【課題】戸当たり8の溝部9に取付固定されて閉じ状態のドア6との間を遮音する防音用パッキンPの溝部9内への押込み不足をなくすとともに、パッキンPの基部10の幅方向両端部が溝部9両側の戸当たり8表面から浮き上がるのを防いで見映えの向上を図る。
【解決手段】防音用パッキンPは、溝部9の開口を覆うように配置される板状の基部10と、基部10の幅方向中間部の裏側に、該基部10とによって中空部分12を形成するように互いに離間した状態で一体に接続され、溝部9に嵌合されて取り付けられる脚部11と、基部10の表側に設けられ、ドア6との当接により変形して該ドア6との間を遮音状態にシールするシール部13とを備える。基部10には、脚部11が溝部9に押し込まれたときに基部10がシール部13に向かって中凸形状に変形するように誘導する変形誘導部としての凹条10aが設けられている。
建物の開口部周囲の枠部における戸当たりの溝部に取り付けられ、該戸当たりと戸当たりが受ける閉じ状態のドアとの間を遮音状態に封止するゴム製の防音用パッキンであって、
前記溝部の開口を覆うように配置される板状の基部と、
前記基部の幅方向中間部の裏面に、該基部とによって中空部分を形成するように互いに離間した状態で一体に接続され、前記溝部に嵌合されて取り付けられる脚部と、
前記基部の表面に設けられ、前記ドアとの当接により変形して該ドアとの間を遮音状態にシールするシール部と、
を備え、
前記基部の幅方向中間部には、前記脚部が前記溝部に押し込まれて該脚部の基部との接続部同士が互いに近付いたときに前記基部が前記シール部に向かって中凸形状に変形するように誘導する変形誘導部が設けられている、
ことを特徴とする防音用パッキン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、特許文献2に示される構造に基づき、新しいパッキンとして、戸当たりの溝部の開口を覆うように配置される板状の基部を設け、その基部の裏面に脚部を基部との間に中空部分を形成するように一体に設け、基部の表面に、ドアと当接して遮音状態にシールするシール部を一体的に設けた構造のものが考えられる。
【0007】
しかし、その場合、パッキンの戸当たりへの取付時に、パッキンにおける基部の幅方向中間部をシール部の上から押して脚部を戸当たりの溝部に押し込む際、その脚部が溝部内の側面に押されて中空部分を小さくするように変形し始めると、その変形に伴い、基部は、押している部分である幅方向中間部を両端部よりも溝部内側に凹陥させるように湾曲変形する。このように基部の幅方向中間部が凹陥すると、基部に対する押圧部分が凹んだ状態となり、それ以降、押圧部分が逃げて基部をさらに押すことが困難となり、脚部の溝部への押込み不足が生じる虞れがある。
【0008】
しかも、基部の幅方向中間部が凹陥することにより、その基部の幅方向両端部は溝部両側の戸当たりの表面から浮き上がるようになり、基部の幅方向両端部と溝部両側の戸当たり表面との間に隙間が生じて、外観上の見映えが悪くなる。
【0009】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、パッキンの構造に改良を加え、そのパッキンの脚部が溝部内に容易に嵌合されるようにしてその押込み不足をなくすとともに、基部の幅方向両端部が溝部両側の戸当たり表面から浮き上がるのを防いで見映えの向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、この発明では、パッキンの脚部が戸当たりの溝部内に押し込まれたときに、基部を幅方向中間部が両端部よりも溝部と反対側に膨らむように湾曲変形させる誘導部分を設けることとした。
【0011】
具体的には、第1の発明は、建物の開口部周囲の枠部における戸当たりの溝部に取り付けられ、該戸当たりと戸当たりが受ける閉じ状態のドアとの間を遮音状態に封止するゴム製の防音用パッキンであって、前記溝部の開口を覆うように配置される板状の基部と、前記基部の幅方向中間部の裏面に、該基部とによって中空部分を形成するように互いに離間した状態で一体に接続され、前記溝部に嵌合されて取り付けられる脚部と、前記基部の表面に設けられ、前記ドアとの当接により変形して該ドアとの間を遮音状態にシールするシール部と、を備える。そして、前記基部の幅方向中間部には、前記脚部が前記溝部に押し込まれて該脚部の基部との接続部同士が互いに近付いたときに前記基部が前記シール部に向かって中凸形状に変形するように誘導する変形誘導部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
この第1の発明では、パッキンを戸当たりの溝部に取付固定する際、パッキンのシール部の上から基部を押すことによって、その脚部が戸当たりの溝部内に押し込まれる。こうして脚部が溝部に押し込まれると、その脚部は溝部内の対向する両側面から押されるので、まず、脚部において基部との接続部が互いに近付いて、脚部と基部とによって形成されている中空部分が小さくなるように変形する。パッキンの基部の幅方向中間部に変形誘導部が設けられているので、前記のような脚部の変形が生じると、変形誘導部により基部の変形が誘導され、その基部はシール部に向かって中凸形状に変形する。そのため、これに引き続いて脚部を溝部に押し込む際に、この変形した基部の幅方向中間部においてシール側に突出した中凸部分つまり脚部の中間部分の真上の部分を押すことになり、押込みの力を中凸部分で受けて、その力が脚部に伝わり易くなり、パッキンをシール部の上側から溝部へ押し込み易く、パッキンの脚部を戸当たりの溝部に対して完全に嵌合させ、押込み不足が生じるのを防止することができる。
【0013】
また、脚部を溝部に押し込んだ状態において、基部がシール部に向かって中凸形状に変形することで、基部が幅方向端部において溝部の開口両側の戸当たり表面と近接ないしは当接するようになり、このことから、基部の幅方向両端部と戸当たり表面との間に隙間が生じ難くなり、外観上の見映えを向上させることができる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、前記変形誘導部は、基部の裏面に凹設された凹条を有することを特徴とする。
【0015】
この第2の発明では、基部の幅方向中間部の裏面に凹条が設けられているので、パッキンの脚部が戸当たりの溝部内に押し込まれ、脚部の基部との接続部分が互いに近付いて、脚部と基部とによって形成されている中空部分が小さくなるように変形すると、基部がその幅方向中間部の凹条を起点としてシール部に向かって中凸形状に変形するようになる。よって、変形誘導部が具体的に得られる。
【0016】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記変形誘導部は、前記基部の非変形状態でシール部に向かって湾曲したアーチ部を有することを特徴とする。
【0017】
この第3の発明では、基部の幅方向中間部にシール部に向かって湾曲したアーチ部が設けられているので、パッキンの脚部が戸当たりの溝部内に押し込まれ、脚部の基部との接続部分が互いに近付いて、脚部と基部とによって形成されている中空部分が小さくなるように変形すると、基部がその幅方向中間部のアーチ部を起点としてシール部に向かって中凸形状に変形するようになる。よって、変形誘導部が具体的に得られる。
【0018】
しかも、パッキンの脚部を戸当たりの溝部内に押し込み始める初期の段階でも、基部において、脚部の真上部分のアーチ部を押すことができ、その押込みの力をアーチ部で受けて、その力が脚部に伝わり易くなり、脚部を容易に押し込むことができる利点がある。
【0019】
第4の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、前記脚部は、互いに離間した1対の基端部が前記基部の裏面に一体に接続されかつ該基部とによって前記中空部分を形成する断面U字状又は断面V字状の脚部本体と、前記脚部本体の外面に突設され、先端部で前記溝部の側面に圧接するひれ状の複数の突条片と、を有するものとし、前記変形誘導部は、前記基部において前記脚部本体の前記1対の基端部が接続されている部位の間に設けられていることを特徴とする。
【0020】
この第4の発明では、パッキンの脚部における脚部本体の外面にひれ状の複数の突条片が突設されていることから、その脚部が戸当たりの溝部内に押し込まれると、脚部は、その脚部本体の外面における複数の突条片が各先端部で溝部の側面と圧接して変形した状態で溝部内に嵌合し、この突条片の溝部側面への圧接によって脚部が溝部内に物理的に係合した状態で固定される。これによって、脚部は戸当たりの溝部の側面から摩擦力を受けるので、脚部が溝部から自然に抜け出し難くなる。また、この状態では、溝部側面からの反力により脚部本体の基端部が互いに近付くように移動して、脚部は基部とによって形成されている中空部分が小さくなるように変形する。そして、変形誘導部は、基部において脚部本体の離間した基端部が接続されている部位の間に設けられているので、脚部の脚部本体における一対の基端部が互いに近付くように移動するのに伴い、変形誘導部によって基部がシール部に向かって中凸形状にスムーズに変形するようになり、よって変形誘導部による基部の変形が容易に行われる。
【0021】
第5の発明は、第1〜第4のいずれか1つの発明において、前記シール部は、前記基部及び前記脚部よりも軟らかいゴムで構成されていること特徴とする。
【0022】
この第5の発明では、ドアと当接してドアとの間をシールするシール部を構成するゴムが軟らかいので、ドアを閉じた際に、シール部はドア形状に沿うように変形してドアと広い面積で密着するようになる。一方、パッキンの基部及び脚部はシール部よりも硬いので、脚部は溝部内で確実に押し込まれて強固に係合固定され、基部は戸当たりの表面において溝部を確実に覆うように配置される。
【0023】
第6の発明では、第4又は第5の発明において、前記複数の突条片は、前記脚部本体における前記基端部側に互いに対応して設けられた2つの第1突条片と、前記脚部本体における先端部側に互いに対応して設けられた2つの第2突条片とを含むものとし、前記第1突条片の突出高さが前記第2突条片の突出高さよりも高いことを特徴とする。
【0024】
この第6の発明では、脚部において、基部側の各第1突条片の突出高さを先端部側の第2突条片の突出高さよりも高くすることで、脚部が溝部に嵌合したときに、脚部本体が基端部側で互いに近づくように大きく変形し易くなる。これによって、脚部が溝部に嵌合したときに、基部が中凸形状に変形した際のシール部側への突出量が大きくなる。その結果、第1の発明の効果がより有効に発揮される。しかも、このような第1及び第2突条片の突出高さの違いにより、脚部が全体として先細り形状となり、その戸当たりの溝部への嵌合が容易となる。
【0025】
第7の発明では、第1〜第6のいずれか1つの発明において、前記シール部は、前記建物の開口部周囲の枠部に当接する帯状角部を有することを特徴とする。
【0026】
この第7の発明では、シール部が建物の開口部周囲の枠部に当接するので、シール部は枠部と戸当たりとの間及び枠部と戸当たりが受ける閉じ状態のドアとの間を封止状態に遮音することとなり、防音用パッキンの防音効果を向上させることができる。
【0027】
第8の発明は防音構造に係り、この防音構造は、建物の開口部周囲の枠部に、該開口部を開閉する防音ドアが支持され、前記枠部に前記防音ドアを受ける戸当たりが取付固定され、前記戸当たりに溝部が形成されていて、該溝部に第1〜第7のいずれか1つの発明の防音用パッキンが嵌合されて取り付けられていることを特徴とする。
【0028】
この第8の発明では、第1〜第7の発明の作用効果を奏する防音構造を得ることが出来る。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明によると、防音用パッキンの基部の幅方向中間部には、その脚部が戸当たりの溝部に押し込まれて脚部の基部との接続部分同士が互いに近付いたときに前記基部がシール部に向かって中凸形状に変形するように誘導する変形誘導部が設けられているので、その変形した中凸形状の基部をシール部の上から押して脚部を容易に押し込むことができ、脚部の溝部内への押込み不足が生じるのを防止できるとともに、中凸形状に変形した基部の幅方向両端部を溝部の開口両側の戸当たり表面に近接ないしは当接させて、それらの間に隙間を生じ難くし、外観上の見映えを向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0032】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係る防音構造Sを示す。
図1において、1は建物内に設けられた防音用途空間(例えば防音スタジオや楽器演奏用ルーム、シアタールーム、オーディオルーム等)であって、この防音用途空間1は、それに隣接する他の隣接空間2と壁部3によって仕切られている。この壁部3には、隣接空間2から防音用途空間1に出入り可能な開口部4が形成され、この開口部4の周囲全体には上下の横枠及び左右の縦枠からなる枠部5が施工されている。この枠部5には、例えば防音用途空間1側に移動して開く内開きの防音ドア6が丁番7(ヒンジ)を介して揺動可能に支持されており、この丁番7回りに揺動する防音ドア6によって開口部4(枠部5内)が開閉されるようになっている。防音ドア6は、図示しないが、例えば内部に防音材を収容していて、それ自体で遮音性(防音性)を有している。
【0033】
枠部5の内周面には、ドア6を受けるための小角材からなる戸当たり8が枠部5の全体に亘って連続するように取付固定されており、当該戸当たり8はドア6の閉止時にドア6表面の周縁部と対向する。戸当たり8の防音用途空間1側の表面には、その幅方向略中央部位に溝部9が形成されている。この溝部9は溝幅が開口部から底部まで同じ断面矩形状のもので(例えば溝幅11mm、溝深さ8mm)、戸当たり8の全体に亘って閉じループ状に連続するように設けられている。尚、防音ドア6は、隣接空間2側に移動して開く外開きのタイプとし、戸当たり8の隣接空間2側の表面に溝部9を形成してもよい。
【0034】
前記溝部9には、本発明の実施形態に係るゴム製の防音用パッキンPが取り付けられており、防音ドア6が閉じて該ドア6の周縁部が戸当たり8に近接したときに、そのドア6の周縁部をパッキンPに密着状に当接させて、ドア6の周縁部と戸当たり8との間の隙間を遮音状態に気密シールし、その隙間からの音漏れを防いで遮音するようになっている。
【0035】
尚、パッキンPは連続した1本のものを溝部9に嵌合してもよく、或いは一定長さの複数のものを連続するように溝部9に嵌合してもよい。
【0036】
図2及び
図3に拡大して示すように、防音用パッキンPは、略平板状の基部10を有している。基部10は、その幅が前記戸当たり8に形成された溝部9よりも広い幅(例えば19mm)で形成されている。また、基部10は、パッキンPが戸当たり8の溝部9に取り付けられたときに、その溝部9に対応するように延びており、溝部9の開口を覆うように配置される。
【0037】
基部10の幅方向中間部の裏面(
図2において下側面)には、戸当たり8の溝部9に嵌合されて取り付けられる脚部11が基部10とによって中空部分12を形成するように接続により一体に形成されている。脚部11は、互いに離間した1対の基端部を有する断面U字状の脚部本体11aを備え、その脚部本体11aの基端部(断面U字状の開口側端部)を基部10の幅方向中間部裏面に一体に接続させることで、脚部本体11aと基部10の一部とによって中空部分12が形成されている。尚、脚部本体11aは断面V字状のものであってもよい。
【0038】
尚、基部10に対する脚部11の接続位置は、基部10の幅方向中間部であればよく、基部10の幅方向中央部やその幅方向の一方にずれた位置であってもよい。この実施形態1では、パッキンPが戸当たり8に取り付けられたときに枠部5寄りの外側(
図2及び
図3で右側)にずれた位置に接続されている。
【0039】
前記脚部本体11aには、その対向する左右両側壁の外面に、先細りのひれ状とされた例えば4条の突条片11b,11b,11c,11cが突設され、各突条片11b,11cはパッキンPの全長に亘って連続している。具体的には、4条の突条片11b,11b,11c,11cは、脚部本体11aの基端側に位置する
図2上側の左右の第1突条片11b,11bと、脚部本体11aの先端側に位置する
図2下側の左右の第2突条片11c,11cとからなる。左右の第1突条片11b,11b同士、及び左右の第2突条片11c,11c同士はそれぞれ左右方向に対応するように配置され、脚部本体11a片側の側壁において、各第1及び第2突条片11b,11cは、脚部本体11aの突出方向に並んでいる。各突条片11b,11cの基部10側の表面は基部10と平行であるが、基部10と反対側の裏面は、突条片11b,11cの突出方向に向かって基部10側に向かうように傾斜する傾斜面とされている。このことで各突条片11b,11cは先端部に向かって厚さが薄くなる先細り形状の断面構造とされている。各第1突条片11bは、その脚部本体11a外面からの突出高さ(幅)が例えば2.75mmで、各第2突条片11cの突出高さ(例えば2.25mm)よりも大きくなっている。そして、
図3に示すように、脚部11を戸当たり8の溝部9に押し込んで嵌合したときに、各突条片11b,11cは変形した状態となってその先端部で溝部9の溝側面に圧接するようになっている。尚、各突条片11b,11cは、例えばその全体が突条片11b,11cの突出方向に向かって基部10側に向かうように傾斜しているものとしてもよい。
【0040】
基部10の表面(
図2において上側面)にはシール部13が接着により一体的に設けられている。基部10及び脚部11はいずれも例えばソリッドゴムからなるのに対し、シール部13は、例えば発砲ゴムからなっていて、基部10及び脚部11を構成するゴムよりも軟らかいゴム材で構成されている。
【0041】
シール部13は、例えば基部10側である裏側に開放された樋形状のもので、その幅方向(左右方向)の両端部が基部10の幅方向両端部表面に接着により一体的に接続固定されており、このシール部13と基部10とによって中空構造が形成されている。シール部13の表面は例えば複数の曲面が連続した滑らかな円弧面の断面形状であるが、裏面には、シール部13の長さ方向に互いに平行に延びる複数の凹条13a,13a,…が形成され、これら凹条13a,13a間の部分は断面円弧状に基部10側に膨出している。そして、各凹条13aにおいては、シール部13の厚さが他の部分よりも小さくなっており、この薄肉部分によってシール部13が変形し易くなっている。また、シール部13表面の一端寄り部分(パッキンPの取付状態で枠部5寄り部分)には、基部10と反対側に向かって外側(枠部5側)に向かうように傾斜して突出する帯状角(つの)部13bがシール部13の全長に亘り連続して一体に形成されており、シール部13は、帯状角部13bがその先端部で枠部5に当接するようになっている。尚、シール部13は樋形状のものに限定されず、他の形状であってもよい。
【0042】
本発明の特徴として、このように略平板状に形成されている基部10は、脚部11の脚部本体11aの基端部が接続されている部位間の部分が他の部分よりも少し厚肉とされ、当該厚肉部分の裏面には、脚部11の脚部本体11aの両基端部の部位から基部10の幅方向中央にかけて深くなる断面V字状となっている凹条10aがパッキンPの長さ方向に沿って延びるように凹設されている。この凹条10aは変形誘導部を構成しており、
図3に示すように、基部10がシール部13の上から押されて脚部11が溝部9に押し込まれたときに、基部10がシール部13に向かって中凸形状に変形するのを誘導する。尚、凹条10aは断面V字状の他に例えば断面U字状であってもよい。
【0043】
以上の構成のパッキンPは、
図3に示すように、戸当たり8の溝部9に脚部11を嵌合させた状態で取付固定されて使用される。このパッキンPを溝部9に取付固定するときの作業について説明する。
【0044】
パッキンPを戸当たり8の溝部9に取付固定する際、パッキンPの脚部11先端部を戸当たり8の溝部9の開口に宛がい、パッキンPのシール部13の上から基部10を押す。このことによって、その脚部11は戸当たり8の溝部9内に押し込まれて嵌合され始める。
【0045】
このとき、脚部本体11aの突出方向に並んでいる複数の突条片11b,11b,11c,11cの突出高さは、脚部本体11aの先端側になるほど小さいので、脚部11を溝部9へ押し込む前には、脚部本体11a及び複数の突条片11b,11b,11c,11cを含む脚部11全体の形状は先細り形状となっている。このため、脚部11を戸当たり8の溝部9内にスムーズに押し込むことができる。
【0046】
脚部11が溝部9内に押し込まれるに連れ、脚部11の脚部本体11aに突設されている複数の第1突条片11b,11b及び第2突条片11c,11cは、各々の先端部が溝部9の開口側に向くように傾斜状態に変形し、その状態で各突条片11b,11cの先端部が溝部9内の溝側面に圧接する。
【0047】
そして、このように脚部11が溝部9内に嵌合すると、各突条片11b,11cが溝部9内の対向する両溝側面から押されることとなる。これによって、まず、脚部本体11aにおいて基部10との接続部である基端部が互いに近付いて、脚部11と基部10とによって形成されている中空部分12が小さくなるように変形する。パッキンPの基部10の幅方向中間部の厚肉部分の裏面に凹条10aが設けられているので、前記のような変形が生じると、基部10は凹条10a(変形誘導部)の部分においてその幅を小さくするように幅方向両側から押され、凹条10aの中央部(凹条10aの底部で厚肉部分において最も薄い部分)を起点として基部10の変形が誘導され、基部10は幅方向において凹条10aが位置する部分を表側(
図2及び
図3において上側)のシール部13に向かって移動変位させるように中凸形状に変形し、それに伴い、基部10の幅方向において凹条10aが位置する部分が押込み前の通常位置よりもシール部13側に変位して突き上げられた状態となる。
【0048】
そのとき、脚部11は、前記のように基部10側の各第1突条片11bの突出高さが先端部側の各第2突条片11cの突出高さよりも大きいので、脚部11を溝部9内に押し込むに連れて、脚部11の基端部の基部10への接続部位を互いに近付ける力が増大し、脚部本体11aがその基端部側において先端部側よりも互いに大きく近づいて変形し易くなる。これによって、凹条10aによる基部10の中凸形状への変形がスムーズに行われ、その中凸形状に変形した際のシール部13側への突出量が大きくなる。
【0049】
このような状態で、前記に引き続いて脚部11を溝部9に押し込む際、この変形した基部10の幅方向中間部において凹条10aによりシール部13側に突出した中凸部分、つまり脚部11の中間部分の真上の部分を押すことになり、押込みの力を中凸部分で受けて、その力が脚部11に伝わり易くなる。このことによって、この段階でもパッキンPをシール部13の上側から溝部9へ押し込み易くなり、その結果、パッキンPの脚部11を戸当たり8の溝部9に対して完全に嵌合させることができ、押込み不足が生じるのを防止することができる。
【0050】
また、
図3に示すように、パッキンPの脚部11が溝部9に完全に押し込まれた状態では、脚部11の外面の各第1突条片11b及び第2突条片11cが変形して、その各先端部で溝部9の溝側面と圧接し、その状態で脚部11が溝部9内に嵌合する。つまり、脚部11は各第1突条片11b及び第2突条片11cの溝部9の溝側面への圧接によって溝部9内に物理的に係合した状態で固定される。これによって、脚部11は溝部9の溝側面から摩擦力を受けるので、溝部9から自然に抜け出すことがない。
【0051】
しかも、防音用パッキンPは、脚部11が溝部9内に押し込まれた状態では、基部10がシール部13に向かうように中凸形状に変形しているので、その中凸形状に変形した基部10の幅方向両端部は溝部9両側の戸当たり8表面に近接ないしは当接するようになる。このことで、基部10の幅方向両端部と戸当たり8表面との間に隙間が生じ難くなり、外観上の見映えを向上させることができる。
【0052】
以上のようにしてパッキンPが戸当たり8の溝部9に取付固定された状態では、
図1に示すように、ドア6を閉じると、パッキンPはシール部13においてドア6の周縁部と当接する。このとき、パッキンPのシール部13を構成するゴムが軟らかいので、ドア6を閉じた際に、シール部13はドア6の形状に沿うように変形してドア6と広い面積で密着するようになる。また、シール部13にはその裏側に複数の凹条13a,13a,…が長手方向に延びて形成されているので、シール部13はドア6と密着するように柔軟に変形し易くなっており、これらによって、パッキンPは、シール部13においてドア6と確実に密着する。
【0053】
一方、パッキンPの基部10及び脚部11はシール部13よりも硬いので、脚部11は溝部9内で強固に係合固定され、基部10は戸当たり8表面において溝部9を確実に覆うように配置される。また、前記のように、パッキンPにおいて中凸形状に変形した基部10が幅方向両端部において溝部9両側の戸当たり8表面に近接ないしは当接するから、それらの間に隙間を生じ難くなり、その分、遮音性についても有利となる。
【0054】
さらに、シール部13には、開口部4周囲の枠部5に当接する帯状角部13bが形成されているから、帯状角部13bが枠部5と戸当たり8との間及び枠部5と戸当たり8が受ける閉じ状態のドア6との間を共に封止状態に遮音することができるようになり、これにより防音用パッキンPの防音効果がさらに向上する。
【0055】
以上の結果、防音用パッキンPは、戸当たり8と閉じ状態のドア6との間を遮音状態に封止し、防音用パッキンPが施工された防音構造Sは、建物の防音用途空間1に臨む開口部4において、優れた防音効果を発揮することとなる。
【0056】
尚、パッキンPのシール部13に帯状角部13bを設けるのが好ましいが、必須ではなく、防音条件によっては設けなくてもよい。
【0057】
(実施形態2)
図4は本発明の実施形態2を示し、変形誘導部を変更したものである。尚、
図4において、
図1〜
図3と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0058】
すなわち、実施形態2では、防音用パッキンPにおける基部10は実施形態1と異なり、その裏面には凹条10aが形成されておらず、前記基部10の幅方向中間部には変形誘導部としてのアーチ部10bが設けられている。その他の構成は実施形態1と同じである。
【0059】
具体的には、
図4に示すように、アーチ部10bは、基部10の幅方向中間部において、脚部11の脚部本体11aの基端部が接続されている部位の間に部分的に形成されていて、基部10の非変形状態でシール部13に向かって突出するように湾曲した断面円弧状のものとされている。このアーチ部10bは基部10の一部をなしていて、他の部分よりもシール部13側に変位している。アーチ部10bの厚さ(脚部11の突出方向に沿った寸法)は中央部と両端部とで異なっており、中央部の厚さt1(例えば1.5mm)が両端部の厚さt2(例えば1.8mm)よりも薄くなっている(t1<t2)。
【0060】
このような構成によって、パッキンPの脚部11が戸当たり8の溝部9内に押し込まれ、脚部本体11aの基端部の基部10との接続部位が互いに近付いて、脚部11の基部10とによって形成されている中空部分12が小さくなるように変形すると、その基部10は、アーチ部10bの中央部を起点としてシール部13側に突出した中凸形状に変形するようになる。よって、この場合も実施形態1と同様の作用効果を奏することができる。
【0061】
また、基部10のアーチ部10bは、パッキンPの脚部11が戸当たり8の溝部9内に押し込まれていない状態でもシール部13側に突出して形成されているので、脚部11を溝部9内に押し込む初期の段階でも、基部10において脚部11の真上部分のアーチ部10bを押すことになり、その押込みの力をアーチ部10bで受けて、その力が脚部11に伝わり易くなり、脚部11を容易に押し込むことができる利点がある。
【0062】
(実施形態3)
図5は本発明の実施形態3を示し、変形誘導部を実施形態1とは異なる形状の凹条10aに変更したものである。その他の構成は実施形態1及び実施形態2と同じである。
【0063】
防音用パッキンPにおける基部10は平板状に形成されており、その平板状の基部10には、脚部11の脚部本体11aの両基端部が接続される部位の間の裏面に、実施形態1よりも幅の狭い断面V字状の凹条10aがパッキンPの長さ方向に沿って延びるように凹設されている。この凹条10aが変形誘導部を構成しており、凹条10aにおいて、基部10の厚さは他の部分よりも薄くなっている。尚、この場合も凹条10aは断面V字状の他に例えば断面U字状であってもよい。
【0064】
このような構成によって、パッキンPの脚部11が戸当たり8の溝部9内に押し込まれ、脚部本体11aの基端部の基部10との接続部位が互いに近付いて、脚部11の基部10とによって形成されている中空部分12が小さくなるように変形すると、その基部10は、凹条10aの位置を起点としてシール部13側に突出した中凸形状に変形するようになる。よって、この場合も実施形態1及び2と同様の作用効果を奏することができる。
【0065】
(その他の実施形態)
尚、前記各実施形態では、パッキンPの脚部11における各突条片11b,11cを脚部本体11aの突出方向に2つ並設しているが、この数を変更することもできる。
【0066】
また、前記各実施形態では、パッキンPのゴム材として、基部10及び脚部11のソリッドゴムと、シール部13の発砲ゴムとの2種類を用いているが、適当な硬度の1種類のゴム材を用いてもよい。
【0067】
さらに、前記各実施形態では、変形誘導部を凹条10aやアーチ部10bとしているが、これら以外のものでもよく、脚部11が溝部9に押し込まれたときに基部10がシール部13に向かって中凸形状に変形するのを誘導する構造であればよい。
【実施例】
【0068】
以下、本発明に係る防音パッキンにおいて、そのシール部に帯状角部を設けた場合(以下、例1とする)と帯状角部を設けない場合(以下、例2とする)とにおける防音構造の防音効果の違いを検証するための評価実験を示す。
【0069】
評価実験に用いる防音構造は、防音用途空間からその隣接空間に出入り可能な開口部において、その開口部周辺の枠部に設けられた戸当たりの溝部に例1(帯状角部有り)又は例2(帯状角部無し)の防音パッキンを取り付けたものであり、その枠部に揺動可能に支持された防音ドアを閉じ状態として評価実験を行った。
【0070】
評価実験では、防音用途空間(音源側)で周波数63Hz、125Hz、250Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz、4000Hzの音を発生させ、それぞれの周波数の音について隣接空間(受音側)において受音した音量(大きさ)を測定した。
【0071】
図6は評価実験の結果を示す。音源側で98.6dB(63Hz)、104.7dB(125Hz)、102.5dB(250Hz)、105.1dB(500Hz)、104.1dB(1000Hz)、99.3dB(2000Hz)、97.7dB(4000Hz)の音量で音を発生させた場合において、例1(帯状角部有り)では受音側で測定された音量がそれぞれ85.1dB(63Hz)、80.9dB(125Hz)、71.1dB(250Hz)、63.2dB(500Hz)、58.9dB(1000Hz)、54.7dB(2000Hz)、46.3dB(4000Hz)に下がった。音源側で発生させた音量と受音側で測定された音量との差をとることにより、例1(帯状角部有り)のパッキンを用いた防音構造における防音効果として13.5dB(63Hz)、23.8dB(125Hz)、31.4dB(250Hz)、41.9dB(500Hz)、45.2dB(1000Hz)、44.6dB(2000Hz)、51.4dB(4000Hz)の値が得られた。
【0072】
例2(帯状角部無し)でも音源側で同様の周波数と音量の音を発生させ、受音側で86.3dB(63Hz)、81.9dB(125Hz)、71.3dB(250Hz)、64.5dB(500Hz)、61.3dB(1000Hz)、57.3dB(2000Hz)、49.1dB(4000Hz)が得られた。音源側で発生させた音量と受音側で測定された音量の差をとることにより、例2(帯状角部無し)のパッキンを用いた防音構造における防音効果として12.3dB(63Hz)、22.8dB(125Hz)、31.2dB(250Hz)、40.6dB(500Hz)、42.8dB(1000Hz)、42.0dB(2000Hz)、48.6dB(4000Hz)の値が得られた。
【0073】
また、
図7は
図6の結果をプロットして示したグラフである。例1(帯状角部有り)及び例2(帯状角部無し)の防音効果の差をとると、例1(帯状角部有り)の防音パッキンを用いた防音構造は、例2(帯状角部無し)の防音パッキンを用いた防音構造より、1.2dB(63Hz)、1.0dB(125Hz)、0.2dB(250Hz)、1.3dB(500Hz)、2.4dB(1000Hz)、2.6dB(2000Hz)、2.8dB(4000Hz)の値だけ防音効果が高いことがわかる。
【0074】
以上の結果、本発明の防音パッキンのシール部に帯状角部が設けられていなくても高い防音効果が得られ、帯状角部があればより一層高い防音効果が得られることが明らかである。