(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-136659(P2019-136659A)
(43)【公開日】2019年8月22日
(54)【発明の名称】水保持剤
(51)【国際特許分類】
B01J 20/24 20060101AFI20190726BHJP
A61K 8/98 20060101ALN20190726BHJP
A61Q 19/00 20060101ALN20190726BHJP
C09K 3/00 20060101ALN20190726BHJP
【FI】
B01J20/24 B
A61K8/98
A61Q19/00
C09K3/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-22658(P2018-22658)
(22)【出願日】2018年2月13日
(71)【出願人】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(72)【発明者】
【氏名】山口 信哉
(72)【発明者】
【氏名】菊地 徹
【テーマコード(参考)】
4C083
4G066
【Fターム(参考)】
4C083AA071
4C083CC01
4G066AB29B
4G066BA36
4G066CA43
4G066DA07
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】製造にあたって安全で簡易な方法で、生分解性で、水不溶性の水吸水性や水保持能を有する材料を提供する。
【解決手段】含有元素とその量が窒素14.6(W/W)%±10%、炭素50.0(W/W)%±10%、硫黄1.3(W/W)%±10%、カルシウム0.3(W/W)%±10%である鮭由来の水保持剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性の水保持剤において、含有元素とその量が窒素14.6(W/W)%±10%、炭素50.0(W/W)%±10%、硫黄1.3(W/W)%±10%、カルシウム0.3(W/W)%±10%である、鮭由来の水保持剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性を有する吸水性及び水保持物質に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、吸水性及び水保持物質は、日用品や農業・園芸分野、建築・土木分野に使用されているが、これらの分野では水不溶性のプラスチック系のポリマーが多く用いられている。プラスチックは水中や土中に半永久的に存在することになるので、地球の生態系に及ぼす影響が明らかになっていない現在、好ましくない。具体的な事例として近年、マイクロビーズプラスチックによる海洋汚染が問題となっており、魚に取り込まれたプラスチックを人が摂取し、濃縮循環サイクルの問題が指摘されている。このように、環境対策上、自然に分解される材料、素材が強く求められている。
【0003】
そのうち例えばデンプンは保水性があり、生分解性であるが、水溶性のため用途に限度があった。また、セルロース系材料も生分解性であり、難水溶性であるが、水吸水、保持能は弱い。最も多く用いられているプラスチック系ポリマーは、生分解性を有しない欠点があった。
【0004】
プラスチック系ポリマーに生分解性の性質を持たせるため、多糖やアミノ酸などの生体物質を材料にするものが開発されている。ポリ(γ−グルタミン酸)を材料とするもの(特許文献1)やポリ(ε−リジン)を材料とするもの(特許文献2)は、放射線照射により架橋体を生成させている。しかし、放射線は装置が大かがりで特殊であり、管理も厳しく、一般の人が容易に使用できる装置ではない。また、多官能カルボン酸とポリエーテルを架橋することにより調製する材料もあるが、ゲル状のため、水に溶解する欠点がある(特許文献3)。ポリこはく酸イミド類と多糖類を架橋反応させる方法もあるが(特許文献4)、ポリこはく酸イミド類は高価であり、吸水剤のコストが高くなる欠点がある。架橋剤により吸水剤を合成するものもあるが(特許文献5、特許文献6)、架橋剤は毒性を有する物が多く、製造工程上、健康被害や扱いにくい欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−322358号 公報
【特許文献2】特開平7−300563号 公報
【特許文献3】特開2000−95847号 公報
【特許文献4】特開2000−290502 公報
【特許文献5】特開2009−6284号 公報
【特許文献6】特開2016−124995号 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述したような従来の吸水性や水保持能を有する材料の持つ欠点を克服し、生分解性を有する新規の水保持剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために、本発明は、含有元素とその量が窒素14.6(W/W)%±10%、炭素50.0(W/W)%±10%、硫黄1.3(W/W)%±10%、カルシウム0.3(W/W)%±10%である鮭由来の水不溶性の物質が上記課題を解決することを見出したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、安全で簡易な方法で、吸水性や水保持能を有する生分解性の物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の、実施例1の分析に係り、本発明品のKBrディスク透過法により測定した赤外吸収スペクトルを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態をより具体的に説明する。
【0011】
本明細書の水保持剤とは、水溶液を吸収し、吸収した水溶液を保持する作用を有する物質をいう。
【0012】
本発明でいう鮭は、サケ目サケ科サケ属のシロザケを主にいう。本発明の水保持剤は、鮭から調製される、乾物重量当たりで含有元素とその量が窒素14.6(W/W)%±10%、炭素50.0(W/W)%±10%、硫黄1.3(W/W)%±10%、カルシウム0.3(W/W)%±10%である水不溶性の物質である。
【0013】
本物質の製造法はいろいろあるが、例えば、鮭の頭の皮を剥離し、鼻軟骨部分を得る。この鼻軟骨部分をアセトンやヘキサンなどの有機溶剤で脱脂処理し、有機溶剤を揮発除去する。次に酸溶液にて処理し、酸不溶部を中性になるまで水洗し、アルカリ溶液にて処理する。アルカリ不溶部を中性になるまで水洗し、水を加え、破砕する。水可溶部をろ過などで除去し、水不溶部を得る。得られた水不溶部に含有されている水分を加熱や風乾、減圧乾燥などにより除去して完成である。加熱乾燥は、焦げ付かないよう50℃以上100℃以内が好ましい。必要に応じて各種方法により粉砕、篩い分けし、用途に応じた粒径の大きさを用いる。水分を除去する前に湿式で粉砕してから、乾燥してもよい。粉砕の前か後ろのどちらかで、メタノールやエタノール、プロパノールなどのアルコールやアセトンなどの水和性有機溶剤を加え、脱水してよい。残留した有機溶剤は、自然乾燥や減圧乾燥で除去できる。
【0014】
本発明品は使用にあたって、他の水吸収剤と併用してもよいし、乾燥した袋などに入れてもよい。
【0015】
本発明品は、鮭由来であり、合成、架橋していないことから、自然界において加水分解されるか微生物の作用等によって容易に分解されるものであり、環境汚染等のおそれがない。
【0016】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これは単に例示の目的で述べるものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
(水保持剤の調製)
3匹分の鮭鼻軟骨に4%(V/V)酢酸溶液800mL加え、室温で3日間、静置した。ガーゼでろ過し、残った鮭鼻軟骨にアセトンを1L加え、室温で一晩放置した。アセトンを廃棄し、再びアセトン1L加えた。これを計3回行い、最後にヘキサン800mL加え室温で一晩放置した。アセトン及びヘキサンで処理した鮭鼻軟骨をドラフト内で3日間風乾した。これを中性になるまで純水で水洗し、次に0.1MのNaHCO
3を800mL加え、4℃で一晩静置した。ガーゼでろ過し、これを中性になるまで純水で水洗し、ジューサーに純水を加え、これを破砕した。ガーゼでろ過し、残った部分を再度ジューサーに純水を加え、破砕した。ガーゼでろ過し、固形分を集め、65℃で熱風乾燥した。これを市販のミル(SML−25、サン株式会社)で1分間粉砕し、水保持剤を得た。
【0018】
(水保持剤の化学分析)
水分含量は、熱天秤装置(Thermo Plus TG8210、株式会社リガク)にて、120℃で試料重量が恒量となるまで加熱し、重量減少分を試料に含まれていた水分量とした。その結果、水分含量は5.0%であった。
【0019】
カルシウム含量とリン酸含量は、蛍光X線分析装置(EDX−800HS、株式会社島津製作所)を用い、トウモロコシデンプン(製造専用、日本薬局方、和光純薬工業株式会社)に、所定の濃度になるようりん酸水素カルシウム二水和物(特級、和光純薬工業株式会社)を乳鉢にて十分混合し、検量線を作成し、求めた。その結果、カルシウムは乾物重量当たり0.3(W/W)%±10%であった。本方法によるリン含量の測定下限値は0.9%であったこともあり、リンは検出されなかった。
【0020】
炭素、窒素、硫黄含量は、燃焼型元素分析装置vario EL cube(エレメンタール社)を用い、炭素・水素・窒素・硫黄の4元素測定モードで測定した結果より算出した。その結果、炭素は乾物重量当たり50.0(W/W)%±10%、硫黄は1.3(W/W)%±10%であった。
【0021】
赤外吸収スペクトルは、KBrディスク透過法で測定した。赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR−420、日本分光株式会社)を用いて、測定範囲4000〜400cm
−1、分解能4cm
−1、積算回数54、スキャンスピード2mm/秒の条件で測定した。その結果を
図1に示す。図の横軸は波数(cm
−1)を表し、縦軸は透過率(%)を表す。図中の数字は吸収ピークを表す。ピーク1:2929cm
−1、ピーク2:1654cm
−1、ピーク3:1544cm
−1、ピーク4:1455cm
−1、ピーク5:1403cm
−1、ピーク6:1240cm
−1、ピーク7:1074cm
−1、ピーク8:675cm
−1、ピーク9:491cm
−1に吸収が見られた。
【0022】
(遠心法による水保持量測定試験)
上記で調製した水保持剤と対照としてセルロースファイバー(medium、シグマ社)各0.3gを容量10mLのプラスチック製メスシリンダー(胴径13.5mm×全高110.2mm、ナルゲン)に入れ、純水を4.0mL及び5.0mL加え、軽く振とうした。水が十分試料になじむよう20分間静置し、その後このメスシリンダーをスイングローターに入れて、700Gで5分間遠心分離した(2,000rpm、卓上遠心機CT6D形、日立工機株式会社)。この後、上清の水分量をメスリンダーで測定した。
【0023】
この結果、試料に保持されず、上清に分離した水分量は、純水4.0mL入れたとき、調製した水保持剤では0mLであったが、セルロースファイバーでは2.4mLであり、保水した水の量は調製した水保持剤、セルロースファイバーはそれぞれ4.0mL、1.6mLであった。同様に純水5.0mL入れたとき上清に分離した水分量は、調製した水保持剤、セルロースファイバーはそれぞれ1.0mL、3.4mLであり、保水した水の量は4.0mL、1.6mLであった。調製した水保持剤はセルロースファイバーの2.5倍の保水力があることがわかった。
【0024】
(織り網通過試験による水保持量測定試験)
ガラス製ビーカーに調製した水保持剤、セルロースファイバーを各0.50g入れ、純水を8.0mL加え、軽く振とうした。ガラス管(内径14mm×長さ63mm)の端に目開き77μmのナイロン製織り網(線径50μm、商品名:ボルティングクロス、アズワン株式会社)を装着し、織り網を装着した方を下にして、上方から水を吸収した試料を織り網の上に静かに置いた。ガラス管の下にビーカーを置いて、織り網を通過した水を集め、天秤にて水の重量を測定し、保持された水の重量を求めた。
【0025】
この結果、調製した水保持剤、セルロースファイバーの保水量は各7.8g、2.6gであった。調製した水保持剤はセルロースファイバーの約3倍の保水力があることがわかった。
【0026】
(浸漬法による水保持量測定試験)
1,000mLのガラス製ビーカーに0.9%塩化ナトリウム水溶液1,000mLを入れた。このビーカーを25℃のウォーターバス内に置き、お茶用ティーバッグ(袋状、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルの複合繊維製、横95mm×高さ70mm)を上から糸で吊し、ティーバッグを下から4〜5cm浸漬させた。30分後、ティーバッグを引き上げ、空中で30分間放置した。その後、ティーバッグの重量を測定した。次にこのティーバッグに調製した水保持剤とセルロースファイバーを各0.5g入れ、同様の操作を行った。重量を測定した後、試料を入れる前の重量と試料の0.5gを差し引き、試料が吸収した水分量を求めた。
【0027】
この結果、調製した水保持剤、セルロースファイバーの吸水保水量は各4.4g、1.2gであった。本発明品はセルロースファイバーの約3.7倍の保水力があることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、安全な方法でかつ生分解性の、吸水性や水保持能を有する材料を提供でき、日用品や化粧品、農業資材、土木などの分野で広く利用されることが可能である。