(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-148565(P2019-148565A)
(43)【公開日】2019年9月5日
(54)【発明の名称】精液中のテストステロンの測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/74 20060101AFI20190809BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20190809BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20190809BHJP
C07K 16/26 20060101ALI20190809BHJP
【FI】
G01N33/74
G01N33/53 A
C12Q1/34
C07K16/26
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-35085(P2018-35085)
(22)【出願日】2018年2月28日
(71)【出願人】
【識別番号】517351628
【氏名又は名称】株式会社ダンテ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 陽介
(72)【発明者】
【氏名】永井 雅
(72)【発明者】
【氏名】萩原 啓太郎
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G045DA54
2G045FB01
2G045FB03
4B063QA01
4B063QQ03
4B063QQ35
4B063QR15
4B063QR24
4B063QS33
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA50
(57)【要約】 (修正有)
【課題】精液中のテストステロンの検出又は定量に適したテストステロンの検出方法を提供する。
【解決手段】精液由来検体中のテストステロンをスルファターゼ活性を有するβ−グルクロニダーゼを作用させて脱抱合する工程と、脱抱合したテストステロンを検出する工程と、を実施して、前記検体中のテストステロンを測定する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テストステロンの検出方法であって、
精液由来検体中のテストステロンを脱抱合する工程と、
脱抱合したテストステロンを検出する工程と、
を備える、方法。
【請求項2】
前記脱抱合工程は、前記検体にスルファターゼ活性を有するβ−グルクロニダーゼを作用させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検体に前記β−グルクロニダーゼを10時間以上25時間以下作用させる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記β−グルクロニダーゼは、軟体動物由来である、請求項2〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記β−グルクロニダーゼは、1000ユニット/100μl以上2000ユニット/100μl以下の濃度で作用させる、請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記β−グルクロニダーゼを10時間以上25時間以下、1000ユニット/100μl以上2000ユニット以下/100μlの濃度で作用させる、請求項2〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記β−グルクロニダーゼを、30℃以上42℃以下の温度で、pH4.5〜6.0で作用させる、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記脱抱合工程を、検体を採取から24時間以上72時間以内に開始する、請求項2〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記β−グルクロニダーゼの作用後の検体中の前記テストステロンを、抗原抗体反応で検出する、請求項2〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
精液中のテストステロンを検出するためのキットであって、
スルファターゼ活性を有するβ−グルクロニダーゼと、
抗テストステロン抗体と、
を備える、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、精液中のテストステロンの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テストステロンは、男性ホルモン(アンドロゲン)の一種であり、生殖に係わる性機能のほか、皮膚、骨、筋肉等における代謝維持機能も担っていると考えられている。
【0003】
生体におけるテストステロン濃度の測定は、血液(血漿を含む)や尿を検体として測定されている。テストステロンの多くは、グロブリンなどと結合して血中を循環し、また、硫酸又はグルクロン酸が結合して抱合体となって尿中に排出される。尿中におけるテストステロンの測定方法としては、液体クロマトグラフィー質量分析法(LCMS)が報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Christophe Saudan, et al., Journal of Chromatography B, 844 (2006) 168-174
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、精液中のテストステロンについては、どのような形態で存在するかは明らかではなかった。また、例えば、グルクロン酸の抱合体として存在するとしても、どのような脱抱合条件が好適であるかどうかも不明であるし、抱合程度に個人差がある可能性もある。テストステロンの存在形態は、精液中のテストステロン濃度の測定の正確性や精度に大きく影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
本明細書は、精液中のテストステロンの検出又は定量に適したテストステロンの検出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、精液由来の検体、すなわち、精液又は精漿を対象として、テストステロンの検出について種々に検討した。その結果、精液由来検体中のテストステロンを測定するためには、脱抱合することが有効であること及び好適な抱合体の脱抱合条件等に関する知見を得た。本明細書は、かかる知見に基づき、以下の手段を提供する。
【0008】
(1) テストステロンの検出方法であって、
精液由来検体中のテストステロンを脱抱合する工程と、
脱抱合したテストステロンを検出する工程と、
を備える、方法。
(2) 前記脱抱合工程は、前記検体にスルファターゼ活性を有するβ−グルクロニダーゼを作用させる、(1)に記載の方法。
(3) 前記検体に前記β−グルクロニダーゼを10時間以上25時間以下作用させる、(2)に記載の方法。
(4) 前記β−グルクロニダーゼは、軟体動物由来である、(2)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 前記β−グルクロニダーゼは、1000ユニット/100μl以上2000ユニット/100μl以下の濃度で作用させる、(2)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 前記β−グルクロニダーゼを10時間以上25時間以下、1000ユニット/100μl以上2000ユニット以下/100μlの濃度で作用させる、(2)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 前記β−グルクロニダーゼを、30℃以上42℃以下の温度で、pH4.5〜6.0で作用させる、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8) 前記脱抱合工程を、検体を採取から24時間以上72時間以内に開始する、(2)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9) 前記β−グルクロニダーゼの作用後の検体中の前記テストステロンを、抗原抗体反応で検出する、(2)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10) 精液中のテストステロンを検出するためのキットであって、
スルファターゼ活性を有するβ−グルクロニダーゼと、
抗テストステロン抗体と、
を備える、キット。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】検体に対する前処理の検討結果を示す図である。
【
図2】検体に対するβ−グルクロニダーゼの作用時間の検討結果を示す図である。
【
図3】検体に対するβ−グルクロニダーゼの作用時間の追加の検討結果を示す図である。
【
図4】検体に対するβ−グルクロニダーゼの作用濃度の検討結果を示す図である。
【
図5】検体に対する脱抱合工程を開示するまでの時間の検討結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書の開示は、精液由来検体中のテストステロンの検出方法及びキット等に関する。本明細書に開示される検出方法(以下、単に、本方法ともいう。)及び本明細書に開示されるキット(以下、本キットともいう。)によれば、精液中のテストステロンを確実に検出できるとともに、精度よくテストステロン濃度を予測ないし決定することができる。したがって、本検出方法及び本キットによれば、男性固有の検体としての精液由来検体中のテストステロン濃度を決定又はモニタリングして、有用な情報を提供することができる。かかる情報は、生殖機能、生殖機能的観点からの年齢(老化レベル)、筋肉等の代謝機能、代謝的観点からの年齢(老化レベル)の判断の補助情報となるほか、生活習慣に関する有用なアドバイス、食品、サプリメントに関する有用なアドバイス、薬剤等に関する有用なアドバイス、治療に関する有用なアドバイスを提供の補助情報となる。
【0011】
以下、本明細書に開示される方法やキットについて詳細に説明する。
【0012】
(精液中のテストステロンの検出方法)
本方法は、精液由来検体中のテストステロンを脱抱合する工程と、脱抱合したテストステロンを検出する工程と、を備えることができる。本方法は、病院等でなく自宅等で採取した精液を商業的な流通経路や収集ボックスなどを利用して収集することにより、本方法を実施する検査機関で検査する態様のほか、当該検査機関や病院等で採取した精液について、当該場所で検査する態様等での実施が可能である。特に、本方法は、採取の自由度や選択性が高く、医療従事者と対面することなく検体を提供できる実施態様にも有用である。
【0013】
本方法は、精液由来検体を用い、当該検体中のテストステロンを検出する。テストステロンは、アンドロゲンに属するステロイドホルモンの一種である。また、精液由来検体(以下、単に、検体ともいう。)とは、精液又は精漿とすることができる。精漿は、精液から精子を除いた残余成分である。精漿は、例えば、精嚢、前立腺などからの分泌液を含んでいる。精液は、従来、妊孕力等の評価するための対象としては着目されていなかったが、本発明者らが初めて精液由来検体の測定対象としての有用性を知得した。精液は、血液などに比べて、非侵襲的に取得できて、かつ、妊孕レベルに直接関連する精子を含有する。このため、検体中のテストステロン濃度は、妊孕レベルなどの男性固有の健康特性をより直接的に反映しうると考えられる。
【0014】
例えば、本発明者らによれば、検体中のテストステロン濃度は、提供者におけるテストステロンレベルを反映しているものと考えられる。したがって、男性機能(男性更年期障害、性機能不全等)の評価に有用である。検体中のテストステロン濃度は、提供者の年齢が増大するにつれて低下する傾向があることがわかった。このことから、検体中のテストステロンの濃度によれば、提供者の加齢レベル等を容易に評価することができる。
【0015】
また例えば、本発明者らによれば、検体中のテストステロン濃度が高いほど、全精子数(射精あたりの精液に含まれる全精子数)が高いことがわかっている。従来、精液中の精子などの運動性や形態等が妊孕能力と関連付けられてきていた。本発明者らによれば、検体中のテストステロン濃度は、加齢とともに減少し、同テストステロン濃度が増大すると、全精子数及び妊孕レベルが増大することがわかっている。したがって、精液由来検体中テストステロン濃度は、提供者の精子数、妊孕レベルの評価に有用である。
【0016】
本方法で用いる精液由来検体としては、精液であってもよいし、精漿であってもよい。本方法では、精子の併存下でも、テストステロンを検出し定量することができる。精漿を精液由来検体として用いる場合、精液から精子を除去して精漿を取得する。精漿は、精液を遠心分離した上清として、あるいは、精液を、精子を通過しないフィルターでろ過したろ液として取得することができる。したがって、精漿を用いる場合には、後述する脱抱合工程に先だって、精液から精子を除去して精漿を取得する工程を適宜実施することができる。
【0017】
(脱抱合工程)
本方法では、脱抱合工程を実施することができる。本発明者らによれば、精液中のテストステロンは、グルクロン酸により抱合されていることがわかった。したがって、グルクロン酸抱合体におけるテストステロンとグルクロン酸との結合を切断して、テストステロンを遊離させることで、確実にかつ正確にテストステロンを検出し定量することができる。
【0018】
脱抱合工程は、テストステロンのグルクロン酸抱合体を対象とすることができる。かかる脱抱合は、典型的には、β−グルクロニダーゼによる脱抱合を意図することができる。例えば、効果的に精液中のテストステロングルクロン酸抱合体を脱抱合するβ−グルクロニダーゼとして、スルファターゼ活性を有するβ−グルクロニダーゼを用いることができる。本発明者らによれば、精液中のテストステロンは硫酸抱合体の形態も採るからである。
【0019】
また、β−グルクロニダーゼは、ウシ、大腸菌、軟体動物など、種々の生物種から取得されている。本方法では、例えば、軟体動物由来のβ−グルクロニダーゼを用いることができる。また例えば、Helix pomaita(リンゴマイマイ)などのHelix属(カタツムリの1属である)に属する生物のβ−グルクロニダーゼを用いることができる。これらのβ−グルクロニダーゼの基質特異性(すなわち、スルファターゼ活性を有する。)が精液中のテストステロン抱合体(グルクロン酸抱合体及び硫酸抱合体を含む。)に好適である。なかでも、リンゴマイマイ由来のβ−グルクロニダーゼが好適である。
【0020】
こうしたβ−グルクロニダーゼは、商業的に、例えば、水溶液、粉末等として容易に入手することができる。
【0021】
脱抱合工程における、β−グルクロニダーゼの作用時間は特に限定するものではないが、例えば、少なくとも10時間を確保することで、精液中のテストステロン抱合体の脱抱合が可能である。すなわち、少なくとも10時間、β−グルクロニダーゼを作用させることで、β−グルクロニダーゼ濃度、pH、温度等の可能性ある条件において、概ね全てのテストステロン抱合体を脱抱合し、安定した定量値を得ることができる。操作性や脱抱合後のテストステロンの安定性等を考慮すると、例えば、50時間以内であり、また例えば、40時間以内であり、また例えば、30時間以内であり、また例えば25時間以内であり、また例えば20時間以内であり、また例えば15時間以内である。操作性等を考慮すると、例えば、10時間以上25時間以内、また例えば、10時間以上20時間以内、また例えば、10時間以上15時間以内などとすることができる。
【0022】
脱抱合工程における、β−グルクロニダーゼの使用濃度は特に限定するものではないが、例えば、400単位/100μl以上4000単位/100μl以下の濃度で作用させることができる。かかる濃度範囲であれば、精液中において可能性あるテストステロン抱合体を十分に分解することができる。また例えば、700単位/100μl以上3000単位/100μl以下であり、また例えば、667単位/100μl以上2000単位/100μl以下である。なお、ここで、β−グルクロニダーゼ1単位とは、pH5.0、37℃、1時間あたりフェノールフタレイン1.0μgをフェノールフタレイングルクロニドから遊離させる酵素量である(ただし、反応時間は30分間とする。)。また、スルファターゼ1単位とは、pH5.0、37℃、1時間あたり、1.0μmolの硫酸p−ニトロカテコールを加水分解する酵素量である。
【0023】
以上のことから、本方法では、例えば、一実施態様として、β−グルクロニダーゼを、10時間以上25時間以下、667単位/100μl以上2000単位/100μl以下の濃度で作用させることができる。
【0024】
β−グルクロニダーゼを作用させる温度は、特に限定するものではないが、典型的には、例えば、30℃以上42℃以下の温度であり、また例えば、32℃以上40℃以下であり、さらに、35℃以上39℃以下である。
【0025】
また、β−グルクロニダーゼを作用させるpHは、特に限定するものではないが、典型的には、例えば、pH4.5〜6.0で作用させることができ、また例えば、pH4.7〜5.3であり、また例えば、pH約5.0である。
【0026】
脱抱合工程は、検体を採取後から、例えば、168時間以内、また例えば、144時間以内、また例えば、120時間以内、また例えば、96時間以内、また例えば72時間以内に開始すれば、その検出や定量に対する悪影響を抑制又は回避して十分に検出又は定量が可能である。すなわち、必要に応じて適当な容器に保存するなどして、例えば、0℃以上45℃以下の温度で72時間保管後であっても、検体採取直後と同等の精度及び正確性でテストステロンを検出又は定量できる。
【0027】
なお、温度の下限は、例えば、4℃以上また例えば10℃以上、また例えば15℃以上、また例えば、20℃以上であってもよい。また、温度の上限は、例えば、40℃以下、また例えば、38℃以下、また例えば、35℃以下、また例えば、30℃以下、また例えば、25℃以下であってもよい。保管のための温度範囲としては、上記した上限及び下限を適宜組み合わせて設定することができるが、典型的には、例えば、15℃以上40℃以下、また例えば、20℃以上40℃以下である。
【0028】
したがって、例えば、検体採取後から10時間後から、また例えば、12時間後から、また例えば、18時間後から、また例えば24時間から、最大72時間以内までの間に脱抱合工程を開始することができる。このように検体採取から脱抱合工程の開始までに、常温で保管が可能であるので、効率的なテストステロンの脱抱合工程及び検出工程の実施が可能となっているほか、検体を商業的な流通経路を介して収集したり、適所に設けた収集ボックス等にて個別に収集したりしても、十分な精度と正確性でテストステロンを検出又は定量できる。
【0029】
(検出工程)
本方法は、脱抱合したテストステロンを検出する工程を備えることができる。検出工程は、テストステロンを測定できるものであれば、特に限定するものではなく、GC/MS、HPLC等などの分析機器を用いる方法など、公知の方法を採用して実施することができる。
【0030】
本方法においては、簡易性及び正確性等の観点から、抗原抗体反応を用いることができる。例えば、抗原抗体反応としては、抗テストステロン抗血清、抗テストステロン抗体を用いたELISA法を採用することができる。ELISA法の実施にあたっては、さらに、発色試薬や二次抗体等、当業者であれば適宜必要な試薬を選択することができる。かかるELISA法を実施するための試薬やキットは、商業的に容易に入手可能である。
【0031】
本方法における検出工程は、テストステロンを定性的に検出するほか、テストステロンを定量することができる。検体として精液自体を用いる場合には、精液中のテストステロン濃度として、検体として精漿を用いる場合には、精漿中のテストステロン濃度として、得ることができる。なお、既述のとおり、精液から精子を除いた残余を精漿であるため、所定のあるいは予め取得した検体の精子率(通常は精液の1〜5質量%程度)で、精液あたりあるいは精漿あたりの濃度に換算することができる。
【0032】
(キット)
本明細書に開示されるキットは、精液中のテストステロンを検出するためのキットである。本キットは、スルファターゼ活性を有するβ−グルクロニダーゼと、抗テストステロン抗体と、を備えることができる。抗テストステロン抗体としては、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよいし、また、さらに抗体産生細胞の培養上清であってもよい。また、本キットは、さらに、必要に応じて、抗テストステロン抗体を用いたELISA法の実施に用いる、発色試薬や二次抗体等を備えることもできる。
【0033】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0034】
以下の実施例では、29才〜48才までの健康な男性被験者5名に自宅で検体(精液)の採取を依頼した。採取した検体について、テストステロンの検出及び定量のために以下の検討を行った。
【0035】
(1)β−グルクロニダーゼによる処理の検討
β−グルクロニダーゼとして、β−グルクロニダーゼTypeH−5(G1512)(シグマアルドリッチ製、リンゴマイマイ由来、スルファターゼ活性を有する。)を用い、反応用バッファとして0.1M酢酸緩衝液(pH5.0)、反応温度37℃、とし、反応時間26時間として、脱抱合工程を実施した。より具体的には、β−グルクロニダーゼ(粉末)39.18mgを600μlの0.1M酢酸緩衝液(pH5.0)に溶解して酵素液(4000単位/100μl)を調製した。精液20μlに酵素液20μlを加えて、37℃で26時間静置した。作用時の酵素濃度は、2000単位/100μlであった。
【0036】
一方、4℃で30分、70℃で30分、90℃で30分、37℃で7日間での温度による前処理工程を実施した。これらの処理後、抗テストステロン抗体を用いた免疫抗体法にてテストステロン濃度を測定した。測定には、テストステロン、ELISAキット(ストリップ プレート)(IBL株式会社製)を用い、当該キットのプロトコールに従った。結果を
図1に示す。
【0037】
図1に示すように、いずれの検体においても、β−グルクロニダーゼによる脱抱合処理が最も高い数値を示しており、この種のβ−グルクロニダーゼを脱抱合工程に使用することが好適であることがわかった。なお、セイヨウカサガイ(Patella vulgata)由来のβ−グルクロニダーゼを用いて同様にテストステロンを定量したところ、リンゴマイマイ由来のβ−グルクロニダーゼに比べて10分の1量のテストステロンしか定量できなかった。
【0038】
(2)β−グルクロニダーゼによる作用時間の検討
本検討では、作用時の酵素濃度は、2000単位/100μlに固定し、種々に酵素の作用時間を変更する以外は、(1)と同様に脱抱合工程を行い、その後、(1)と同様にしてテストステロン濃度を測定した。なお、実験は二段階で行い、当初、作用時間0時間、14時間、26時間、38時間、及び50時間で評価し、その後、作用時間を0時間、6時間、8時間、10時間、12時間、14時間、16時間、及び18時間として追加で評価した。結果を
図2及び
図3に示す。
【0039】
図2及び
図3に示すように、β−グルクロニダーゼによる作用時間が10時間以上であれば、その後少なくとも50時間まではテストステロン定量値は各サンプルで一定となることがわかった。
【0040】
(3)β−グルクロニダーゼの作用濃度の検討
β−グルクロニダーゼの作用濃度を2000単位/100μlとするほか、その3分の1の濃度の667単位/100μlとする以外は、(1)と同様に検体中のテストステロン濃度を測定した。結果を、
図4に示す。
【0041】
図4に示すように、β−グルクロニダーゼの作用濃度は2000単位/100μlでも、667単位/100μlでも大きく変化しないことがわかった。したがって、500単位/μl程度でも十分な測定が可能であると考えられた。
【0042】
(4)脱抱合工程を開始するまでの保管時間の検討
本検討では、検体の採取後から脱抱合開始までの時間によりテストステロン濃度が変化するかどうかを調べた。具体的には、検体の採取直後、37℃で24時間、同72時間保存後に、(1)と同様にしてテストステロン濃度を測定した。結果を
図5に示す。
【0043】
図5に示すように、いずれの検体についても、37℃では、72時間後も、採取直後のテストステロン濃度と同等の結果が得られた。さらに、追加実験を行ったところ、7日間保管後であっても、採取直後のテストステロン濃度と同等であったことを確認した。以上のことから、37℃においては、72時間後であっても、また、168時間後であっても、十分な精度と正確性で検体中のテストステロンを検出し定量できることがわかった。