【実施例】
【0018】
実施例に係る摺動部品につき、
図1および
図2を参照して説明する。尚、メカニカルシールを構成する摺動部品の外周側を被密封流体側、内周側を大気側として説明する。
【0019】
図1に示される自動車空調用コンプレッサのメカニカルシールは、摺動面の外周側から内周側に向かって漏れようとする被密封流体である二酸化炭素ガスを密封するインサイド形のものであって、自動車空調用コンプレッサの回転軸1側にホルダ2を介して回転軸1と一体的に回転可能かつ軸方向移動可能な状態で設けられた円環状のシールリング10(摺動部品,回転密封環)と、自動車空調用コンプレッサのハウジング4に固定されたガスケット5に非回転状態で設けられた円環状のメイティングリング20(摺動部品,固定密封環)と、から主に構成され、ホルダ2内に保持されるコイルスプリング7によって押圧部材3を介してシールリング10が軸方向に付勢されることにより、ラッピング等により鏡面仕上げされたシールリング10の摺動面11(一方の摺動面)とメイティングリング20の摺動面21(他方の摺動面)とが互いに密接摺動するようになっている。尚、本実施例における二酸化炭素ガスの使用圧力は、1〜10MPa absに設定されることが好ましい。
【0020】
シールリング10およびメイティングリング20は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、これに限らず、摺動材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば適用可能である。尚、SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボン等を焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC−TiC、SiC−TiN等があり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン等が利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料等も適用可能である。
【0021】
図1に示されるように、シールリング10は、外周側に切り欠き状の挿入部10aが形成され、この挿入部10aに回転軸1に固定される円環状のホルダ2から軸方向に延びるドライブプレート2aが挿入されることにより、回転軸1と一体的に回転可能となっている。また、シールリング10は、内周側に挿嵌凹部10bが形成され、この挿嵌凹部10bにOリング8が挿嵌されることにより、シールリング10の内周面と回転軸1の外周面との間における被密封流体の漏れが防止されている。
【0022】
図2に示されるように、シールリング10は、軸方向一端に軸方向から見た正面視において環状の摺動面11を有している。摺動面11は、平坦面であって、円周方向に複数のディンプル12が全周に亘って形成されている。尚、摺動面11の平坦部分は、ディンプル12に対してランド部とも言える。
【0023】
ディンプル12は、軸方向から見た正面視において円形状に形成されている。尚、説明の便宜上、図示を省略するが、ディンプル12全体の形状は、円柱状、円錐状、半球形状、半回転楕円体形状等に適宜形成されてよい。
【0024】
また、ディンプル12は、摺動面11の全面において、径方向に沿って一定のピッチで等間隔に整列して配置された複数(全16個)のディンプル12からなる第1のディンプル列120Aと、第1のディンプル列120Aを構成するディンプル12とは径方向に半ピッチずれた異なる位置で径方向に沿って等間隔に整列してそれぞれ配置された複数(全15個)のディンプル12からなる第2のディンプル列120Bとが周方向にこの順に複数配置されている。すなわち、ディンプル12は、摺動面11の全面に千鳥配置されている。尚、摺動面11の全面とは、摺動面21との実質的に摺動する領域のことを示している。さらに尚、本実施例のディンプル12は、レーザ加工により形成されているが、これに限らず、他の方法で形成されてもよい。
【0025】
また、ディンプル12は、摺動面11内のみに配置されている。すなわち、ディンプル12は、第1のディンプル列120Aおよび第2のディンプル列120Bにおいて摺動面11の外径側および内径側に配置されるものにおいても、その一部が欠けることなく全形を保持した状態で形成されている。
【0026】
また、ディンプル12は、最外径部分および最内径部分を除く摺動面11内において、摺動面11(シールリング10)の軸心に対する全ての同心円上に第1のディンプル列120Aおよび第2のディンプル列120Bの中の少なくとも1つディンプル12が配置されている。尚、周方向に隣り合って配置される第1のディンプル列120Aのディンプル12および第2のディンプル列120Bのディンプル12が共に同心円上に配置されていることが好ましい。
【0027】
また、ディンプル12の摺動面11に対する開口面積率は、3〜40%、好ましくは10〜30%に設定されている。尚、本実施例におけるディンプル12の摺動面11に対する開口面積率とは、シールリング10の摺動面11の面積(平坦部分とディンプル12の開口部分の総和面積)に対する個々のディンプル12の開口部分の総面積の割合のことである。
【0028】
さらに、ディンプル12の開口径は、10〜150μmの範囲に設定され、ディンプル12の軸方向の深さは、1〜50μmの範囲に設定されている。
【0029】
図1に示されるように、メイティングリング20は、ハウジング4の取付部4aに固定されたガスケット5の挿嵌段部5aに挿嵌されることにより非回転状態で固定される。このとき、ガスケット5の外周面がハウジング4の取付部4aの内周面に対して押し付けられることにより、ガスケット5の外周面とハウジング4の取付部4aの内周面との間における被密封流体の漏れが防止されている。尚、ガスケット5は、内部に断面視L字状の保持環6がインサート成形されることにより形成されている。さらに尚、ガスケット5は、弾性体からなるものであれば、素材はゴムに限らず樹脂等であってもよい。
【0030】
また、メイティングリング20は、シールリング10の摺動面11と軸方向に対向する環状の対向面を有し、対向面の一部がシールリング10の摺動面11と摺動する摺動面21を構成している。摺動面21は、平坦面として形成されている。尚、摺動面21は、平坦面として形成されるものに限らず、シールリング10の摺動面11とは異なる配置で複数のディンプルが形成されてもよい。
【0031】
また、メイティングリング20の対向面の径方向の長さは、シールリング10の摺動面11の径方向の長さよりも長く形成されている(
図1参照)。
【0032】
また、説明の便宜上、図示を省略するが、シールリング10の摺動面11およびメイティングリング20の対向面は、僅かに中高(中凸)の曲面、詳しくは、曲率半径がきわめて大きい凸球面として形成され、シールリング10とメイティングリング20との間における中高量(シールリング10の摺動面11とメイティングリング20の対向面の各最外径側と最内径側との間における軸方向の寸法差)は、0.05〜0.15μmの範囲に設定されている。尚、シールリング10とメイティングリング20との間における中高量を0.05μm以下に構成した場合、被密封流体の漏れが少なくなりすぎるため、潤滑性が低下して焼き付き不具合が発生する虞がある。
【0033】
次いで、摺動面11,21間における動圧発生について説明する。シールリング10とメイティングリング20とが相対回転すると、摺動時において複数のディンプル12の作用によって動圧が発生することにより、摺動面11,21間に冷媒である二酸化炭素ガスや冷媒とともに使用される潤滑油による流体膜が形成され、被密封流体を軸封できるようになっている。
【0034】
このとき、シールリング10の摺動面11の全面には、径方向に沿って等間隔に整列して配置された複数のディンプル12からなる第1のディンプル列120Aと、第1のディンプル列120Aのディンプル12とは径方向に異なる位置で径方向に沿ってそれぞれ等間隔に整列して配置された複数のディンプル12からなる第2のディンプル列120Bとが周方向にこの順に複数配置されている。また、メイティングリング20の摺動面21は、平坦面として形成されている。
【0035】
これによれば、開口径、深さ、開口面積率が好適に設定されたディンプル12がシールリング10の摺動面11の全面に径方向に整列して千鳥配置されることにより、シールリング10とメイティングリング20とが相対回転することで、摺動時においてディンプル12による流体膜の形成作用が摺動面11,21間に亘って均等になるため、潤滑性と安定性が高く、高圧の二酸化炭素ガスの漏れが少なくかつ低トルクの摺動部品を得ることができる。さらに、低トルクとなることにより、摺動面11、21の面荒れを抑えることができる。
【0036】
また、ディンプル12は、摺動面11内のみに配置されているため、摺動時において摺動面11に形成される全てのディンプル12がさらに流体膜の形成作用を発揮することができ、潤滑性と安定性をより高めることができる。
【0037】
また、ディンプル12は、軸方向から見た正面視において円形状に形成されているため、ディンプル12において発生する圧力(動圧)を滑らかに立ち上がらせることができる。
【0038】
また、シールリング10とメイティングリング20との間における中高量は、0.05〜0.15μmの範囲に設定されているため、摺動時においてさらに流体膜の形成作用を発揮することができ、潤滑性と安定性をより高めることができる。
【0039】
また、ディンプル12は、最外径部分および最内径部分を除く摺動面11内において、摺動面11(シールリング10)の軸心に対する全ての同心円上に第1のディンプル列120Aおよび第2のディンプル列120Bの中の少なくとも1つディンプルが配置されているため、摺動時において摺動方向に周方向に複数配置される第1のディンプル列120Aおよび第2のディンプル列120Bの中の少なくとも1つディンプル12が摺動面11の摺動方向に配置されることにより、摺動時において流体膜の形成作用がより均等になるため、潤滑性と安定性をより高めることができる。
【0040】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではない。
【0041】
例えば、前記実施例では、摺動部品が適用されるメカニカルシールは、インサイド形のものとして説明したが、アウトサイド形のものであってもよい。
【0042】
また、前記実施例では、ディンプル12は、シールリング10の摺動面11のみに設ける例について説明したが、ディンプル12は、メイティングリング20の摺動面21のみに設けられていてもよく、この場合、シールリング10の摺動面11は、平坦面またはメイティングリング20の摺動面21とは異なる配置のディンプルが配置されることが好ましい。
【0043】
また、前記実施例では、第1のディンプル列120Aは、径方向に沿って等間隔に整列した16個のディンプル12から構成され、第2のディンプル列120Bは、径方向に沿って等間隔に整列した15個のディンプル12から構成されるものとして説明したが、これに限らず、第1のディンプル列および第2のディンプル列をそれぞれ構成するディンプル12の数や間隔は、使用環境等に応じて適宜設定されてよい。尚、ディンプル12は、第1のディンプル列および第2のディンプル列により、摺動面の全面において均等に配置されることが好ましい。
【0044】
また、第1のディンプル列および第2のディンプル列を構成する複数のディンプル12は、径方向に沿って直線状に整列するものに限らず、摺動面の全面において均等に配置されるものであれば、径方向に沿ってスパイラル状に整列していてもよい。
【0045】
また、第1のディンプル列のディンプルおよび第2のディンプル列のディンプルとは、径方向に異なる位置で径方向に沿ってそれぞれ配置された複数のディンプルからなる第3ディンプル列が配置されていてもよい。この場合、第1のディンプル列、第2のディンプル列および第3のディンプル列が周方向にこの順に複数配置される。尚、ディンプル列は4列以上に構成されてもよい。
【0046】
また、前記実施例では、ディンプル12は、摺動面11内のみに配置され、摺動面11の最外径部分および最内径部分にディンプル12が配置されないものとして説明したが、これに限らず、摺動面11の最外径部分および最内径部分にディンプルが配置されているものであってもよく、この場合、最外径部分および最内径部分に配置されるディンプルは、その一部が欠けていてもよい。