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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-135462(P2019-135462A)
(43)【公開日】2019年8月15日
(54)【発明の名称】無線端末測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 29/08 20060101AFI20190719BHJP
   G01R 29/10 20060101ALI20190719BHJP
   H04B 17/15 20150101ALI20190719BHJP
   H04B 17/29 20150101ALI20190719BHJP
【FI】
   G01R29/08 A
   G01R29/10 E
   H04B17/15
   H04B17/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-18146(P2018-18146)
(22)【出願日】2018年2月5日
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140501
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 智紀
(57)【要約】
【課題】端末保持部の底板の反射の影響を低減させ、ミリ波帯を用いる無線端末の特性を正確に測定できるようにする。
【解決手段】測定用アンテナ25と測定対象の無線端末の一方から出力されて他方に直接入力する直接波に対し、一方から出力されて端末保持部31の底板の一面32a側で反射して他方に入力する反射波の反射率が、端末保持部31の比誘電率によって決まる入射角対反射率の特性上で所定の許容限度(例えば、0.4、0.1)を与える入射角(例えば80度、70度)以下となるように、基準点Oから端末保持部31の底板の一面までの距離Hを設定して、反射波による測定への影響を抑圧する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの電波の進入および内部での電波の反射が抑制された測定空間内の所定位置に固定された測定用アンテナ(25)と、
前記測定空間内で、前記測定用アンテナから所定距離だけ離れた位置を基準点とし、該基準点に測定対象の無線端末(1)の端末アンテナが位置する状態で前記無線端末を所定広さの底板の一面側に保持するための端末保持部(31)と、該端末保持部を前記基準点を中心に回転させる回転機構(35)とを有する端末保持回転機構(30)とを有し、
前記測定用アンテナに対する前記無線端末の姿勢を変更しつつ、前記測定用アンテナとの前記無線端末との間で電波の送受信を行うことで、前記無線端末の特性を求める無線端末測定装置において、
前記測定用アンテナと前記無線端末の一方から出力されて他方に直接入力する直接波に対し、前記一方から出力されて前記端末保持部の前記底板の前記一面で反射して他方に入力する反射波の反射率が、前記端末保持部の比誘電率によって決まる入射角対反射率の特性上で所定の許容限度を与える入射角以下となるように、前記基準点から前記端末保持部の前記底板の前記一面までの距離を設定したことを特徴とする無線端末測定装置。
【請求項2】
前記端末保持部が比誘電率1.03の発泡材からなり、前記許容限度を与える入射角が80度であることを特徴とする請求項1記載の無線端末測定装置。
【請求項3】
前記端末保持部の比誘電率1.03に対して、前記許容限度を与える入射角が70度であることを特徴とする請求項1記載の無線端末測定装置。
【請求項4】
前記端末保持部には、
前記底板の上に立設された複数の板体で格子状に形成され、該複数の板体の上縁で前記無線端末の筐体を支える格子状支持壁(60)と、
前記格子状支持壁を構成する前記複数の板体の上縁の任意の位置に係止可能に形成され、前記格子状支持壁の前記複数の前記板体の上縁で支えられた前記無線端末の筐体の位置を固定する端末押え(80)とが設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無線端末測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、スマートフォン、タブレット、無線ルータ等の無線端末の送受信特性を測定する際に用いる無線端末測定装置に関し、特に、次世代(第5世代)の無線端末に割り当てられた24.25GHz/28GHz/39GHzなどのミリ波帯を用いる無線端末の特性を正確に測定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線端末の送受信の特性を、実際の電波を用いて測定する方法として、電波暗室や電波暗箱の内部に、測定対象の無線端末と測定用アンテナを配置し、測定用アンテナに対する無線端末の姿勢を相対的に変化させながら、無線端末と測定用アンテナとの間で電波を送受信することで、評価に必要な測定値を全方位について得る、所謂OTA(Over The Air)環境試験が従来から用いられている。
【0003】
このOTA環境での測定では、第1の軸(例えばZ軸)とそれに直交する第2の軸(例えばX軸)との交点上に配置した無線端末を、第1の軸を中心に回転させ、測定用アンテナ側を第1の軸と第2の軸を含む平面(X−Z平面)または第1の軸と第3の軸(Y軸)を含む平面(Y−Z平面)内で無線端末の周りを所定半径で周回させる方式と、無線端末を第1の軸と第2の軸の交点位置に配置し、その交点位置から所定距離離れた第2の軸上の位置に測定用アンテナを固定しておき、無線端末を、第1の軸と第2の軸の交点を中心とし、第1の軸に直交する平面(X−Y平面)内および第1の軸を含む平面内で回転させる方式とがあるが、前者は測定用アンテナの可動範囲が広くなり、測定系が大型化する点で不利なため、一般的に後者の方式が広く用いられている。
【0004】
後者の方式を実現するためには、電波暗室や電波暗箱内で、2つの直交軸(Z軸、X軸)の交点位置で保持した無線端末を、その交点位置を中心に回転させて、測定用アンテナに対する姿勢を変更する端末保持回転機構が必要となる。
【0005】
この端末保持回転機構には、基本的な構造として、無線端末を保持する端末保持部、その端末保持部を垂直軸および水平軸を中心に回転させる回転機構が必要となる。
【0006】
具体的な構成例としては、垂直側の回転機構として、モータ等の駆動装置により垂直軸(Z軸)を中心にテーブルを回転させるものとし、そのテーブル上に水平側の回転機構を設ける構造が一般的となる。
【0007】
また、構成部材の材質を考慮すると、端末保持部および回転機構は、無線端末と測定用アンテナとの間で授受される電波に対する影響を極力減らす必要があり、回転機構の駆動源であるモータ等の金属材は、端末保持部から十分離間させた位置で電波吸収材で覆う必要がある。
【0008】
また、測定に最も影響を与えると思われる端末保持部およびその周辺部には、電波を透過しやすく反射しにくい比誘電率の低い材料、例えば発泡材、合成樹脂、ゴム等で形成されたものを使用する必要がある。
【0009】
このように、無線端末の測定を行なうために必要な端末保持回転機構の構成例としては、例えば、特許文献1に開示されている。
【0010】
特許文献1は、800MHz帯や2GHz帯を用いる端末の測定を考慮したもので、垂直軸周りに回転するターンテーブルの上に立てられた2本のポールの上端で、無線端末を直接支持する端末保持部(アーム)の両端を、ブーリを介して水平軸周りに回転自在に支持し、ターンテーブルおよび端末支持台を回転駆動することで、無線端末の姿勢を変更する構造を有しており、ポールの長さや比誘電率、ブーリの間隔や比誘電率等を規定することで、800MHz帯や2GHz帯を用いる無線端末の測定への影響を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−31209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、測定対象の無線端末は、携帯電話やスマートフォンのような小型なものだけでなく、タブレットのように大型の端末も考慮する必要がある。しかも、無線端末を保持する位置として、その端末の筐体内のアンテナ(以下、端末アンテナと記す)が、2つの回転軸の交点位置(測定系の回転中心とする)にあることが望ましく、その端末アンテナの位置は、その使用形態を考慮すると、一般的に端末の筐体内の周縁部に内蔵されている場合が多い。
【0013】
したがって、端末アンテナが内蔵された周縁部が、測定系の回転中心にある状態で、無線端末全体をしっかりと支えるためには、測定系の回転中心から端末の厚さ分を考慮した距離の位置で大きさが異なる種々の無線端末の背面を支えられる広い面積の底板が必要となる。
【0014】
ところが、上記のように、端末保持部の底板の面積を広くすると、その底板表面(端末に対向する面)で発生する反射波が測定に大きな影響を与える。この反射波は、端末保持部の底板表面に対する電波の入射角(=反射角)が90度に近い程(底板表面と電波の入射路とがなす角が0度に近い程)、反射率が大きくなる性質があり、その影響が顕著に現れる。
【0015】
この反射波の影響は、第5世代で用いる電波が30GHz程度あるいはそれ以上のミリ波帯で、電磁波の直進性が高いことにも起因しており、端末保持部の回転に伴う反射波の影響の大きな変化により、ミリ波帯を用いる無線端末に対する正確な測定が困難になるという問題があった。
【0016】
本発明は、この課題を解決して、端末保持部の底板の反射の影響を低減させ、ミリ波帯を用いる無線端末の特性を正確に測定できる無線端末測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の無線端末測定装置は、
外部からの電波の進入および内部での電波の反射が抑制された測定空間内の所定位置に固定された測定用アンテナ(25)と、
前記測定空間内で、前記測定用アンテナから所定距離だけ離れた位置を基準点とし、該基準点に測定対象の無線端末(1)の端末アンテナが位置する状態で前記無線端末を所定広さの底板の一面側に保持するための端末保持部(31)と、該端末保持部を前記基準点を中心に回転させる回転機構(35)とを有する端末保持回転機構(30)とを有し、
前記測定用アンテナに対する前記無線端末の姿勢を変更しつつ、前記測定用アンテナとの前記無線端末との間で電波の送受信を行うことで、前記無線端末の特性を求める無線端末測定装置において、
前記測定用アンテナと前記無線端末の一方から出力されて他方に直接入力する直接波に対し、前記一方から出力されて前記端末保持部の前記底板の前記一面で反射して他方に入力する反射波の反射率が、前記端末保持部の比誘電率によって決まる入射角対反射率の特性上で所定の許容限度を与える入射角以下となるように、前記基準点から前記端末保持部の前記底板の前記一面までの距離を設定したことを特徴とする。
【0018】
また、請求項2の無線端末測定装置は、請求項1記載の無線端末測定装置において、
前記端末保持部が比誘電率1.03の発泡材からなり、前記許容限度を与える入射角が80度であることを特徴とする。
【0019】
また、請求項3の無線端末測定装置は、請求項1記載の無線端末測定装置において、
前記端末保持部の比誘電率1.03に対して、前記許容限度を与える入射角が70度であることを特徴とする。
【0020】
また、請求項4の無線端末測定装置は、請求項1〜3のいずれかに記載の無線端末測定装置において、
前記端末保持部には、
前記底板の上に立設された複数の板体で格子状に形成され、該複数の板体の上縁で前記無線端末の筐体を支える格子状支持壁(60)と、
前記格子状支持壁を構成する前記複数の板体の上縁の任意の位置に係止可能に形成され、前記格子状支持壁の前記複数の前記板体の上縁で支えられた前記無線端末の筐体の位置を固定する端末押え(80)とが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
このように、本発明の無線端末測定装置では、測定用アンテナと測定対象の無線端末の一方から出力されて他方に直接入力する直接波に対し、一方から出力されて端末保持部の底板の一面側で反射して他方に入力する反射波の反射率が、端末保持部の比誘電率によって決まる入射角対反射率の特性上で所定の許容限度を与える入射角以下となるように、基準点から端末保持部の底板の一面までの距離を設定しているので、反射波による測定への影響を抑圧することができ、無線端末に対する測定を正確に行なうことができる。
【0022】
また、請求項2のように、端末保持部を比誘電率1.03の発泡材で形成し、前記許容限度を与える入射角を80度にした場合、反射波の反射率を0.4以下にすることができ、その反射波の影響を低減できる。また、請求項3のように、前記許容限度を与える入射角を70度にした場合、反射波の反射率を0.1以下にすることができ、その反射波の影響をさらに低減できる。
【0023】
また、請求項4のように、端末保持部の底板上に設けた格子状支持壁の上縁で無線端末の筐体を支え、その上縁の任意の位置に係止可能な端末押えで無線端末を固定するように構成されているので、格子状支持壁の高さを、前記反射率が許容限度を与える入射角以下となる基準点から底板までの距離に対応させることで、底板の反射による影響が少ない状態で、大きさが異なる測定対象の無線端末を所望位置で固定した状態で測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態の全体構成図
図2】本発明の実施形態の機構部の分解図
図3】異なる媒質の境界における電波の反射・透過のモデル図
図4】比誘電率1.03の発泡材を用いたときの入射角対反射率の特性を示す図
図5】端末保持部の水平軸周り回転による入射角の変化を説明するための図
図6】基準点から底板の端末対向面までの距離Hが25mmのときの測定結果を示す図
図7】基準点から底板の端末対向面までの距離Hが25mmのときの測定結果を示す図
図8】基準点から底板の端末対向面までの距離Hが25mmのときの測定結果を示す図
図9】基準点から底板の端末対向面までの距離Hが70mmのときの測定結果を示す図
図10】基準点から底板の端末対向面までの距離Hが70mmのときの測定結果を示す図
図11】基準点から底板の端末対向面までの距離Hが70mmのときの測定結果を示す図
図12】基準点から底板の端末対向面までの距離Hが90mmのときの測定結果を示す図
図13】基準点から底板の端末対向面までの距離Hが90mmのときの測定結果を示す図
図14】基準点から底板の端末対向面までの距離Hが90mmのときの測定結果を示す図
図15】端末保持部に用いる格子状支持壁の構成例を示す図
図16】格子状支持壁の分解図
図17】格子状支持壁の変形例
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した無線端末測定装置20の全体構成を示し、図2は、その要部である端末保持回転機構の分解図を示している。
【0026】
図1に示しているように、無線端末測定装置装置20は、電波暗箱21と、電波暗箱21内に設けられた測定用アンテナ25、端末保持回転機構30および測定部50を有している。
【0027】
電波暗箱21は、外部からの電波の進入および内部での電波の反射が抑制された測定空間を提供するものであり、外筐が金属製で外部からの電磁波の進入、内部からの電磁波の漏出が抑制され、さらに内壁全体が電波吸収材22で覆われて、内部での電磁波の反射が抑制されている。
【0028】
測定用アンテナ25は、第5世代で用いるミリ波帯(24.25GHz/28GHz/39GHzなど)の電波を送受信するための特性既知のアンテナであり、ミリ波帯では、ホーンアンテナや、プリント基板上にアンテナ素子がパターン形成されたアンテナ(例えばテーパスロットアンテナ)等を含む各種アンテナを用いることができる。この測定用アンテナ25は電波暗箱21の内部の基準点Oから所定距離L離れた壁面近傍に固定されている。この距離Lは、上記ミリ波帯の波長(10mm前後)に対して十分長く(例えば600mm)設定されており、遠方界測定が可能で且つ伝搬損失が少ない距離範囲にあるものとする。
【0029】
端末保持回転機構30は、基準点Oに測定対象の無線端末(以下、単に無線端末と記す)1の端末アンテナ1aが位置する状態で無線端末1を保持する端末保持部31と、その端末保持部31で保持した無線端末1を、基準点Oを中心に回転させる回転機構35とを有している。
【0030】
端末保持部31は、無線端末1の外形の大きさの違いや端末アンテナの位置の違い等に対応できる十分な広さと強度を確保できる厚さ(例えば外形400×400mm、厚さ10mm)の矩形の底板32を有し、図2に示しているように、その両側から山型の側板33、34が対向するように立ち上がっており、その両側板33、34の上部中央が、回転機構35に支持されている。無線端末1は、底板32の一面(図では上面)32a側に支持される(以下、底板32の無線端末1が支持される側の面を端末対向面と記す)。また、底板32の中央には、端末対向面32aと反対の面側からの電波を無線端末1に入射させるための穴32bが設けられている。
【0031】
回転機構35は、モータ36を駆動源として基準点Oを通る垂直方向の軸(以下、Z軸)を中心に回転するベース部37、ベース部37の上面の両側に平行に対向するように立設された支持アーム38、39、支持アーム38、39の上部を水平に貫通する状態で同軸に且つ回転自在に取り付けられたプーリ40、41、プーリ40、41の外側に一端側が掛けられた無端状のベルト43、44を有している。
【0032】
また、ベルト43、44の下端側はベース部37の下面側に突出したシャフト45を介して連結されていて、そのシャフト45がベース部37内部のモータ(図示せず)により回転駆動されることで、プーリ40、41が同一方向に回転する。
【0033】
プーリ40、41は、外筒部がその内側を貫通する軸部を回転自在に支持する同軸構造を有し、外筒部が支持アーム38、39の上部の穴38a、39aに勘合し、軸部の一端側が端末保持部31の両側板33、34の上部に挿着され、軸部の他端側にベルト43、44が掛けられている。このため、シャフト45の回転力がベルト43、44を介してプーリ40、41に伝達され、端末保持部31を、ブーリ40、41の回転中心を結ぶ水平方向の軸を中心に回転させる。ここで、図示しているように、ブーリ40、41の回転中心を結ぶ水平方向の軸の中間が、前記基準点Oとなるように各部の長さが設定されている。
【0034】
また、無線端末1は、その端末アンテナ1aの位置が、基準点Oに一致するように底板32の端末対向面32a側に保持される。ここで、後述するように、基準点Oから底板32の端末対向面32aまでの距離は、後述するように、反射波の影響を低減させるための距離に設定され、その距離が無線端末1の筐体の厚さに比べて大きいため、無線端末1の筐体下面側と端末対向面32aとの間に隙間が生じることになるが、この隙間を、底板32の端末対向面32aと平行な広い面をもつ部材で埋めたのでは、端末対向面32aが実質的に基準点Oに近づくことになり、反射波の影響を低減させることができない。
【0035】
これを解決する一つの技術として、本実施形態では、後述するように、底板32の端末対向面32aに立設された複数の板体で格子状に形成された格子状支持壁と、その格子状支持壁を形成する複数の板体の上縁に係止可能な端末押えを用いて、大きさが異なる測定対象の無線端末を所望位置で固定した状態で測定できるようにしている。この格子状支持壁と端末押えの構成例については後述する。
【0036】
上記端末回転保持機構30を構成する部材のうち、端末保持部31、ベース部37の上面側、支持アーム38、39には、非導電性で低誘電率の部材、例えば、スチレンボード(商品名ミラボード等)や発泡スチロール等で、発泡率が15〜40倍程度の発泡材を用い、モータ等の金属部が設けられたベース部37の下面側を電波吸収材22で覆って測定への悪影響を防いでいる。ミラボードの発泡倍率は15倍程度、発泡スチロールの発泡倍率は40程度であり、発泡倍率が大きいほど比誘電率は1に近づくが強度が弱くなる。したがって、同じ厚さで大きな形状の部材に対しては、発泡倍率の小さいものを使用する必要がある。また、支持アーム38、39の外周面には、補強用のリブ38b、39bが突設されている。
【0037】
ただし、回転駆動されるプーリ40、41としては、上記発泡材では強度的に不足するため、例えばテフロン(登録商標)等の低誘電率(比誘電率2前後)の合成樹脂を用いているが、ミリ波帯での損失が大きくなってしまい、基準点Oから測定用アンテナ25を結ぶ軸(X軸)上に、プーリ40、41が位置する角度については測定不能範囲とする。
【0038】
測定部50は、測定用アンテナ25に対する無線端末1の姿勢を変更しつつ、測定用アンテナ25との無線端末1との間で電波の送受信を行なわせ、無線端末1の特性を求めるのであり、回転制御部51と特性取得部52とを有している。
【0039】
回転制御部51は、回転機構35のモータを制御して、測定用アンテナ25に対する無線端末1の姿勢を基準姿勢から、基準点Oを通る垂直軸(Z軸)周りおよび基準点Oを通る水平軸の周りにそれぞれ所定ステップ(例えば、1度ステップ)で回転させ、その角度情報(θ、φ)を特性取得部52に通知する。特性取得部52は、例えば、測定用アンテナ25に測定用信号を供給し、その測定用信号に対する無線端末1からの応答信号を受信し、その応答信号から特性評価に必要な情報を取得し、これを角度情報(θ、φ)とともに記憶して、測定用アンテナ25に対する無線端末1の全ての姿勢について特性情報を所得し、その測定結果を出力する。なお、取得する特性には、無線端末1の指向特性やスループット特性等がある。
【0040】
これらの測定を正確に行なうためには、測定用アンテナ25と無線端末1のいずれか一方から他方に直接伝搬する直接波のみを考慮する必要があり、一方から出力されて別部材で反射して他方に入射する反射波を極力抑制しなければならない。
【0041】
このために、上記したように、端末保持部31、ベース部37の上面側および支持アーム38、39として、発泡材のような比誘電率が低い(発泡倍率によるが通常は1.1以下)の部材を用いているが、たとえこのような低誘電率の部材を用いても、電波の入射角が大きいと反射率が極めて大きくなる。
【0042】
即ち、発泡材の基になる原材の比誘電率をε′とし、発泡倍率をNとすると、その発泡材の比誘電率εは、次式で表される。
ε={(N−1)+ε′}/N
【0043】
原材をポリスチレン(比誘電率ε′=2.25)、発泡倍率N=40とすれば、発泡材の比誘電率εは、約1.03となる。
【0044】
また、平面境界に対する電波の反射、透過の関係については、図3に示すように、導電率μ1、誘電率ε1の媒質Aから導電率μ2、誘電率ε2の媒質Bとの境界面に入射角θ1で入射する電波の一部の成分が媒質B内に透過角θ2で透過し、残りの成分が反射角θrで媒質A側に反射するモデルを入射波の垂直偏波成分Ex、Eyと水平偏波成分Ezに分けて考察する。
【0045】
スネルの法則から、入射角θ1と反射角θrは等しい。また、屈折率をn、
η1=√(μ1/ε1)
η2=√(μ2/ε2)
=ε2/ε1=(媒質Aに対する媒質Bの比誘電率ε
とすれば、水平偏波成分の反射係数Rhおよび透過係数Th、垂直偏波成分の反射係数Rvおよび透過係数Tvは、次のように与えられることが知られている。
【0046】
Rh={cosθ1−√(n−sinθ1)}/{cosθ1+√(n−sinθ1)}
Rv={ncosθ1−√(n−sinθ1)}/{ncosθ1+√(n−sinθ1)}
Th=2cosθ1/{cosθ1+√(n−sinθ1)}
Tv=2ncosθ1/{ncosθ1+√(n−sinθ1)}
【0047】
上記式のうち、入射角θ1に対する反射係数Rh、Rvの変化について検討すると、θ1が0度のとき、cosθ1=1、sinθ1=0となるので、
Rh=(1−n)/(1+n)
Rv=(n−n)/(n+n)=(n−1)/(n+1)
となり、両者の絶対値|Rh|、|Rv|は等しく、媒質Bが発泡倍率40の発泡スチロールであれば、n=ε=1.03であるから、
|Rh|=|Rv|=0.03/2.03≒0.015
となり、いずれの反射率も0.1以下で0に近く、入射波のほとんどが媒質B内に進入して透過することになる。
【0048】
また、入射角θ1が45度のとき、cosθ1=1/√2、sinθ1=1/2となるので、
Rh={(1/√2)−√(n−1/2)}/{(1/√2)+√(n−1/2)}
Rv={n(1/√2)−√(n−1/2)}/{n(1/√2)+√(n−1/2)}
となり、n=1.03とすると、
|Rh|≒0.03
|Rv|≒0
となり、この場合も、いずれの反射率も0.1以下で0に近く、入射波のほとんどが媒質B内に進入して透過することになる。
【0049】
また、入射角θ1が60度のとき、cosθ1=1/2、sinθ1=3/4となるので、
Rh={1/2−√(n−3/4)}/{1/2+√(n−3/4)}
Rv={n/2−√(n−3/4)}/{n/2+√(n−3/4)}
となり、n=1.03とすると、
|Rh|≒0.05
|Rv|≒0
となり、この場合もいずれの反射率も0.1以下で、入射波のほとんどが媒質B内に進入して透過することになる。
【0050】
また、入射角θ1が80度のとき、cosθ1≒0.736、sinθ1≒0.970となり、n=1.03のとき、
|Rh|≒0.42
|Rv|≒0.44
となり、いずれの反射率もほぼ0.4以上となり、入射波の40%以上が反射されることになる。
【0051】
さらに、θ1が90度に極めて近くなると、cosθ1≒0、sinθ1≒1となるので、
|Rh|=|{−√(n−1)}/{√(n−1)}|≒1
|Rv|=|{−√(n−1)}/{√(n−1)}|≒1
となり、nの値によらず、いずれの反射率もほぼ1となり、入射波のほぼ全てが反射することになる。
【0052】
これらの計算結果から、媒質Bとして発泡倍率40、比誘電率1.03の発泡材を用いた場合、入射角に対する反射率の変化は、図4のように、入射角θ1が70度より小さい範囲では、反射率が0.1以下と非常に小さく、70度を超え90度までの範囲で急激に反射率が高くなることがわかる。
【0053】
このように反射率が高いと、直接波による測定に影響を及ぼすので、反射率の許容される限度を例えば0.4(許容限度A)とすると、入射角を80度以下に制限する必要がある。また、より高い測定精度が要求される場合で、反射率の許容限度を0.1(許容限度B)とする場合には、入射角を70度以下に制限する必要がある。
【0054】
このため、実施形態の無線端末測定装置20では、端末保持部31の底板32の端末対向面32aに対する電波の入射角が上記制限角以下となるように、基準点Oから端末対向面32aまでの距離Hを設定している。
【0055】
この距離Hについては、実験的にその距離を変化させて、測定に与える影響の程度を求めている。以下、その点について説明する。
【0056】
実験は、基準点Oに、例えば端末アンテナや測定用アンテナと同一構造の基準アンテナ(図示せず)を固定し、端末保持部31を基準点Oを中心に回転させながら、測定用アンテナ25から所定パワーの電波を送信し、これを基準アンテナで受信して、その受信電力の測定を行ない、端末保持部31の回転角度による送受信への影響を調べる(送受を逆にしてもよい)というものである。ここでは、測定系の影響を調べるために、基準アンテナは、端末保持部31に保持させず、別の支持方式(例えば、電波暗箱21の内壁上部から糸状体により吊り下げる等)で基準点Oに一定の姿勢で固定している。
【0057】
この状態で、端末保持部31と、ベース部37の材質および端末保持部31の水平方向の回転軸からの深さ(つまり基準点Oから端末保持部31の底板32の端末対向面32aまでの距離H)を変えたときの測定値の変化を回転角度ごとに求めるが、その前に、上記寸法例について図5を用いて、幾何学的に検討する。
【0058】
図5の(a)では、基準アンテナが置かれる基準点Oを通る垂直軸をZ軸、基準点OでZ軸に直交し、測定用アンテナ25に至る軸をX軸とし、基準点OでZ軸およびX軸に直交する線をY軸とする。そして、基準点Oから測定用アンテナ25までの距離をL(=600mm)、基準点Oから端末対向面32aの中央までの距離をH、端末対向面32aの中央から先端までの距離をA(=400mm/2=200mm)とし、端末保持部31の水平方向の回転軸がY軸に重なり、基準点Oの下方で端末対向面32aが水平状態となる位置を基準状態とする。
【0059】
この基準状態においては、基準点Oを通るZ軸から測定用アンテナ25までの距離L=600mmに対して、Z軸から端末対向面32aの測定用アンテナ25側のエッジ位置Eまでの距離A=200mmは半分未満である。
【0060】
したがって、測定用アンテナ25から出力されてエッジ位置Eに入射する電波の入射角αに対して、そのエッジ位置Eから基準点Oに至る線と端末対向面32aの法線とがなす角βは必ず小さくなり(α>β)、エッジ位置Eで反射角αで反射する成分は、基準点Oと端末対向面32aの間を通過することになる。ただし、実際の電波には、ビームの拡がりもあり、アンテナは所定広さの開口面を有しているので、基準点O近傍を通過する反射成分は基準アンテナで受信されるが、ここでは、そのビームの拡がりとアンテナの開口面を無視して考察する。
【0061】
このように、上記数値例で、基準状態においては、測定用アンテナ25から出力されて端末対向面32aで反射する成分は、基準点Oから端末対向面32aまでの距離Hに無関係に、基準点Oと底板32の端末対向面32aの間を通過することになる。
【0062】
ところが、図5の(b)のように、端末保持部31が、Y軸周りに角度γだけ回転した状態では、エッジ位置Eに入射する電波の入射角α′は、端末対向面32aが角度γだけ傾いたことにより、基準状態の入射角αより小さくなる。これに対し、エッジ位置Eから基準点Oに至る線と端末対向面32aの法線とがなす角βは角度γによらず一定である。
【0063】
したがって、角度γを増やしていくと、入射角α′が角度βと等しくなり、エッジ位置Eでの反射成分が基準点Oに入射する反射波となり、直接波とともに基準アンテナに入射され、測定に対する影響が無視できなくなる。ただし、前記したように、その入射角α′が例えば80度以下となるように構成すれば、反射波の反射率は小さくなり、直接波とのレベル差も大きくなって測定への影響も小さくできる。
【0064】
次に、実際に反射波の影響を調べた実験結果を示す。
図6は、端末保持部31とベース部37(支持アーム38、39を含む)を発泡倍率40倍の発泡スチロールを用い、基準点Oから端末対向面32aまでの距離Hを25mmとしたときの測定結果を示している。
【0065】
図6の横軸はZ軸周りの角度θ(基準状態は90度)、縦軸は信号強度の測定結果を表し、水平軸の角度φを270度(基準状態)から275度まで1度ずつ変化させたときの測定結果を示している。
【0066】
この測定結果から明らかなように、横軸θ=15〜165度の範囲で、水平軸の角度φ(端末対向面32aの角度)を水平状態(270度)から左回りに1度ずつ傾けたときに、測定結果の偏差が−2〜+1dBmの範囲に拡がることがわかる。この測定値の大きな偏差は、前記した端末対向面32aからの反射波の影響が強く現れた結果と考えられる。前記したように、実験ではアンテナの開口やビーム幅等の影響により、基準状態(270度)においても反射波の影響が強く現れていることがわかる。
【0067】
なお、この場合の角度βは、
β=90−tan−1(H/A)=90−tan−1(25/200)≒82.9(度)
で前記した80度を超える範囲に入っており、この角度βに近い入射角で入射した電波が非常に大きな反射率で反射し、基準点Oの近傍に出力されるため、上記のような測定結果に大きな偏差が現れることになる。
【0068】
また、横軸195〜345度の範囲では、直接波は穴32bを通して基準アンテナに入力するが、その穴32bの外側に入射する電波は、端末対向面32aと反対の面に浅い角度で入射して、そのほとんどが反射してしまうので、測定値の偏差は小さくなっている。
【0069】
この測定結果で、横軸θ=0〜15度、165〜190度、345〜360度の範囲の大きな減衰は、前記したプーリ40、41の損失によるものである。また、横軸45度、135度、225度、315度付近での変動は、外形が矩形の端末対向面32aの角部が測定用アンテナ25側に近づいて入射角がβに近くなる点、および端末保持部31の側板33、34の影響と思われる。
【0070】
図7は、上記同様にH=25mmで、水平軸の角度φを300度から305度まで1度ずつ変化させたときの測定結果であり、端末対向面32aの角度が基準状態から30度以上傾いたことで、端末対向面32aに対する入射波の入射角が小さくなり、反射率が格段に低下するので、直接波に対する反射波の影響はほとんどみられず、水平軸の角度φの変化に対する測定結果の偏差も極めて少ない。
【0071】
図8は、上記同様に、H=25mmで、水平軸の角度φを270度(基準状態)から360度(直立状態)まで変化させたときの測定結果を重ねて示したものであり、横軸θ=15〜165度の範囲で、測定結果の偏差が、およそ−3.5〜+1.5dBmの範囲に拡がり、横軸195〜345度の範囲で、測定結果の偏差が、およそ−3.5〜+1dBmの範囲に拡がっており、全体的にみても精度の高い測定が困難である。
【0072】
図9は、基準点Oから端末対向面32aまでの距離Hを70mmにした場合で、水平軸の角度φを270度(基準状態)から275度まで1度ずつ変化させた時の測定結果を示している。なお、この例では、強度確保のために、ベース部37(支持アーム38、39を含む)の材料として発泡スチロールの代わりにミラボードを用いている。
【0073】
この図9の測定結果では、水平軸の角度φの変化に対する測定結果の偏差が、−1〜+0.5dBmに収まっており、横軸θ=30〜150度、210〜330度に限定すれば、−0.5〜+0.5dBmに収まっており、前記図6の測定結果と比較して、格段に測定精度が向上していることがわかる。
【0074】
これは、基準点Oから底板32の端末対向面32aまでの距離Hを25mmから70mmに変更したことで、前記角度βが、
β=90−tan−1(70/200)≒70.7(度)
と、前記した80度より小さくなり、反射率が非常に小さくなることに起因しており、直接波への影響が格段に少なくなる。
【0075】
図10は、上記同様にH=70mmで、水平軸の角度φを300度から305度まで1度ずつ変化させたときの測定結果であり、前記したように、端末対向面32aの角度が基準状態から30度以上大きくなったことで、端末対向面32aに対する入射波の入射角が小さくなり、反射率が格段に低下するので、直接波に対する反射波の影響はほとんどみられず、水平軸の角度の変化に対する測定結果の偏差も極めて少ない。
【0076】
図11は、上記同様にH=70mmで、水平軸の角度φを270度(基準状態)から360度(直立状態)まで変化させたときの測定結果を重ねて示したものであり、横軸θ=15〜165度の範囲で、測定結果の偏差が、およそ−1.5〜+0.5dBmの範囲に収まり、横軸195〜345度の範囲で、測定結果の偏差が、およそ−2.5〜+1dBmの範囲に収まっており、全体的にみても精度の高い測定が可能である。
【0077】
図12は、基準点Oから端末対向面32aまでの距離Hを90mmにした場合で、水平軸の角度φを270度(基準状態)から275度まで1度ずつ変化させた時の測定結果を示している。なお、この例では、強度をさらに確保するために、端末保持部31およびベース部37の材料として発泡スチロールの代わりにミラボードを用いている。
【0078】
この図12の測定結果では、水平軸の角度φの変化に対する測定結果の偏差が、−1.5〜+0.5dBmに収まっており、前記図6の測定結果と比較して格段に測定精度が向上していることがわかる。また、図9の測定結果とほぼ同等の結果が得られている。
【0079】
この場合、前記角度βは、
β=90−tan−1(90/200)≒65.8(度)
となり、図9の角度βよりさらに小さいため、反射率は非常に小さくなり、直接波への影響が格段に少なくなる。
【0080】
図13は、上記同様にH=90mmで、水平軸の角度φを300度から305度まで1度ずつ変化させたときの測定結果であり、前記したように、端末対向面32aの角度が基準状態から30度以上大きくなったことで、端末対向面32aに対する入射波の入射角が小さくなり、反射率が格段に低下するので、直接波に対する反射波の影響はほとんどみられず、水平軸の角度φの変化に対する測定結果の偏差も極めて少ない。ただし、図10の測定結果と比較すると、横軸θ=195〜345度の範囲での変動が増えている。この変動は、材質をミラボードにしたことによる影響と思われる。
【0081】
図14は、上記同様にH=90mmで、水平軸の角度φを270度(基準状態)から360度(直立状態)まで変化させたときの測定結果を重ねて示したものであり、横軸θ=15〜165度の範囲で、測定結果の偏差が、およそ−1.8〜+0.1dBmの範囲に収まっているが、横軸θ=195〜345度の範囲では、測定結果の偏差が、およそ−2.5〜+1.3dBmの範囲でばらついており、図11のH=70mmの測定結果より劣っている。
【0082】
また、距離Hをさらに大きくすることもできるが、端末保持部31の深さ(水平軸から底板32の端末対向面32aまでの距離)が増すことで、その回転に必要な領域を拡大しなければならず、測定系が大型化し、また強度確保のために、より発泡率の低い部材を用いる必要があり、上記H=90mmのような測定結果の変動が増えることが予想される。
【0083】
これらのことから、上記数値例でH=70mmとし、ベース部37をミラボード、端末保持部31を発泡倍率40の発泡スチロールで構成したものが、最もよい測定結果を与えていることがわかる。
【0084】
ただし、このH=70mmという値は、L=600mm、A=200mmの場合に、角度βが80度以下となる一つの数値例であり、65mm〜75mmであっても同等の測定結果を得ることができると予測される。また、LやAの値が異なれば、角度βを許容角度(80度)以下とするための基準点Oから端末対向面32aまでの距離Hも変える必要がある。
【0085】
つまり、端末保持部31の材質から求まる図4の角度対反射率の特性で許容される反射率(前記例では0.4、あるいは0.1)を与える許容角度β(前記例では80度あるいは70度)に対し、
β=90−tan−1(H/A)
で表される角度βを小さくすればよい。
【0086】
これは、数式上では、(H/A)の値を大きくすることで実現できるが、そのために、Aを小さく(端末対向面32aの広さを縮小)すれば、タブレットのような大型の無線端末の支持が困難となり、Hを大きくすれば、端末保持部31の回転半径が増して、測定系が大型化し、強度確保のために発泡倍率の低い部材を使用せざるを得ず、その反射の影響を受けやすくなる。結局、Aは、測定対象の無線端末の大きさで決まるので、上記のように、Hを適正な範囲に設定する必要がある。
【0087】
なお、上記構成例では、基準点Oから測定用アンテナ25までの距離L(=600mm)を、端末対向面中央からエッジまでの距離A(=200mm)の2倍より大きくしていたが、Aに対するLの倍率をさらに大きくすれば、端末対向面32aのエッジ位置Eに対する入射角αが大きくなり反射率が高くなる。ただし、Lを大きくすると測定系が大型化し、しかもミリ波帯の伝搬損失が大幅に増すので1000mm程度が限度と思われる。
【0088】
反対に、Aに対するLの倍率を小さくして、例えばL=2Aにすると、基準状態で、端末対向面32aのエッジ位置Eに対する入射角αが小さくなり、反射率は小さくなるが、反射角とβが一致するから、反射波が基準点Oを通過することになる。
【0089】
また、Aに対するLの倍率をさらに小さくして、例えばL<2Aにすると、基準状態で、端末対向面32aのエッジ位置Eに対する入射角αがさらに小さくなり、そのエッジ位置Eでの反射率はさらに小さくなるが、そのエッジ位置Eでの反射角はβより小さくなり、そのエッジ位置からの反射波は、基準点Oの上方を通過することになる。ただし、この場合、基準状態で、端末対向面32aのエッジ位置Eより内側のいずれかの位置に入射した電波の入射角αがβと等しくなり、その位置からの反射波が基準点Oを通過することになる。
【0090】
これらの場合でも、端末対向面32a上に入射し、基準点Oおよびその近傍を通過する角度で反射する電波の反射率が、許容反射率より小さくなるように、Aに対してHを設定すれば、直接波による測定への影響を十分低減できる。
【0091】
上記実験結果から、基準点Oから端末保持部31の底板32の端末対向面32aまでの距離Hを70mm程度にすると反射波の影響が少ないことが確認されたが、携帯電話、スマートフォン、タブレット等の無線端末1の厚さは70mmより格段に薄い(一般的に10mm以下)ので、無線端末1を、その内部の端末アンテナの位置(厚さ中心にあるとする)が基準点Oに一致した状態で水平に保持するためには、前記したように、底板32の端末対向面32aから(H−α)mm高い位置に支持する必要がある(αは、端末筐体の下面から端末アンテナまでの距離で例えば端末筐体の厚さの1/2程度)。
【0092】
この高さを得るための一つの手段として、例えば、図15図16に示す格子状支持壁60と端末押え80を用いることが考えられる。
【0093】
この格子状支持壁60は、底板32の上に立設された複数の板体で格子状に形成されて、その上縁で無線端末1の筐体を背面側から支えるためのものであり、端末押え80は、格子状支持壁60を構成する複数の板体の上縁の任意の位置に係止可能に形成され、その上縁で支えられた無線端末1の筐体の位置を固定する。
【0094】
格子状支持壁60の構造は種々考えられるが、この例では、例えば発泡倍率20倍程度、厚さ数ミリ程度、高さH′が前記H−α程度(例えば65mm程度でとするが支持する無線端末端末の厚さや筐体内の端末アンテナの高さ位置に応じて変更すればよい)の略長方形の複数(図では6枚)の発泡材からなる板体61〜67を用いて格子状に組んだものである。
【0095】
この例では、4枚の板体61〜64の両端同士を嵌め合わせて一辺が底板32の外形と同等の400mmのほぼ正方形となるように組まれた枠の内側に、1枚の板体65が横方向に取り付けられ、それに交差するように2枚の板体66、67が縦方向に取り付けられている。枠状に組まれた外側の4枚の板体61〜64の下縁は、底板32の上面側の端末対向面32aに対して接着や嵌め合わせなどにより固定されている。また、板体61〜64の上縁には、一定間隔(例えば25mm間隔)で、所定深さのスリット71が設けられており、内側の板体65〜67の両端上部には、スリット71に差し込み可能な差込片72が設けられている。また、板体65の下縁には、その中心の両側でスリット71の間隔(25mm)の2倍の距離に交差用のスリット73が設けられ、板体66、67の上縁には、その中心およびその両側でスリット71の間隔(25mm)の4倍の距離に交差用のスリット74が設けられている。ここで、スリット71および交差用スリットの幅は、差し込まれる板体65〜67が抜けないように、板体65〜67の厚さより若干狭く形成されている。なお、交差用のスリット73、74の数は、スリット71の間隔の整数倍の間隔でより多く設けてもよい。
【0096】
したがって、これらスリットの組み合う位置を選ぶことにより、後述するように枠内の内側の板体65〜67の位置を変更することができる。
【0097】
なお、この構造例では、格子状支持壁全体の強度を確保するために外側の4枚の板体61〜64の厚さ(例えば5mm)は、内側の3枚の板体65〜67の厚さ(例えば3mm)より大に形成されている。
【0098】
また、これら内側の板体65〜67の上縁の任意の位置に係止可能な端末押え80が設けられている。
【0099】
端末押え80は、発泡材からなり、下縁にスリット82が設けられた基板81と、上縁に設けられたスリット84と基板81のスリット82とを嵌め合わせて基板81に直交するように係着される押え板83からなり、基板81のスリット82を板体65〜67の上縁に隙間のない状態で受入れ、その上縁に支えられた無線端末の筐体の縁部を押え板84の下縁で押さえつける。ここで、スリット82、84の幅は、板体65〜67から抜けないように、板体65〜67の厚さより若干狭く形成されている。
【0100】
図17は、板体65〜67の位置の変更例を示すものであり、図17の(a)は、板体65を枠の中央を通過するように固定し、板体66、67を枠の中央に対して対称な位置に固定した例である。この配置例では、図示のように、スマートフォンのような筐体が小型の無線端末1の背面側を板体65、67の上縁で支え、無線端末1の筐体の短辺近傍の端末アンテナが基準点Oと一致する状態で、無線端末1の筐体の縁部と板体65、67の上縁の交わる位置(図で白丸〇でに示す)に端末押え80を取り付けることで、無線端末1の位置を固定することができる。なお、基準点Oおよびその近傍の位置には、端末押え80の影響を考慮して端末押え80を用いていない。
【0101】
また、図17の(b)は、板体65を枠の中央より上側(板体63に近い位置)にずらして固定した例である。この配置例では、図示のように、タブレットのような筐体が大型の無線端末1の背面側を板体65〜67の上縁で支え、無線端末1の筐体の長辺中央近傍の端末アンテナが基準点Oと一致する状態で、無線端末1の筐体の縁部と板体65〜67の上縁の交わる位置に端末押え80を取り付けることで、無線端末1の位置を固定することができる。
【0102】
また、図17の(c)は、板体65を枠の中央より下側(板体61に近い位置)にずらして固定した例を示している。この配置例では、図示のように、タブレットのような筐体が大型の無線端末1の背面側を板体65、67の上縁で支え、無線端末1の筐体の角部近傍の端末アンテナが基準点Oと一致する状態で、無線端末1の筐体の縁部と板体65、67の上縁の交わる位置に端末押え80を取り付けることで、無線端末1の位置を固定することができる。
【0103】
このように、格子状支持壁60は、端末対向面32aに対して直立した発泡材の薄い板体により形成されているので、端末対向面32aが水平状態に近い角度であっても、格子状支持壁60に入射する電波の入射角は必然的に小さくなり、大きな透過率で電波を透過させるので、この格子状支持壁60による反射の影響は少なくて済む。また、格子状支持壁60の枠内の板体65〜67の位置を変更できるから、端末アンテナを基準位置Oに配置した状態で、内側の板体65〜67の上縁と無線端末1の筐体の縁部とが交差する位置を種々変更でき、無線端末の外形に対するアンテナ位置の違いに応じて、適切な位置に無線端末1の位置決め固定が可能となる。
【0104】
なお、上記格子状支持壁60および端末押え80の構造は一例であり、格子状支持壁60としては、底板32の上に立設された複数の板体で格子状に形成されて、その板体の上縁で無線端末1の筐体を背面側から支える構造であれば他の任意の構造が採用できる。例えば、上記構造では強度確保のための四角の外枠を設け、その内側に1枚の板体と二枚の板体を交差させた状態で支持する構造であったが、外枠を省略し、2枚の板体同士を井桁状に交差させて形成した格子状支持壁を用いてもよい。また、端末押え80の構造についても、格子状支持壁60を形成する板体65〜67の上縁の任意の位置に係止可能で無線端末の筐体縁部を板体の上縁に押さえつけるものであれば他の任意の構造が採用できる。
【符号の説明】
【0105】
1……無線端末、20……無線端末測定装置、21……電波暗箱、22……電波吸収材、30……端末保持回転機構、31……端末保持部、32……底板、32a……端末対向面、32b……穴、33、34……側板、35……回転機構、36……モータ、37……ベース部、38、39……支持アーム、40、41……プーリ、43、44……ベルト、45……シャフト、50……測定部、51……回転制御部、52……特性取得部、60……端末支持壁、61〜67……板体、71、73、74……スリット、72……差込片、80……端末押え、81……基板、82、84……スリット、83……押え板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17