【解決手段】後加工が施されてアイウェアのレンズになるセミフィニッシュドレンズ1Aを、透明な第一基板10と、第一基板10の主面に固定され、かつ、電気的制御により光学特性が変化する光学特性変化部、後加工で切断される被切断部、および被切断部に設けられ、光学特性変化部に接続された電極部を有するフィルム素子12と、を備えるように構成する。
前記第一接着層を設けるステップの後に、前記主面および前記フィルム素子の表面にコーティング層を形成するステップ、をさらに含む、請求項10に記載のセミフィニッシュドレンズの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0024】
[実施形態1]
図1は、電子メガネAの構成の一例を示す斜視図である。
図2は、電子メガネAの内部回路を説明するためのブロック図である。電子メガネAは、一対のレンズ1、フレーム2、制御部3、スイッチ4、および一対の電源5を有する。
【0025】
フレーム2は、フロント21および一対のテンプル22を有する。なお、以下、フロント21が配置される部分を電子メガネAの正面(前方)とする。
【0026】
図3には、電子メガネAを前方から見たときに、左側に配置されるレンズ1が示される。一対のレンズ1は、電子メガネAを前方から見たときに、左右対称となるように形成されており、互いに同一の構成要素を有する。このため、以下、
図3に示されるレンズ1について説明する。
【0027】
レンズ1は、電圧によりその光学特性(光の透過性)を変更可能な光学特性変化部120(
図1および
図3において斜格子が付された部分)を有する。レンズ1は、球面レンズであってもよいし、非球面レンズであってもよい。レンズ1の形状は、フレーム2の形状などに応じて適宜調整されうる。
【0028】
光学特性変化部120の形状、大きさおよび位置は、レンズ1の大きさやレンズ1の用途などに応じて適宜調整されうる。レンズ1の用途の例として、日差しや強い照明から眼を保護するためのサングラスが挙げられる。レンズ1の用途がサングラスの場合には、光学特性変化部120は、レンズ1の外形よりも僅かに小さい外形を有する。なお、レンズ1および光学特性部120の外形とは、
図3に示されるレンズ1および光学特性部120の外周縁の形状を意味する。光学特性変化部120の具体的構成については、後述する。
【0029】
電子メガネAのユーザ(装着者)は、フレーム2に設けられたスイッチ4を操作(たとえば、タッチ操作)することにより、光学特性変化部120の光学特性(たとえば、透過率)を切り替える。
【0030】
ユーザによりスイッチ4が操作されると、制御部3は、当該操作に基づいて、光学特性変化部120に電圧を印可した状態(以下、「印加状態」という。)と、電圧を印可しない状態(以下、「非印加状態」という。)とを切り替える。ユーザは、スイッチ4の操作により、電圧を調整できる。ユーザは、電圧を調整することにより、光学特性変化部120の光学特性(たとえば、透過率)を、徐々に(連続的に)、または段階的に変化させることができる。
【0031】
レンズ1は、
図4に示されるセミフィニッシュドレンズ1Aに後加工を施すことにより造られる。なお、
図4に示されるセミフィニッシュドレンズ1Aは、後加工により
図3に示されるレンズ1へと加工される。
【0032】
[セミフィニッシュドレンズについて]
以下、
図4〜
図8を参照して、セミフィニッシュドレンズ1Aの構造について説明する。セミフィニッシュドレンズ1Aは、透明な第一基板10と、第一基板10の表面101(主面ともいう。)に固定されたフィルム素子12と、を備える。フィルム素子12は、電気的制御により光学特性が変化する光学特性変化部120と、後加工で切断される被切断部121と、被切断部121に設けられ、光学特性変化部120に接続された外側第一電極121aおよび外側第二電極121bと、を有する。
【0033】
[セミフィニッシュドレンズが備える構成について]
以下、
図4〜
図8を参照して、セミフィニッシュドレンズ1Aの各構成について説明する。
【0034】
セミフィニッシュドレンズ1Aの各構成を説明するにあたり、説明の便宜のために、直交座標系(X,Y,Z)を使用する。各図に示される直交座標系(X,Y,Z)は、共通の直交座標系である。
【0035】
X方向は、アイウェアをユーザが装着した状態(以下、単に「装着状態」という。)において、ユーザの左右方向に一致する。Y方向は、装着状態において、ユーザの上下方向に一致する。Z方向は、装着状態において、ユーザの前後方向に一致する。
【0036】
また、以下の説明において、特に断ることなく「厚さ方向」といった場合には、セミフィニッシュドレンズ1Aおよびレンズ1の厚さ方向を意味する。厚さ方向は、上述の直交座標系のZ方向に一致する。また、特に断ることなく「平面視」といった場合には、セミフィニッシュドレンズ1Aおよびレンズ1の表側となる面の法線方向に存在する点から、セミフィニッシュドレンズ1Aおよびレンズ1をみた場合の平面視を意味する。
【0037】
また、各部材の「表面」は、装着状態において、ユーザから遠い側(Z方向+側)の面である。一方、各部材の「裏面」は、装着状態において、ユーザに近い側(Z方向−側)の面である。
【0038】
本実施形態のセミフィニッシュドレンズ1Aは、後加工により除去部1a(
図5の二点鎖線で囲まれた部分)が除去されることにより、
図3に示されるようなレンズ1へと加工される。
【0039】
このようなセミフィニッシュドレンズ1Aは、第一基板10、第一接着層11、フィルム素子12、スペーサ部材13、第二基板14、第二接着層15、および固定部材16を有する。
【0040】
[第一基板について]
図4および
図5を参照して、第一基板10(第一基板ともいう。)の構造について説明する。第一基板10は、一対の主面(表面101および裏面102)を有する透明な板状部材からなる光学素子である。具体的には、第一基板10は、Z方向+側(
図5の上側)に向かって凸状に湾曲する円板状である。第一基板10の表面101は、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する凸曲面である。第一基板10の裏面102は、Z方向+側に向かって凹状に湾曲する凹曲面である。第一基板10の曲率および形状は、所期の光学パワーに応じて適宜調整されうる。
【0041】
表面101は、仕上加工により光学面に仕上げられている。一方、裏面102は、仕上加工を施されていない、未完成面である。このような裏面102は、後加工により光学面に仕上げられる。
【0042】
本実施形態の場合、表面101は、単一の曲率を有する球面(つまり、二重湾曲面)である。一方、裏面102も、単一の曲率を有する球面(つまり、二重湾曲面)である。表面101の曲率と裏面102の曲率とは、異なる。具体的には、本実施形態の場合、表面101の曲率は、裏面102の曲率よりも大きい。したがって、表面101と裏面102との距離とは、部分的に異なる。なお、表面101および裏面102は、二重湾曲面(たとえば、球面)に限らず、一重湾曲面(たとえば、部分的な円筒面)であってもよい。二重湾曲面とは、たとえば、第一軸を中心に湾曲する曲面と、第一軸に直交する第二軸を中心に湾曲する曲面とを合成した曲面を意味する。一方、一重湾曲面とは、第一軸のみを中心に湾曲した曲面を意味する。
【0043】
また、表面101の曲率と裏面102の曲率とは、等しくてもよい。また、表面101および裏面102の少なくとも一方の面は、複数の曲率を有する複合曲面であってもよい。また、表面101および裏面102の少なくとも一方の面は、平面であってもよい。
【0044】
第一基板10は、無機ガラスまたは有機ガラスから造られる。第一基板10は、有機ガラスから造られるのが好ましい。有機ガラスは、熱硬化性ポリウレタン類、ポリチオウレタン類、ポリエポキシド類、もしくはポリエピスルフィド類からなる熱硬化性材料、もしくはポリ(メタ)アクリレート類からなる熱可塑性材料、または、これらの共重合体もしくは混合物からなる熱硬化性(架橋した)材料の何れかである。また、有機ガラスは、たとえば、ポリカーボネート類または熱可塑性ポリウレタン類を含む熱可塑性材料であってもよい。あるいは、有機ガラスは、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート重合体または共重合体であってもよい。
【0045】
第一基板10は、サングラスまたは度数が入った老眼鏡のような、医師の処方箋に基づいて作製されていない通常レンズ、または、当該通常レンズの未完成レンズであることが好ましい。あるいは、第一基板10は、医師の処方箋に基づいて作製された眼科用(医療用)レンズ、または、当該眼科用レンズの未完成レンズであることが好ましい。
【0046】
[第一接着層について]
図4〜
図6を参照して、第一接着層11(接着層ともいう。)について説明する。第一接着層11は、第一基板10の表面101とフィルム素子12の裏面との間に配置されて、フィルム素子12と第一基板10とを固定する。このような第一接着層11は、平面視で、後述するフィルム素子12とほぼ同形状のシート状部材である。第一基板10に固定された状態において、第一接着層11は、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する。
【0047】
第一基板10に固定された状態において、第一接着層11の厚さ寸法は、たとえば10μm以上300μm以下、好ましくは、15μm以上50μm以下である。
【0048】
第一接着層11は、たとえば、光学用感圧接着剤、熱硬化型接着剤、または紫外線硬化型接着剤からなるフィルム状の接着剤により構成される。熱硬化型接着剤の例として、ポリアクリラートを含む接着剤が挙げられる。具体的には、日東電工株式会社製 LUCIACS(登録商標) CS986シリーズが挙げられる。
【0049】
図6には、第一基板10に固定される前の状態の第一接着層11を有する保護膜付き接着層11Xが示される。保護膜付き接着層11Xは、第一接着層11、第一接着層11の表面を覆う表側保護膜110、および第一接着層11の裏面を覆う裏側保護膜111を有する。
【0050】
保護膜付き接着層11Xは、たとえば、ロール状に巻かれている。作業者は、保護膜付き接着層11Xを、フィルム素子12よりも僅かに大きくカットして使用する。
【0051】
[フィルム素子について]
図4、
図5、
図7、
図8を参照して、フィルム素子12の構造について説明する。フィルム素子12は、フィルム状の光学素子であって、光学特性変化部120および被切断部121を有する。このようなフィルム素子12は、第一接着層11を介して第一基板10の表面101に固定される。第一基板10に固定された状態において、フィルム素子12は、表面101に沿うように、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する。フィルム素子12の厚さ寸法は、たとえば、50μm以上500μm以下である。
【0052】
[光学特性変化部について]
図7は、フィルム素子12における光学特性変化部120の断面図である。光学特性変化部120は、電気的制御により光学特性が変化するフィルム状の光学素子である。このような光学特性変化部120は、第一フィルム部材120a、第二フィルム部材120b、内側第一電極120c、内側第二電極120d、液晶層120e、および接着層120fを有する。
【0053】
第一フィルム部材120aは、フィルム素子12において最もZ方向−側に配置される。一方、第二フィルム部材120bは、フィルム素子12において最もZ方向+側に配置される。
【0054】
内側第一電極120cおよび内側第二電極120dは、透光性を有する一対の透明電極である。内側第一電極120cは、第一フィルム部材120aのZ方向+側に配置される。一方、内側第二電極120dは、第二フィルム部材120bのZ方向−側に配置される。内側第一電極120cおよび内側第二電極120dは、内側第二電極120dに電圧を印加しうる範囲に亘って配置される。
【0055】
内側第一電極120cおよび内側第二電極120dの材料は、所期の透光性および導電性を有していれば特に限定されない。内側第一電極120cおよび内側第二電極120dの材料の例として、酸化インジウムスズ(ITO)または酸化亜鉛(ZnO)が挙げられる。内側第一電極120cおよび内側第二電極120dの材料は、互いに同じでもよいし、異なってもよい。
【0056】
液晶層120eは、内側第一電極120cと内側第二電極120dとの間に配置される。このような液晶層120eは、液晶材料を含有する。液晶材料は、電圧の印加の有無に応じて配向状態が変わる。液晶層120eの配向状態が変わると、液晶層120eの光学特性が変化する。たとえば、液晶材料は、コレステリック液晶やネマチック液晶などにより構成されうる。
【0057】
液晶層120eにおいて変化する光学特性は、たとえば、光の透過性である。液晶層120eは、液晶層120eにおける光吸収率の変化に基づいて光の透過性が変化する構成であってもよい。あるいは、液晶層は、液晶層120eにおける光散乱率の変化に基づいて光の透過性が変化する構成であってもよい。
【0058】
液晶層120eにおける光の透過性を光吸収率の変化により実現する液晶層120eの例として、たとえば、二色性色素およびホスト液晶を含有するゲストホスト液晶層が挙げられる。
【0059】
このようなゲストホスト液晶層は、電圧の印加に応じて、透明着色状態と透明状態とを切り替えることができる。二色性色素は、後述するホスト液晶中に溶解し、光を吸収する機能を有する化合物である。
【0060】
ホスト液晶は、電圧の印加に応じて、その配向状態を変化させ、ゲストとして溶解されている上述の二色性色素の配向状態を制御する機能を有する化合物である。本実施形態において採用されるホスト液晶は、二色性色素と共存しうるものであれば、特に限定されない。
【0061】
また、ゲストホスト液晶層には、ホスト液晶の物性を所望の範囲に変化させる(たとえば、液晶相の温度範囲を所望の範囲にする)ことを目的として、液晶性を示さない化合物を添加してもよい。このようなゲストホスト液晶としては、公知の構造を適宜採用できる。
【0062】
また、液晶層120eにおける光の透過性を光散乱率の変化により実現する液晶層120eとしては、たとえば、高分子分散液晶(PDLC)と、ポリマーネットワーク液晶(PNLC)が挙げられる。
【0063】
高分子分散液晶(PDLC)の液晶層およびポリマーネットワーク液晶(PNLC)の液晶層は、電圧の印加に応じて、散乱状態と透明状態とを切り替えることができる。
【0064】
高分子分散液晶(PDLC)は、たとえば、液晶材料とエポキシ樹脂とを含有する。一方、ポリマーネットワーク液晶(PNLC)は、たとえば、液晶材料とジアクリレートとを含有する。このような高分子分散液晶(PDLC)の液晶層およびポリマーネットワーク液晶(PNLC)の液晶層としては、公知の構造を適宜採用できる。
【0065】
印加状態における液晶層120eの光の透過性は、非印加状態における液晶層120eの光の透過性よりも小さい。
【0066】
光学特性変化部120は、必要に応じて、透光性を有する他の光学素子をさらに有してもよい。他の光学素子の例として、絶縁層および配向膜が挙げられる。
【0067】
絶縁層は、第一フィルム部材120aと第二フィルム部材120bとの間の導通を防止する。たとえば、絶縁層は、第一フィルム部材120aと液晶層120eとの間、および、液晶層120eと第二フィルム部材120bとの間に、それぞれ配置される。絶縁層の材料の例として、透光性を有する絶縁層として使用されうる公知の材料が挙げられる。絶縁層の材料は、たとえば、二酸化ケイ素である。
【0068】
配向膜は、液晶層120eにおける液晶材料の配向状態を制御する。たとえば、配向膜は、内側第一電極120cと液晶層120eとの間に配置される第一配向膜(図示省略)、および、液晶層120eと内側第二電極120dとの間に配置される第二配向膜(図示省略)を有する。配向膜の材料の例として、液晶材料の配向膜として使用されうる公知の材料が挙げられる。配向膜の材料は、たとえば、ポリイミドである。
【0069】
接着層120fは、第一フィルム部材120aの外周縁と第二フィルム部材120bとを全周にわたり固定する。また、図示は省略するが、第一フィルム部材120aと第二フィルム部材120bとの間には、第一フィルム部材120aと第二フィルム部材120bとの間隔を一定に保つためのスペーサが設けられる。具体的には、このようなスペーサは、液晶層120e中に設けられる。
【0070】
以上のような光学特性変化部120は、後述するセミフィニッシュドレンズの製造方法において第一基板10の表面101に貼り付けられる際、表面101に沿うように変形させられつつ貼り付けられる。このように変形した場合でも、光学特性変化部120における第一フィルム部材120aと第二フィルム部材120bとの間隔は、上述のスペーサにより一定に保たれる。このため、光学特性変化部120は、全体にわたり安定して機能することができる。
【0071】
[被切断部について]
図8は、フィルム素子12における被切断部121の断面図の一例である。被切断部121は、光学特性変化部120の外周縁の一部に設けられ、後加工において切断される。
【0072】
このような被切断部121は、第一フィルム部材120a、第二フィルム部材120b、外側第一電極121a、外側第二電極121b、および接着層120fを有する。第一フィルム部材120a、第二フィルム部材120b、および接着層120fはそれぞれ、光学特性変化部120と共通の部材である。
【0073】
外側第一電極121aは、第一フィルム部材120aと第二フィルム部材120bとの間に配置される。このような外側第一電極121aは、光学特性変化部120の内側第一電極120cに接続される。すなわち、外側第一電極121aは、内側第二電極120dには接続されない。外側第一電極121aと内側第一電極120cとを接続する構造は、特に限定されず、種々の構造を採用できる。なお、外側第一電極121aは、内側第一電極120cと一体の電極であってもよい。
【0074】
外側第二電極121bは、第一フィルム部材120aと第二フィルム部材120bとの間に配置される。外側第二電極121bは、外側第一電極121aに対して、フィルム素子12の外周縁に沿う方向に離隔して配置される。このような外側第二電極121bは、光学特性変化部120の内側第二電極120dに接続される。すなわち、外側第二電極121bは、内側第一電極120cには接続されない。外側第二電極121bと内側第一電極120dとを接続する構造は、特に限定されず、種々の構造を採用できる。なお、外側第二電極121bは、内側第二電極120dと一体の電極であってもよい。
【0075】
外側第一電極121aと外側第二電極121bとは、Y方向に所定距離ずれて配置される。したがって、外側第一電極121aと外側第二電極121bとは、平面視において重ならない。
【0076】
外側第一電極121aと外側第二電極121bの材料の例として、導電性ペーストが挙げられる。導電性ペーストの例として、銀ペーストが挙げられる。
【0077】
外側第一電極121aおよび外側第二電極121bは、平面視で、たとえば、一辺が1mm以上10mm以下、好ましくは、2mm以上5mm以下の矩形である。外側第一電極121aおよび外側第二電極121bの厚さ寸法は、たとえば、10μm以上500μm以下である。このような構成は、後述するレンズの製造方法において、フィルム素子12の被切断部121を切断する際、被切断部121の切断面から、外側第一電極121aおよび外側第二電極121bを確実に露出させることに寄与する。
【0078】
接着層120fは、被切断部121において、第一フィルム部材120aと第二フィルム部材120bとの間で、液晶層120eを囲む部分に配置される。接着層120fは、液晶層120eを囲むように連続した環状である。このような接着層120fは、第一フィルム部材120aと第二フィルム部材120bとを固定するとともに、液晶層120eを構成する液晶材料の漏れを防止するシール部材として機能する。
【0079】
本実施形態の場合、接着層120fは、第一フィルム部材120aと第二フィルム部材120cとを、間接的に固定する。具体的には、本実施形態の場合、接着層120fは、第一フィルム部材120aと第二フィルム部材120cとを、内側第一電極120cおよび第一配向膜(図示省略)、ならびに、内側第二電極120dおよび第二配向膜(図示省略)を介して固定する。なお、接着層120fは、第一フィルム部材120aと第二フィルム部材120cとを、直接固定してもよい。
【0080】
接着層120fは、接着剤の硬化物により構成される。当該接着剤の材料は、所期の透光性を有し、かつ第一フィルム部材120aと第二フィルム部材120bとを適切に接着できれば特に限定されない。
【0081】
本実施形態の場合、被切断部121は、光学特性変化部120の外周縁におけるX方向+側の端部に設けられる。被切断部121は、光学特性変化部120の外周縁におけるX方向+側の端部から、X方向+側に突出する。
【0082】
なお、
図4に示されるフィルム素子12の場合、被切断部121は、
図1に示されるような電子メガネAに組み込まれた状態で、フレーム2のブリッジ23側に配置される。ただし、被切断部121の位置は、上述の位置に限定されない。被切断部121の位置は、アイウェアのフレーム形状、または当該フレームに設けられた導線の配置に応じて、適宜決定される。
【0083】
上述のような被切断部121は、後加工において切断される。具体的には、本実施形態の場合、被切断部121は、
図3および
図4に示す直交座標系におけるZY平面で切断される。被切断部121が切断されると、外側第一電極121aおよび外側第二電極121bが外部に露出する。なお、被切断部121が切断された状態で、第一フィルム部材120aおよび第二フィルム部材120bの端部も露出する。また、被切断部121の切断方向は、上述の方向に限定されない。
【0084】
被切断部121と光学特性変化部120とは、接着層120f(
図7参照)により仕切られているため、被切断部121を切断した場合でも、液晶層120eの液晶材料が外部に漏洩することはない。
【0085】
本実施形態の場合、光学特性変化部120の外周縁から被切断部121が突出する構造を採用している。このため、外側第一電極121aおよび外側第二電極121bが、アイウェアのフレーム側に設けられた導線と接触し易くなり、光学特性変化部120と制御部3との導通が確保され易い。
【0086】
[スペーサ部材について]
図5を参照して、スペーサ部材13について説明する。スペーサ部材13は、第一基板10と第二基板14との間に設けられて、第一基板10と第二基板14とが、スペーサ部材13の厚さ寸法よりも近づくことを防止する。
【0087】
このようなスペーサ部材13は、第一基板10の表面101において、フィルム素子12が固定される部分の周囲複数箇所(本実施形態の場合、3箇所)に配置される。各スペーサ部材13は、第一基板10の周方向に等間隔(たとえば、120度間隔)で配置されると好ましい。
【0088】
本実施形態の場合、スペーサ部材13は、柱状部材であって、所定の厚さ寸法を有する。スペーサ部材13のZ方向+側の端部(
図5の上端部)は、第二基板14の裏面141に、たとえば、接着剤により固定される。一方、スペーサ部材13のZ方向−側の端部(
図5の下端部)は、第一基板10の表面101に、たとえば、接着剤により固定される。
【0089】
スペーサ部材13の厚さ寸法は、0.2mm以上5mm以下である。好ましくは、スペーサ部材13の厚さ寸法は、0.2mm以上2mm以下である。より好ましくは、スペーサ部材13の厚さ寸法は、フィルム素子12の厚さ寸法Tとの関係で、T+50μm以上T+100μm以下である。
【0090】
第一基板10と第二基板14との間にスペーサ部材13が配置されることで、第一基板10と第二基板14との間には、第二接着層15を配置するための空間162が形成される。空間162の厚さ寸法は、スペーサ部材13の厚さ寸法と等しい。また、空間162の厚さ寸法は、フィルム素子12の厚さ寸法よりも大きい。
【0091】
スペーサ部材13は、第二接着層15を熱硬化させる際の熱変により変形しにくい材料であると好ましい。スペーサ部材13は、成形の容易性およびコスト低減の観点から、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、ポリテトラフルオロエチレンを含むプラスチックであると好ましい。
【0092】
以上のようなスペーサ部材13は、後加工(具体的には、外周加工)において除去される。
【0093】
なお、スペーサ部材は、周方向の1箇所に不連続な部分を有する部分円筒状であってもよい。このような部分円筒状のスペーサ部材は、第一基板10の外径とほぼ同じ外径を有する。そして、部分円筒状のスペーサは、第一基板10の表面101に、当該表面101の外周縁に沿うように固定される。上述の不連続な部分は、第二接着層15を構成する硬化性組成物を空間162に供給する際の供給口である。
【0094】
また、スペーサ部材は、全周にわたり連続した円筒状であってもよい。このような円筒状のスペーサ部材は、周方向における少なくとも一箇所に、内周面から外周面へと貫通した貫通孔または切欠きを有する。このような円筒状のスペーサ部材は、第一基板10の外径とほぼ同じ外径を有する。そして、円筒状のスペーサは、第一基板10の表面101に、当該表面101の外周縁に沿うように固定される。上述の貫通孔または切欠きは、第二接着層15を構成する硬化性組成物を空間162に供給する際の供給口である。
【0095】
[第二基板について]
図5を参照して、第二基板14(第二基板ともいう。)について説明する。第二基板14は、フィルム素子12よりもZ方向+側に配置され、第二接着層15を介してフィルム素子12を覆う。
【0096】
このような第二基板14は、透明な板状部材からなる光学素子である。具体的には、第二基板14は、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する円板状である。第二基板14の表面140は、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する凸曲面である。一方、第二基板14の裏面141は、Z方向+側に向かって凹状に湾曲する凹曲面である。
【0097】
第二基板14の外形寸法は、第一基板10の外形寸法と同じだと好ましい。また、第二基板14の厚さ寸法は、0.5mm以上2.0mm以下である。好ましくは、第二基板14の厚さ寸法は、0.8mm以上1.5mm以下である。
【0098】
前記第二基板14の表面140とフィルム素子12の表面との距離は、0.5mm以上14.0mm以下が好ましい。
【0099】
表面140および裏面141は、仕上加工により光学面に仕上げられている。本実施形態の場合、表面140は、単一の曲率を有する球面である。裏面141も、単一の曲率を有する球面である。表面140の曲率と裏面141の曲率とは、等しい。したがって、表面140と裏面141との距離は、全体にわたり一定である。また、本実施形態の場合、第二基板14の表面140および裏面141の曲率と、第一基板10の表面101の曲率とは、等しい。なお、本実施形態の場合、第二基板14の表面140および裏面141の曲率と、第一基板10の裏面102の曲率とは、異なる。
【0100】
なお、表面140の曲率と裏面141の曲率とは、異なってもよい。また、表面140および裏面141の少なくとも一方の面は、複数の曲率を有する複合曲面であってもよい。また、第二基板14の表面140および裏面141の少なくとも一方の面は、平面であってもよい。
【0101】
第二基板14は、上述した第一基板10と同様に、無機ガラスまたは有機ガラスから造られる。第二基板14は、有機ガラスから造られるのが好ましい。有機ガラスは、熱硬化性ポリウレタン類、ポリチオウレタン類、ポリエポキシド類、ポリエピスルフィド類、ポリ(メタ)アクリレート類からなる熱硬化性材料、ならびに、これらの共重合体および混合物からなる熱硬化性(架橋した)材料の何れかである。また、有機ガラスは、たとえば、ポリカーボネート類および熱可塑性ポリウレタン類のような熱可塑性材料であってもよい。あるいは、有機ガラスは、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート重合体および共重合体の何れかであってもよい。第二基板14の材料は、第一基板10の材料と同じ材料だと好ましい。
【0102】
[第二接着層について]
図5を参照して、第二接着層15について説明する。第二接着層15は、第一基板10と第二基板14との間の空間162に配置されて、第一基板10と第二基板14とを固定するとともに、フィルム素子12を衝撃から保護する。
【0103】
このような第二接着層15は、透明な板状部材からなる光学素子である。具体的には、第二接着層15は、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する円板状である。第二接着層15の表面は、Z方向+側に向かって凸状に湾曲する凸曲面である。第二接着層15の裏面は、Z方向+側に向かって凹状に湾曲する凹曲面である。第二接着層15は、裏面に、フィルム素子12を配置する凹部150を有する。
【0104】
以上のような第二接着層15は、後述する固定部材16の連通部161を介して空間162に硬化性組成物を注入し、硬化させることにより形成される。
【0105】
第二接着層15を構成する硬化性組成物の例として、種々の光学用接着剤が挙げられる。特に、第二接着層15を構成する硬化性組成物の例として、熱硬化型接着剤、UV硬化型接着剤が好ましい。このような各接着剤は、粘度の低いものが好ましい。
【0106】
[固定部材について]
固定部材16は、たとえば、テープ状であって、空間162を取り巻くように、第一基板10の外周面および第二基板14の外周面に巻かれる。固定部材16は、第一基板10と第二基板14とを固定する機能も有する。このような固定部材16は、周方向の少なくとも一箇所に、空間162を外部空間に連通する連通部161を有する。
【0107】
固定部材16の厚さ寸法(
図5の左右方向の寸法)は、操作性、成型物の寸法安定性、重ね合わせた部分の気密性、および強度の面などから、たとえば、10μm以上200μm以下である。
【0108】
固定部材16は、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリシロキサン樹脂、ポリイミド樹脂、もしくはセルロース、または、これらの共重合体もしくは混合物からなるベース基材に、シロキサン系、(メタ)アクリル系、エポキシ系、ゴム系などの粘着剤を塗工したものである。
【0109】
固定部材16は、たとえば、珪素酸化物を蒸着させた石英膜によりコーティングされてもよい。また、固定部材16は、たとえば、有機系コート剤、無機系コート剤、またはこれらの混合物によりコーティングされてもよい。さらに、固定部材16は、水蒸気透過度の低い別の基材を貼り合わされてもよい。このような各構成は、固定部材16の水蒸気透過度を下げることに効果的である。
【0110】
[セミフィニッシュドレンズの製造方法について]
つぎに、
図6および
図9A〜
図9Fを参照して、セミフィニッシュドレンズ1Aの製造方法について説明する。
【0111】
まず、作業者は、
図6に示される保護膜付き接着層11Xから、フィルム素子12よりも少しだけ大きい保護膜付き接着層11Xを切り出す。つぎに、作業者は、切りだした保護膜付き接着層11Xの表側保護膜110を剥がして、第一接着層11の表面を露出させる。
【0112】
そして、作業者は、フィルム素子12の裏面に第一接着層11の表面を貼り付けて、第一組立体M1(
図9A参照)を造る。第一組立体M1において、フィルム素子12および第一接着層11は、湾曲していない。第一組立体M1において、第一接着層11の裏面(
図9Aの下面)は、裏側保護膜111により保護される。このため、第一接着層11を保護しつつ、第一組立体M1の流通および保管が可能となる。
【0113】
つぎに、作業者は、第一組立体M1から裏側保護膜111を剥がして、第一接着層11の裏面を露出させる。そして、作業者は、第一組立体M1における第一接着層11の裏面を、第一基板10の表面101に貼り付けて第二組立体M2(
図9B参照)を造る。
【0114】
第一組立体M1を第一基板10の表面101に貼り付ける作業は、治具(図示省略)を使用して行われる。治具は、第一組立体M1を保持可能な保持面を有する。当該保持面は、表面101に押し付けられると表面101に沿うように弾性変形する。フィルム素子12を保持した保持面が表面101に押し付けられると、フィルム素子12は、表面101に沿うように変形しつつ、表面101に貼り付けられる。なお、第二組立体M2を、セミフィニッシュドレンズとしてもよい。
【0115】
つぎに、作業者は、第一基板10の表面101においてフィルム素子12が固定された部分の周囲に複数のスペーサ部材13を配置して、第三組立体M3(
図9C参照)を造る。第三組立体M3において、各スペーサ部材13のZ方向−側の端部(
図9Cの下端部)はそれぞれ、第一基板10の表面101に、たとえば、接着剤により固定される。
【0116】
つぎに、作業者は、第一基板10のZ方向+側に、第二基板14を配置して、第四組立体M4(
図9D参照)を造る。第四組立体M4において、各スペーサ部材13のZ方向+側の端部(
図9Dの上端部)はそれぞれ、第二基板14の裏面141に、たとえば、接着剤により固定される。第四組立体M4において、第一基板10と第二基板14との間には、空間162が存在する。
【0117】
つぎに、作業者は、第一基板10の外周面および第二基板14の外周面に固定部材16を巻きつけて、第五組立体M5(
図9E参照)を造る。第五組立体M5において、空間162の開口部は、固定部材16の連通部161以外の部分により塞がれる。換言すれば、空間162は、連通部161を介してのみ外部空間と連通する。
【0118】
最後に、
図9Fに矢印Fで示されるように、作業者は、固定部材16の連通部161を介して、第二接着層15を構成する硬化性組成物を空間162に供給する。そして、作業者は、空間162内の硬化性組成物を硬化させて、セミフィニッシュドレンズ1A(
図9F参照)を造る。
【0119】
[セミフィニッシュドレンズからレンズを造る方法について]
つぎに、
図10A〜
図10Eを参照して、セミフィニッシュドレンズ1Aからレンズ1を造る方法について説明する。アイウェアのレンズに関する処方データは、眼科またはアイウェアの販売店舗などで処方される。レンズメーカは、当該処方データに基づいて、セミフィニッシュドレンズ1Aを加工して、いわゆる丸レンズといわれる前駆体レンズを造る。
【0120】
レンズメーカでは、丸レンズの表面に、必要に応じて種々のコーティング加工を施す。販売店舗では、アイウェアのフレーム形状に合わせて、レンズメーカから供給された前駆体レンズを加工し、いわゆる玉型レンズといわれるレンズ1を作る。玉型レンズは、レンズメーカで造られる場合もある。
【0121】
なお、丸レンズとは、平面視の形状が円形または楕円形であり、S度数(遠視および近視に関する度数)およびC度数(乱視に関する度数)が設定されたレンズである。一方、玉型レンズとは、アイウェアのフレームに組み込める形状に加工されたレンズである。
【0122】
[丸レンズについて]
図10Bは、丸レンズ1cの断面図である。
図10Bに示される丸レンズ1cは、セミフィニッシュドレンズ1A(
図10A参照)の裏面(つまり、第一基板10の裏面102)に、切削加工および研磨加工などの裏面加工を施して、第一除去部1a1(
図10Aにおいて斜格子が付された部分)を除去することにより造られる。このような裏面加工は、後加工に含まれる。
【0123】
裏面加工において、セミフィニッシュドレンズ1Aは、裏面が切削工具または研磨工具に対向する状態で、加工装置に固定される。この際、セミフィニッシュドレンズ1Aの表面(つまり、第二基板14の表面140)は、いわゆるブロッキングといわれる固定手段により、加工装置に固定される。
【0124】
ブロッキングにおいて、セミフィニッシュドレンズ1Aの表面と加工装置との間に、ブロックピースといわれるコネクタが配置される。セミフィニッシュドレンズ1Aは、ブロックピースを介して、加工装置に固定される。ブロックピースは、セミフィニッシュドレンズ1Aの表面を傷つけず、かつ、当該表面に確実に固定される必要がある。このために、ブロックピースは、低融点のアロイ(合金)、熱可塑性樹脂、またはワックスなどを介してセミフィニッシュドレンズ1Aの表面に固定される。
【0125】
また、セミフィニッシュドレンズ1Aは、いわゆるチャッキングといわれる固定手段により加工装置に固定されてもよい。チャッキングとは、セミフィニッシュドレンズ1Aの外周面を、把持手段で把持することにより、セミフィニッシュドレンズ1Aを加工装置に固定する固定手段である。
【0126】
加工装置に固定されたセミフィニッシュドレンズ1Aは、S度数およびC度数を設定するための加工を裏面に施される。このようにして、セミフィニッシュドレンズ1Aは、丸レンズへと加工される。
【0127】
なお、丸レンズ1cの平面視において、フィルム素子12の全体は、丸レンズ1cの外周縁よりも中央側に配置される。したがって、丸レンズ1cの状態で、フィルム素子12の被切断部121は、切断されていない。
【0128】
[コーティング加工について]
つぎに、
図10Cに示されるように、丸レンズ1cの表面(つまり、第二基板14の表面140)に、必要に応じてコーティング加工が施される。丸レンズ1cの表面に形成される表面側コーティング層17aは、たとえば、プライマー層、ハードコート層、反射防止膜層、防曇コート層、防汚染層、および撥水層の少なくとも1層を含む。表面側コーティング層17aは、複数種類の層からなる多層構造でもよい。ただし、表面側コーティング層17aは、1種類の層からなる単層構造でもよい。
【0129】
図10Cに示されるように、丸レンズ1cの裏面(つまり、第一基板10の裏面102)にも、必要に応じてコーティング加工が施される。丸レンズ1cの裏面に形成される裏面側コーティング層17bは、表面側コーティング層17aと同じであってもよいし、異なってもよい。
【0130】
上述の裏面側コーティング層17bおよび表面側コーティング層17aを構成するコーティング剤には、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、染料、顔料、帯電防止剤、各種レベリング剤、および、その他の添加剤などを添加してもよい。
【0131】
紫外線吸収剤は、紫外線からレンズや目を守ることに効果的である。赤外線吸収剤は、赤外線から目を守ることに効果的である。光安定剤および酸化防止剤は、レンズの耐候性の向上に効果的である。染料および顔料は、レンズのファッション性の向上に効果的である。染料の例として、フォトクロミック染料が挙げられる。顔料の例として、たとえば、フォトクロミック顔料が挙げられる。各種レべリング剤は、コーティング剤の塗布性の改善に効果的である。その他の添加剤の例として、レンズの性能の向上に寄与する公知の添加剤が挙げられる。
【0132】
[プライマー層について]
プライマー層は、丸レンズの表面または裏面と、ハードコート層との間に形成される。プライマー層は、ハードコート層を丸レンズの表面または裏面に接着するための接着剤として機能する。
【0133】
プライマー層の厚さ寸法は、通常、0.1μm以上10μm以下である。プライマー層は、たとえば、塗布法または乾式法により形成される。
【0134】
プライマー層が塗布法により形成される場合、プライマー組成物は、公知の塗布方法により被コーティング面に塗布される。公知の塗布方法の例として、スピンコートまたはディップコートが挙げられる。そして、丸レンズの表面または裏面に塗布されたプライマー組成物が固化すると、丸レンズの表面または裏面にプライマー層が形成される。
【0135】
一方、プライマー層が乾式法により形成される場合、プライマー層は、CVD法または真空蒸着法などの公知の乾式法により形成される。なお、プライマー層を形成する前に、丸レンズの表面または裏面は、アルカリ処理、プラズマ処理、および紫外線処理の少なくとも一種類の前処理を施されてもよい。このような前処理は、丸レンズの表面または裏面とプライマー層との密着性の向上に効果的である。
【0136】
プライマー層を構成するプライマー組成物としては、丸レンズの表面または裏面との密着性の高い素材が好ましい。プライマー組成物の例として、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、メラニン系樹脂、ポリビニルアセタールを主成分とするプライマー組成物などが挙げられる。
【0137】
プライマー組成物は、無溶剤であってもよい。ただし、プライマー組成物の粘土を調整したい場合には、プライマー組成物は、レンズに影響を及ぼさない性質の溶剤であってもよい。
【0138】
[ハードコート層について]
ハードコート層は、丸レンズの表面または裏面に耐擦傷性、耐摩耗性、耐湿性、耐温水性、耐熱性、耐候性等の機能を付与することを目的としたコーティング層である。ハードコート層の厚さ寸法は、通常、0.3μm以上30μm以下である。
【0139】
上述のプライマー層を設ける場合には、ハードコート層は、プライマー層の表面に形成される。ハードコート層は、丸レンズの表面または裏面に直接形成されてもよい。
【0140】
ハードコート層を形成する場合には、まず、ハードコート組成物が、公知の塗布方法により、被覆面に塗布される。つぎに、塗布されたハードコート組成物を硬化させると、ハードコート層が、被覆面に形成される。なお、ハードコート組成物の塗布方法の例として、スピンコートまたはディップコートが挙げられる。
【0141】
ハードコート組成物の硬化方法の例として、紫外線または可視光線などの光エネルギー線を照射して光硬化する方法、および、熱エネルギーを加えて熱硬化する方法が挙げられる。熱硬化の場合、硬化温度は90℃以上130℃以下で、好ましくは100℃以上110℃以下である。また硬化時間は0.5h以上3h以下で、好ましくは1h以上3h以下である。
【0142】
ハードコート層を形成する前に、被覆面は、アルカリ処理、プラズマ処理、紫外線処理などの前処理を施されてもよい。このような前処理は、被覆面とハードコート層との密着性の向上に効果的である。
【0143】
ハードコート組成物の例として、硬化性を有する有機ケイ素化合物とSi、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、およびTiの酸化物微粒子(複合酸化物微粒子を含む)との混合物が挙げられる。
【0144】
さらに、ハードコート組成物の例として、アミン類、アミノ酸類、金属アセチルアセトネート錯体、有機酸金属塩、過塩素酸類、過塩素酸類の塩、酸類、金属塩化物、および多官能性エポキシ化合物が挙げられる。ハードコート組成物は、無溶剤であってもよい。ただし、ハードコート組成物の粘度を調整したい場合には、ハードコート組成物は、レンズに影響を及ぼさない性質の溶剤であってもよい。
【0145】
[反射防止膜層について]
反射防止層は、必要に応じて、ハードコート層の表面に形成される。反射防止層は、無機系の反射防止層と有機系の反射防止層とがある。
【0146】
無機系の反射防止層は、一般的には、SiO
2、TiO
2などの無機酸化物を用いて真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法、CVD法などの乾式法により形成される。
【0147】
真空蒸着法は、通常、10
−3Pa以上10
−2Pa以下の圧力下で行う。蒸発源から発する蒸発物質の蒸気圧は、これよりも高ければよい。蒸発源から発する蒸発物質の蒸気圧は、10
−2Pa以上1Pa以下が適当である。実際には、複数の蒸発源が装置に設置されている場合が多い。蒸発温度は、70℃以上100℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以上90℃以下である。
【0148】
一方、有機系の反射防止層は、一般的には、有機ケイ素化合物と、内部空洞を有するシリカ系微粒子とを含む組成物を用いて、湿式法により形成される。
【0149】
反射防止層は、単層であっても多層であってもよい。反射防止層が単層の場合には、反射層の屈折率は、ハードコート層の屈折率よりも少なくとも0.1以上小さいと好ましい。
【0150】
反射防止機能を効果的に発揮する観点から、反射防止層は、多層構造であると好ましい。反射防止層が多層構造の場合には、低屈折率膜と高屈折率膜とを交互に積層すると好ましい。低屈折率膜の屈折率と高屈折率膜の屈折率との差は、0.1以上あると好ましい。高屈折率膜の例として、ZnO、TiO
2、CeO
2、Sb
2O
5、SnO
2、ZrO
2、Ta
2O
5などの膜があげられる。一方、低屈折率膜の例として、SiO
2膜などが挙げられる。反射防止層の厚さ寸法は、通常、50nm以上150nm以下である。
【0151】
[玉型レンズについて]
つぎに、
図10Cに示される丸レンズ1cから、
図10Eに示されるレンズ1(玉型レンズともいう。)を作る方法について説明する。レンズ1は、たとえば、アイウェアの販売店舗またはレンズメーカにおいて、丸レンズ1cの外周面に、第二除去部1a2(
図10Dにおいて斜格子が付された部分)を除去するための外周加工(たとえば、切削加工、研磨加工)を施すことにより造られる。このような外周加工は、後加工に含まれる。
【0152】
外周加工において、丸レンズ1cは、外周面が切削工具または研磨工具に対向する状態で、加工装置(たとえば、株式会社ニデック社製、パターンレスエッシャー Lex1000)に固定される。加工装置に固定された丸レンズは、ユーザが選択したアイウェアのフレーム形状に合わせて、外周面を加工される。このようにして、丸レンズ1cは、レンズ1へと加工される。
【0153】
上述の外周加工において、丸レンズ1cは、フィルム素子12の被切断部121以外の部分の外周縁に沿うように加工される。この際、被切断部121は、外側第一電極121aおよび外側第二電極121bの端部が、玉型レンズ1dの外周面から露出するように切断される。本実施形態の場合、被切断部121は、フィルム状であり、かつ、光学特性変化部120から突出するように設けられている。このため、被切断部121の切断作業を容易に行える。この結果、切断作業に起因する不具合の発生が減少する。
【0154】
上述した裏面加工および外周加工において、フィルム素子12の光学特性変化部120は、切断されない。また、光学特性変化部120は、上述のコーティング加工における減圧環境下および加圧環境下でも、破壊されることがない。よって、上述の各加工は、通常の眼鏡レンズを造る場合と同様の加工により行われる。このため、本実施形態に係るセミフィニッシュドレンズ1Aを加工するために、新たな加工装置が必要となることはない。
【0155】
[本実施形態の作用・効果について]
以上のような構成を有する本実施形態によれば、後加工による不具合の発生が少ないセミフィニッシュドレンズを提供できる。
【0156】
[実施形態2]
図11を参照して、本発明に係る実施形態2のセミフィニッシュドレンズ1Aの構造について説明する。
図11は、実施形態2に係るセミフィニッシュドレンズ1Aの断面図である。
【0157】
セミフィニッシュドレンズ1Aは、第一基板10、第一接着層11、フィルム素子12、コーティング層18を有する。第一基板10、第一接着層11、およびフィルム素子12は、前述した実施形態1の場合と同様である。
【0158】
[コーティング層について]
コーティング層18は、硬化性組成物からなる硬化層である。硬化性組成物の例として、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂などの各種の硬化性樹脂が挙げられる。
【0159】
コーティング層18は、たとえば、硬化組成物の溶液中に、第一接着層11およびフィルム素子12が固定された第一基板10の表面を浸漬するディップコーティングにより形成される。また、コーティング層18上に、たとえば、ハードコート層、または、反射防止膜層を、さらに設けてもよい。ハードコート層および反射防止膜層の形成方法については、前述の通りである。その他の構造および作用・効果は、前述した実施形態1と同様である。
【0160】
[付記]
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。たとえば、フィルム素子は、第二基板14に固定されてもよい。この場合には、第二基板14が第一基板であり、第一基板10が第二基板である。
【0161】
また、本発明に係るアイウェアには、視力補正レンズのようにユーザの視力向上のための補助機構を有する眼鏡(電子メガネおよびサングラスを含む)及びゴーグルが含まれる。また、本発明に係るアイウェアには、ユーザの視界または眼に対して情報提示を行う機構を有する種々のデバイス(例えば、眼鏡型ウェアラブル端末や、ヘッドマウントディスプレイなど)が含まれる。
【0162】
また、本発明に係るアイウェアは、視力または視界向上のための補助機構や情報提示のための機構などを、使用者の目の前又は周囲に保持できる構成であればよい。本発明に係るアイウェアは、両耳に掛けられる眼鏡型に限られず、頭部や片耳などに装着される型でもよい。また、本発明に係るアイウェアは、両眼用のアイウェアに限られず、片眼用のアイウェアであってもよい。