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特開2019-133936鉛蓄電池用正極及びそれを用いた鉛蓄電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-133936(P2019-133936A)
(43)【公開日】2019年8月8日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用正極及びそれを用いた鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/14 20060101AFI20190712BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20190712BHJP
【FI】
   H01M4/14 Q
   H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-15956(P2019-15956)
(22)【出願日】2019年1月31日
(31)【優先権主張番号】特願2018-15038(P2018-15038)
(32)【優先日】2018年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八尾 健
(72)【発明者】
【氏名】岡野 寛
(72)【発明者】
【氏名】大久保 太智
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 かれん
(72)【発明者】
【氏名】井上 崇
(72)【発明者】
【氏名】大國 友行
(72)【発明者】
【氏名】細川 敏弘
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA01
5H017AS10
5H017DD05
5H017DD06
5H017EE06
5H017EE07
5H017HH01
5H050AA04
5H050AA14
5H050BA09
5H050CA06
5H050CB15
5H050DA02
5H050DA04
5H050DA09
5H050EA08
5H050EA23
5H050FA18
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】十分に放電し長期間停止した後でも再度充電することができ、且つ、正極集電体と正極活物質との接着性に優れるため耐久性が高い鉛蓄電池用正極を提供する。
【解決手段】正極集電体、炭素含有層及び正極活物質層がこの順で配置されており、前記炭素含有層は、導電性炭素材料及び高分子化合物を含有し、前記正極活物質層は、二酸化鉛を含有する、鉛蓄電池用正極。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体、炭素含有層及び正極活物質層がこの順で配置されており、
前記炭素含有層は、導電性炭素材料及び高分子化合物を含有し、
前記正極活物質層は、二酸化鉛を含有する、鉛蓄電池用正極。
【請求項2】
前記導電性炭素材料は、黒鉛及びカーボンブラックを含有する、請求項1に記載の鉛蓄電池用正極。
【請求項3】
前記炭素含有層は、総量を100質量%として、カーボンブラックを5〜20質量%含有する、請求項1又は2に記載の鉛蓄電池用正極。
【請求項4】
前記炭素含有層は、総量を100質量%として、黒鉛を40〜75質量%含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用正極。
【請求項5】
前記炭素含有層は、総量を100質量%として、高分子化合物を10〜40質量%含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用正極。
【請求項6】
前記高分子化合物がゴム系樹脂である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用正極。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用正極を備える鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用正極及びそれを用いた鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、安定した品質と経済性を有し、主に自動車用バッテリーとして用いられ、日本での二次電池生産額の三割近くを占めている。特に、昨今実用化が進められているハイブリッドカー及びアイドリングストップ車には、高性能の鉛蓄電池が不可欠であり、鉛蓄電池の需要は急激に増大している。また、近年、電力貯蔵用のための研究が活発になっている。鉛蓄電池は、開発されてから現在まで長い歴史があるが、未だ電池内部の反応に関して不明な点が残っている。
【0003】
鉛蓄電池は放電し過ぎると、その後の充電が困難になるため、完全に放電する前に充電する必要がある。このため、現時点では、鉛蓄電池は理論容量のわずか10%以下程度しか有効に利用できていない。
【0004】
上記のような鉛蓄電池は、正極としては、通常、正極集電体としての鉛の上に、正極活物質として酸化鉛の層が形成されており、充放電の際の反応式は以下のように表される。
【0005】
正極:PbO2+ 4H+ + SO42- + 2e ⇔ PbSO4 + 2H2O 負極:Pb + SO42- ⇔ PbSO4 + 2e
正極活物質として使用されているPbO2は、α型PbO2とβ型PbO2とが存在し、pHの低い領域(酸性領域)においてはβ型PbO2として存在し、pHの高い領域(アルカリ性領域)においてはα型PbO2として存在することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。鉛蓄電池の電解液としては、通常硫酸水溶液を使用するため、pHが低い状態で充放電が行われることからβ型PbO2が存在することが期待されるが、実際には、α型PbO2とβ型PbO2とが混在することが知られている。しかしながら、α型PbO2とβ型PbO2とが混在することと、理論容量を十分に有効活用できないこととの関係は未だ不明である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】電池便覧第3版、電池便覧編集委員会編、p. 170、丸善(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、鉛蓄電池においては、理論容量を十分に有効活用できているとは言い難いため、十分に放電した後にも充電することができれば、有効活用できる容量を増大させることが期待される。また、鉛蓄電池を繰り返し充放電することを考慮した場合には、正極集電体と正極活物質との接着性にも優れた構造を採用することが求められる。このような観点から、本発明は、十分に放電し長期間停止した後でも再度充電することができ、且つ、正極集電体と正極活物質との接着性に優れるため耐久性が高い鉛蓄電池用正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を積み重ねた結果、鉛蓄電池の開回路時(不使用時)において、正極活物質であるPbO2(特にβ型PbO2)と、正極集電体である鉛との間で局部電池反応が起こることを見出した。具体的には、β型PbO2が正極、鉛が負極となり、電池反応が起こることによってα型PbO2が生成し、鉛蓄電池の性能に悪影響を及ぼすことを見出した。本発明者らは、正極集電体と正極活物質層との間に、正極集電体とは異なる層として、導電性炭素材料及び高分子化合物を含有する炭素含有層を介在させることで、開回路時の局部電池反応が抑制されるため、十分に放電し長期間停止した後でも再度充電することができ、また、正極集電体と正極活物質との接着性にも優れるため耐久性が高いことを見出した。本発明者らは、さらに研究を重ね、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.正極集電体、炭素含有層及び正極活物質層がこの順で配置されており、
前記炭素含有層は、導電性炭素材料及び高分子化合物を含有し、
前記正極活物質層は、二酸化鉛を含有する、鉛蓄電池用正極。
項2.前記導電性炭素材料は、黒鉛及びカーボンブラックを含有する、項1に記載の鉛蓄電池用正極。
項3.前記炭素含有層は、総量を100質量%として、カーボンブラックを5〜20質量%含有する、項1又は2に記載の鉛蓄電池用正極。
項4.前記炭素含有層は、総量を100質量%として、黒鉛を40〜75質量%含有する、項1〜3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用正極。
項5.前記炭素含有層は、総量を100質量%として、高分子化合物を10〜40質量%含有する、項1〜4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用正極。
項6.前記高分子化合物がゴム系樹脂である、項1〜5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用正極。
項7.項1〜6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用正極を備える鉛蓄電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、正極集電体と正極活物質層との間に、正極集電体とは異なる層として、導電性炭素材料及び高分子化合物を含有する炭素含有層を介在させることで、開回路時の局部電池反応が抑制されるため、十分に放電し長期間停止した後でも再度充電することができ、また、正極集電体と正極活物質との接着性にも優れるため耐久性が高い。このような構成を採用しているため、正極活物質層の正極集電体として通常使用される鉛を使用しながら十分に放電し長期間停止した後でも再度充電することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】評価試験用セルの概略断面図である。
図2】比較例1の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電し開回路で静置した場合における充放電試験の結果である。
図3】実施例1の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電し開回路で静置した場合における充放電試験の結果である。
図4】実施例1の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電し開回路で静置した場合における充放電試験の結果(図3における65〜72時間の部分の拡大図)である。
図5】実施例2の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電し開回路で静置した場合における充放電試験の結果である。
図6】実施例2の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電し開回路で静置した場合における充放電試験の結果(図5における63〜67時間の部分の拡大図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.鉛蓄電池用正極
本発明の鉛蓄電池用正極は、正極集電体、炭素含有層及び正極活物質層がこの順で配置されており、前記炭素含有層は、導電性炭素材料及び高分子化合物を含有し、前記正極活物質層は、二酸化鉛を含有する。
【0012】
(1−1)正極集電体
正極集電体としては、特に制限はなく、種々様々なものを使用することができる。ただし、鉛蓄電池の電解液である硫酸に対して不活性な材料を用いることが好ましい。具体的には、鉛、金、パラジウム、白金等を使用することができる。硫酸に対する耐食性を考慮し、鉛と、スズ、銀等の少なくとも1種との合金を採用することもできる。また、カーボンシートを正極集電体として使用することも可能である。
【0013】
このような正極集電体の厚みは、後述する正極活物質層の支持体として機能させる観点から、0.1〜1.5mmが好ましく、0.2〜1.0mmがより好ましい。
【0014】
上記した正極集電体は、単独で使用することもできるし、他の基材の上に積層させることもできる。特に、正極集電体の厚みが上記した範囲より薄い場合であっても、他の基材の上に積層させて使用することも可能である。例えば、正極集電体の厚みが薄く(1μm〜0.1mm程度)単独で後述する正極活物質層の支持体として自立しにくいような場合には、他の基材の上に積層させることが好ましい。このような他の基材としては、例えば、アルミナ等のセラミックス;ポリエーテルサルフォン樹脂等のポリマー等が挙げられる。このような他の基材の厚みは、0.1mm〜10mm程度が好ましい。
【0015】
(1−2)炭素含有層
本発明において、炭素含有層は、導電性炭素材料及び高分子化合物を含有する。
【0016】
導電性炭素材料は、電解液である硫酸に対して不活性な物質であり、また、上記した正極集電体や、後述する正極活物質である二酸化鉛との間での局部電池反応も起らない。このため、炭素含有層中に導電性炭素材料を含ませることにより、開回路時の局部電池反応を抑制することができ、十分に放電し長期間停止した後でも再度充電することができる。このような導電性炭素材料としては、特に制限はなく、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック;天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛(膨張黒鉛シート、等方性黒鉛等);活性炭;アモルファスカーボン等を好ましく採用できる。これらの導電性炭素材料は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。なかでも、黒鉛(特に燐片状黒鉛)とカーボンブラックとを併用して使用した場合には、黒鉛同士の間に微小なカーボンブラック粒子が位置することで、導電経路を三次元的に無数に形成することができ、特に導電性を向上させることが可能である。
【0017】
導電性炭素材料の含有量は特に制限されない。開回路時の局部電池反応をより抑制しつつ導電性をより向上させる観点から、炭素含有層の総量を100質量%とした時の導電性炭素材料の含有量は、45〜90質量%が好ましく、50〜85質量%がより好ましい。導電性炭素材料を複数含有させる場合は、その合計量が上記範囲内になるように調整することが好ましい。なお、導電性炭素材料としてカーボンブラックを含有する場合、開回路時の局部電池反応をより抑制しつつ導電性をより向上させる観点から、その含有量は、炭素含有層の総量を100質量%として、5〜20質量%が好ましく、7〜15質量%がより好ましい。また、導電性炭素材料として黒鉛を含有する場合、開回路時の局部電池反応をより抑制しつつ導電性をより向上させる観点から、その含有量は、炭素含有層の総量を100質量%として、40〜75質量%が好ましく、45〜70質量%がより好ましい。
【0018】
高分子化合物としては、特に制限されないが、正極活物質であるPbO2や電解液である硫酸に対して不活性な高分子化合物を使用することが好ましい。高分子化合物は、元来バインダーとして機能し、正極集電体と正極活物質層との間の接着性を向上させることを目的として含ませるが、正極活物質であるPbO2や電解液である硫酸に対して不活性な高分子化合物を使用することで、硫酸非湿潤性でPbO2に不活性な炭素含有層となり、鉛蓄電池の劣化をさらに抑制することも可能である。このような高分子化合物としては、例えば、ゴム系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF樹脂)、ポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE樹脂)、ポリエーテルサルフォン樹脂(PES樹脂)、導電性高分子(特に導電性有機高分子)等が挙げられる。ゴム系樹脂としてはジエン系ゴムであるスチレンブタジエン樹脂、非ジエン系ゴムであるエチレンプロピレンジエン樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられ、導電性高分子としては特に制限はなく、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチアジル等を好ましく採用することができる。これらの物質は、1種単独で用いることもでき、2種以上組合せて用いることもできる。なかでも、正極集電体と正極活物質(PbO2)との間の接着性をさらに向上させることができる観点から、ゴム系樹脂等が好ましく、ゴム系樹脂であるスチレンブタジエン樹脂及びエチレンプロピレンジエン樹脂がより好ましい。スチレンブタジエン樹脂、エチレンプロピレンジエン樹脂等は、ゴム弾性を有するため正極集電体と正極活物質(PbO2)との間の接着性を特に向上させることができる。また、炭素含有層全体に導電性炭素材料が均一に分散しやすい。このため、液体(特に電解質である硫酸)の侵入を抑止する効果をより高め、鉛蓄電池の劣化をより抑制し、深く充放電した際の電位幅をより大きくすることもでき、開回路で静置した後の充放電もより良好に行うことができる。さらに導電性炭素材料が均一に分散しやすいために炭素含有層内での高い導電性を確保できる。
【0019】
高分子化合物の含有量は特に制限されない。正極集電体と正極活物質層との間の接着性をより向上させる観点から、その含有量は、炭素含有層の総量を100質量%として、10〜40質量%が好ましく、15〜35質量%がより好ましい。高分子化合物を複数含有させる場合は、その合計量が上記範囲内になるように調整することが好ましい。
【0020】
このような炭素含有層の厚みは、特に制限されず、局部電池反応による正極の劣化をより抑制して耐久性と容量をより向上させつつ、正極集電体と正極活物質(PbO2)との間の接着性をより向上させる観点から、5nm〜10mmが好ましく、10nm〜1mmがより好ましい。
【0021】
炭素含有層を形成する方法は特に制限されない。例えば、塗布法等を採用することができる。塗布法を採用する場合は、例えば、アプリケーターロール等のローラーコーティング;スクリーンコーティング;ドクターブレード方式;スピンコーティング;バーコータ等の手段を用いて塗布することができる。具体的には、導電性炭素材料、高分子化合物及び有機溶媒を含有する塗料を、例えば正極集電体の上に塗布し、常法で乾燥させることにより得ることができる。この際使用できる有機溶媒は特に制限されず、一般的な有機溶媒を幅広く使用することができる。なお、高分子化合物としてゴム系樹脂を使用する場合には溶解性の観点からキシレン、トルエン等が好ましく、キシレンがより好ましい。
【0022】
(1−3)正極活物質層
本発明の鉛蓄電池用正極は、前記炭素含有層の上に、二酸化鉛を含有する正極活物質層が形成されている。上記したように、炭素含有層中に含まれる炭素質材料は、前記正極活物質層との間の局部電池反応(特に開回路時の局部電池反応)を抑制することができるため、開回路時に局部電池反応によりα型PbO2が生成することを抑制することができ、十分に放電し長期間停止した(開回路とした)後でも再度充放電することができる。また、炭素含有層中に含まれる高分子化合物の作用により、正極集電体と正極活物質層との間の接着性を向上させることもできる。
【0023】
本発明の鉛蓄電池において、正極活物質層中に含まれる正極活物質は、従来から使用されている二酸化鉛(PbO2)を採用することが好ましい。正極活物質層中の正極活物質の含有量は特に制限されず、従来から、鉛蓄電池の正極に適用される程度とすることができ、正極活物質層の総量を100質量%として、50〜95質量%が好ましく、70〜90質量%がより好ましい。
【0024】
本発明において、正極活物質層には、導電助剤を含ませることもできる。導電助剤としては、電子伝導性材料であり、且つ、局部電池反応が起こりにくい材料(二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質)を採用することが好ましい。具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(等方性黒鉛等);カーボンブラック;アセチレンブラック;ケッチェンブラック;カーボンウイスカー;炭素繊維;気相成長炭素等の導電性材料を1種又はそれらの混合物として含ませることができる。正極活物質層中の導電助剤の含有量は特に制限されず、従来から、鉛蓄電池の正極に適用される程度とすることができ、正極活物質層の総量を100質量%として、5〜35質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましい。
【0025】
他にも、正極活物質層には、上記成分の他に、結着剤、増粘剤等を含ませることもできる。
【0026】
結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂;エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0027】
増粘剤としては、通常、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等の多糖類等を1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0028】
正極活物質層中の結着剤及び増粘剤の含有量は特に制限されず、従来から、鉛蓄電池の正極に適用される程度とすることができ、正極活物質層の総量を100質量%として、結着剤及び増粘剤の合計量として2〜15質量%が好ましく、3〜10質量%がより好ましい。
【0029】
これら各成分の混合方法は、物理的な混合であり、均一混合が好ましい。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミル等のような粉体混合機を乾式又は湿式で使用することが可能である。
【0030】
本発明において、正極活物質層を形成する方法は特に制限されない。例えば、正極活物質等の各種成分を水に混合させて、正極活物質層形成用ペースト組成物を作製し、その後、該ペースト組成物を炭素含有層に含浸又は塗布し、乾燥する方法等が挙げられる。
【0031】
塗布方法については、例えば、アプリケーターロール等のローラーコーティング;スクリーンコーティング;ドクターブレード方式;スピンコーティング;バーコータ等の手段を用いて塗布することができる。また、乾燥条件も特に制限はなく、通常鉛蓄電池において採用されている範囲で採用することができる。
【0032】
2.鉛蓄電池
本発明の鉛蓄電池は、本発明の鉛蓄電池用正極を備える。
【0033】
正極以外の部材としては、鉛蓄電池用負極、鉛蓄電池用電解液、鉛蓄電池用セパレータ等が挙げられる。これらは、適宜製造したものでもよく、市販品でもよく、公知の鉛蓄電池における部材、材料を採用できる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
正極集電体である鉛((株)ニラコ製の鉛99.9%)は、プレート状で厚さ0.3mmに仕上げ準備した。
【0036】
炭素含有層を形成するための原料として、キシレン81質量%、(燐片状)天然黒鉛9〜13質量%、ゴム系樹脂(スチレンブタジエン樹脂)5〜8質量%、カーボンブラック2.09質量%を含む導電性塗料を使用した。この導電性塗料を正極集電体である鉛上に、乾燥後の厚みが0.05mmとなるように塗布した。
【0037】
活物質は二酸化鉛とし、二酸化鉛、カーボンブラック及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を混合した。具体的には、β型PbO2(Johnson Matthey製の二酸化鉛)に、カーボンブラック及びPTFEを、β型PbO2: カーボンブラック: PTFEが80: 15: 5(質量%)の割合でそれぞれ加え、よく混合し、正極活物質層形成用ペースト組成物を作製した。この正極活物質層形成用ペースト組成物を炭素含有層上に、炭素含有層を形成するための原料に含まれる溶媒が蒸発する前に、正極活物質層の厚みが0.15mmとなるように塗布した。その後、炭素含有層を形成するための原料に含まれる溶媒を乾燥させて除去することで正極活物質層を炭素含有層上に形成した。このようにして、実施例1の鉛蓄電池用正極を得た。なお、炭素含有層の組成は表1の通りである。
【0038】
このようにして得た実施例1の鉛蓄電池用正極の炭素含有層では燐片状黒鉛がきれいに配向するため、導電性が向上し、且つ、深く放電後に開回路で静置した後にも再度充放電できる。
【0039】
実施例2
炭素含有層を形成するための原料として、キシレン81質量%、(燐片状)天然黒鉛9〜13質量%、ゴム系樹脂(スチレンブタジエン樹脂)3質量%、カーボンブラック2.09質量%を含む導電性塗料を使用したこと、およびこの導電性塗料を正極集電体である鉛上に、乾燥後の厚みが0.01mmとなるように塗布した以外は実施例1と同様にして実施例2の鉛蓄電池用正極を得た。なお、炭素含有層の組成は表1の通りである。
【0040】
このようにして得た実施例2の鉛蓄電池用正極の炭素含有層では燐片状黒鉛がきれいに配向するため、導電性が向上し、且つ、深く放電後に開回路で静置した後にも再度充放電できる。
【0041】
比較例1
炭素含有層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様に、比較例1の鉛蓄電池用正極を得た。
【0042】
【表1】
【0043】
製造例1:評価試験用セル
以下の評価試験用セルとしては、二極式ガラスセルを採用した。正極としては上記した実施例1又は2の正極をそれぞれ用い、負極としては鉛プレート((株)ニラコ製の鉛99.9%;厚み0.3mm)を用い、電解液としては35質量%硫酸水溶液を用い、図1に示すセルを作製した。
【0044】
試験例2:充放電試験
実施例1、実施例2及び比較例1の正極を用いた評価試験用セルについて、以下の条件で充放電を行った。なお、充放電試験には、北斗電工(株)製の充放電装置(HJ1001SD8)を用いた。
【0045】
比較例1の正極を用いた充放電試験には、まず、電池反応を安定化させるため、9mA/gで放電30分間及び18mA/gで充電20分間を1サイクルとして約12時間(14サイクル)充放電を繰り返し、次いで、最終サイクルの放電が終わった後2時間はそのまま静置し、次いで0Vまで9mA/gで深く放電した。次に、上記のように深く放電した後に、開回路の状態で48時間静置した後に、18mA/gで1時間充電し、再度充放電が可能かどうか評価した。充放電曲線を図2に示す。最後に電位が急激に上昇しているのは、充電が出来なかったことを示している。この結果、比較例1の正極を用いた場合には、α型PbO2が生成されているからか、深く放電し開回路で静置した後には再度充放電を行うことはできなかった。
【0046】
一方、実施例1の正極を用いたこと以外は上記図2の試験と同様に試験を行った(0Vまで深く放電し開回路で48時間静置した後に充放電)場合の充放電試験を図3〜4に示す。図4は、0Vまで深く放電し開回路で48時間静置した後に充放電を行う際(65〜72時間後)における再充放電チャートの詳細を示す。この結果、実施例1の正極を用いた場合には、深く放電し開回路で静置した後にも、1サイクルあたり約5時間の充放電サイクルで再度充放電を行うことが可能であった。また、試験後の実施例1の正極を目視で確認したところ、正極集電体と正極活物質との間の剥離は確認できないことから、接着性に優れ、耐久性も高いことが理解できる。
【0047】
次に実施例2の正極を用いたこと以外は上記図2の試験と同様に試験を行った(0Vまで深く放電し開回路で48時間静置した後に充放電)場合の充放電試験を図5〜6に示す。図6は、0Vまで深く放電し開回路で48時間静置した後に充放電を行う際(63〜67時間後)における再充放電チャートの詳細を示す。この結果、実施例2の正極を用いた場合には、深く放電し開回路で静置した後にも、1サイクルあたり約3時間の充放電サイクルで再度充放電を行うことが可能であった。また、試験後の実施例2の正極を目視で確認したところ、正極集電体と正極活物質との間の剥離は確認できないことから、接着性に優れ、耐久性も高いことが理解できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6