【解決手段】被処理水をイオン交換体に通水して処理水を得るイオン交換塔2用いて純水を製造する純水製造装置1であって、イオン交換塔2内の予め設定された位置にイオン交換体3に接するように配置され、イオン交換体3の樹脂導電率を連続的に測定する少なくとも1対の電極を備える導電率計4と、予め設定された位置における導電率計4の測定結果に基づいて、イオン交換塔2内を通過する複数のイオンがイオン交換体3に吸着又は脱離することによる樹脂導電率の測定値の変化を検出し、処理水の水質に影響を及ぼすイオンによる樹脂導電率の測定値の変化が検出された場合に、異常の発生を警告するための異常検出信号を生成する異常検出手段11とを備える。
前記一対の電極が、前記被処理水の通水方向に対して前記イオン交換塔の入口と出口の中間よりも下流側に配置される請求項1〜6のいずれか1項に記載の純水製造装置。
【背景技術】
【0002】
医薬品の製造、半導体の製造、発電用ボイラー水、食品などに使用される純水もしくは超純水を製造するためのイオン交換方式純水製造装置が知られている。イオン交換方式純水製造装置は、原水をイオン交換体等に接触させ、原水に含まれるアニオンおよびカチオン成分をイオン交換反応により除去し、純水を製造する装置である。イオン交換体は、定期的に酸およびアルカリにより再生することで、繰り返し使用することができる。
【0003】
近年、半導体の高集積度化などにより、純水製造装置に求められる純水の純度が高くなるとともに、再生に用いられる薬品の使用量を抑え、ランニングコストを極限まで低減することが求められている。しかしながら、適正な再生頻度および再生薬品量の調整を行わないと、イオン交換体の再生不良が起こり、純水の水質低下のリスクが高まる。
【0004】
再生頻度の決定方法として従来から行われる最もオーソドックスな方法は、原水のイオン濃度を一定とみなし、一定量の原水の通水量を超えた場合に、イオン交換体の再生をする方式である。しかしながら、原水のイオン濃度が季節変動などにより上昇した場合、再生頻度が足りなくなるため、処理水の水質が低下する。季節変動を見越して薬品量や再生頻度を多く設定すると、無駄に薬品を消費するため、ランニングコストが上昇する。また、イオン交換体は汚れなどにより経年劣化するため、季節変動がなくても設備の能力が低下し、処理水の水質が低下していく。設備能力の低下を考慮した薬品量や再生頻度を設定すると、ランニングコストが更に上昇する問題もある。
【0005】
これらの問題を解決する手段の一つとして例えば特開平3−181384号公報(特許文献1)に記載されるように、原水の導電率を測定してイオン負荷を演算し、原水のイオン負荷を考慮したうえでイオン負荷を求め、再生頻度を決定する方式がある。
【0006】
しかしながら、導電率によるイオン負荷の演算方法は、イオン種やpHによって誤差が生じるため、精度に限界がある。特に、イオンの中でも例えばシリカは弱電解質であるため、導電率に表れにくく、原水の導電率からイオン負荷を推算すると誤差が生じる場合がある。他の分析器を設置することも可能であるが、イニシャルコストやランニングコストが上昇する。更に、上述の従来技術と同様に、イオン交換体は汚れなどにより経年劣化するため、季節変動がなくても設備の能力が低下し、処理水の水質が低下していくが、これらの誤差を考慮すると、特許文献1の技術を用いた場合でも、再生頻度および再生剤量の低減は限定的である。
【0007】
更に別の従来技術としては、イオン交換体の再生廃液のpHを測定し、測定値に基づいて再生剤の通薬量の監視を行うことにより再生に用いる薬品の使用量を抑える方法(特開平9−117679号公報(特許文献2))や、処理水中のシリカを分析計により測定する方法等がある。
【0008】
しかしながら、いずれの方法も、監視の精度に限界がある上、測定装置が高価で機器サイズも大きくなり、ランニングコスト及びメンテナンスコストが増大する。また、イオン交換体を収容したイオン交換塔は目視により得られる情報が少なく、イオン交換塔の外部に接続された水質計などによってもイオン交換塔の内部状況を把握することが困難である。そのため、イオン交換塔から排出された処理水の性状悪化が生じてから対策を行うか、或いは処理水の性状悪化が生じないように予め余裕を持たせた条件で処理を行うことが行われていた。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の第1乃至第4の実施の形態を説明する。以下に示す実施の形態は、同一又は対応する構成には同一又は類似の符号を付している。なお、以下の説明は、の発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0024】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る純水製造装置は、
図1に示すように、被処理水をイオン交換体3に通水して処理水を得るイオン交換塔2を用いて純水を製造する純水製造装置1であって、イオン交換塔2内の予め設定された位置にイオン交換体3に接するように配置され、イオン交換体3の樹脂導電率を連続的に測定する少なくとも1対の電極を備えた導電率計4を備えたイオン交換塔2と、導電率計4の測定結果に基づいて、処理水の異常の発生を警告するための異常検出信号を生成する異常検出手段11とを備える。
【0025】
本実施形態において「連続的に測定」とは、樹脂導電率を常時測定する場合の他、純水製造装置1の運転期間中において一定期間毎(例えば数分〜数時間毎)に定期的に樹脂導電率を測定する場合も含む。イオン交換体3に接するように配置された少なくとも1対の電極を備える導電率計4を介してイオン交換体3の樹脂導電率が連続的に測定されるため、樹脂導電率の測定結果を通じてイオン交換体3の状態(樹脂性能)をリアルタイムに把握することができる。その結果、イオン交換体3の性能低下をより素早く判断できるため、イオン交換体3の再生時期や交換時期を精度良く判断することができる。
【0026】
本実施形態において「樹脂導電率」とは、イオン交換塔2内の固相の導電率、即ちイオン交換体を構成するイオン交換樹脂の導電率を意味する。導電率計4が備える少なくとも1対の電極をイオン交換樹脂と直接接触するように配置することで、イオン交換塔2内に収容されたイオン交換体3を構成するイオン交換樹脂の導電率を直接測定できる。
【0027】
イオン交換塔2は、内部にイオン交換体3を収容し、被処理水を塔内に通水してイオン交換体3と接触させることにより、被処理水中の無機性溶解不純物を除去することが可能な装置であれば具体的構成は特に限定されない。イオン交換体3としては、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂、これら樹脂を混合した混床型イオン交換樹脂を含むイオン交換体が用いられる。
【0028】
図1に示すように、イオン交換塔2の外側面下部には1対の電極(図示省略)を備えた導電率計4が配置されている。導電率計4の具体的構成は限定されない。例えば、ステンレス鋼などの耐食性を有する材料で形成されたロッド状又は板状の2本の電極を電極間距離2〜10mm程度離間させた状態で、イオン交換塔2の外側面から内部へ、イオン交換塔2の高さ方向(通水方向)と交差する方向に挿入することができる。
【0029】
或いは、互いに逆の極性(+/−)を有する2本の電極を絶縁層を介して同心円状に配置した導電率計4をイオン交換塔2の内部へ挿入してもよい。あるいは、イオン交換塔2の高さ方向に沿ってイオン交換塔2の固相の導電率、即ち、イオン交換体3の樹脂導電率の測定のための測定端子を複数個備える導電率計4をイオン交換塔2の内壁に接着するか或いは内壁近傍に延在させるようにしてもよい。
【0030】
イオン交換体3の状態をより精度良く把握するためには、イオン交換塔2の入口21側のイオン交換体3よりも出口22側のイオン交換体3の状態を検知することが好ましい。このため、導電率計4は、
図1に示すように、被処理水の通水方向に対してイオン交換塔2の入口21(塔最上部)と出口22(塔最下部)の中間(50%)よりも下流側に配置されることが好ましい。より好ましくは、入口(0%)から出口(100%)に向かって60%以上下流側、より好ましくは70%以上、下流側となる位置で、導電率計4の電極の先端(導電率検出部分)がイオン交換体3と接触するように配置される。
【0031】
導電率計4は、イオン交換塔2の高さ方向に2箇所以上配置することが好ましい。例えば、イオン交換塔2の通水方向からみて上流、中流、及び下流領域それぞれに1対の電極をそれぞれ配置し、イオン交換体3の上流側、中流側、下流側の樹脂導電率を測定することが好ましい。イオン交換塔2の内部のイオン交換体3は、通水方向に対してイオン交換塔2を通過するイオンの濃度勾配が生じ、イオン交換塔2の入口側と出口側で樹脂導電率が変わる場合があるが、導電率計4を複数箇所に配置して、イオン交換体3の局所領域での樹脂導電率を複数箇所から測定することによって、イオン交換体3の樹脂性能をより詳しく把握することができる。
【0032】
導電率計4の検知精度を高めるために、イオン交換塔2の内面には、樹脂などの非導電性材料によるライニング層(図示省略)が配置されることが好ましい。或いは、イオン交換塔2自身が、非導電性材料で構成されていてもよい。
【0033】
導電率計4の電極間には、交流電圧が印加されることが好ましい。これにより、電極間に直流電圧が印加される場合に比べて、電極の表面に分極が生じるのを防ぎ、長期間安定してイオン交換体3の樹脂導電率を測定することができる。
【0034】
被処理水の通水中におけるイオン交換塔2内には複数のイオンが共存するため、導電率計4によって測定されるイオン交換体3の樹脂導電率の測定値は塔内における複数のイオンの影響を受けて複雑な変化を示す。
【0035】
しかしながら、イオン交換塔2内の同一箇所におけるイオン交換体3の挙動を定点で観察すると、同一箇所において3つ以上のイオンが同時に存在する領域は少ないことが分かった。即ち、イオン交換塔2を通過する複数のイオン間においては、イオンの拡散(移動のしやすさ)とイオンの除去のされやすさ(選択係数)は一致せず、その影響によりイオン交換塔2内のイオン分布が定まり、導電率計4が測定する樹脂導電率の測定値の変化も、そのイオン分布に応じて変動することが分かった。そして、この測定値の変化を観察することで、イオン交換塔2の内部状態をより詳細に把握することができ、イオン交換体3の再生時期や交換時期を精度良く判断できることが分かった。
【0036】
図2は、カチオン塔通水時におけるナトリウムイオン(Na
+)及びカルシウムイオン(Ca
2+)の各運転時間における塔内固相濃度分布及び各イオン成分のイオン交換体への吸着及び脱離による樹脂導電率の各運転時間における塔内状態の例を表すグラフである。なお、
図2及び以下に説明する
図3及び
図4において、固相濃度[−]=(Na
+又はH
+)イオンの固相濃度[mEq/L]/交換容量[mEq/L]で算出される。
【0037】
カチオン塔内においてはイオンの除去のされやすさは、例えばLi
+<Na
+<Mg
2+<Ca
2+となる。定点観測(カチオン塔の特定高さにおける観測)をした場合、まずナトリウムイオンによる樹脂導電率の変化が現れ、その後カルシウムイオンによる樹脂導電率の変化が現れる。時間の経過につれてこれらイオンの固相濃度の変動はイオン交換塔の入口側から出口側へと移動する。
【0038】
図3及び
図4は、本発明の実施の形態に係る純水装置のカチオン塔の入口から210mm、510mmの位置における、樹脂導電率、樹脂導電率変化の2階微分値及びカチオン塔を通過するナトリウムイオン(Na
+)及びカルシウムイオン(Ca
2+)の固相濃度を示すグラフである。「樹脂導電率2階微分値」とは、樹脂導電率の値を時間で2回微分演算した結果を示す。
【0039】
例えば
図3に示すように、カチオン塔の入口から210mmの位置におけるカチオン交換樹脂の導電率の変化(
図3の実線で表される「樹脂導電率」)に着目すると、ナトリウムイオン及びカルシウムイオンの固相濃度の増大に伴って樹脂導電率が一旦下がり(SP1)、更にナトリウムイオンに加えてカルシウムイオンの急激な固相濃度の増大に伴って、更に樹脂導電率が低下していることがわかる(SP2)。
図4に示す例も同様に、ナトリウムイオン及びカルシウムイオンの固相濃度の増大に伴って樹脂導電率が一旦下がり(SP1)、更にナトリウムイオンに加えてカルシウムイオンの急激な固相濃度の増大に伴って、更に樹脂導電率が低下している(SP2)。
【0040】
そのため、導電率計4に接続された計算機(PLC)100が備える異常検出手段11は、例えば
図3及び
図4に示すような樹脂導電率の測定値の変化を検出し、これに基づいて異常検出信号を生成するように構成することができる。
【0041】
即ち、異常検出手段11は、導電率計4の測定結果に基づいて、イオン交換塔2内を通過する複数のイオンがイオン交換体3に吸着又は脱離することによる樹脂導電率の測定値の変化を検出し、イオン交換塔2から排出される処理水の水質に影響を及ぼすイオンによる樹脂導電率の測定値の変化が検出された場合に、異常の発生を警告するための異常検出信号を生成するように構成される。
【0042】
よって、異常検出手段11は、
図1に示すように、例えば、検出部111と、判断部112と、出力部113とを備えることができる。検出部111は、導電率計4による樹脂導電率の測定結果を取得し、イオン交換塔2内を通過する複数のイオンがイオン交換体3に吸着又は脱離することによる樹脂導電率の測定値の変化を検出する。
【0043】
判断部112は、樹脂導電率の測定値の変化を判断するための情報である判断情報を、計算機100に接続された記憶装置110から読み出し、その判断情報に基づいて、イオン交換塔2から排出される処理水の水質に影響を及ぼすイオンによる樹脂導電率の測定値の変化が検出されたか否かを判断する。
【0044】
出力部113は、判断部112の判断結果に基づいて、イオン交換塔2から排出される処理水の水質に影響を及ぼすイオンによる樹脂導電率の測定値の変化が検出された場合に、異常の発生を警告するための異常検出信号を生成し、文字、音、光などを出力可能な出力手段130に対し、異常が検出された旨を出力する。出力手段130は異常検出信号の出力に応じて、ユーザに対して所定の警告情報を出力する。なお、計算機100には、設定条件などの必要な情報を入力するための入力手段120及び計算機100の処理プログラム等の所定の情報を記憶する記憶装置110が備えられている。
【0045】
具体的には、
図5の処理フローに例示されるように、ステップS11において、カチオン塔においてイオン交換塔2から排出される処理水の水質に影響を及ぼすイオンによる樹脂導電率の測定値の変化を検出するための設定条件として、ナトリウムイオンによる樹脂導電率の測定値の変化が生じる第1設定値(
図3及び
図4の値SP1)及びカルシウムイオンによる樹脂導電率の低下が生じる第2設定値(
図3及び
図4の値SP2)を検出するように設定された場合を例に各処理フローを説明する。
【0046】
ステップS12において、検出部111が、導電率計4による樹脂導電率の測定値を検出する。ステップS13において、判断部112が、導電率計4による樹脂導電率の測定値が予め設定された第1設定値(例えば、
図3及び
図4の値SP1)よりも低下するか否かを判定する。導電率計4による樹脂導電率の測定値が予め設定された第1設定値よりも低下したと判定した場合、ステップS14に進み、出力部113が、例えばナトリウムイオンによる樹脂導電率の変化が検出されたことを示す第1の異常検出信号(第1(軽)警報)を生成してステップS15において出力手段130へ出力する。ステップS13において導電率計4による樹脂導電率の測定値が予め設定された第1設定値(例えば、
図3及び
図4の値SP1)よりも低下していない場合にはステップS12に戻る。
【0047】
ステップS16において、検出部111が、導電率計4による樹脂導電率の測定値を検出する。ステップS17において、判断部112が、導電率計4による樹脂導電率の測定値が予め設定された第1の設定値よりも低い第2の設定値(例えば、
図3及び
図4の値SP2)よりも低下するか否かを判定する。導電率計4による樹脂導電率の測定値が予め設定された第2設定値よりも低下していない場合いは、ステップS12へ戻る。一方、導電率計4による樹脂導電率の測定値が予め設定された第2設定値よりも低下した場合は、ステップS19に進み、出力部113が、カルシウムイオンによる樹脂導電率の変化が検出されたことを示す第2の異常検出信号(第2(重)警報)を生成してステップS19において出力手段130へ出力する。
【0048】
上述の例においては、樹脂導電率の絶対値による判断について、予め設定された複数の設定値と比較することにより評価する方法を説明した。しかしながら、例えば、
図3及び
図4の丸印で囲まれるような、樹脂導電率の測定値の二階微分値の絶対値(
図3及び
図4のSP3)や極大値(
図3及び
図4のSP4)を判断部112による判断基準として採用してもよい。
【0049】
一方、
図6〜
図8は、アニオン塔内の塩素イオン(Cl
-)とシリカイオン(HSiO
3-)のイオン交換バンドを表すグラフの例である。アニオン塔においては、イオンの除去のされやすさは、例えば、HSiO
3-<HCO
3-<Cl
-<SO
42-となる。例えば、塩素イオンとシリカイオンに着目すると、定点観測(アニオン塔の特定高さにおける観測)をした場合、
図6〜
図8に示すように、まずCl
-、による樹脂導電率の変化が生じ、次にHCO
3-による樹脂導電率の変化が生じる。
【0050】
例えば、アニオン塔の入口から300、500mmの位置におけるアニオン交換樹脂の樹脂導電率の変化(
図6及び
図7の点線で表される「樹脂導電率測定値」)に着目すると、塩素イオンの影響によって樹脂導電率が低下するが、その後、シリカイオンの影響により、樹脂導電率の測定値の変化は、低下傾向から上昇傾向に転じる(
図7及び
図8の丸印部分)。なお、この傾向は処理時間の経過に伴い、イオン交換塔2の上流側から下流側に移動しながらそれぞれ同様な傾向を示すことがわかる。
【0051】
そのため、導電率計4に接続された計算機(PLC)100が備える異常検出手段11は、例えば
図7及び
図8に示すような樹脂導電率の測定値の変化を検出して異常検出信号を生成する。即ち、異常検出手段11は、導電率計の測定結果に基づいて、樹脂導電率の測定値の変化が低下傾向から上昇傾向に転じ、この上昇傾向が予め設定された時間以上続いた場合に、異常検出信号を生成する。
【0052】
具体的には、
図9のフローに例示されるように、まずは処理水の水質に影響を及ぼすイオンによる樹脂導電率の測定値の変化を検出するための設定条件を抽出する。ステップS22において、検出部111が、導電率計4による樹脂導電率の測定値を検出する。ステップS23において、判断部112が、導電率計4による樹脂導電率の測定値の変化が低下傾向にあるか否かを判定する。導電率計4による樹脂導電率の測定値の変化が低下傾向にない場合はステップS22に戻る。導電率計4による樹脂導電率の測定値の変化が低下傾向にある場合はステップS23へ進む。
【0053】
ステップS24において、判断部112が、導電率計4による樹脂導電率の測定値の変化が上昇傾向に転じているか否かを判定する。上昇傾向に転じていない場合はステップS22へ戻る。一方、上昇傾向に転じている場合はステップS25へ進み、判断部112が、樹脂導電率の測定値の上昇傾向が、予め設定された時間以上続いているかを判定する。樹脂導電率の測定値の上昇傾向が、予め設定された時間以上続いていない場合は、ステップS24へ戻る。一方、樹脂導電率の測定値の上昇傾向が、予め設定された時間以上続いている場合は、判断部112は、イオン交換塔2内のシリカイオンによる樹脂導電率の変化が生じているものと判断し、ステップS26へ進む。ステップS26において、出力部113が、例えばシリカイオンによる樹脂導電率の変化が検出されたことを示す異常検出信号を生成してステップS19において出力手段130へ出力する。
【0054】
第1の実施の形態に係る純水製造装置によれば、イオン交換塔2内のイオン交換体3の樹脂導電率を測定する導電率計4に接続された異常検出手段11を備えることにより、イオン交換塔2内の一定の位置における樹脂導電率の変化を通じて、処理水の水質に影響を及ぼすイオン、例えば、カチオン塔であればカルシウムイオンや、アニオン塔であればシリカイオンなどの存在を把握することができるため、これらイオンが処理水に混入してイオン交換塔2内の外部へ排出される前に処理水の水質低下等の異常を早期に発見することができる。これにより、イオン交換体をより最適な再生頻度および再生剤量で処理でき、ランニングコストを低減して純水の水質低下を抑制可能な純水製造装置及び純水製造方法が提供できる。
【0055】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る純水製造装置は、
図10に示すように、カチオン塔30、脱炭酸塔40及びアニオン塔50を備える2B3T方式の多床塔の純水製造装置であって、カチオン塔30に設けられた導電率計4による樹脂導電率の測定値に基づいて、異常検出手段11が異常検出信号を生成した場合に、アニオン塔50の処理水の少なくとも一部をカチオン塔30へ循環させる循環手段80と、アニオン塔50の処理水及び原水(被処理水)の供給を切り替えるための切換弁8a〜8dを更に備える。
【0056】
カチオン塔30及びアニオン塔50には、塔内のイオン交換体に接し、樹脂導電率を連続的に測定するための電極を備えた導電率計4がそれぞれ設けられている。また、カチオン塔30及びアニオン塔50には、第1の実施の形態で示したイオン交換塔内の異常を検出するための異常検出手段11を備えた計算機(PLC)がそれぞれ設けられている。
【0057】
カチオン塔30内のカチオン交換樹脂の導電率を測定する場合、アニオン塔50内のアニオン交換樹脂に比べて液相の導電率が高いため、カチオン交換樹脂の導電率の直接測定が難しい場合がある。そのため、例えば、カチオン塔30内のカチオン交換樹脂の導電率が所定の値以下に低下し、異常検出手段11によって異常検出信号が生成される場合に、アニオン塔50の処理水の少なくとも一部をカチオン塔30へ循環させるための配管等の循環手段80を介してカチオン塔30へ循環させることにより、カチオン塔30内の樹脂導電率を精度良く図ることができるようになる。また、この循環工程を設けることによって、アニオン塔50の入口側(通水方向に向かって50%以上上流側)であっても、アニオン塔50内のイオン交換体3の樹脂導電率を精度よく測定することができる。
【0058】
図11及び
図12に、カチオン塔寸法が直径1200mm、高さ3200mm、アニオン塔寸法が直径1300mm、高さ2800mm、脱炭酸塔が直径1100mm、高さ3900mm(下部貯槽高さ1500mm)の向流再生方式2床3塔の純水製造装置1を用いて、循環流量50m
3/h、原水導電率30mS/mの場合に第2の実施の形態に係る循環工程を実施した場合のカチオン塔内の液相および固相導電率(高さ2000mm位置)の変化及びアニオン塔の液相および固相導電率(高さ2000mm位置)の変化を示す。
【0059】
図11及び
図12に示す例では運転開始20分後に循環工程を開始したところ、カチオン塔30及びアニオン塔50ともに、導電率計4によるイオン交換体の樹脂導電率は徐々に下がり、液相の導電率が小さくなり、固相の導電率を精度良く測定することができた。
【0060】
第2の実施の形態に係る純水製造装置によれば、例えば、イオン交換塔2内の液相の導電率の検出値が高くなりすぎて樹脂導電率が正確に得られない恐れがある場合などにおいて、循環手段80によって循環工程を行うことで、イオン交換塔2内の液相の導電率を小さくすることができる。これにより、イオン交換塔2内のイオン交換体の樹脂導電率の測定精度を高めることができる。
【0061】
なお、上述の例では、異常検出手段11が異常検出信号を生成した場合に、循環手段80による循環を開始する例として説明した。しかしながら、本実施形態は異常検出手段11が異常検出信号を生成する場合のみに限られず、例えば、予め設定された所定の時間毎に基づいて、循環手段80によるアニオン塔50の処理水のカチオン塔30への循環を行うようにしてもよいことは勿論である。
【0062】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態に係る純水製造装置1は、
図13に示すように、純水製造装置1が処理する被処理水の供給元と水質情報を共有する水処理システムである。第3の実施の形態に係る純水製造装置1の被処理水の取水地は、天候、季節などによりイオン質、濁度などの水質が変化する場合がある。例えば、雪解け時期や大雨の後はイオン濃度が高まる傾向にある。
【0063】
また、取水地から取水された被処理水を処理する上水場では、季節の変動に応じた被処理水の濁度等に基づいて、添加する凝集剤の使用量やpHを調節することが行われている。上水場で処理された処理水(工業用水、水道水)は、純水製造装置1を備える純水使用工場へ供給される前に例えば12〜24時間程度の滞留時間があり、水質変動に遅れが生じている。
【0064】
第3の実施の形態に係る純水製造装置1は、イオン交換塔2内の予め設定された位置にイオン交換体3に接するように配置され、イオン交換体3の樹脂導電率を連続的に測定する少なくとも1対の電極を備える導電率計4と、イオン交換塔2の処理水を貯蔵可能な貯蔵タンク23と、被処理水の供給元から被処理水の水質情報を取得するための水質情報取得手段12(
図14参照)と、水質情報に基づいて、被処理水のイオン交換塔への供給及び処理水の貯蔵タンク23への供給を制御する供給制御手段13とを備える。
【0065】
例えば、供給元の被処理水の水質状態が、供給先での純水製造装置1の処理に対して負荷が高くなることが予め想定される場合には、供給制御手段13が、イオン交換塔2で得られた処理水を貯蔵タンク23へ貯蔵させておくように制御する。その後、イオン交換塔2において水質状態が低下した被処理水が提供された場合には、その水質に応じた処理を行うか、或いは、必要に応じて例えばイオン交換塔2による被処理水の処理を停止させる。その間にイオン交換塔2で得られた処理水(純水)を利用する工場では貯蔵タンク23に貯蔵された処理水を利用する。これにより、純水使用工場において使用される純水量を常に所定量確保した状態で、イオン交換塔2におけるイオン交換処理条件を調整することができるため、より効率性の高い処理を行うことができる。
【0066】
そのため、例えば、
図14に示す水質情報取得手段12は、計算機100及び浄水場が備える計算機に接続されたネットワーク200(
図13参照)を介して、被処理水の供給元からの水質情報(イオン負荷、導電率、薬品使用量、濁度など)を取得する。計算機100が備える水質情報取得手段12は、ネットワーク200を介して取得した今後供給される被処理水の水質情報に基づいて、イオン交換塔2の処理条件を決定する。
【0067】
例えば、イオン負荷が普段よりも高い被処理水の供給が予測される場合には、水質情報取得手段12は、その前段階のイオン負荷の低い被処理水が供給されるタイミングで製造した純水を貯蔵タンク23へ貯蔵しておくようにイオン交換塔2の処理条件を決定する。供給制御手段13は、水質情報取得手段12が決定した処理条件に基づいて、例えば将来的に水質が良好な被処理水の場合はイオン交換塔2による通常の純水製造処理を行い、将来的に水質が良好でない被処理水が提供される場合は、その被処理水が供給される前までに処理水を貯蔵タンク23へ供給するように制御する。
【0068】
第3の実施の形態に係る純水製造装置1によれば、被処理水の供給元の水質情報をネットワーク200等を介して取得する水質情報取得手段12を備えることにより、純水製造装置1の入口で被処理水の負荷変動をモニタリングする場合に比べて、被処理水の負荷変動を早期に予測することができる。その結果、より効率の良い純水製造処理を行うことができ、イオン交換塔2への処理の負荷も軽減できる。
【0069】
更に、イオン交換塔2内のイオン交換体の樹脂導電率を直接測定可能な導電率計4及び異常検出手段11を備えることにより、イオン交換塔2内の状態をより最適な状態に保ちながら純水の製造処理を行うことができるため、得られる処理水の水質低下やイオン交換塔2内の異常をより早期に把握することができる。
【0070】
なお、水質情報取得手段12が取得した被処理水の導電率が水質変動により通常よりも高すぎる、あるいは低すぎて、導電率計4の測定に影響を及ぼす可能性がある場合には、例えば、第2の実施の形態に係る純水製造装置1が備える循環手段80を通じてアニオン塔50からの処理水をカチオン塔30、脱炭酸塔40及びアニオン塔50へ供給し、被処理水の導電率を導電率計4の測定に適切な範囲に調整する処理を行う、これにより、導電率計4の測定精度を向上させてより好適な純水製造処理を行うこともできる。
【0071】
図15は、第3の実施の形態に係る純水製造装置1を用いて純水製造を行った場合(上欄)と行わなかった場合(下欄)の薬品コストの比較を表す表である。第3の実施の形態に係る純水製造装置1によれば、薬品量をより低減して経済性の高い純水製造処理が行える。
【0072】
(第4の実施の形態)
図16は、本発明の第4の実施の形態に係る水処理システムを表す概略図である。水処理システムは、被処理水をイオン交換体3に通水して処理水を得るイオン交換塔2を用いて純水を製造する純水製造装置1を備える複数の純水使用工場A〜Cを含む。
【0073】
純水製造装置1は、それぞれ貯蔵タンク23及び計算機100を含み、イオン交換塔2内の予め設定された位置にはイオン交換体3に接するように配置され、イオン交換体3の樹脂導電率を連続的に測定する少なくとも1対の電極を備える導電率計4が配置されている。純水使用工場A〜Cが備える計算機100は、それぞれネットワーク200を介して遠隔制御サーバ(遠隔制御サーバ手段)1000及び計算機1001に通信可能に接続されている。
【0074】
純水使用工場A〜Cが備える各純水製造装置1は、それぞれが備える計算機100によりそれぞれ独立して制御されることができるが、各計算機により決定された決定処理条件は、ネットワーク200を介して遠隔制御サーバ手段1000へ送信されることができる。
【0075】
遠隔制御サーバ手段1000は、各純水使用工場A〜Cから送信された複数の決定処理条件を用いてイオン交換塔2の処理条件を最適化することができる。例えば、純水使用工場A〜Cでそれぞれ発生するイオン交換塔2の異常検出情報に基づいて、純水使用工場A〜Cで使用されるイオン交換体3の再生頻度、被処理水の通水量、薬品量などの処理条件を再計算することができる。遠隔制御サーバ手段1000は、再計算により得られた処理条件更新情報を各純水使用工場A〜Cへネットワーク200を介して送信する。
【0076】
図17は、各純水使用工場A〜Cが備える純水製造装置1の例を示す概略図である。純水製造装置1は、イオン交換塔2内の予め設定された位置にイオン交換体3に接するように配置され、イオン交換体3の樹脂導電率を連続的に測定する少なくとも1対の電極を備える導電率計4と、所定の位置における導電率計4の測定結果に基づいて、イオン交換塔2へ供給される被処理水の通水量、薬品量及びイオン交換体3の再生頻度の少なくとも何れかを含む処理条件を決定する処理条件決定手段14と、処理条件決定手段14が決定した決定処理条件を、ネットワーク200を介して通信可能に接続された遠隔制御サーバ手段1000へ送信可能な送信手段15と、遠隔制御サーバ手段1000からの処理条件更新情報を受信可能な受信手段16とを備える。
【0077】
純水製造装置1が備える計算機100は、第1〜第3の実施の形態で説明した異常検出手段11、水質情報取得手段、供給制御手段13等によってそれぞれのイオン交換塔2の処理条件を決定したり処理の異常を検出したりすることができるが、これらが処理する情報を一括してネットワーク200を介して接続された遠隔制御サーバ手段1000によってこれらの情報を集約して共有することができれば、処理条件に応じたより適切な処理制御を行うことができる。
【0078】
例えば、種類及び処理条件の異なる純水製造装置1間において、基本的な各装置の制御条件はそれぞれ変更する必要がなくとも、イオン交換体3の使用条件や処理条件等に基づいて、イオン交換体3の再生頻度及び再生剤量等の特定の処理条件や、再生開始指令のみを遠隔制御サーバ手段1000を介して各純水製造装置1に送信することができれば、現場ソフトのアップデートを行うことなく、遠隔制御サーバ手段1000から各純水使用工場A〜Cの処理を制御することができ、これにより、イオン交換体3をより最適な再生頻度および再生剤量で処理でき、ランニングコストを低減して純水の水質低下を抑制できる。
【0079】
本発明の第4の実施の形態によれば、遠隔制御サーバ手段1000が、ネットワーク200を介して通信可能に接続された複数の純水製造装置1がそれぞれ備える処理条件決定手段14が決定した複数の決定処理条件に基づいて、処理条件を再計算し、再計算により得られる処理条件更新情報を各受信手段16へ送信するができるため、例えば、樹脂の再生指令などの特定の指令のみを遠隔制御サーバ手段1000が送信することができ、より効率的な水処理システムが得られる。
【0080】
本発明は上記の第1乃至第4の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態及び運用技術が明らかとなろう。本発明は上記の開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によって表されるものであり、実施段階においては、その要旨を逸脱しない範囲において変形し具体化し得るものである。