【解決手段】触媒インクを塗布するためのノズル22に供給する触媒インクを密閉する絶縁性容器21の圧力を変更する圧力変更装置25と、ノズル22に印加する電圧を変更する電圧変更装置50とを制御するための制御装置100において、画像取得部121は、ノズル22の端部の触媒インクの液滴を撮像した画像を取得する。認識部122は、液滴の形状が複数のパターンのいずれに該当するかを認識する。制御パラメータ取得部123は、認識したパターンに紐づけられた制御パラメータを取得する。信号出力部124は、取得した制御パラメータに対応する制御信号を、圧力変更装置25と、電圧変更装置50とに出力する。
電極触媒層の形成に用いる触媒インクを塗布するためのノズルに供給する触媒インクを密閉する絶縁性容器の圧力を変更する圧力変更装置と、前記ノズルに印加する電圧を変更する電圧変更装置との動作を制御するための制御装置であって、
前記ノズルの端部に形成される前記触媒インクの液滴を撮像した画像を取得する画像取得部と、
前記液滴の形状があらかじめ定められた複数のパターンのいずれに該当するかを認識する認識部と、
前記複数のパターンそれぞれと、前記圧力と前記電圧との少なくともいずれか一方の制御パラメータとが紐づけられた制御データベースを参照して、認識したパターンに紐づけられた制御パラメータを取得する制御パラメータ取得部と、
取得した制御パラメータに対応する制御信号を、前記圧力変更装置と、前記電圧変更装置と、の少なくともいずれか一方に出力する信号出力部と、
を備える制御装置。
前記制御パラメータ取得部は、前記認識部が認識したパターンが前記基本パターンと比較して膨らんだ形状を示す膨張パターンに該当する場合、前記絶縁性容器の内部の圧力を低くするとともに、前記ノズルに印加する電圧を高くすることを指示する制御パラメータを取得する、
請求項2に記載の制御装置。
前記制御パラメータ取得部は、前記認識部が認識したパターンが、前記ノズルの端部を底辺とし、前記液滴が噴霧される方向に2以上の頂点を持つ分裂パターンに該当する場合、前記絶縁性容器の内部の圧力を高くすることを指示する制御パラメータを取得する、
請求項2から4のいずれか一項に記載の制御装置。
電極触媒層の形成に用いる触媒インクを塗布するためのノズルに供給する触媒インクを密閉する絶縁性容器の圧力を変更する圧力変更装置と、前記ノズルに印加する電圧を変更する電圧変更装置との動作を制御するための制御装置のプロセッサが、
前記ノズルの端部に形成される前記触媒インクの液滴を撮像した画像を取得するステップと、
前記液滴の形状があらかじめ定められた複数のパターンのいずれに該当するかを認識するステップと、
前記複数のパターンそれぞれと、前記圧力と前記電圧との少なくともいずれか一方の制御パラメータとが紐づけられた制御データベースを参照して、認識したパターンに紐づけられた制御パラメータを取得するステップと、
取得した制御パラメータに対応する制御信号を、前記圧力変更装置と、前記電圧変更装置と、の少なくともいずれか一方に出力するステップと、
を実行する制御方法。
電極触媒層の形成に用いる触媒インクを塗布するためのノズルに供給する触媒インクを密閉する絶縁性容器の圧力を変更する圧力変更装置と、前記ノズルに印加する電圧を変更する電圧変更装置との動作を制御するためのコンピュータに、
前記ノズルの端部に形成される前記触媒インクの液滴を撮像した画像を取得する機能と、
前記液滴の形状があらかじめ定められた複数のパターンのいずれに該当するかを認識する機能と、
前記複数のパターンそれぞれと、前記圧力と前記電圧との少なくともいずれか一方の制御パラメータとが紐づけられた制御データベースを参照して、認識したパターンに紐づけられた制御パラメータを取得する機能と、
取得した制御パラメータに対応する制御信号を、前記圧力変更装置と、前記電圧変更装置と、の少なくともいずれか一方に出力する機能と、
を実現させるプログラム。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yun Wang、 Ken S. Chen, Jeffre Y. Mishler, Sung Chan Cho, Xavier Cordobes Adroher “A review of polymer electrolyte membrane fuel cells: Tec hnologyy applications, and needs on fundamental research” Applied Energy, Volume 88, Issue 4, April 2011, Pages 981--1007.
【非特許文献2】Wei Yuan, Yong Tang, Xiaojun Yang, Zhenping Wan “Porous meta l materials for polymer electrolyte membrane fuel cells ? A review” Applied Energy, Volume 94, June 2012, Pages 309--329.
【非特許文献3】Elliot Martin, Susan A. Shaheen, Timothy E. Lipman, Jeffre R. Lidicker “Behavioral response to hydrogen fuel cell vehicles and refueling: Results of California drive clinics” International Journal of Hydrogen Energy, Volume 34, Issue 20, October 2009, Pages 8670--8680.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電極触媒層は、均一に被覆されると、その電極触媒層を用いた燃料電池又は水電解の性能が向上することが知られている。しかしながら、上記の報告には形成手法に関してあまり具体的記述はなく、エレクトロスプレー法による電極触媒層の形成技術には改良の余地が多く残されている。
【0006】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、電極触媒層の性能を向上するためのエレクトロスプレー法の制御技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、電極触媒層の形成に用いる触媒インクを塗布するためのノズルに供給する触媒インクを密閉する絶縁性容器の圧力を変更する圧力変更装置と、前記ノズルに印加する電圧を変更する電圧変更装置との動作を制御するための制御装置である。この制御装置は、前記ノズルの端部に形成される前記触媒インクの液滴を撮像した画像を取得する画像取得部と、前記液滴の形状があらかじめ定められた複数のパターンのいずれに該当するかを認識する認識部と、前記複数のパターンそれぞれと、前記圧力と前記電圧との少なくともいずれか一方の制御パラメータとが紐づけられた制御データベースを参照して、認識したパターンに紐づけられた制御パラメータを取得する制御パラメータ取得部と、取得した制御パラメータに対応する制御信号を、前記圧力変更装置と、前記電圧変更装置と、の少なくともいずれか一方に出力する信号出力部と、を備える。
【0008】
前記制御パラメータ取得部は、前記認識部が認識したパターンが前記複数のパターンに含まれる基本パターンに該当するまでの間、前記制御パラメータの取得を継続してもよい。
【0009】
前記制御パラメータ取得部は、前記認識部が認識したパターンが前記基本パターンと比較して膨らんだ形状を示す膨張パターンに該当する場合、前記絶縁性容器の内部の圧力を低くするとともに、前記ノズルに印加する電圧を高くすることを指示する制御パラメータを取得してもよい。
【0010】
前記基本パターンに対応する前記液滴の形状は、前記ノズルの端部を底辺とし、前記液滴が噴霧される方向に1つの頂点を持つ三角形状であり、前記制御パラメータ取得部は、前記認識部が認識したパターンが前記基本パターンにおける頂点よりも前記底辺側に頂点を備える三角形を示す高さ不足パターンに該当する場合、前記ノズルに印加する電圧を高くすることを指示する制御パラメータを取得してもよい。
【0011】
前記制御パラメータ取得部は、前記認識部が認識したパターンが、前記ノズルの端部を底辺とし、前記液滴が噴霧される方向に2以上の頂点を持つ分裂パターンに該当する場合、前記絶縁性容器の内部の圧力を高くすることを指示する制御パラメータを取得してもよい。
【0012】
前記ノズルは、導電性金属で作成された導電性ノズルであってもよい。
【0013】
本発明の第2の態様は、制御方法である。この方法において、電極触媒層の形成に用いる触媒インクを塗布するためのノズルに供給する触媒インクを密閉する絶縁性容器の圧力を変更する圧力変更装置と、前記ノズルに印加する電圧を変更する電圧変更装置との動作を制御するための制御装置のプロセッサが、前記ノズルの端部に形成される前記触媒インクの液滴を撮像した画像を取得するステップと、前記液滴の形状があらかじめ定められた複数のパターンのいずれに該当するかを認識するステップと、前記複数のパターンそれぞれと、前記圧力と前記電圧との少なくともいずれか一方の制御パラメータとが紐づけられた制御データベースを参照して、認識したパターンに紐づけられた制御パラメータを取得するステップと、取得した制御パラメータに対応する制御信号を、前記圧力変更装置と、前記電圧変更装置と、の少なくともいずれか一方に出力するステップと、を実行する。
【0014】
本発明の第3の態様は、プログラムである。このプログラムは、電極触媒層の形成に用いる触媒インクを塗布するためのノズルに供給する触媒インクを密閉する絶縁性容器の圧力を変更する圧力変更装置と、前記ノズルに印加する電圧を変更する電圧変更装置との動作を制御するためのコンピュータに、前記ノズルの端部に形成される前記触媒インクの液滴を撮像した画像を取得する機能と、前記液滴の形状があらかじめ定められた複数のパターンのいずれに該当するかを認識する機能と、前記複数のパターンそれぞれと、前記圧力と前記電圧との少なくともいずれか一方の制御パラメータとが紐づけられた制御データベースを参照して、認識したパターンに紐づけられた制御パラメータを取得する機能と、取得した制御パラメータに対応する制御信号を、前記圧力変更装置と、前記電圧変更装置と、の少なくともいずれか一方に出力する機能と、を実現させる。
【0015】
本発明の第4の態様は、電極触媒層の形成装置と前記形成装置における触媒インクの塗布を制御する制御装置とを備える電極触媒層形成システムである。このシステムにおいて、前記形成装置は、電極触媒層の形成に用いる触媒インクを密閉するための絶縁性容器と、前記絶縁性容器の内部と連通し、前記触媒インクを塗布するためのノズルと、制御信号に基づいて前記絶縁性容器の内部の圧力を変更するための圧力変更装置と、制御信号に基づいて前記ノズルに印加する電圧を変更するための電圧変更装置と、前記ノズルの端部に形成される前記触媒インクの液滴を撮像するための撮像装置と、を備える。また、前記形成装置は、前記撮像装置が撮像した液滴の形状に基づいて前記圧力変更装置と前記電圧変更装置との少なくともいずれか一方の動作を制御する制御部とを備える。前記制御部は、前記撮像装置が撮像した液滴の形状があらかじめ定められた複数のパターンのいずれに該当するかを認識する認識部と、前記複数のパターンそれぞれと、前記圧力と前記電圧との少なくともいずれか一方の制御パラメータとが紐づけられた制御データベースを参照して、前記認識部が認識したパターンに紐づけられた制御パラメータを取得する制御パラメータ取得部と、前記制御パラメータ取得部が取得した制御パラメータに対応する制御信号を、前記圧力変更装置と前記電圧変更装置との少なくともいずれか一方に出力する信号出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電極触媒層の性能を向上するためのエレクトロスプレー法の制御技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施の形態の概要>
図1は、実施の形態に係る電極触媒層形成システムSの概要を説明するための図である。
図1を参照して、実施の形態の概要を述べる。
【0019】
実施の形態に係る電極触媒層形成システムSは、エレクトロスプレー法を用いて触媒インクを塗布することにより電極触媒層を形成する。電極触媒層形成システムSは、触媒インクを塗布して電極触媒層を形成するための形成装置1と、触媒インクを塗布する際のインク液滴の形状を制御するための制御装置100とを備える。
【0020】
詳細は後述するが、形成装置1は、絶縁性容器21に蓄えられた触媒インクをノズル22を用いて導電性基板12上に噴霧することにより、高分子電解質膜13を形成する。ここで、ノズル22は、導電性金属で作成された導電性ノズル、表面は絶縁性であるが、先端部近傍の内側に電極を有するノズル、及び先端部近傍の内側であって、内側側面に電気的に非接触の電極を有するノズルを含む。
【0021】
触媒インクは、金属製ゲート板14に設けられた穴15を通るように噴霧される。ここで、電極触媒層は燃料電池に用いられるが、高分子電解質膜13が導電性基板12の表面に均一かつその殆ど全表面に被覆されると、この電極触媒層を用いた燃料電池又は水電解の性能が向上することが知られている。
【0022】
本願の発明者は、ノズル22の先端における触媒インクの液滴の形状が特定の基本形状である場合、高分子電解質膜13が導電性基板12の表面に均一に形成されることを見出した。また、ノズル22の先端における触媒インクの液滴の形状は、ノズル22の径、触媒インクの粘性、絶縁性容器21内部の圧力と絶縁性容器21外部の圧力(大気圧)との差圧、及びノズル22と導電性基板12との間の電位差等によって変化することも見出した。
【0023】
形成装置1は、ノズル22に供給する触媒インクを密閉する絶縁性容器21の圧力を変更するための圧力変更装置25と、ノズル22に印加する電圧を変更するための電圧変更装置50と、高分子電解質膜13の形成に用いる触媒インクを塗布するためのノズル22の端部に形成される触媒インクの液滴を、ノズル22の長軸に対して垂直な方向から撮像するための撮像装置34を備えている。実施の形態に係る制御装置100は、撮像装置34が撮像した触媒インクの液滴の形状を判定し、触媒インクの液滴の形状が基本形状となるように、絶縁性容器21の圧力及びノズル22に印加する電圧を変更するための制御信号を圧力変更装置25又は電圧変更装置50に出力する。これにより、制御装置100は、形成装置1が形成する高分子電解質膜13の性能を向上することができる。
【0024】
<形成装置1の構成>
実施の形態に係る制御装置100の説明に先立って、まず形成装置1の構成を説明する。
【0025】
図2は、エレクトロスプレー法による電極触媒層の形成装置1を示す斜視図であり、エレクトロスプレー法による電極触媒層の形成装置1の概略構成の例を示している。図示のとおり、水平面上に互いに直交するX軸(左右方向)とY軸(手前、奥行方向)をとり、鉛直上方にZ軸(上下方向)をとる。
【0026】
手前にXYテーブル11が、その奥方向にXテーブル(X方向テーブル)10が設けられている。XYテーブル11はその上に置かれた導電性基板12をX方向及びY方向に移動させる。Xテーブル10はその上にX方向に並んで鉛直に立設(固定)された2つの支柱30と40を一緒にX方向に移動させる。X方向テーブルの代わりに単なる基台を設け、XYテーブル11によりXY方向スキャニングを実現してもよいし、XテーブルをXYテーブルに置換してこれによりXYスキャニングを実現してもよい。
【0027】
支柱30の内部は空洞で案内路となっており、この案内路内に昇降体31が昇降自在に設けられている。昇降体31は上下動するのみで、回転も横方向移動もできない。昇降体31の内部には雌ねじが形成され、この内部を上下方向に通るねじ軸33が雌ねじにねじはめられている。ねじ軸33はその上下部で支柱30に回転自在に支持されている。ねじ軸33は回転のみ許され、上下動しない。ねじ軸33をモータのような回転駆動装置により回転させてもよいし、ハンドル等を設けて手動で回転させてもよい(いずれも図示略)。ねじ軸33が回転することにより昇降体31が上下動する。
【0028】
支柱40も同じ昇降機構を有している。すなわち、支柱40の内部は空洞で案内路となっており、この案内路内に昇降体41が昇降自在に設けられている。昇降体41は上下動するのみで、回転も横方向移動もできない。昇降体41の内部には雌ねじが形成され、この内部を上下方向に通るねじ軸43が雌ねじにねじはめられている。ねじ軸43はその上下部で支柱40に回転自在に支持されている。ねじ軸43は回転のみ許され、上下動しない。ねじ軸43をモータのような回転駆動装置により回転させてもよいし、ハンドル等を設けて手動で回転させてもよい(いずれも図示略)。ねじ軸43が回転することにより昇降体41が上下動する。
【0029】
昇降体31には挟持具32が取り付けられ、支柱30の前面に上下方向に形成されたスリットを通って前方(XYテーブル11の方向)に延びている。この挟持具32には絶縁性容器21が着脱自在に保持される。絶縁性容器21は絶縁体でつくられ、気密に密閉可能である。絶縁性容器21の下面には、その内部と連通する金属製のノズル22が着脱自在に取り付けられ、鉛直下方に向かっている。絶縁性容器21内にはその内部の上部に空間が存在する程度に触媒インクが入れられる。該空間内には空気、その他の気体が存在する。支柱30の前面には、ノズル22の端部に形成される触媒インクの液滴を撮像するための撮像装置34が備えられている。撮像装置34は、例えばCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等、既知の固体撮像素子で実現できる。
【0030】
絶縁性容器21の上面(蓋)にはその内部と連通するY字管23が取り付けられている。Y字管23のー方の分岐管には圧力測定器24が接続され、他方の分岐管には絶縁性容器21の内部を減圧させて負圧にすることのできる圧力変更装置25が接続されている。これらの圧力測定器24と圧力変更装置25とを挟持具32又は支柱30に取り付けてもよい。その場合には配管が短くてすむ。配管は差圧によって容易に変形しない硬質のものがよい。必要に応じて絶縁性容器21には触媒インク供給管26が設けられ、バルブ27を介して触媒インク供給装置28に接続される。圧力変更装置25に圧力設定器を設け、圧力測定器24による測定圧力をフィードバックし、圧力変更装置25が絶縁性容器21内の圧力を自動調節するようにしてもよい。
【0031】
昇降体41に腕42が固定され、この腕42が、支柱40の前側に上下方向に形成されたスリットを通って手前の方向に延び、その先に金属製ゲート板14が固定されている。金属製ゲート板14は水平であり、挟持具32に保持された絶縁性容器21に取り付けられたノズル22の延長上(鉛直下方)に中心を持つ穴15があけられている。
【0032】
X方向テーブル10によってノズル付の絶縁性容器21と金属製ゲート板14とは一緒に平行移動する。
【0033】
エレクトロスプレーを行うときには、ノズル22が電圧変更装置50の正側出力端子に接続され、金属製ゲート板14とXYテーブル11上に置かれた導電性基板12とが電圧変更装置50のアース側子にそれぞれ接続される。電圧変更装置50はその出力電圧の値を調整可能である。また、導電性基板12上には触媒をエレクトロスプレーにより塗布すべき高分子電解質膜13が置かれ、かつ固定される。ノズル22と穴15の中心と高分子電解質膜13の中心をー致させることができる。また、ノズル22は常に穴15の中心に対応しているので、ノズル22を金属製ゲート板14とともにXY方向に移動させ、高分子電解質膜13の表面をその範囲でスキャニングすることも可能である。絶縁性容器21と金属製ゲート板14の高さ位置はねじ軸33、43の回転により調整可能であり、かつ任意の高さ位置に固定ねじ等の固定具で固定することができる。
【0034】
<制御装置100の機能構成>
図3は、実施の形態に係る制御装置100の機能構成を模式的に示す図である。制御装置100は、記憶部110と制御部120とを備える。制御装置100は、圧力変更装置25と電圧変更装置50との動作を制御するための制御装置である。
【0035】
記憶部110は、制御装置100を実現するコンピュータのBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)や形成装置1の作業領域となるRAM(Random Access Memory)、OS(Operating System)やアプリケーションプログラム、当該アプリケーションプログラムの実行時に参照されるデータベースを格納するHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置である。
【0036】
制御部120は、制御装置100のCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサであり、記憶部110に記憶されたプログラムを実行することによって画像取得部121、認識部122、制御パラメータ取得部123、及び信号出力部124として機能する。
【0037】
なお、
図2は、制御装置100が単一の装置で構成されている場合の例を示している。しかしながら、制御装置100は、例えばクラウドコンピューティングシステムのように複数のプロセッサやメモリ等の計算リソースによって実現されてもよい。この場合、制御部120を構成する各部は、複数の異なるプロセッサの中の少なくともいずれかのプロセッサがプログラムを実行することによって実現される。
【0038】
画像取得部121は、撮像装置34によって撮像されたノズル22の端部に形成される触媒インクの液滴の画像を取得する。認識部122は、画像取得部121が取得した画像に撮像されている液滴の形状が、あらかじめ定められた複数のパターンのうちのいずれのパターンに該当するかを認識する。
【0039】
図4(a)−(d)は、ノズル22の端部に形成される触媒インクの液滴の形状に関するパターンを模式的に示す図である。具体的に、
図4(a)−(d)において、斜線で示す領域が撮像装置34によって撮像された触媒インクの液滴の形状を示している。さらに具体的には、
図4(a)は、触媒インクの形状の基本パターンを示す図である。ノズル22の端部に形成される触媒インクの液滴の形状が基本パターンとなる場合、高分子電解質膜13が導電性基板12の表面に均一に形成される。
図4(a)に示すように、基本パターンに対応する粒子の形状は、ノズル22の端部を底辺とし、触媒インクの液滴が噴霧される方向に1つの頂点を持つ三角形状である。
【0040】
図4(b)は、触媒インクの液滴形状の膨張パターンの一例を示す図である。
図4(b)に示すように、膨張パターンは、基本パターンと比較して膨らんだ形状となっている。
図4(c)は、触媒インクの液滴形状の分裂パターンを示す図である。分裂パターンは、基本パターンと異なり、触媒インクの液滴が複数の頂点を持った形状となっている。
【0041】
図4(d)は、触媒インクの液滴形状の高さ不足パターンを示す図である。高さ不足パターンは、基本パターンと同様に頂点を一つ持つ三角形状であるが、基本パターンよりも高さ方向が短いパターンである。
【0042】
認識部122は、画像取得部121が取得した画像を既知の画像認識技術を用いて解析することにより、まず画像の中から触媒インクの液滴が撮像されている領域を特定する。その後、認識部122は、液滴の長さ、ノズル22の先端から所定の距離における液滴の幅、液滴の断面積、液滴の先端の数及びその角度を解析することで、触媒インクの形状がいずれのパターンに該当するかを認識する。
【0043】
制御パラメータ取得部123は、複数のパターンそれぞれと、絶縁性容器21の圧力とノズル22に印加する電圧との少なくともいずれか一方の制御パラメータとが紐づけられた制御データベース111を参照して、認識部122が認識したパターンに紐づけられた制御パラメータを取得する。
【0044】
図5は、絶縁性容器21の大気圧との差圧及びノズル22に印加する電圧と、触媒インクの形状パターンとの関係の一例を模式的に示す図である。具体的には、
図5は、ノズル22の内径が0.25ミリメートルの場合の実験結果を示す図である。
【0045】
図5において、印加電圧がおよそ3.5[kV]以上となると、差圧の大きさに関わらず触媒インクの形状は膨張パターンとなった。また、印加電圧がおよそ2.7[kV]以下の場合、触媒インクがノズル22から引き出されず、液滴が形成されなかった。印加電圧が2.7[kV]から3.5[kV]の範囲においても、差圧が大きくなると触媒インクが絶縁性容器21に引き込まれ、液滴が形成されなかった。
図5において、右上から左下に向かう斜線は、印加電圧が2.7[kV]から3.5[kV]の範囲において液滴が形成さなかった領域を示す。
【0046】
図5において、黒丸で示す領域は、触媒インクの液滴の形状が基本パターンとなる領域である。また、白丸で示す領域は、触媒インクの液滴の形状が不安定であり、主として基本形状を示しながらも他の3つのパターン(膨張パターン、分裂パターン、及び高さ不足パターン)を遷移する領域である。Xで示す領域は、触媒インクの液滴の形状が膨張パターンとなる領域である。さらに、三角で示す領域は、触媒インクの液滴の形状が分裂パターンとなる領域である。なお、分裂パターンは、絶縁性容器21内の触媒インクの残量が少なくなったとき生じやすい傾向がある。
【0047】
制御パラメータ取得部123が取得する制御パラメータは、触媒インクの液滴の形状パターンが基本パターン以外のパターンの場合に、その液滴を基本パターンに近づけるための制御パラメータである。信号出力部124は、制御パラメータ取得部123が取得した制御パラメータに対応する制御信号を、圧力変更装置25と圧力変更装置25との少なくともいずれか一方に出力する。これにより、制御装置100は、触媒インクの液滴の形状を基本形状に使づけることができる。結果として、制御装置100は、導電性基板12の表面に高分子電解質膜13を均一に形成することができる。故に、制御装置100は、エレクトロスプレー法で生成する電極触媒層の性能を向上することができる。
【0048】
図6は、実施の形態に係る制御データベース111のデータ構造を模式的に示す図である。制御データベース111は記憶部110に格納されており、制御パラメータ取得部123によって管理される。
【0049】
図5に示すように、基本パターンは、膨張パターンよりも印可電圧が高く、かつ絶縁性容器21内部の圧力と大気圧との差が大きい(すなわち、絶縁性容器21内部が大気圧よりも低圧)である。したがって、制御パラメータ取得部123は、認識部122が認識したパターンが基本パターンと比較して膨らんだ形状を示す膨張パターンに該当する場合、絶縁性容器21の内部の圧力を低くするとともに、ノズル22に印加する電圧を高くすることを指示する制御パラメータを取得する。これにより、制御装置100は、形状が膨張パターンとなっている液滴を基本形状に近づけることができる。
【0050】
図5に示すように、基本パターンは、分裂パターンよりも絶縁性容器21内部の圧力と大気圧との差が小さい傾向にある。したがって、制御パラメータ取得部123は、認識部122が認識したパターンがノズル22の端部を底辺とし、液滴が噴霧される方向に2以上の頂点を持つ分裂パターンに該当する場合、絶縁性容器21の内部の圧力を高くすることを指示する制御パラメータを取得する。これにより、制御装置100は、形状が分裂パターンとなっている液滴を基本形状に近づけることができる。
【0051】
上述したように、触媒インクの液滴の形状が不安定の場合、主として基本形状を示しながらも、液滴の形状は膨張パターン、分裂パターン、及び高さ不足パターンを遷移する。ここで、液滴の形状が高さ不足の場合、印可電圧を高くすることでノズル22から導電性インクを引き出すことで高さ不足が解消されると考えられる。
【0052】
そこで、制御パラメータ取得部123は、認識部122が認識したパターンが基本パターンにおける頂点よりも底辺側に頂点を備える三角形を示す高さ不足パターンに該当する場合、ノズル22に印加する電圧を高くすることを指示する制御パラメータを取得する。これにより、制御装置100は、形状が高さ不足パターンとなっている液滴を基本形状に近づけることができる。
【0053】
ここで、制御パラメータ取得部123は、認識部122が認識したパターンが複数のパターンに含まれる基本パターンに該当するまでの間、制御パラメータの取得を継続してもよい。この場合、制御パラメータ取得部123は、液滴の形状の測定し、その形状に応じた制御パラメータを設定し、再び液滴の形状を測定するいわばフィードバック制御を実行することになる。これにより、制御パラメータ取得部123は、触媒インクの液滴の形状をより確実に基本形状に近づけることができる。
【0054】
<制御装置100が実行する制御処理の処理フロー>
図7は、実施の形態に係る制御装置100が実行する制御処理の流れを説明するためのフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、例えば制御装置100が起動したときに開始する。
【0055】
画像取得部121は、撮像装置34によって撮像されたノズル22の端部に形成される触媒インクの液滴の画像を取得する(S2)。認識部122は、画像取得部121が取得した画像に撮像されている液滴の形状が、あらかじめ定められた複数のパターンのうちのいずれのパターンに該当するかを認識する(S4)。
【0056】
認識部122が認識したパターンが基本パターンでない場合(S6のNo)、制御パラメータ取得部123は、複数のパターンそれぞれと、絶縁性容器21の圧力とノズル22に印加する電圧との少なくともいずれか一方の制御パラメータとが紐づけられた制御データベース111を参照して、認識部122が認識したパターンに紐づけられた制御パラメータを取得する(S8)。
【0057】
信号出力部124は、制御パラメータ取得部123が取得した制御パラメータに対応する制御信号を、圧力変更装置25と、電圧変更装置50と、の少なくともいずれか一方に出力し(S10)、ステップS2の処理に戻る。
【0058】
認識部122が認識したパターンが基本パターンとなると(S6のYes)、本フローチャートにおける処理は終了する。制御装置100は、以上の処理を繰り返すことにより、圧力変更装置25と電圧変更装置50との動作の制御を継続する。
【0059】
<実施の形態に係る制御装置100が奏する効果>
以上説明したように、実施の形態に係る制御装置100によれば、電極触媒層の性能を向上するためのエレクトロスプレー法の制御技術を提供することができる。
【0060】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の分散・統合の具体的な実施の形態は、以上の実施の形態に限られず、その全部又は一部について、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を合わせ持つ。
【0061】
<変形例>
上記では、
図5を参照して、絶縁性容器21の大気圧との差圧及びノズル22に印加する電圧と、触媒インクの形状パターンとの関係の一例を説明した。ここで、触媒インクの粘性とノズル22の内径との少なくともいずれか一方のパラメータが変化すると、上記の関係は異なるものとなる。
【0062】
そこで、制御データベース111は、触媒インクの粘性とノズル22の内径とのパラメータが異なる複数の組み合わせごとに、制御データベース111を保持するようにしてもよい。この場合、制御装置100は、図示しない粘性取得部及び内径取得部を備え、触媒インクの粘性を示すパラメータとノズル22の内径を示すパラメータを取得する。これにより、制御パラメータ取得部123は、触媒インクの粘性とノズル22の内径とのいずれかのパラメータが異なる場合であっても、触媒インクの液滴の形状を基本形状に近づけることができる。