【解決手段】スクロール圧縮機101は、ケーシング10と、モータ16と、クランクシャフト17と、圧縮機構15と、ハウジング23とを備える。ケーシング10は、油溜まり部10aを有する。ハウジング23は、モータ16の上方においてクランクシャフト17を回転可能に支持する。ケーシング10の内部において、ハウジング23より下方の高圧空間71にある油溜まり部10aの油は、第1油流路91又は第2油流路を経由して、ハウジング23より上方の圧縮室40に供給される。第1油流路91は、クランクシャフト17の内部に形成される通路を含む。第2油流路は、クランクシャフト17の外部に形成される通路を含む。油溜まり部10aの油面が所定の高さ位置よりも高くなっている間に、油溜まり部10aの油は、第2油流路を経由して圧縮室40に供給される。
前記給油管は、前記油溜まり部の油面が所定の高さ位置よりも高くなっている場合に前記給油管の内部の通路を開き、高くなっていない場合に前記給油管の内部の通路を閉じる開閉機構(82)を有する、
請求項4又は5に記載のスクロール圧縮機。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)スクロール圧縮機の全体構成
スクロール圧縮機101は、空気調和装置及び冷凍装置等に用いられる。スクロール圧縮機101は、冷媒回路を循環する冷媒を圧縮する。
図1は、スクロール圧縮機101の縦断面図である。スクロール圧縮機101は、主として、ケーシング10と、圧縮機構15と、ハウジング23と、オルダム継手39と、モータ16と、下部軸受60と、クランクシャフト17と、吸入管19と、吐出管20と、給油管81とから構成される。次に、スクロール圧縮機101の各構成要素について説明する。
【0016】
(1−1)ケーシング
ケーシング10は、円筒形状の胴部ケーシング部11と、椀形状の上壁部12と、椀形状の底壁部13とから構成される。上壁部12は、胴部ケーシング部11の上端部に気密状に溶接されている。底壁部13は、胴部ケーシング部11の下端部に気密状に溶接されている。
【0017】
ケーシング10は、ケーシング10の内部及び外部において圧力及び温度が変化した場合に、変形及び破損が起こりにくい剛性部材で成形されている。ケーシング10は、胴部ケーシング部11の円筒形状の軸方向が鉛直方向に沿うように設置されている。
【0018】
ケーシング10の内部には、主として、圧縮機構15と、ハウジング23と、オルダム継手39と、モータ16と、下部軸受60と、クランクシャフト17と、給油管81とが収容されている。ケーシング10には、吸入管19及び吐出管20が気密状に溶接されている。
【0019】
ケーシング10の内部空間の底部には、潤滑油が貯留される空間である油溜まり部10aが形成されている。潤滑油は、スクロール圧縮機101の運転中において、圧縮機構15及びクランクシャフト17等の潤滑性を良好に保つために使用される冷凍機油である。
【0020】
(1−2)圧縮機構
圧縮機構15は、低温低圧の冷媒ガスを吸引して圧縮し、高温高圧の冷媒ガス(以下、「圧縮冷媒」という。)を吐出する。圧縮機構15は、主として、固定スクロール24と、可動スクロール26とから構成される。固定スクロール24は、ケーシング10に対して固定されている。可動スクロール26は、固定スクロール24に対して公転運動を行う。
図2は、鉛直方向に沿って視た固定スクロール24の下面図である。
図3は、鉛直方向に沿って視た可動スクロール26の上面図である。
【0021】
(1−2−1)固定スクロール
固定スクロール24は、第1鏡板24aと、第1ラップ24bとを有する。第1ラップ24bは、第1鏡板24aの下面から直立している。第1ラップ24bは、鉛直方向に沿って見た場合に、渦巻き形状を有している。第1鏡板24aの下面には、
図2に示されるように、C字形状の油溝24eが形成されている。第1ラップ24bの外側において、第1鏡板24aの内部には、油連絡通路24fが形成されている。油連絡通路24fの一端は、固定スクロール24の下面に開口し、他端は、油溝24eと連通している。
【0022】
第1鏡板24aには、主吸入孔24cが形成されている。主吸入孔24cは、吸入管19と、後述する圧縮室40とを接続する空間である。主吸入孔24cは、低温低圧の冷媒ガスを吸入管19から圧縮室40に導入するための空間である。
【0023】
図1に示されるように、第1鏡板24aの上面には、円柱形状の窪みである拡大凹部42が形成されている。拡大凹部42の底面には、吐出孔41が形成されている。吐出孔41は、圧縮室40と連通する。
【0024】
固定スクロール24には、カバー部材44が、ボルト49によって締結されている。ボルト49は、カバー部材44を貫通して、第1鏡板24aに固定されている。カバー部材44は、固定スクロール24の拡大凹部42を塞いでいる。固定スクロール24及びカバー部材44は、ガスケット(図示せず)を介してシールされている。拡大凹部42にカバー部材44が覆い被せられることにより、圧縮機構15の運転音を消音させるマフラー空間45が形成される。
【0025】
第1鏡板24aには、第1圧縮冷媒流路(図示せず)が形成されている。第1圧縮冷媒流路は、マフラー空間45と連通し、かつ、固定スクロール24の下面に開口している。第1圧縮冷媒流路は、この開口を介して、後述する第2圧縮冷媒流路と連通している。
【0026】
(1−2−2)可動スクロール
可動スクロール26は、第2鏡板26aと、第2ラップ26bと、上端軸受26cとを有する。第2ラップ26bは、第2鏡板26aの上面から直立している。第2ラップ26bは、鉛直方向に沿って見た場合に、渦巻き形状を有している。上端軸受26cは、第2鏡板26aの下面の中央部から直立している。上端軸受26cは、円筒形状を有している。
【0027】
固定スクロール24及び可動スクロール26は、第1ラップ24bと第2ラップ26bとが噛み合うことにより、第1鏡板24aと、第1ラップ24bと、第2鏡板26aと、第2ラップ26bとによって囲まれる空間である圧縮室40を形成する。圧縮室40の容積は、可動スクロール26の公転運動によって周期的に変化する。可動スクロール26の公転中に、固定スクロール24の第1鏡板24a及び第1ラップ24bの下面は、可動スクロール26の第2鏡板26a及び第2ラップ26bの上面と摺動する。以下、可動スクロール26と摺動する第1鏡板24aの表面を、スラスト摺動面24dと呼ぶ。
【0028】
図4は、可動スクロール26の第2ラップ26b、及び、圧縮室40が示された固定スクロール24の下面図である。
図4において、ハッチングされた領域は、スラスト摺動面24dを表す。
図4に示されるように、固定スクロール24の油溝24eは、スラスト摺動面24dに納まるように第1鏡板24aの下面に形成されている。
【0029】
(1−3)ハウジング
ハウジング23は、圧縮機構15の下方、かつ、モータ16の上方に配置されている。ハウジング23の外周面は、胴部ケーシング部11の内周面に気密状に接合されている。これにより、ケーシング10の内部空間は、ハウジング23の下方の高圧空間71と、ハウジング23の上方の背圧空間72とに区画されている。
図1に示されるように、背圧空間72は、ハウジング23と固定スクロール24との間に挟まれている空間である。油溜まり部10aは、高圧空間71の底部に位置している。ハウジング23は、固定スクロール24を載置し、固定スクロール24と共に可動スクロール26を挟み込んでいる。ハウジング23の外周部には、第2圧縮冷媒流路(図示せず)が形成されている。第2圧縮冷媒流路は、ハウジング23の外周部を鉛直方向に貫通する孔である。第2圧縮冷媒流路は、ハウジング23の上面において第1圧縮冷媒流路と連通し、ハウジング23の下面において高圧空間71と連通する。すなわち、圧縮機構15の吐出孔41は、マフラー空間45、第1圧縮冷媒流路及び第2圧縮冷媒流路を介して、高圧空間71と連通する。
【0030】
ハウジング23の上面には、クランク室23aと呼ばれる窪みが形成されている。ハウジング23には、ハウジング貫通孔31が形成されている。ハウジング貫通孔31は、クランク室23aの底面の中央部から、ハウジング23の下面の中央部まで、ハウジング23を鉛直方向に貫通する孔である。以下、ハウジング23の一部であり、かつ、ハウジング貫通孔31の周囲の部分を、上部軸受32と呼ぶ。
【0031】
ハウジング23には、クランク室23aと高圧空間71とを連通する油排出通路23bが形成されている。クランク室23aにおいて、油排出通路23bの開口は、クランク室23aの底面付近に形成されている。
【0032】
また、ハウジング23の内部には、圧縮機構15に潤滑油を供給するためのハウジング給油路23cが形成されている。ハウジング給油路23cは、第1給油孔23dと、第2給油孔23eと、第3給油孔23fとから構成される。
図5は、ハウジング給油路23cの近傍における
図1の拡大図である。
【0033】
第1給油孔23dは、クランク室23aの底面の外周部に形成された環状溝23gから、ケーシング10に向かって斜め上方に延びている。第1給油孔23dの一端は、環状溝23gの内部に開口しており、他端は、第2給油孔23eに開口している。
【0034】
第2給油孔23eは、ハウジング23を鉛直方向に貫通している。第2給油孔23eには、スクリュー部材23hが挿入されている。スクリュー部材23hの頭部23iは、第2給油孔23eの下端を閉塞している。第2給油孔23eは、スクリュー部材23hによって流路が絞られている。すなわち、スクリュー部材23hは、第2給油孔23eを流れる潤滑油を減圧する絞り機構を構成している。また、第2給油孔23eの上端は、ハウジング23の上面の外周部に開口し、固定スクロール24の油連絡通路24fと連通している。クランク室23aの潤滑油は、環状溝23g、第1給油孔23d、第2給油孔23e及び油連絡通路24fを経由して油溝24eに流入し、スラスト摺動面24dを介して圧縮室40に供給される。
【0035】
第3給油孔23fは、第2給油孔23eよりも外側に形成されている。第3給油孔23fの一端は、ハウジング23の下面の外周部に開口し、他端は、第2給油孔23eに開口している。第3給油孔23fは、後述する給油管81の内部の通路と連通している。第1給油孔23d及び第3給油孔23fは、スクリュー部材23hの下方において、ほぼ同じ高さ位置で第2給油孔23eに開口している。
【0036】
(1−4)オルダム継手
オルダム継手39は、公転している可動スクロール26の自転を防止するための部材である。オルダム継手39は、背圧空間72において、可動スクロール26とハウジング23との間に配置されている。
【0037】
(1−5)モータ
モータ16は、ハウジング23の下方に配置されるブラシレスDCモータである。モータ16は、主として、ステータ51と、ロータ52とを有する。
【0038】
ステータ51は、主として、ステータコア51aと、複数のコイル51bとから構成される。ステータコア51aは、ケーシング10の内周面に固定される円筒形状の部材である。ステータコア51aは、複数のティース(図示せず)を有する。ティースに巻線が巻かれることで、コイル51bが形成される。
【0039】
ステータコア51aの外周面には、複数のコアカットが形成されている。コアカットは、ステータコア51aの上端面から下端面に亘って鉛直方向に形成される溝である。コアカットは、ステータコア51aの周方向に沿って所定の間隔で形成されている。コアカットは、胴部ケーシング部11とステータコア51aとの間を鉛直方向に延びるコアカット通路55を形成する。
【0040】
ロータ52は、ステータコア51aの内側に配置される円柱形状の部材である。ステータコア51aの内周面と、ロータ52の外周面との間には、エアギャップが形成されている。ロータ52は、クランクシャフト17に連結されている。ロータ52は、クランクシャフト17を介して、圧縮機構15に接続されている。ロータ52は、回転軸16aの周りにクランクシャフト17を回転させる。回転軸16aは、ロータ52の中心軸を通る。
【0041】
(1−6)下部軸受
下部軸受60は、モータ16の下方に配置される。下部軸受60の外周面は、ケーシング10の内周面に接合されている。下部軸受60は、クランクシャフト17を回転可能に支持する。下部軸受60には、油分離板62が取り付けられている。油分離板62は、ケーシング10の内部に収容される板状部材である。油分離板62は、下部軸受60の上端面に固定されている。
【0042】
(1−7)クランクシャフト
クランクシャフト17は、その軸方向が鉛直方向に沿うように配置されている。クランクシャフト17の上端部の軸心は、上端部を除く部分の軸心に対して偏心している。クランクシャフト17は、バランスウェイト18を有する。バランスウェイト18は、ハウジング23の下方かつモータ16の上方の高さ位置において、クランクシャフト17に密着して固定されている。
【0043】
クランクシャフト17は、ロータ52の回転中心部を鉛直方向に貫通して、ロータ52に連結されている。クランクシャフト17の上端部は、可動スクロール26の上端軸受26cに嵌め込まれている。これにより、クランクシャフト17は、可動スクロール26に接続されている。クランクシャフト17は、上部軸受32及び下部軸受60によって回転可能に支持されている。
【0044】
クランクシャフト17の内部には、主給油路61が形成されている。主給油路61は、クランクシャフト17の軸方向(鉛直方向)に沿って延びている。主給油路61の上端は、クランクシャフト17の上端面と第2鏡板26aの下面との間の空間である油室83と連通している。主給油路61の下端は、油溜まり部10aに連通している。
【0045】
クランクシャフト17は、主給油路61から分岐する第1副給油路61a、第2副給油路61b及び第3副給油路61cを有している。第1副給油路61a、第2副給油路61b及び第3副給油路61cは、水平方向に延びている。第1副給油路61aは、クランクシャフト17と、可動スクロール26の上端軸受26cとの摺動部に開口している。第2副給油路61bは、クランクシャフト17と、ハウジング23の上部軸受32との摺動部に開口している。第3副給油路61cは、クランクシャフト17と下部軸受60との摺動部に開口している。
【0046】
(1−8)吸入管
吸入管19は、ケーシング10の外部から圧縮機構15へ、冷媒回路の冷媒を導入するための管である。吸入管19は、ケーシング10の上壁部12を貫通する。ケーシング10の内部において、吸入管19の端部は、固定スクロール24の主吸入孔24cに嵌め込まれている。
【0047】
(1−9)吐出管
吐出管20は、高圧空間71からケーシング10の外部へ、圧縮冷媒を吐出するための管である。吐出管20は、ケーシング10の胴部ケーシング部11を貫通する。吐出管20は、高圧空間71を水平方向に貫通する。ケーシング10の内部において、吐出管20の端部は、ハウジング23とモータ16との間の高さ位置にある。
【0048】
(1−10)給油管
給油管81は、高圧空間71に設置され、かつ、油溜まり部10aから圧縮室40に向かって延びている管状部材である。給油管81は、油溜まり部10aに貯留されている潤滑油を、ハウジング23の第3給油孔23fまで導くための部材である。給油管81は、クランクシャフト17の外部に形成される油流路を形成する。給油管81は、主として、垂直管部81aと、水平管部81bと、開閉機構82とから構成される。
図6は、給油管81の下端部の近傍における
図1の拡大図である。
図6では、ステータ51が省略されている。
【0049】
垂直管部81aは、給油管81の大部分を構成し、かつ、鉛直方向に沿って延びている部分である。垂直管部81aの上端部は、ハウジング23の下面に形成される第3給油孔23fの開口に挿入されて、ハウジング23に固定されている。垂直管部81aは、コアカット通路55を通っている。水平管部81bは、ケーシング10からクランクシャフト17に向かって水平方向に延びている部分である。水平管部81bのケーシング10側の端部は、垂直管部81aの下端部と連結されている。水平管部81bの内部の通路は、垂直管部81aの内部の通路と連通している。そのため、給油管81の内部の通路は、全体としてL字形状を有している。水平管部81bのクランクシャフト17側の端部は、ステータ51の下方において、高圧空間71に開口している給油管開口81cである。給油管開口81cの高さ位置は、モータ16のロータ52の下端面の高さ位置の近傍である。以下、ロータ52の下端面の高さ位置を、ロータ下端位置H1と呼ぶ。垂直管部81a及び水平管部81bは、例えば、金属製である。
【0050】
開閉機構82は、水平管部81bに取り付けられ、給油管81の内部の通路を開閉する。開閉機構82は、給油管開口81cの近傍に設けられている。開閉機構82は、油溜まり部10aに貯留されている潤滑油の油面の高さ位置に応じて、給油管81の内部の通路を開閉する。具体的には、開閉機構82は、油溜まり部10aの油面が所定の高さ位置よりも高くなっている場合に給油管81の内部の通路を開き、高くなっていない場合に給油管81の内部の通路を閉じる。所定の高さ位置とは、
図6に示されるロータ下端位置H1である。
図1に示されるように、ロータ52の下面にバランスウェイト52aが取り付けられている場合、ロータ下端位置H1は、バランスウェイト52aの下面の高さ位置である。
【0051】
図6には、開閉機構82の一例が示されている。開閉機構82は、主として、栓部材82aと蓋部材82bとから構成されている。栓部材82aは、水平管部81bを鉛直方向に貫通する貫通孔を通るように設置されている。栓部材82aは、鉛直方向に移動可能に設置されている。栓部材82aは、潤滑油より比重が小さく、かつ、潤滑油と反応して劣化しにくい素材によって形成されている。栓部材82aは、例えば、樹脂製である。蓋部材82bは、水平管部81bの上側において、栓部材82aを覆うように設置されている。蓋部材82bは、水平管部81bに固定されている。蓋部材82bは、例えば、水平管部81bと同じ金属製である。
【0052】
図7及び
図8は、
図6の開閉機構82の動作を説明するための図である。
図7は、開閉機構82によって給油管81の内部の通路が閉じている状態を示す図である。
図8は、開閉機構82によって給油管81の内部の通路が開いている状態を示す図である。油溜まり部10aの油面の高さ位置である油面位置H2がロータ下端位置H1よりも高くなっていない場合、
図7に示されるように開閉機構82は閉状態にある。一方、油面位置H2がロータ下端位置H1よりも高くなっている場合、
図8に示されるように開閉機構82は開状態にある。
【0053】
図7に示されるように、開閉機構82が閉状態である間、水平管部81bの内部の通路は栓部材82aによって塞がれているので、高圧空間71の潤滑油及び圧縮冷媒は、給油管81の内部の通路を流れることができない。一方、
図8に示されるように、開閉機構82が開状態である間、水平管部81bの内部の通路は栓部材82aによって塞がれていないので、高圧空間71の潤滑油は、給油管81の内部の通路を流れることができる。しかし、栓部材82aの下端の高さ位置は油面位置H2よりも低いため、高圧空間71の圧縮冷媒は、栓部材82aに阻害されて給油管81の内部の通路を流れることができない。
【0054】
油面位置H2が所定の高さ位置よりも高くなると、栓部材82aの下端部は、油溜まり部10aに貯留されている潤滑油と接触する。油溜まり部10aの潤滑油と接触している栓部材82aには、潤滑油の浮力が作用しているので、栓部材82aは潤滑油に浮いている状態になる。この状態では、油面位置H2が上昇すると栓部材82aも上昇し、反対に、油面位置H2が下降すると栓部材82aも下降する。開閉機構82が閉状態の場合、油面位置H2の上昇によって栓部材82aが所定の位置まで上昇すると、開閉機構82は開状態となる。反対に、開閉機構82が開状態の場合、油面位置H2の下降によって栓部材82aが所定の位置まで下降すると、開閉機構82は閉状態となる。このように、開閉機構82は、油面位置H2の変化に応じて、開状態と閉状態との間を移行する。
【0055】
栓部材82aは、油面位置H2が低い状態でも水平管部81bから抜け落ちないように、水平管部81bの貫通孔を通過できない形状の頭部82cを有している。また、栓部材82aは、油面位置H2の上昇により鉛直方向上方にどんなに浮き上がっても水平管部81bから外れないように、その上部が蓋部材82bによって覆われている。すなわち、蓋部材82bは、油面位置H2の上昇に起因して栓部材82aが上昇する範囲を制限する。
【0056】
(2)スクロール圧縮機の動作
最初に、スクロール圧縮機101内部における冷媒の流れについて説明する。次に、スクロール圧縮機101内部における潤滑油の流れについて説明する。
【0057】
(2−1)冷媒の流れ
モータ16が駆動してロータ52が回転し始めると、ロータ52に連結されているクランクシャフト17が軸回転を始める。クランクシャフト17の軸回転運動は、上端軸受26cを介して可動スクロール26に伝達される。クランクシャフト17の上端部の軸心は、クランクシャフト17の回転軸に対して偏心している。そのため、クランクシャフト17の軸回転運動によって、可動スクロール26は、クランクシャフト17に対して偏心回転し、固定スクロール24に対して公転運動を行う。また、可動スクロール26は、オルダム継手39を介してハウジング23と係合している。そのため、可動スクロール26が公転運動している間、可動スクロール26の自転が防止される。
【0058】
圧縮される前の低温低圧の冷媒は、吸入管19から主吸入孔24cを経由して、圧縮機構15の圧縮室40に供給される。可動スクロール26の公転運動により、圧縮室40は容積を徐々に減少させながら固定スクロール24の外周部から中心部に向かって移動する。その結果、圧縮室40の冷媒は圧縮されて圧縮冷媒となる。圧縮冷媒は、吐出孔41からマフラー空間45に吐出された後、第1圧縮冷媒流路及び第2圧縮冷媒流路を経由して、モータ16の上方の高圧空間71へ吐出される。その後、圧縮冷媒は、一部のコアカット通路55を下方に向かって流れて、モータ16の下方の高圧空間71に到達する。その後、圧縮冷媒は、流れの向きを反転させて、他のコアカット通路55、及び、モータ16のエアギャップを上方に向かって流れて、モータ16の上方の高圧空間71に到達する。その後、圧縮冷媒は、吐出管20からスクロール圧縮機101の外部に吐出される。
【0059】
(2−2)潤滑油の流れ
スクロール圧縮機101では、油溜まり部10aに貯留されている潤滑油は、第1油流路91又は第2油流路92を経由して、圧縮機構15の圧縮室40に供給される。第1油流路91は、少なくとも、クランクシャフト17の内部に形成される主給油路61を含む。第2油流路92は、少なくとも、クランクシャフト17の外部に設置される給油管81の内部の通路を含む。第1油流路91及び第2油流路92は、途中で合流している。
【0060】
最初に、ハウジング15の下方に位置する油溜まり部10aに貯留されている潤滑油が、ハウジング15の上方に位置する圧縮室40に供給される機構について説明する。モータ16が駆動してロータ52が回転し始めると、ロータ52に連結されているクランクシャフト17が軸回転を始める。クランクシャフト17の軸回転運動によって圧縮機構15が冷媒を圧縮し、高圧空間71に圧縮冷媒が供給されると、高圧空間71の圧力が上昇する。高圧空間71は、第1油流路91又は第2油流路92を介して油溝24eと連通し、かつ、油溝24eはスラスト摺動面24dを介して背圧空間72又は圧縮室40に連通している。背圧空間72は、高圧空間71よりも低圧となっている。そのため、高圧空間71と背圧空間72との間には、圧力差が発生している。その結果、油溜まり部10aに貯留されている潤滑油は、この圧力差によって吸引されて、第1油流路91又は第2油流路92を流れて上昇し、圧縮室40に供給される。次に、第1油流路91を通過する潤滑油の流れ、及び、第2油流路92を通過する潤滑油の流れについて、それぞれ説明する。
【0061】
図9は、第1油流路91が示されたスクロール圧縮機101の縦断面図である。第1油流路91は、油溜まり部10aから、主給油路61、クランク室23a、第1給油孔23d、第2給油孔23e、油連絡通路24f及び油溝24eを経由して、圧縮室40に至る流路である。油溜まり部10aに貯留されている潤滑油は、高圧空間71と背圧空間72との圧力差によって主給油路61を上昇する。主給油路61を上昇する潤滑油のほとんどは、順に、第3副給油路61c、第2副給油路61b及び第1副給油路61aに分流する。第3副給油路61cを流れる潤滑油は、クランクシャフト17と下部軸受60との間の摺動部を潤滑した後、高圧空間71に流入して油溜まり部10aに戻る。第2副給油路61bを流れる潤滑油は、クランクシャフト17と、ハウジング23の上部軸受32との間の摺動部を潤滑した後、高圧空間71及びクランク室23aに流入する。高圧空間71に流入した潤滑油は、油溜まり部10aに戻る。第1副給油路61aを流れる潤滑油は、クランクシャフト17と、可動スクロール26の上端軸受26cとの間の摺動部を潤滑した後、クランク室23aに流入する。主給油路61を通過して油室83に流入した潤滑油は、クランクシャフト17と、可動スクロール26の上端軸受26cとの間の摺動部を潤滑した後、クランク室23aに流入する。油室83、第1副給油路61a及び第2副給油路61bからクランク室23aに流入した潤滑油の一部は、油排出通路23bを経由して高圧空間71に流入し、油溜まり部10aに戻る。油室83、第1副給油路61a及び第2副給油路61bからクランク室23aに流入した潤滑油の大部分は、環状溝23gからハウジング給油路23cに流入する。ハウジング給油路23cに流入した潤滑油は、さらに、第1給油孔23d、第2給油孔23e及び油連絡通路24fを順に通過して、油溝24eに供給される。油溝24eに供給された潤滑油の一部は、スラスト摺動面24dをシールしながら、背圧空間72及び圧縮室40に漏れ出す。このとき、漏れ出した高温の潤滑油は、背圧空間72及び圧縮室40に存在する低温の冷媒ガスを加熱する。また、背圧空間72の潤滑油は、冷媒と共に、圧縮室40に流入する。圧縮室40に流入した潤滑油は、微小な油滴の状態で圧縮冷媒に混入される。圧縮冷媒に混入された潤滑油は、圧縮冷媒と同じ経路を通って、圧縮室40から高圧空間71に流入する。その後、潤滑油は、圧縮冷媒と共にコアカット通路55を下降した後に、油分離板62に衝突する。油分離板62に付着した潤滑油は、高圧空間71を落下して油溜まり部10aに戻る。
【0062】
図10は、第2油流路92が示されたスクロール圧縮機101の縦断面図である。第2油流路92は、油溜まり部10aから、給油管81の内部の通路、第3給油孔23f、第2給油孔23e、油連絡通路24f及び油溝24eを経由して、圧縮室40に至る流路である。すなわち、第1油流路91及び第2油流路92は、第2給油孔23eにおいて合流する。
図8に示されるように開閉機構82が開状態である場合、油溜まり部10aに貯留されている潤滑油は、高圧空間71と背圧空間72との圧力差によって、給油管開口81cから給油管81内に流入して、給油管81の内部の通路を上昇する。給油管81を通過した潤滑油は、ハウジング給油路23cに流入する。ハウジング給油路23cに流入した潤滑油は、さらに、第3給油孔23f、第2給油孔23e及び油連絡通路24fを順に通過して、油溝24eに供給される。油溝24eに供給された潤滑油は、上述したように、圧縮室40に流入し、最終的に油溜まり部10aに戻る。
【0063】
また、開閉機構82が開状態である間、油溜まり部10aに貯留されている潤滑油は、第1油流路91又は第2油流路92を経由して圧縮室40に供給されるので、油溜まり部10aに貯留されている潤滑油の量が減少して油面は徐々に低下する。そして、油面が所定の位置まで低下すると、開閉機構82は、
図8に示される開状態から、
図7に示される閉状態に移行する。これにより、油溜まり部10aに貯留される潤滑油の量(油面の高さ位置)が制限される。
【0064】
(3)スクロール圧縮機の特徴
(3−1)
スクロール圧縮機101では、モータ16の回転速度が高いほど、油溜まり部10aから吸引されて吐出管20から吐出される潤滑油の量が増加する傾向がある。そのため、スクロール圧縮機101の内部に予め封入される潤滑油の量は、モータ16の高速回転時においても、油溜まり部10aに十分な量の潤滑油が確保される程度に設定されている。
【0065】
しかし、スクロール圧縮機101の起動直後等、モータ16の低速回転時には、油溜まり部10aから吸引される潤滑油の量が少ないため、油溜まり部10aには多量の潤滑油が貯留されている。この場合、モータ16のロータ52は、油溜まり部10aに貯留されている潤滑油に浸っていないことが好ましい。なぜなら、ロータ52が潤滑油に浸かっている状態でモータ16が駆動すると、ロータ52の回転が潤滑油の攪拌抵抗によって妨げられ、スクロール圧縮機101の消費電力が増加するおそれがあるからである。
【0066】
スクロール圧縮機101は、モータ16の低速回転時にロータ52が潤滑油に浸らないようにするために、給油管81を備えている。給油管81は、油溜まり部10aに潤滑油が多量に貯留されている場合、具体的には、油溜まり部10aの油面の高さ位置がロータ52(バランスウェイト52a)の下端の高さ位置よりも高い場合に、油溜まり部10aに貯留されている潤滑油を吸引して圧縮室40に供給する。そのため、モータ16の低速回転時には、クランクシャフト17の内部の主給油路61を含む第1油流路91、及び、給油管81の内部の通路を含む第2油流路92の両方を経由して、潤滑油が油溜まり部10aから圧縮室40に供給される。これにより、モータ16の低速回転時においても、油溜まり部10aから潤滑油が効率的に吸引されて圧縮室40に供給されるので、油溜まり部10aに貯留されている潤滑油にロータ52が浸ってしまう事態の発生が抑制される。すなわち、高圧空間71に給油管81を設けることで、モータ16の低速回転時においてもロータ52(バランスウェイト52a)が潤滑油に浸らないようにして、ロータ52の回転が潤滑油の攪拌抵抗によって妨げられないようにすることができる。従って、スクロール圧縮機101は、ロータ52の回転が妨げられることによって消費電力が増加する事態の発生を抑制することができる。
【0067】
(3−2)
スクロール圧縮機101では、モータ16の回転速度が低いほど、固定スクロール24の第1ラップ24bと、可動スクロール26の第2ラップ26bとの間の隙間が大きくなる傾向がある。これは、モータ16の回転速度が低いほど、可動スクロール26の第2ラップ26bに作用する遠心力が小さいことに起因する。そして、第1ラップ24bと第2ラップ26bとの間の隙間であるラップ間隙間が大きいほど、圧縮室40の冷媒がラップ間隙間から漏れやすくなり、圧縮機効率が低下する。
【0068】
しかし、スクロール圧縮機101では、クランクシャフト17の内部の主給油路61を含む第1油流路91に加えて、給油管81の内部の通路を含む第2油流路92が設けられているので、モータ16の低速回転時においても圧縮室40に十分な量の潤滑油が供給される。そのため、モータ16の低速回転時においても、圧縮室40に供給された潤滑油によってラップ間隙間がシールされるので、圧縮室40の冷媒がラップ間隙間から漏れにくい。従って、スクロール圧縮機101は、起動直後等の低速運転時における圧縮機効率の低下を抑制することができる。
【0069】
(3−3)
スクロール圧縮機101では、給油管81は、開閉機構82を有する。油溜まり部10aの油面の高さ位置がロータ52の下端の高さ位置よりも高い間、開閉機構82は開状態となっており、油溜まり部10の潤滑油は給油管81の内部の通路を流れることができる。しかし、開閉機構82が開状態となっている間でも、高圧空間71の圧縮冷媒は、栓部材82aに阻害されて給油管81の内部の通路を流れることができない。また、開閉機構82が閉状態となっている間も、高圧空間71の圧縮冷媒は、給油管81の内部の通路を流れることができない。そのため、開閉機構82によって、高圧空間71の圧縮冷媒が給油管81の内部の通路を流れて圧縮室40に流入することが抑制される。冷媒が圧縮されている圧縮室40に高温高圧の圧縮冷媒が流入すると、圧縮機効率が低下するおそれがある。従って、スクロール圧縮機101は、起動直後等の低速運転時における圧縮機効率の低下を抑制することができる。
【0070】
(4)変形例
(4−1)変形例A
スクロール圧縮機101では、第1油流路91は、ハウジング23の内部に形成されるハウジング給油路23c、及び、固定スクロール24の内部に形成される油連絡通路24fを含む。しかし、第1油流路91は、少なくともクランクシャフト17内部の主給油路61を含んでいれば、ハウジング給油路23c及び油連絡通路24fを含んでいなくてもよい。
【0071】
図11は、本変形例における第1油流路91が示されたスクロール圧縮機101の縦断面図である。
図11では、可動スクロール26の第2鏡板26aに、給油細孔63が形成されている。給油細孔63は、第2鏡板26aの外周部の上方の空間と、上端軸受26cの内側の空間とを連通している。油室83は、第2鏡板26aの給油細孔63を介して、油溝24eに連通している。この場合、第1油流路91は、油溜まり部10aから、主給油路61、給油細孔63及び油溝24eを経由して、圧縮室40に至る流路である。油溜まり部10aに貯留されている潤滑油は、高圧空間71と背圧空間72との圧力差によって主給油路61を上昇し、給油細孔63及び油溝24eを経由して、圧縮室40に供給される。なお、本変形例では、ハウジング給油路23cは、第1給油孔23dを有さない。すなわち、第1油流路91及び第2油流路92は、第2給油孔23eで合流せず、油溝24eで合流する。
【0072】
(4−2)変形例B
スクロール圧縮機101では、
図8に示されるように、油面位置H2がロータ下端位置H1よりも高くなっている場合に開閉機構82が開状態となり、高くなっていない場合に閉状態となるように、給油管81が適切に位置に取り付けられている。具体的には、給油管81の給油管開口81cの高さ位置が、モータ16のロータ52の下端面の高さ位置の近傍になるように、給油管81が設置されている。この場合、少なくとも、給油管開口81cの下端の高さ位置が、ロータ52の下端面の高さ位置よりも低くなるように、給油管81が設置されることが好ましい。また、給油管開口81cの上端の高さ位置が、ロータ52の下端面の高さ位置よりも低くなるように、給油管81が設置されることがより好ましい。これにより、油溜まり部10aに貯留されている潤滑油がロータ52の下端面に接触することなく、給油管開口81cから給油管81の内部に潤滑油が流入することができるので、ロータ52の回転が潤滑油の攪拌抵抗によって妨げられることが抑制される。
【0073】
(4−3)変形例C
スクロール圧縮機101では、第1油流路91及び第2油流路92は、ハウジング23の内部に形成されているハウジング給油路23cで合流する。具体的には、第1油流路91及び第2油流路92は、第2給油孔23eにおいて、スクリュー部材23hの下方で合流する。
【0074】
しかし、第1油流路91及び第2油流路92は、他の位置で合流してもよい。例えば、第1油流路91及び第2油流路92は、第2給油孔23eにおいて、スクリュー部材23hの上方で合流してもよい。この場合、第1給油孔23dは、スクリュー部材23hの下方において、第2給油孔23eに開口し、かつ、第3給油孔23fは、スクリュー部材23hの上方において、第2給油孔23eに開口してもよい。
【0075】
また、第1油流路91及び第2油流路92は、固定スクロール24の油連絡通路24fで合流してもよい。この場合、第3給油孔23fは、ハウジング23の内部で第2給油孔23eに開口せず、ハウジング23を鉛直方向に貫通する。固定スクロール24は、第3給油孔23fと連通し、かつ、油連絡通路24fに開口する通路をさらに備える。これにより、給油管81及び第3給油孔23fを通過した潤滑油は、主給油路61及び第2給油孔23eを通過した潤滑油と、油連絡通路24fで合流する。
【0076】
(4−4)変形例D
スクロール圧縮機101では、開閉機構82は、主として、栓部材82aと蓋部材82bとから構成されている。しかし、開閉機構82は、油面位置H2に応じて開状態と閉状態との間を移行できる構成を有していれば、栓部材82a及び蓋部材82b以外の部材から構成されてもよい。
【0077】
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。