【実施例】
【0013】
図1に示すように、車両用のシート10は、乗員の下半身を支持する座部12と、この座部12の後部に傾動可能に設置されて乗員の上半身を支持する背もたれ部14と、この背もたれ部14の上部に設置されて乗員の頭部を支持するヘッドレスト16とから基本的に構成される。背もたれ部14は、軟質ポリウレタンフォームを主体として、全体としてクッション性を有するバックパッド(車両用バックパッド)20と、バックパッド20の全体を覆うように貼り込まれた、布地や合成皮革や本革などの表皮材18と、図示しない金属製等のフレームとから構成されている。なお、以下のバックパッド20の説明において、着座した乗員側となる向きを前とすると共にそれと反対向きを後と指称する。実施例では、バックパッド20の前後が車両へのシート10の設置状態を基準とした前後と一致し、車両へのシート10の設置状態を基準として上下左右をいう。
【0014】
図2〜
図4に示すように、バックパッド20は、座席に座った乗員の背中の中央部分を支持するメインサポート22と、メインサポート22の横側のそれぞれに設けられたサイドサポート24,24とを備えている。メインサポート22は、前後方向の全体に亘って軟質ポリウレタンフォームから構成されている。バックパッド20は、サイドサポート24,24の前面(表面側)がメインサポート22の前面よりも前方へ突出するように形成され、サイドサポート24の前面が左右方向において内から外へ向かうにつれて前方へ向かうように傾いている。なお、バックパッド20は、後側(裏面側)を覆うように設けられた保護部材(図示せず)を備え、座席の骨格を構成するフレームに設置した際に、保護部材がフレームに接するようになっている。保護部材は、例えば不織布や布地などの柔軟な材料が用いられ、振動等によってフレームとの間で異音が発生することを防止している。
【0015】
図2に示すように、バックパッド20には、前側に開口すると共に前面に沿って延在する複数条の溝部26,28,30が形成されている。なお、溝部26,28,30は、表皮材18をバックパッド20に取り付ける際に、表皮材18を溝部26,28,30内に引き込んで表皮材18にテンションをかけるために用いられる。バックパッド20は、左右に離して配置されると共にそれぞれ上下方向に延在する2条の縦溝部26,26と、2条の縦溝部26,26の間に左右方向に延在するように形成された横溝部28とを備えている。実施例のバックパッド20では、メインサポート22とサイドサポート24とが縦溝部26によって区分されており、2条の縦溝部26,26の内側がメインサポート22であり、各縦溝部26の外側がサイドサポート24である。
【0016】
図2および
図3に示すように、サイドサポート24は、該サイドサポート24の上部に前側へ臨むように設けられて、着座した乗員の肩を受ける肩受部32と、肩受部32の後側に設けられた肩支持部34と、肩受部32および肩支持部34以外の部分を構成する横保持部36とを備えている。サイドサポート24には、前側に開口すると共に前面に沿って延在するサイド溝部30が、上端および下端が縦溝部26に連なるように設けられており、縦溝部26およびサイド溝部30に囲まれる肩対応部位が肩受部32となっている。
【0017】
肩受部32は、メインサポート22と同じ軟質ポリウレタンフォームから構成されており、メインサポート22と硬さなどの機械的性質が同じである。これに対して、横保持部36は、メインサポート22(肩受部32)よりも硬い軟質ポリウレタンフォームから構成されており、メインサポート22(肩受部32)よりも荷重に対する支持力が高く設定されている。バックパッド20は、メインサポート22および肩受部32を同一の軟質ポリウレタンフォームにより一体的に形成してある。また、横保持部36は、メインサポート22および肩受部32と異なる機械的性質の軟質ポリウレタンフォームにより、メインサポート22および肩受部32と一体的に形成してある。バックパッド20は、着座した乗員の背中の中央部分に対応するメインサポート22および肩部分に対応する肩受部32が、横保持部36よりも柔らかくクッション性が高くなるように構成してある。バックパッド20は、背中両脇に対応する横保持部36を、メインサポート22および肩受部32よりも硬くすることで、ホールド性が高くなるように構成してある。
【0018】
図3に示すように、肩支持部34は、肩受部32の後側におけるメインサポート22と反対側の領域に片寄って配置されている。バックパッド20は、肩対応部位における左右方向内側が、軟質ポリウレタンフォームからなる肩受部32のみの1層で前後全体に亘って構成され、肩対応部位における左右方向外側が、前側の肩受部32と後側の肩支持部34との2層で構成されている。また、肩支持部34は、肩受部32の後側から該肩受部32の外側方に位置する横保持部36の後側にかけて配置されている。バックパッド20は、肩対応部位の外側方における左右方向内側が、前側の横保持部36と後側の肩支持部34との2層で構成され、肩対応部位の外側方における左右方向外側が、軟質ポリウレタンフォームからなる横保持部36のみの1層で前後全体に亘って構成されている。
【0019】
肩支持部34は、肩受部32(メインサポート22)および横保持部36よりも硬い軟質ポリウレタンフォームから構成されている。肩支持部34は、型(モールド)内で発泡成形して得られるモールド成形品や、ブロック形状のスラブウレタンを所定形状に切り出して得られるものなどを用いることができる。肩支持部34としては、バックパッド20に要求される形状に合わせた適宜形状に簡単に形成することができるので、軟質ポリウレタンフォームのモールド成形品を用いることが好ましい。モールド成形品である肩支持部34は、その表面にスキン層を有している。ここで、スキン層は、軟質ポリウレタンフォームの内部(コア部)よりも密度が高くなった層状部分であり、モールド成形品の製造時に成形型の型面と接触して形成される部分である。肩支持部34は、隣接する肩受部32や横保持部36に対して、肩受部32および横保持部36をなす軟質ポリウレタンフォームの接着により接合されている。
【0020】
次に、実施例に係るバックパッド20の製造方法について説明する。
図5および
図6に示すように、バックパッド20は、別途モールド成形して得られたモールド成形品の肩支持部34をセットした成形型40で、2種類の軟質ポリウレタンフォームを発泡・成形することで製造することができる。成形型40は、バックパッド20の前側を形成する下型42と、バックパッド20の後側の主に中央部分を形成する中型44と、バックパッド20の後側の主に外側部分を形成する上型46とを備えている。下型42には、前面を規定する型面から突出する突条48が、得るべき溝部26,28,30に合わせて設けられている。なお、バックパッド20は、前面を下に向けて寝かせた姿勢で成形型40において成形される。
【0021】
中型44に肩支持部34をセットし、下型42におけるメインサポート22および肩受部32となる領域に、第1発泡体原料50を注入する(
図5参照)。また、下型42におけるサイドサポート24となる領域に、第2発泡体原料52を注入する。なお、第2発泡体原料52は、第1発泡体原料50の注入タイミングと同時、第1発泡体原料50の注入時期と重なるタイミング、第1発泡体原料50の注入時期とずれたタイミングなどに注入すればよい。
【0022】
成形型40を型閉じすることで、中型44と、サイド溝部30を成形する突条48との間に肩支持部34が挟まれて、肩支持部34がキャビティ54内で位置決めされる(
図6(a)参照)。成形型40を所定の条件で加熱等して発泡体原料50,52の発泡・固化を促進することで、メインサポート22および肩受部32が成形されると共に、横保持部36が成形される(
図6(b)参照)。このようにして、機械的性質が異なる2種の軟質ポリウレタンフォームが一体化すると共に、インサートした肩支持部34と接着したバックパッド20が得られる。そして、成形型40を開いて、バックパッド20を脱型する(
図6(c))。
【0023】
前述したバックパッド20は、車両衝突時などの衝撃が加わった際に、シート10に着座した乗員の肩を肩受部32によって受けて、横保持部36よりも柔らかい肩受部32が潰れて肩の変位を許容するので、乗員の頭部の前後動を抑えることができる。このように、バックパッド20によれば、車両衝突時において乗員を適切に保護し得る。また、サイドサポート24に位置する肩受部32を横保持部36よりも柔らかく設定することで、乗員の左右からのホールド感が低下するおそれがある。しかし、バックパッド20は、肩受部32の後側に横保持部36よりも硬い肩支持部34を設けているので、肩受部32の大きな沈み込みを肩支持部34で抑えることができる。従って、バックパッド20は、普段の着座時には、肩受部32の後側に配置されて横保持部36よりも硬い肩支持部34によって、乗員の肩を保持するので、肩のホールド感が保たれて乗り心地を向上し得る。
【0024】
バックパッド20は、肩支持部34が、肩受部32の後側におけるメインサポート22と反対側の領域に配置されているので、横保持部36よりも硬い肩支持部34によって肩先を適度にホールドできると共に、横保持部36よりも柔らかい肩受部32だけで構成された内側が、車両衝突時に適切に沈んで首への負担を軽減できる。このように、バックパッド20は、車両衝突時の乗員保護と普段の乗り心地のよさとのバランスがよい。
【0025】
バックパッド20は、肩支持部34が肩受部32の後側から該肩受部32の外側方に位置する横保持部36の後側にかけて配置されているので、横保持部36の後側に配置されて横保持部36よりも硬い肩支持部34によって、普段の着座時における肩のホールド感を高めることができ、乗り心地を向上し得る。
【0026】
肩支持部34を軟質ポリウレタンフォームから構成することで、半硬質または硬質ポリウレタンフォームから構成する場合と比べて、普段の乗り心地をよくすることができる。軟質ポリウレタンフォームは、半硬質または硬質ポリウレタンフォームに比べて、衝撃や荷重が加わっても座屈せず、クッション性にも優れるため、安定した乗り心地を長期に亘り持続することができる。また、肩支持部34は、後面の一部をなすように露出し、バックパッド20の後側に配置されるフレームが組み付けられる係合部分を構成している。肩支持部34としてモールド成形品を使用することで、前記係合部分などのバックパッド20に要求される複雑な形状に合わせて、肩支持部34を適宜形状とすることが簡単にできる。そして、後から形成されるメインサポート22、肩受部32および横保持部36と肩支持部34との形状を揃えて一体化させることができる。モールド成形品である肩支持部34は、その表面にスキン層を有しているので、成形型40に注入された発泡体原料50,52が肩支持部34の内部に浸入し難い。従って、成形型40において肩支持部34をセットしたもとで、メインサポート22、肩受部32および横保持部36を成形しても、肩支持部34の機械的性質は変化せず、肩支持部34の良好なクッション性が維持できる。
【0027】
(変更例)
前述した実施例に限らず、例えば以下のように変更してもよい。
(1)実施例のバックパッドは、肩支持部を成形型にセットしたインサート成形で形成したが、メインサポート、肩受部および横保持部をモールド成形した後に、肩支持部を接着剤等により接合してもよい。
(2)メインサポート、肩受部および横保持部をそれぞれ独立して成形しても、これらのうちのいくつかを組み合わせて一体成形してもいずれであってもよい。