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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-154489(P2019-154489A)
(43)【公開日】2019年9月19日
(54)【発明の名称】運動能力評価システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20190823BHJP
   A61B 5/22 20060101ALI20190823BHJP
【FI】
   A61B5/11 230
   A61B5/22 200
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-40831(P2018-40831)
(22)【出願日】2018年3月7日
(11)【特許番号】特許第6535778号(P6535778)
(45)【特許公報発行日】2019年6月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000181826
【氏名又は名称】社会福祉法人兵庫県社会福祉事業団
(74)【代理人】
【識別番号】100114764
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正樹
(72)【発明者】
【氏名】陳 隆明
(72)【発明者】
【氏名】本田 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 豪
(72)【発明者】
【氏名】井上 亮
(72)【発明者】
【氏名】本光 伸行
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA03
4C038VA04
4C038VA11
4C038VA12
4C038VB14
4C038VC05
4C038VC09
(57)【要約】
【課題】本発明は、介護や介護予防などのために被験者の日常生活の身体動作時における運動能力を効果的に評価することができるシステムを提供することを目的とする。
【解決手段】被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の位置と角度を計測する身体動作計測部20と、被験者の身体部位の位置と角度の計測結果に基づいて、被験者の身体部位の運動能力を時系列的に算出する運動能力算出部30と、時系列的に算出された被験者の身体部位の運動能力に基づいて、上半身、左側の下半身、および右側の下半身の少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値を算出する特定値算出部40と、少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値を、被験者の日常生活の身体動作時における運動能力と評価して、上半身、左側の下半身、右側の下半身に分けて出力する評価結果出力部50とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の日常生活の身体動作時における運動能力を評価する運動能力評価システムであって、
被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の位置および/または角度を計測する身体動作計測部と、
前記身体動作計測部による被験者の身体部位の位置および/または角度の計測結果に基づいて、被験者の身体部位の運動能力を時系列的に算出する運動能力算出部と、
前記運動能力算出部により時系列的に算出された被験者の身体部位の運動能力に基づいて、上半身、左側の下半身、および右側の下半身の少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値を算出する特定値算出部と、
前記特定値算出部により算出された少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値を、被験者の日常生活の身体動作時における運動能力と評価して、上半身、左側の下半身、右側の下半身に分けて出力する評価結果出力部とを備えることを特徴とする運動能力評価システム。
【請求項2】
前記運動能力算出部は、身体部位の関節トルク、関節力、関節角度、関節角速度、関節角加速度、関節移動距離、関節位置、関節移動速度、関節移動加速度、重心位置、重心移動速度、重心移動加速度、頭の位置姿勢、頭の移動速度、頭の移動加速度のうち、少なくとも一つ以上を身体部位の運動能力として算出する請求項1に記載の運動能力評価システム。
【請求項3】
前記特定値算出部は、前記運動能力算出部により時系列的に算出された身体部位の運動能力の最大値、最小値、平均値、中央値、積分値、微分値、総和、標準偏差のうち、少なくとも一つ以上を運動能力の特定値として算出する請求項1または請求項2に記載の運動能力評価システム。
【請求項4】
被験者の身体情報が入力される身体情報入力部が設けられ、
前記運動能力算出部は、前記身体情報入力部に入力された被験者の身体情報を用いながら身体部位の運動能力を算出する請求項1から請求項3のいずれかに記載の運動能力評価システム。
【請求項5】
前記身体情報入力部は、被験者の年齢、性別、体重、身長、人体寸法、既往歴のうち、少なくとも一つ以上の身体情報が入力される請求項4に記載の運動能力評価システム。
【請求項6】
前記身体情報入力部は、被験者の身体部位の質量、質量中心値、慣性モーメントのうち、少なくとも一つ以上の身体情報が入力される請求項4または請求項5に記載の運動能力評価システム。
【請求項7】
前記身体動作計測部は、立ち上がり動作、歩行動作、片脚立ち動作、スクワット動作のうち、少なくとも一つ以上の身体動作時における身体部位の位置および/または角度を計測する請求項1から請求項6のいずれかに記載の運動能力評価システム。
【請求項8】
前記特定値算出部は、身体部位の特定値を被験者または身体部位の質量、体積、面積、密度、長さ、径、あるいはそれらの積により正規化する請求項1から請求項7のいずれかに記載の運動能力評価システム。
【請求項9】
被験者の日常生活の身体動作時における運動能力を評価する運動能力評価システムであって、
被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の位置および/または角度を計測する身体動作計測部と、
前記身体動作計測部による被験者の身体部位の位置および/または角度の計測結果に基づいて、被験者の身体部位の運動能力を時系列的に算出する運動能力算出部と、
前記運動能力算出部により時系列的に算出された被験者の身体部位の運動能力に基づいて、上半身、左側の下半身、および右側の下半身の少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値を算出したあと、該特定値に基づいて所定の指標値を算出する特定値算出部と、
前記特定値算出部により算出された少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値に係る指標値を、被験者の日常生活の身体動作時における運動能力と評価して、上半身、左側の下半身、右側の下半身に分けて出力する評価結果出力部とを備えることを特徴とする運動能力評価システム。
【請求項10】
前記特定値算出部は、下式により指標値を算出する請求項9に記載の運動能力評価システム。
n:関節番号
N:全関節数
ωTotal:各特定値に対する重み係数
X:特定値
【請求項11】
前記特定値算出部は、下式により指標値を算出する請求項9に記載の運動能力評価システム。
n,m:関節番号
M:p2の算出に用いる全関節数
ωValancen,m:左半身と右半身の特定値の差分の絶対値に対する重み係数
X右(または左)半身:右(または左)半身の特定値
X左(または右)半身:左(または右)半身の特定値
【請求項12】
前記特定値算出部は、下式により指標値を算出する請求項9に記載の運動能力評価システム。
l,u:関節番号
上半身(または下半身):p3の算出に用いる上半身(または下半身)の全関節数
下半身(または上半身):p3の算出に用いる下半身(または上半身)の全関節数
ωRate:上半身(または下半身)の特定値に対する重み係数
ωRate:下半身(または上半身)の特定値に対する重み係数
X上半身(または下半身):上半身(または下半身)の特定値
X下半身(または上半身):下半身(または上半身)の特定値
【請求項13】
被験者の日常生活の身体動作時における運動能力を評価する運動能力評価システムであって、
被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の位置および/または角度を計測する身体動作計測部と、
前記身体動作計測部による被験者の身体部位の位置および/または角度の計測結果に基づいて、被験者の身体部位の運動能力を時系列的に算出する運動能力算出部と、
前記運動能力算出部により時系列的に算出された被験者の身体部位の運動能力に基づいて、上半身、左側の下半身、および右側の下半身の少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値を算出したあと、該特定値に基づいて所定の指標値を算出して、該指標値に基づいて所定の得点を算出する特定値算出部と、
前記特定値算出部により算出された少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値に係る得点を、被験者の日常生活の身体動作時における運動能力と評価して、上半身、左側の下半身、右側の下半身に分けて出力する評価結果出力部とを備えることを特徴とする運動能力評価システム。
【請求項14】
前記特定値算出部は、下式により得点を算出する請求項13に記載の運動能力評価システム。
:各指標値に対する得点
k:各指標値の番号
p:k番目の指標値
pMax:最高得点とする各指標値の基準値
pMin:最低得点とする各指標値の基準値
【請求項15】
前記特定値算出部は、下式により得点を算出する請求項13に記載の運動能力評価システム。
:各指標値に対する得点
k:各指標値の番号
p:k番目の指標値
pMax:最高得点とする各指標値の基準値
pMin:最低得点とする各指標値の基準値
【請求項16】
前記特定値算出部は、下式により得点を算出する請求項13から請求項15のいずれかに記載の運動能力評価システム。
k:各指標値の番号
K:全指標値数
ωScore:各指標値における得点の重み係数
:各指標値に対する得点
【請求項17】
前記特定値算出部は、前記身体情報入力部により入力された身体情報と同一または類似の身体情報を有する被験者ごとにグループ分けを行って、各グループごとに被験者の身体部位の特定値、指標値あるいは得点の集計処理を行う請求項1から請求項16のいずれかに記載の運動能力評価システム。
【請求項18】
前記評価結果出力部は、前記特定値算出部により算出された身体部位の特定値、指標値あるいは得点をレーダーチャートにより出力する請求項1から請求項17のいずれかに記載の運動能力評価システム。
【請求項19】
前記評価結果出力部は、所定の人体モデルを出力するとともに、前記特定値算出部により算出された身体部位の運動能力の特定値、指標値あるいは得点を前記人体モデルの対応する身体部位に重ねて出力する請求項1から請求項18のいずれかに記載の運動能力評価システム。
【請求項20】
前記特定値算出部は、前記特定値算出部により算出された身体部位の特定値、指標値あるいは得点に基づいて、被験者の運動能力のレベル、要介護度のレベル、介護予防が必要となる確率、推定年齢のうち、少なくとも一つを出力する請求項1から請求項19のいずれかに記載の運動能力評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介護や介護予防などのために被験者の日常生活の身体動作時における運動能力を評価する運動能力評価システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、日本等の先進国を中心に高齢化が進んでおり、平均寿命を延ばすことだけでなく、いかに健康に寿命を全うするかという健康寿命を延ばしていくことが重要になってきており、最近ではロコモティブシンドローム(運動器症候群:通称ロコモ)が注目されるようになってきた。
【0003】
このロコモティブシンドロームとは、骨、関節、筋肉、あるいは神経等の運動器を長期にわたり使い続けることにより、運動器に障害が起こり、「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態をいい、進行すると日常生活にも支障が生じることになる。特に、50歳以降に多発する入院治療が必要な運動器の障害により、要介護の状態や要介護リスクの高い状態となる人々が増えてきている。
【0004】
そこで、従来より、DEXA等の身体計測装置を用いて、被験者の体重、筋肉量、体脂肪量などの身体組成のパラメータを計測して、それらのパラメータを分析することが行われている。ただ、DEXA等の身体計測装置では、被験者の体重、筋肉量、体脂肪量などの身体組成のパラメータを単に計測するに止まるため、運動器に障害が生じるかどうかを十分に示唆することができなかった。
【0005】
一方、高齢になると、多くの人の筋肉は痩せ、筋力が衰えるが、このように加齢によって筋肉が減少する疾患としてサルコペニアも注目されている。このサルコペニアは、1989 年に Rosenberg によって「加齢による筋肉量減少」を意味する用語として提唱され、当初は骨格筋肉量の減少を定義としていたが、徐々に筋力低下、機能低下も含まれるようになった。このサルコペニアは年々増えてきており、このことは今後、ますます要介護者が増加して、それに伴い個人の生活レベルの低下、社会の医療介護費負担の増加が予想される。
【0006】
そこで、従来より、被験者の筋力を計測する装置が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。これによれば被験者の筋力を経時的に計測していくことにより、上述の身体計測装置によるパラメータの計測結果と相まって、運動器に障害が生じることをさらに具体的に示唆することができる。特に特許文献1には、下肢の筋力を測定する装置が開示されているが、このように高齢者にとっては上半身よりも下半身、特に下肢の筋力を測定することは、運動器の障害を生じることを示唆するのに非常に有効である。
【0007】
また、日常生活に関連した歩行や片足立ちなどを評価し、運動能力を推定する体力推定装置が開示されている(例えば、特許文献3、4、5参照)。特に特許文献5は歩行において、右脚と左脚それぞれについて歩幅、歩隔、つま先角度など複数の特定値を測定できる。
【0008】
また、仮想人体モデルを用いて日常生活における筋力の推定を試みている装置が開示されている(特許文献6、7)。これらによれば、被験者の日常生活動作において、被験者がどの程度筋力を発揮したかの推定値を時系列データとして出力することができる。特に特許文献6、7では、歩行における筋力を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015−33517号公報
【特許文献2】特開2013−169448号公報
【特許文献3】特開2007−117692号公報
【特許文献4】特開2009−101108号公報
【特許文献5】特開2017−6305号公報
【特許文献6】特開2010−29340号公報
【特許文献7】特開2013−68979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1,2に係る装置は、あくまでも被験者が最大努力で行ったタスク(例えば、全力で立ち上がる)における筋力を測定することにより運動能力を推定しており、日常生活における身体動作(例えば、自然な力で立ち上がる)よりも過剰な力を入れて行った際の身体動作における運動能力を評価している。そのため、測定された筋力は日常生活における身体動作を行う際の筋力とは乖離したものであり、被験者にとって重要な日常生活の身体動作時における運動能力を評価しているものではなかった。
【0011】
また、特許文献3〜5に係る装置では、歩幅、歩隔、つま先角度などの特定値を出力しているが、関節トルクなどのように筋力や発揮した力の状態と結びつく特定値ではない。そのため、高齢者の筋力の状態を直観的に把握することは困難である。高齢者の運動能力の度合いを把握するためには、筋力に関連する情報が必要不可欠である。
【0012】
また、特許文献6、7に係る装置では、全身の複数の筋力を推定しているが、時系列的なデータの出力に止まっており、臨床スタッフが、高齢者の運動能力を瞬時に判断することは困難である。高齢者の運動能力を判断するためには、時系列的なデータに対して、解析処理を行い、運動能力の違いを明確に表せる特定値を算出して、出力する必要がある。
【0013】
また、高齢者が自立した日常生活を行えるかを判断するための動作としては、立ち上がりと歩行が重要な動作となる。そして、立ち上がり動作を行うためには、上半身を支えつつ、バランスを取るために重心位置を調整する体幹の筋力と足を伸ばす太腿と臀部の筋力が重要となる。歩行動作では、バランス調整に必要な上半身の筋力と足を動かし身体を支える下半身の筋力と下肢の左右の筋力のバランスが非常に重要となる。各動作において必要となる筋力の大小はあるものの、筋肉により動かされる体幹部や各四肢の関節にて発生する関節トルクなどの筋力や発揮した力の状態と結びつく特定値に注目することで、日常生活動作のこなし方を観測することができる。これらの理由から、上半身、左側の下半身、右側の下半身の3つの部位の筋力の状態を明確に把握できる特定値が非常に重要であると考えられるが、従来のシステムでは、これら3つの部位の情報は考慮されていない。
【0014】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであって、介護や介護予防などのために被験者の日常生活の身体動作時における運動能力を効果的に評価することができるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記目的を達成するために、被験者の日常生活の身体動作時における運動能力を評価する運動能力評価システムであって、被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の位置および/または角度を計測する身体動作計測部と、前記身体動作計測部による被験者の身体部位の位置および/または角度の計測結果に基づいて、被験者の身体部位の運動能力を時系列的に算出する運動能力算出部と、前記運動能力算出部により時系列的に算出された被験者の身体部位の運動能力に基づいて、上半身、左側の下半身、および右側の下半身の少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値を算出する特定値算出部と、前記特定値算出部により算出された少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値を、被験者の日常生活の身体動作時における運動能力と評価して、上半身、左側の下半身、右側の下半身に分けて出力する評価結果出力部とを備えることを特徴とする。この運動能力は、身体部位の関節トルク、関節力、関節角度、関節角速度、関節角加速度、関節移動距離、関節位置、関節移動速度、関節移動加速度、重心位置、重心移動速度、重心移動加速度、頭の位置姿勢、頭の移動速度、頭の移動加速度を前提とする能力である。また、特定値は、身体部位の運動能力の最大値、最小値、平均値、中央値、積分値、微分値、総和、標準偏差を前提とする値である。
【0016】
これによれば、被験者の日常生活の身体動作時における運動能力を評価することができる。しかも、被験者の運動能力を上半身、左側の下半身、右側の下半身に分けて出力するので、例えば、身体動作の左右差が大きい被験者や、上半身と下半身で筋肉の衰え方に大きな差がある被験者などを考慮しながら運動能力を評価することができる。
【0017】
また、被験者の身体情報が入力される身体情報入力部が設けられ、前記運動能力算出部は、前記身体情報入力部に入力された被験者の身体情報を用いながら身体部位の運動能力を算出してもよい。この身体情報は、被験者の年齢、性別、体重、身長、人体寸法、既往歴が挙げられる。また、被験者の身体部位の質量、質量中心値、慣性モーメントが含まれてもよい。これによれば、被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の運動能力を精度良く評価することができる。
【0018】
また、前記身体動作計測部は、立ち上がり動作、歩行動作、片脚立ち動作、スクワット動作のうち、少なくとも一つ以上の身体動作時における身体部位の位置および/または角度をモーションキャプチャ装置等を用いて計測するのがよい。これによれば、被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の運動能力を精度良く評価することができる。
【0019】
また、前記特定値算出部は、身体部位の特定値を被験者または身体部位の質量、体積、面積、密度、長さ、径、あるいはそれらの積により正規化してもよい。これによれば、被験者の体格を考慮した身体部位の運動能力を評価することができる。
【0020】
また、本発明に係る運動能力評価システムは、被験者の日常生活の身体動作時における運動能力を評価する運動能力評価システムであって、被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の位置および/または角度を計測する身体動作計測部と、前記身体動作計測部による被験者の身体部位の位置および/または角度の計測結果に基づいて、被験者の身体部位の運動能力を時系列的に算出する運動能力算出部と、前記運動能力算出部により時系列的に算出された被験者の身体部位の運動能力に基づいて、上半身、左側の下半身、および右側の下半身の少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値を算出したあと、該特定値に基づいて所定の指標値を算出する特定値算出部と、前記特定値算出部により算出された少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値に係る指標値を、被験者の日常生活の身体動作時における運動能力と評価して、上半身、左側の下半身、右側の下半身に分けて出力する評価結果出力部とを備えることを特徴としてもよい。これによれば、被験者の身体部位の運動能力をより一層精度良く評価することができる。
【0021】
この指標値とは、単独または複数の部位の特定値を組み合わせて算出することを前提とする値である。また、この指標値の算出方法としては、例えば、以下の3つの式が挙げられる。なお、以下で示す各式で用いる関節部位や関節数は、評価する対象の動作や評価内容に応じて変更してもよい。また、左半身の特定値から右半身の特定値の差分をとるのか右半身の特定値から左半身の特定値の差分をとるかや上半身と下半身のどちらを分子、分母にとるかに関しては、評価する対象の動作や評価内容に応じて変更してもよい。
【0022】
n:関節番号
N:全関節数
ωTotal:各特定値に対する重み係数
X:特定値
【0023】
n,m:関節番号
M:p2の算出に用いる全関節数
ωValancen,m:左半身と右半身の特定値の差分の絶対値に対する重み係数
X右(または左)半身:右(または左)半身の特定値
X左(または右)半身:左(または右)半身の特定値
【0024】
l,u:関節番号
上半身(または下半身):p3の算出に用いる上半身(または下半身)の全関節数
下半身(または上半身):p3の算出に用いる下半身(または上半身)の全関節数
ωRate:上半身(または下半身)の特定値に対する重み係数
ωRate:下半身(または上半身)の特定値に対する重み係数
X上半身(または下半身):上半身(または下半身)の特定値
X下半身(または上半身):下半身(または上半身)の特定値
【0025】
また、本発明に係る運動能力評価システムは、被験者の日常生活の身体動作時における運動能力を評価する運動能力評価システムであって、被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の位置および/または角度を計測する身体動作計測部と、前記身体動作計測部による被験者の身体部位の位置および/または角度の計測結果に基づいて、被験者の身体部位の運動能力を時系列的に算出する運動能力算出部と、前記運動能力算出部により時系列的に算出された被験者の身体部位の運動能力に基づいて、上半身、左側の下半身、および右側の下半身の少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値を算出したあと、該特定値に基づいて所定の指標値を算出して、該指標値に基づいて所定の得点を算出する特定値算出部と、前記特定値算出部により算出された少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値に係る得点を、被験者の日常生活の身体動作時における運動能力と評価して、上半身、左側の下半身、右側の下半身に分けて出力する評価結果出力部とを備えることを特徴としてもよい。これによれば、被験者の身体部位の運動能力を分かり易く評価することができる。
【0026】
この得点Sの算出方法としては、例えば、以下の3つの式が挙げられる。
【0027】
:各指標値に対する得点
k:各指標値の番号
p:k番目の指標値
pMax:最高得点とする各指標値の基準値
pMin:最低得点とする各指標値の基準値
【0028】
:各指標値に対する得点
k:各指標値の番号
p:k番目の指標値
pMax:最高得点とする各指標値の基準値
pMin:最低得点とする各指標値の基準値
【0029】
k:各指標値の番号
K:全指標値数
ωScore:各指標値における得点の重み係数
:各指標値に対する得点
【0030】
また、前記特定値算出部は、前記身体情報入力部により入力された身体情報と同一または類似の身体情報を有する被験者ごとにグループ分けを行って、各グループごとに被験者の身体部位の特定値、指標値あるいは得点の集計処理を行ってもよい。これによれば、同一または類似の身体情報を有する被験者ごとに身体部位の運動能力を把握することができる。
【0031】
また、前記評価結果出力部は、前記特定値算出部により算出された身体部位の特定値、指標値あるいは得点をレーダーチャートにより出力してもよい。これによれば、被験者の身体部位の運動能力を一見して分かり易く評価することができる。
【0032】
また、前記評価結果出力部は、所定の人体モデルを出力するとともに、前記特定値算出部により算出された身体部位の運動能力の特定値、指標値あるいは得点を前記人体モデルの対応する身体部位に重ねて出力してもよい。これによれば、被験者の身体部位の運動能力を一見して分かり易く評価することができる。
【0033】
また、前記特定値算出部は、前記特定値算出部により算出された身体部位の特定値、指標値あるいは得点に基づいて、被験者の運動能力のレベル、要介護度のレベル、介護予防が必要となる確率、推定年齢のうち、少なくとも一つを出力してもよい。これによれば、被験者の運動能力のレベル、要介護度のレベル、介護予防が必要となる確率、推定年齢も把握することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、被験者の日常生活の身体動作時における運動能力を評価することができる。しかも、被験者の運動能力を上半身、左側の下半身、右側の下半身に分けて出力するので、例えば、身体動作の左右差が大きい被験者や、上半身と下半身で筋肉の衰え方に大きな差がある被験者などを考慮しながら運動能力を評価することができる。
【0035】
このため、被験者に対して、将来、運動能力の低下が生じる可能性があることを的確に示唆し得るため、それに応じて被験者が早い段階から所定のトレーニングや治療を行うことによって、サルコペニア等の疾患を減少させたり、被験者の筋力の低下を抑えることができ、ひいては個人の生活レベルの向上、社会の医療介護費負担の軽減を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明に係る運動能力評価システムの構成概略図である。
図2】被験者の日常生活の身体動作時における運動能力の特定値を算出することを説明するための概念図である。
図3図1の運動能力評価システムの動作を示すフローチャートである。
図4】実施例1に係る被験者(非高齢者)の日常生活の身体動作時における運動能力(特定値)を出力した状態を示す図である。
図5】実施例1に係る被験者(高齢者)の日常生活の身体動作時における運動能力(特定値)を出力した状態を示す図である。
図6】実施例2に係る被験者(非高齢者)の日常生活の身体動作時における運動能力(正規化した値)を出力した状態を示す図である。
図7】実施例2に係る被験者(高齢者)の日常生活の身体動作時における運動能力(正規化した値)を出力した状態を示す図である。
図8】実施例3に係る各被験者の日常生活の身体動作時における運動能力(得点)を出力した表を示す図である。
図9】実施例3に係る被験者(非高齢者)の日常生活の身体動作時における運動能力(得点)をレーダーチャートで出力した図である。
図10】実施例3に係る被験者(高齢者)の日常生活の身体動作時における運動能力(得点)をレーダーチャートで出力した図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、本発明に係る日常生活における運動能力評価システム(以下、本システムという)の実施形態について図1図10を参照しつつ説明する。なお、本実施形態では、被験者の運動能力として身体部位の関節トルクを用いる場合について説明する。
【0038】
本システムは、図1に示すように、介護予防のために被験者の日常生活の身体動作時における運動能力を評価するシステムであって、身体情報入力部10、身体動作計測部20、運動能力算出部30、特定値算出部40、並びに評価結果出力部50を備えている。
【0039】
なお、本システムは、PC、タブレット端末、スマートフォン、あるいは専用端末などの情報端末により実現され、記憶媒体またはネットワークを介して所定のプログラムがインストールされることにより機能する。
【0040】
前記身体情報入力部10は、被験者の年齢、性別、体重、身長、人体寸法(周径や長さなど)、既往歴などの身体情報が入力される。また、後述するように、被験者の身体部位の質量、質量中心値、慣性モーメントなどの身体情報が入力されてもよい。
【0041】
前記身体動作計測部20は、被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の位置と角度を計測する。この被験者の日常生活の身体動作として、立ち上がり動作、歩行動作、片脚立ち動作、スクワット動作などが挙げられる。また、身体部位として、少なくとも上半身(胴体、以下「体幹」という)、左側の下半身(左脚)、右側の下半身(右脚)などが挙げられる。本実施形態では、前記身体動作計測部20は、モーションキャプチャ装置等により被験者の身体動作から被験者の身体部位の3次元位置および/または角度の時系列データを計測する
【0042】
なお、前記身体動作計測部20は、各部10、30、40、50と同一装置で構成されてもよいし、あるいは別の装置で構成されてもよい。また、身体部位の3次元位置および/または角度の時系列データを用いるものとしたが、2次元位置および/または角度の時系列データを用いてもよい。
【0043】
前記運動能力算出部30は、前記身体動作計測部20による身体部位の位置と角度の計測結果に基づいて、被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の運動能力を時系列的に算出する。
【0044】
具体的には、前記運動能力算出部30は、まず、身体動作計測部20により計測された被験者の身体部位の3次元位置および/または角度の時系列データに基づいて被験者の身体部位の姿勢を求めるとともに、四次のルンゲグッタ法などの微分の手法を用いて被験者の身体部位の関節の角度q、角速度q’および角加速度q”を算出する。そして、運動能力算出部30は、それら被験者の身体部位の姿勢と、関節の角度q、角速度q’および角加速度q”とに基づいて、被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の関節トルクを逆動力学的に算出する。この身体部位の関節トルクは、定式化して算出する方法や、数値シミュレーションで算出する方法が考えられる。
【0045】
本実施形態では、前記運動能力算出部30は、加速度項M(q)、コリオリ・遠心力項C(q、q’)、重力項G(q)、外力項(床や椅子からの反力など)E (q、q’)を用いて下式により身体部位の関節のトルクτを算出する。
【0046】
[式1]
【0047】
また、加速度項M(q)、コリオリ・遠心力項C(q、q’)、重力項G(q)、外力項E (q、q’)は下式により表される。なお、nは自由度を表し、( )T は転置行列を示す。
【0048】
[式2]
【0049】
前記運動能力算出部30の関節トルクの算出に必要となる身体各部位の質量、質量中心位置、慣性モーメントなどのパラメータは、身体情報入力部10で入力された被験者の年齢、性別、体重、人体寸法の情報に基づいて、あらかじめ準備された被験者の身体的特徴ごとの平均的なパラメータを割り当ててもよい。あるいは、被験者の年齢、性別、体重、人体寸法の情報によらず、あらかじめ準備された身体各部位の質量、質量中心位置、慣性モーメントなどのパラメータを割り当ててもよい。これによって、パラメータの入力の手間や入力ミスを回避することができる。
【0050】
前記特定値算出部40は、図2に示すように、運動能力算出部30により時系列的に算出された被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の運動能力に基づいて、上半身、左側の下半身、および右側の下半身の少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値を算出する。
【0051】
具体的には、前記特定値算出部40は、図2に示すように、前記運動能力算出部30により算出された被験者の身体部位の各関節の位置/角度q、速度/角速度q’、加速度/角加速度q”および/または関節トルク/関節力τの時系列データに対して、最大値、最小値、平均値、中央値、積分値、微分値、総和、標準偏差などを、日常生活の身体動作時における身体部位の運動能力の特定値として算出する。
【0052】
なお、前記特定値算出部40は、最大値、最小値、平均値、中央値、積分値、微分値、総和、標準偏差などの演算を行う前に絶対値やフィルター処理を行い、運動の違いをより明確にするための処理を行ってもよい。
【0053】
また、前記特定値算出部40は、身体部位の特定値をそのまま算出してもよいが、[式1]で示した重力項Gを差し引いた状態で身体部位の関節トルクから特定値を算出してもよい。また、身体部位の特定値を被験者または身体部位の質量、体積、面積、密度、長さ、径、あるいはそれらの積により正規化してもよい。
【0054】
また、前記特定値算出部40は、被験者の日常生活の身体動作時における各身体部位の特定値に基づき所定の指標値を算出してもよい。
【0055】
例えば、指標値の算出の第1の例として、各身体部位の関節トルクの絶対値処理後のデータにおける最大値から指標値を算出する場合について説明すると、身体各部位の特定値Xの総和XTotalを算出することにより、被験者の運動能力を示す指標値p1を下式のように算出してもよい。
【0056】
[式3]
n:関節番号
N:全関節数
ωTotal:各特定値に対する重み係数
X:特定値
【0057】
例えば、絶対値処理後の関節トルクの動作区間における最大値τMaxを特定値Xとして用いて、体幹、左股関節、右股関節、左膝関節、右膝関節、左足関節、右足関節の絶対値処理後の関節トルクの総和τTotalを算出し、被験者がどの程度大きな力を発揮することができたかを示す指標値p1を算出する場合、下式のように算出してもよい。
【0058】
[式4]
n:関節番号
N:全関節数
τTotal:絶対値処理後の関節トルクの最大値の総和
ωTotal:絶対値処理後の各関節トルクの最大値に対する重み係数
τMax:絶対値処理後の各関節トルクの最大値
【0059】
また、指標値の算出の第2の例として、左半身と右半身の特定値Xの差分の絶対値を算出することで、被験者がどの程度、左右バランス良く力を発揮することができたかを示す指標値p2を下式のように算出してもよい。なお、左半身の特定値から右半身の特定値の差分をとるのか右半身の特定値から左半身の特定値の差分をとるかは、評価する対象の動作や評価内容に応じて変更してもよい。
【0060】
[式5]
n,m:関節番号
M:p2の算出に用いる全関節数
ωValancen,m:左半身と右半身の特定値の差分の絶対値に対する重み係数
X右(または左)半身:右(または左)半身の特定値
X左(または右)半身:左(または右)半身の特定値
【0061】
例えば、左股関節、右股関節、左膝関節、右膝関節、左足関節、右足関節の絶対値処理後の関節トルクの最大値τMaxを特定値Xとして用いて、下肢の左右バランスを示す指標値p2を算出した場合、下式のように算出してもよい。
【0062】
[式6]
ωValance:左半身と右半身の特定値の差分の絶対値に対する重み係数
τMax:絶対値処理後の関節トルクの最大値
【0063】
また、指標値の算出の第3の例として、上半身側と下半身側の特定値Xの比率を算出することで、被験者が上半身側と下半身側のどちらの部位を大きく動かして、動作を行ったかを示す指標値p3を下式のように算出してもよい。なお、上半身と下半身のどちらを分子、分母にとるかについては、評価する対象の動作や評価内容に応じて変更してもよい。
【0064】
[式7]
l,u:関節番号
上半身(または下半身):p3の算出に用いる上半身(または下半身)の全関節数
下半身(または上半身):p3の算出に用いる下半身(または上半身)の全関節数
ωRate:上半身(または下半身)の特定値に対する重み係数
ωRate:下半身(または上半身)の特定値に対する重み係数
X上半身(または下半身):上半身(または下半身)の特定値
X下半身(または上半身):下半身(または上半身)の特定値
【0065】
例えば、体幹、左股関節、右股関節、左膝関節、右膝関節、左足関節、右足関節の絶対値処理後の関節トルクの最大値τMaxを特定値Xとして用いて、指標値p3を算出した場合、下式のように算出してもよい。
【0066】
[式8]
ωRate:特定値に対する重み係数
τMax:絶対値処理後の関節トルクの最大値
【0067】
また、前記特定値算出部40は、上述の各指標値に基づいて被験者の運動能力に係る得点を算出してもよい。
【0068】
例えば、得点の算出の第1の例として、絶対値処理後の関節トルクの最大値の総和に基づく指標値p1のように、運動能力が高いほど指標値が大きくなる関係性がある場合、下式により得点を算出してもよい。
【0069】
[式9]
【0070】
[式10]
:各指標値に対する得点
k:各指標値の番号
p:k番目の指標値
pMax:最高得点とする各指標値の基準値
pMin:最低得点とする各指標値の基準値
:各指標値に対する得点(pMin<p<pMaxの条件を満たす場合)
【0071】
また、得点の算出の第2の例として、左側の下半身と右側の下半身の関節トルクの最大値の差分の絶対値に基づく指標値p2のように値が小さくなるほどバランス良くトルクが発揮されていることを示す場合、同様に下式により得点を算出してもよい。
【0072】
[式11]
【0073】
[式12]
:各指標値に対する得点
k:各指標値の番号
p:k番目の指標値
pMax:最高得点とする各指標値の基準値
pMin:最低得点とする各指標値の基準値
:各指標値に対する得点(pMin<p<pMaxの条件を満たす場合)
【0074】
また、得点の算出の第3の例として、上式で算出された各値に対する得点から、被験者の運動能力に関する総合得点STotalを下式により算出してもよい。
【0075】
[式13]
k:各指標値の番号
K:全指標値数
ωScore:各指標値における得点の重み係数
:各指標値に対する得点
【0076】
なお、得点の算出方法は上述のものに限定されるものではなく、上述以外の複数の指標値pを算出して、総合得点STotalを算出してもよい。
【0077】
また、前記特定値算出部40は、前記身体情報入力部10に入力された複数の被験者の年齢、性別、身体寸法、既往歴から類似した身体情報を有する被験者ごとにグループ分けをして、各グループごとに特定値、指標値あるいは得点の平均値や標準偏差などを算出してもよい。
【0078】
前記評価結果出力部50は、前記特定値算出部40により算出された少なくとも3つの身体部位の運動能力の特定値、指標値あるいは得点を、被験者の日常生活の身体動作時における運動能力と評価して、上半身、左側の下半身、右側の下半身に分けて出力する。
【0079】
例えば、図4、5に示すように、被験者の上半身、左側の下半身、右側の下半身の少なくとも3つの部位の特定値を人体モデルの各部位の該当箇所の上に重ねて出力した場合、体幹の衰え度合いや下半身の左右バランスを瞬時に把握することができる。
【0080】
また、図6、7に示すように、身体部位の特定値を体重などで正規化した値を出力した場合、被験者の体格差を考慮して、運動能力を把握することができる。
【0081】
また、図8に示すように、運動能力の総合得点を出力した場合、高齢者の運動能力の度合いを容易に把握することができる。
【0082】
また、図9、10に示すように、各指標値の得点をレーダーチャートで出力した場合、リハビリによって改善すべき箇所(左右差を改善する必要があるのか、または体幹を鍛える必要があるのかなど)をより把握しやすくなる。
【0083】
なお、本実施形態では、最大の関節トルクを出力したが、それと共に、またはそれに代えて、関節トルクの最小値、最大値、平均値、中央値、積分値、微分値、総和、標準偏差などを出力してもよい。また、関節トルクと共に、またはそれに代えて、関節位置/角度、関節速度/角速度、関節加速度/角加速度、頭の位置姿勢、頭の移動速度、頭の移動加速度、関節力、重心位置、重心移動速度、重心移動加速度などの特定値を、被験者の日常生活における運動能力と評価して出力してもよい。また、本実施形態では、体幹のみを上半身として用いたが、それと共に、またはそれに代えて、頭や腕などの特定値を用いてもよい。また、運動能力に関する得点や要介護度のレベルや介護予防が必要となりうる確率、推定年齢などをあわせて出力してもよい。
【0084】
次に本システムの動作について図3に示すフローチャートを用いて説明する。
【0085】
まず、前記身体情報入力部10に、被験者の年齢、性別、体重、身長、人体寸法(周径や長さなど)、既往歴などの身体情報が入力される(S1)。また、被験者の身体部位の質量、質量中心値、慣性モーメントなどの身体情報が入力されてもよい。
【0086】
そして、前記身体動作計測部20が、被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の位置と角度をモーションキャプチャ装置等により計測する(S2)。
【0087】
そして、前記運動能力算出部30が、身体情報入力部10に入力された身体情報と、身体動作計測部20による身体部位の位置と角度の計測結果に基づいて、被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の関節トルク/関節力を逆動力学を用いて時系列的に算出する(S3)。
【0088】
そして、前記特定値算出部40は、運動能力算出部30により時系列的に算出された被験者の日常生活の身体動作時における身体部位の関節トルクに基づいて、上半身、左側の下半身、および右側の下半身の少なくとも3つの身体部位の関節トルクの特定値を算出する(S4)。具体的には、前記特定値算出部40は、前記運動能力算出部30により算出された被験者の身体部位の各関節の位置/角度q、速度/角速度q’、加速度/角加速度q”および/または関節トルク/関節力τの時系列データに対して、最大値、最小値、平均値、中央値、積分値、微分値、総和、標準偏差などを日常生活の身体動作時における身体部位の特定値として算出する。このとき、前記特定値算出部40は、身体情報入力部10により入力された体重、身長、あるいは人体寸法(周径や長さなど)に基づいて特定値を正規化してもよい。
【0089】
そして、前記評価結果出力部50は、図4図10に示すように、前記特定値算出部40により算出された少なくとも3つの身体部位の関節トルク/関節力の特定値、指標値あるいは得点を、被験者の日常生活の身体動作時における運動能力と評価して、上半身、左側の下半身、右側の下半身に分けて出力する(S5)。
【実施例】
【0090】
<実施例1>
本実施例では、非高齢者6名と高齢者6名の合計12名の被験者を対象としている。身体動作の測定では、モーションキャプチャ装置Kinectセンサー(Microsoft社製、フレームレート30fps)を用いて、椅子に座っている状態から立ち上がるという日常生活における身体動作について、被験者の身体各部の位置と姿勢の時系列データを計測した。
【0091】
各被験者の右足、右下腿、右大腿、左足、左下腿、左大腿および体幹(胴体)の7つの身体部位に係る7リンクモデルを想定し、計測した時系列データを用いたシミュレーションを行った。これにより、各被験者の右股関節、左股関節、右膝関節、左膝関節および体幹の関節トルクを時系的に算出した。そこから、椅子から立ち上がるまでの動作区間において推定した関節トルクの時系列データに対して絶対値を算出した。そして、この時系列データから最大値を抽出し、特定値として出力した。
【0092】
なお、本実施例のその他の設定事項については、下記のとおりである。
・床や椅子からの反力はないものとした。
・関節トルクはカットオフ周波数3Hzのローパスフィルタ処理を行った。
・身体部位の各質量、慣性モーメント、質量中心位置などは全被験者共通のパラメータを用いた。
・質量中心位置は各身体部位のリンク長の半分と定義した。
・被験者には、普段、日常生活において、椅子から立ち上がる時と同程度の力の入れ具合で立ち上がってもらうように口頭指示を与えた。
【0093】
推定した関節トルクの絶対値処理後の時系列データに対して最大値を特定値として取り扱った場合、各被験者の立ち上がり動作における右股関節、左股関節、右膝関節、左膝関節および体幹の特定値は、非高齢者の被験者および高齢者の被験者について、それぞれ図4図5に示すとおりとなった。図4に示すように、非高齢者は6名とも身体各部においてそれぞれの特定値がおおよそ同程度の大きさとなっており、類似した特定値のパターンが見られる。それに対して、図5に示すように、高齢者は各被験者ごとに身体各部の特定値が異なっており、各被験者ごとに異なった特定値のパターンが見られる結果となった。
【0094】
特に高齢者はSub.7、Sub.8、Sub.9の結果で見られるように体幹の特定値が小さくなり、非高齢者の被験者よりも体幹の筋力の衰えが見られる。また、高齢被験者のSub.9、Sub.12は股関節の数値が左右でおおよそ1.5〜2倍ほど異なっており、下半身の左右バランスが悪くなっている様子が見られる。
【0095】
特許文献5のように、下肢のみを評価した場合には、高齢者の体幹の衰えを見逃してしまう恐れがあったが、本発明では、上半身と下半身の左半身側と右半身側の3つの部位の特定値を出力することで、体幹の衰え度合いと左右バランスを総合的に評価でき、より多面的に高齢者の運動能力の衰え度合いを捉えることができる。
【0096】
<実施例2>
本実施例では、実施例1で算出した関節トルクの絶対値の最大値に対して、各被験者の体格を考慮し、体重と性別の情報から身体部位の各質量を割り当てて、シミュレーションを行った。その結果、関節トルクは、各被験者の体格に応じた値が得られた。体重と性別の情報から身体部位の各質量の割り当てでは、高齢者群の被験者においては、「岡田ら;「日本人高齢者の身体部分慣性特性」、バイオメカニズム13」の質量比を用いて各被験者の体重から部位質量を推定した。非高齢者群の被験者においては、「阿江ら;「日本人アスリートの身体部分慣性特性の推定」、バイオメカニズム11」の質量比を用いて各被験者の体重から部位質量を推定した。また、各被験者の体格差を考慮するために関節トルクの最大値を各被験者の体重により正規化した値を特定値として出力した。
【0097】
シミュレーションの結果、各被験者の立ち上がり動作における右股関節、左股関節、右膝関節、左膝関節および体幹の関節トルクの最大値を体重で正規化した値は、非高齢者の被験者および高齢者の被験者それぞれ、図6図7に示すとおりとなった。これによれば、被験者の体格を考慮した結果を得ることができる。
【0098】
なお、被験者の体重の情報のみを用いる例を示したが、被験者の身長、体重、年齢、部位長といった複数の情報を用いてもよく、そこから身体部位の各質量、慣性モーメント、質量中心位置などのパラメータを割り当ててもよい。
【0099】
<実施例3>
本実施例では、複数の運動能力の特定値を算出し、被験者の運動能力の得点を算出した。 本実施例では、実施例2で算出した特定値を用いて、関節トルクの総和τTotalを算出し、被験者がどの程度大きな力を発揮することができたかを示す指標値p1を[式4]によって算出した。また、絶対値処理後の関節トルクの最大値の差分の絶対値を算出することで、被験者がどの程度、左右バランス良く力を発揮することができたかを示す指標値p2を[式6]によって算出した。そして、上半身と下半身のどちらの力を大きく発揮して、動作を行ったかを示す指標値p3を[式8]を用いて算出した。ただし、モーションキャプチャー装置によって、足首関節の3次元データを精度良く測定することが困難であったため、今回の実施例では、足関節の値は用いなかった。
【0100】
なお、本実施例のその他の設定事項については、下記のとおりである。
・実施例2の結果を参考にして、p1とp3は値が大きくなるほど運動能力が高いことを示す指標値として、[式9]、[式10]を用いて得点を算出した。p2は値が小さいほど運動能力が高いことを示す指標値として、[式11] 、[式12]を用いて得点を算出した。
・絶対値処理値の関節トルクの最大値の総和p1の算出において、[式4]の重み係数を、ωTotal体幹=1、ωTotal左股関節=1、ωTotal右股関節=1、ωTotal左膝関節=1、ωTotal右膝関節=1、ωTotal左足関節=1、ωTotal右足関節=0とした。ここで、ωTotal左足関節=0、ωTotal右足関節=0としているのは、モーションキャプチャー装置によって、精度良く足部の3次元データを測定することが困難であったため、足関節の関節トルクが必要充分な精度で算出できていないと判断したためである。
【0101】
一方、
・左右バランス良く力を発揮することができたかを示す値p2の算出において、[式6]の重み係数をωValance股関節=1、ωValance膝関節=1、ωValance足関節=0とした。
・絶対値処理後の関節トルクの最大値の総和p1の最低得点とする基準値pMin1=0.01、最高得点とする基準値pMax1=4.0とした。
・被験者がどの程度、左右バランス良く力を発揮することができたかを示す値p2の最低得点とする基準値pMax2=1.5、最高得点とする基準値pMin2=0.01とした。
・被験者が上半身と下半身のどちらの力を大きく発揮して、動作を行ったかを示す値p3の最低得点とする基準値pMin3=0.1、最高得点とする基準値pMax3=2.0とした。
・[式13]の重み係数をωScore1=0.1、ωScore2=0.45、ωScore3=0.45として総合得点STotalを算出した。
・被験者が上下半身と下半身のどちらの力を大きく発揮して、動作を行ったかを示す値の算出において、[式8]の重み係数、ωRate体幹=1、ωRate左股関節=1、ωRate右股関節=1、ωRate左膝関節=1、ωRate右膝関節=1、ωRate左足関節=0、ωRate右足関節=0とした。
【0102】
而して、得点を算出した結果、図8に示すように、非高齢者と高齢者で得点が異なり、運動能力の違いを一目で確認でき、運動能力が低い高齢者を容易に発見できる。
【0103】
また、非高齢者と高齢者の絶対値処理後の関節トルクの最大値の総和の得点S1を[式9]、[式10]から算出した。また、左右バランス良く力を発揮することができたかを示す値の得点S2を[式11] 、[式12] から算出した。また、上半身と下半身のどちらの力を大きく発揮して、動作を行ったかを示す値の得点S3を[式9]、[式10]から算出した。得点S1、得点S2、得点S3のレーダーチャートはそれぞれ図9図10に示すとおりである。
【0104】
図9に示すとおり、非高齢者では全ての得点が高くなっている。それに対して、図10に示すとおり、高齢者は、全体的に上下半身の比率の得点が小さくなっており、上半身と下半身の力の入れ方が非高齢者と異なっており、うまく上半身の力を発揮できていない様子が見られる。また、Sub.12においては、上下半身の比率、左右差ともに得点が低く、運動能力の低下を一目で確認することができる。
【0105】
このように、レーダーチャートを用いることで、左右差を改善する必要があるのか、または体幹を鍛える必要があるのかなどリハビリによって改善すべき箇所がより把握しやすくなる。
【0106】
以上のように上半身、左側の下半身、右側の下半身の少なくとも3つの部位の特定値に基づいて得点を算出することで、高齢者の体幹の衰えや下半身の左右バランスなどの運動能力を示す特徴を抽出することができる。これによって、高齢者の運動能力の得点に基づいて早急にリハビリの介入が必要な高齢者や近い将来リハビリの介入が必要となる恐れがある高齢者、元気な高齢者を分類することができる。
【0107】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、本発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0108】
10…身体情報入力部
20…身体動作計測部
30…運動能力算出部
40…特定値算出部
50…評価結果出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10