【課題】酸化反応で副生する過酸化水素を速やかに分解するカタラーゼ製剤を用い、重合度2以上の澱粉分解酸化物或いは転移反応酸化物で糖カルボン酸を、工業的にかつ、高収率で、生産する方法を提供すること。
【解決手段】還元末端にグルコース残基を有する重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸の製造方法は、糖質酸化時に過酸化水素を副生する糖質酸化酵素剤を、カタラーゼ製剤の存在下、前記澱粉分解物或いは転移反応物を含む原料基質に作用させる工程を含み、炭酸塩、または炭酸水素塩を、前記作用工程開始時に所定量添加する。
前記作用工程期間のうち、酸化率が0%から50%である期間、溶存酸素量が、1ppm以上となるよう、前記作用工程中に酸素を供給する請求項1から5いずれか記載の糖カルボン酸の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3〜5の糖質酸化酵素は、糖質を酸化する反応で副生成分として過酸化水素を生成する。過酸化水素は、殺菌や漂白剤として使用されるなど、タンパク質を変性させる力があり、糖質酸化時に副生する過酸化水素が、糖質酸化酵素を変性失活させてしまう。このため、糖質酸化酵素を用いて工業的に安定且つ効率的に重合度2以上の澱粉分解物および転移反応物を酸化するためには、過酸化水素の速やかな分解が必要となる。
【0007】
特許文献6のグルコースオキシダーゼ製剤においても、グルコースをグルコン酸へ酸化する過程で過酸化水素が発生する。副生する過酸化水素を速やかに分解する生産技術としてカタラーゼ製剤を使用することが記載されている。
【0008】
また、特許文献6には、グルコースをグルコン酸へ酸化する過程で、反応液のpHを連続的に一定の範囲に保つ技術が記載されている。
また、一般的に反応液のpHを一定に保つ技術として、pH緩衝液(バッファ)を添加して、反応液全体のpHを保持する手法が知られている。
【0009】
重合度2以上の澱粉分解物や転移反応物を酸化する場合においても、糖質酸化酵素と一緒に、カタラーゼ製剤を添加すると、糖質酸化時に副生する過酸化水素を速やかに分解することが出来る。しかしながら、原因は不明ではあるが、重合度2以上の酸化物を高収率で安定して生産することができない。
【0010】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、酸化反応で副生する過酸化水素を速やかに分解するカタラーゼ製剤を用い、かつ、高収率で、重合度2以上の澱粉分解酸化物或いは転移反応酸化物で糖カルボン酸を工業的に生産する方法を提供する。特に1L以上の大容量の反応液を用いて、工業的に高収率で生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、重合度2以上の澱粉分解物や転移反応物を原料とした酸化反応について、ビーカー、フラスコレベルの容器から、バッチ、大型反応釜レベルの容器まで、様々なスケールの容器を用いて検討を行ったところ、原料を含む1L以上の反応液を、大容量の容器の中で酸化反応を行うと収率が低下し、所望の収量を得るためには反応時間が長くかかる傾向にあることが分かった。その原因を検討したところ、大容量の容器内部に保持される反応液の内部は一様ではなく、表面付近と内部とでは反応の経過が異なることが原因であることが判明した。しかしながら、撹拌を行う、循環を行う、反応液のpHを一定に保つ、といった従来手法の採用により、収率はある程度改善がみられるものの、工業生産レベルに必要とされる収率、反応時間には依然不充分であることも判明した。
【0012】
そして、本発明者は、工業生産レベルに必要とされる収率、反応時間を得るためには、反応液の内部を、化学的な均一状態、時間的な均一状態にするのではなく、むしろ所定の不均一な状態とすることが効果的であることを発見した。
【0013】
また、カタラーゼ製剤中に含まれる夾雑酵素であるα−グルコシダーゼやグルコアミラーゼ等の澱粉分解酵素により加水分解されることが、重合度2以上の糖酸化物の生産を不安定化させる原因であることを発見するとともに、所定量の夾雑酵素量であれば、工業生産に用いることができることも発見した。
【0014】
本発明者らは、これら発見に基づき、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0015】
(1)還元末端にグルコース残基を有する重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸の製造方法であって、
糖質酸化時に過酸化水素を副生する糖質酸化酵素剤を、カタラーゼ製剤の存在下、前記澱粉分解物或いは転移反応物を含む原料基質に作用させる工程を含み、
炭酸塩、または炭酸水素塩を、前記作用工程開始時に所定量添加する糖カルボン酸の製造方法。
【0016】
(2)前記炭酸塩は、水に対する溶解度が、0超0.01mol/L以下である(1)記載の請求項1記載の糖カルボン酸の製造方法。
【0017】
(3)還元末端にグルコース残基を有する重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸の製造方法であって、
糖質酸化時に過酸化水素を副生する糖質酸化酵素剤を、カタラーゼ製剤の存在下、前記澱粉分解物或いは転移反応物を含む原料基質に作用させる工程を含み、
pKbが、1以上8以下である塩基性化合物を、前記作用工程開始時に所定量添加する糖カルボン酸の製造方法。
【0018】
(4)前記炭酸塩は、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、または卵殻カルシウムである(1)から(2)いずれか記載の糖カルボン酸の製造方法。
【0019】
(5)前記塩基性化合物は、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、または炭酸水素アンモニウムである(3)記載の糖カルボン酸の製造方法。
【0020】
(6)溶存酸素量が、1ppm以上となるよう、前記作用工程期間中に酸素を供給する(1)から(5)いずれか記載の糖カルボン酸の製造方法。
【0021】
(7)前記作用工程期間のうち、酸化率が0%から50%である期間、溶存酸素量が、1ppm以上となるよう、前記作用工程中に酸素を供給する(1)から(5)いずれか記載の糖カルボン酸の製造方法。
【0022】
(8)前記カタラーゼ製剤中のカタラーゼ活性(A)に対する糖化活性(B)の含有比率(B/A)が0.00002以上0.005以下であり、
前記糖化活性が前記原料基質中の還元糖量に対して0.9u/g以下である量で存在する(1)から(7)いずれか記載のいずれか記載の糖カルボン酸の製造方法。
【0023】
(9)前記カタラーゼ製剤中のカタラーゼ活性(A)に対する糖化活性(B)の含有比率(B/A)が0.005以下であり、かつ糖化活性(B)が0.1u/ml以上であり、
前記糖化活性が前記原料基質中の還元糖量に対して0.9u/g以下である量で存在する(1)から(7)いずれか記載の糖カルボン酸の製造方法。
【0024】
(10)前記作用工程の反応液総量が、1ton以上である(1)から(9)いずれか記載の糖カルボン酸の製造方法。
【0025】
(11)前記糖カルボン酸は、マルトビオン酸である(1)から(10)いずれか記載の糖カルボン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、食品、医薬や工業分野等において、ミネラル成分を可溶させる素材等として有用である糖カルボン酸を収率よく製造することができる。特に工業生産に適した収率、収量を、簡便に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0028】
本発明の一実施形態は、還元末端にグルコース残基を有する重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸の製造方法であって、
糖質酸化時に過酸化水素を副生する糖質酸化酵素剤を、カタラーゼ製剤の存在下、前記澱粉分解物或いは転移反応物を含む原料基質に作用させる工程を含み、
炭酸塩、または炭酸水素塩を、前記作用工程開始時に所定量添加する糖カルボン酸の製造方法である。
【0029】
本発明の別の実施形態は、還元末端にグルコース残基を有する重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸の製造方法であって、
糖質酸化時に過酸化水素を副生する糖質酸化酵素剤を、カタラーゼ製剤の存在下、前記澱粉分解物或いは転移反応物を含む原料基質に作用させる工程を含み、
pKbが、1以上8以下である塩基性化合物を、前記作用工程開始時に所定量添加する糖カルボン酸の製造方法である。
【0030】
以下、本発明の構成について、順に説明する。本発明は、原料糖質を含む反応液をあらかじめ調製し、原料糖質に含まれる還元末端側のアルデヒド基を酸化させる作用工程によって、糖カルボン酸を得る製造方法である。
【0031】
本発明の製造方法によって製造される糖カルボン酸は、以下のとおりである。
【0032】
(糖カルボン酸)
本発明方法を使用して製造される糖カルボン酸は、重合度2以上、好ましくは重合度4以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化されたものであれば、特に限定されない。澱粉分解物又は転移反応物の重合度は、例えば、2〜100、好ましくは4〜100等であってもよい。より具体的には、糖カルボン酸は、マルトデキストリン酸化物、粉飴酸化物、水飴酸化物、マルトヘキサオン酸、マルトテトラオン酸、マルトトリオン酸、マルトビオン酸、イソマルトデキストリン酸化物、パノース酸化物、イソマルトトリオン酸、イソマルトビオン酸、ニゲロビオン酸、コージビオン酸などが挙げられる。これらのうち、糖カルボン酸は、遊離の酸であってもよく、ラクトンであってもよく、その塩類であってもよい。
【0033】
糖カルボン酸の塩としては、特に限定されないが、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩等が挙げられる。
【0034】
あらかじめ調製する原料糖質を含む反応液は、以下の構成からなる。
【0035】
(原料糖質)
本発明において原料に用いる糖質は、還元末端にグルコース残基を有する重合度2以上の澱粉分解物或いは転移反応物であり、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、イソマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトヘキサオース、パノース、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、水飴、粉飴、デキストリン、分岐デキストリン、イソマルトデキストリン等が挙げられる。原料糖質は、単一の重合度である必要はなく、異なる重合度の糖質が混合された原料糖質としてもよい。
【0036】
糖カルボン酸生産時の原料糖質の濃度は、精製工程での濃縮等を考慮すると10〜50(wt)%が好ましく、20〜40(wt)%がより好ましい。なお、本明細書において、「(wt)%」は、対象成分の含有量(質量)を意味し、ここでは、液体中における糖質の含有量を意味する。
【0037】
(糖質酸化酵素製剤)
本発明で言う糖質酸化酵素製剤とは、還元末端にグルコース残基を有する重合度2以上の糖質を酸化し、副生成分として過酸化水素を発生するものをいう。Microdochium属に属する微生物由来の糖質酸化酵素製剤や、Acremonium属に属する微生物由来の糖質酸化酵素製剤などが挙げられ、具体的には、Acremonium chrysogenumに由来する糖質酸化酵素などが挙げられる。
【0038】
マルトビオン酸等の糖カルボン酸製造にあたり糖質酸化酵素は、原料基質中の還元糖量(wt%)に対して1u/g以上30u/g以下が好ましく、より好ましくは、2u/g以上20u/g以下で作用させる。本発明では、カタラーゼ製剤による過酸化水素の分解が十分になされるので、副生される過酸化水素の増加にかかわらず、糖質酸化反応を十分な速度で行うことができる。また、糖化活性による原料となる重合度2以上の澱粉分解物や転移反応物の分解が抑制され、ある程度の時間をかけて糖質酸化反応を行っても収率低下を招きにくいので、過剰な量の糖質酸化酵素を必要としない。
【0039】
本発明の糖質酸化酵素の酵素活性は、次のようにして測定する。
0.15%(w/v)フェノール及び0.15%(w/v)トリトンX−100を含む0.1Mリン酸一カリウム−水酸化ナトリウム緩衝液(pH7.0)2ml、10%マルトース一水和物溶液0.5ml、25U/mlペルオキシダーゼ溶液0.5ml、及び0.4%(w/v)4−アミノアンチピリン溶液0.1mlを混合し、37℃で10分保温後、酵素溶液0.1mlを添加し、反応を開始した。酵素反応進行と共に、波長500nmにおける吸光度の増加を測定することにより糖質酸化活性を測定した。なお、ブンランクには0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)を使用し、1分間に1μmolのマルトース一水和物を酸化するのに必要な酵素量を1単位とし、以下の計算式より活性を算出する。
マルトース酸化活性 (U/ml)
={(A5−A2)−(Ab5−Ab2)}× 2.218 ×n
A2, A5 : 反応開始後、2分後および5 分後の吸光度 (検体)
Ab2, Ab5 : 反応開始後、2 分後および5 分後の吸光度 (ブランク)
n:酵素液の希釈倍率
【0040】
(カタラーゼ製剤)
本発明で言うカタラーゼ製剤とは、Aspergillus属や、Micrococcus属などの微生物由来のカタラーゼ製剤などが挙げられ、具体的には、Aspergillus nigr又はMicrococcus lysodeikticus由来のカタラーゼ製剤が挙げられる。また、副活性としてカタラーゼ活性を有する市販のグルコースオキシダーゼ製剤を選択して用いることも含まれる。
【0041】
カタラーゼ製剤には、グルコアミラーゼやα‐グルコシダーゼなどの糖化活性を持つ夾雑酵素が混在することが多い。これら夾雑酵素が多く混在していると、糖カルボン酸の原料、すなわち還元末端にグルコース残基を有する重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物や、これら原料を酸化した反応生成物である糖カルボン酸が分解されてしまい、安定的な品質の糖カルボン酸の製造が不可能となる。従って、一般的には、純度の高いカタラーゼ製剤が望まれる。
【0042】
例えば、遺伝子組換えにより純度を上げて製造された組換えカタラーゼ製剤や、試薬として流通している精製カタラーゼ製剤といった、夾雑酵素をほとんど含まないカタラーゼ製剤を、用いることができる。
【0043】
しかしながら、中和剤を、後述する所定の方法で反応液に添加することにより、全体の収率が向上するので、夾雑酵素をある範囲で含んだカタラーゼ製剤でも問題なく用いることができるようになる。その結果、工業生産上、コストメリットも生まれる。この夾雑酵素を所定範囲量で含んだカタラーゼ製剤については、後述する。
【0044】
反応液中の原料糖質、糖質酸化酵素、カタラーゼ製剤が互いに作用する作用工程に対し、本発明では、作用工程の開始時に、以下の中和剤を所定量、添加する。
【0045】
(中和剤)
本発明で言う中和剤とは、反応液中のpHを調整するために用いられるものである。中和剤の一例としては、炭酸塩または炭酸水素塩を用いることができる。
【0046】
そして、炭酸塩は、一例として、25℃における水に対する溶解度が、0超0.01mol/L以下のものである。例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、卵殻カルシウムなどを用いることができる。
【0047】
また、炭酸水素塩は、例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムなどを用いることができる。
【0048】
また、中和剤の別の一例としては、25℃における水を溶媒としたpKbが、1以上8以下である塩基性化合物を用いることができる。pKbが、1未満の塩基性化合物を用いた場合は、糖質酸化酵素が添加直後に失活してしまい、糖質酸化機能が回復しないため、使用できないものである。またpKbが、8超である塩基性化合物は、中和機能に乏しく、工業生産における使用には適さないものである。pKbが、1以上8以下である塩基性化合物としては、例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムなどを例示することができる。
【0049】
また、pKbの典型的な例としては、25℃における水を溶媒としたpKbは、1以上、1.5以上、2以上、2.5以上、3以上、3.5以上、4以上、または4.5以上、であり、5以下、5.5以下、6以下、6.5以下、7以下、または8以下である。
【0050】
なお作用工程開始時に加える中和剤の所定添加量は、中和剤が2価のイオンであれば、原料となる糖質中の還元糖と中和剤のモル比が2:1となるように、1価のイオンであれば、モル比が1:1となるようにして、算出する。
【0051】
ところで、糖カルボン酸を生成する作用工程期間中、反応液のpHは次第に低下し、中性から酸性に変化する傾向にある。ここでpHが4未満となると、糖質酸化酵素の活性が大幅に低下することが分かっているため、一般的には反応液の状態を、pHセンサーで常時モニタリングすることが行われている。そして、pHが4〜7の間に任意の目標pHの値を設定し、pHがその目標値で一定に保たれるように、中和剤を逐次添加することが一般的に行われている(リアルタイムフィードバック制御型の逐次添加法)。すなわち、反応液調製後の、作用工程の段階において、反応液のpHが、初期値から低下して上記目標値(例えばpH6)に達した時(例えば反応開始2時間後)に、フィードバック制御を開始し、間欠的に、または連続的に、中和剤を加えるものである。
【0052】
しかしながら、本発明者は、反応液総量が1L以上である反応系においては、リアルタイムフィードバック制御型の逐次添加法を行っても、90%以上の高い収率を得ることはできなかった。そして、中和剤の添加方法について、様々な方法を検討としたところ、作用工程期間中に低下するpHを見越して、中和剤をあらかじめ過剰に添加することで、90%以上の高い収率を得ることができた。すなわち、作用工程の開始時において、中和剤を加えるものであり、一例としては、反応の全期間を通じて、糖質酸化酵素の活性を維持し得る中和剤必要量の総量を、作用工程の開始時に一度に反応液に加えることが挙げられる。
【0053】
作用工程開始時に中和剤を加える方法が、逐次添加する方法よりも、高収率が得られる原因については、充分に解明が進んでいない。しかし、反応液総量が1L以上である反応系の場合、反応液の内部に中和剤の濃度勾配が生じやすいことが一因であると考えられる。
【0054】
具体的には、第1の推測としては、糖質を多く含むことで反応液は粘度が高いために、中和剤が拡散するまでに時間を要することが原因というものである。中和剤は、反応液中における中和剤の添加点(ドロップポイント)を中心として、中和剤の高濃度な領域が生じるが、中和剤が拡散し均一になるまでにその領域外ではpHが低下した状態となっており、糖質酸化酵素の活性が一時的に減退するため、攪拌が進んで濃度勾配が解消するまで、その状態が持続するという推測である。
【0055】
また、第2の推測としては、中和剤が拡散し均一になるまでにドロップポイント近傍以外の領域は、pH低下することで酵素がダメージを受けるため、予め中和剤を添加した場合に比べ、活性低下が早いため収率が悪くなったという推測である。
【0056】
いずれの推測にしても、ドロップポイントは、長い時間にわたり影響を与えるものであるから、作用工程期間中に1時間ごとなど複数回のドロップポイントを設けるよりも、作用工程開始時に一度だけドロップポイントを設ける方が、相対的に酵素活性の総和量(時間積分値)が高くなり、その結果、高い収率が得られる。
【0057】
ところで、中和剤を作用工程の開始時に一度に添加することは、作用工程開始時のpHが高くなり、中性ではなくアルカリ性を示す傾向にあることを意味する。ここで、反応液が強アルカリ性を示すと、糖質酸化酵素が直ちに失活してしまい、糖質酸化機能が回復しない。しかしながら、本発明の中和剤を用いた場合には、中和剤を作用工程の開始時に一度に添加しても、糖質酸化酵素が失活することなく使用できる。
【0058】
また、反応液総量が1L以上である反応系で生ずる濃度勾配は、反応液総量が多くなるほど勾配が強くなる傾向にあることが分かっている。すなわち、反応液の量が多くなり、反応容器のサイズが大きくなるほど、収率は低下する傾向にある。従って、本発明の製造方法は、反応液の量が多い系であるほど、収率向上効果を発揮するものである。例えば、反応液の総量が1ton以上である反応系であっても、適用することができる。さらには、10ton以上である反応系、50ton以上である反応系にも適用することができ、100ton以上である反応系、500ton以上である反応系、でも好適に用いることができる。
【0059】
なお、反応液調製段階と、作用工程段階開始時は連続するものであるので、中和剤を作用工程段階の開始時に加えることと、中和剤を反応液調製段階に加えることとは、事実上同一であり、本発明には、中和剤を反応液調製段階に加えることも含まれる。
【0060】
また、中和剤の形態(液体、固体等)や添加方法(滴下、散布等)にもよるが、中和剤の添加には、ある程度の有限の時間を要することから、中和剤の添加を、反応液調製段階から作用工程段階開始時にかけて、連続して行うことも、本発明には含まれる。
【0061】
(作用工程における反応温度)
糖質酸化酵素とカタラーゼの反応工程での反応温度は、例えば20〜60℃程度の条件下で行うのが好ましく、より好ましくは、25〜40℃の範囲である。
【0062】
(作用工程における酸素の供給)
本発明の酸化反応では、反応系に酸素が必要となるため、空気や酸素を通気することが好ましい。また、反応の結果、酸素は消費されるため、反応液中の酸素が欠乏した領域に対して、酸素をより多く含む領域の反応液を供給する必要があるから、常時撹拌することが好ましい。従って、空気や酸素を所定量通気しながら、所定量の速度で撹拌することが最も望ましい。
【0063】
そして、反応液中の酸素量は、いわゆる溶存酸素量として、溶存酸素センサー等により計測することができる。従って、作用期間中に、溶存酸素量が所定量以上となるように、通気量を調整することや、撹拌速度を調整することが可能である。
後述する実施例に示すように、例えば作用工程の全期間にわたって、溶存酸素量を1ppm以上とすることにより、90%以上の収率を得ることができる。その方法は、例えば、酸素ボンベから酸素を通気しながら攪拌することで達成される。または、エアーコンプレッサーから散気装置を通すことで微細な空気を通気しながら、反応液をバブリングすることでも達成される。また反応容器の形状にもよるが、スクリュー型攪拌機、プロペラ型攪拌機のような供給される空気を高速撹拌することで微細な空気へせん断供給する方法でも達成される。
【0064】
また、溶存酸素センサーを用いた反応液中の溶存酸素量の計測は、比較的簡単にできるため、工業生産として必要な製造コストに見合った製造方法を設計することも可能である。具体的には、作用期間中の反応速度は必ずしも一定ではなく、多くの場合、作用工程の前半では反応速度が速く、後半では反応速度が遅い傾向にある。そしてより多くの酸素を必要するのは反応速度の速い前半であるから、作用期間の前半では、溶存酸素量が1ppm以上となるように、酸素ボンベから酸素を通気しながら攪拌し、作用期間の後半では、通気量を減らすことが可能である。また、別の例としては、反応の酸化率をモニターし、酸化率が0〜50%の作用期間に、溶存酸素量が1ppm以上となるように、空気を通気しながら攪拌し、酸化率が51%以上の作用期間では、通気量を減らすことも可能である。このように酸化率が0〜50%の作用期間のみを溶存酸素量が1ppm以上とすることにより、酸素使用量を減らし、コスト削減ができるとともに、工程管理面での負担も軽減される。
【0065】
なお、糖カルボン酸への酸化反応は、還元糖量の減少から確認することができるから、例えばネルソン・ソモギ法による比色定量法を用いることによって、酸化率(%)を測定することが出来る。この場合、ネルソン・ソモギ法による還元糖量を定量することによって、反応系全体の酸化率(%)を算出することもできる。
(反応開始前還元糖量−反応液還元糖量)/反応開始前還元糖量×100=酸化率(%)
【0066】
また、HPLCにより原料糖質や糖カルボン酸を分析することで確認することも可能である。例えば、マルトースを原料に酸化反応を行った後、HPAED−PAD法(パルスドアンペロメトリー検出器、CarboPac PA1カラム)により、溶出:35℃、1.0ml/min、水酸化ナトリウム濃度:100mM、酢酸ナトリウム濃度:0分−0mM、2分−0mM、20分−20mMの条件で測定すれば、マルトース、マルトビオン酸を定量することが可能である。
【0067】
(夾雑酵素を所定範囲で含むカタラーゼ製剤)
本発明では、夾雑酵素を所定範囲で含むカタラーゼ製剤を用いることもできる。具体的には、カタラーゼ製剤中のカタラーゼ活性(A)に対する糖化活性の含有比率(B/A)が0.005以下であるカタラーゼ製剤を用いる。好ましくは、B/Aは、0.0045以下、0.003以下、0.002以下、0.0015以下、0.001以下、0.0005以下、0.0004以下である。
【0068】
また、B/Aは0.00002以上であることが好ましく、具体的には0.0001以上、0.0002以上、0.0003以上、0.0004以上であってよい。カタラーゼ製剤がこの程度の比率で糖化活性を有していても、糖化反応に比べて糖質酸化の主反応が速やかに進むため、収率低下につながりにくい。
【0069】
また、本発明においては、カタラーゼ製剤中のカタラーゼ活性(A)に対する糖化活性(B)の含有比率(B/A)が0.005以下であっても、原料糖質に対してカタラーゼ製剤を多めに添加すると、カタラーゼ製剤中の夾雑酵素が原料基質を加水分解し、マルトビオン酸等の糖カルボン酸が想定している組成のものが得られない場合がある。このためカタラーゼ製剤中の糖化活性が、原料基質中の還元糖量(固形分当たりwt%)に対して0.9u/g以下(好ましくは、0.8u/g以下、0.7u/g以下、0.65u/g以下)となるようにカタラーゼ製剤を作用させる必要がある。
【0070】
カタラーゼ製剤中のカタラーゼ活性(A)は、5000u/ml以上であることが好ましく、具体的には10000u/ml以上、15000u/ml以上、20000u/ml以上、22500u/ml以上であってよい。高いカタラーゼ活性を有すると、糖化活性がある程度高くても、収率に与える影響を小さくとどめやすい。
【0071】
カタラーゼ製剤中のカタラーゼ活性(A)は、500000u/ml以下であることが好ましく、具体的には、2500000u/ml以下、150000u/ml以下、100000u/ml以下、75000u/ml以下であってよい。本発明で用いられるカタラーゼ製剤は糖化活性が低いので、過大なカタラーゼ活性を有しなくても、収率に与える影響を小さくとどめやすい。
【0072】
カタラーゼ製剤中の糖化活性(B)は、250u/ml以下であることが好ましく、具体的には、100u/ml以下、50u/ml以下、30u/ml以下、25u/ml以下であってよい。
【0073】
他方、カタラーゼ製剤中の糖化活性(B)は、許容範囲内で有してよく、0.1u/ml以上であることが好ましく、具体的には0.5u/ml以上、1.0u/ml以上、1.5u/ml以上、2.0u/ml以上であってよい。この程度の糖化活性が存在しても、糖化反応に比べて糖質酸化の主反応が速やかに進むため、収率低下につながりにくい。
【0074】
カタラーゼ製剤中の糖化活性は、許容範囲内で有してよく、具体的には原料基質中の還元糖量(固形分当たりwt%)に対して、0.00008u/g以上、好ましくは0.0005u/g以上、0.001u/g以上、0.0015u/g以上であってよい。この程度の糖化活性が存在しても、糖化反応に比べて糖質酸化の主反応が速やかに進むため、収率低下につながりにくい。
【0075】
また、マルトビオン酸等の糖カルボン酸製造にあたり、前記カタラーゼ製剤は、原料基質中の還元糖量(固形分当たり)に対して40u/g以上1000u/g以下で存在するのが好ましく、より好ましくは、60u/g以上500u/g以下で存在する。本発明では、カタラーゼ製剤中の糖化活性が低く抑えられているため、過酸化水素による糖質酸化酵素の分解を抑制するのに十分な量のカタラーゼ製剤を使っても収率低下を招きにくい。また、糖化活性による原料となる重合度2以上の澱粉分解物や転移反応物の分解が抑制され、ある程度の時間をかけて糖質酸化反応を行っても収率低下を招きにくいので、過剰なカタラーゼ活性を必要としない。
【0076】
なお、カタラーゼ製剤中のカタラーゼ活性は、次のようにして測定する。
酵素反応後の残存過酸化水素をチオ硫酸ナトリウムで滴定する方法に従う(小崎道雄監修「酵素利用ハンドブック」、地人書館昭和60年版、p404〜410)。すなわち、市販の30重量%過酸化水素を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で800倍に希釈した基質溶液5mlを容器にとり、30℃の恒温水槽に15分入れ恒温とする。これに30℃に保温した検体酵素液1mlを加え、正確に5分後に0.5N硫酸2mlを加えよく振り混ぜ酵素作用を止める。これに10重量%ヨウ化カリウム溶液1mlと1%モリブデン酸アンモニウム1滴及び指示薬として0.5%デンプン試薬5滴を加え、この溶液を撹拌しながら、0.005Nチオ硫酸ナトリウム溶液(定量用)で滴定し、ブランクは試料の代わりに水1mlを添加し、ブランクの値から検体の値を差し引いてカタラーゼ作用によって分解された過酸化水素の量を算出し、標準曲線から検体酵素液のカタラーゼ活性を求める。なお、1Uは1分間に1μmolの過酸化水素を分解する活性を示している。
カタラーゼ活性(U/ml)=A×n
n:希釈倍率
A:標準曲線のグラフよりy=(T
0−T
S)×24.18/T
0×2.5×fのx軸の値Aを求める
f:0.005Nチオ硫酸ナトリウムのファクター
T
0:ブランクの滴定値(ml)
T
S:サンプルの滴定値(ml)
24.18/T
0:初発基質濃度による活性測定変化に対する補正値
2.5:0.005Nチオ硫酸ナトリウム溶液1mlは過酸化水素2.5μmolに相当
【0077】
本発明で定義する糖化活性とは、グルコアミラーゼ活性とα−グルコシダーゼ活性により澱粉分解物が加水分解されグルコースを遊離する力であり、本発明の糖化活性は、基質の4−ニトロフェニルβ−マルトシド(G2−β−PNP)より、1分間に1μmolのPNPを遊離する活性を1Uと定義することができる。
【0078】
カタラーゼ製剤中の糖化活性は、カタラーゼ製剤を4−ニトロフェニルβ−マルトシドと反応させて4−ニトロフェニルβ−グルコシドを生成させ、それをβ-グルコシダーゼによって分解して4−ニトロフェノールを生成させ、4−ニトロフェノールを定量することにより測定される。具体的には、キッコーマン社製の糖化力測定キット或いは糖化力分別定量キットなどを利用して、カタラーゼ製剤中の糖化活性を測定する。
【0079】
(キッコーマン社製の糖化力測定キットを使用した糖化力活性の測定)
キッコーマン社製の糖化力測定キットを使用する場合、4−ニトロフェニルβ−マルトシドを含有する基質溶液0.5mlにβ−グルコシダーゼを含有する酵素溶液0.5mlを混ぜ、37℃で5分間予備加温を行った後、測定試料0.1mlを加え、混合して37℃で10分間反応させる。反応停止は、炭酸ナトリウムを含有する酵素停止液2mlを加え混合する。反応終了後の液を波長400nmで定量することにより糖化力を測定し、以下の計算式より活性を算出する。
糖化力活性 (U/ml)=(Es−Eb)× 0.171×n
Es:測定試料の吸光度
Eb:ブランクの吸光度
n:酵素液の希釈倍率
【0080】
本発明方法を使用して調製した糖カルボン酸は、飲食物や化粧品、医薬品、化成品等へ使用することが可能である。
【実施例】
【0081】
試験例1 炭酸塩中和剤添加方法の比較(作用工程開始時添加、及び逐次添加)
(実施例1、比較例1)
ジャーファメンター(容量4L、エイブル株式会社製)に対し、マルトース70.3wt%に加えて、グルコース1.2wt%、マルトトリオース15.0wt%及びマルトテトラオース(重合度4)以上のマルトオリゴ糖13.5wt%を含むハイマルトース水飴(Bx.75%、サンエイ糖化株式会社製)800gに蒸留水1200gを加え、30wt%となるように溶解させた後、炭酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)78g、Acremonium chrysogenum由来糖質酸化酵素製剤(糖質酸化活性300u/ml)4.0ml(1200u、2u/g基質)と、Aspergillus属由来のカタラーゼ製剤E(カタラーゼ活性53800u/ml、糖化活性2.2u/ml、糖化活性/カタラーゼ活性比=0.00004)1.56ml(84000U、140u/g基質)を加え、35℃、500rpm、空気通気1L/分で通気攪拌(孔径10μmの焼結フィルターを装着した配管より連続的に通気)を行った。反応開始から4時間後に、糖質酸化酵素剤4.0ml(1200u、2u/g基質)を追加添加し、酸化反応を行った。
【0082】
なお、この時の糖化活性/カタラーゼ活性比=0.00004(すなわち0.005以下)であり、且つ糖化活性が原料基質の還元糖あたり0.013u/g(すなわち0.9u/g以下)であった。
【0083】
また、比較例1として、原料糖質や酵素量、反応温度や空気通気条件は、実施例1と同様の条件で酸化反応を行い、酸化反応により低下するpHを6.0となるように、15%wt炭酸カルシウムを逐次添加しながら、酸化反応を行った。
【0084】
酸化反応の推移は、反応液の還元糖量をネルソン・ソモギ法で定量し、次式により変換率を算出した。
(反応開始前還元糖量−反応液還元糖量)/反応開始前還元糖量×100=酸化率(%)
【0085】
【表1】
【0086】
作用工程開始時に炭酸カルシウムを添加した実施例1では、反応28時間で100%酸化されたのに対して、比較例1の炭酸カルシウムを逐次添加しpH調整した場合では、反応31時間で酸化率90%未満に留まり、反応効率が大きく異なる結果となった。
【0087】
試験例2 炭酸塩中和剤を用いる第2の実施例
(実施例2)
ジャーファメンター(容量4L、エイブル株式会社製)に対し、マルトース70.3wt%に加えて、グルコース1.2wt%、マルトトリオース15.0wt%及びマルトテトラオース(重合度4)以上のマルトオリゴ糖13.5wt%を含むハイマルトース水飴(Bx.75%、サンエイ糖化株式会社製)800gに蒸留水1200gを加え、30wt%となるように溶解させた後、炭酸マグネシウム(和光純薬工業株式会社製)63g、Acremonium chrysogenum由来糖質酸化酵素製剤(糖質酸化活性300u/ml)4.0ml(1200u、2u/g基質)と、Aspergillus属由来のカタラーゼ製剤E(カタラーゼ活性53800u/ml、糖化活性2.2u/ml、糖化活性/カタラーゼ活性比=0.00004)1.56ml(84000U、140u/g基質)を加え、35℃、300rpm、空気通気2L/分(孔径10μmの焼結フィルターを装着した配管より連続的に通気)で通気攪拌を行った。また、反応開始から4時間後に、糖質酸化酵素剤4.0ml(1200u、2u/g基質)を追加添加し、酸化反応を行った。
なお、この時の糖化活性/カタラーゼ活性比=0.00004(すなわち0.005以下)であり、且つ糖化活性が原料基質の還元糖あたり0.013u/g(すなわち0.9u/g以下)であった。
【0088】
(酸化反応の推移は、反応液の還元糖量をネルソン・ソモギ法で定量し、次式により変換率を算出した。
(反応開始前還元糖量−反応液還元糖量)/反応開始前還元糖量×100=酸化率(%)
【0089】
【表2】
中和剤に炭酸マグネシウムを予め添加した実施例2は、反応中のpHは7.5付近を推移しながら酸化反応が進み、28時間後には100%酸化された。
【0090】
試験例3 炭酸水素塩中和剤を用いる実施例
(実施例3)
ジャーファメンター(容量4L、エイブル株式会社製)に対し、マルトース70.3wt%に加えて、グルコース1.2wt%、マルトトリオース15.0wt%及びマルトテトラオース(重合度4)以上のマルトオリゴ糖13.5wt%を含むハイマルトース水飴(Bx.75%、サンエイ糖化株式会社製)534gに蒸留水1466gを加え、20wt%となるように溶解させた後、炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)50g、Acremonium chrysogenum由来糖質酸化酵素製剤(糖質酸化活性300u/ml)2.67ml(800u、2u/g基質)と、Aspergillus属由来のカタラーゼ製剤E(カタラーゼ活性53800u/ml、糖化活性2.2u/ml、糖化活性/カタラーゼ活性比=0.00004)1.04ml(56000U、140u/g基質)を加え、35℃、300rpm、空気通気2L/分(孔径10μmの焼結フィルターを装着した配管より連続的に通気)で通気攪拌を行った。反応開始から4時間後に、糖質酸化酵素剤2.67ml(800u、2u/g基質)を追加添加し、酸化反応を行った。
なお、この時の糖化活性/カタラーゼ活性比=0.00004(すなわち0.005以下)であり、且つ糖化活性が原料基質の還元糖あたり0.013u/g(すなわち0.9u/g以下)であった。
【0091】
酸化反応の推移は、反応液の還元糖量をネルソン・ソモギ法で定量し、次式により変換率を算出した。
(反応開始前還元糖量−反応液還元糖量)/反応開始前還元糖量×100=酸化率(%)
【0092】
【表3】
中和剤に炭酸水素ナトリウムを予め添加した実施例3は、反応中のpHは9.8付近を推移しながら酸化反応が進み、28時間後には100%酸化された。
【0093】
試験例4 撹拌及び通気方法の違いによる溶存酸素量と収率の比較
(実施例4、実施例5、比較例2)
ジャーファメンター(容量4L、エイブル株式会社製)に対し、マルトース70.3wt%に加えて、グルコース1.2wt%、マルトトリオース15.0wt%及びマルトテトラオース(重合度4)以上のマルトオリゴ糖13.5wt%を含むハイマルトース水飴(Bx.75%、サンエイ糖化株式会社製)800gに蒸留水1200gを加え、30wt%となるように溶解させた後、炭酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)78g、Acremonium chrysogenum由来糖質酸化酵素製剤(糖質酸化活性300u/ml)4.0ml(1200u、2u/g基質)と、Aspergillus属由来のカタラーゼ製剤E(カタラーゼ活性53800u/ml、糖化活性2.2u/ml、糖化活性/カタラーゼ活性比=0.00004)1.56ml(84000U、140u/g基質)を加え、35℃で孔径10μmの焼結フィルターを装着した配管より連続的に通気と攪拌機による攪拌することで酸化反応を行った。また、反応開始から4時間後に、糖質酸化酵素剤4.0ml(1200u、2u/g基質)を追加添加した。通気攪拌条件を変えることで溶存酸素による影響を評価した。
なお、この時の糖化活性/カタラーゼ活性比=0.00004(すなわち0.005以下)であり、且つ糖化活性が原料基質の還元糖あたり0.013u/g(すなわち0.9u/g以下)であった。
【0094】
酸化反応の推移は、反応液の還元糖量をネルソン・ソモギ法で定量し、次式により変換率を算出した。
(反応開始前還元糖量−反応液還元糖量)/反応開始前還元糖量×100=酸化率(%)
【0095】
【表4】
試験の結果、実施例4と5のように、反応10時間までの段階で溶存酸素量が1ppm以上であると反応26時間後には95%以上酸化されているのに対して、比較例2では、溶存酸素量が1ppm以下で推移したことにより、反応28時間後の段階で酸化率が43%程度に留まった。
【0096】
試験例5 炭酸塩中和剤を用いた応用例
(実施例6)
ジャーファメンター(容量4L、エイブル株式会社製)に対し、マルトース70.3wt%に加えて、グルコース1.2wt%、マルトトリオース15.0wt%及びマルトテトラオース(重合度4)以上のマルトオリゴ糖13.5wt%を含むハイマルトース水飴(Bx.75%、サンエイ糖化株式会社製)880gに蒸留水1320gを加え、30wt%となるように溶解させた後、炭酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)86g、Acremonium chrysogenum由来糖質酸化酵素製剤(糖質酸化活性300u/ml)4.4ml(1320u、2u/g基質)と、Aspergillus属由来のカタラーゼ製剤A(カタラーゼ活性75060u/ml、糖化活性24.8u/ml、糖化活性/カタラーゼ活性比=0.00033)0.66ml(49500U、75u/g基質)を加え、35℃、500rpm、空気通気2L/分で通気攪拌を行った。反応開始から12時間後に、糖質酸化酵素剤1.1ml(330u、0.5u/g基質)とカタラーゼ製剤0.22ml(16500u、25u/g基質)を追加添加し、酸化反応を行った。
なお、この時の糖化活性/カタラーゼ活性比=0.00033(すなわち0.005以下)であり、且つ糖化活性が原料基質の還元糖あたり0.066u/g(すなわち0.9u/g以下)であった。
【0097】
酸化反応の推移は、反応液の還元糖量をネルソン・ソモギ法で定量し、次式により変換率を算出した。
(反応開始前還元糖量−反応液還元糖量)/反応開始前還元糖量×100=酸化率(%)
【0098】
また、反応生成物の糖組成は、HPAED−PAD法(パルスドアンペロメトリー検出器、CarboPac PA1カラム)により、溶出:35℃、1.0ml/min、水酸化ナトリウム濃度:100mM、酢酸ナトリウム濃度:0分−0mM、2分−0mM、20分−20mMの条件で分析した。
【0099】
【表5】
【0100】
実施例6について、表5に酸化反応開始時から45時間までの経過時における酸化率を示す。表5に示すとおり、反応45時間後には100%酸化された。この時の生成物は、カルシウム4.1wt%を含む、マルトビオン酸67.4wt%に加えて、グルコン酸1.2wt%、マルトトリオン酸14.4wt%及びマルトテトラオン酸(重合度4)以上のマルトオリゴ糖酸12.9wt%で構成されていた。
【0101】
試験例6 大容量反応槽を用い、反応液総量1ton以上における応用例
(実施例7)
横型2.2kWのプロペラ翼式撹拌機(株式会社竹内製作所製)を装着したジャケット付きSUS型反応槽(容量10000L、八洲化工機株式会社製)に対し、マルトース70.3wt%に加えて、グルコース1.2wt%、マルトトリオース15.0wt%及びマルトテトラオース(重合度4)以上のマルトオリゴ糖13.5wt%を含むハイマルトース水飴(Bx.70%、サンエイ糖化株式会社製)3.3tに水道水4.4tを加え、30wt%となるように溶解させた後、炭酸カルシウム(三共精粉株式会社製)300kg、Acremonium chrysogenum由来糖質酸化酵素製剤(糖質酸化活性315u/ml)14.6L(4599945u、2u/g基質)と、Aspergillus属由来のカタラーゼ製剤F(カタラーゼ活性68250u/ml、糖化活性23.6u/ml、糖化活性/カタラーゼ活性比=0.000035)3.385L(231000000U、100u/g基質)を加え、35℃、200rpm、空気通気800L/分(微細気泡発生装置より連続的に通気)で通気攪拌をおこなった。反応開始から12時間後と24時間後に、糖質酸化酵素剤3.651L(1150065u、0.5u/g基質)とカタラーゼ製剤0.677L(46200000u、20u/g基質)をそれぞれ追加添加し、酸化反応を行った。
なお、この時の糖化活性/カタラーゼ活性比=0.000346(すなわち0.005以下)であり、且つ糖化活性が原料基質の還元糖あたり0.11u/g(すなわち0.9u/g以下)であった。
【0102】
酸化反応の推移は、反応液の還元糖量をネルソン・ソモギ法で定量し、次式により変換率を算出した。
(反応開始前還元糖量−反応液還元糖量)/反応開始前還元糖量×100=酸化率(%)
【0103】
【表6】
実施例7について、表6に酸化反応開始時から42時間までの経過時における酸化率と溶存酸素を示す。表6に示すとおり、8ton程度の反応液総量においても、中和剤として炭酸カルシウムを予め添加し、溶存酸素が1ppm以上となるように通気することで中和反応が効果的に行われ、反応42時間後には98.6%まで酸化が進んだ。工業生産レベルの反応系でも、本発明の効果を確認することができた。