アルキルピペリジニウムカチオン、アルキルピロリジニウムカチオン、アルキルイミダゾリウムカチオン及びアルキルホスホニウムカチオンからなる群より選択される。
【0010】
この第1の実施形態の他の態様において、前記水系電解質は、式(I)のフルオロアルキルスルホニル基を含むアニオンのリチウム塩を更に含み:
【化1】
(式中、Rは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である。)
LiFSI及び前記リチウムフルオロアルキルスルホニル基アニオン塩の合計モル数に対する前記リチウムフルオロアルキルスルホニル基アニオン塩のモル比が、1/2未満である。
【0011】
第2の実施形態において、本開示は、リチウム二次電池を含み、このリチウム二次電池は、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能なアノード;リチウムイオンの挿入及び脱離が可能なカソード;並びに前記アノード及びカソードに接触している水系電解質;を含み、前記水系電解質が、水;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI);及び有機カチオン及びビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)を含むイオン液体;を含み、前記イオン液体が20℃で液体である。
【0012】
この第2の実施形態の一態様において、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能な前記アノードは、水に対して安定であり、かつ0.5VvsLi/Liよりも大きい酸化還元電位を有する。
【0013】
この第2の実施形態の更なる態様において、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能な前記カソードは、LiMn、LiCoO、LiFe(PO)、LiMn1/3Ni1/3Co1/3、LiNi0.5Mn1.5及びLiCoPOからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0014】
第3の実施形態において、第2の実施形態の電池を有する乗り物が提供される。
【0015】
上記の説明は、本開示の一般的な序論及び要約を提供することを意図しており、特に明記しない限り、その開示を限定することを意図するものではない。本発明の好ましい実施形態は、更なる利点と共に、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによって、最もよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例の電解質システムの評価に用いた電池セルの構成を示す図である。
図2図2は、FSI−系電解質とTFSI−系電解質との間の導電率の比較を示す図である。
図3図3は、実施例1の電解質を用いた電池(LMO/LTO)の充放電曲線(第1及び第10サイクル目)を示す図である。
図4図4は、実施例電解質2を用いた電池(LMO/LTO)の充放電曲線(第1及び第10サイクル目)を示す図である。
図5図5は、実施例電解質3を用いた電池(LMO/LTO)の充放電曲線(第1及び第10サイクル目)を示す図である。
図6図6は、実施例電解質4を用いた電池(LMO/LTO)の充放電曲線(第1及び第10サイクル目)を示す図である。
図7図7は、実施例電解質6を用いた電池(LMO/LTO)の充放電曲線(第1及び第10サイクル目)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の説明の範囲内で、著者、共著者又は譲受人組織のメンバーに帰属する全ての引用文献、特許、出願、刊行物及び論文は、参照により本明細書に組み込まれる。数値の限定又は範囲が記載されている場合は、端点が含まれる。また、数値の限定又は範囲内の全ての値及び部分範囲は、明示的に書き出されたものとして具体的に含まれている。本明細書で使用される場合、単語「a」及び「an」等は、「一つ又は複数」の意味を有する。「からなる群より選択される」、「から選択される」等の語句は、特定の材料の混合物を含む。「含む」等の用語は、特記しない限り、「少なくとも含む」を意味するオープンな用語である。%組成の記載がある場合、%値は、特に明記しない限り、重量%である。本明細書で使用される「乗り物」という用語は、自動車、トラックバン、バス、ゴルフカート及び他の実用的な輸送形態を含む輸送用に設計された動力駆動デバイスを指す。
【0018】
リチウムイオン電池の電気化学的窓及び安全性を更に広げるための継続的な研究において、本発明者らは、水系電解質システム及びその電気化学的窓を広げる方法の徹底的な研究を行っている。本発明者らは、2016年8月31日に出願された米国特許出願第15/252,513号において、電解質系の水成分が、濃縮塩に加えて化学成分を含む組成物において強く安定化され得ることを開示した。フルオロアルキルスルホニル基を有する陰イオンのリチウム塩と直鎖又は環状エーテルとを水系組成物に含めることによって、広い電気化学的窓を有するリチウムイオン電池用の高度に安定化された電解質システムが得られることは、明白に記載されている。
【0019】
2017年7月28日に出願された同時係属中の米国特許出願第15/663,262号に記載されているような水系電解質系の継続的な研究において、発明者らは更に、水;式(I)のフルオロアルキルスルホニル基を含むアニオンのリチウム塩:
【化2】
(式中、Rは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である。);
及びプロトン性カチオンと式(I)のフルオロアルキルスルホニル基を含むアニオンとの塩であるイオン液体;を含む水系電解質によって、リチウムイオン電解質システムを大幅に安定化することができ、かつ電気化学的窓を広げることができることを発見した。
【0020】
リチウム二次電池の性能範囲を更に改善及び拡張するための継続の努力において、本発明者らは、驚くべきことにそして予期しないことに、本出願の上述したビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)システムをベースとする水性電解質システムで上記目的が更に達成されることを発見した。図2に示されているように、以下の実施形態によるFSI電解質システムは、前述したシステムよりも著しく高い導電率を示す。さらに、図3〜7に示されているように、以下の実施形態の電解質システムを含むリチウム二次電池は、安定したサイクル性能を維持しながら、2Vを超える高い放電電圧を提供する。
【0021】
したがって、第1の実施形態において、リチウムイオン二次電池のための水系電解質が提供される。この水系電解質は、水;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI);並びに有機カチオン及びビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)を含むイオン液体;を含み、このイオン液体は20℃で液体である。したがって、このイオン液体は、室温イオン液体(RTIL)と記載されてよい。
【0022】
イオン液体の有機カチオンは、アルキル−アンモニウムカチオン、アルキルピペリジニウムカチオン、アルキルピロリジニウムカチオン、アルキルイミダゾリウムカチオン及びアルキルホスホニウムカチオンからなる群より選択されてよい。本実施形態によれば、用語アルキルは、直線状、分岐状、環状、又は脂環式の、1〜18の炭素原子、好ましくは1〜12の炭素原子、及び最も好ましくは1〜6の炭素原子を有する炭化水素基として定義される。当業者は、イオン液体の分子量が構造的に定義された値まで増加すると、イオン化合物は室温(20〜25℃)においてもはや液体ではないことを認識する。複数のアルキル基がカチオン構造中に存在する場合、各々は互いに独立して、またアルキル基は、炭素鎖中においてエーテル状酸素を含んでいてもよい。
【0023】
本実施形態によるカチオン性イオンの例は、特に限定されず、下記式(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)並びにこれらの混合物からなる群より選択されるカチオンを含む:
【化3】
【0024】
基R〜Rは、それぞれ独立して、H、又は上記で定義したアルキル基であってもよく、ただし、少なくとも1つのR〜Rは、アルキル基でなければならない。
【0025】
本実施形態のRTILに適したカチオンの例は、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム(P13)FSI、N−メチル−N−ブチルピロリジニウム(P14)FSI、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム(PP13)FSI、N−メチル−N−ブチルピペリジニウム(PP14)FSI、トリメチルプロピルアンモニウム(N1113)FSI、ジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウム(DEME)FSI及びメチル(トリ−n−ブチル)ホスホニウム(P1444)FSIを含むが、これらに限定されない。
【0026】
第1の実施形態の一態様において、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、水、及びイオン液体のモル比は、1モルのLiFSIに対して、0.1〜20モル、好ましくは0.25〜10モルのイオン液体及び0.1〜10モル、好ましくは0.25〜5モルの水であるものである。これらの範囲は、より広い範囲内の全ての部分範囲比を含む。
【0027】
水系電解質におけるLiFSIのモル含有量は、2M〜20M、好ましくは3M〜15M、及び最も好ましくは4M〜12Mであってよい。
【0028】
第1の実施形態の他の態様において、電解質は、LiFSIと異なるリチウム塩を更に含んでよい。この態様によれば、LiFSIと異なるリチウム塩は、1つ以上の、式(I)のフルオロアルキルスルホニル基を含むアニオンのリチウム塩であってよい:
【化4】
(式中、Rは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である。)
ただし、LiFSIと異なる1つ以上の塩が含まれる場合、この1つ以上の異なる塩の総モル含有量として、LiFSI及びリチウムフルオロアルキルスルホニル基アニオン塩の合計モル数に対するリチウムフルオロアルキルスルホニル基アニオン塩のモル比が、1/2未満であってよい。また、LiFSIと異なる1つ以上の塩が含まれる場合、LiFSI及びリチウムフルオロアルキルスルホニル基アニオン塩の合計濃度は、2M〜20M、好ましくは3M〜15M、及び最も好ましくは4M〜12Mである。
【0029】
適切なリチウム塩の非限定的な例は、リチウムビス(トリフルオロメチル−スルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエチル−スルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムビス(フルオロメチルスルホニル)イミド(LiFSI)、及びリチウムトリフルオロメチルスルホナート(LiTFS)を含む。
【0030】
本発明者らは、本出願に記載された実施形態及び態様による電解質組成物によって水の安定化が著しく向上することを発見した。したがって、より広い電気化学的窓を得ることができ、これは、LTO又は他の従来のLiアノード材料と並んで、リチウムニッケルマンガン酸化物(LiNi0.5Mn1.5、「LNMO」)の利用を可能にする。重要なことに、この第1の実施形態の電解液は、図2に示されているように、良好な流動性及び良好な伝導性を有することができる。
【0031】
第2の実施形態において、水系リチウム二次電池が提供される。この電池は、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能なアノード;リチウムイオンの挿入及び脱離が可能なカソード;並びにアノード及びカソードに接触している水系電解質;を含み、水系電解質は、水;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド;並びに有機カチオン及びビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)を含むイオン液体;を含み、イオン液体は、20℃で液体である。
【0032】
第2の実施形態によるイオン液体の有機カチオンは、アルキル−アンモニウムカチオン、アルキルピペリジニウムカチオン、アルキルピロリジニウムカチオン、アルキルイミダゾリウムカチオン及びアルキルホスホニウムカチオンからなる群より選択される。「アルキル」基に関する先の議論は、この実施形態に組み込まれる。
【0033】
本実施形態によるカチオン性イオンの例は、特に限定されず、下記式(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)並びにこれらの混合物からなる群より選択されるカチオンを含む:
【化5】
【0034】
基R〜Rは、それぞれ独立して、H、又は上記で定義したアルキル基であってもよく、ただし、少なくとも1つのR〜Rは、アルキル基でなければならない。
【0035】
リチウム二次電池のRTILに適したカチオンの例は、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム(P13)FSI、N−メチル−N−ブチルピロリジニウム(P14)FSI、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム(PP13)FSI、N−メチル−N−ブチルピペリジニウム(PP14)FSI、トリメチルプロピルアンモニウム(N1113)FSI、ジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウム(DEME)FSI及びメチル(トリ−n−ブチル)ホスホニウム(P1444)FSIを含むが、これらに限定されない。
【0036】
第2の実施形態の一態様において、二次電池における、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、水、及びイオン液体のモル比は、1モルのLiFSIに対して、0.1〜20モル、好ましくは0.25〜10モルのイオン液体及び0.1〜10モル、好ましくは0.25〜5モルの水であるものである。これらの範囲は、より広い範囲内の全ての部分範囲比を含む。
【0037】
水系電解質におけるLiFSIのモル含有量は、2M〜20M、好ましくは3M〜15M、及び最も好ましくは4M〜12Mであってよい。
【0038】
第2の実施形態の他の態様において、電解質は、LiFSIと異なるリチウム塩を更に含んでよい。この態様によれば、LiFSIと異なるリチウム塩は、1つ以上の、式(I)のフルオロアルキルスルホニル基を含むアニオンのリチウム塩であってよい:
【化6】
(式中、Rは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である。)
ただし、LiFSIと異なる1つ以上の塩が含まれる場合、この1つ以上の異なる塩の総モル含有量として、LiFSI及びリチウムフルオロアルキルスルホニル基アニオン塩の合計モル数に対するリチウムフルオロアルキルスルホニル基アニオン塩のモル比が、1/2未満であってよい。また、LiFSIと異なる1つ以上の塩が含まれる場合、LiFSI及びリチウムフルオロアルキルスルホニル基アニオン塩の合計濃度は、2M〜20M、好ましくは3M〜15M、及び最も好ましくは4M〜12Mである。
【0039】
適切なリチウム塩の非限定的な例は、リチウムビス(トリフルオロメチル−スルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエチル−スルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムビス(フルオロメチルスルホニル)イミド(LiFSI)、及びリチウムトリフルオロメチルスルホナート(LiTFS)を含む。
【0040】
水系リチウムイオン電池(ARLB)は、水に安定かつ適合した電極を含まなければならない。一般的に、電気化学的条件下で、水に曝されても安定なLiイオンの挿入及び脱離が可能な任意の材料を使用することができる。
【0041】
水系電解質に適合し、かつ5.5VvsLi/Liよりも小さい酸化還元電位を有するカソード材料は、LiMn、LiCoO、LiFe(PO)、LiMn1/3Ni1/3Co1/3、LiNi0.5Mn1.5及びLiCoPOを含むが、これらに限定されない。任意のこれらの多孔質形態を製造されてもよく、ナノ粒子構造は、活性カソード材料として特に有用であり得る。
【0042】
カソードは、少なくとも一つの上記の材料にかかる粒子と、少なくとも一つのバインダー及び水系電解質システムのカソード構造体を製造するための従来に使用されてきた他の材料とを混合することによって製造してよい。これらの材料は、スラリーとして混合させ、金属箔上に塗布し、乾燥させてよい。活物質を用いたカソードの製造方法は従来から知られており、本開示の粒子に適合するいずれの方法を用いてもよい。
【0043】
電池の使用の電位窓において化学的安定で、当業者に公知の適切なバインダーは、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含んでよい。例えば、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロエチレンコポリマー、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレンコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー(PFA)(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)及びエチレン−アクリル酸共重合体。これらのバインダーは、単独で使用してもよく、混合物として使用してもよい。
【0044】
これらの成分は、適切な溶媒の存在下で湿式混合されてもよく、又は乳鉢若しくは他の従来公知の混合装置を用いてドライブレンドされてもよい。そして、この混合物を、従来公知の方法により、集電体に塗布してよい。任意の適切な電荷集電体を使用してよい。好ましい電荷集電体は、炭素、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム及び銅のいずれかであってよい。
【0045】
このようにして製造されたカソードは、従来公知の水系リチウムイオン電池の構成に用いることができる。
【0046】
アノードに関しては、水系電解質に適合し、かつ適切な酸化還元電位(0.5VvsLi/Liよりも大きい)を有する、Liイオン電池における実用に適した任意の種類の材料を使用してよい。適切な例は、LiTi12、硫黄単体、Mo、Cu、TiS、NbS及びLiテレフタレートを含むが、これらに限定されない。任意のこれらの多孔質形態を製造されてもよく、ナノ粒子構造は特に有用であり得る。
【0047】
アノードは、少なくとも一つの上記材料にかかる粒子と、少なくとも一つのバインダー及び水系電解質システムのアノード構造体を製造するための従来に使用されてきた他の材料とを混合することによって製造してよい。これらの材料は、スラリーとして混合させ、金属箔上に塗布し、乾燥させてよい。活物質を用いたアノードの製造方法は従来から知られており、本開示の粒子に適合するいずれの方法を用いてもよい。
【0048】
電池の使用の電位窓において化学的安定で、当業者に公知の適切なバインダーは、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含んでよい。例えば、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロエチレンコポリマー、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレンコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー(PFA)(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)及びエチレン−アクリル酸共重合体。これらのバインダーは、単独で使用してもよく、混合物として使用してもよい。
【0049】
これらの成分は、適切な溶媒の存在下で湿式混合されてもよく、又は乳鉢若しくは他の従来公知の混合装置を用いてドライブレンドされてもよい。そして、この混合物を、従来公知の方法により、集電体に塗布してよい。任意の適切な電荷集電体を使用してよい。好ましい電荷集電体は、炭素、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム及び銅のいずれかであってよい。
【0050】
電池は更に、アノードとカソードとの間にセパレータを含み、水系電解質に適合する任意のタイプの従来知られているセパレータを使用してよい。
【0051】
電池は、容器内に封入されていてもよく、従来公知のように複数のユニットを組み合わせて電池を形成してもよい。
【0052】
図1に示す実施形態に係る電池の製造及び充放電性能評価は、以下の実施例1〜6に記載されている。実施例1〜4及び6の充放電曲線は図3〜7に示されており、示されたサイクルで電池が安定し、かつ良好な容量を有することが示されている。
【0053】
更なる実施形態において、本開示は、本開示にかかる電池を含む乗り物を含み、乗り物は、自動車、トラックバン、バス、ゴルフカート及び他の実用形態の輸送手段を含む。
【0054】
本開示を一般的に記載したので、説明のみの目的のために本明細書に提供される特定の具体例を参照することによって、更なる理解を得ることができ、特に断らない限り、限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0055】
図1に概略的に示された2032型のコインセル電池は、LiMn(LMO)及び導電性炭素と共にPVdFバインダーが含まれる活物質層を有するカソードを用いて準備した。アノードは、LiTi12及び導電性炭素と共にPVdFバインダーを用いて準備した。ガラスファイバーセパレータから構成されるセパレータをアノードとカソードとの間に配置した。各実施例の電解質組成物を以下の表に示す。電池の充放電性能を評価するために、電池を最初に1.0mA/cmで3.2Vのカットオフまで充電した。そして、電池を1.0mA/cmで1.5Vのカットオフまで放電させた。評価温度は、25℃であった。
【0056】
【表1】
【0057】
LiFSI−リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド
LiTFSI−リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド
DEME−FSI−ジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド
DEME−TFSI−ジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド
P13−FSI−N−メチル−N−プロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド
P13−TFSI−N−メチル−N−プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド
【0058】
図2は、FSI−系電解質とTFSI−系電解質との間の導電率の比較を示す。この図は、同じ「塩/イオン液体/水」比の組成において、請求項1のFSI−系電解質の導電率がTFSI−系電解質の導電率よりも著しく高いという明確的な証拠を示す。
【0059】
実施例電解質1〜4及び6を用いた電池(LMO/LTO)の充放電曲線(第1回目(1st)及び第10回目(10th)のサイクル)は、図3〜7に示されている。これらの図は、請求項8による電池が安定したサイクルで2Vを超える高い放電電圧を達成できたという明確な証拠を示す。
【0060】
上述した説明は、当業者が本発明を製作及び使用することを可能にするために提示され、また、特定の用途及びその要件の文脈で提供される。好ましい実施形態に対する様々な変更は当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義された一般的な原理は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく他の実施形態及び用途に適用され得る。よって、本発明は、示されている実施形態に限定されることを意図するものではなく、本明細書に開示されている原理及び特徴と矛盾しない最も広い範囲を与えられるべきである。これに関して、本発明の範囲内の特定の実施形態は、広く考えられている本発明の全ての利益を示されていない可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【外国語明細書】
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