(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-151585(P2019-151585A)
(43)【公開日】2019年9月12日
(54)【発明の名称】アミロイドβ蛋白の生成阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/53 20060101AFI20190816BHJP
A61K 36/752 20060101ALI20190816BHJP
A61K 31/125 20060101ALI20190816BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20190816BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20190816BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20190816BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20190816BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20190816BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20190816BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20190816BHJP
A61K 8/35 20060101ALI20190816BHJP
A61Q 5/12 20060101ALI20190816BHJP
A61Q 5/02 20060101ALI20190816BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20190816BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20190816BHJP
A61Q 1/14 20060101ALI20190816BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20190816BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20190816BHJP
【FI】
A61K36/53
A61K36/752
A61K31/125
A61P25/28
A61P25/24
A61P25/22
A61P25/18
A61P25/00
A61P9/10
A61K8/9789
A61K8/35
A61Q5/12
A61Q5/02
A61Q19/10
A61Q19/00
A61Q1/14
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-37784(P2018-37784)
(22)【出願日】2018年3月2日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】514258269
【氏名又は名称】グリーン・テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】杉本 八郎
(72)【発明者】
【氏名】奥田 充顕
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD52
4B018MD61
4B018ME14
4B018MF01
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4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】アミロイドβ蛋白の含有量を減少させることができるアミロイドβ蛋白の生成阻害剤、タウ蛋白のリン酸化を阻害する阻害剤、アミロイドβ蛋白の減少方法及びタウ蛋白のリン酸化阻害方法に関すること。
【解決手段】ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を有効成分とする、アミロイドβ蛋白の生成阻害剤。ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を有効成分とする、タウ蛋白のリン酸化阻害剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を有効成分とする、アミロイドβ蛋白の生成阻害剤。
【請求項2】
ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を有効成分とする、タウ蛋白のリン酸化阻害剤。
【請求項3】
ローズマリーの抽出物とレモンの抽出物を含む第一抽出物と、ラベンダーの抽出物とオレンジの抽出物を含む第二抽出物を組み合わせてなる、請求項1又は2記載の剤。
【請求項4】
ローズマリー抽出物がローズマリー・カンファーであり、ラベンダー抽出物が真正ラベンダーである、請求項1〜3いずれか記載の剤。
【請求項5】
アルツハイマー病、ダウン症候群、嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、ピック病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷及び虚血性脳障害から選ばれる疾患の治療又は予防に用いられる、請求項1〜4いずれか記載の剤。
【請求項6】
ダウン症候群、嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症及びピック病から選ばれる疾患の予防に用いられる、請求項1〜5いずれか記載の剤。
【請求項7】
レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷及び虚血性脳障害から選ばれる疾患の予防に用いられる、請求項1〜5いずれか記載の剤。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の剤を含有してなる、組成物。
【請求項9】
ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を吸入することを特徴とする、アミロイドβ蛋白の減少方法。
【請求項10】
ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を吸入することを特徴とする、タウ蛋白のリン酸化阻害方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイドβ蛋白の生成阻害剤及びタウ蛋白のリン酸化阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
天然物から特定の薬理作用のある物質又は成分を探索して創薬に利用することが、一般に行われている。このように有用な物質又は成分は、しばしば、新たな治療・予防法の開発や発症メカニズム解明の研究などに利用されるが、近年、植物から抽出した精油を用いる手法についても検討が種々行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、レッドキドニービーンズ、グアバ、発酵グアバ、ゲットウ、発酵ゲットウ、オレガノ、バジル、レモンバーベナ、ハマナス、アオサ、マジョラム、ギンネム、発酵ギンネム、コブミカン及びギムネマシルベスタからなる群から選ばれる1以上の植物の植物体もしくはその処理物又はその抽出物に、アミロイドβ蛋白の凝集抑制作用及び/又は凝集アミロイドβ蛋白の分解作用を有することが開示されている。そして、前記処理物や抽出物は、錠剤、散剤、顆粒剤等の経口剤や、注射剤、点滴剤、クリーム剤、坐剤等の非経口剤として用いられることが開示されている。
【0004】
また、非特許文献1及び2には、植物の精油を用いる手法として、ローズマリーカンファーオイルとレモンオイル、及び、真正ラベンダーオイルとオレンジオイルを組み合わせて、アルツハイマー病の患者にアロマテラピーを行うことで、嗅覚刺激を介して脳内の神経の機能が改善し、認知機能が改善したことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−202606号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】木村有希ら、日本痴呆学界誌第19巻第1号、p.1-10
【非特許文献2】Daiki JIMBO, et al., PSYCHOGERIATRICS, 2009, 9:173-179
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アミロイドβ蛋白の生成阻害剤、タウ蛋白のリン酸化を阻害する阻害剤、アミロイドβ蛋白の減少方法及びタウ蛋白のリン酸化阻害方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の精油を組み合わせて用いることで、脳内におけるアミロイドβ蛋白の産生量を減少でき、また、タウ蛋白のリン酸化も阻害できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記〔1〕〜〔10〕に関する。
〔1〕 ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を有効成分とする、アミロイドβ蛋白の生成阻害剤。
〔2〕 ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を有効成分とする、タウ蛋白のリン酸化阻害剤。
〔3〕 ローズマリーの抽出物とレモンの抽出物を含む第一抽出物と、ラベンダーの抽出物とオレンジの抽出物を含む第二抽出物を組み合わせてなる、前記〔1〕又は〔2〕記載の剤。
〔4〕 ローズマリー抽出物がローズマリー・カンファーであり、ラベンダー抽出物が真正ラベンダーである、前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載の剤。
〔5〕 アルツハイマー病、ダウン症候群、嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、ピック病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷及び虚血性脳障害から選ばれる疾患の治療又は予防に用いられる、前記〔1〕〜〔4〕いずれか記載の剤。
〔6〕 ダウン症候群、嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、及びピック病から選ばれる疾患の予防に用いられる、前記〔1〕〜〔5〕いずれか記載の剤。
〔7〕 レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷及び虚血性脳障害から選ばれる疾患の予防に用いられる、前記〔1〕〜〔5〕いずれか記載の剤。
〔8〕 前記〔1〕〜〔7〕いずれか記載の剤を含有してなる、組成物。
〔9〕 ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を吸入することを特徴とする、アミロイドβ蛋白の減少方法。
〔10〕 ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を吸入することを特徴とする、タウ蛋白のリン酸化阻害方法。
【0010】
また、本発明は、下記の態様〔11〕〜〔15〕も包含する。
〔11〕 ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を有効成分とする、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の生成促進剤。
〔12〕 前記〔1〕〜〔7〕いずれか記載の剤を投与する工程を含む、アルツハイマー病、ダウン症候群、嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、ピック病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷及び虚血性脳障害から選ばれる疾患の予防及び/又は治療方法。
〔13〕 投与が吸入によるものである、前記〔12〕記載の方法。
〔14〕 アルツハイマー病、ダウン症候群、嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、ピック病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷及び虚血性脳障害から選ばれる疾患の予防及び/又は治療するための、ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物の使用。
〔15〕 アルツハイマー病、ダウン症候群、嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、ピック病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷及び虚血性脳障害から選ばれる疾患の予防及び/又は治療剤を製造するための、ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物の使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアミロイドβ蛋白の生産阻害剤は、アミロイドβ蛋白そのものの含有量を減少する効果に優れ、ひいては、アミロイドβ蛋白の重合や凝集、蓄積も抑制することが可能となる。また、本発明のタウ蛋白のリン酸化阻害剤は、タウ蛋白のリン酸化を阻害する効果に優れ、ひいては、リン酸化タウ蛋白の凝集、蓄積も抑制することが可能となる。よって、本発明の阻害剤により、アミロイドβ蛋白やリン酸化タウ蛋白が関連する疾患、例えば、アルツハイマー病やタウオパチーなどの疾患に対して予防あるいは治療効果を奏することが可能となる。また、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)を増加させる傾向もみられたことから、その他の神経変性疾患の予防及び/又は治療にも応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、アロマテラピーによる認知機能に対する影響を調べた結果を示す。
【
図2】
図2は、アロマテラピーによる脳内のアミロイドβ蛋白量に対する影響を調べた結果を示す。
【
図3】
図3は、アロマテラピーによる脳内のタウ蛋白のリン酸化に対する影響を調べた結果を示す。
【
図4】
図4は、アロマテラピーによる脳内のBDNFに対する影響を調べた結果を示す。
【
図5】
図5は、アロマテラピーによる運動機能に対する影響を調べた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のアミロイドβ蛋白の生成阻害剤及びタウ蛋白のリン酸化阻害剤は、ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を有効成分とするものであり、以降、これらの阻害剤をまとめて本発明の阻害剤、これらの抽出物をまとめて本発明の抽出物とそれぞれ記載することもある。
【0014】
アルツハイマー病は、アミロイドβ蛋白から成る老人斑とタウ蛋白から成る神経原繊維変化の形成、またこれらに伴って進行する脳の萎縮を特徴的病変とする神経変性疾患である。アミロイドβ蛋白は、蛋白凝集体を形成して組織に沈着することによって機能障害を引き起こすが、その凝集体と共にアミロイドβ蛋白自身も細胞毒性作用を有することから、アミロイドβ蛋白そのものの生成を阻害することがアルツハイマー病の治療法として期待されている。また、組織へ沈着して機能障害を引き起こす蛋白質としてはリン酸化タウ蛋白も知られているが、タウ蛋白そのものは中枢神経細胞に多量に存在し、脳の神経ネットワークを構成することから、タウ蛋白のリン酸化を阻害することもアルツハイマー病治療に有効であると考えられている。一方、アルツハイマー病の発症・進行リスクを高める要因としては、加齢、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症、睡眠不足、運動不足、過度の飲酒や喫煙、頭部への外傷なども挙げられる。これらのリスク要因から推察すると、アルツハイマー病の発症・進行には、脳血流量や糖・脂質代謝能の低下による神経細胞機能低下、あるいは慢性炎症による神経細胞障害など、アミロイドβ蛋白やタウ蛋白が直接関与しない経路も存在すると考えられる。よって、アルツハイマー病の発症・進行を抑制するには、様々な経路を考慮する必要がある。このような状況下において、本発明者らは、神経細胞に着目し、本発明の抽出物を曝露させることで、アミロイドβ蛋白の生成やタウ蛋白のリン酸化を阻害することを見出した。従来は、例えば、芳香成分が嗅覚神経を介して自律神経系や内分泌系を調整している視床下部を刺激し、アセチルコリンやノルアドレナリンといった神経伝達物質が放出されることでリラックス効果やリフレッシュ効果等がもたらされて認知機能が向上すると考えられていたが、詳細なる機序は不明なるも、本発明の抽出物が嗅覚神経を介して脳内の神経細胞に作用する、あるいは、抽出物の一部が鼻粘膜から吸収され脳内の神経細胞に直接作用することで、アミロイドβ蛋白の産生抑制・分解除去、タウ蛋白のリン酸化抑制といった効果をもたらすと推察される。
【0015】
また、前記以外にも、前記抽出物が、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)も増加させ、神経細胞の新生・成長・分化・再生を促進することが分かってきた。これは、本発明の抽出物が前記したように神経細胞に直接作用する以外に、自律神経系の改善を介した脳血流量の増加等によって間接的に神経細胞の機能が改善する等の作用を奏することで、BDNF増加といった効果をもたらすからと推察される。これらより、本発明の抽出物はアルツハイマー病発症・進行の要因であるアミロイドβ蛋白、タウ蛋白だけでなく、その他の諸経路のいずれに対しても阻害効果を有することが期待される。また、前記抽出物は、アミロイドβ蛋白、タウ蛋白、その他の諸経路のいずれに対しても阻害効果を有することから、これらの経路を介した疾患の発症・進行を抑制する効果も奏することが期待される。但し、これらの推測は、本発明を限定するものではない。
【0016】
本発明の抽出物は、ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物の抽出物であるが、これらの植物に対し人為的な処理を施して得られたものであれば特に限定はなく、例えば、抽出物(エキス)の他、精油(例えば、水蒸気蒸留物、搾汁液、圧搾物、溶剤抽出物、超臨界流体抽出物)も含まれる。また、これらの植物に対して、個別に処理を行ったものであっても、まとめて処理を行ったものでもよい。個別に処理を行う場合は、処理方法が同一でも異なってもよい。本発明の抽出物としては、例えば、ローズマリーの抽出物、レモンの抽出物、ラベンダーの抽出物及びオレンジの抽出物を含む態様の他、ローズマリーの精油、レモンの精油、ラベンダーの精油及びオレンジの精油を含む態様を用いることができる。
【0017】
ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジとしては、公知のものであれば特に限定なく用いることができる。産地や品種も特に限定されない。
【0018】
使用される部位については、例えば、根茎、葉、果実、種子、花又は植物全体を使用することができ、これらの裁断物や破砕物、乾燥物等の加工品としても使用することができる。
【0019】
抽出方法としては、特に限定はなく、例えば、前記した植物を公知の方法に従って溶媒により抽出し、溶媒を留去する方法が挙げられる。
【0020】
抽出溶媒としては、例えば、低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等)、多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル(ジオキサン、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル等)、ハロゲン化炭化水素(クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等)、極性溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等)のほか、酢酸エチル、トルエン、n-ヘキサン、石油エーテル等の各種有機溶媒、或いは水等を、それぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることが出来る。組み合わせる際には、その比率は適宜調整することができる。
【0021】
抽出温度は、用いる溶媒や植物の部位・形態などによって一概には設定することができないが、抽出効率の観点から、下限としては4℃、上限としては150℃を挙げることができる。本発明においては、前記した温度範囲内であれば上限値や下限値を適宜設定することができ、例えば、10℃、15℃、20℃、30℃、40℃、60℃、80℃、100℃、120℃、140℃等を上限値あるいは下限値として設定することができる。抽出時間は、抽出に供する原料の使用量や装置に応じて適宜設定することができる。
【0022】
なお、抽出により得られた抽出物に対しては、ろ過、遠心分離、濃縮、希釈、限外ろ過、凍結乾燥、粉末化及び分画からなる群より選ばれる1種又は2種以上の処理を、公知の方法に従って行ってもよい。また、必要により、常圧下又は減圧下で前記処理を行うことができる。得られた抽出物は、体温付近の温度で揮発性を有するものであってもよい。
【0023】
本発明で用いる抽出物は、前記した公知の抽出方法によって調製したものであっても、市販品であってもよい。市販のアロマオイルであってもよい。例えば、ローズマリーの抽出物としては、ローズマリー・シネオール、ローズマリー・カンファー、ローズマリー・ベルベノンなどが挙げられるが、ローズマリー・カンファーを好適に用いることができる。また、ラベンダーとしては、真正ラベンダー、ラベンダー・ストエカス、ラベンダー・スピカ、ラベンダー・レイドバン、ラベンダー・スーパーなどが挙げられるが、真正ラベンダーを好適に用いることができる。
【0024】
本発明の抽出物の形状は、特に限定されず、粉状、固形状、液状のいずれの形状であっても良い。また、個別の抽出物を用いる場合、その形状は同一でも異なってもよい。
【0025】
本発明の阻害剤は、ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を有効成分とするが、阻害剤中、ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジの抽出物の合計含有量は、特に限定されず、例えば、0.01〜100重量%が例示される。
【0026】
また、各抽出物の含有量比としては、抽出物の形状や抽出方法によって一概には設定することができず、技術常識に従って適宜調整することができる。以下に一例を示すが、例えば、ローズマリーの含有量を1とする場合、その他は0.01〜100の範囲内で適宜調整することができる。具体的な各抽出物の含有量比(体積比)としては、例えば、ローズマリー抽出物/レモン抽出物/ラベンダー抽出物/オレンジ抽出物が、0.1〜10/0.1〜10/0.1〜10/0.1〜10、1〜5/1〜5/1〜5/1〜5が例示される。また、個々の抽出物を規定する場合、ローズマリー抽出物とレモン抽出物の含有量比としては、1〜5/1、1〜3/1が例示される。ラベンダー抽出物とオレンジ抽出物の含有量比としては、1〜5/1、1〜3/1が例示される。
【0027】
本発明の阻害剤は、アミロイドβ蛋白の生成やタウ蛋白のリン酸化を阻害することにより、アルツハイマー病、ダウン症候群、タウオパチー(例えば、嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、ピック病)の疾患や前記疾患に基づく症状の予防、改善又は治療に好適に用いることができる。また、BDNFを増加させる作用も有することから、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷、虚血性脳障害等の症状の予防、改善又は治療に用いることも可能である。
【0028】
本発明の阻害剤の形態としては、本発明の抽出物が嗅覚神経を介して脳内の神経細胞に作用する、あるいは、抽出物の一部が鼻粘膜から吸収されて生体内に摂取することができる形態であれば特に限定はなく、そのまま製剤化したり、医薬品、医薬部外品、飲食品、飲食品用添加剤、化粧品等の原材料に用いることが可能な形態に調製してもよい。前記した原材料としては、公知のものが特に限定なく用いられ、その成分及び配合量を適宜選択して常法により調製される。
【0029】
医薬品、医薬部外品としては、例えば、錠剤(素錠、糖衣錠、フィルムコーティング錠、舌下錠、口腔内崩壊錠、バッカル錠等を含む)、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、マイクロカプセル剤を含む)、トローチ剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁剤、放出制御製剤(例、速放性製剤、徐放性製剤、徐放性マイクロカプセル剤)、エアゾール剤、フィルム剤(例、口腔内崩壊フィルム、口腔粘膜貼付フィルム)、経皮吸収型製剤、軟膏剤、ローション剤、貼付剤、ペレット、経鼻剤、経肺剤(吸入剤)等の経口剤又は非経口剤が挙げられる。
【0030】
飲食品、飲食品用添加剤としては、例えば、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料、スープ類、食用油等の各種食品の他、果汁飲料、炭酸飲料、茶系飲料、スポーツ飲料、乳飲料、アルコール飲料、清涼飲料等が挙げられる。また、上記した医薬品、医薬部外品の経口投与型の形態も含まれる。
【0031】
化粧品としては、洗浄剤、シャンプー、リンス、ヘアートニック、ヘアーローション、アフターシェーブローション、ボディーローション、化粧ローション、クレンジングクリーム、マッサージクリーム、エモリエントクリーム、エアゾール製品、芳香剤又は入浴剤などを例示することができる。
【0032】
本発明の抽出物の含有量は、剤型、摂取方法、担体等により異なるが、例えば、製品中、通常0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜95重量%である。なお、本明細書において、本発明の抽出物の含有量とは、ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジの抽出物の合計含有量のことを意味する。
【0033】
摂取量は、使用者、症状、摂取ルートなどにより差異はあるが、経口摂取の場合、一般的に例えば、体重約60kgのヒトにおいては、本発明の抽出物の乾燥重量として、1日当たり約0.01〜1000mg、好ましくは約0.1〜100mg、より好ましくは約0.5〜50mgである。また、非経口摂取で使用する場合には、好ましくは経口摂取した場合の摂取量が生体内に取り込まれるよう、適宜設定することができる。
【0034】
摂取方法としては、摂取の形態に関わらず、前記した摂取量を1日1回〜数回に分けて摂取すればよい。また、本発明においては、本発明の抽出物として、例えば、ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジの抽出物を分割して摂取してもよく、抽出物を分割して摂取する場合には連続的に摂取しても、断続的に摂取してもよい。具体的には、例えば、ローズマリーの抽出物とレモンの抽出物を第一抽出物として、ラベンダーの抽出物とオレンジの抽出物を第二抽出物として分割し、第一抽出物を朝に、第二抽出物を夕方に摂取してもよい。
【0035】
また、本発明においては、本発明の抽出物をアロマテラピー用エッセンシャルオイルとして用いてもよく、所定の場所に撒布、拡散して、吸入し得る形態で使用することもできる。該オイルは、拡散器(ディフューザー)等を用いて撒布、拡散してもよい。撒布・拡散場所としては、特に限定されないが、例えば、前記した疾患や前記疾患に基づく症状を呈する患者が存在する家庭、病院、施設などで用いることが好ましい。具体的には、例えば、ローズマリーの抽出物とレモンの抽出物を第一抽出物として、ラベンダーの抽出物とオレンジの抽出物を第二抽出物として分割し、第一抽出物を朝に、第二抽出物を夕方に、それぞれ病院や施設内で拡散器(ディフューザー)等を用いて撒布、拡散してもよい。
【0036】
また、本発明の一態様として、本発明の抽出物を吸入することを特徴とする、アミロイドβ蛋白の減少方法及びタウ蛋白のリン酸化阻害方法を提供する。ここで用いられる抽出物は、本発明の抽出物の項を参照して用いることができる。また、吸入方法としては、本発明の抽出物を吸入できるのであれば、公知の吸入方法を限定されずに用いることができる。
【0037】
またさらに、本発明の抽出物が神経細胞に作用することから、本発明の別の態様として、ローズマリー、レモン、ラベンダー及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を有効成分とする、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の生成促進剤を提供する。本発明のBDNFの生成促進剤は、本発明の阻害剤と有効成分が同じであるため、その調製方法や形状、使用に関しては、本発明の阻害剤の項を参照することができる。
【0038】
BDNFは、神経細胞の新生・成長・分化・再生を促進することから、本発明のBDNFの生成促進剤は、前記作用の発現が望まれる疾患に好適に用いることができる。具体的には、例えば、BDNFを増加させることにより、アルツハイマー病、ダウン症候群、タウオパチー(例えば、嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、ピック病)の疾患や前記疾患に基づく症状の予防、改善又は治療に好適に用いることができる。また、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷、虚血性脳障害等の症状の予防、改善又は治療に用いることも可能である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
実施例1
アロマテラピーによる、認知機能への影響を調べた。
【0041】
具体的には、老化促進・認知機能低下モデル動物であるSAMP8/TaSlcマウス(雄、3ヶ月齢、Japan SLC Inc.)を個別にケージに入れた状態で飼育室にて飼育した(n=8〜9)。その際に、夜間(20〜8時)に15μLのレモン精油と30μLのローズマリー・カンファー精油の混合物を、日中(8〜20時)に30μLの真正ラベンダー精油と15μLのオレンジ精油の混合物を、それぞれ調製して直径10cmの濾紙に含浸させて、個々のケージの近くに載置した。このようなタイムスケジュールでアロマオイルに曝露させて治療を行うことを1サイクルとし、かかるサイクルを週に4日間、2ヶ月にわたって行った(Aroma群)。そして、治療開始前、治療開始1ヵ月後、2ヶ月後に、それぞれ以下に示す空間作業記憶に関するテストを行った。結果を
図1に示す。なお、対照としては、アロマオイルに曝露させない以外は同じようにして飼育した対照群(Control群)を用いた。
【0042】
<空間作業記憶に関するテスト>
Y字迷路試験(Y-maze test)を用いて評価した。具体的には、同じ大きさの3本のアームが120°で連結されたY字型の装置内を自由に8分間移動させ、進入したアームを順番に記録した。3本のアームに侵入した総回数のうち、3回連続で異なるアームを選択した場合を自発交替行動とし、時間内のアームへの総進入回数及び自発交替行動数をカウントし、以下の式から、自発交替行動率(%)を算出した。なお、自発交替行動率(%)が高いほど、空間作業記憶が高く認知機能が良好であることを示す。
自発交替行動率(%)=自発交替行動数/(総進入回数-1)×100
【0043】
図1にY字迷路試験における自発交替行動率(%)を示す。治療開始時、各群の自発交替行動率は約71%(対照群で70.8±2.1%、アロマテラピー群で70.8±1.9%)であり、全個体の認知機能は正常範囲であった。そして、治療開始2ヵ月後には、自発交替行動率は対照群では52.6±1.9%に低下し認知機能障害が認められたが、アロマテラピー群は治療開始時とほぼ同じレベルを維持しており(64.4±2.2%)、2つの群に有意差が確認された。この結果は、アロマテラピーがSAMP8マウスの認知機能障害を予防あるいは改善することを示している。
【0044】
実施例2
アロマテラピーによる、脳内のアミロイドβ蛋白量に対する影響を調べた。
【0045】
具体的には、実施例1の治療終了時に、100mg/kgペントバルビタールナトリウム(共立製薬)を腹腔内投与して深麻酔下でマウスを開腹、心臓より生理食塩水で灌流して血液を取り除いた後に脳を摘出し嗅球と海馬を採取した。得られた組織に、0.5mMのフェニルメチルスルホニルフルオライド(Sigma-Aldrich)、1×PhosSTOP(Roche)及び1%プロテアーゼ阻害剤カクテル(ナカライテスク)を含む2×RIPA緩衝液を10倍量添加してホモジネートし、さらに15,000×g、4℃で60分間遠心分離して、上清を蛋白質抽出物として回収した。
【0046】
次に、アミロイドβELISAキット(和光純薬工業)を用いて、海馬中のアミロイドβ42量及びアミロイドβ40量を測定した。結果を
図2に示す。
【0047】
図2より、記憶機能に関する領域である海馬において、アロマテラピー群で有意にアミロイドβ蛋白量が低下していることが分かった。
【0048】
実施例3
アロマテラピーによる、タウ蛋白のリン酸化に対する影響を調べた。
【0049】
具体的には、実施例2で調製した海馬蛋白質抽出物を用い、Western blotting法によるタウ蛋白定量を行った。該蛋白質抽出物を等量のTris-SDSβME試料緩衝液(Cosmo Bio)と混合し、100℃で10分間煮沸した。これらの試料を5〜20%ポリアクリルアミドゲル(和光純薬工業)上で200Vで1時間電気泳動した。電気泳動した試料を、0.45μmポリビニリデンジフルオリド膜(Merck Millipore)に転写(条件:8V・60分間)した。さらに0.05%Tween20を含むトリス緩衝生理食塩水(TBS-T)に2.5%スキムミルクを溶解したブロッキング液で1時間ブロッキングした後、抗リン酸化タウAT8あるいは抗タウ抗体TAU-5(ブロッキング液で1:1000希釈)で4℃・一晩インキュベートした。TBS-Tで10分間3回洗浄した後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合抗マウスImmunoglobulin G(ブロッキング液で1:3000希釈;GE Healthcare)で室温・1時間インキュベートした。TBS-Tで10分間3回洗浄した後、化学発光HRP基質(Merck Millipore)を用いてタウ蛋白を検出し、画像分析装置(ImageQuant LAS4000;GE Healthcare)を用いて分析した。結果を
図3に示す。
【0050】
図3より、TAU-5によって検出される総タウ蛋白量は両者で変わらなかったが、AT8によって検出されるリン酸化タウ蛋白量はアロマテラピー群において有意に減少していることが分かった。これらの結果は、アロマテラピーが脳におけるアミロイドβ蛋白の産生及びタウ蛋白のリン酸化の阻害によってSAMP8マウスにおける認知機能障害を改善することを示唆している。
【0051】
実施例4
アロマテラピーによる、BDNFに対する影響を調べた。
【0052】
具体的には、実施例2で調製した嗅球蛋白質抽出物を用い、Western blotting法によるBDNF定量を行った。測定は実施例3と同様にして行い、電気泳動には15〜20%トリシンゲル(和光純薬工業)を、さらに一次抗体として抗BDNF抗体N-20(1:200希釈;Santa Cruz Biotechnology)、二次抗体としてホースラディッシュペルオキシダーゼ結合抗ウサギImmunoglobulin G(1:3000希釈;GE Healthcare)を用いた。なおWestern blotting法によって検出されるBDNF蛋白質のうち、約30kDaのものを前駆型BDNF、約14kDaのものを成熟型BDNFとして定量した。結果を
図4に示す。
【0053】
図4より、アロマテラピーによる嗅覚刺激をより強く受ける嗅球において、前駆型BDNF・成熟型BDNFともに増加傾向がみられた。この結果は、アロマテラピーがBDNFの発現量を増加させることを示唆している。
【0054】
実施例5
アロマテラピーによる、運動機能に対する影響を調べた。
【0055】
具体的には、実施例1の治療終了時に、マウスの協調運動の能力を、ロータロッドトレッドミルMK-670(室町機械)を用いて評価した。マウスを回転ロッド上に置き、300秒かけて毎分40回の回転数になるまで加速し、マウスが落下するまでの時間を最大300秒間記録した。各マウスに2回の試験を実施し、その平均を計算した。また、マウスの四肢の握力を、マウス握力計MK-380M(室町機械)を用いて評価した。各マウスに3回の試験を実施し、その平均を計算した。結果を
図5に示す。
【0056】
図5では、
図5Aにロッドから落下するまでの時間(秒)を、
図5Bに握力(g)を示す。
図5Aより、ロータロッド試験では、アロマテラピー群のマウスは、対照マウスと比較して落下するまでの時間が有意に増加した。
図5Bより、握力強度試験では、アロマテラピー群は対照群と比較して握力が12%強かった。これらの結果は、アロマテラピー群のマウスは、対照群マウスよりも高い運動機能を有することを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の阻害剤は、脳内のアミロイドβ蛋白・リン酸化タウ蛋白を減少させる作用に優れることから、アルツハイマー病、ダウン症候群、タウオパチー(嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、ピック病等)の疾患や前記疾患に基づく症状の予防、改善又は治療に好適に用いることができる。また、BDNFを増加させることにより、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷、虚血性脳障害等の症状の予防、改善又は治療に用いることも可能である。