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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-148011(P2019-148011A)
(43)【公開日】2019年9月5日
(54)【発明の名称】積層鉄心の製造方法及びプレート
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/00 20060101AFI20190809BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20190809BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20190809BHJP
【FI】
   C21D1/00 F
   C21D9/00 S
   H01F41/02 B
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-78912(P2019-78912)
(22)【出願日】2019年4月17日
(62)【分割の表示】特願2014-265868(P2014-265868)の分割
【原出願日】2014年12月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(72)【発明者】
【氏名】小園 武明
(72)【発明者】
【氏名】蓮尾 裕介
【テーマコード(参考)】
4K034
4K042
5E062
【Fターム(参考)】
4K034AA05
4K034BA01
4K034DB02
4K034EA11
4K034GA08
4K042AA25
4K042BA10
4K042BA14
4K042CA15
4K042DA03
4K042DA06
4K042DB07
4K042DD05
4K042DE07
4K042DF01
5E062AC15
(57)【要約】
【課題】熱処理の過程や搬送過程において積層鉄心に変形が生じ難く、積層鉄心の表面に傷や汚れが生じ難い積層鉄心の製造方法を提供する。該製造方法に使用するプレートを提供する。
【解決手段】積層鉄心3の製造方法は、搬送治具6上にプレート5を載置して、更にプレート5の上に積層鉄心3を載置して、積層鉄心3をプレート5に面支持させる載置工程と、プレート5と積層鉄心3が載置された搬送治具5の上に、プレート5と積層鉄心3が載置された別の搬送治具5を載置して、複数個の搬送治具5を互いに積層して、搬送治具5の積層体を形成して、搬送治具5の積層体を熱処理装置1に搬入して、積層鉄心5を加熱又は冷却する熱処理工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送治具上にプレートを載置して、
更に前記プレートの上に積層鉄心を載置して、前記積層鉄心を前記プレートに面支持させる載置工程と、
前記プレートと前記積層鉄心が載置された前記搬送治具の上に、前記プレートと前記積層鉄心が載置された別の前記搬送治具を載置して、複数個の前記搬送治具を互いに積層して、前記搬送治具の積層体を形成して、
前記搬送治具の積層体を熱処理炉に搬入して、
前記積層鉄心を加熱又は冷却する熱処理工程と、
を含む積層鉄心の製造方法。
【請求項2】
搬送治具から突出する支持部をプレートに設けられた貫通穴に嵌挿させ、前記搬送治具上に前記プレートを載置して、
更に前記プレートの上に積層鉄心を載置して、前記積層鉄心を前記プレートに面支持させる載置工程と、
前記搬送治具を熱処理炉に搬入して、
前記積層鉄心を加熱又は冷却する熱処理工程と、
を含む積層鉄心の製造方法。
【請求項3】
積層鉄心が載置されて、前記積層鉄心を面支持するとともに、前記積層鉄心を熱処理炉
に搬送する搬送治具に載置されるプレートであって、
前記プレートと前記積層鉄心が載置された前記搬送治具の上に、前記プレートと前記積
層鉄心が載置された別の前記搬送治具を載置して、複数個の前記搬送治具を互いに積層し
て、前記搬送治具の積層体を形成するために用いる、
プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層鉄心の製造方法、及び該製造方法に使用するプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
積層鉄心の製造過程には熱処理が含まれる。熱処理とは、加熱又は冷却によって、被処理物の性質を変化させる処理の総称である。熱処理には、例えば、焼入れ、焼き戻し、焼き鈍し、焼きならし、油焼き、黒化処理等が包含される。多数の被処理物を搬送治具に載置して、熱処理炉に搬入して、熱処理を行い、その後に搬出し、あるいは次工程に搬送することも、よく知られている(例えば、特許文献1)。搬送治具は、トレイあるいはパレットとも呼ばれ、被処理物が均等に加熱・冷却されるように、格子状に構成されるのが一般的である(例えば、特許文献1,2,3)。
【0003】
さて、例えば、電動機や発電機の電機子鉄心のような積層鉄心に対しても、その製造工程において各種の熱処理が施される。例えば、油焼き、焼き鈍し、黒化処理などが施される。油焼きは、加工工程で素板の表面に付着したスタンピングオイル等の油分を蒸発させて除去する処理である。焼き鈍しは、焼鈍とも呼ばれ、素板の歪みや内部応力を除去する処理である(例えば、特許文献4)。黒化処理は、ブルーイングとも呼ばれ、防錆のために、素板の表面に四酸化三鉄(Fe)の被膜(いわゆる黒さび)を生成する処理である。油焼き、焼き鈍し、黒化処理は連続して施されることもある。例えば、特許文献5の図1には、脱油炉2、焼鈍炉3、ブルーイング炉4を送路1で結んで、被処理物を各炉に搬入及び搬出する連続焼鈍・ブルーイング装置が開示されている。また、これらの処理の間に冷却工程が挿入されることもある(例えば、特許文献5、図1の空冷機構50)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−113421号公報
【特許文献2】特開2008−38194号公報
【特許文献3】特開2009−249649号公報
【特許文献4】特開平11−332183号公報
【特許文献5】特公平7−42508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、一般に、搬送治具は格子状に構成されている。このような搬送治具に被処理物(例えば、積層鉄心)を載置すると、被処理物が搬送治具から受ける支持反力は、搬送治具の格子と当接する部位に集中する。積層鉄心のような被処理物は、一般に変形しにくい物体と考えられるが、このような物体であっても高温下においては素材が軟化するので変形しやすい。そのため、従来の搬送治具を使用して熱処理を行うと、その過程で被処理物が変形しやすいという問題がある。
【0006】
また、従来の搬送治具には被処理物のずれを拘束する手段がないので、搬送中あるいは処理中に被処理物が搬送治具上でずれて、被処理物が搬送治具に擦られることがある。そのため、従来の搬送治具を使用して熱処理を行うと、被処理物に擦り傷が生じるという問題もある。また、搬送治具の表面に錆や汚れがあった場合に錆や汚れが被処理物に転写されるという問題もある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、熱処理の過程や搬送過程において積層鉄心に変形が生じ難く、積層鉄心の表面に傷や汚れが生じ難い積層鉄心の製造方法を提供することを目的とする。また、積層鉄心の製造方法に使用するプレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点に係る積層鉄心の製造方法は、搬送治具上にプレートを載置して、更にプレートの上に積層鉄心を載置して、積層鉄心をプレートに面支持させる載置工程と、プレートと積層鉄心が載置された搬送治具の上に、プレートと積層鉄心が載置された別の搬送治具を載置して、複数個の搬送治具を互いに積層して、搬送治具の積層体を形成して、搬送治具の積層体を熱処理炉に搬入して、積層鉄心を加熱又は冷却する熱処理工程と、を含むものである。
【0009】
積層鉄心の製造方法は、搬送治具から突出する支持部をプレートに設けられた貫通穴に嵌挿させ、搬送治具上にプレートを載置して、更にプレートの上に積層鉄心を載置して、積層鉄心をプレートに面支持させる載置工程と、搬送治具を熱処理炉に搬入して、積層鉄心を加熱又は冷却する熱処理工程と、を含むものであっても良い。
【0010】
本発明の第2の観点に係るプレートは、積層鉄心が載置されて、積層鉄心を面支持するとともに、積層鉄心を熱処理炉に搬送する搬送治具に載置されるプレートであって、プレートと積層鉄心が載置された搬送治具の上に、プレートと積層鉄心が載置された別の搬送治具を載置して、複数個の搬送治具を互いに積層して、搬送治具の積層体を形成するために用いる、プレートである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、積層鉄心がプレートに面支持されるので、積層鉄心が受ける支持反力が積層鉄心の全体に分散される。そのため、熱処理中に変形が生じ難くなる。また、積層鉄心が搬送治具に直接接触しないので、搬送治具との接触に起因する損傷や汚損が積層鉄心物に生じ難くなる。その結果、積層鉄心の品質が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る熱処理装置の構成を示す概念的な断面図である。
図2図1に記載の熱処理装置において使用される搬送治具の外形図であり、(a)は平面図であり、(b)は立面図である。
図3図2に記載の搬送治具に載置されるプレートの外形図であり、(a)は平面図であり、(b)は立面図である。
図4図3に記載のプレートとプレートに載置される積層鉄心の内外径を説明する説明図である。
図5図3に記載のプレートを図2に記載の搬送治具に載置した状態を示す平面図である。
図6図2に記載の搬送治具を6段積した状態を示す立面図である。
図7】変形例に係るプレートの外形図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)のA−A’線で切断した断面図である。
図8】別の変形例に係るプレートと積層鉄心の形状を比較する平面図であり、(a)は積層鉄心が内径側においてプレートに対してオーバーハングする例、(b)は積層鉄心が外径側においてプレートに対してオーバーハングする例を、それぞれ示す。
図9】さらに別の変形例に係るプレートの構成を示す説明図であり、図7(b)に準じた断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る熱処理方法と、該方法に使用するプレートについて図面を参照しながら詳細に説明する。なお、ここでは、熱処理の具体例として、油焼き、焼き鈍し、黒化処理及び冷却を例示する。被処理物の具体例として、積層鉄心を例示する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る熱処理を行う熱処理装置1の構成を示す概念的な断面図である。熱処理装置1は、搬入部2に搬入された積層鉄心3に対して、後述する各種の熱処理を行って、搬出部4に搬出する連続式熱処理装置である。
【0015】
積層鉄心3は、回転電動機の電機子を構成する鉄心である。積層鉄心3は、図示しない別工程において、いわゆる電磁鋼板の薄板をプレス機で打ち抜いて形成された複数の素板を積層し、カシメ加工等によって結合して構成される。積層鉄心3は、図示しない前工程において、搬送治具6に載置されるが、その前に、搬送治具6の上にプレート5が載置され、その後、プレート5の上に積層鉄心3が載置される。積層鉄心3はこの状態で、つまり搬送治具6の上に載置されたプレート5の上に載置された状態で搬入部2に搬入される。そして、積層鉄心3は、後述するような各種の熱処理炉等の中を通って、搬出部4に搬出される。なお、プレート5と搬送治具6の詳細な構成については後述する。
【0016】
熱処理装置1は、積層鉄心3(が載置されたプレート5と搬送治具6)を搬入部2から搬出部4まで搬送する搬送装置7を備えている。また、搬入部2と搬出部4の間には、脱油炉8、焼鈍炉9、第1冷却部10、ブルーイング炉11、及び第2冷却部12が直列に配置されている。また、脱油炉8の入り口、第2冷却部12の出口、及び、脱油炉8〜第2冷却部12の間の境界には、シャッタ13(13a〜13f)が配置されている。
【0017】
搬送装置7は、搬出部4に配置された駆動スプロケットホイール7aと、搬入部2に配置された従動スプロケットホイール7bを備える。駆動スプロケットホイール7aと従動スプロケットホイール7bの間には、図示しない無端チェーンが巻き回されていて、無端チェーンには多数のスラット7cが無端チェーンの移動方向に配列されて、取り付けられている。なお、駆動スプロケットホイール7aは図示しない回転電動機で駆動される。
【0018】
脱油炉8は、打ち抜き工程において積層鉄心3を構成する素板に付着した油分を蒸発させる熱処理炉、つまり、積層鉄心3にいわゆる「油焼き」を施す熱処理炉である。脱油炉8の内部には、積層鉄心3を脱油温度(300〜400℃近傍)まで昇温させるヒータ8aが配設されている。また、脱油炉8の前後端には、排出筒8b,8cが配設されていて、ヒータ8aで加熱されて蒸発した油分は排出筒8b,8cを通って、外部に排出される。なお、脱油炉8は搬入部2に隣接して配置されていて、脱油炉8と搬入部2の間にはシャッタ13aが配置されている。
【0019】
焼鈍炉9は、積層鉄心3を加熱して焼き鈍す熱処理炉である。焼鈍炉9の内部には、積層鉄心3を焼鈍温度(例えば800℃近傍)まで上昇させて保持するヒータ9aが配設されている。なお、焼鈍炉9は、脱油炉8の先に配置されていて、焼鈍炉9と脱油炉8の間にはシャッタ13bが配置されている。
【0020】
第1冷却部10は、焼鈍が終了した積層鉄心3をブルーイングの開始に適した温度まで冷却する区画である。第1冷却部10には、外部から冷却空気を取り入れる吸気筒10aと、積層鉄心3から吸熱して昇温した冷却空気を外部に排出する排気筒10bが配設されている。なお、第1冷却部10は、焼鈍炉9の先に配置されていて、焼鈍炉9と第1冷却部10の間にはシャッタ13cが配置されている。
【0021】
ブルーイング炉11は、積層鉄心3の表面に四酸化三鉄(Fe)の被膜を生成する熱処理炉である。ブルーイング炉11の内部には、炉内の雰囲気を被膜の生成に適した時間−温度曲線で降温させるヒータ11aと、不活性ガス(窒素ガス)と水蒸気を吹き込むガス供給ノズル11bが配設されている。なお、ブルーイング炉11は、第1冷却部10の先に配置されていて、ブルーイング炉11と第1冷却部10の間にはシャッタ13dが配置されている。
【0022】
第2冷却部12は、ブルーイングが終了した積層鉄心3を常温まで冷却する区画である。第2冷却部12には、外部から冷却空気を取り入れる吸気筒12aと、積層鉄心3から吸熱して昇温した冷却空気を外部に排出する排気筒12bが配設されている。なお、第2冷却部12は、ブルーイング炉11の先に配置されていて、第2冷却部12とブルーイング炉11の間には、シャッタ13eが配置されている。また、第2冷却部12の先には搬出部4が配置されていて、第2冷却部12と搬出部4の間にはシャッタ13fが配置されている。
【0023】
シャッタ13(13a〜13f)は、各区画(脱油炉8〜第2冷却部12)の内部の雰囲気の他の区画への流入、及び外部への流出を防ぐ装置である。シャッタ13は本体(遮蔽板)と、遮蔽板を昇降させる図示しないアクチュエータ(例えば、エアシリンダ)を備える。なお、図1においては、脱油炉8の入り口に配置されたシャッタ13aについては、遮蔽板が上昇した状態、つまり脱油炉8の入り口が開放された状態を示している。その他のシャッタ13b〜13fについては遮蔽板が下降した状態、つまり各区画の境界が閉鎖された状態を示している。
【0024】
熱処理装置1は、図示しないコンピュータを備える制御装置14によって制御される。制御装置14は、コンピュータに記憶されたプログラムを実行して、搬送装置7を制御する。例えば、制御装置14は、コンピュータに記憶されたプログラムを実行して、シャッタ13(13a〜13f)を開閉させ、脱油炉8、焼鈍炉9及びブルーイング炉11を動作させ、第1冷却部10及び第2冷却部12に供給される冷却空気の流量を調整する。
【0025】
熱処理装置1は、概ね、以下のようなシーケンスで運転される。まず、操作員が、例えば図示しないホイストを使って、あるいはロボットが、積層鉄心3とプレート5が載置された搬送治具6を搬入部2に搬入する。搬入が完了すると、操作員は図示しない起動スイッチをONにする。起動スイッチがONにされると、制御装置14は脱油炉8の入り口に配置されたシャッタ13aに指令して、脱油炉8の入り口を開放させ、搬送装置7に指令して、積層鉄心3とプレート5が載置された搬送治具6を脱油炉8の内部に移送する。その後、制御装置14はシャッタ13aに指令して、脱油炉8の入り口を閉鎖させ、脱油炉8に指令して、ヒータ8aを動作させ、搬送治具6に載置された積層鉄心3に付着した油分を除去する。つまり積層鉄心3に「油焼き」を施す。「油焼き」が完了したら、制御装置14は脱油炉8と焼鈍炉9の境界に配置されたシャッタ13bと搬送装置7に指令して、積層鉄心3とプレート5が載置された搬送治具6を焼鈍炉9の内部に移送させる。そして、シャッタ13bに指令して焼鈍炉9の入り口を閉鎖させ、焼鈍炉9に指令して、ヒータ9aを動作させ、積層鉄心3に「焼き鈍し」を施す。以後、同様にして、各区画での処理が終わる度に、積層鉄心3とプレート5が載置された搬送治具6を次の区画に移送して、次の処理を施す。全ての処理が終わったら、積層鉄心3とプレート5が載置された搬送治具6は搬出部4に移送される。
【0026】
次に、熱処理装置1において使用される搬送治具6の詳細な構造について説明する。搬送治具6は耐熱鋳鋼で構成されていて、図2(a)に示すように、搬送治具6は、平面形における輪郭を構成する外枠6aと、両端を外枠6aに支持された複数の斜め桟6bを備えている。複数の斜め桟6bは互いに交差していて、全体として菱形の格子を形成している。斜め桟6bの交点には、全部で13個の支持筒6cが、図2(b)に示すように立設されている。各支持筒6cの周囲には、環状桟6dが支持筒6cと同心に配置されている。また、外枠6aの四隅には、隅柱6eが形成されている。
【0027】
なお、斜め桟6bと環状桟6dは、上面が同一高さになるように仕上げられている。つまり、全ての斜め桟6bと環状桟6dが上面において、同一平面を形成するように仕上げられている。また、図2(b)に示すように、支持筒6cと隅柱6eは、上面が同一高さになるように仕上げられている。
【0028】
次に、プレート5の詳細な構成を説明する。プレート5は例えば厚さ5mm程度のステンレス鋼の平板から切り出されて構成され、図3(a)に示すような平面形を有する。すなわち、プレート5は直径約250mmの円板であって、円板の中心に直径130mmの中心穴5aが穿設されている。中心穴5aの周囲には、4個の扇形の透穴5bが穿設されていて、平面形において十字形をなすように配置されている。また、図3(a)および図3(b)に示すように、プレート5の上面と下面には、それぞれ3個のピン5cが突設されている。なお、ピン5cの直径は約8mmであり、高さは、約10mmである。
【0029】
プレート5に穿設された4個の透穴5bは、熱処理装置1による熱処理の各工程において、雰囲気の流れを促進する通気穴として機能する。また、プレート5を搬送治具6以外の物品に載置する場合、あるいは、複数のプレート5を積み上げて仮置きする場合に、ピン5cは、プレート5を他の物品あるいは他のプレート5に対して離隔するスペーサとしても機能する。つまり、プレート5はピン5cを備えるので、プレート5を他の物品等の上に置いたり、複数のプレート5を積み上げて仮置きしたりする場合に、プレート5の表面が他の物品等に接触することがない。そのため、プレート5の表面に傷が付いたり、汚れが付着することが少ない。つまり、プレート5の傷損や汚損が抑制される。
【0030】
図3(a)および図3(b)においては、プレート5に載置される積層鉄心3の輪郭を
想像線(1点鎖線)で表示している。これから明らかなように、積層鉄心3は、その下面
の全てにおいてプレート5に面接触している。すなわち、プレート5は積層鉄心3が、そ
の下面の全てにおいて面接触するような、形状と寸法を有している。
【0031】
図4に示すように、プレート5の外径D1は積層鉄心3の外径d1よりも大きく、プレート5の内径D2は積層鉄心3の内径d2よりも小さくなるように構成されている。なお、プレート5の内径D2とは、プレート5に穿設された透穴5bの外縁を形成する円弧の直径である。プレート5の外径D1と内径D2は、このような条件を満足しているので、積層鉄心3の平面形はプレート5の平面形に包含され、積層鉄心3の下面の全てをプレート5に面接触させることができる。なお、本明細書において「面接触」及び「面支持」は、「実用上、面接触と見なすことができる状態」及び「実用上、面支持と見なすことができる状態」を指す。例えば、積層鉄心3の下面に実用上許容される微小な歪みがあって、積層鉄心3の下面の一部がプレート5に接触しなかったとしても、「実用上、面接触と見なすことができる状態」に相当する。
【0032】
また、プレート5の上面に立設された3本のピン5cは、積層鉄心3の外周の輪郭と接するように配置されている。つまり、3本のピン5cは、直径d1(=積層鉄心3の外径)の円に外接する位置に配置されている。そのため、積層鉄心3の外周の輪郭が3本のピン5cの全てと接するように積層鉄心3をプレート5に載置すれば、積層鉄心3はプレート5に対して位置決めされる。このように、プレート5の上面に立設された3本のピン5cは、本発明の被処理物位置決め部として、さらにはプレート5からの被処理物の落下防止部として機能するように配置されている。もっとも、実際には3本のピン5cと直径d1の円との間には、いわゆる「遊び」に相当する微小な隙間が存在する。「遊び」がなければ、積層鉄心3の着脱ができないからである。つまり、本明細書においては「外接」は、「実用上、外接していると見なすことができる状態」を指している。なお、ピン5cによる位置決めの基準となる積層鉄心3の部位は、上記の外周輪郭には限定されない。スロットやボルト用耳穴、磁石挿入穴や軽量化穴など積層鉄心3の任意の部位を基準にして位置決めすることができる。
【0033】
前述したように、搬送治具6の支持筒6cはプレート5と嵌合されるが、このとき、支持筒6cはプレート5の中心穴5aに嵌挿される。プレート5は、中心穴5aに、搬送治具6の支持筒6cを嵌挿させることによって、搬送治具6に対して位置決めされる。このように、中心穴5aは、本発明のプレート位置決め部として機能する。
【0034】
プレート5は搬送治具6に対して図5に示すように載置される。すなわち、搬送治具6には13枚のプレート5が載置される。前述したように、プレート5は、中心穴5aに搬送治具6の支持筒6cを嵌挿させることによって、搬送治具6に対して位置決めされているので、この状態において、プレート5が搬送治具6に対して位置ずれすることがない。なお、図5に示すように、プレート5の下面に立設された3本のピン5cの内、2本は斜め桟6bに当接して、プレート5の搬送治具6に対する回り止めとして機能する。また、プレート5は、斜め桟6bと環状桟6dに当接して、支持されるので、プレート5は搬送治具6に対して安定している。つまり、搬送治具6に載置されたプレート5が傾くことがなく、さらには搬送治具6からプレート5が落下することがない。
【0035】
このように、搬送治具6の上にはプレート5が載置され、プレート5の上に積層鉄心3
が載置される。積層鉄心3は、この状態で熱処理装置1の搬入部2に搬入されて、熱処理
される。そのため、次のような効果が生じる。
【0036】
(1)積層鉄心3はプレート5に面接触するので、積層鉄心3が受ける支持反力は、積層鉄心3の下面全体に分散する。つまり、積層鉄心3には集中荷重が生じないから、熱処理過程における積層鉄心3の変形が抑制される。そのため、変形の修正等に要する工数を削減して、生産性を向上させることができる。
【0037】
(2)プレート5は、中心穴5aに、搬送治具6の支持筒6cが嵌挿され、また、プレート5の下面に立設されたピン5cが斜め桟6bに当接して回り止めとして機能するので、プレート5は搬送治具6に対して大きく動くことがない。また、積層鉄心3はその外周の輪郭が、プレート5の上面に立設された3本のピン5cに接するので、積層鉄心3はプレート5に対して大きく動くことがない。そのため、搬送中及び熱処理中に積層鉄心3が、プレート5及び搬送治具6に対して大きく動くことがないから、積層鉄心3に擦り傷が生じることを抑制できる。
【0038】
(3)プレート5の表面を洗浄あるいは研磨することによって、プレート5の表面の状態を良好に保てば、搬送中及び熱処理中における積層鉄心3の汚損を防止又は抑制できる。また、プレート5の洗浄・研磨は、搬送治具6全体の洗浄・研磨に比べて、容易なので、工数を削減できる。
【0039】
(変形例)
上記実施形態において、プレート5及び積層鉄心3が載置された搬送治具6を1台ずつ、熱処理装置1に搬入して、積層鉄心3に熱処理を施す例を示したが、本発明にかかる熱処理方法は、このようなものには限定されない。図6に示すように、6台の搬送治具6を積層して、つまり6段積みして、まとめて、熱処理装置1の搬入部2に搬入するにしても良い。なお、搬送治具6は隅柱6eを備えていて、隅柱6eの上面は搬送治具6に載置された積層鉄心3より高くなるように構成されているので、搬送治具6を段積みしても、積層鉄心3が上層に置かれた搬送治具6と干渉することはない。なお図6において、ベース15は6段積みされた搬送治具6を保持する架台である。
【0040】
上記実施形態においては、プレート5の中心穴5aに、搬送治具6の支持筒6cを嵌挿させることによって、プレート5を搬送治具6に対して位置決めすることを例示した。つまり、中心穴5aをプレート位置決め部とすることを例示したが、プレート位置決め部は、これには限定されない。また、プレート5の上面に立設されたピン5cで積層鉄心3をプレート5に対して位置決めすることを例示した。つまり、プレート5の上面に立設されたピン5cを被処理物位置決め部とすることを例示したが、被処理物位置決め部は、これには限定されない。例えば、図7(a)及び図7(b)に示すように、プレート5の下面において、4組のピン5cのペアを立設して、ピン5cのペアで搬送治具6の斜め桟6bを挟持することによって、プレート5を搬送治具6に対して位置決めするようにしても良い。つまり、プレート5の下面に立設された4組のピン5cのペアをプレート位置決め部としても良い。また、プレート5の上面にピン5cを立設する代わりに、プレート5の上面に積層鉄心3が嵌合する凹部5dを形成して、凹部5dに積層鉄心3を嵌合させることによって、積層鉄心3がプレート5に対して位置決めされるようにしても良い。つまり、凹部5dを被処理物位置決め部としても良い。
【0041】
なお、プレート5を図7に示すように構成すれば、搬送治具6の支持筒6cが不要になる。またプレート5において、中心穴5aの寸法を拡大することができる。そのため、熱処理炉等における雰囲気の流れが促進され、熱処理の能率あるいは品質が向上する。また、プレート5の上面にピン5cを立設する代わりに凹部5dを形成したので、プレート5の上面には突起物が存在しない。そのため、プレート5の上面の洗浄等が容易になる。
【0042】
また、上記実施形態においては、積層鉄心3の下面の全てがプレート5に当接する例を示したが、積層鉄心3は全体としてプレート5に面接触していれば十分であり、積層鉄心3の一部がプレート5から離れていても良い。積層鉄心3の下面の概ね70%以上がプレート5に面接触していれば十分である。なお前述したように「面接触」とは「実用上、面接触していると見なせる状態」を言う。例えば、図8(a)に示すように、プレート5の中心穴5aの直径を積層鉄心3の内径より大きくして、積層鉄心3が内径側において、プレート5に対してオーバーハングするようにしても良い。また、図8(b)に示すように、プレート5の外径を積層鉄心3の外径より小さくして、積層鉄心3が外径側において、プレート5に対してオーバーハングするようにしても良い。
【0043】
また、プレート5に付加的な構成を追加することは任意である。例えば図9に示すように、プレート5の積層鉄心3と当接する表面(ここでは、凹部5dの底面)の一部を掘り下げて、小凹部5eを形成しても良い。この小凹部5eは、積層鉄心3の下面に小凸部(例えば、カシメ加工で形成された突起部)を収容するレセスとして機能する。
【0044】
以上、本発明の各実施形態と変形例を説明したが、これらは、この発明の具体的実施態様を例示するものであって、この発明の技術的範囲を画すものではない。この発明は特許請求の範囲に記述された技術的思想の限りにおいて、自由に変形、応用あるいは改良して実施することができる。
【0045】
例えば、上記実施形態の説明においては、熱処理の対象である被処理物として、積層鉄心3を例示したが、本発明に係る熱処理の対象は積層鉄心3には限定されない。さまざまな被処理物に対して本発明を適用することができる。
【0046】
また、上記実施形態においては、いわゆるドーナッツ形の平面形を有する積層鉄心3を例示したが、本発明に係る被処理物の形状は、これには限定されない。被処理物の形状は、矩形であっても良いし、その他の形状であっても良い。例えば、回転電機の固定子鉄心であって、平面形において略矩形をなすものがあるし、変圧器の鉄心は一般に平面形において略矩形をなしている。このような被処理物に対しても本発明を適用することができる。
【0047】
上記実施形態におけるプレート5の形状も例示であって、本発明に係るプレートの形状は、これには限定されない。プレートの形状は主として被処理物の形状に従って選択されるので、本発明の実施に当たっては、形状の異なるさまざまなプレートが使用される。
【0048】
上記実施形態における搬送治具6の形状も例示であって、本発明に係る搬送治具の形状は、これには限定されない。本発明の実施に当たっては、形状の異なるさまざまな搬送治具が使用される。また、搬送治具の形状が異なれば、プレート5の形状も当然に変更される。
【0049】
また、プレート及び搬送治具の素材や構造は、上記実施形態において例示されたものには限定されない。例えば、被処理物の物理的化学的性質、あるいは、熱処理の種類、あるいは温度条件に応じて、様々な素材や構造を選択することができる。
【0050】
また、上記実施形態においては、熱処理装置として連続式熱処理装置を例示したが、本発明はバッチ式熱処理装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 熱処理装置
2 搬入部
3 積層鉄心
4 搬出部
5 プレート
5a 中心穴
5b 透穴
5c ピン
5d 凹部
5e 小凹部
6 搬送治具
6a 外枠
6b 斜め桟
6c 支持筒
6d 環状桟
6e 隅柱
7 搬送装置
7a 駆動スプロケットホイール
7b 従動スプロケットホイール
7c スラット
8 脱油炉
8a ヒータ
8b 排出筒
8c 排出筒
9 焼鈍炉
9a ヒータ
10 第1冷却部
10a 吸気筒
10b 排気筒
11 ブルーイング炉
11a ヒータ
11b ガス供給ノズル
12 第2冷却部
12a 吸気筒
12b 排気筒
13(13a〜13f) シャッタ
14 制御装置
15 ベース
D1 プレートの外径
D2 プレートの内径
d1 積層鉄心の外径
d2 積層鉄心の内径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9