特開2019-149368(P2019-149368A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 財團法人工業技術研究院の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-149368(P2019-149368A)
(43)【公開日】2019年9月5日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用正極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20190809BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190809BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20190809BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190809BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20190809BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20190809BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/36 E
   H01M4/58
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-242181(P2018-242181)
(22)【出願日】2018年12月26日
(31)【優先権主張番号】106145979
(32)【優先日】2017年12月27日
(33)【優先権主張国】TW
(31)【優先権主張番号】107145453
(32)【優先日】2018年12月17日
(33)【優先権主張国】TW
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】張 家銘
(72)【発明者】
【氏名】廖 世傑
(72)【発明者】
【氏名】劉 達人
(72)【発明者】
【氏名】朱 文彬
(72)【発明者】
【氏名】陳 金銘
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB03
5H050CB08
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA24
5H050FA02
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電池性能を向上させるための、リチウムイオン電池用正極の提供。
【解決手段】集電体材料102、前記集電体材料102の一つの表面に配置されたリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料を含む第1の電極層104、および前記第1の電極層104に配置された、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、Liリッチ正極材料、またはそれらの組み合わせを含む活性物質を含む第2電極層106を含む、リチウムイオン電池用正極100。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体材料、
前記集電体材料の一つの表面に配置されたリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料を含む第1の電極層、および
前記第1の電極層に配置された、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、Liリッチ正極材料、またはそれらの組み合わせを含む活性物質を含む第2の電極層を含むリチウムイオン電池用正極。
【請求項2】
前記集電体材料のもう一つの表面に配置されたリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料を含む第3の電極層、および
前記第3の電極層に配置された、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、Liリッチ正極材料、またはそれらの組み合わせを含む活性物質を含む第4の電極層を更に含む請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項3】
前記リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)は、LiMnx Fe1-x PO4の化学式を有し、式中、0.5≦x<1である請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項4】
前記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)は、LiNiCoMnの化学式を有し、式中、0<x<1、0<y<1、0<z<1、およびx+y+z=1であり、前記リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)は、LiNi0.80Co0.15Al0.05の化学式を有し、前記リチウムコバルト酸化物(LCO)は、LiCoOの化学式を有し、前記Liリッチ正極材料は、xLiMnO・(1‐x)LiMOの化学式を有し、式中、Mは3d遷移金属および/または4d遷移金属であり、0<x<1である請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項5】
前記第2の電極層の重量比率は、前記第1の電極層と前記第2の電極層の総重量に対して、30wt%以上である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項6】
前記第4の電極層の重量比率は、前記第3の電極層と前記第4の電極層の総重量に対して、30wt%以上である請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項7】
前記第1の電極層は、バインダーおよび導電材料を更に含み、前記第1の電極層の総重量に対して、前記リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料の重量比率は、80〜99wt%であり、前記バインダーの重量比率は、0.5〜20wt%であり、前記導電材料の重量比率は、0.5〜20wt%であり、前記第1の電極層の圧縮密度は、1.5〜3g/cmである請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項8】
前記第2の電極層は、バインダーおよび導電材料を更に含み、前記第2の電極層の総重量に対して、前記活性物質の重量比率は、80〜99wt%であり、前記バインダーの重量比率は、0.5〜20wt%であり、前記導電材料の重量比率は、0.5〜20wt%であり、前記第2の電極層の圧縮密度は、2.5〜4.2g/cmである請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項9】
前記第3の電極層は、バインダーおよび導電材料を更に含み、前記第3の電極層の総重量に対して、前記リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料の重量比率は、80〜99wt%であり、前記バインダーの重量比率は、0.5〜20wt%であり、前記導電材料の重量比率は、0.5〜20wt%であり、前記第3の電極層の圧縮密度は、1.5〜3g/cmである請求項2〜請求項8のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項10】
前記第4の電極層は、バインダーおよび導電材料を更に含み、前記第4の電極層の総重量に対して、前記活性物質の重量比率は、80〜99wt%であり、前記バインダーの重量比率は、0.5〜20wt%であり、前記導電材料の重量比率は、0.5〜20wt%であり、前記第4の電極層の圧縮密度は、2.5〜4.2g/cmである請求項2〜請求項9のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項11】
前記バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはそれらの組み合わせを含む請求項7〜請求項10のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項12】
前記導電材料は、導電性グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、またはそれらの組み合わせを含む請求項7〜請求項10のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、一部継続出願であり、2018年3月30日に出願された継続中の米国特許出願番号第15/941841号「cathode of lithium ion battery」、2017年12月27日に出願された台湾特許出願番号第106145979についての優先権を主張するものであり、これらの全ては引用によって本願に援用される。また、本出願は、2018年12月17日に出願された台湾特許出願番号第107145453についての優先権を主張するものであり、これらの全ては引用によって本願に援用される。
【0002】
本発明は、リチウムイオン電池用正極に関するものである。
【背景技術】
【0003】
三元材料(NMC)は、低コスト、高容量、および良好なサイクル性能という利点を有し、そして多くの分野で広く用いられてきた。しかしながら、三元材料(NMC)から作製された電池は、不十分な充放電レート性能および不十分な安全性を有する。
【0004】
現在、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料と三元材料の混合物が、充放電レート性能および電池の安全性を改善するための電極を作製するのに用いられている。しかしながら、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料および三元材料は、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料と三元材料の混合物から作製された電極内に均一に分布されるため、異なる材料は異なる導電経路の長さを有し、その結果、充電および放電中に不均一な電流が生じることになる。また、多くの接触界面が2つの材料の間に形成されるため、電池のインピーダンスを増加させる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第9343745B1号
【特許文献2】米国特許第20140113175A1号
【特許文献3】台湾特許第I517477号
【特許文献4】中国特許第105449265A号
【特許文献5】中国特許第105895857A号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の1つの目的は、電池の性能を向上させるために必要とされる上記の問題を克服することができる新規な電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述および他の目的を達成するために、本開示の実施形態は、集電体材料、集電体材料の表面に配置されたリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料を含む第1の電極層、および第1の電極層に配置された、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、Liリッチ正極材料、またはそれらの組み合わせを含む活性物質を含む第2の電極層を含むリチウムイオン電池用正極を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示により提供されたリチウムイオン電池用正極は多層構造を有し、均一な導電経路を与え、異なる材料間の接触界面を減少させる。また、本開示により提供されたリチウムイオン電池用正極から作製された電池は、改善された充放電レート性能を有する。
【0009】
詳細な説明は、添付の図面と併せて以下の実施形態で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
添付の図面とともに以下の本発明の様々な実施形態の詳細な説明を検討することで、本発明をより完全に理解することができる。
図1図1は、本発明の例示的な実施形態によるリチウムイオン電池用正極の断面図である。
図2図2は、本発明のもう一つの例示的な実施形態によるリチウムイオン電池用正極の断面図である。
図3A図3Aは、本開示の例示的な実施形態によるリチウムイオン電池の充放電レート性能を示している。
図3B図3Bは、本開示の比較例によるリチウムイオン電池の充放電レート性能を示している。
図3C図3Cは、本開示のもう一つの比較例によるリチウムイオン電池の充放電レート性能を示している。
図4A図4Aは、本開示のもう一つの例示的な実施形態によるリチウムイオン電池の充放電レート性能を示している。
図4B図4Bは、本開示のもう一つの比較例によるリチウムイオン電池の充放電レート性能を示している。
図5A図5Aは、本発明のもう一つの実施形態によるリチウムイオン電池の電圧と温度の変化を示すグラフを示している。
図5B図5Bは、本開示のもう一つの実施形態による貫通実験後のリチウムイオン電池の外観を示す図である。
図6A図6Aは、本発明のもう一つの比較実施形態によるリチウムイオン電池の電圧と温度の変化を示すグラフを示している。
図6B図6Bは、本開示のもう一つの比較実施形態による貫通実験後のリチウムイオン電池の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次の開示では、異なる特徴を実施するために、多くの異なる実施の形態または実施例を提供する。本開示を簡潔に説明するために、複数の要素および複数の配列の特定の実施形態が以下に述べられる。これらはもちろん単に例示するためであり、それに限定するという意図はない。例えば、下記の開示の第2の特徴の上方、または上への第1の特徴の形成は、第1と第2の特徴が直接接触で形成される複数の実施形態を含むことができ、且つ第1と第2の特徴が直接接触でないように、付加的な特徴が第1と第2の特徴間に形成された複数の実施形態を含むこともできる。また、以下の説明書は、複数の代表例において同じ構成要素の符号または文字を繰り返し用いる可能性がある。しかしながら、繰り返し用いる目的は、簡易化した、明確な説明を提供するためのもので、複数の以下に討論する実施形態および/または配置の関係を限定するものではない。
【0012】
更に、「下の方」、「下方」、「下部」、「上方」、「上部」およびこれらに類する語のような、空間的に相対的な用語は、図において1つの要素または特徴の関係を別の(複数の)要素と(複数の)特徴で記述するための説明を簡潔にするために用いられる。空間的に相対的な用語は、図に記載された方向に加えて、使用または操作するデバイスの異なる方向をカバーすることを意図している。前記装置は、他の方式で方向づけされてもよく(90度回転、または他の方向に)、ここで用いられる空間的に相対する記述は、同様にそれに応じて解釈され得る。
【0013】
図1に示すように、本開示のいくつかの実施形態では、リチウムイオン電池用正極100が提供される。リチウムイオン電池用正極100は、集電体材料102、集電体材料102の表面に配置された第1の電極層104、および第1の電極層104上に配置された第2の電極層106を含む。
【0014】
一実施形態では、集電体材料102は、アルミニウム箔であることができる。
【0015】
一実施形態では、第1の電極層104は、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料を含むことができる。リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料は、LiMnx Fe1-x PO4の化学式を有することができ、式中、0.5≦x<1である。
【0016】
いくつかの実施形態では、第1の電極層104はバインダーおよび導電材料を更に含むことができる。第1の電極層104は、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料、バインダー、および導電材料からなる混合物である。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはそれらの組み合わせを含むことができる。導電材料は、導電性グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、またはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0017】
第1の電極層104では、第1の電極層104の総重量に対して、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料の重量比率は、例えば、80〜99wt%であることができ、バインダーの重量比率は、例えば、0.5〜20wt%であることができ、導電材料の重量比率は、例えば、0.5〜20wt%であることができる。リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料が第1の電極層104の主な電気容量の供給源であるため、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料の重量比率が低過ぎた場合、電極の電気容量とエネルギー密度が減少する。導電材料の重量が大きいほど、作製された電池の電気的特性は良好である。しかしながら、導電材料は電気容量を提供しないため、導電材料の重量が、例えば20wt%を超えた場合、電極の電気容量およびエネルギー密度が減少する。また、導電材料は、密度が低く表面積が大きいため、導電材料の重量が大き過ぎた場合、電極の密度および加工性に大きな影響を及ぼすことになる。
【0018】
例えば、いくつかの実施形態では、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料の重量比率は、第1の電極層104の総重量に対して、例えば90〜95wt%であることができる。いくつかの実施形態では、バインダーの重量比率は、第1の電極層104の総重量に対して、例えば、2〜10wt%であることができる。いくつかの実施形態では、導電材料の重量比率は、第1の電極層104の総重量に対して、例えば、2〜10wt%であることができる。
【0019】
一実施形態では、第2の電極層106は活性物質を含むことができる。いくつかの実施形態では、活性物質は、例えば、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、Liリッチ正極材料、またはそれらの組み合わせを含むことができる。一実施形態では、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)は、LiNiCoMnの化学式を有することができ、式中、0<x<1、0<y<1、0<z<1、およびx+y+z=1である。一実施形態では、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)は、LiNi0.80Co0.15Al0.05の化学式を有することができる。一実施形態において、リチウムコバルト酸化物(LCO)は、LiCoOの化学式を有することができる。一実施形態では、Liリッチ正極材料は、xLiMnO・(1‐x)LiMOの化学式を有することができ、式中、Mは3d遷移金属および/または4d遷移金属であり、0<x<1である。いくつかの実施形態では、3d遷移金属は、例えば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、またはZnであることができ、4d遷移金属は、例えば、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、またはCdであることができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、第2の電極層106はバインダーおよび導電材料を更に含むことができる。第2の電極層106は、上述の活性物質、バインダー、および導電材料との混合物である。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはそれらの組み合わせを含むことができる。導電材料は、導電性グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、またはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0021】
第2の電極層106では、第2の電極層106の総重量に対して、 活性物質の重量比率は、例えば、80〜99wt%であることができ、バインダーの重量比率は、例えば、0.5〜20wt%であることができ、導電材料の重量比率は、例えば0.5〜20wt%であることができる。活性物質が第2の電極層106の主な電気容量の供給源であるため、活性物質の重量比率が低過ぎる場合、電極の電気容量とエネルギー密度が減少する。導電材料の重量が大きいほど、作製された電池の電気的特性は良好である。しかしながら、導電材料は電気容量を提供しないため、導電材料の重量が、例えば20wt%を超えた場合、電極の電気容量およびエネルギー密度が減少する。また、導電材料は、密度が低く表面積が大きいため、導電材料の重量が大き過ぎた場合、電極の密度および加工性に大きな影響を及ぼすことになる。
【0022】
例えば、いくつかの実施形態では、活性物質の重量比率は、第2の電極層106の総重量に対して、例えば90〜95wt%であることができる。いくつかの実施形態では、バインダーの重量比率は、第2の電極層106の総重量に対して、例えば、2〜10wt%であることができる。いくつかの実施形態では、導電材料の重量比率は、第2の電極層106の総重量に対して、例えば、2〜10wt%であることができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、第2の電極層106の重量比率は、第1の電極層104と第2の電極層106の総重量に対して、30wt%以上であることができる。例えば、いくつかの実施形態では、第2の電極層106の重量比率は、第1の電極層104と第2の電極層106の総重量に対して、50wt%、70wt%、80wt%以上であることができる。第2の電極層106の活性物質の容量は、第1の電極層104のリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)の容量より大きいため、第2の電極層106の重量比率が低過ぎた場合、例えば、30wt%以下である場合、作製された電池の容量およびエネルギー密度が減少する。
【0024】
いくつかの実施形態では、第1の電極層104および第2の電極層106を形成するためのスラリーは、例えばロールツーロールスロットダイコーティング(roll‐to‐roll slot‐die coating)法を用いて、階層的に集電体材料102の表面に同時にコーティングすることができる。乾燥後、ロールプレス機によってプレスされ、図1に示すようなリチウムイオン電池用正極100を得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、第1の電極層104の圧縮密度は、例えば1.5〜3g/cmであることができ、第2の電極層106の圧縮密度は、例えば2.5〜4.2g/cmであることができる。
【0026】
図2に示されるように、本開示の他の実施形態は、リチウムイオン電池用正極200を提供する。リチウムイオン電池用正極200は、集電体材料202、集電体材料202の一つの表面に配置された第1の電極層204、および第1の電極層204に配置された第2の電極層206を含む。リチウムイオン電池用正極200とリチウムイオン電池用正極100との間の違いは、リチウムイオン電池用正極200の、第1の電極層204に対する集電体材料202のもう一つの表面は、第3の電極層204’、および第3の電極層204’に配置された第4の電極層206’を更に含むことである。
【0027】
第1の電極層204および第2の電極層206は、第1の電極層104および第2の電極層106と同様であり、本明細書の上述の説明を参照することができ、ここでは再度説明しない。
【0028】
一実施形態では、第3の電極層204’は、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料を含むことができる。リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料は、LiMnx Fe1-x PO4の化学式を有することができ、式中、0.5≦x<1である。
【0029】
いくつかの実施形態では、第3の電極層204’はバインダーおよび導電材料を更に含む。第3の電極層204’は、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料、バインダー、および導電材料からなる混合物である。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはそれらの組み合わせを含むことができる。導電材料は、導電性グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、またはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0030】
第3の電極層204’では、第3の電極層204’の総重量に対して、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料の重量比率は、例えば、80〜99wt%であることができ、バインダーの重量比率は、例えば、0.5〜20wt%であることができ、導電材料の重量比率は、例えば、0.5〜20wt%であることができる。リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料が第3の電極層204’の主な電気容量の供給源であるため、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料の重量比率が低過ぎた場合、電極の電気容量とエネルギー密度が減少する。導電材料の重量が大きいほど、作製された電池の電気的特性は良好である。しかしながら、導電材料は電気容量を提供しないため、導電材料の重量が、例えば20wt%を超えた場合、電極の電気容量およびエネルギー密度が減少する。また、導電材料は、密度が低く表面積が大きいため、導電材料の重量が大き過ぎた場合、電極の密度および加工性に大きな影響を及ぼすことになる。
【0031】
例えば、いくつかの実施形態では、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)材料の重量比率は、第3の電極層204’の総重量に対して、例えば90〜95wt%であることができる。いくつかの実施形態では、バインダーの重量比率は、第3の電極層204’の総重量に対して、例えば、2〜10wt%であることができる。いくつかの実施形態では、導電材料の重量比率は、第3の電極層204’の総重量に対して、例えば、2〜10wt%であることができる。
【0032】
一実施形態では、第4の電極層206’は活性物質を含むことができる。いくつかの実施形態では、活性物質は、例えば、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、Liリッチ正極材料、またはそれらの組み合わせを含むことができる。一実施形態では、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)は、LiNiCoMnの化学式を有することができ、式中、0<x<1、0<y<1、0<z<1、およびx+y+z=1である。一実施形態では、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)は、LiNi0.80Co0.15Al0.05の化学式を有することができる。一実施形態において、リチウムコバルト酸化物(LCO)は、LiCoOの化学式を有することができる。一実施形態では、Liリッチ正極材料は、xLiMnO・(1‐x)LiMOの化学式を有することができ、式中、Mは3d遷移金属および/または4d遷移金属であり、0<x<1である。いくつかの実施形態では、3d遷移金属は、例えば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、またはZnであることができ、4d遷移金属は、例えば、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、またはCdであることができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、第4の電極層206’はバインダーおよび導電材料を更に含むことができる。第4の電極層206’は、上述の活性物質、バインダー、および導電材料との混合物である。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはそれらの組み合わせを含むことができる。導電材料は、導電性グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、またはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0034】
第4の電極層206’では、第4の電極層206’の総重量に対して、 活性物質の重量比率は、例えば、80〜99wt%であることができ、バインダーの重量比率は、例えば、0.5〜20wt%であることができ、導電材料の重量比率は、例えば0.5〜20wt%であることができる。活性物質が第4の電極層206’の主な電気容量の供給源であるため、活性物質の重量比率が低過ぎた場合、電極の電気容量とエネルギー密度が減少する。導電材料の重量が大きいほど、作製された電池の電気的特性は良好である。しかしながら、導電材料は電気容量を提供しないため、導電材料の重量が、例えば20wt%を超えた場合、電極の電気容量およびエネルギー密度が減少する。また、導電材料は、密度が低く表面積が大きいため、導電材料の重量が大き過ぎた場合、電極の密度および加工性に大きな影響を及ぼすことになる。
【0035】
例えば、いくつかの実施形態では、活性物質の重量比率は、第4の電極層206’の総重量に対して、例えば90〜95wt%であることができる。いくつかの実施形態では、バインダーの重量比率は、第4の電極層206’の総重量に対して、例えば、2〜10wt%であることができる。いくつかの実施形態では、導電材料の重量比率は、第4の電極層206’の総重量に対して、例えば、2〜10wt%であることができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、第4の電極層206’の重量比率は、第3の電極層204’と第4の電極層206’の総重量に対して、30wt%以上であることができる。例えば、いくつかの実施形態では、第4の電極層206’の重量比率は、第3の電極層204’と第4の電極層206’の総重量に対して、50wt%、70wt%、80wt%以上であることができる。第4の電極層206’の活性物質の容量は、第3の電極層204’のリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)の容量より大きいため、第4の電極層206’の重量比率が低過ぎた場合、例えば、30wt%以下である場合、作製された電池の容量およびエネルギー密度が減少する。
【0037】
いくつかの実施形態では、第1の電極層204および第2の電極層206を形成するためのスラリーは、例えばロールツーロールスロットダイコーティング(roll‐to‐roll slot‐die coating)法を用いて、階層的に集電体材料202の1つの表面に同時にコーティングすることができる。 次いで、第3の電極層204’および第4の電極層206’を形成するためのスラリーは、例えばロールツーロールスロットダイコーティング(roll‐to‐roll slot‐die coating)法を用いて、階層的に集電体材料202のもう1つの表面に同時にコーティングすることができる。乾燥後、ロールプレス機によってプレスされ、図2に示すようなリチウムイオン電池用正極200を得る。
【0038】
いくつかの実施形態では、第1の電極層204の圧縮密度は、例えば1.5〜3g/cmであることができ、第2の電極層206の圧縮密度は、例えば2.5〜4.2g/cmであることができ、第3の電極層204’の圧縮密度は、例えば1.5〜3g/cmであることができ、第4の電極層206’の圧縮密度は、例えば2.5〜4.2g/cmであることができる。
【0039】
以下、実施例および比較例を例示して、本開示により提供されたリチウムイオン電池用正極、それからなる電池、およびその特性を説明する。
【実施例1】
【0040】
NMC/LMFP二層正極
まず、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)スラリーおよびリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)スラリーをそれぞれ調製した。
【0041】
リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)スラリの調製は、まず、バインダーとして用いたポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、溶剤として用いたN‐メチルピロリドン(NMP)に加えて、混合物を高速で攪拌し、均一に分散させた。次いで、導電材料としてカーボンブラックを添加し、攪拌して分散させた。最後に、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)を添加して高速で攪拌し、均一に分散させてリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)スラリーを得た。リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC):導電材料:バインダーの重量比は92:5:3であった。
【0042】
リチウムマンガン鉄リン酸(LMFP)スラリーの調製は、まず、バインダーとして用いたポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、溶媒として用いたN‐メチルピロリドン(NMP)に加えて、混合物を高速で攪拌し、均一に分散させた。次いで、導電材料としてカーボンブラックを添加し、攪拌して分散させた。最後に、リチウムマンガン鉄リン酸(LMFP)を添加して高速で攪拌し、均一に分散させてリチウムマンガン鉄リン酸(LMFP)スラリーを得た。リチウムマンガン鉄リン酸(LMFP):導電材料:バインダーの重量比は90:4:6であった。
【0043】
次に、調製したNMCスラリーとLMFPスラリーを、スロットダイを用いて、階層的にアルミニウム箔の1つの表面に同時にコーティングして、NMCスラリーの中の活性物質のリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)とLMFPスラリーの中の活性物質のリチウムマンガン鉄リン酸(LMFP)の重量比は8:2であった。NMCスラリーを上層にコーティングし、LMFPスラリーを下層にコーティングした。言い換えれば、LMFPスラリーをアルミニウム箔の1つの表面の上にコーティングし、NMCスラリーをLMFPスラリーの上にコーティングした。形成されたNMC / LMFP層に対するアルミニウム箔のもう一つの表面に上述のステップを繰り返し、同じNMC/LMFP電極を形成した。乾燥後、図2に示すようなリチウムイオン電池用正極を得る。最後に、電極をロールプレス機でプレスして電極密度を高め、NMC/LMFP二層正極の作製を完了した。
【比較例1】
【0044】
LMFP/NMC二層正極
NMCスラリーを下層にコーティングし、LMFPスラリーを上層にコーティングしたことを除いては、実施例1に述べたのと同じプロセスを繰り返して、LMFP/NMC二層正極を作製した。
【比較例2】
【0045】
LMFP+NMC混合正極
NMCスラリーとLMFPスラリーを混合してアルミ箔の上にコーティングしたことを除いては、実施例1に述べたのと同じプロセスを繰り返して、LMFP+NMC混合正極を作製した。
電池の充放電レート性能I:黒鉛負極
【0046】
実施例1および比較例1と比較例2で作製された正極を、長さ5.7cmおよび幅3.2cmのサイズに切断した。長さ5.9cm、幅3.4cmの黒鉛を負極として用いた。正極と負極を積み重ねてセルを形成した。適切な量の電解質を添加した後、真空包装を用いて3.5×6.0cmのサイズにソフトパック電池を形成した。充放電試験は異なるレートで実施し、実施例1で作製されたNMC/LMFP二層正極、比較例1で作製されたLMFP/NMC二層正極、および比較例2で作製されたLMFP+NMC混合正極から形成された電池の充放電レート性能を比較した。図3A〜3Cは、実施例1で作製された正極、比較例1で作製された正極、および比較例2で作製された正極から形成された電池の充放電レート性能を順次に表している。図3A〜3Cの結果も表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
より高い容量維持率およびより高い動作電圧が好ましい。図3A図3Cおよび表1から、Cレートが3C、5C、10C、または12Cのとき、NMC/LMFP二層正極を用いた電池の容量維持率および動作電圧は、LMFP/NMC二層正極およびLMFP+NMC混合正極を用いた電池の容量維持率および動作電圧よりも格段に良好であったことが分かる。
電池の充放電レート性能II:チタン酸リチウム(LTO)負極
【0049】
実施例1および比較例2で作製された正極を、長さ5.7cmおよび幅3.2cmのサイズに切断した。長さ5.9cm、幅3.4cmのチタン酸リチウム(LTO)を負極として用いた。正極と負極を積み重ねてセルを形成した。適切な量の電解質を添加した後、真空包装を用いて3.5×6.0cmのサイズにソフトパック電池を形成した。充放電試験は異なるレートで実施し、充放電試験は異なるレートで実施し、実施例1で作製されたNMC/LMFP二層正極、および比較例2で作製されたLMFP+NMC混合正極から形成された電池の充放電レート性能を比較した。図4Aおよび4Bは、実施例1で作製された正極、および比較例2で作製された正極から形成された電池の充放電レート性能を順次に表している。図4Aおよび4Bの結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
同様に、より高い容量保持率およびより高い動作電圧が好ましい。図4A図4B、および表2から、6Cでは、NMC/LMFP二層正極を用いた電池の容量維持率は84.5%であり、LMFP+NMC混合正極を用いた電池の容量維持率75.3%よりも良好であったことが分かる。
【0052】
表1および表2に示した結果から、比較例の正極から形成された電池と比べると、本開示により提供されたリチウムイオン電池用正極および異なる負極材料を用いて形成された電池は、改善された充放電レート性能を有することが分かる。
安全性試験
【0053】
上述のリチウムイオン電池は、貫通実験を用いて安全性について試験された。貫通実験は、電池が外力を受けたとき、または貫通時に電池が短絡する状況を模擬している。電池が完全に充電されたとき(100%SOC)、直径3mmの金属針を用いて貫通実験が行われた。貫通速度は1mm/s、貫通深さは10mm、且つ完全貫通(針が電池を貫通する)を行った。貫通プロセス中に、電池の電圧および温度変化が検出され、電池の膨張、発火、発煙などが観察された。試験結果を図5A図5Bおよび図6A図6Bに示す。
【0054】
図5Aは、実施例1のNMC/LMFP二層正極と黒鉛負極を有するリチウムイオン電池の電圧と温度の変化を示すグラフを示している。図5Bは、貫通実験後のリチウムイオン電池の外観を示す図である。図5Aおよび図5Bから、実施例1の正極により作製された電池の貫通後の最高温度は約90℃であったことが分かる。実験中、電池は発煙も発火もせず、且つ電池が実験後に明らかに膨張することもなかった。図5Aに示される温度1〜3は、図5Bに示される電池セルの3つの試験位置P1、P2、およびP3の温度をそれぞれ表している。
【0055】
図6Aは、比較例2のLMFP+NMC混合正極と黒鉛負極を有するリチウムイオン電池の電圧と温度の変化を示すグラフを示している。図6Bは、貫通実験後のリチウムイオン電池の外観を示す図である。図6Aおよび図6Bから、比較例2の正極により作製された電池の貫通後の最高温度は約350℃に上昇したことが分かる。実験中、電池は大量の煙を発生して急速に膨張し、熱暴走が発生した。電池は、実験後に明らかに膨張した。図6Aに示される温度1〜3は、図6Bに示される電池セルの3つの試験位置P1、P2、およびP3の温度をそれぞれ表している。
【0056】
図5A図5Bおよび図6A図6Bの結果から、比較例の正極により作製された電池と比べると、本開示により提供された正極により作製された電池は、より良好な安全性能を有することが分かる。
【0057】
本開示により提供されたリチウムイオン電池用正極は、多層構造を有する。リチウムマンガンリン酸鉄(LMFP)材料と、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)などの三元材料のような活性物質とを、集電体材料上に順次に配置することによって、作製されたリチウムイオン電池は、改善された充放電レート性能を有する。
【0058】
開示した方法および材料に各種の修飾および変更を加え得るということは当業者には明らかであろう。本明細書および実施例は単に例示と見なされるよう意図されており、本開示の真の範囲は以下の特許請求の範囲およびそれらの均等物によって示される。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
【外国語明細書】
2019149368000001.pdf
2019149368000002.pdf
2019149368000003.pdf
2019149368000004.pdf