【解決手段】反応処理装置30は、流路12が形成された反応処理容器10と、送液システム37と、流路12に高温領域と低温領域を提供する温度制御システム32と、流路12の蛍光検出領域を通過する試料20を検出する蛍光検出器50と、検出された信号に基づいて送液システム37を制御するCPU36とを備える。第n+1サイクルにおける低温領域での試料の目標停止位置X
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る反応処理装置について説明する。この反応処理装置は、PCRを行うための装置である。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0018】
図1(a)および
図1(b)は、本発明の実施形態に係る反応処理装置で使用可能な反応処理容器10を説明するための図である。
図1(a)は、反応処理容器10の平面図であり、
図1(b)は、反応処理容器10の正面図である。
【0019】
図1(a)および
図1(b)に示すように、反応処理容器10は、基板14と、流路封止フィルム16とから成る。
【0020】
基板14は、温度変化に対して安定で、使用される試料溶液に対して侵されにくい材質から形成されることが好ましい。さらに、基板14は、成形性がよく、透明性やバリア性が良好で、且つ、低い自己蛍光性を有する材質から形成されることが好ましい。このような材質としては、ガラス、シリコン(Si)等の無機材料をはじめ、アクリル、ポリエステル、シリコーンなどの樹脂、中でもシクロオレフィンが好適である。基板14の寸法の一例は、長辺75mm、短辺25mm、厚み4mmである。
【0021】
基板14の下面14aには溝状の流路12が形成されており、この流路12は、流路封止フィルム16により封止されている。基板14の下面14aに形成される流路12の寸法の一例は、幅0.7mm、深さ0.7mmである。基板14における流路12の一端の位置には、外部と連通する第1連通口17が形成されている。基板14における流路12の他端の位置には、第2連通口18が形成されている。流路12の両端に形成された一対の第1連通口17および第2連通口18は、基板14の上面14bに露出するように形成されている。このような基板は射出成形やNC加工機などによる切削加工によって作製することができる。
【0022】
図1(b)に示すように、基板14の下面14a上には、流路封止フィルム16が貼られている。実施形態に係る反応処理容器10において、流路12の大部分は基板14の下面14aに露出した溝状に形成されている。金型等を用いた射出成形により容易に成形できるようにするためである。この溝を封止して流路として活用するために、基板14の下面14a上に流路封止フィルム16が貼られる。
【0023】
流路封止フィルム16は、一方の主面が粘着性や接着性を備えていてもよいし、押圧や紫外線などのエネルギー照射、加熱等により粘着性や接着性を発揮する機能層が一方の主面に形成されていてもよく、容易に基板14の下面14aと密着して一体化できる機能を備える。流路封止フィルム16は、粘着剤も含めて低い自己蛍光性を有する材質から形成されることが望ましい。この点でシクロオレフィン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また、流路封止フィルム16は、板状のガラスや樹脂から形成されてもよい。この場合はリジッド性が期待できることから、反応処理容器10の反りや変形防止に役立つ。
【0024】
流路12は、後述する反応処理装置により複数水準の温度の制御が可能な反応領域を備える。複数水準の温度が維持された反応領域を連続的に往復するように試料を移動させることにより、試料にサーマルサイクルを与えることができる。
【0025】
図1(a)および
図1(b)に示す流路12の反応領域は、曲線部と直線部とを組み合わせた連続的に折り返す蛇行状の流路を含んでいる。後述の反応処理装置に反応処理容器10が搭載された際に、流路12の紙面右側が比較的高温(約95℃)の反応領域(以下、「高温領域」と称する)となり、流路12の左側がそれより低温(約55℃)の領域(以下、「低温領域」と称する)となることが予定されている。また流路12の反応領域は、高温領域と低温領域の間に両者を接続する接続領域を含む。この接続領域は、直線状の流路であってよい。
【0026】
本実施形態のように高温領域および低温領域を蛇行状の流路とした場合、後述の温度制御手段を構成するヒータ等の実効面積を有効に使うことができ、反応領域内での温度のばらつきを低減することが容易であるとともに、反応処理容器の実体的な大きさを小さくでき、反応処理装置を小さくできるという利点がある。
【0027】
サーマルサイクルに供される試料は、第1連通口17および第2連通口18のいずれか一方から流路12に導入される。導入の方法はこれらに限られないが、例えばピペットやスポイト、シリンジ等で該連通口から適量の試料を直接導入してもよい。あるいは、多孔質のPTFEやポリエチレンからなるフィルタが内蔵してあるコーン形状のニードルチップを介してコンタミネーションを防止しながらの導入方法であってもよい。このようなニードルチップは一般的に数多くの種類のものが販売され容易に入手でき、ピペットやスポイト、シリンジ等の先端に取り付けて使用することが可能である。さらにピペットやスポイト、シリンジ等による試料の吐出、導入後、さらに加圧して推すことにより流路の所定の場所まで試料を移動させてもよい。
【0028】
試料としては、例えば、一または二以上の種類のDNAを含む混合物に、PCR試薬として蛍光プローブ、耐熱性酵素および4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)を添加したものがあげられる。さらに反応処理対象のDNAに特異的に反応するプライマーを混合する。市販されているリアルタイムPCR用試薬キット等も使用することができる。
【0029】
図2は、本発明の実施形態に係る反応処理装置30を説明するための模式図である。
【0030】
本実施形態に係る反応処理装置30は、反応処理容器10が載置される反応処理容器載置部(図示せず)と、温度制御システム32と、CPU36とを備える。温度制御システム32は、
図2に示すように、反応処理容器載置部に載置される反応処理容器10に対して、反応処理容器10の流路12における紙面右側の領域を約95℃(高温領域)、紙面左側の領域を約55℃(低温領域)に精度よく維持、制御できるように構成されている。
【0031】
温度制御システム32は、反応領域の各温度領域の温度を維持するものであって、具体的には、流路12の高温領域を加熱するための高温用ヒータ60と、流路12の低温領域を加熱するための低温用ヒータ62と、各温度領域の実温度を計測するための例えば熱電対等の温度センサ(図示せず)と、高温用ヒータ60の温度を制御する高温用ヒータドライバ33と、低温用ヒータ62の温度を制御する低温用ヒータドライバ35とを備える。温度センサによって計測された実温度情報は、CPU36に送られる。CPU36は、各温度領域の実温度情報に基づいて、各ヒータの温度が所定の温度となるよう各ヒータドライバを制御する。各ヒータは例えば抵抗加熱素子やペルチェ素子等であってよい。温度制御システム32はさらに、各温度領域の温度制御性を向上させるための他の要素部品を備えてもよい。
【0032】
本実施形態に係る反応処理装置30は、さらに、反応処理容器10の流路12内に導入された試料20を流路12内で移動させるための送液システム37を備える。送液システム37は、第1ポンプ39と、第2ポンプ40と、第1ポンプ39を駆動するための第1ポンプドライバ41と、第2ポンプ40を駆動するための第2ポンプドライバ42と、第1チューブ43と、第2チューブ44とを備える。
【0033】
反応処理容器10の第1連通口17には、第1チューブ43の一端が接続される。第1連通口17と第1チューブ43の一端の接続部には、気密性を確保するためのパッキン45やシールが配置されることが好ましい。第1チューブ43の他端は、第1ポンプ39の出力に接続される。同様に、反応処理容器10の第2連通口18には、第2チューブ44の一端が接続される。第2連通口18と第2チューブ44の一端の接続部には、気密性を確保するためのパッキン46やシールが配置されることが好ましい。第2チューブ44の他端は、第2ポンプ40の出力に接続される。
【0034】
第1ポンプ39、第2ポンプ40は、例えばダイアフラムポンプからなるマイクロブロアポンプであってよい。第1ポンプ39、第2ポンプ40としては、例えば株式会社村田製作所製のマイクロブロアポンプ(型式MZB1001T02)などを使用することができる。このマイクロブロアポンプは、動作時に一次側より二次側の圧力を高めることができるが、停止した瞬間または停止時には一次側と二次側の圧力が等しくなる。
【0035】
CPU36は、第1ポンプドライバ41、第2ポンプドライバ42を介して、第1ポンプ39、第2ポンプ40からの送風や加圧を制御する。第1ポンプ39、第2ポンプ40からの送風や加圧は、第1連通口17、第2連通口18を通じて流路内の試料20に作用し、推進力となって試料20を移動させる。より詳細には、第1ポンプ39、第2ポンプ40を交互に動作させることにより、試料20のいずれかの端面にかかる圧力が他端にかかる圧力より大きくなるため、試料20の移動に係る推進力が得られる。第1ポンプ39、第2ポンプ40を交互に動作させることによって、試料20を流路内で往復式に移動させて、反応処理容器10の流路12の各温度領域を通過させることができ、その結果、試料20にサーマルサイクルを与えることが可能となる。より具体的には、高温領域において変性、低温領域においてアニーリング・伸長の各工程を繰り返し与えることにより、試料20中の目的のDNAを選択的に増幅させる。言い換えれば高温領域は変性温度域、低温領域はアニーリング・伸長温度域とみなすことができる。また各温度領域に滞留する時間は、試料20が各温度領域の所定の位置で停止する時間を変えることによって適宜設定することができる。
【0036】
本実施形態に係る反応処理装置30は、さらに、蛍光検出器50を備える。上述したように、試料20には所定の蛍光プローブが添加されている。DNAの増幅が進むにつれ試料20から発せられる蛍光信号の強度が増加するので、その蛍光信号の強度値をPCRの進捗や反応の終端の判定材料としての指標とすることができる。
【0037】
蛍光検出器50としては、非常にコンパクトな光学系で、迅速に測定でき、かつ明るい場所か暗い場所かにもかかわらず、蛍光を検出することができる日本板硝子株式会社製の光ファイバ型蛍光検出器FLE−510を使用することができる。この光ファイバ型蛍光検出器は、その励起光/蛍光の波長特性を試料20の発する蛍光特性に適するようにチューニングしておくことができ、様々な特性を有する試料について最適な光学・検出系を提供することが可能であり、さらに光ファイバ型蛍光検出器によってもたらされる光線の径の小ささから、流路などの小さいまたは細い領域に存在する試料からの蛍光を検出するのに適している。
【0038】
光ファイバ型の蛍光検出器50は、光学ヘッド51と、蛍光検出器ドライバ52と、光学ヘッド51と蛍光検出器ドライバ52とを接続する光ファイバ53とを備える。蛍光検出器ドライバ52には励起光用光源(LED、レーザその他特定の波長を出射するように調整された光源)、光ファイバ型合分波器及び光電変換素子(PD,APD又はフォトマル等の光検出器)(いずれも図示せず)等が含まれており、これらを制御するためのドライバ等からなる。光学ヘッド51はレンズ等の光学系からなり、励起光の試料への指向性照射と試料から発せられる蛍光の集光の機能を担う。集光された蛍光は光ファイバ53を通じて蛍光検出器ドライバ52内の光ファイバ型合分波器により励起光と分けられ、光電変換素子によって電気信号に変換される。
【0039】
本実施形態に係る反応処理装置30においては、高温領域と低温領域とを接続する接続領域内の一部の領域65(「蛍光検出領域65」と称する)を通過する試料20から蛍光を検出することができるように光学ヘッド51が配置される。試料20は流路内を繰り返し往復移動させられることで反応が進み、試料20に含まれる所定のDNAが増幅するので、検出された蛍光の量の変動をモニタリングすることで、DNAの増幅の進度をリアルタイムで知ることができる。また、本実施形態に係る反応処理装置30においては、後述するように、蛍光検出器50からの出力値を利用して、試料20の移動制御に活用する。蛍光検出器は、試料からの蛍光を検出する機能を発揮するものであれば光ファイバ型蛍光検出器に限定されない。
【0040】
図3は、試料の停止位置について説明するための図である。上述したように、本実施形態に係る反応処理装置30においては、試料20を流路12中で往復式に移動させることによって試料20にサーマルサイクルを与えるために、流路12上にそれぞれ異なる温度に維持された複数の温度領域(すなわち、高温領域および低温領域)が設定される。試料20に適切にサーマルサイクルを与えるためには、試料20がそれぞれの温度領域内に正確に停止する必要がある。停止位置がばらつくと、反応が起こらなかったり、反応が試料の場所でばらついたり、DNAの増幅等の反応が不正確になり、ひいては作業者、業務従事者の判断ミスを招来するおそれがある。
【0041】
上述したように、蛍光検出器50の光学ヘッド51は、流路12の蛍光検出領域65を通過する試料20から蛍光を検出するように設けられている。蛍光検出器50は、蛍光検出領域65にある試料20からの蛍光信号を検出し、その信号を0.01秒毎にCPU36に送信する。CPU36は、蛍光信号を受信し、蛍光信号値のスムージングや移動平均のような平均化等の演算処理や予め決められた閾値との比較等(以降まとめて「評価等」という場合もある)を行い、その結果に基づいて送液システム37に停止または作動信号を与える。
【0042】
図3では、蛍光検出領域65を、高温領域と低温領域との中間付近に配置したがこれに限られるものではない。例えば、高温領域側あるいは低温領域側にその配置が偏っていてもよい。低温領域に配される低温用ヒータ62は高温領域に配される高温用ヒータ60よりも出力が低くてよいので、その分小型あるいは薄型のヒータ部品を使用することができ、その場合は光学ヘッド51を低温領域寄りに偏って配置することもできる。
【0043】
図3は、試料20が位置Xにある状態を示す。試料20の位置Xは、蛍光検出領域65に最も近い試料20の端部に属する界面と蛍光検出領域65の中心との距離である。試料20の位置については、この蛍光検出領域65の中心からの距離Xで表すものとし、単に「位置X」などと表す場合もあり、さらに試料が高温領域もしくは低温領域のいずれの領域にある場合であっても、Xの値は蛍光検出領域65の中心からのスカラー距離であるものとする。
【0044】
ここで、試料20を目標停止位置X
0に停止させることを考える。この目標停止位置X
0に試料20があるときに、試料20が最も適切に所定の温度に加熱、維持される。目標停止位置X
0は、装置の温度領域の範囲や位置、反応処理容器10の構成から定まる。
【0045】
先述のように、蛍光検出領域65の位置が、高温領域あるいは低温領域のいずれかの側に偏っている場合などは、高温領域側の目標停止位置と低温領域側の目標停止位置とは異なる。以下、一般的に目標停止位置について検討する場合は単にX
0と記載するが、上記のように高温領域側の目標停止位置と低温領域側の目標停止位置とは同じでなくてもよいということに留意されたい。
【0046】
試料20を停止させる際のフローを以下に示す。
(1)試料20が蛍光検出領域65を通過する(蛍光検出器50は蛍光信号をCPU36に送信している)
(2)蛍光検出器50からの蛍光信号に基づきCPU36が試料20の通過したことを検知する
(3)CPU36が、第1ポンプドライバ41に対して第1ポンプ39の停止信号を送信する、または第2ポンプドライバ42に対して第2ポンプ40の停止信号を送信する
(4)第1ポンプ39または第2ポンプ40が停止する
(5)試料20が停止する
【0047】
本実施形態に係る反応処理容器10においては、蛍光検出器50の光学ヘッド51は、高温領域と低温領域の中間付近に配置されていて、試料の通過を検出する。そのため、試料20を目標停止位置X
0に停止させるためには、試料20が蛍光検出領域65を通過してからどの程度の時間をおいてポンプの駆動を停止させればよいかを決定する必要がある。
【0048】
蛍光検出器50により試料20の蛍光検出領域65の通過が検出された時刻から、CPU36がポンプドライバを介してポンプに試料20の停止を指示する時刻までの時間(以下、「待機時間」と呼ぶ)t
dは、以下の(1)式のように表すことができる。
t
d=X
0/v−t
c ・・・(1)
(1)式において、X
0は目標停止位置であり、vは試料20が蛍光検出領域65を通過するときの移動速度であり、t
cは装置固有の一定の遅れ時間である。
【0049】
遅れ時間t
cについて説明する。試料20の通過は、蛍光検出器50によって検出されるのと同時にCPU36に認知されるわけではない。検出された試料20からの蛍光信号は、それらの平均化処理や閾値(試料20が蛍光検出領域65に存在すると判断するために予め決めておく蛍光信号強度の基準値)と比較判断する演算処理等を必要とする。従って、実際に試料20が蛍光検出領域65を通過してから、CPU36がそれを認識するまで所定の遅れ時間t
cが生じる。
【0050】
次に、試料の移動速度vについて説明する。
図4は、蛍光検出器50で検出され、CPU36による移動平均化処理等の演算の結果得られた蛍光信号の変化の一例を示す。
図4において、横軸は試料20が蛍光検出領域65に進入する前であって、蛍光信号を検出し始めたときを0とした時刻を示し、縦軸は蛍光検出器ドライバ52から出力される蛍光信号の強度を表している。
図4に示すように、蛍光検出領域65を試料20が通過する場合、時間と検出される蛍光信号との関係は、試料20が蛍光検出領域65に進入してくるとともに、蛍光信号がゼロ又はベースラインから増加し、試料20が蛍光検出領域65から退出するとともに、蛍光信号が再びゼロ又はベースラインに低下する。
【0051】
図4に示すグラフから、試料20の蛍光検出領域65の通過時間t
pを求める。通過時間t
pは時刻の差であるので、装置の遅れ時間には影響されない。例えば、ベースラインとピーク値との差の50%を閾値とし、横軸に平行である閾値を表す直線と蛍光信号曲線との交点のうち、最も早い時刻に対応する
図4中の点Aに相当する時刻を試料20(の先端部)の進入時刻、最も遅い時刻に対応する点Bに相当する時刻を試料20(の後端部)の退出時刻とし、点Aと点Bに相当する時刻の差を、試料20の通過時間t
pとする。なお、蛍光信号のピーク値とベースラインとの差の何%を閾値とするかは、当業者が適宜自由に設定できる。流路に導入される試料20のボリュームから、流路中の試料の長さLが決まる。CPU36は、既知の試料20の長さLと、試料20の通過時間t
pとから、v=L/t
pとして試料20の移動速度vを算出することができる。
【0052】
目標停止位置X
0と、試料の移動速度vとによって、仮の待機時間t
dを設定して(最初は0(秒)でも構わない)、試料20の往復移動をさせたうえで、実際の試料20の停止位置X
1と目標停止位置X
0との差を把握し、これをできるだけ最小にする試行錯誤によって、遅れ時間t
cを実験的に求めることができる。
【0053】
本発明者は、
図1に示す反応処理容器10の幅0.7mm、深さ0.7mmの流路12に、流路中の長さが40mmとなるようにピペット等でボリュームを調節した所定の濃度(例えば100nM(単位[nM]はナノモラーでありナノモル/リットルである))のFITC溶液(fluorescein isothiocyanate:蛍光を発する試料)を導入し、所定の目標停止位置X
0と、試料20の移動速度v(通過時間t
p)に基づいて実験的に遅れ時間t
cを求めた。ここで、試料20の通過時間t
pについては、所定のフィードバックによって略一定(具体的には0.5秒)になるように、試料20の推力となるポンプの出力を調整するようにした。その結果、実験に使用した反応処理容器10および反応処理装置30においては、遅れ時間t
cを0.175秒とすることによって、実際の試料20の停止位置X
1と目標停止位置X
0との差を最小にできることがわかった。
【0054】
次に本発明者は、PCR試薬のDNAポリメラーゼとしてタカラバイオ株式会社製SpeedSTAR HS DNA Polymerase(SpeedSTARは登録商標)を反応液組成にしたものを試料とした。なお、このSpeedSTAR HS DNA Polymeraseには、先述のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)の混合物やバッファ等PCRに必要な化合物が付属しており、それらを説明書通りに調整したものを試料とした。この結果、反応処理装置30において、上記(1)式に基づいて試料の移動の制御を行うと、試料の実際の停止位置X
1と目標停止位置X
0との差が徐々に大きくなることに気づいた。試料の実際の停止位置X
1と目標停止位置X
0との差が大きくなると、試料の温度制御を精度よく行うことができない可能性がある。
【0055】
本発明者は、上記のSpeedSTAR HS DNA Polymeraseを反応液組成にした試料を調整して2ロット作製し、試料の移動制御の実験を行った。この2ロットについての実験結果を、比較例1および2としてそれぞれ
図5および
図6に示す。
【0056】
図5および
図6において、横軸はサイクル数n(nは1以上の整数)を表し、縦軸はサイクル数nに対応した実際の停止位置X
1(n)を表す。試料が高温領域から低温領域に移動し、その後低温領域から高温領域に戻ってくるまでが1サイクルである。
図5および
図6において、実線は、高温領域から低温領域(H→L)への移動の際に低温領域で停止した位置X
[L]1(n)を示し、破線は、低温領域から高温領域(L→H)への移動の際に高温領域で停止した位置X
[H]1(n)を示す。
【0057】
試料の実際の停止位置X
[L]1(n)およびX
[H]1(n)は、実際に試料を繰り返し往復移動させ、それを直上から所定の倍率で拡大観察し、蛍光検出領域65の中心から、試料の蛍光検出領域65に近い試料の末端までの距離をものさし(ルーラ)で計測した。
【0058】
図5および
図6から分かるように、試料の実際の停止位置X
[L]1(n)およびX
[H]1(n)は、サイクル数nの増加とともに低下傾向にあり特にX
[L]1(n)でそれが顕著に現れる(すなわちサイクル数nの増加とともに試料が蛍光検出領域65に近づく傾向となる)。FITC溶液のみに基づく試料を導入してもこのような現象は生じなかったため、本発明者は、鋭意試行錯誤の結果、DNAポリメラーゼに所定量含まれる界面活性剤の存在によりこのような現象が生じることを見出した。
図5および
図6に示す比較例1および2で使用したDNAポリメラーゼには、いずれも非イオン系界面活性剤であるTween20とNonidet P−40(Nonidetは登録商標)が各0.01重量%となるように添加されている。
【0059】
実際に、上記のDNAポリメラーゼに含まれる界面活性剤であるTween20を、その濃度が0.01重量%となるように濃度100nMのFITC溶液に添加して試料を作製し、該試料について実験を行ったところ、サイクル数nの増加とともに試料の実際の停止位置X
[L]1(n)およびX
[H]1(n)が低下傾向となり、特に高温領域から低温領域に移動(H→L)する際の低温領域における停止位置X
[L]1(n)の低下する傾向が顕著であることが分かった。この実験結果を比較例3として
図7に示す。
【0060】
本発明者は、このような試料の停止位置のずれ(停止距離の低下)が生じる状況を鑑み、上記(1)式に基づく試料の移動制御方法の改善を行った。
【0061】
以下、本実施形態に係る移動制御方法について説明する。ここでは、試料が高温領域から低温領域へ移動(H→L)する場合について検討するが、低温領域から高温領域へ移動(L→H)する場合も同様に考えることができる。
【0062】
まず、待機時間を求めるための上記(1)式を、添え字を用いて以下の(2)式のように書き換える。
t
H→Ld(n)=X
[L]0(n)/v
H→Lp(n)−t
c
=X
[L]0(n)×t
H→Lp(n)/L−t
c ・・・(2)
【0063】
図8は、サーマルサイクルを説明するための図である。
図8に示すように、試料が高温領域から低温領域に移動して停止し、その後低温領域から高温領域に戻ってきて停止するまでを1サイクルとする。反応処理装置30のCPU36は、複数サイクルの往復移動制御を試料に対して行うよう構成される。
【0064】
以下、上記の(2)式における各項について詳細に説明する。下記の説明において、nは1以上の整数であり、各記号の添え字であるH→Lは高温領域から低温領域への移動を表す。
【0065】
t
H→Ld(n)は、第nサイクルにおいて試料が高温領域から低温領域に移動する際の待機時間であり、蛍光検出器50により試料の蛍光検出領域65の通過が検出された時刻から、CPU36が送液システム37に試料の停止を指示する時刻までの時間である。
【0066】
X
[L]0(n)は、第nサイクルにおける低温領域での試料の目標停止位置であり、蛍光検出領域65の中心から試料の端部までの距離で表される(
図3参照)。
【0067】
t
H→Lp(n)は、第nサイクルの高温領域から低温領域への移動に関する、試料の蛍光検出領域65の通過時間である(
図4参照)。v
H→Lp(n)は、第nサイクルの高温領域から低温領域への移動に関する、試料の蛍光検出領域65の移動速度である。
【0068】
Lは、流路中における試料の長さである。t
cは遅れ時間であり、反応処理装置30や反応処理容器10等の仕様に基づく固有の定数である。ここでは、上記のように実験的に求めた遅れ時間t
c=0.175秒を採用した。
【0069】
反応処理装置30において、CPU36は、第nサイクルの高温領域から低温領域への試料の移動の際に、蛍光検出器50により試料の蛍光検出領域65の通過が検出された時刻から、上記の(2)式で規定される待機時間t
H→Ld(n)が経過した時刻に、送液システム37に対して試料の停止を指示する。
【0070】
ここで、本実施形態に係る反応処理装置30においては、第nサイクルの次の第n+1サイクルにおける高温領域から低温領域への移動の際の試料の目標停止位置X
[L]0(n+1)は、第nサイクルにおける試料の停止制御の結果に基づいて、第nサイクルにおける試料の目標停止位置X
[L]0(n)から補正される。
図5乃至
図7で示したように、試料に界面活性剤が含まれる場合、サイクル数の増加とともに試料の実際の停止位置X
[L]1(n)が変化する(主に蛍光検出領域65に近づく)傾向がある。従って、第nサイクルの試料の停止制御の結果に基づいて、次の第n+1サイクルの目標停止位置X
[L]0(n+1)を設定することにより、試料をより正確な位置に停止させることが可能となる。なお、第n+1サイクルの目標停止位置X
[L]0(n+1)は、補正の結果、第nサイクルの目標停止位置X
[L]0(n)と異なる値になる場合だけでなく、第nサイクルの目標停止位置X
[L]0(n)と同じ値になる場合もあることに留意する。
【0071】
より具体的には、第n+1サイクルにおける試料の目標停止位置X
[L]0(n+1)は、第nサイクルにおける試料の実際の停止位置X
[L]1(n)と、設計目標停止位置X
[L]00との差分ΔX
[L](n)に基づいて、第nサイクルにおける試料の目標停止位置X
[L]0(n)から補正される。設計目標停止位置X
[L]00とは、設計上、低温領域において試料が存在すべき位置である。設計目標停止位置X
[L]00は、反応処理装置30や反応処理容器10の設計や構成に基づいて定められる値である。試料の実際の停止位置X
[L]1(n)は設計目標停止位置X
[L]00に近いほど望ましいことはいうまでもない。
【0072】
第n+1サイクルにおける試料の目標停止位置X
[L]0(n+1)は、以下の(3)式に示すように、第nサイクルにおける試料の目標停止位置X
[L]0(n)に補正項k
[L](n)を加えることにより設定されてもよい。補正項k
[L](n)の初期値は0であってもよい。
X
[L]0(n+1)=X
[L]0(n)+k
[L](n) ・・・(3)
【0073】
補正項k
[L](n)は、第nサイクルにおける試料の実際の停止位置X
[L]1(n)と、設計目標停止位置X
[L]00との差分ΔX
[L](n)に基づいて決定されてよい。例えば、下記の表1に示すような第nサイクルにおける差分ΔX
[L](n)と、補正項k
[L](n)との関係が記載されたテーブルを予め用意し、該テーブルを参照して補正項k
[L](n)が決定されてもよい。
【表1】
上記表1のテーブルは、以下のことを規定している。なお、以下において「ある位置Xより遠く」という表現は、「蛍光検出領域65からみて位置Xよりさらに離れて」という意味であり、位置を表すXの値をより大きくする意味であり、「ある位置Xより近く」という表現は、「蛍光検出領域65からみて位置Xよりさらに近づいて」という意味であり、位置を表すXの値をより小さくする意味である。
・第nサイクルにおける実際の停止位置X
[L]1(n)が設計目標停止位置X
[L]00よりも近い場合には、第n+1サイクルの目標停止位置X
[L]0(n+1)を第nサイクルの目標停止位置X
[L]0(n)よりも遠くに設定する。
・第nサイクルにおける実際の停止位置X
[L]1(n)が設計目標停止位置X
[L]00とほぼ同じ場合には、第n+1サイクルの目標停止位置X
[L]0(n+1)を第nサイクルの目標停止位置X
[L]0(n)と同じに設定する。
・第nサイクルにおける実際の停止位置X
[L]1(n)が設計目標停止位置X
[L]00よりも遠い場合には、第n+1サイクルの目標停止位置X
[L]0(n+1)を第nサイクルの目標停止位置X
[L]0(n)よりも近くに設定する。
例えば第nサイクルにおける差分ΔX
[L](n)が−7mmの場合、テーブルから補正項k
[L](n)は+5mmと決定される。この場合、第n+1サイクルにおける試料の目標停止位置X
[L]0(n+1)は、第nサイクルにおける試料の目標停止位置X
[L]0(n)に+5mmを加えた値に設定される。また、例えば第nサイクルにおける差分ΔX
[L](n)が−2mmの場合、テーブルから補正項k
[L](n)は0mmと決定される。この場合、第n+1サイクルにおける試料の目標停止位置X
[L]0(n+1)は、第nサイクルにおける試料の目標停止位置X
[L]0(n)と同じ値に設定される。
【0074】
上記では、第nサイクルにおける試料の目標停止位置X
[L]0(n)に補正項k
[L](n)を加えることにより第n+1サイクルにおける試料の目標停止位置X
[L]0(n+1)を求めたが、第n+1サイクルにおける試料の目標停止位置X
[L]0(n+1)の設定方法はこの方法に限定されず、PID制御等の周知の制御方法のほか、和算による補正項以外の補正項や補正係数が考慮され、または組み合わされてもよい。
【0075】
上記では、補正項k
[L](n)を決定する際に、試料の実際の停止位置X
[L]1(n)を用いたが、実際に反応処理装置30を使用する際には、試料の実際の停止位置X
[L]1(n)をどのように求めるかが課題となる。反応処理装置30においては、各温度領域には位置検出のためのセンサを配置していないためである。そこで、各温度領域における実際の試料の停止位置を推定する方法を示す。
【0076】
第nサイクルにおける低温領域での試料の実際の停止位置X
[L]1(n)は、以下の(4)式で推定することができる。推定した試料の停止位置をX
[L]11(n)とすると、
X
[L]11(n)=L/t
L→Hp(n)×{t
L→Hmp(n)−t
c} ・・・(4)
となる。
(4)式において、t
L→Hp(n)は、第nサイクルの低温領域から高温領域への移動に関する試料の蛍光検出領域65の通過時間である。またt
L→Hmp(n)は、第nサイクルの低温領域から高温領域への移動に関する、試料を移動させるために送液システム37の作動を開始してから、試料の先頭が蛍光検出領域65に到達したとCPU36が認識するまでの時間である。
【0077】
図9乃至
図11は、上記の(4)式の妥当性を検証した結果を示す。
図9乃至
図11において、横軸は、サイクル数nを表し、縦軸は、高温領域から低温領域に移動したときの低温領域における試料の実際の停止位置X
[L]1(n)(実測値)および推定した試料の停止位置X
[L]11(n)(推定値)を表す。
図9乃至
図11において、実線は実測値X
[L]1(n)を示し、○マーカーは(4)式に基づいて推定した推定値X
[L]11(n)を示す。
図9は、上記の
図5に示す実験で使用した試料についての実験結果である。
図10は、上記の
図6に示す実験で使用した試料についての実験結果である。
図11は、上記の
図7に示す実験で使用した試料についての実験結果である。
【0078】
図9乃至
図11から、実測値X
[L]1(n)と推定値X
[L]11(n)はほぼ等しい(その差の絶対値は最大3mmである)と判定できるので、(4)式に基づく停止位置の推定はほぼ確からしく、X
[L]1(n)≒X
[L]11(n)と見なしてよいことが分かる。
【0079】
以上説明したように、本実施形態に係る反応処理装置は、第nサイクルの高温領域から低温領域への移動に関する、試料の蛍光検出領域65の通過時間t
H→Lp(n)、試料の(推定される)停止位置X
[L]11(n)、試料の目標停止位置X
[L]0(n)に基づいて、第n+1サイクルの高温領域から低温領域への移動に関する試料の目標停止位置X
[L]0(n+1)を求めたうえで、試料の移動制御を行うという、いわゆる一種のフィードバック制御を行うものである。上記では、主に高温領域から低温領域への試料の移動に関して説明したが、低温領域から高温領域への試料の移動に関しても同様に適用することができ、(2)乃至(4)式における添え字[L]を[H]、H→LをL→H、L→HをH→Lに変更して読み替えればよい。
【0080】
図12は、本発明の実施形態に係る反応処理装置における試料の移動制御方法を説明するためのフローチャートである。本フローチャートでは、高温領域から低温領域への試料の移動に関する制御方法について説明するが、低温領域から高温領域への試料の移動に関しても同様である。
【0081】
まず、CPU36は、設計上、低温領域において試料が存在すべき位置である設計目標停止位置X
[L]00を設定する(S10)。X
[L]00は蛍光検出領域65の中心からの距離で表し、例えばX
[L]00=30mmといったように設定される。
【0082】
続いて、CPU36は、nの値を1に設定し、第1サイクルの目標停止位置X
[L]0(1)を設計目標停止位置X
[L]00に設定する(S12)。
【0083】
送液システム37のうち、第1ポンプ39を作動させて、試料を高温領域から低温領域に移動を開始させる(S14)。蛍光検出領域65を通過し、蛍光信号強度を測定し閾値に基づいてt
H→Lp(1)を求め、上記の(2)式に基づいて第1サイクルの待機時間t
H→Ld(1)を算出し決定する(S16)。t
H→Lp(1)を測定する際の閾値は、n=1(第1サイクル)のときは、初期値として経験に基づいて推定し、それに基づいた値を定めてもよい。n=2(第2サイクル)のときは、n=1のときの高温領域から低温領域の移動する際において測定された蛍光信号強度と閾値に基づいてt
H→Lp(2)を求めてもよい。閾値は先述の通り、蛍光信号強度の変化においてベースラインの強度とピーク強度の強度差の50%としてもよい。
閾値については、n=n’(第n’サイクル(n’は2以上の整数))のときの高温領域から低温領域の移動する際において測定された蛍光信号強度に基づいて、n=n’+1(第(n’+1)サイクル)における高温領域から低温領域の移動する際の閾値、およびn=n’+1(第(n’+1)サイクル)における低温領域から高温領域の移動する際の閾値を求めてもよい。
さらに、n=n’(第n’サイクル)のときの低温領域から高温領域の移動する際において測定された蛍光信号強度に基づいて、n=n’+1(第(n’+1)サイクル)における高温領域から低温領域の移動する際の閾値、およびn=n’+1(第(n’+1)サイクル)における低温領域から高温領域の移動する際の閾値を求めてもよい。
【0084】
実際のDNA等からなる検体を用いたPCRのサーマルサイクルの当初は、検体のDNA等はまだ十分に増幅はされていない。しかしながら、サーマルサイクルの当初であっても、蛍光プローブを含む試料からは蛍光が発せられ、測定された蛍光信号強度の変化から、ベースラインとピークとを区別することや閾値を求めることは容易であるので、t
H→Lp(n)の測定およびt
H→Ld(n)(nは2以上の整数)の演算に問題はない。
【0085】
その後、CPU36は、S16で決定した待機時間t
H→Ld(1)に従って、試料を低温領域で停止する(S18)。すなわち、CPU36は、蛍光検出器50により試料の蛍光検出領域65の通過が検出された時刻から、待機時間t
H→Ld(1)が経過した時刻に、送液システム37に対して試料の停止を指示する。
【0086】
低温領域で停止した状態で所定時間加熱された後、試料は低温領域から高温領域に移動する(S20)。ここでは、高温領域から低温領域への移動と同様の制御が行われる。
【0087】
低温領域から高温領域への移動の間に、試料は蛍光検出領域65を通過する。CPU36は、試料が蛍光検出領域65を通過後、t
L→Hp(1)およびt
L→Hmp(1)を求め、上記の(4)式に基づいて第1サイクルにおける低温領域での試料の推定停止位置X
[L]11(1)を求め、実際の停止位置X
[L]1(1)をX
[L]11(1)と推定する(S22)。
【0088】
次に、CPU36は、第1サイクルにおける試料の停止位置X
[L]1(1)と、設計目標停止位置X
[L]00との差分ΔX
[L](1)を求め、表1に示すような差分ΔX
[L](n)と補正項k
[L](n)との関係が記載されたテーブルを参照して、補正項k
[L](1)を決定する(S24)。
【0089】
続いて、CPU36は、上記の(3)式に基づいて、第2サイクルの目標停止位置X
[L]0(2)を決定する(S26)。
【0090】
その後、CPU36は、nの値が所定のサイクル数に到達しているか否か判定する(S28)。所定のサイクル数は予め作業者が決めておいてもよく、その数は30〜60サイクルである。
【0091】
nの値が所定のサイクル数に到達していない場合(S28のNo)、nの値を1増やしてn=2とする(S30)。その後、S14に戻り、S16において上記の(2)式に基づいて、第2サイクルの待機時間t
H→Ld(2)が決定される。S14〜S26は、nの値が所定のサイクル数に到達するまで実行される。nの値が所定のサイクル数に到達した場合(S28のYes)、制御は終了する。
【0092】
以上は、試料20の高温領域から低温領域に移動し、低温領域の所定の位置に停止するときの制御方法の内容であるが、先にも述べたように低温領域から高温領域への試料の移動に関しても同様に適用することができ、各工程におけるパラメータや各式における変数や項の添え字[L]を[H]、H→LをL→H、L→HをH→Lに変更して読み替えればよい。
【0093】
本実施形態に係る試料の移動制御方法を用いて、試料の推定停止位置と実際の停止位置がサイクル数とともにどのように変化したかについて実験を行った。試料は比較例1および比較例2と同じく、SpeedSTAR HS DNA Polymeraseを調整したものを使用した。
【0094】
図13は、試料が高温領域から低温領域に移動したときの低温領域における推定停止位置と実際の停止位置を示す。横軸はサイクル数であり、○のマーカーは5サイクル毎に測定した実際の停止位置X
[L]1(n)を示し、実線は推定停止位置X
[L]11(n)を示す。
図13に示すように、推定停止位置と実際の停止位置との良好な一致性が得られているとともに、サイクル数が50に達しても本実施形態に係る制御方法が奏功し、低温領域におけるX
[L]1(n)は、26mm〜30mmの範囲内、(図示しないが)高温領域における試料の停止位置X
[H]1(n)も、29.5mm〜33.5mmの範囲内に収まっており、
図5乃至
図7に示す比較例1乃至3と比べて、試料を所定の位置により正確に停止させることができていることが分かる。
【0095】
一方で、ここで説明した2水準の温度領域からなる反応領域を備える反応処理装置30(2ステップ方式)における試料20の1サイクルでのパスは次のようになる。
(a)高温領域(H)→(b)蛍光検出領域(蛍光検出器)→(c)低温領域(L)→(d)蛍光検出領域(蛍光検出器)→(a)高温領域(H)→・・・以降繰り返し
ただし(b)と(d)の蛍光検出領域(蛍光検出器)は同一である。
【0096】
このようなパスの各要素と、上述したパラメータとの根拠について表すと、高温領域(H)の所定の位置に停止するための待機時間は、高温領域(H)に到達する直前の上記(d)における蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて算出され、高温領域(H)における推定停止位置は、高温領域(H)を出発した直後の上記(b)における蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて算出される。
【0097】
また、低温領域(L)の所定の位置に停止するための待機時間は、低温領域(L)に到達する直前の上記(b)における蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて算出され、低温領域(L)における推定停止位置は、低温領域(L)を出発した直後の上記(d)における蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて算出される。
【0098】
すなわち、高温領域または低温領域において所定の位置に停止するための待機時間は、その領域に到達する直前に通過する蛍光検出領域に対応する蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて算出される。
【0099】
また、高温領域または低温領域における推定停止位置は、その領域を出発した直後に通過する蛍光検出領域に対応する蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて算出される。この考察に基づくと、低温領域での試料の推定停止位置X
[L]11(n)を求める上記の(4)式は、以下の(5)式のように書き換えることができる。
X
[L]11(n)=L/t
L→ntp(n)×{t
L→ntmp(n)−t
c} ・・・(5)
となる。
(5)式において、t
L→ntp(n)は、低温領域から次の温度領域(本実施形態の場合は高温領域)への移動に関する、低温領域を出発した直後に通過する蛍光検出領域(本実施形態の場合は蛍光検出領域65)の通過時間である。t
L→ntmp(n)は、低温領域から次の温度領域(高温領域)への移動に関する、試料を移動させるために送液システム37の作動を開始してから、試料の先頭が直後に通過する蛍光検出領域(蛍光検出領域65)に到達したとCPU36が認識するまでの時間である。高温領域での試料の推定停止位置に関しては、(5)式における添え字[L]を[H]、L→ntをH→ntに変更して読み替えればよい。(5)式は、上述した2水準の温度領域を備える反応処理装置30だけでなく、後述する3水準の温度領域を備える反応処理容器110にも適用できる。
【0100】
図14は、反応処理容器の別の実施形態を説明するための図である。
図1(a)に示す反応処理容器10は、例えば約95℃の高温領域と、例えば約55℃の低温領域の2水準の温度領域を連続的に往復移動させることによって、試料にサーマルサイクルを与えるものであった。
図14に示す反応処理容器110は、例えば約95℃の高温領域と、例えば約65℃の中温領域と、例えば約55℃の低温領域の3水準の温度領域を連続的に往復移動させることによって、試料にサーマルサイクルを与えるものである。この場合、高温領域ではDNAの変性、低温領域ではアニーリング、中温領域では伸長を行わせることが可能である。
【0101】
図14に示す反応処理容器110の流路12は、高温領域と低温領域の間に中温領域を備える。この中温領域の流路も、高温領域および低温領域と同様に、曲線部と直線部とを組み合わせた連続的に折り返す蛇行状の流路から構成されている。また、反応処理容器110の流路12は、高温領域と中温領域の間に位置する第1接続領域と、中温領域と低温領域の間に位置する第2接続領域とを備える。第1接続領域および第2接続領域は、直線状の流路を含む。第1接続領域、第2接続領域には、それぞれ、第1蛍光検出領域165、第2蛍光検出領域166が設定される。
【0102】
図15は、反応処理装置の別の実施形態を説明するための模式図である。
図15に示す反応処理装置130は、
図14に示す3水準の温度領域を備える反応処理容器110に対してサーマルサイクルを行うための装置である。
【0103】
反応処理装置130の温度制御システム32は、高温用ヒータ60、低温用ヒータ62、高温用ヒータドライバ33、低温用ヒータドライバ35に加えて、流路12の中温領域を加熱するための中温用ヒータ61と、中温用ヒータ61の温度を制御する中温用ヒータドライバ34とをさらに備える。
【0104】
反応処理装置130の第1蛍光検出器251は、反応処理容器110の流路の第1蛍光検出領域165を通過する試料20からの蛍光を検出するための第1光学ヘッド151と、第1蛍光検出器ドライバ152と、第1光学ヘッド151と第1蛍光検出器ドライバ152とを接続する第1光ファイバ153とを備え、第2蛍光検出器252は、反応処理容器110の流路の第2蛍光検出領域166を通過する試料20からの蛍光を検出するための第2光学ヘッド154と、第2蛍光検出器ドライバ155と、第2光学ヘッド154と第2蛍光検出器ドライバ155とを接続する第2光ファイバ156とを備える。
【0105】
反応処理装置130における試料20には、高温領域→低温領域→中温領域→高温領域を1サイクルとしてサーマルサイクルが与えられる。反応処理装置130において高温領域→低温領域の工程では、途中の中温領域では所定時間停止されず通過することに留意する。
【0106】
以下、反応処理装置130による試料の動作を説明する。
【0107】
高温領域、中温領域および低温領域における設計目標停止位置X
[H]00、X
[M]00およびX
[L]00を予め定める。これらを初期値としてX
[H]0(1)、X
[M]0(1)およびX
[L]0(1)とする。また、上述の2ステップ方式と同様に、各温度領域に対する待機時間t
H→Ld(1)、t
L→Md(1)およびt
M→Hd(1)の算出に要する各閾値を予め定める。なお、添え字のMは中温領域を示すものとする。
【0108】
送液システム37のうち第1ポンプ39を作動させて、試料20の高温領域(H)→低温領域(L)の移動をさせる。これらの領域間にある2箇所の蛍光検出領域のうち、低温領域に近い側の第2蛍光検出領域166を試料20が通過する際に、第2蛍光検出器252からの蛍光信号に基づいて、通過時間t
H→L2p(n)の測定および上記の(2)式から待機時間t
H→L2d(n)の算出を行う(時間、時刻を表す記号tの添え字1および2はそれぞれ第1蛍光検出領域165および第2蛍光検出領域166の通過に基づいて求められたことを意味する。以下同じ)。そして試料20の第2蛍光検出領域166の通過時刻から待機時間t
H→L2d(n)後に第1ポンプ39の停止を指示し、試料20を低温領域内で停止させる。
【0109】
また、2箇所の蛍光検出領域のうち、高温領域に近い側の第1蛍光検出領域165を通過する際に、第1蛍光検出器251からの蛍光信号に基づいてt
H→L1p(n)の測定およびt
H→L1mp(n)の算出を行い、上記の(4)式から高温領域での試料の推定停止位置X
[H]11(n)を求め、実際の停止位置X
[H]1(n)と推定をする。なお、移動領域間に2以上の蛍光検出領域が存在する場合は、到達領域に最も近い蛍光検出領域に係る蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて試料を停止するための待機時間の算出を行い、出発領域に最も近い蛍光検出領域に係る蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて出発領域における停止位置の推定をする。
【0110】
試料20を低温領域で一定時間停止させた後、送液システム37のうち第2ポンプ40を作動させて、試料20の低温領域(L)→中温領域(M)の移動をさせる。これらの領域間にある第2蛍光検出領域166を通過する際に、第2蛍光検出器252からの蛍光信号に基づいて通過時間t
L→M2p(n)の測定および上記の(2)式から待機時間t
L→M2d(n)の算出を行う。そして試料20の第2蛍光検出領域166の通過時刻から待機時間t
L→M2d(n)後に第2ポンプ40の停止を指示し、試料20を中温領域内で停止させる。また、同蛍光信号に基づいてt
L→M2p(n)の測定およびt
L→M2mp(n)の算出を行い、上記の(4)式から低温領域での試料20の推定停止位置X
[L]11(n)を求め、実際の停止位置X
[L]1(n)と推定をする。
【0111】
試料20を中温領域で一定時間停止させた後、送液システム37のうち第2ポンプ40を作動させて、試料20の中温領域(M)→高温領域(H)の移動をさせる。これらの領域間にある第1蛍光検出領域165を通過する際に、第1蛍光検出器251からの蛍光信号に基づいて通過時間t
M→H1p(n)の測定および上記の(2)式から待機時間t
M→H1d(n)の算出を行う。そして試料20の第1蛍光検出領域165の通過時刻から待機時間t
M→H1d(n)後に第2ポンプ40の停止を指示し、試料20を高温領域内で停止させる。また、同蛍光信号に基づいてt
M→H1p(n)の測定およびt
M→H1mp(n)の算出を行い、上記の(4)式から中温領域での試料の推定停止位置X
[M]11(n)を求め、実際の停止位置X
[M]1(n)と推定をする。
【0112】
一方で、ここで説明した3水準の温度領域からなる反応領域を備える反応処理装置130(3ステップ方式)における試料20の1サイクルでのパスは次のようになる。
(a)高温領域(H)→(b)第1蛍光検出領域(第1蛍光検出器)→(c)第2蛍光検出領域(第2蛍光検出器)→(d)低温領域(L)→(e)第2蛍光検出領域(第2蛍光検出器)→(f)中温領域(M)→(g)第1蛍光検出領域(第1蛍光検出器)→(a)高温領域(H)・・・以降繰り返し
なお、(b)と(c)の間には中温領域(M)が存在するが、停止されずに通過するのみであるのでパスには含めない。
【0113】
このようなパスの各要素と、上述したパラメータとの根拠について表すと、高温領域(H)の所定の位置に停止するための待機時間は、高温領域(H)に到達する直前の上記(g)における第1蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて算出される。また高温領域(H)における推定停止位置は、高温領域(H)を出発した直後の上記(b)における第1蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて算出される。
【0114】
同様に、中温領域(M)の所定の位置に停止するための待機時間は、中温領域(M)に到達する直前の上記(e)における第2蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて算出される。また中温領域(M)における推定停止位置は、中温領域(M)を出発した直後の上記(g)における第1蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて算出される。
【0115】
さらに、低温領域(L)の所定の位置に停止するための待機時間は、低温領域(L)に到達する直前の上記(c)における第2蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて算出される。また低温領域(L)における推定停止位置は、低温領域(L)を出発した直後の上記(e)における第2蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて算出される。
【0116】
以上のことから、高温、中温もしくは低温領域において所定の位置に停止するための待機時間は、その各領域に到達する直前に通過する蛍光検出領域に対応する蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて算出される。
【0117】
また、各領域における推定停止位置は、その領域を出発した直後に通過する蛍光検出領域に対応する蛍光検出器からの蛍光信号に基づいて算出される。従って、3水準の温度領域を備える反応処理容器110にも、上記の(5)式を適用できる。すなわち、高温領域での試料の推定停止位置に関しては、(5)式における添え字[L]を[H]、L→ntをH→ntに変更して読み替えればよい。また、中温領域での試料の推定停止位置に関しては、(5)式における添え字[L]を[M]、L→ntをM→ntに変更して読み替えればよい。
【0118】
このように、3水準の温度領域からなる反応領域を備える反応処理装置130(3ステップ方式)であっても、考慮すべきは、該当する温度領域の直前または直後に備えられた蛍光検出器からの蛍光信号と試料の位置である。これは、上述した2水準の温度領域からなる反応領域を備える反応処理装置30と同様である。
【0119】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。