【実施例1】
【0018】
図1において,内燃機関Eは,例えば自動二輪車に駆動ユニットとして搭載されるもので,その機関本体1は,単気筒,即ち単一のシリンダボア2aを有するシリンダブロック2と,このシリンダブロック2の上端面に接合されるシリンダヘッド3と,さらにシリンダヘッド3の上端面に接合されるヘッドカバー4と,シリンダブロック2の下面に接合されるクランクケース(図示せず)とを備えており,シリンダブロック2及びクランクケース間で支持されるクランクシャフト(図示せず)にコンロッド5を介して連結されるピストン6がシリンダボア2aに摺動可能に嵌装される。
【0019】
シリンダヘッド3には,上記ピストン6の頂面が臨む燃焼室7と,この燃焼室7の天井面に開口する吸気ポート8i及び排気ポート8eとが設けられており,これら吸気ポート8i及び排気ポート8eをそれぞれ開閉する吸気弁9i及び排気弁9eがシリンダヘッド3に取り付けられる。その際,これら吸気弁9i及び排気弁9eは,これらの弁杆が下方に向かってシリンダボア2aの中心軸線に近づくよう互いに傾斜して配置され,そして吸気弁ばね10i及び排気弁ばね10eにより,それぞれ閉じ方向に付勢される。
【0020】
図1及び
図2おいて,シリンダヘッド3及びヘッドカバー4間には動弁室12が画成され,この動弁室12には,前記吸気弁9i及び排気弁9eを開閉駆動する動弁装置Vが収容される。
【0021】
この動弁装置Vは,軸方向に並ぶ吸気カム13i及び排気カム13eを一体に有して吸気弁9i及び排気弁9e間に配置されるカムシャフト13と,このカムシャフト13及び吸気弁9i間にカムシャフト13と平行に配置される吸気ロッカシャフト14iと,カムシャフト13及び排気弁9e間にカムシャフト13と平行に配置される排気ロッカシャフト14eと,吸気ロッカシャフト14iに揺動可能に支持されて吸気カム13i及び吸気弁9i間を連動,連結する吸気ロッカアーム15iと,排気ロッカシャフト14eに揺動可能に支持されて排気カム13e及び排気弁9e間を連動,連結する排気ロッカアーム15eとを備える。
【0022】
以上において,カムシャフト13は,シリンダヘッド3の上面に形成される軸受部3aに一対のボールベアリング16a,16bを介して回転可能に支持され,その一端部には,前記クランクシャフト(図示せず)から減速駆動されるドリブンスプロケット17が固着される。吸気ロッカシャフト14iでは,ドリブンスプロケット17側の一端部がシリンダヘッド3の軸受部3aに支持されると共に,ボルト18により固定される。また排気ロッカシャフト14eでは,両端部がシリンダヘッド3の軸受部3aに支持されると共に,ボルト19により固定される。
【0023】
吸気ロッカアーム15iは,吸気ロッカシャフト14iを囲むボス15aと,このボス15aから吸気カム13i側に延出する第1アーム15bと,ボス15aから吸気弁9i側に延出する第2アーム15cとよりなっており,第1アーム15bの端部に軸支されたローラ29が吸気カム13iの外周面に転動可能に当接し,第2アーム15cの端部に固着された調整ボルト31が吸気弁9iの弁頭に押圧可能に対向,配置される。
【0024】
図3及び
図4に示すように,吸気ロッカアーム15iの前記ボス15aは,吸気ロッカシャフト14iよりも遥かに大径の軸受孔23を有しており,このボス15aと吸気ロッカシャフト14iとの間に,吸気ロッカアーム15iの揺動中心軸線X2を移動させて吸気弁9iの開閉タイミング及び開弁リフト量を変え得る動弁可変機構20が設けられる。
【0025】
この動弁可変機構20は,吸気ロッカシャフト14iと前記軸受孔23との間に回転可能に装着される偏心軸受21を備え,この偏心軸受21によって,軸受孔23の中心軸線,即ち吸気ロッカアーム15iの揺動中心軸線X2が,吸気ロッカシャフト14iの中心軸線X1に対して所定距離e偏心した位置に設定される。
【0026】
図示例では,上記偏心軸受21は,吸気ロッカシャフト14iの外周面と吸気ロッカアーム15iの軸受孔23内周面との間の空間を埋めるべく直径を異ならせながら環状に且つ転動可能に配列される複数のニードルローラ24a〜24jと,これらニードルローラ24a〜24jをそれぞれ転動可能に保持する複数の保持孔24a〜24jを有する円筒状の保持器25とで構成される。ニードルローラ24a〜24jの直径は,吸気ロッカシャフト14iの外周面と,それに対して偏心した吸気ロッカアーム15iの軸受孔23内周面との間の間隔の変化に対応して設定される。その結果,ニードルローラ24a〜24jは,その横断面において,前記中心軸線X1及び揺動中心軸線X2を通る対称軸Yに関して対称的に配列され,その対称軸Yの一端側に配置されるニードルローラ24aが最大径となり,その他端側に配置されるニードルローラ24fが最小径となる。このように,直径を異にした複数のニードルローラ24a〜24jを配列することによって,揺動中心軸線X2は,前記中心軸線X1に対して所定距離e偏心した位置に設定されるのである。
【0027】
図2及び
図5において,前記保持器25の一端には,ロータリソレノイド27の出力軸27aがジョイント部材26を介して連結される。ロータリソレノイド27は,ヘッドカバー4の外側面にボルト28で固定され,通電のオン・オフにより,出力軸27aを一定角度をもって正逆転するようになっている。
【0028】
図5及び
図6に示すように,前記ジョイント部材26は,円筒状の前記保持器25の一端面に溶接等により固着されるフランジ26aと,このフランジ26aより,保持器25と反対側に突出する連結軸26bとよりなっている。前記保持器25の各保持孔25a〜25jは,各ニードルローラ24a〜24jの最大径部を保持するものであり,したがって,この保持器25の中心軸線X3は,前記中心軸線X1と揺動中心軸線X2との中間位置を占めることになり,この保持器25に固着されるフランジ26aは保持器25と同軸となる。連結軸26bは,上記フランジ26aに対して偏心していて,前記中心軸線X1と同軸上に配置される。一方,ロータリソレノイド27の出力軸27aの回転軸線X4も前記中心軸線X1と同軸上に配置され,この出力軸27aが連結軸26bにスプライン嵌合される。
【0029】
再び,
図1及び
図2において,前記排気ロッカアーム15eにおいては,従来普通のように,中間部のボスが前記排気ロッカシャフト14eに直接的に揺動可能に支持されると共に,一端部に軸支されたローラ30が排気カム13eの外周面に転動可能に当接し,他端部に固着された調整ボルト32が排気弁9eの弁頭に押圧可能に対向,配置される。
【0030】
次に,この実施例1の作用について説明する。
【0031】
内燃機関Eの運転中,カムシャフト13回転に伴う吸気カム13i及び排気カム13eの吸気ロッカアーム15i及び排気ロッカアーム15eに対する揺動作用と,吸気弁ばね10i及び排気弁ばね10eの吸気弁9i及び排気弁9eに対する戻し作用との相互作用によって,吸気弁9i及び排気弁9eは,
図7に示すように,所定の開閉タイミングと開弁リフト量をもって開閉される。
【0032】
ところで,いま,内燃機関Eが低速運転状態にあり,通電オフ状態のロータリソレノイド27により,
図3に示すように,偏心軸受21は,吸気ロッカアーム15iの揺動中心軸線X2を吸気ロッカシャフト14iの中心軸線X1の直上に位置させるように保持されている。そして吸気ロッカアーム15iの第1アーム15bの端部,即ちローラ29が吸気カム13iのベース円部13aに接していて,吸気弁9iが閉じているとき,その弁頭間隙,即ち調整ボルト31と吸気弁9iの弁頭との間の間隙は,調整ボルト31の進退調節により比較的大きい値g1に調整されているとする。
【0033】
この状態で吸気カム13iが矢印A方向に回転して,そのノーズ部13bがローラ29を押し上げると,吸気ロッカアーム15iは,揺動中心軸線X2を中心として,第1アーム15bを上向きに,第2アーム15cを下向きに動かすように揺動し,第2アーム15cの調整ボルト31が弁頭間隙g1を詰めて,吸気弁9iの弁頭に当接してから吸気弁9iの開弁が始まる。つまり,吸気カム13iのノーズ部13bによる吸気ロッカアーム15iの揺動が開始しても,弁頭間隙g1が無くなるまでのノーズ部13bの回転は無効となり,これによりノーズ部13bの有効リフト量,即ち吸気弁9iの開弁リフト量は比較的小さいものとなる。
【0034】
図7において,この内燃機関Eの低速運転状態における吸気弁9iの開閉特性を線Lで示しており,弁重合角(オーバラップ)α1は比較的小さく設定されている。したがって吸気の吹き抜けが少なく,低速運転に適した吸気充填効率を得ることができる。
【0035】
内燃機関Eが所定の高速運転状態になると,図示しない高速運転検知センサの出力信号によりロータリソレノイド27は通電オン状態となって所定角度正転して,出力軸27aによりジョイント部材26を介して保持器25を
図3の状態から
図4の状態に回転させる。これにより,異径のニードルローラ24a〜24j群は,固定の吸気ロッカシャフト14iの外周面及び吸気ロッカアーム15iの軸受孔23の内周面を転がりながら,揺動中心軸線X2を,固定の吸気ロッカシャフト14iの中心軸線X1を中心として吸気弁9i側へ鋭角の所定角度θ(図示例では45°)移動させる。
【0036】
この揺動中心軸線X2の移動には,揺動中心軸線X2の下向き移動成分aと吸気弁9i側への横向き移動成分bとが含まれており(
図4中の要部拡大図参照),その下向き移動成分aによれば,
図4に示すように,吸気弁9iが閉じ状態にあるときの弁頭間隙が前記g1より小さい値g2に制御される。その結果,吸気カム13iのノーズ部13bの無効回転角が減少するため,ノーズ部13bによる吸気弁9iの開弁リフト量は増加する。
【0037】
一方,揺動中心軸線X2の吸気弁9i側への横向き移動成分bによれば,吸気ロッカアーム15iの第1アーム15bの端部,即ちローラ29の吸気カム13iとの接触点が吸気カム13iの回転方向Aと反対側へ移動することになって,ノーズ部13bによる吸気弁9iの開弁タイミングが進角することになる。その結果,
図7に示すように,弁重合角はα1からα2へと広がり,
図7中の線Hで示す開閉特性を呈する。
【0038】
而して,弁重合角α2への広がりによれば,吸気による燃焼室7内の掃気効果が向上し,また吸気弁9iの開弁リフト量の増加によれば,吸気充填効率が向上することで,内燃機関Eは低燃費で高出力の高速運転性能を発揮することができる。
【0039】
内燃機関Eが再び低速運転状態に戻れば,ロータリソレノイド27は通電オフ状態になって出力軸27aを逆転させるので,偏心軸受21も先刻とは逆方向に回転して,揺動中心軸線X2を
図3の初期位置まで戻すことになる。
【0040】
ところで,偏心軸受21は,シリンダヘッド3に固定される吸気ロッカシャフト14iと,吸気ロッカアーム15iの軸受孔23との間に回転可能に装着され,慣性重量が比較的小さいものであるから,これを駆動するロータリソレノイド27は比較的小容量のもので足り,動弁可変機構20の小型,軽量化に資することができる。更に,偏心軸受21は,ロータリソレノイド27の通電オン・オフにより,減速機を介することなく直接,正逆駆動されるので,ロータリソレノイド27の制御,並びに偏心軸受21に対する駆動系の簡素化を図ることができる。
【0041】
また偏心軸受21は,吸気ロッカシャフト14iの外周面と,吸気ロッカアーム15iの軸受孔23の内周面との間の空間を埋めるべく直径を異ならせながら環状且つ転動可能に配列される複数のニードルローラ24a〜24jと,各ニードルローラ24a〜24jを転動可能に保持する保持孔25a〜25jを有する保持器25とを備え,この保持器25をロータリソレノイド27により回転させて,各ニードルローラ24a〜24jを転動させながらニードルローラ24a〜24j群を回転させることで,吸気ロッカアーム15iの揺動中心軸線X2を移動させるので,ニードルローラ24a〜24j群の回転時の転がり抵抗は極めて小さく,より小容量のロータリソレノイド27により保持器25を回転させることができる。
【0042】
また保持器25は,吸気ロッカシャフト14iに対して偏心していても,この保持器25の一端部には,吸気ロッカシャフト14iと同軸上に配置される連結軸26bを有するジョイント部材26が接続され,その連結軸26bにロータリソレノイド27の出力軸27aが連結されるので,上記出力軸27aにより連結軸26bを回転させることにより,保持器25を的確に回転駆動することができる。即ち,互いに偏心した保持器25及び出力軸27a間を,複雑なオルダムジョイントを介在させることなく回転,連動させることができ,保持器25の駆動系の簡素化を図ることができる。
【0043】
またロータリソレノイド27の正転又は逆転後は,保持器25はロータリソレノイド27により所定位置に固定されるので,ニードルローラ24a〜24jを保持孔25a〜25jによりそれぞれ定位置に保持し続けることになる。したがって,吸気カム13i及び吸気弁ばね10iによる吸気ロッカアーム15iの揺動時には,ニードルローラ24a〜24jは,それぞれ保持孔25a〜25j内で回転しながら吸気ロッカシャフト14iの外周面,及び吸気ロッカアーム15iの軸受孔23内周面を転がることになるので,それらの転がり抵抗は極めて小さいことから,吸気ロッカアーム15iの揺動はスムーズとなり,動力の摩擦損失の低減に寄与し得る。
【実施例2】
【0044】
図8に示すように,本発明の実施例2では,動弁可変機構20の偏心軸受21′は,その内周面と外周面とが互いに一定距離e偏心したスリーブで構成され,その内周面が固定の吸気ロッカシャフト14iに,外周面が吸気ロッカアーム15iの軸受孔23にそれぞれ回転可能に嵌合される。この偏心軸受21′の外端部には,前記実施例1の連結軸26bのように,吸気ロッカシャフト14iと同軸上に配置される連結軸21′aが設けられ,この連結軸21′aが,前記実施例1と同様にロータリソレノイド27(
図5参照)により駆動されるようになっている。その他の構成は実施例1と同様であるので,
図8中,実施例1との対応部分には,同一の参照符号を付して,それらの詳細な説明を省略する。
【0045】
この実施例2においても,連結軸21′aをロータリソレノイド27により駆動することにより,スリーブ状の偏心軸受21に回転を与えると,偏心軸受21の外周面に回転可能に嵌合した吸気ロッカアーム15iの軸受孔23の中心,即ち揺動中心軸線X2を前記実施例1と同様に移動させ,吸気弁9iの開弁リフト量及び開弁タイミングを変えることができる。
【0046】
この実施例2によれば,スリーブ状の偏心軸受21を用いることにより,装置の部品点数の削減,延いては構造の簡素化を図ることができる。
【0047】
尚,本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0048】
例えば,排気弁9eについても,その開弁リフト量及び開弁タイミングを内燃機関Eの運転状態に応じて変えるべく,動弁可変機構20を適用することができる。また本発明は多気筒内燃機関の動弁装置にも適用し得ることは勿論である。
【0049】
また揺動中心軸線X2の中心軸線X1に対する偏心量eを変えたり,揺動中心軸線X2の初期位置,揺動中心軸線X2の移動方向及び移動量等を変えたりすることにより,吸,排気弁9i,9eを含む機関弁の開弁リフト量及び開弁タイミングを同時に,又は開弁リフト量のみを,あるいは開弁タイミングのみを変化させることができる。例えば,中心軸線X1の直上に位置する揺動中心軸線X2を中心軸線X1を中心としてカムシャフト13側に鋭角の所定角度移動させれば,機関弁の開弁リフト量を増加させると共に,その開弁タイミングを遅角させることができる。また例えば,揺動中心軸線X2を,中心軸線X1を挟んで横方向(ロッカアームの長手方向)に180°移動させれば,機関弁の開弁タイミングのみを進角あるいは遅角させることができる。また例えば,揺動中心軸線X2を,中心軸線X1を挟んで上下方向に180°移動させれば,機関弁の開弁リフト量のみを増減させることができる。