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特開2019-137800匂い透過抑制用樹脂組成物、匂い透過抑制性フィルム、及び包装容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-137800(P2019-137800A)
(43)【公開日】2019年8月22日
(54)【発明の名称】匂い透過抑制用樹脂組成物、匂い透過抑制性フィルム、及び包装容器
(51)【国際特許分類】
   C08G 71/04 20060101AFI20190726BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20190726BHJP
   B65D 65/02 20060101ALI20190726BHJP
【FI】
   C08G71/04
   B32B27/40
   B65D65/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-23354(P2018-23354)
(22)【出願日】2018年2月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】福井 実穂
(72)【発明者】
【氏名】木村 千也
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J034
【Fターム(参考)】
3E086AD01
3E086AD02
3E086BA02
3E086BA15
3E086BB15
3E086CA01
3E086CA29
3E086DA08
4F100AK51A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100EH46A
4F100JD02A
4J034SA02
4J034SB01
4J034SC03
4J034SC04
4J034SD02
(57)【要約】
【課題】匂い成分の透過を抑制する機能を有する樹脂膜や樹脂フィルムなどの樹脂層を形成することが可能な樹脂組成物を提供する。
【解決手段】五員環環状カーボネートを2以上有する化合物Aと、アミノ基を2以上有する化合物Bとの重合物である、一般式(1)〜(4)で示される化学構造のいずれかを高分子主鎖の繰り返し単位に有するポリヒドロキシウレタン樹脂を含有し、前記ポリヒドロキシウレタン樹脂は、重量平均分子量が10000〜100000であり、かつ、水酸基価が180〜350mgKOH/gである、匂い透過抑制用樹脂組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
五員環環状カーボネートを2以上有する化合物Aと、アミノ基を2以上有する化合物Bとの重合物である、下記一般式(1)〜(4)で示される化学構造のいずれかを高分子主鎖の繰り返し単位に有するポリヒドロキシウレタン樹脂を含有し、
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂は、重量平均分子量が10000〜100000であり、かつ、水酸基価が180〜350mgKOH/gである、匂い透過抑制用樹脂組成物。
(前記一般式(1)〜(4)中、Xは、前記化合物Aに由来する2価の有機基を表し、Yは、前記化合物Bに由来する2価の有機基を表し、これらの有機基には、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子が含まれていてもよい。)
【請求項2】
前記化合物Aが、下記一般式(A)で表される化合物であるとともに、
前記化合物Bが、下記一般式(B)で表される化合物である請求項1に記載の匂い透過抑制用樹脂組成物。
(前記一般式(A)中のX及び前記一般式(B)中のYは、それぞれ、前記一般式(1)〜(4)中のX及びYと同義である。)
【請求項3】
前記X及び前記Yの少なくとも一方は、芳香環を含む請求項1又は2に記載の匂い透過抑制用樹脂組成物。
【請求項4】
前記X及び前記Yのいずれも芳香環を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の匂い透過抑制用樹脂組成物。
【請求項5】
前記Xが芳香環を含み、前記Yが脂肪族基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の匂い透過抑制用樹脂組成物。
【請求項6】
さらに液状媒体を含有し、コーティング剤として用いられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の匂い透過抑制用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の匂い透過抑制用樹脂組成物で形成された樹脂層を備える匂い透過抑制性フィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の匂い透過抑制性フィルムを備える包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匂い透過抑制用樹脂組成物、匂い透過抑制性フィルム、及び包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野などの包装材には、所定のバリア性が要求されることがある。例えば、食品包装材に要求されるバリア性には、酸素及び窒素などの気体の透過を遮る性質であるガスバリア性、水分の透過を遮る性質である水蒸気バリア性、並びに香気成分の透過を遮る性質である保香性などがある。
【0003】
各種バリア性を良好なレベルで満たす包装材として、従来から、例えばアルミニウム箔と樹脂フィルムなどの樹脂層とのラミネートフィルムなどに代表されるように、アルミニウム箔を用いた包装材が使用されている。その一方、包装材の内容物を外側から視認可能であること、製品の異物検査などにおいて金属探知機を使用可能であること、並びに食品包装材の場合に電子レンジ加熱が可能であることなどの要望に応じた、アルミニウム箔を用いないバリア性フィルムの開発及び利用も進んでいる。
【0004】
例えば、ガスバリア性フィルムに用いられている代表的な樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂や塩化ビニリデン樹脂などがあるが、これらの樹脂の使用に依らずに、ガスバリア性フィルムを提供するための技術も提案されている。例えば特許文献1には、少なくとも2つの五員環環状カーボネートを有する化合物と、少なくとも2つのアミノ基を有するアミン化合物とをモノマー単位とし、これらモノマー単位の付加反応により得られる、特定のポリヒドロキシウレタン樹脂の皮膜によって形成されたガスバリア性を有する層を含むガスバリア性フィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−172144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
包装材のバリア性のなかでも、ガスバリア性フィルムや水蒸気バリア性フィルムの開発が多くなされてきたが、保香性を含め、香気及び臭気といった匂い成分の透過を抑制する機能に特化した樹脂フィルムやそれを形成可能な樹脂の開発はあまり行われていない。
【0007】
匂い成分は、分子量が小さく、沸点が低い揮発性の有機化合物が主成分であると考えられ、気体の状態で樹脂フィルムを透過すると考えられる。しかし、このような匂い成分の樹脂フィルムに対する透過現象は、ガスバリア性フィルムにおける酸素及び窒素などの不活性気体の樹脂フィルムに対する透過現象とは必ずしも一致しない。また、ガスバリア性では、人間が感じとり難い酸素や窒素などの透過を問題としているのに対し、保香性などの匂い成分の透過抑制機能では、微量でも人間がより敏感に感じとることができる匂い成分(有機化合物など)の透過を問題としている。したがって、上述のようなことから、ガスバリア性が高い樹脂フィルムであっても、匂い成分の透過を抑制する機能が高いとはいえない。
【0008】
本発明は、匂い成分の透過を抑制する機能を有する樹脂膜や樹脂フィルムなどの樹脂層を形成することが可能な樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、主鎖にウレタン結合と水酸基を含む化学構造を有する樹脂(ポリヒドロキシウレタン樹脂)のうち、特定のポリヒドロキシウレタン樹脂が、匂い成分の透過を抑制する機能を有する樹脂層を形成可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、五員環環状カーボネートを2以上有する化合物Aと、アミノ基を2以上有する化合物Bとの重合物である、下記一般式(1)〜(4)で示される化学構造のいずれかを高分子主鎖の繰り返し単位に有するポリヒドロキシウレタン樹脂を含有し、前記ポリヒドロキシウレタン樹脂は、重量平均分子量が10000〜100000であり、かつ、水酸基価が180〜350mgKOH/gである、匂い透過抑制用樹脂組成物を提供する。
【0011】
(前記一般式(1)〜(4)中、Xは、前記化合物Aに由来する2価の有機基を表し、Yは、前記化合物Bに由来する2価の有機基を表し、これらの有機基には、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子が含まれていてもよい。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、匂い成分の透過を抑制する機能を有する樹脂膜や樹脂フィルムなどの樹脂層を形成することが可能な樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明の一実施形態の匂い透過抑制用樹脂組成物は、下記一般式(1)〜(4)で示される化学構造のいずれかを高分子主鎖の繰り返し単位に有するポリヒドロキシウレタン樹脂を含有する。このポリヒドロキシウレタン樹脂は、五員環環状カーボネートを2以上有する化合物(五員環環状カーボネート化合物)Aと、アミノ基を2以上有する化合物(アミン化合物)Bとの重合物である。また、このポリヒドロキシウレタン樹脂は、重量平均分子量が10000〜100000であり、かつ、水酸基価が180〜350mgKOH/gである。
【0015】
【0016】
一般式(1)〜(4)中、Xは、化合物Aに由来する2価の有機基を表す。Yは、化合物Bに由来する2価の有機基を表す。X及びYにおける有機基には、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子が含まれていてもよい。
【0017】
上記ポリヒドロキシウレタン樹脂を含有する樹脂組成物は、匂い(香気及び臭気)成分の透過を抑制するために用いることができ、匂い透過抑制用樹脂組成物(匂い透過抑制用のポリヒドロキシウレタン樹脂組成物)として用いることができる。以下、匂い透過抑制用樹脂組成物を単に「樹脂組成物」と記載することがある。
【0018】
この樹脂組成物を用いて、溶融成形法やコーティング法などによって、匂い成分の透過を抑制する機能を有する樹脂層(樹脂膜や樹脂フィルムなど)を形成することができる。例えば、上記ポリヒドロキシウレタン樹脂を含有する樹脂組成物で形成された単層構造の匂い透過抑制性フィルムを得ることができる。また、他の樹脂層などの基材層と、上記ポリヒドロキシウレタン樹脂を含有する樹脂組成物で形成された樹脂層とが積層された多層構造の匂い透過抑制性フィルム(多層フィルム)を得ることもできる。例えば、匂い透過抑制性フィルムを用いて得られる包装材の場合、その包装材は、包装材の内容物に由来する匂いの包装材外側への移行を抑制する機能を有することができ、また、外側に存在する匂いの包装材内側(内容物)への移行を抑制する機能を有することができる。
【0019】
匂い成分の透過を抑制するために用い得るためには、重量平均分子量が10000〜100000であるポリヒドロキシウレタン樹脂を用いる。ポリヒドロキシウレタン樹脂の匂い透過抑制機能が高まる観点から、ポリヒドロキシウレタン樹脂の重量平均分子量は、10000〜80000であることが好ましく、20000〜70000であることがより好ましく、20000〜60000であることがさらに好ましい。本明細書において、ポリヒドロキシウレタン樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算値である。
【0020】
また、匂い成分の透過を抑制するために用い得るためには、水酸基価が180〜350mgKOH/gであるポリヒドロキシウレタン樹脂を用いる。ポリヒドロキシウレタン樹脂の匂い透過抑制機能が高まる観点から、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水酸基価は、190〜330mgKOH/gであることが好ましい。本明細書において、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水酸基価は、JIS K 0070に準拠した滴定法により水酸基価を測定し、樹脂1g当たりの水酸基の含有量を、KOHのmg当量で表した値(単位:mgKOH/g)である。
【0021】
ポリヒドロキシウレタン樹脂は、上述の通り、1分子中に少なくとも2つの五員環環状カーボネートを有する化合物A(以下、単に「化合物A」と記載することがある。)と、1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物B(以下、単に「化合物B」と記載することがある。)との重合反応により得られる。その結果として、上記一般式(1)〜(4)で示される化学構造のいずれかを高分子主鎖の繰り返し単位に有するポリヒドロキシウレタン樹脂が得られる。
【0022】
一般に、高分子鎖を形成する環状カーボネートとアミンとの反応においては、下記反応式(5)に示すように、環状カーボネートの開裂が2種類あるため、2種類の構造の生成物が得られることが知られている。なお、反応式(5)中のR1及びR2は、それぞれ独立に任意の有機基を表す。
【0023】
【0024】
したがって、1分子中に五員環環状カーボネートを2以上有する化合物Aと、1分子中にアミノ基を2以上有する化合物Bとの重合により得られる高分子樹脂は、上記一般式(1)〜(4)の4種類以上の化学構造が生じ、これらはランダムに存在すると考えられる。そのため、樹脂組成物は、高分子主鎖の繰り返し単位における化学構造が、一般式(1)〜(4)のうちで異なる種類の化学構造である2種以上のポリヒドロキシウレタン樹脂を含有してもよい。
【0025】
1分子中に五員環環状カーボネートを2以上有する化合物は、下記反応式(6)に示すように、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得られたものであることが好ましい。例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下、0℃〜160℃の温度にて、大気圧〜1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4〜24時間反応させる。この結果、二酸化炭素をエステル部位に固定化した化合物(五員環環状カーボネートを2以上有する化合物)を得ることができる。なお、反応式(6)中のR3は、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子を含んでいてもよい任意の有機基を表す。
【0026】
【0027】
二酸化炭素を原料として合成された化合物Aを使用することによって、得られたポリヒドロキシウレタン樹脂は、その構造中に二酸化炭素が固定化された−O−CO−結合を有したものとなる。二酸化炭素由来の−O−CO−結合(二酸化炭素の固定化量)のポリヒドロキシウレタン樹脂中における含有量は、二酸化炭素の有効利用の立場からはできるだけ高くなる方がよい。例えば、二酸化炭素を原料として合成された化合物Aを用いることで、ポリヒドロキシウレタン樹脂の構造中に1〜30質量%の範囲で、二酸化炭素を含有させることができる。すなわち、ポリヒドロキシウレタン樹脂は、その質量のうちの1〜30質量%を原料の二酸化炭素由来の−O−CO−結合が占める樹脂であることが好ましい。
【0028】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応に使用される触媒としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、及びヨウ化ナトリウムなどのハロゲン化塩類、並びに4級アンモニウム塩などを挙げることができる。触媒の1種又は2種以上が用いられてもよい。触媒の使用量は、原料のエポキシ化合物100質量部当たり1〜50質量部であることが好ましく、1〜20質量部であることがより好ましい。
【0029】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応は、有機溶剤の存在下で行うこともできる。この際に用いる有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであれば使用可能である。好適な有機溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、及びN−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、及びプロピレングリコールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤などを挙げることができる。有機溶剤の1種又は2種以上が用いられてもよい。
【0030】
上述した化合物Aの構造は、1分子中に2以上の五員環環状カーボネートを有していれば、特に制限されない。上記一般式(1)〜(4)で示される化学構造のいずれかを高分子主鎖の繰り返し単位に有するポリヒドロキシウレタン樹脂が得られやすいことから、化合物Aは、下記一般式(A)で表される化合物(2官能の五員環環状カーボネートを有する化合物)Aであることが好ましい。下記一般式(A)中のXは、上記一般式(1)〜(4)中のXと同義である。
【0031】
【0032】
化合物Aとしては、上記一般式(A)中のXにベンゼン骨格、芳香族多環骨格、及び縮合多環芳香族骨格などの芳香環を含む化合物Aや、Xが脂肪族骨格(鎖状脂肪族骨格や脂環式骨格)である化合物Aなどを挙げることができる。これらの化合物Aの1種又は2種以上が、ポリヒドロキシウレタン樹脂の原料として用いられてもよい。
【0033】
ポリヒドロキシウレタン樹脂の匂い透過抑制機能が高まる観点から、化合物Aは芳香環を含むことが好ましく、したがって、Xは芳香環を含むことが好ましい。芳香環を含むXとしては、例えば、下記一般式(a1)〜(a5)のいずれかで表される基(酸素原子を含んでいてもよい2価の有機基)であることがより好ましく、下記一般式(a1)又は(a2)で表される基であることがさらに好ましい。下記一般式(a1)〜(a5)中の*は、一般式(A)中のXが結合する酸素原子との結合手を表し、下記一般式(a2)及び(a3)中のRはそれぞれ独立にH又はCH3を表す。
【0034】
【0035】
また、芳香環を含む好適な化合物Aとしては、例えば、下記式(A−a)〜(A−f)のいずれかで表される化合物Aを挙げることができ、それらのうちの1種又は2種以上を用いることがより好ましい。それらのなかでも下記式(A−b)又は(A−c)で表される化合物Aを用いることがさらに好ましい。下記式(A−c)及び(A−d)中のRは、それぞれ独立にH又はCH3を表す。
【0036】
【0037】
上記一般式(A)中のXが脂肪族骨格や脂環式骨格である化合物Aとしては、例えば、下記式(A−g)〜(A−l)のいずれかで表される化合物Aを挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いてもよい。下記式(A−g)、(A−j)、及び(A−k)中のRはそれぞれ独立にH又はCH3を表す。
【0038】
【0039】
一方、化合物Aとともにポリヒドロキシウレタン樹脂の原料として用いられる化合物Bは、下記一般式(B)で表される化合物B(ジアミン)であることが好ましい。下記一般式(B)中のYは、上記一般式(1)〜(4)中のYと同義である。
【0040】
【0041】
化合物Bとしては、上記一般式(B)中のYにベンゼン骨格、芳香族多環骨格、及び縮合多環芳香族骨格などの芳香環を含む化合物Bや、Yが脂肪族骨格(鎖状脂肪族骨格や脂環式骨格)である化合物Bなどを挙げることができる。これらの化合物Bの1種又は2種以上が、ポリヒドロキシウレタン樹脂の原料として用いられてもよい。
【0042】
一般式(B)で表される化合物Bの好適な具体例としては、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、及び1,12−ジアミノドデカンなどの鎖状脂肪族ポリアミン;イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,6−シクロヘキサンジアミン、及び2,5−ジアミノピリジンなどの環状脂肪族ポリアミン;o−,m−,p−キシリレンジアミンなどの芳香環を有する脂肪族ポリアミン;並びにメタフェニレンジアミン、及びジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンなどを挙げることができる。これらのなかでも、m−キシリレンジアミンを用いることがより好ましく、また、化合物Aとして上述した芳香環を含む化合物Aを用いる場合、それと組み合わせる化合物Bとして1,6−ジアミノヘキサンを用いることがより好ましい。
【0043】
ポリヒドロキシウレタン樹脂の匂い透過抑制機能が高まる観点から、ポリヒドロキシウレタン樹脂は、上述した一般式(A)で表される化合物Aと、上述した一般式(B)で表される化合物Bとの重合物であることが好ましい。このうち、一般式(A)中のX及び一般式(B)中のYの少なくとも一方が芳香環を含む場合に得られるポリヒドロキシウレタン樹脂がより好ましく、X及びYのいずれも芳香環を含む場合、又はXが芳香環を含むとともにYが脂肪族基である場合に得られるポリヒドロキシウレタン樹脂がさらに好ましい。
【0044】
ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法は、特に限定されない。例えば、溶剤の存在下又は溶剤の非存在下で、五員環環状カーボネートを2以上有する化合物Aと、アミノ基を2以上有する化合物Bとを混合し、40〜200℃の温度で4〜24時間反応させることで、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得ることができる。
【0045】
溶剤の存在下でポリヒドロキシウレタン樹脂を製造する場合に使用可能な溶剤としては、使用する原料及び得られたポリヒドロキシウレタン樹脂に対して不活性な有機溶剤であれば、いずれも使用可能である。好適な有機溶剤としては、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、パークロルエチレン、トリクロルエチレン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、及びジエチレングリコールジメチルエーテルなどを挙げることができる。これらの有機溶剤の1種又は2種以上を用いることができる。
【0046】
ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造は、特に触媒を使用せずに行うことができるが、反応を促進させるために、触媒の存在下で行うことも可能である。触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)、及びピリジンなどの塩基性触媒、並びにテトラブチル錫及びジブチル錫ジラウリレートなどのルイス酸触媒などを挙げることができる。これらの触媒の1種又は2種以上を用いることができる。
【0047】
ポリヒドロキシウレタン樹脂を製造する際には、必要に応じて添加剤を使用してもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系など)、光安定剤(ヒンダードアミン系など)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系など)、ガス変色安定剤(ヒドラジン系など)、加水分解防止剤(カルボジイミドなど)、及び金属不活性剤などを挙げることができる。これらの添加剤の1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明の一実施形態の樹脂組成物を用いて樹脂層を形成する際、好ましくはコーティング法によって樹脂層を形成する際に、架橋剤を用いることが好ましい。樹脂組成物を用いて樹脂層を形成する際に、架橋剤を用いることにより、ポリヒドロキシウレタン樹脂の構造中に存在する水酸基の一部を架橋させることができる。架橋剤としては、水酸基と反応するものであればいずれも使用することができ、例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート化合物、酸無水物などを挙げることができる。
【0049】
本発明の一実施形態の樹脂組成物は、さらに液状媒体を含有することができる。前述のポリヒドロキシウレタン樹脂、及び液状媒体を含有する樹脂組成物によって、コーティング剤として好適に用いることができる。液状媒体としては、ポリヒドロキシウレタン樹脂を製造する際に用いることが可能な前述の有機溶剤を挙げることができ、これにより、有機溶剤と、その有機溶剤中で製造したポリヒドロキシウレタン樹脂とを含有する樹脂組成物をそのままコーティング剤に利用することができる。また、ポリヒドロキシウレタン樹脂を製造する際に転相乳化が可能である場合、樹脂組成物は、液状媒体として、水を含有することができ、水系コーティング剤を得ることも可能である。
【0050】
以上詳述した本発明の一実施形態の樹脂組成物を使用することによって、その樹脂組成物を溶融成形法やコーティング法などにより、匂い成分の透過を抑制する機能を有する、樹脂膜や樹脂フィルムなどの樹脂層を形成することができる。溶融成形法により樹脂層を成形することも可能であるため、樹脂組成物中のポリヒドロキシウレタン樹脂の含有量は特に限定されない。例えば、樹脂組成物の固形分をおよそ100質量%(例えば95〜100質量%)とすることも可能である。その場合、樹脂組成物中のポリヒドロキシウレタン樹脂の含有量を好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜95質量%とすることができる。また、樹脂組成物をコーティング剤として用いる場合の樹脂組成物中のポリヒドロキシウレタン樹脂の含有量は特に限定されないが、5〜80質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。
【0051】
上述の通り、本発明の一実施形態の樹脂組成物によって、匂い成分の透過を抑制する機能を有する樹脂層を形成可能であるため、上記ポリヒドロキシウレタン樹脂を含有する樹脂組成物で形成された、単層構造の匂い透過抑制性フィルムを提供することができる。また、他の樹脂層などの基材層と、上記ポリヒドロキシウレタン樹脂を含有する樹脂組成物で形成された樹脂層とが積層された多層構造の匂い透過抑制性フィルム(多層フィルム)を提供することもできる。上記樹脂層の厚さは、0.1〜100μmであることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましく、5〜50μmであることがさらに好ましい。
【0052】
本発明の一実施形態の樹脂組成物で形成された樹脂層を備える匂い透過抑制性フィルムは、多層構造であることが好ましい。すなわち、基材層と、上記ポリヒドロキシウレタン樹脂を含有する樹脂組成物で形成された樹脂層とが積層された多層構造の匂い透過抑制性フィルムであることが好ましい。このような多層フィルムの場合、本発明の一実施形態の樹脂組成物で形成された樹脂層は、多層フィルムを構成する層のうちの最外層を構成する層であってもよく、内側の層であってもよい。多層フィルムを包装材に使用する場合、その多層フィルムを3層以上の多層構造とし、そのうちの内層(最外層ではない内側の層)に、本発明の一実施形態の樹脂組成物で形成される樹脂層を設けることが好ましい。上述のような多層構造の匂い透過抑制性フィルムとすることによって、匂い透過抑制性能をより高めることが可能となる。
【0053】
多層構造の匂い透過抑制性フィルムの場合に、ポリヒドロキシウレタン樹脂を含有する樹脂層とともに用いることが可能な基材層の材質としては、特に限定されず、例えば、従来から包装材に使用されている資材を好適に使用することが可能である。そのような包装資材としては、例えば、紙、布、及び樹脂などを挙げることができ、これらのうち、樹脂が好ましい。
【0054】
樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリ乳酸などのポリエステル系樹脂;ナイロン6及びナイロン66などのポリアミド系樹脂;ポリイミド樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリビニルアルコール;エチレン−ビニルアルコール共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体などを挙げることができる。これらの樹脂製の皮膜(樹脂膜)やフィルム(プラスチックフィルム)を基材層に用いることができ、基材層は、複数の樹脂膜やプラスチックフィルムが積層されたものでもよい。また、基材層には、必要に応じて、例えば、公知の帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、及び着色剤などの添加剤が含まれていてもよい。基材層の厚さとしては、1〜200μmであることが好ましく、5〜150μmであることがより好ましい。
【0055】
匂い透過抑制性フィルムの製造方法としては、例えば、前述のポリヒドロキシウレタン樹脂を溶融成形する方法や、前述のポリヒドロキシウレタン樹脂を含有する樹脂組成物を溶液状態などのコーティング剤として、コーティングする方法が挙げられる。
【0056】
溶融成形法においては、例えば、温度100〜250℃の範囲で、ポリヒドロキシウレタン樹脂(又はそれを含有する樹脂組成物)を用いてのインフレーション法やTダイ法により、単層構造の匂い透過抑制性フィルムを得ることができる。多層構造の匂い透過抑制性フィルムを製造する方法としては、ポリヒドロキシウレタン樹脂と他の樹脂とを用いて共押出法により一気に多層フィルムを得る方法;溶融ラミネート法により、他の樹脂層上にポリヒドロキシウレタン樹脂層を形成する方法;逆に、単層フィルムとして得たポリヒドロキシウレタン樹脂層の一方の面又は両面に、他の樹脂層を溶融ラミネート法により設ける方法などを挙げることができる。また、上述のように、溶融成形法により、ポリヒドロキシウレタン樹脂による単層構造の匂い透過抑制用フィルムを得た後、他の樹脂フィルムをドライラミネート法や熱ラミネート法により積層し、多層フィルムを得る方法も挙げられる。
【0057】
コーティング法にて基材層上にポリヒドロキシウレタン樹脂層を設けて匂い透過抑制性フィルムを得る場合は、前述のポリヒドロキシウレタン樹脂を含有する樹脂組成物を溶液状態などにしたコーティング剤を用いることができる。例えば、ポリヒドロキシウレタン樹脂をその製造に使用可能な前述の有機溶剤中で合成したものか、合成後のポリヒドロキシウレタン樹脂を前述の有機溶剤に溶解させ、溶液としたものをコーティング剤に使用することができる。このコーティング剤を基材層(基材フィルム)に塗布した後、有機溶剤を揮発させることにより、基材層上に、上記ポリヒドロキシウレタン樹脂を含有する樹脂層が形成された多層構造の匂い透過抑制性フィルムを得ることができる。コーティング剤の塗布方法としては、例えば、グラビアコーター、ナイフコーター、リバースコーター、バーコーター、スプレーコーター、及びスリットコーターなどの手法をとることができる。
【0058】
多層フィルムとする場合に、ポリヒドロキシウレタン樹脂層と積層させる基材層として、プラスチックフィルムを用いる場合は、そのプラスチックフィルムは未延伸フィルムであっても、一軸又は二軸延伸フィルムであってもよい。また、プラスチックフィルムには、コロナ放電処理、プラズマ処理、及び紫外線処理などの表面処理が施されていてもよい。さらに、プラスチックフィルムには、アルミニウムなどの金属やシリカなどの金属酸化物による蒸着層が設けられていてもよい。
【0059】
以上詳述した本発明の一実施形態の匂い透過抑制性フィルムを包装資材として用いることによって、その匂い透過性フィルムを用いて作製される包装容器を提供することができ、各種用途に適用可能な包装容器を提供することができる。この包装容器は、包装容器の内容物に由来する匂いの包装容器外側への移行を抑制する機能を有することができ、また、外側に存在する匂いの包装容器内側(内容物)への移行を抑制する機能を有することができる。この包装容器の形態としては、箱状又は袋状が好ましく、密閉可能な又は密閉された、箱状又は袋状がより好ましい。
【0060】
前述の本発明の一実施形態の樹脂組成物で形成された樹脂層を備える匂い透過抑制性フィルム、及びその匂い透過抑制性フィルムを備える包装容器において、透過が抑制される匂い成分としては、薬品及び食品などに由来する香気及び臭気、並びに排泄物などに由来する不快臭などを挙げることができる。薬品としては、例えば、パラジクロロベンゼン、及びリモネンなどを挙げることができる。食品としては、例えば、ソース、しょうゆ、バニラエッセンス、カレー粉、らっきょう漬け、及びにんにくなどを挙げることができる。したがって、本発明の一実施形態の匂い透過抑制性フィルムは、各種食品用の包装容器;医薬品用の包装容器;使用済みオムツの廃棄用の包装容器(包装袋);非常用、災害用、及びペット用などの排泄物廃棄用の包装容器(包装袋)などに好適に利用され得る。
【0061】
なお、本発明の一実施形態の樹脂組成物は、以下の[1]〜[6]などの構成をとることが可能であり、また、以下の[7]や[8]などに利用され得る。
[1]五員環環状カーボネートを2以上有する化合物Aと、アミノ基を2以上有する化合物Bとの重合物である、下記一般式(1)〜(4)で示される化学構造のいずれかを高分子主鎖の繰り返し単位に有するポリヒドロキシウレタン樹脂を含有し、前記ポリヒドロキシウレタン樹脂は、重量平均分子量が10000〜100000であり、かつ、水酸基価が180〜350mgKOH/gである、匂い透過抑制用の樹脂組成物。
[2]前記化合物Aが、上記一般式(A)で表される化合物であるとともに、前記化合物Bが、上記一般式(B)で表される化合物である前記[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記X及び前記Yの少なくとも一方は、芳香環を含む前記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記X及び前記Yのいずれも芳香環を含む前記[1]〜[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]前記Xが芳香環を含み、前記Yが脂肪族基である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]さらに液状媒体を含有し、コーティング剤として用いられる、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の樹脂組成物で形成された樹脂層を備える匂い透過抑制性フィルム。
[8]前記[7]に記載の匂い透過抑制性フィルムを備える包装容器。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の一実施形態のインキ組成物をさらに具体的に説明するが、そのインキ組成物は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の文中において、「部」及び「%」との記載は、特に断らない限り、質量基準(それぞれ「質量部」及び「質量%」)である。
【0063】
<化合物Aの合成>
(合成例1:化合物A1)
エポキシ当量192のビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名「YD−128」、新日鉄住金化学製)100部、ヨウ化ナトリウム(和光純薬工業製)20部、及びN−メチル−2−ピロリドン100部を、撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間反応を行った。そして、反応終了後の溶液にイソプロパノール1400部を加え、反応物を白色の沈殿として析出させ、濾別した。得られた沈殿をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部を得た(収率42%)。
【0064】
上記で得られた粉末を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR;商品名「FT−720」、堀場製作所製;以下の合成例及び製造例も同様)にて分析したところ、910cm-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。また、HPLC(商品名「LC−2000」、日本分光製、カラム:FinepakSIL C18−T5、移動相:アセトニトリル及び水)による分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC(示差走査熱量)測定の結果、融点は178℃であり融点範囲は±5℃であった。以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された下記式(A1)で表される構造の化合物と確認された。これを化合物A1と記載する。化合物A1の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、20.5%であった(計算値)。
【0065】
【0066】
(合成例2:化合物A2)
合成例1で使用したビスフェノールAジグリシジルエーテルに代えて、エポキシ当量115のレゾルシノールジグリシジルエーテル(商品名「デナコールEX201」、ナガセケムテックス製)を用いたこと以外は、合成例1と同様の方法で、下記式(A2)で表される構造の環状カーボネート化合物を合成した。これを化合物A2と記載する。得られた化合物A2は白色の結晶であり、融点は141℃であった。収率は55%であり、FT−IR分析の結果は、化合物A1と同様であり、HPLC分析による純度は97%であった。化合物A2の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、28.0%(計算値)であった。
【0067】
【0068】
<ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造>
(製造例1:ポリヒドロキシウレタン樹脂HPU1)
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、合成例1で得られた化合物A1を143g、1,6−ジアミノヘキサン(東京化成工業製)を38.7g、溶剤としてN,N−ジメチルホルムアミド(東京化成工業製)を272.6g仕込んだ。次いで、撹拌しながら昇温し、100℃にて8時間反応を行い粘稠な溶液状の樹脂組成物を得た。樹脂組成物中の樹脂を乾燥し、FT−IRにて分析した結果、1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認され、原材料由来の1800cm-1付近の吸収は消失していた。DMFを移動相としたGPC測定(商品名「GPC−8220」、東ソー製、カラム:Super AW2500、AW3000、AW4000、及びAW5000の4つ;以下の製造例も同様)による重量平均分子量(Mw)は43000(ポリスチレン換算)であり、目的としたポリヒドロキシウレタン樹脂(これを「HPU1」と称する。)が合成できていることを確認した。この樹脂溶液の固形分は40%であり、樹脂の水酸基当量は199mgKOH/gであった。
【0069】
(製造例2:ポリヒドロキシウレタン樹脂HPU2)
製造例1において反応容器内に仕込んだ原材料に代えて、合成例1で得られた化合物A1を143g、m−キシリレンジアミン(東京化成工業製)を45.4g、及び溶剤としてN,N−ジメチルホルムアミド(東京化成工業製)282.6gを使用したこと以外は、製造例1と同様の方法で、溶液状の樹脂組成物を得た。FT−IR測定の結果は製造例1と同様であり、製造例1と同様に測定したMwは36000で、目的としたポリヒドロキシウレタン樹脂(これを「HPU2」と称する。)が合成できていることを確認した。この樹脂溶液の固形分は40%であり、樹脂の水酸基当量は192mgKOH/gであった。
【0070】
(製造例3:ポリヒドロキシウレタン樹脂HPU3)
製造例1において反応容器内に仕込んだ原材料に代えて、合成例1で得られた化合物A1を71.5g、合成例2で得られた化合物A2を52.3g、m−キシリレンジアミン(東京化成工業製)45.4g、溶剤としてN,N−ジメチルホルムアミド(東京化成工業製)253.85gを使用したこと以外は、製造例1と同様の方法で、溶液状の樹脂組成物を得た。FT−IR測定の結果は製造例1と同様であり、製造例1と同様に測定したMwは39000で、目的としたポリヒドロキシウレタン樹脂(これを「HPU3」と称する。)が合成できていることを確認した。この樹脂溶液の固形分は40%であり、樹脂の水酸基当量は215mgKOH/gであった。
【0071】
(製造例4:ポリヒドロキシウレタン樹脂HPU4)
製造例1において反応容器内に仕込んだ原材料に代えて、合成例2で得られた化合物A2を104.7g、m−キシリレンジアミン(東京化成工業製)45.4g、溶剤としてN,N−ジメチルホルムアミド(東京化成工業製)225.1gを使用したこと以外は、製造例1と同様の方法で、溶液状の樹脂組成物を得た。FT−IR測定の結果は製造例1と同様であり、製造例1と同様に測定したMwは35000で、目的としたポリヒドロキシウレタン樹脂(これを「HPU4」と称する。)が合成できていることを確認した。この樹脂溶液の固形分は40%であり、樹脂の水酸基当量は245mgKOH/gであった。
【0072】
<積層フィルムの作製>
厚さ25μmの基材フィルム(2軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム)に、各種樹脂を含有するコーティング剤を塗布し、乾燥させて樹脂層を設けることで、匂い成分を透過する機能の評価に用いる積層フィルムを作製した。
【0073】
(実施例1)
製造例1で製造したポリヒドロキシウレタン樹脂HPU1の樹脂溶液100gに、N,N−ジメチルホルムアミド(東京化成工業製)を33.3g加え、ディゾルバーにて撹拌し、固形分30%のコーティング剤を得た。このコーティング剤を上記基材フィルムにバーコーター(No.10)にて塗布し、ドライヤーで10秒間乾燥した。このようにして、上記基材フィルムに厚さ5μmのポリヒドロキシウレタン樹脂(HPU1)層が設けられた積層フィルムを作製した。
【0074】
(実施例2)
製造例2で製造したポリヒドロキシウレタン樹脂HPU2の樹脂溶液100gに、N,N−ジメチルホルムアミド(東京化成工業製)を33.3g加え、ディゾルバーにて撹拌し、固形分30%のコーティング剤を得た。このコーティング剤を上記基材フィルムにバーコーター(No.10)にて塗布し、ドライヤーで10秒間乾燥した。このようにして、上記基材フィルムに厚さ5μmのポリヒドロキシウレタン樹脂(HPU2)層が設けられた積層フィルムを作製した。
【0075】
(実施例3)
製造例3で製造したポリヒドロキシウレタン樹脂HPU3の樹脂溶液100gに、N,N−ジメチルホルムアミド(東京化成工業製)を33.3g加え、ディゾルバーにて撹拌し、固形分30%のコーティング剤を得た。このコーティング剤を上記基材フィルムにバーコーター(No.10)にて塗布し、ドライヤーで10秒間乾燥した。このようにして、上記基材フィルムに厚さ5μmのポリヒドロキシウレタン樹脂(HPU3)層が設けられた積層フィルムを作製した。
【0076】
(実施例4)
製造例4で製造したポリヒドロキシウレタン樹脂HPU4の樹脂溶液100gに、N,N−ジメチルホルムアミド(東京化成工業製)を33.3g加え、ディゾルバーにて撹拌し、固形分30%のコーティング剤を得た。このコーティング剤を上記基材フィルムにバーコーター(No.10)にて塗布し、ドライヤーで10秒間乾燥した。このようにして、上記基材フィルムに厚さ5μmのポリヒドロキシウレタン樹脂(HPU4)層が設けられた積層フィルムを作製した。
【0077】
(比較例1)
比較例1では、ブランク試験(対照試験)として、樹脂層を設けず、単層構造の上記基材フィルムのみを用いた。
【0078】
(比較例2)
ポリビニルアルコール(PVA;商品名「ポバール PVA−117」、クラレ製)8gを、水92gに溶解させ、コーティング剤を得た。このコーティング剤を上記基材フィルムにバーコーター(No.30)にて塗布し、ドライヤーで10秒間乾燥した。このようにして、上記基材フィルムに厚さ3μmのPVA樹脂層が設けられた積層フィルムを作製した。
【0079】
(比較例3)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH;商品名「エバール L171B」、クラレ製)15gを、水/ノルマルプロピルアルコール(NPA)の混合溶剤(混合質量比30/70)に溶解させ、コーティング剤を得た。このコーティング剤を上記基材フィルムにバーコーター(No.20)にて塗布し、ドライヤーで10秒間乾燥した。このようにして、上記基材フィルムに厚さ5μmのEVOH樹脂層が設けられた積層フィルムを作製した。
【0080】
(比較例4)
ポリ塩化ビニリデン(PVDC;商品名「サランレジン R204」、旭化成製)25gを、THF75gに溶解させ、コーティング剤を得た。このコーティング剤を上記基材フィルムにバーコーター(No.20)にて塗布し、ドライヤーで10秒間乾燥した。このようにして、上記基材フィルムに厚さ5μmのPVDC樹脂層が設けられた積層フィルムを作製した。
【0081】
<評価>
JIS Z 0208に記載の「防湿包装材料の透過湿度試験方法」で用いられるアルミニウム製透湿カップ内に、匂い成分を適量入れ、カップ上に上記実施例及び比較例で用意したフィルム(積層フィルム又はOPPフィルム)を載せ、封ろう剤(ろう)で密封した。匂い成分及びその量としては、以下の(1)〜(7)に示すものを用いた。
(1)パラジクロロベンゼン(p−DCB;商品名「パラゾールノンカット」、白元アース製):1包
(2)D−リモネン:1.0g
(3)カレー粉:1.0g
(4)しょうゆ:1.0g
(5)ソース:1.0g
(6)らっきょう漬:1.0g
(7)バニラエッセンス:0.5g
【0082】
上述のようにして用意した匂い成分を入れた封ろうカップを、ガスバリア性に優れたチャック付きアルミラミネート袋(商品名「ラミジップ スタンドタイプ AL−15」、生産日本製)に入れ、これを40℃の恒温機に72時間置いた。その後、匂い成分としてp−DCBを用いた試験では、アルミラミネート袋中の気体を3cc吸い取って、ガスクロマトグラフィー(GC;商品名「GC-8APF」、島津製作所製、カラム:PFG600、オーブン温度:90℃、キャリヤーガス:N2、圧力:150kPa)を用いて、気体中の匂い成分の量を測定し、また、p−DCBを含めて他の匂い成分を用いた試験では、官能試験を行った。官能試験としては、3名の評価者が、アルミラミネート袋の口を開けて、袋中の匂いを嗅ぎ、感じた匂いの程度を、数字が小さい程匂いを強く感じた順に5段階(1〜5)の点数を付け、3人の評価点の平均値で評価した。さらに、匂い成分としてD−リモネンを用いた試験では、実施例4及び比較例1において、上記恒温機に24時間置いた後の上記アルミラミネート袋中の気体を3cc吸い取って、上記と同条件にてGCを用いて、気体中の匂い成分の量を測定した。以上の評価結果を表1及び表2に示す。
【0083】
【0084】
【0085】
以上の結果から、製造例にて製造したポリヒドロキシウレタン樹脂を含有する樹脂組成物によれば、一般的にガスバリア性が良いといわれている、PVA、EVOH、及びPVDCに比べて、匂い成分の透過をより抑制しやすい樹脂層を形成可能であることが確認された。