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特開2019-155248トリチウム分離固定化剤およびそれを用いたトリチウムの分離固定化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-155248(P2019-155248A)
(43)【公開日】2019年9月19日
(54)【発明の名称】トリチウム分離固定化剤およびそれを用いたトリチウムの分離固定化方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 59/26 20060101AFI20190823BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20190823BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20190823BHJP
   B01J 20/08 20060101ALI20190823BHJP
   B01J 20/12 20060101ALI20190823BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20190823BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20190823BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20190823BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20190823BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20190823BHJP
   G21F 9/16 20060101ALI20190823BHJP
【FI】
   B01D59/26
   B01J20/04 A
   B01J20/06 A
   B01J20/08 C
   B01J20/12 A
   B01J20/26 C
   B01J20/28 Z
   C02F1/28 A
   B01J20/10 C
   G21F9/06 591
   G21F9/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-43792(P2018-43792)
(22)【出願日】2018年3月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成29年12月21日発行 京都大学原子炉実験所発行 京都大学原子炉実験所「第52回学術講演会報文集」、P−34 平成30年1月25日〜26日 京都大学原子炉実験所主催 第52回京都大学原子炉実験所学術講演会、 京都大学原子炉実験所(大阪府泉南郡熊取町朝代西2丁目)
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】藤井 和子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】上原 章寛
(72)【発明者】
【氏名】福谷 哲
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D624AA04
4D624BA06
4D624BA11
4D624BA12
4D624BA13
4D624BA14
4D624BA17
4D624BC01
4D624BC04
4D624CA01
4D624CA06
4D624DA03
4D624DB19
4G066AA15B
4G066AA16B
4G066AA17B
4G066AA18B
4G066AA20B
4G066AA25B
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4G066AA36B
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4G066AA51B
4G066AA53B
4G066AA63B
4G066AA66B
4G066AB07B
4G066AB23B
4G066AC11B
4G066BA12
4G066BA36
4G066CA21
4G066DA07
4G066DA08
(57)【要約】
【課題】 トリチウムを含有する水溶液からトリチウムを分離し、かつ、固定化するトリチウム分離固定化剤、および、それを用いたトリチウム分離固定化方法を提供すること。
【解決手段】 本発明のトリチウム分離固定化剤は、層状構造を有し、水酸基を有する金属化合物を含有する。本発明のトリチウムを含有する水溶液からトリチウムを分離し、固定化する方法は、トリチウムを含有する水溶液と、上述のトリチウム分離固定化剤とを接触させる工程を包含する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有し、かつ、水酸基を有する金属化合物を含有する、トリチウムを含有する水溶液からトリチウムを分離し、固定化するトリチウム分離固定化剤。
【請求項2】
前記金属化合物は、層状水酸化物、層状複水酸化物、および、層状粘土鉱物、からなる群から選択される、請求項1に記載のトリチウム分離固定化剤。
【請求項3】
前記層状水酸化物は、2価の金属水酸化物である、請求項2に記載のトリチウム分離固定化剤。
【請求項4】
前記2価の金属水酸化物は、Mg(OH)、Ni(OH)、Ca(OH)、Mn(OH)、Zn(OH)、および、Cu(OH)からなる群から選択される、請求項3に記載のトリチウム分離固定化剤。
【請求項5】
前記層状複水酸化物は、一般式[M2+1−x3+(OH)x+[An−x/n・yHO]x−(ここで、M2+は2価の金属イオンであり、M3+は3価の金属イオンであり、Aはアニオンであり、nは前記Aの価数であり、xおよびyは、それぞれ、0<x≦0.33および0<yである)で表される、請求項2に記載のトリチウム分離固定化剤。
【請求項6】
前記M2+は、Mg2+、Mn2+、Co2+、Ni2+およびZn2+からなる群から選択され、
前記M3+は、Al3+、Cr3+、Mn3+およびFe3+からなる群から選択される、請求項5に記載のトリチウム分離固定化剤。
【請求項7】
n−は、NO、Cl、Br、SO2−、Fe(CN)C4−、CO2−、および、CHCOOからなる群から選択される、請求項5または6に記載のトリチウム分離固定化剤。
【請求項8】
前記層状粘土鉱物は、スメクタイト群、マイカ群、バーミキュライト群、および、カオリン群からなる群から選択される、請求項2に記載のトリチウム分離固定化剤。
【請求項9】
イオン交換樹脂をさらに含有する、請求項1〜8のいずれかに記載のトリチウム分離固定化剤。
【請求項10】
トリチウムを含有する水溶液からトリチウムを分離し、固定化する方法であって、
前記トリチウムを含有する水溶液と、請求項1〜9のいずれかに記載のトリチウム分離固定化剤とを接触させる工程を包含する、方法。
【請求項11】
前記接触させる工程は、前記トリチウムを含有する水溶液と前記トリチウム分離固定化剤とを0℃以上35℃以下の温度範囲で混合する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記接触させる工程は、前記トリチウムを含有する水溶液中で前記トリチウム分離固定化剤を攪拌する、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記接触させる工程は、前記トリチウムを含有する水溶液と前記トリチウム分離固定化剤とを30分以上24時間以下の時間混合する、請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記接触させる工程は、前記トリチウムを含有する水溶液と前記トリチウム分離固定化剤とを3時間以上15時間以下の時間混合する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記接触させる工程は、前記トリチウム分離固定化剤をカラムに充填し、前記トリチウムを含有する水溶液を通水する、請求項10または11に記載の方法。
【請求項16】
前記接触させる工程を繰り返す工程をさらに包含する、請求項10〜15のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリチウムを含有する水溶液からトリチウムを分離し、固定化するトリチウム分離固定化剤、および、それを用いたトリチウムの分離固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリチウム(T)は、水素の放射性同位体であり、「三重水素」とも呼ばれる。トリチウムは通常、水中に存在するが、放射性物質であるため、これを多量に含む水、例えば原子力発電所の事故により発生する放射能汚染水から除去する必要がある。しかし、トリチウムは、水中ではトリチウム水(HTO)として存在し、これは軽水(HO)とよく似た性質を有することから、他の放射性物質の除去に適用されるイオン交換樹脂、吸着材、フィルター等を用いた手法で分離除去することはできない。
【0003】
近年、酸化マグネシウムを用いてトリチウムを分離固定化する技術が開発された(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、トリチウムを含む放射能汚染水を酸化マグネシウムと接触させて、水酸化マグネシウムを生成させるが、生成した水酸化マグネシウム中にトリチウムが取り込まれており、安定した保存が可能となる。
【0004】
特許文献1以外にも水酸化マグネシウムにトリチウムを取り込み、保存する方法があれば好ましい。また、酸化マグネシウム以外にもトリチウムの分離固定化できる材料が開発されば望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018−4588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上から、本発明の課題は、トリチウムを含有する水溶液からトリチウムを分離し、かつ、固定化するトリチウム分離固定化剤、および、それを用いたトリチウム分離固定化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるトリチウムを含有する水溶液からトリチウムを分離し、固定化するトリチウム分離固定化剤は、層状構造を有し、かつ、水酸基を有する金属化合物を含有し、これにより上記課題を解決する。
前記金属化合物は、層状水酸化物、層状複水酸化物、および、層状粘土鉱物、からなる群から選択されてもよい。
前記層状水酸化物は、2価の金属水酸化物であってもよい。
前記2価の金属水酸化物は、Mg(OH)、Ni(OH)、Ca(OH)、Mn(OH)、Zn(OH)、および、Cu(OH)からなる群から選択されてもよい。
前記層状複水酸化物は、一般式[M2+1−x3+(OH)x+[An−x/n・yHO]x−(ここで、M2+は2価の金属イオンであり、M3+は3価の金属イオンであり、Aはアニオンであり、nは前記Aの価数であり、xおよびyは、それぞれ、0<x≦0.33および0<yである)で表されてもよい。
前記M2+は、Mg2+、Mn2+、Co2+、Ni2+およびZn2+からなる群から選択され、前記M3+は、Al3+、Cr3+、Mn3+およびFe3+からなる群から選択されてもよい。
n−は、NO、Cl、Br、SO2−、Fe(CN)C4−、CO2−、および、CHCOOからなる群から選択されてもよい。
前記層状粘土鉱物は、スメクタイト群、マイカ群、バーミキュライト群、および、カオリン群からなる群から選択されてもよい。
イオン交換樹脂をさらに含有してもよい。
本発明によるトリチウムを含有する水溶液からトリチウムを分離し、固定化する方法は、前記トリチウムを含有する水溶液と、上述のトリチウム分離固定化剤とを接触させる工程を包含し、これにより上記課題を解決する。
前記接触させる工程は、前記トリチウムを含有する水溶液と前記トリチウム分離固定化剤とを0℃以上35℃以下の温度範囲で混合してもよい。
前記接触させる工程は、前記トリチウムを含有する水溶液中で前記トリチウム分離固定化剤を攪拌してもよい。
前記接触させる工程は、前記トリチウムを含有する水溶液と前記トリチウム分離固定化剤とを30分以上24時間以下の時間混合してもよい。
前記接触させる工程は、前記トリチウムを含有する水溶液と前記トリチウム分離固定化剤とを3時間以上15時間以下の時間混合してもよい。
前記接触させる工程は、前記トリチウム分離固定化剤をカラムに充填し、前記トリチウムを含有する水溶液を通水してもよい。
前記接触させる工程を繰り返す工程をさらに包含してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のトリチウム分離固定化剤は、層状構造を有し、かつ、水酸基を有する金属化合物を含有する。水酸基の水素とトリチウムとが容易にイオン交換されるので、トリチウムを結晶構造内に取り込み、固定化できる。
【0009】
本発明のトリチウムを分離固定する方法は、トリチウムを含有する水溶液と、上述のトリチウム分離固定化剤とを接触させる工程を含有する。これにより、トリチウム分離固定化剤を構成する金属化合物における水素がトリチウムとイオン交換され、トリチウムを含有する水溶液からトリチウムが分離される。また、トリチウムは金属化合物の結晶構造内に取り込まれているため、トリチウムがガスとして脱離することなく、金属化合物中に固定化される。このため、単に接触後のトリチウム分離固定化剤を保管すればよいので、放射性物質の維持管理に有利である。また、本発明の方法は、単にトリチウムを含有する水溶液とトリチウム分離固定化剤とを接触させればよいので、大掛かりな設備や熟練の技術を不要とするため、実施に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のトリチウム分離固定剤を用いたトリチウムの分離固定化のプロシージャを示す図
図2】本発明のトリチウム分離固定剤を用いたトリチウムの分離固定化の別のプロシージャを示す図
図3】実施例1による水酸化マグネシウムを用いた場合の攪拌時間とトリチウムの除去率との関係を示す図
図4】実施例2による水酸化カルシウムを用いた場合の攪拌時間とトリチウムの除去率との関係を示す図
図5】比較例1による水酸化アルミニウムを用いた場合の攪拌時間とトリチウムの除去率との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0012】
本願発明者らは、トリチウム分離固定化剤として水酸基を有する金属化合物に着目し、鋭意研究することによって、金属化合物の中でも層状構造を有する金属化合物が、トリチウムの分離固定に効果があり、トリチウム分離固定化剤として機能し得ることを見出した。具体的には、金属化合物中の水酸基の水素とトリチウムとが容易にイオン交換されるので、トリチウムを含有する水溶液等からトリチウムの分離を可能とする。さらには、イオン交換されたトリチウムは、金属化合物の結晶構造内に取り込まれるので、安定に固定化でき、ガス等になって脱離することはない。また、イオン交換後の金属化合物もまた固体であるため、常温常圧での保管ができる。
【0013】
金属化合物は、層状構造を有し、かつ、水酸基を有する限り制限はないが、好ましくは、層状水酸化物、層状複水酸化物、および、層状粘土鉱物からなる群から選択される。これらの金属化合物であれば、入手可能である。
【0014】
層状水酸化物は、好ましくは、2価の金属水酸化物である。中でも、Mg(OH)、Ca(OH)、Ni(OH)、Mn(OH)、Zn(OH)、Cu(OH)等が挙げられる。例えば、Mg(OH)(水酸化マグネシウム)およびCa(OH)(水酸化カルシウム)は、いずれも、六方晶系の結晶系に属し、MgまたはCaからなる層が水酸基でサンドイッチされた構造を繰り返し単位とする層状構造を有する。
【0015】
ここで、層状水酸化物としてM(OH)(Mは、Mg、Ca、Ni、Mn、ZnおよびCuからなる群から選択される)からなるトリチウム分離固定化剤が、トリチウムを含有する水溶液からトリチウムを分離し、固定化するイオン交換反応式は、以下のとおりである。
M(OH)+HTO→M(OH1−x+H
ここで、Tはトリチウムを表し、HTOは、トリチウムを含有する水を表し、xは、0以上1以下である。M(OH)の水酸基の水素の一部または全部トリチウムと置換され、M(OH1−xとなる。イオン交換されたトリチウムは酸素と結合し、結晶構造内に取り込まれているため、ガスとなって脱離することはなく、安定である。このため、イオン交換後のトリチウム分離固定化剤のみを常温常圧で保管するだけでよい。特に、Mg(OH)がトリチウムにイオン交換されると、分解温度が上昇するため、300℃程度の高温下においても安定に保管できる。
【0016】
層状複水酸化物は、好ましくは、一般式[M2+1−x3+(OH)x+[An−x/n・yHO]x−(ここで、M2+は2価の金属イオンであり、M3+は3価の金属イオンであり、Aはアニオンであり、nはAの価数であり、xおよびyは、それぞれ、0<x≦0.33および0<yである)で表される。層状複水酸化物は、[M2+1−x3+(OH)x+で表されるホスト層と、[An−x/n・yHO]x−で表されるゲスト層とを繰り返し単位とする層状構造を有する。
【0017】
2+は、好ましくは、Mg2+、Mn2+、Co2+、Ni2+およびZn2+からなる群から選択され、M3+は、好ましくは、Al3+、Cr3+、Mn3+およびFe3+からなる群から選択される。これらの組み合わせであれば、層状複水酸化物は効率的にトリチウムとイオン交換し、固定化できる。
【0018】
n−は、NO、Cl、Br、SO2−、Fe(CN)C4−、CO2−、CHCOO等が挙げられる。あるいは、An−は、酢酸イオン以外の有機アニオンであってもよい。
【0019】
層状粘土鉱物は、Al、Mg、Caに代表される金属八面体シートと、水酸基を有するSi四面体シートとが連結したシートを繰り返し単位とする層状構造を有し、層状ケイ酸塩とも称される。中でも、層状粘土鉱物は、好ましくは、スメクタイト群、マイカ群、バーミキュライト群、および、カオリン群からなる群から選択される。これらは、市販されており、入手が容易である。
【0020】
本発明のトリチウム分離固定化剤は、上述の金属化合物単体からなってもよいし、必要に応じて、有機化合物、樹脂等を含有してもよい。例えば、上述の金属化合物をイオン交換剤と混合しておけば、トリチウムに加えて放射性金属イオンの除去を可能にする。なお、トリチウムの分離という観点からすれば、トリチウム分離固定化剤に含有される上述の金属化合物は、少なくとも、50質量%以上であればよい。
【0021】
本発明のトリチウム分離固定化剤の形状は特に制限はなく、粉末、板、円柱、球等のバルク状であってもよく、用途に応じて選択されればよい。
【0022】
次に、図1および図2を参照して、本発明のトリチウム分離固定化剤を用いたトリチウムを含有する水溶液からトリチウムを分離し、固定化する方法を説明する。
図1は、本発明のトリチウム分離固定剤を用いたトリチウムの分離固定化のプロシージャを示す図である。
【0023】
本発明の方法は、トリチウムを含有する水溶液(以降では単にトリチウム水溶液と称する)と、上述のトリチウム分離固定化剤とを接触させる工程を包含する。
【0024】
図1において、状態100は、トリチウム水溶液120とトリチウム分離固定化剤130との接触の具体例として、トリチウム水溶液120中にトリチウム分離固定化剤130が分散している混合状態を示す。状態110は、トリチウム水溶液120からトリチウムが分離され、分離されたトリチウムがトリチウム分離固定化剤130に固定された様子を示す。ここでは、トリチウム分離固定化剤130は粉末であるが、粉末を成形したバルク体であってもよい。
【0025】
本発明の方法によれば、状態100に示すように、単にトリチウム分離固定化剤130とトリチウム水溶液120とを混合するだけで、状態110に示すように、トリチウム分離固定化剤130中の金属化合物における水酸基の水素と、トリチウム水溶液120中のトリチウムとがイオン交換される。その結果、トリチウム水溶液120はトリチウムが分離された水溶液140となり、トリチウム分離固定化剤130は、トリチウムを金属化合物の結晶構造内に取り込んだトリチウム分離固定化剤150となる。
【0026】
接触させる工程は、好ましくは、トリチウム分離固定化剤130とトリチウム水溶液120とを0℃以上35℃以下の温度範囲で混合する。この温度範囲で混合することにより、イオン交換が促進するため、加熱手段等の設備を不要とし、有利である。
【0027】
接触させる工程は、好ましくは、トリチウム水溶液120中でトリチウム分離固定化剤130を攪拌してもよい。これにより、トリチウム水溶液120中のトリチウムとトリチウム分離固定化剤130中の金属化合物における水酸基との接触が増えるため、イオン交換が促進する。なお、攪拌を行わなくてもイオン交換は起きるが、マグネチックスターラなどの攪拌手段を用いればイオン交換が促進するため好ましい。
【0028】
接触させる工程は、好ましくは、トリチウム分離固定化剤130とトリチウム水溶液120とを30分以上24時間以下の時間混合してもよい。混合時間が30分未満の場合、イオン交換が十分進まない可能性がある。24時間を超えて混合しても、平衡状態のため、イオン交換が進まない。さらに好ましくは、3時間以上15時間以下の時間混合する。なおさらに好ましくは、4時間以上10時間以下の時間混合する。
【0029】
図2は、本発明のトリチウム分離固定剤を用いたトリチウムの分離固定化の別のプロシージャを示す図である。
【0030】
図2ではカラムクロマトグラフィを実施した例であり、図2において、状態200は、トリチウム水溶液120とトリチウム分離固定化剤130との接触の具体例として、カラム220に充填されたトリチウム分離固定化剤130にトリチウム水溶液120を通水(滴下であってもよい)する状態を示す。状態210は、トリチウム水溶液120からトリチウムが分離され、分離されたトリチウムがトリチウム分離固定化剤130に固定された様子を示す。ここでは、トリチウム分離固定化剤130は、カラム220に充填された円柱状のバルク体である。
【0031】
本発明の方法によれば、状態200に示すように、単にトリチウム分離固定化剤130にトリチウム水溶液120を通水(滴下)するだけで、状態210に示すように、トリチウム分離固定化剤130中の金属化合物における水酸基の水素と、トリチウム水溶液120中のトリチウムとがイオン交換される。その結果、トリチウム水溶液120はトリチウムが分離された水溶液140となり、カラム220から排出され、トリチウム分離固定化剤130は、トリチウムを金属化合物の結晶構造内に取り込んだトリチウム分離固定化剤150となる。
【0032】
トリチウム水溶液120の通水(滴下)の速度は、好ましくは、空間速度0.5mLh−1以上600mLh−1以下の範囲である。これにより、混合する場合と同様に、トリチウム水溶液120とトリチウム分離固定化剤130中の金属化合物における水酸基との接触を増やすことができる。さらに好ましくは、空間速度は、1mLh−1以上20mLh−1以下の範囲であり、なおさらに好ましくは、1mLh−1以上10mLh−1以下の範囲である。
【0033】
図1および図2においても、接触させる工程を2以上繰り返し行ってもよい。これにより、トリチウムを確実に分離し、固定化できる。
【0034】
これまでトリチウム分離固定化剤として、層状構造を有し、水酸基を有する金属化合物について述べてきたが、例えば、金属化合物に代えて、水酸基を有する高分子を用いても、トリチウムと水酸基の水素とのイオン交換が生じる可能性がある。
【0035】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0036】
[実施例1]
実施例1では、トリチウム分離固定化剤としてMg(OH)を用い、トリチウム水溶液からトリチウムを分離した。
【0037】
粉末状の水酸化マグネシウム(Mg(OH)、和光純薬工業株式会社製、2g)を、トリチウムを含有する水溶液(トリチウム水溶液、京都大学原子炉実験所より入手、トリチウム濃度:1.98MBq・dm、10ml)に添加した密閉容器を複数用意した。各密閉容器を、ローラー型回転式撹拌機を用いて、1時間、2時間、5時間、7時間、8時間、10時間、14時間および18時間それぞれ攪拌・混合した。このとき、攪拌・混合は、20℃、常圧下で行われた。
【0038】
所定時間攪拌後、遠心分離を行い、上澄み液をフィルタ(孔径:0.45μmまたは0.2μ)に通し、水酸化マグネシウムを取り除いた。トリチウム水溶液からのトリチウムの除去率は、トリチウム水溶液(原液)におけるトリチウムの放射能と、水酸化マグネシウムと混合攪拌後の溶液におけるトリチウムの放射能とを比較することによって求めた。
【0039】
測定用試料は、フィルタリング後の上澄み液1cmに対して20cmの発光剤(Ultima Gold、パーキンエルマー社製)を添加して調製された。液体シンチレーションカウンタ(TRI−CARB 2750TR/LL、パッカード社製)により測定用試料におけるトリチウムの放射能を測定した。測定は、5分間の測定を10回繰り返すことを1サイクルとし、これを6サイクル行って、測定値の標準誤差が±1000Bqの範囲内となった場合を有効とし、6サイクル(60回の測定)の平均値を放射能とした。なお、測定値の標準誤差が±1000Bqの範囲外となった場合には、測定用試料と発光剤とが均一混合していなかったと判断し、測定結果を無効とした。
【0040】
原液の放射能と混合攪拌後の溶液の放射能とから、水酸化マグネシウム1g当たりのトリチウムの除去率(%)を算出し、攪拌時間に対するトリチウムの除去率の変化を調べた。結果を図3に示す。
【0041】
[実施例2]
実施例2では、トリチウム分離固定化剤としてCa(OH)を用い、トリチウム水溶液からトリチウムを分離した。水酸化マグネシウムに代えて、粉末状の水酸化カルシウム(Ca(OH)、和光純薬工業株式会社製、2g)を用い、攪拌時間を2時間、3時間、5時間、8時間、10時間、14時間および18時間とした以外は、実施例1と同様であった。実施例1と同様に、水酸化カルシウム1g当たりのトリチウムの除去率(%)を算出し、攪拌時間に対するトリチウムの除去率の変化を調べた。結果を図4に示す。
【0042】
[比較例1]
比較例1では、Al(OH)を用い、トリチウム水溶液からトリチウムの分離を試みた。水酸化マグネシウムに代えて、粉末状の水酸化アルミニウム(Al(OH)、和光純薬工業株式会社製、2g)を用い、攪拌時間を2時間、3時間、5時間、8時間、10時間、14時間および18時間とした以外は、実施例1と同様であった。実施例1と同様に、水酸化アルミニウム1g当たりのトリチウムの除去率(%)を算出し、攪拌時間に対するトリチウムの除去率の変化を調べた。結果を図5に示す。
【0043】
以上の実施例1〜2および比較例1の結果を説明する。
図3は、実施例1による水酸化マグネシウムを用いた場合の攪拌時間とトリチウムの除去率との関係を示す図である。
図4は、実施例2による水酸化カルシウムを用いた場合の攪拌時間とトリチウムの除去率との関係を示す図である。
図5は、比較例1による水酸化アルミニウムを用いた場合の攪拌時間とトリチウムの除去率との関係を示す図である。
【0044】
図3によれば、水酸化マグネシウムを用いた場合、攪拌時間(すなわち、接触時間)が増大するにつれて、トリチウムの除去率が増加する傾向を示すことが分かった。詳細には、攪拌時間が5時間以上になると、トリチウムの除去率は一定値となり、反応が平衡状態となったことが分かった。また、攪拌時間が15時間を超えてもトリチウムの除去率に大幅な上昇がみられないことから、攪拌時間の上限は15時間とすることが好ましいといえる。
【0045】
図4によれば、水酸化カルシウムを用いた場合、攪拌時間とトリチウムの除去率との相関関係にバラツキがあるものの、攪拌時間が3時間以上であれば、トリチウムの除去効果が確認された。
【0046】
実施例1および実施例2によれば、層状構造を有する水酸化マグネシウム/水酸化カルシウムとトリチウム水溶液との単純な系において、有効なトリチウムの除去率が確認されていることから、水酸化マグネシウム/水酸化カルシウム中の水酸基の水素とトリチウムとがイオン交換され、固定化されていることが示唆される。
【0047】
図5によれば、水酸化アルミニウムを用いた場合、攪拌時間を長くしても、トリチウムが除去されないことが分かった。水酸化アルミニウムは、水酸化マグネシウムや水酸化カルシウムと異なり、単斜晶系の結晶構造を有し、層状構造を有さない。
【0048】
以上から、トリチウムを含有する水溶液からトリチウムを分離し、固定化するトリチウム分離固定化剤として、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムに代表される、層状構造を有し、かつ、水酸基を有する金属化合物を使用できることが示された。また、このようなトリチウム分離固定化剤とトリチウムを含有する水溶液とを単に接触させるだけで、トリチウムを分離し、固定化できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によるトリチウム分離固定化剤を用いれば、トリチウムを含有する水溶液から容易にトリチウムを分離し、固定化するため、トリチウムを含有する放射能汚染水の浄化に有利である。また、大掛かりな設備や熟練の技術は不要である。さらに、トリチウムを固定化したトリチウム分離固定化剤は、安定であるため、特殊な装置を用いることなく、保管できる。
【符号の説明】
【0050】
100、200 (トリチウム分離前の)状態
110、210 (トリチウム分離後の)状態
120 トリチウムを含有する水溶液(トリチウム水溶液)
130 トリチウム分離固定化剤
140 トリチウム水溶液からトリチウムが分離された水溶液
150 トリチウムを取り込んだトリチウム分離固定化剤
220 カラム
図1
図2
図3
図4
図5